学園カップル認定委員会は、空き教室をたまり場にして、学園内における男女関係の情報を交換し合っている。
今は二月。受験シーズン真っ只中なため、かつては受験勉強の息抜きに来ていた三年生たちも、最近では全く姿を見せない。そして、部屋を占拠している一、二年生の興味は、専ら二月一四日の、各カップルの動向に向けられている。
すなわち、バレンタイン・デーだ。黒板には、丸っこい字で“Xデーまであと何日”と、その日までのカウントダウンがチョークで書かれている。
クラスの委員各一名と、そしてカップルの情報を得ようとしてやってくる“お客さん”たち、総勢ニ十人近くの生徒たちが、いくつものグループを作りながら、何やら熱心に話し合っていた。中には、何かの証拠写真らしきものを交換し合っている連中もいる。
そんな中、部屋の隅っこで、三人の男女が顔を付き合わせていた。
話をしているのは、林堂智視と、早瀬ひとみである。林堂の傍らでは、西永瑞穂が寄り添うように座っている。
「久遠寺かずみと、話を、か……」
林堂は、何やら考えこみながら、言った。すでに林堂は、何度か相談を受けた段階で、ひとみが言うところの“幽霊”が、久遠寺つぐみの姉であるという話を聞き出してしまっていたのである。
それだけ、林堂の誘導尋問が巧みだったということもあるが、何かを相談する相手として適任であったということも、言えなくはない。事実ひとみは、これまで、幾度となく林堂にかずみの件で相談を持ちかけているのだ。
「うん。だけどね、話ができるようになってから、かずみさん、ますます影が薄くなった感じなんだよね」
ひとみが、いつになく心配そうな顔で、言う。
「影が薄い?」
「そう。何て言うか……つぐみと一緒にいるときでも、あんまり顔出さなくなった感じ」
「ふうん。久遠寺は、そのこと、何か言ってるか? つまり、妹の方だけど」
「つぐみ? うーんっとね、あたしが、ますますかずみさんに似てきたって、言ってる」
「なるほど」
「どうなんだろ? かずみさん、いなくなっちゃうのかな?」
不安そうな声で、ひとみが言う。
「いなくなると困るか?」
「つぐみが、寂しがるよ」
「……そうだなあ」
林堂は、しばし視線を宙にさ迷わせた後、再び口を開いた。
「妹のつぐみのことが心配なうちは、久遠寺かずみも、黙っていなくなったりはしないだろ」
「そう……だよね」
「ああ。かずみがいなくなる時ってのは、たぶん、自分がいなくなっても、妹はだいじょぶだって、そう思ったときだろ。それまでは、成仏したりはしないと思うけどな」
「うん。やっぱ、そうだよね。あたしもそう思う」
そう言って、ひとみは元気よく立ちあがった。
「ありがと、林堂くん。あんた、悪党だけど頼りになるね」
「悪党は余計だ」
苦笑しながら、林堂が言う。
「じゃ、あたしはこれで帰るから。瑞穂も、さよなら」
「うん、じゃあね」
手を上げて去るひとみに、瑞穂がやや力なく言った。無理もないことだが、クリスマスの夜に、姫園邸の惨劇を目撃して以来、瑞穂は元気が無い。
ひとみが部屋を出ていったのを確認して、瑞穂は、じっと林堂の横顔をにらんだ。
「智視ちゃん、どーいうことなの?」
そして、小声で林堂に言う。
「ん、何が?」
「だから、ほら、ひとみと、かずみさんのことだよお。クリープなんとかじゃなかったの?」
「あ、クリプトムネジアね」
くすくすと林堂が笑う。
「俺は、今でもそう思ってるよ」
「だ、だって……かずみさん、ひとみの知らないはずのこと、知ってたわけでしょ」
「それが、そうでもないんだな」
言いながら、林堂は、カバンからごそごそと一冊のノートを取り出した。紙が変色した、かなり古い代物だ。
「何それ?」
「俺の、今回の事件のネタ本。前に言ってたろ。この件に関して調べてたフリーの記者がいたって。品川警部補の紹介で、その人と知り合いになって、預かった」
「うん。えっと、その人のノートなの? それって」
