最終話
『決戦! 万能無敵』
「ほ、本気なんですか、マスター!」
僕の考えを聞いて、ココナは素っ頓狂な声をあげた。
美玖ちゃんと瑠実さんは、自宅に帰っている。久しぶりに、この基地の中でココナと2人きりだ。
「別に、危険はないでしょ。この基地の施設で充分に用は足りるってことは、証明済みなわけだし」
「だ、だからって……そこまでする必要があるとは、あたし、思えません」
珍しく、ココナが僕に反論する。
「そもそも、“それ”を使わなきゃいけない事態って、要するに……」
「そういうことにもなりかねない、と僕は思うんだ」
ココナをさとす僕は、自分で言うのもなんだけど、奇妙なほど冷静だった。
「手持ちにあるモノは、何だって利用するし、どんな備えだって怠らない。何しろ、システムクラッシャーと古代銀河帝国の超技術がぶつかるんだ。どんな状況が生じるか分からないだろ?」
「それは……マスターの言うことは、正しいかもしれませんけど」
そう言って、ココナは、唇を噛んだ。
「あたし個人として、イヤなんです。……美玖ちゃんや瑠実さんだって、聞いたら反対すると思いますよ」
「だから、今のうちに片付けちゃうのさ。2人に内緒でね」
僕はそう言って、努めて何でもなさそうに微笑んで見せた。
《オープニング・テーマ》
『飛びこえてミルキー・ウェイ』
決戦のときが、来た。
巡航速度を保ちつつ、地球に向かい緩やかな螺旋軌道を描いて近付く懲罰艦隊――システム・クラッシャーを、内惑星軌道でぎりぎりで迎え撃つ。
手元に残った竜機兵は12機。うち1機は、半壊した3機の竜機兵のパーツを寄せ集めて作った代物だ。僕が美玖ちゃんを監禁している間に、無人の地底基地が組み立てていたものである。
標準の竜機兵に比べて、ちょっとずんぐりとしたフォルムのそいつの名前は、美玖ちゃんの提案で「ミルク・ドラゴン」になった。塗装色は、もちろん白だ。
僕と美玖ちゃんは、これに乗り込む。
ココナと瑠実さんには、後方から支援してもらうため、別の竜機兵に乗ってもらう。ラヴクラフト社の最高傑作といわれるナイアーラトテップFF型である。ステルス性の高い機体なので、いざという時でも安心だろう。
「ホントに、このミルク・ドラゴンに乗るんですか?」
ミルク・ドラゴンとナイアーラトテップが並んでうずくまる巨大なハンガーで、ココナは心配そうに僕に話し掛けてきた。
「まだ機動テストだってしてないのに」
「耐久性と安定性を特に高めに設定してるから、かえって安心だよ」
そう、僕が答えていると、変身を終えた美玖ちゃんと瑠実さんが、こちらに近付いてきた。
2人とも、いつものとおり穏やかな顔だ。あまり緊張は見られない。
「美玖ちゃん……瑠実さん……」
僕は、口を開いた。
「今となっては、もう、僕には何もいうことはできないし……お詫びを言ったり、覚悟を確かめるような場面でもない、と思う。だから、その――よろしく、お願いします」
「分かってるよ、先生」
にっこりと微笑みながら、美玖ちゃんは言った。
「いっしょに、地球を守ろう。正義は必ず勝つんだよ!」
そう、美玖ちゃんがそう思い、そして正しい心を持ち続けている間は、大丈夫だ。
あの瑠実さんが、こうやって落ち着いてるのも、美玖ちゃんと、ミルク・エンジンと……そして、もしかしたら僕のことも、信頼しているからなのだろう。
「うん」
僕は、深く肯いて、そして瑠実さんとココナの方を向いた。
「じゃあ、ちょっと離れ離れになるけど、気をつけて」
「はい、美玖のこと、よろしくお願いします」
「マスターも……それから美玖ちゃんも、気をつけてくださいね」
もう一度僕は肯いて、そして、美玖ちゃんを連れてミルク・ドラゴンのコクピットに向かった。
滝の裏側に設けられたハッチを開き、ミルク・ドラゴンを発進させた。
少し遅れて、ココナが操縦するナイアーラトテップが、それに続く。
2機の竜機兵は、ぐんぐん上昇し、あっと言う間に地球の衛星軌道に至った。
「うわぁーっ!」
初めて大気圏外から見る地球に、僕の後ろの即席シートに座る美玖ちゃんが歓声を上げる。