「ああ。名前は、早瀬裕史――あの早瀬の父親の弟、つまり叔父にあたる人間のものさ」
「ええっ?」
瑞穂の驚きの声は、しかし、部屋の中のざわめきに吸い込まれてしまう。
「しかもな、この早瀬裕史って記者や、早瀬の父親は、久遠寺の母親とも血縁があるんだ。要するに、久遠寺と早瀬は、親戚なわけだ。二人は知らないみたいだけど」
「そんな……そんな偶然って……」
「いや、これで逆に偶然的要素がいくつか解消されるんだ。そもそも、ある街に、そこに住んでたヤツにそっくりな顔の人間が越してきたら、なんらかの血縁があるほうが自然だろ」
「え、えっと……」
「要するに、こういうことさ。久遠寺の姉、かずみが、何かの事件によって殺された。フリーの記者である早瀬裕史は、親戚であるその少女の死の謎を解くべく、単身事件を追跡する」
例によって見てきたような口調で、林堂が説明を始める。
「しかし、最有力容疑者である男は、事件以来行方不明な上、この街有数の実力者の息子だ。調査は難航し、陰に陽に嫌がらせも受けたらしい。が、そうなればなるほど、ムキになって事件を追ったんだろうな。無論、金なんかはどこからも出ない。心身ともに疲労し、経済的にも立ち行かなくなった早瀬記者は、とうとう病気で倒れてしまう」
「……」
「そして、病気になった弟の面倒を見るために、早瀬の父親は、こっちに家族ごと越してくる。早瀬の父親ってのも、文筆業、つまり作家か何かで、勤め先に縛られたりしていないらしいんだな」
「そう言えば、そんなこと、言ってたかも」
「さて、問題。もしその早瀬記者が調べていた事件の話を、五年前に早瀬ひとみが何かの拍子に見聞きしてしまったとしたら? 例えば、叔父の家に遊びに来たとき、たまたま取材ノートをのぞいてしまったとか……」
「それが――クリプトムネジア?」
「断定はできないけど、蓋然性はある。実際、早瀬裕史って人は、調査を始めた段階で、かなり詳しいノートをとってたからな。つまり、これがそうなんだけど」
林堂がひらひらとノートを振って見せる。
「早瀬の言ってた“かずみさんの話”ってのは、このノートに書いてある範囲を出ないんだ。そして、事件が解決に向かい、犯人が逮捕された今、早瀬の中の異常な緊張状態は解け、混乱していた記憶が次第に元に戻りつつある」
「だから……かずみさんが、消えちゃうの?」
「それは、妹の久遠寺つぐみ次第だろうな」
「……」
「それに、事件はまだ解決してない。少なくとも、謎はそのままだ」
「……うん」
「姫園克己が、久遠寺かずみの殺害犯であることを証明できなければ、今回の事件は、長期間にわたって両親に幽閉されていた哀れな男の行きすぎた復讐劇としか解釈されないかもしれない。だが、実際あの男がもっと危険な存在だってことは、示しておくべきだ。少なくとも、塀の中から出てくる時間を、かなり先に延ばすことができる」
「でも……なんで、そこまでして?」
「その方が、瑞穂が安心するだろ」
いささかキザな笑みを浮かべながら、林堂が言う。
「……ん、もう♪」
久々の笑顔を見せながら、瑞穂が、林堂の肩を軽く叩いた。
と、その時、一人の女生徒が、部屋の中に入ってきた。
そして、林堂と瑞穂めがけ、真っ直ぐに近付いてくる。
「こんなところに来るなんて珍しいな」
林堂はそう言って、目の前に立つ少女に、そう声をかけた。
「この前は、助けてくれて、ありがと」
どことなく緊張した声で、少女が言った。均整の取れた肢体に、金褐色の髪。日本人離れした美貌に浮かぶ表情は、堅い。
月読舞だ。
「今日は、その……西永さんに、訊きたい事があって、来たの」
「ふえッ?」
ジト目で林堂をにらんでいた瑞穂が、素っ頓狂な声をあげて、舞に視線を移す。
「そう……あのさ……えっと、ちょっと教えてほしいんだ……」
「何を?」
きょとんとした顔で、瑞穂が訊く。
「郁原の、ことなんだけど……」
舞は、頬を赤く染めながら、ようやくそう切り出した。
そして、二月十四日。
他愛無くも特別なその日の昼休み、鈴川名琴は、屋上に続く踊り場で、彼女を発見した。
「月読センパイ!」
下から、思いきって、声をかける。
「――なに?」
火の点いてないタバコを咥えたまま、舞は、階段を昇りかけている名琴を見下ろした。
「月読センパイ、なんで、郁原センパイを避けてるんですか?」
舞の綺麗な切れ長の目から放たれる冷たい視線を、大きな黒い瞳で受け止めながら、名琴が言う。
「なによあんた、いきなり……」
「あたし、ずっと見てました」
踊り場のすぐ下の段に立ち、名琴が、その幼げな顔に真剣な表情を浮かべ、続けた。
「冬休み明けてから、郁原センパイが話しかけると、いっつも逃げ出してるじゃないですか」
「逃げるって……ウザいから無視してるだけよ。あんたには関係ないでしょ」
そう言いながら、舞は、階段を昇っていく。
「関係なくありません!」
ドアを開き、屋上に出る舞の背中に、名琴は叫ぶように言った。
舞は、そんな名琴を無視しながら、屋上を歩く。
積もっていた雪は、ここ数日の晴天ですっかり解け、日陰にかすかな残雪を残すのみだ。そんな風景を見るともなく眺めながら、舞はタバコに火をつけた。
「関係なくないって、どういうことよ」
煙を吐きながら、舞が名琴に向き直る。
「あんた、鈴川ってんでしょ。あいつと同じ部活の」
「そう、ですよ」
険悪な表情を浮かべる舞に、ややたじろぎながらも、名琴が答えた。
舞と名琴が、他に人影の無い屋上で、しばし対峙する。
「すっかり、彼女気取りってわけ?」
まだ長いままのタバコを足元に落とし、踏み消しながら、舞が言った。
名琴は、無言のまま、挑むような表情で、舞の顔を見つめている。
「聞いたわよ……あれ、本当のキスじゃなかったんだって?」
いらついた声で、舞が重ねて訊く。
「唇と唇の間に、紙を挟んでたんでしょ。全く、ガキみたい」
「だったら、どうなんですか? 郁原センパイを許すんですか?」
「べ、別に、許すも何も……」
名琴の言葉に、舞がいささかうろたえる。
「いいかげんに、素直になったらどうなんですか? 郁原センパイのこと、好きなんでしょう?」
「ばっ……馬鹿なこと言わないでよ! 誰が、あんななよなよしたガキっぽいヤツ……!」
かあっ、と顔を染めながら、舞が声を大きくした。
「ウソです! そういう態度が、郁原センパイを傷付けてるんです! 分からないんですか?」
名琴も、負けじと声をあげる。
「……あんたは、どうなのよ。郁原のこと、好きなんじゃないの?」
「――好きですよ」
舞の問いに、名琴が真正面から答える。
「好きな人とじゃなきゃ、たとえフリでも、あんなことしませんよ」
「ガキね……!」
舞の、その痛烈な一言にも、名琴は、表情を動かさない。
「本当だったら、あたし、あなたのことを、殺しちゃいたいくらいなんですよ……」
そして、静かにそう言った。
「じゃあ、いいじゃない! あたしのことなんかほっといてよ! それとも、本当に殺す?」
「ほっとけません」
「何よそれは……。郁原だって、あんたになつかれて、まんざらじゃないんでしょ? 余裕ってこと?」
舞の声が、上ずっていく。
「違います……だって、月読センパイ、泣いてるじゃないですか……」
そう言われ、舞は、はっと自分の目元に手をやった。
指先が、熱い雫に触れる。
「同じ人を、同じくらいに想ってる人なんですよ……ほっとけるわけないじゃないですか……!」
名琴が、辛そうな声で、言った。
冬の気流に、高い空にある雲が、ゆるゆると動いていく。
「……あんたは、いいわよ……」
しばらくして、ぽつん、と舞がつぶやいた。
「初めて好きになった相手が、郁原で……男に裏切られたり、傷付けられたり、そんなメにあったこと、ないんでしょ……」
べそをかく幼女のような声で、舞が言う。
「あたしだって……でも……もう……もう、だれも信じられないよ……」
小さな声で頼りなくそう言い、ぽろぽろと涙をこぼす舞。