「すごいすごい、地球って、ホントに青いんだ!」
「うん」
「雲が、あんなふうにたくさんあって……あー、もう、どうしよう! スゴイとしか言えないよー!」
その場で小躍りしかねないくらいの勢いで、美玖ちゃんが言う。
と、レーダーに、幾つもの光点が現れた。それが、僕たちのいるポイントめがけ集結しつつある。
「ん? あ、あれ、かいじゅーさんだァ」
目ざとく見つけた美玖ちゃんが、声をあげる。
「海の底とか、山の中に隠していた竜機兵だよ。この軌道上で編隊を組んで、それから、一気に迎撃に出る」
「うわー、一度にこんなにたくさん……あ、あっちの、ヘンなカタチ!」
そう、美玖ちゃんがはしゃいでいる間に、10機の竜機兵が僕たちに合流する。
これだけで一つの惑星を制圧できるだけの竜機兵たち。それでも、システム・クラッシャーとまともに当たれば、1時間ともたないだろう。
「懲罰艦隊の基幹となっているのは、戦艦10隻……数では、勝ってるんだけどなあ」
そう言いながら、僕は、自動操縦の竜機兵にコマンドを送信し、隊列を整えた。
「各機最終確認終了。状況オールグリーン。出撃準備整いました!」
ココナから、そう通信が入ってくる。
「分かった。美玖ちゃん、ベルト締めて」
「うん、OKだよ!」
「――発進!」
そう号令を出し、緊急加速用の核パルスエンジンを点火する。
どっ、とGがかかり、ミルク・ドラゴンは地球の重力を易々と振り切った。
竜機兵たちが、次々とそれに続く。しんがりはココナと瑠実さんが乗るナイアーラトテップだ。
かつて侵略しようとした蒼い惑星を後にして、僕たちは、予想遭遇地点目指して加速していった。
「先生……地球が、どんどん小さくなってくよ……」
すでに、かなりの速度に達しているミルク・ドラゴンのコクピットの中で、美玖ちゃんは、心細げな声をあげた。
「怖くなった?」
「そ、そういうんじゃないけど――」
美玖ちゃんは、しばし口をつぐんでから、言った。
「どうして、ガイモスの人たちは、地球を滅ぼそうとするのかな?」
「……」
今度は、僕が黙り込む。
「先生は、地球をしはいしようとしただけだよね? でも、今度のてきは、ちがうんでしょ?」
「うん。地球どころか、この太陽系そのものを、ガス状星雲に変えてしまうくらいの艦隊だよ」
「なんで、そんなこと、しようとするのかな?」
「……もちろん、僕は、理由は知らされてない。けど、予想はできるよ」
「予想?」
「うん。銀河帝国の中心にある星の人たちはね、自分の星こそが“オリジナルの地球”だって主張して、それを理由に、他の星を支配してるんだ」
「ほんものの、ちきゅう?」
不思議そうに、美玖ちゃんが聞き返す。
「そう。他の地球は、大昔に作られたニセモノの地球だって言ってるのさ。で、その根拠になってるのが、この銀河系における人類の分布なんだよ。星間トンネルを使ったとしても、人類が未踏の星に行くには、光の速度を超えることはできないからね」
「わ、わかんなくなってきたよぉ」
「うーん、難しすぎたかな」
僕は、苦笑いした。
「つまりね、銀河系の端っこから端っこまでは、光の速さでも10万年はかかっちゃうわけ。でも、銀河帝国の歴史は、5万年ちょっと。だから、銀河系の真ん中あたりの星でないと、人類が生まれた場所としてはおかしくなっちゃうんだよ。……今までの考え方からするとね」
「やっぱり、むずかしいー」
「何て言えばいいのかなあ……要するに、ミルク・エンジンみたいな、無制限に超光速ができる機関があるってことは、銀河帝国の『俺たちが一番偉いんだ』っていう考えの大前提をこわしちゃうんだよ」
「ふうん……」
「それに、ミルク・エンジンが、美玖ちゃんの住む地球にあったってことは、つまり……」
「マスター! 敵の制空圏に近付いてきました!」
ココナの警告が、僕の言葉を遮った。
「分かった! ――美玖ちゃん、この話は、あとでゆっくりしよう。きちんと分かるように説明してあげるよ」
「うん。とにかく、なんだかなっとくのいかない理由だってことは、分かったよ。それでじゅうぶん!」