名琴は、そんな舞を、ひどく痛ましい目で見つめていた。
「セ・ン・パ・イ」
美術部の部室で帰り支度をしていた郁原竜児に、今部屋に入ってきたばかりの名琴が、声をかけた。
「あ、もう、みんな帰るところだよ」
郁原が、人の好さそうな表情で、名琴に言う。
「はい……。あの、あたし、センパイに渡したいものがあるんですけど……」
そんな名琴の言葉に、残っていた数人の部員達が、いっせいにざわめいた。
「こんの色男ーっ!」
「郁原くん、やっぱ鈴川さんに手え出してたのね!」
「バレンタインえっちかあ? ムッツリスケベ!」
「うらやましすぎるぞ〜! オレと代われ! 命令だ!」
様々な揶揄を浴びせられ、真っ赤になる郁原の手を、名琴が、ぎゅっ、と握った。
おお〜、とギャラリーがどよめく。
「もお、外野は静かにしてくださあい! さ、センパイ、こっちこっち♪」
そう言って、まだカバンの口を閉めきっていない郁原を、強引に引っ張っていく。
「わっ、わっ、わっ、わっ」
中身をぶちまけそうになるカバンを慌てて抱えなおしながら、郁原は、名琴に導かれるまま、階段を降りていった。
この時間、めったに人の出入りの無い一角へと、名琴は郁原を連れていく。
そして、周囲に人影の無いのを確認して、階段下の倉庫のドアを開いた。
「えっと……」
「この中です。さ、入ってください」
そう言って、半ば押しこむように郁原を部屋の中に入れ、ドアを閉める。
そして名琴は、がちゃんとドアに鍵をかけてから、壁のスイッチに触れた。
ちかちかと蛍光灯がまたたき、そして、無機質な光で部屋を満たした。
「――!」
「どうです? あたしの、バレンタインのプレゼント」
驚き、息を飲む郁原に、名琴が、声をかける。
「即席だけど、けっこうよくできてるでしょ?」
その声は、どこか無理にはしゃいでいるような感じだったが、郁原の耳には、名琴の言葉自体が届いていない様子だ。
コンクリートの床に、舞が転がっていた。
セーラー服を着たまま、豊かな胸の膨らみの上下に縄がけされ、両手首を、背中で戒められている、いわゆる高手小手の形である。さらには、その両方の足首にも、縄が巻かれていた。
そして、その口元は、猿轡の代わりにスカーフが巻かれている。
舞は、何かを訴えるような瞳で、郁原を見上げていた。
「鈴川さん……これは……どういう……」
「だからあ、プレゼントですってば」
名琴が、その愛らしい顔に、小悪魔じみた笑みを浮かべ、囁く。
「センパイのために、用意したんですよ……自由にしたいんでしょ? この人を……」
そんなことを言う名琴に、郁原は、まるで信じられないものを見るような表情を向けた。
「いいんですよ……好きにしちゃって……でも、あとで、名琴にも、ごほうびくださいね……♪」
「――す、鈴川さんッ!」
郁原は思わず手を上げていた。
名琴が、反射的に身をすくめながらも、郁原を見つめている。
「ダメえ!」
そう叫んだのは、猿轡を噛まされているはずの舞だった。
はっとして振り返る郁原の右手を、舞が、慌てた様子でつかむ。
「ダメ! やだよ……! そんな、女のコを殴る郁原なんて、あたし見たくないよッ!」
そう言いながら郁原を止める舞の体には、彼女を戒めていたはずの縄がまとわりついている。が、その縄には、どこにも結び目が無い。
「ほら、月読センパイ……あたしの言ったとおりでしょ」
名琴が、静かな声で、言った。
「郁原センパイは、絶対に、月読センパイを傷付けるような人じゃないんですよ」
「わ……分かってるわよ! 分かってたわよ、それくらい!」
舞が、泣いているような声でそう言いながら、ぎゅうっ、と郁原の細い体を抱き締める。
「ど……どういう、こと……なの?」
郁原が、舞と名琴を交互に見ながら、訊く。
「――センパイのこと、からかっただけですよ」
ふふふっ、と笑いながら、名琴が言う。無理して浮かべたような、ぎこちない笑顔だ。
「それだけです。だから……その……お幸せにっ!」
最後に、叫ぶようにそう言って、ドアの鍵を開ける。
「――待って!」
舞は、自分でも知らないうちに、そう叫んでいた。
名琴が、二人に背中を向けたまま、動きを止める。その肩は、小刻みに震えていた。
「待ちなよ、鈴川……」
舞が、ひどく優しい声で、名琴に言う。
「あたしだって、あんたのこと、ほっとけないよ……ね?」
そう言って、腕をほどき、名琴の肩に右手を乗せる。
そして舞は、左手で、再びドアの鍵を閉めたのだった。
ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ……。
かすかな湿った音が、倉庫の中の空気を震わせている。
三人は、倉庫の中にあったマットを敷いて、そこに横たわっていた。
「あ……あああっ……こんな、ことって……」
郁原が、頼りない声を漏らす。
「何言ってるのよ、今さら」
舞が、淫らに目元を染めた顔を上げて、言った。
郁原は、マットの上に、スラックスを膝までずり下げた姿勢で、仰臥している。そして、その股間の部分に、着衣のままの舞と、そして名琴が、顔を埋めているのだ。
「こんなにしてるんじゃ、説得力ゼロよ」
舞の言葉通り、トランクスの布地の間から姿を現した郁原のそれは、すでに二人の少女の唾液に濡れ、痛いほどに勃起している。
郁原は、初めて体験するフェラチオの快感に、その中性的な顔を赤く染めていた。
無論、初体験なのは名琴も同じである。にもかかわらず、名琴は、精一杯に舌を伸ばして、けなげに郁原のペニスを舐め上げ、刺激している。
「……じゃあ、鈴川、そこの、筋になってるとコ、なめてあげて……そう、そこそこ」
一方、舞は、そんなふうに、名琴のフェラチオを実技指導している。どうやら、かなりの経験を積んでいるようだ。
「歯を立てなければ、うんと強く吸ってもだいじょぶよ。それと、たまに、そのくびれたところも、舐めてあげて」
「ふぁい……」
名琴は、まるで催眠術にでもかかったような頼りない顔で、そう返事をする。
実際、どうして自分がここまで大胆な行動がとれるのか、わからない様子だ。
ただ、郁原が気持ちよさそうな反応を返すのが嬉しくて、いっそう熱心に口と舌でペニスを愛撫してしまう。
はじめて目の当たりにする牡器官の独特の匂いに、頭がくらくらするが、それも、不思議と不快ではなかった。
そんな名琴の様子を、郁原が、じっと見ている。
その郁原の顔に、ちら、ちら、と上目遣いの視線を送りながら、名琴は、二つに結んだ髪がゆらゆらと揺れるくらいに、熱心に口唇愛撫を続けた。
ひくン、ひくン、と郁原のペニスが快楽にひくついている。
「そろそろいいわよ、鈴川」
舞が、どこかお姉さんぶった声で言った。
「あんまりしちゃったら、郁原、暴発しちゃうもんね」
そう言う舞に答えるように肯いて、名琴は、上体を起こした。
そして、小さなこぶしで、はずかしそうに口元をぬぐう。
「鈴川、下、脱いで」
この場のイニシアチブをすっかり握ってしまった舞が、名琴に言う。
名琴は、恥ずかしそうに肯いて、そして、ゆっくりと立ちあがった。
「鈴川さん……」
何か言いかける郁原の唇を、舞は、立てた人差し指でちょんとつつく。
「ヘンなこと言っちゃダメよ、郁原」
そして、郁原にしか聞こえないような声でそう言った。
「あのコ、すっごく勇気出しているんだから……それに応えてあげるのがオトコノコでしょ」
「……」
郁原が沈黙しているうちに、なことは、すとん、とフレアスカートを床に落としていた。
「パンツもよ」
舞の言葉に再び肯き、名琴が、可愛らしい水玉模様のショーツに手をかける。
が、名琴は、そこですくんでしまったように動けなくなった。
「あーあ」
くすくすと笑いながら、舞が、そんな名琴の後ろに回りこみ、膝をつく。
「ほら、脱いで脱いで」
「で、でも……」
「あんたの好きな郁原センパイだって、オチンチン丸出しなのよ。あいつだけなんて可哀想でしょ」