「そうだね」
それはそうだ。この世に、いきなり問答無用で人の住む星を壊していい理由なんて、ありはしない。
ただ、それが可能であれば、理由の有無に関係なく、人はしでかしてしまう。
だから、それを必死になって食い止める。相手を――殺してでも。
もしかしたら、美玖ちゃんは、そこまで考えが至ってないかもしれないし――もしそうなら、罪を背負うのは僕の役割かもしれない。
でも、これは、戦いには無用な感傷だ。今、僕がすべきことは、こんな思いにふけることじゃない。
「美玖ちゃん。これから、宇宙空間に出てもらうけど……やっぱり宇宙服は要らない?」
「うん、大丈夫! 美玖、ミルク・エンジンを信じてるから」
「……そうだね」
美玖ちゃんが、あのコスチュームに身を包んでいる。それこそが、ミルク・エンジンの力がこの地球から遠く離れた空間にまで届いている、確かな証拠だ。
「じゃあ、打ち合わせどおり、えあろっくの中で待ってる」
「うん。頑張ろうね、美玖ちゃん」
そう、僕が言った時……。
「わははははははははははははははははははは!」
とんでもない馬鹿笑いが、いきなり通信に割り込んできた。
ざっ、と通信用のディスプレイに砂嵐が走り、そして、防毒マスクみたいなものを被った顔が大写しになる。
「な、なんだなんだなんだ?」
「この声、あたし知ってる! ミヒローしょうぐんだよ!」
「なんだってえ?」
「我が名は“竜機士”ミヒロー大佐。再びお前とあいまみえるために、あの屈辱を雪ぐために、ミルク・エンジェルよ、私は還ってきた!」
大いに芝居がかった声で、男――ミヒロー大佐は、そう宣言した。
軍の広報誌で見たときは、あんなかぶりものかぶってなかったけど……どうやら、あのミヒロー大佐に間違いないようだ。
「私は、銀河帝国の栄光のために、この星系を灰塵となす。もし、万能無敵と奢るお前が立ち塞がろうとも、私の歩みを止めることはできない!」
「ミヒロー大佐っ!」
どうも、話の通じる相手とは思えないけど、とにかく呼びかけてみる。
「ん、何だ君は?」
一応、双方向通信になっているらしい。ミヒロー大佐が意外そうな声をあげる。
「銀河帝国地球侵略官レニウス少佐です! そちらの艦隊の任務は、僕の懲罰ではないんですか?」
「ああ、そう言えば、そんなことも書いてあったかな?」
ミヒロー大佐は、傍らの犬耳アンドロイドから受け取ったボード型ディスプレイを、興味なさげに見つめた。と言っても、顔全体を覆うマスクで、その表情はよく分からないのだけど。
「でもまあ、君の容疑は前銀河帝国のオーバーテクノロジーを私物化して、銀河帝国に反逆を起こそうとしたってことだからなあ。そのオーバーテクノロジーの結晶であるところのミルク・エンジェルを撃破することは、任務達成のための大事なプロセスだ。このシナリオに矛盾や破綻はない……はずだ」
「それは詭弁だ! 銀河帝国の目的は、地球の――“オリジナルの地球”の破壊なんでしょう?」
「さあな」
ミヒロー大佐は、マスクの奥で笑った――ようだった。
「実は、私にはそんなこと興味ないんだ。お偉いさんは、母星アザトソトホートが“オリジナルの地球”だっていう妄念に取り付かれてるようだけどね。まあ私に言わせれば無意味なことだよ」
「だったら、どうして――」
「展開上の必然かな? 物語の自律性と言うか……クライマックスはきちんと演出しなくてはならないからね」
「……」
「キャラクターの選択できる道は限られているし、その中で自らが最良のルートをたどっているかどうかは、結局誰にも分からない。根源的な不可知論であり、意地の悪い多世界解釈の罠だよ。ただ我々にできることは、自分が自分であることを信じることだけで、それは現実においても虚構においても同じことだ。それがこのつまらない世の中の対称性の原理なんだよ」
僕は、確信した。この人は、まだ狂ってる。虚構と現実の区別がついていない。
ミヒロー大佐の狂気はぜんぜん癒されてないんだ。ああもう、だったら施設の中でおとなしくポルノを書いてればいいものを!
「そっちに、ココナはいるのかな?」
と、ミヒロー大佐が、ほとんど猫なで声のような声で言った。
「いるんだろ? なら、張ってあった伏線を消化するとしようか。……“時間だよ”」
謎の言葉を残して、ぷつん、と通信が切れた。
しばし、名状しがたい沈黙がコクピットに漂う。
「えと……前も、あの人は、あんな感じだったの?」
「だいたい、こんなだったよ」
そう、美玖ちゃんが答えたとき――
「ご主人様!」
今度は、瑠実さんから通信が入った。
「た、たいへんです、ココナさんが……」
「え、ど、どうしたんです?」
「急に苦しみだして……っきゃあああ!」
突然、通信用のディスプレイから、瑠実さんの姿が消える。
「ママ、どうしたの? ねえっ!」
と、画面に、にゅ、と白い脚が現れた。
「ちょ、ちょっと、ココナさん! ンあああああッ!」
「ああっ、瑠実さん……許してください! ココナ、ガマンできないんですッ!」
「やっ、ダメです、そこを、そんなふうにしたら……んぐ……ふぁ、あァん……!」
続いて、あからさまな嬌声。
「はっ、ひあァ……す、すごい……ココナさんの……こんなになって……」
「瑠実さん、瑠実さァん……ココナ、もうダメ……な、なにも考えられないですゥ……」
ディスプレイの端にちらちらと映るあられもない2人の姿に、美玖ちゃんが顔を赤らめる。
ミヒロー大佐の言葉が、何らかのキーワードとなって、ココナの人格プログラムに障害を発生させたのだろう。あの大佐が、どういうつもりでココナの頭の中にそんな仕掛けをしていたのかは分からないけど。
「くそ、戦力半減……は言い過ぎかもしれないけど」
僕は、手で顔を覆った。
「まさか、こんなことになるとは……」
「先生! 前!」
と、美玖ちゃんの示すメインディスプレイに、警告表示が現れている。
「来たか――!」
画面をズームさせると、凍てつくような星空を背景に、巨大な戦艦が戦闘態勢を整えつつある。
「ええい、全竜機兵、全速前進! 目標は個々に設定、かかれ!」
ナイアーラトテップを除く全ての竜機兵を、艦隊めがけ突っ込ませた。
左右両翼の機体を先行させVの字に隊形を整える。
ミルク・ドラゴンは、隊の中央。すなわち、一番後ろだ。
ココナと瑠実さんが乗るナイアーラトテップは、自動操縦に移して、セキュリティ・レベルを目一杯にあげておいた。あれだけステルス性を重視した機体だ。どうにかなると信じよう。
「じゃあ、先生、あたしもう行くね!」
「気をつけて!」
「うん!」
大きく肯いた美玖ちゃんが、コクピットの後方にあるエアロックに消える。
しばらくして、竜機兵の外に出た美玖ちゃんの姿が、ディスプレイに現れた。
翼を広げた美玖ちゃんの体は、まるでそれ自体が発光しているかのようにミルク色に輝いている。
と、そろそろ、敵船艦の主砲の射程内だ。
V字隊形の、左右両翼の先頭が、それぞれ一番手近な戦艦に向かってさらに加速する。
それは、しかし、巨大な熊に立ち向かう蜜蜂か何かのように見えた。
戦艦は、艦載機を発進させていない。その必要なしと考えているのだろう。
まばゆい光が宇宙空間を貫く。
戦艦の主砲である重粒子砲の一斉砲撃だ。
発射光だけでも、センサーが悲鳴をあげる。いくつかのディスプレイがホワイトアウトしてしまった。
表示が戻るまでの数秒間が、恐ろしく長く感じる。
そして――
「よし!」
僕は、大きく声をあげた。竜機兵たちは無事だ。