舞が、理屈にもならない理屈を言いながら、名琴のショーツに手をかける。
「あ……」
一瞬、名琴は舞の手を止めようとしたが、そのままぎゅっと握りこぶしを作った。
するるっ、と舞が名琴のショーツを脱がしてしまう。
柔らかそうなヘアを生やした、ぷっくりとした恥丘が、郁原の前にあらわになる。
「いやあ……」
名琴が、両手で顔を覆った。
「いやなら、やめる?」
舞が、挑発的な口調で言った。
「そしたら、あたしが、郁原を一人占めだよ」
「そんな……」
「ほぉら、座って、脚を広げて」
言われて、名琴はそのむき出しのお尻をマットの上に下ろし、おずおずと脚を開いた。
が、とても郁原が体を割り込ませることができるようなスペースではない。
「もお、世話が焼けるなあ」
そう言って、舞は、名琴の背中側から手を伸ばし、ぐいっ、とその膝を割り開いた。
「きゃああん!」
名琴が、高い悲鳴をあげ、顔を覆っていた手で、股間を隠す。
「ほら、郁原、ぼさっとしてないで」
「う、うん……」
肯いて、郁原は、名琴の脚の間に身を進めた。
「鈴川さん……」
目を閉じ、うつむいたままの名琴に、顔を寄せる。
郁原の息遣いをおでこに感じ、名琴は、その大きな目をうっすらと開いた。
優しげな顔に、困ったような表情を浮かべた郁原の顔が、すぐ近くにある。
「センパイ……」
名琴が切なそうな声でつぶやいた。
「センパイ……お願い……さ、最初は、キス……してください……」
「うん」
肯いて、郁原は、震える名琴の唇に、そっと唇を重ねた。
名琴にとって、初めてのキス。
「いいなあ、何もかも初めてでさ」
苦笑いを浮かべながら、名琴の背中にその体を重ねた舞が言う。
郁原は、ちゅっ、ちゅっ、とついばむような優しいキスを繰り返しながら、そっと、名琴のその部分に右手を伸ばした。
未成熟な器官を隠す名琴の小さな手に、そっと手を重ねる。
「ん……」
名琴は、郁原のキスに身を委ねながら、おずおずと手をどけた。
幼い外観のスリットに、郁原がそおっと指を這わせる。
「ンうッ……!」
ぴくっ、と名琴の体が震えた。が、名琴は、郁原の手を拒まない。
ゆるゆると、郁原の指が、名琴のスリットをまさぐる。
名琴のその部分が次第にほころび、蜜を湛えた花を思わせる肉襞があらわになった。
「ふ……うン……ン……んっ……」
郁原の唇を求めながら、名琴が、可愛らしい鼻声を漏らす。
その目元はぽおっと染まり、M字型に広げられた脚からは、次第に余計な力が抜けていった。
「気持ちイイでしょ? 郁原、こう見えてもけっこうテク持ってるんだから」
そんなことを舞に耳元で囁かれ、名琴は、ぽーっとした顔で思わず肯いてしまう。
「じゃあ、そろそろいいわよね」
自らが分泌した液に濡れ、ひくひくと息づいているクレヴァスを名琴の肩越しに見ながら、舞が言った。
「さ、鈴川、お願いして」
「……」
こくん、と名琴が、頼りなげにまた肯く。
「センパイ……きて、ください……」
そして、顔を真っ赤に染めながら、ようやくそれだけを言った。
まだ困惑した表情を浮かべている郁原の顔を、舞が、ちょっとにらむ。
郁原は、そんな舞の顔をちらっと見てから、ゆっくりと、腰を進めていった。
名琴の、ピンク色の靡粘膜に、郁原の赤黒い亀頭が触れる。
「あア……っ」
びくっ、と震える名琴の両肩を、背後から、舞が押さえつけた。
そして、郁原が、名琴の膝を両手で押さえる。
「鈴川さん……いくよ……」
「……はい」
名琴の、小さな返事を聞いてから、郁原は、挿入を始めた。
雁首の発達した郁原のペニスが、次第に、名琴の処女地に侵入していく。
「あ……ぐっ……」
名琴が、歯を食いしばりながら、小さくうめく。
が、郁原は、腰を止めることができなかった。
まだきつい肉の隘路を、ぐううっ、と郁原の牡器官が進む。
かすかな抵抗と、それを突き破る感覚――
「ひゃぐッ!」
名琴が、一声叫び、びくッ、と体を痙攣させた。
根元近くまで挿入された郁原のペニスを、熱い膣肉が、ぎゅっ、と締めつける。
「ん……んぐ……ふ……ふあっ……」
はあっ、はあっ、と名琴は、必死で呼吸を整えようとしていた。
「だ、大丈夫? 鈴川さん……」
郁原が、心配そうに訊く。
「へ……平気、です……」
あまり平気でなさそうな声で、名琴が、健気に答える。
「おめでと、鈴川……」
名琴の耳元にその桜色の唇を寄せ、舞が、そっとつぶやいた。
名琴が、かくん、といった感じで肯く。
「ほら、郁原、早く終わらせてあげなよ」
「で、でも……」
舞の言葉に、郁原が戸惑ったような声で抗議しかける。
「セ、センパイ、あたしなら、平気ですから……」
喘ぐような声で、名琴が郁原に言った。
「男の人って、動いて、気持ちよくなるんでしょ……それくらい、あたしだって、知ってます……」
そして、涙で潤んだ黒い瞳で、じっと郁原の顔を見つめる。
郁原は、覚悟を決めたような顔で、ゆっくりと、腰を動かした。
血と愛液に濡れた粘膜が、痛々しく郁原のシャフトにからみついている。
「んっ、んう……く……んぐっ……んーッ……」
名琴は、悲鳴をあげまいと、一生懸命に歯を食いしばっている。
「鈴川さん……っ」
そんないじらしい様子に胸を打たれたように、郁原が、名琴の顔を見つめる。
あの、光すら放ちそうな、真剣な瞳。
それが、限りない優しさをも湛えながら、自分を見てる……。
「あッ……!」
名琴は、きゅううん、と胸が締めつけられるような思いを感じた。
心臓が止まってしまいそうなほどに、嬉しい。
「セ、センパイ……好き……あたし、センパイが、好きですっ!」
思わず、そんなことを口走ってしまう。
自分で意識しないうちに、アソコが、郁原のペニスを絞り上げる。
「あ、あ、あッ! うあッ!」
すでに二人のフェラチオで絶頂寸前にまで追い詰められていた郁原のペニスが、あっけなく名琴の内部で射精を始めた。
「あう……ッ!」
ペニスが体内で熱く弾ける感覚が、体を貫いた。
ぎゅっと閉じた目蓋の裏で、ちかちかと白い光が瞬く。
「ふぁ……あ……あん……」
そして、名琴は、ぐったりと体から力を抜き、舞の腕の中へと倒れこんでしまっていた。
「郁原、今日はちょっと早かったんじゃないの?」
ぺたん、正座の姿勢で座りこむ郁原に、舞がくすくす笑いながら言う。
「ま、鈴川には、その方がよかったんだろうけどさ」
「月読さん……」
何か言いかける郁原に、舞が、まるで優美な猫のように、四つん這いで近付いた。
そして、力を失いつつある郁原のペニスを、ぱっくりと咥え込む。
「あッ……!」
舞の口内の生々しい感触に、郁原は、思わず声をあげていた。
「んふ……鈴川の血の味がするゥ……」
淫らな表情で、郁原のシャフトに舌を這わせながら、舞が言う。
そんな舞の巧みな口唇愛撫に、郁原のペニスは、他愛もなく力を取り戻していった。
すっかり勃起したのを確かめてから、ちゅっ、と亀頭にキスをして、舞が体を起こした。 そして、まだぐったりとマットの上に体を横たえている名琴に、ちら、と視線を寄越す。
「あたしもさ……初めては、郁原がよかったなあ……」
ぽつん、と舞は、寂しそうな顔でつぶやいた。
「月読さん……」
「でも、郁原の初めては、あたしだったもんね」
くすっ、と笑った拍子に、舞の目から、一粒、涙がこぼれおちた。
郁原は、膝立ちになって、そっと、舞のことを抱き締めた。
「郁原……」
「月読さん、僕は……」
「いいの……何も言わないで……」
何か言いかける郁原の唇を人差し指で押さえ、舞が言う。
「何も言わないで……その代わり、抱いて……ね?」
「……うん」
複雑な表情で、それでも、郁原は肯く。
そして、マットの上に、舞を横たえた。
舞が、スカートとショーツを、するすると脱ぎ捨てた。
舞に、郁原が覆い被さる。
二人の唇が、重なった。かすかな血の味が、郁原の舌にも感じられる。
すでに、充分過ぎるほどに潤んでいる舞のその部分に、郁原が、いきりたつペニスをあてがった。
そのまま、ゆっくりと腰を進め、挿入していく。
「ンはぁ……」
雁首が、膣内の粘膜をこすりあげる感触に、舞は、うっとりとした声を漏らしていた。
黒いソックスをはいた形のいい脚が、淫らに、郁原の腰に絡みつく。
「月読さん……」
すぐ下にある舞の顔を、優しく見つめながら、郁原がそっと彼女の髪を撫でる。
金褐色の、舞の孤独を象徴するような、美しい髪。
「あうン……やっぱり、郁原、エッチが上手……」
甘い声でそう言いながら、舞が、はしたなく腰をせり上げる。
「でも……今は、もっと、激しくして……」
頬を染めながらはしたないおねだりをする舞に、郁原は肯きかけた。
そして、ぐうっ、と腰を動かす。
「ンあ……っ!」
きついくらいの挿入感に、舞が、体を震わせる。
が、郁原は、腰の動きを緩めようとしない。
肩を抱き、体を密着させるようにしながら、ぐいぐいと抽送を繰り返す。
二人とも、上は制服を着ているため、布越しの感触が、ひどくもどかしい。そのもどかしさを埋めようとするように、郁原は、きつく、きつく、舞の体を抱き締めた。
「月読さん……月読さん……っ」
舞の右肩に顔を寄せるようにして、耳元で、郁原がそうささやき続ける。
とろけるように柔らかく熱い粘膜がペニスをこすりあげる感触に、郁原の息は、荒くなっていった。
じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ、という、淫らに湿った音が、倉庫の中に響く。
激しくペニスが出入りする膣口からは、泡立ち、白濁した愛液が溢れ、下にあるマットを濡らしていた。
「ンあっ……はあァ……郁原……郁原ぁ……」
どこか頼りない声で、舞が、郁原の名を呼ぶ。
と、とろん、と潤んだ舞の褐色の瞳に、名琴の顔が映った。
いつのまにか目を覚ましていた名琴が、その可愛らしい顔に、どこか妖しい微笑みを浮かべながら、四つん這いで舞に近付いている。その白い太腿に、一筋、破瓜の血の跡があった。
そんな名琴の様子に、やや圧倒されている舞の唇に、名琴が唇を重ねた。
「んう……っ」
舞の、驚き、くぐもった声に、郁原が顔を上げる。
と、名琴は、舞から唇を離し、郁原にもキスをした。
「あン……」
仲間外れにされた子どものような顔で、舞が、郁原と名琴の唇に、舌を伸ばす。
三人は、互いに舌を伸ばして、互いの唇を探りあった。
もはや、誰が誰にしているのか分からないような、不思議なキス。
そうやって、二人の少女と口付けを交し合いながらも、郁原は、激しく腰を動かし続けている。
「ふっ……んふウ……ふうう……ふうン……」
郁原と名琴に、交互に唇を奪われ、舌を絡め合いながら、舞は、くぐもった声を漏らした。
倒錯した快感に、脳が痺れ、膣肉がきゅるきゅると収縮する。
「ンああっ……そんなにされたら……もう……ッ!」
郁原が、切羽詰った声をあげた。
が、その声も、舞の耳には届いていない様子だ。
そして、まるで郁原を逃すまいとするかのように、腰に回した両脚に、力を込める。
そんな舞の動きに導かれるように、郁原は、膣内の最深部にまで、そのペニスを突き入れていた。
ペニスの先端で子宮口を圧迫される重苦しい快感に、舞が、そのしなやかな体を弓なりに反らす。
「ンうッ!」
郁原が、舞の体内に、欲望を解放した。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああアーッ!」
びゅくっ、びゅくっ、と激しく律動しながら、勢いよく膣内に射精される感覚に、舞が絶頂の声をあげる。
ぴくっ、ぴくっ、と舞の体が、痙攣した。
「は……あぁ……っ」
ぐったりと、郁原が、舞の体の上で弛緩する。
そんな様子を、名琴は、まるで自分がアクメを迎えてしまったかのような、濡れた目で見つめていた。
その後――
この三人を、“学園公認カップル”と認めるか否かで、学園カップル認定委員会の二月定例会は、もめにもめることになる。