再び主砲の発射態勢に入る戦艦の動揺が伝わってくるようだ。
たしかに、あの主砲の一撃は恐ろしいが、古の兵法に言うとおり、当たらなければどうということはない。
何しろあの竜機兵たちは、今や、ミルク・エンジンの力を借り、常識外れの加速をしているのだ。戦艦の予測演算も、これには追いつけないはずだ。
「かいじゅーさん、がんばって!」
美玖ちゃんの声援が、通信を通して、このコクピットの中にも響く。
その声に応えるように、竜機兵は戦艦に肉薄した。
戦艦が、第二射の準備を整える。さすがシステム・クラッシャーだ。早い。
再び、砲撃。
純白に染まる宇宙。
2機の竜機兵が、四散した。あれだけ近付いていたら、予測演算も何もない。
しかし――
「――よし」
次の瞬間、2隻に戦艦の主砲周辺から、爆炎が上がった。
亜光速にまで達した竜機兵のパーツが、フォースフィールドを力任せに突き破り、特殊装甲を貫通したのだ。
竜機兵は、主砲の命中がある一瞬前に、大小数百のパーツに自ら分解したのである。
それらが、ミルク・エンジンによって与えられた速度のまま、数百の弾頭となって戦艦に襲い掛かったのだ。全て、シミュレートどおりである。
「行っけえ!」
竜機兵の第二陣、第三陣が、次々と戦艦に向かって突っ込んでいく。
無人機だけに許される自爆攻撃。
いや、もはや竜機兵たちは、銀河一高価かつ高速なミサイルと化して、一隻ずつ、戦艦を大破させていった。
いくつかの戦艦が、わずかに残った機能で、散発的に砲撃を行ってくる。
が、そのような状態の戦艦や、ようやく発進し出した無人艦載機などは、ミルク・エンジェルの敵ではない。
「ばんのーむてき! みるく・えんじぇるっ!」
その言葉に重なって、ぱやぱやぱやぱやぱやややや〜ん♪ というあのBGMが、この宙域に響き渡る。真空の宇宙空間においてエーテルを媒介にして響いているのだ。
「いっくわよーっ!」
そう叫んで、群がる球型の艦載機に突っ込んでいく美玖ちゃん――ミルク・エンジェルを、ミルク・ドラゴンで追いかけ、援護する。
こっちだって、腐っても竜機兵だ。作業用ポッドに質量砲を生やしただけの艦載機に遅れをとったりはしない。
ミルク・ドラゴンの口から放たれるプラズマ炎が宙を薙ぎ、球形の無人艦載機を次々と爆発炎上させていく。
「アークエンジェルズ・オブ・セフィロス!」
と、美玖ちゃんの凛とした声が、響いた。
美玖ちゃんの体が光り輝き、そして、その光が爆発的に膨れ上がる。
そして、その空域を満たした光の粒子が、まるで結晶化するように集まって、人の形をとった。
9人の、ミルク・エンジェルの分身。
本物の美玖ちゃんを合わせ、10人になったミルク・エンジェルが、それぞれ手に様々な武器を構え、見栄を切る。
「あたあぁーッく!」
元気のいい叫び声をあげながら、10人のミルク・エンジェルが、光の珠と化して戦闘宙域に散開する。
もはや、半壊した戦艦たちや艦載機などでは、そんなミルク・エンジェルに立ち向かいようがない。
光の天使たちは、力強く、そして残酷に、瀕死の巨艦に止めを刺していった。
「あとは、ミヒロー大佐の身柄だな……!」
僕は、もはや崩壊しつつある艦隊の中央にある旗艦に、ミルク・ドラゴンの機首を向けた。ココナのあの状態をどうにかさせなくてはならない。
見ると、ミヒロー大佐が乗っているであろう懲罰艦隊の旗艦にも、ミルク・エンジェルは向かっている。おそらく、あれは美玖ちゃん本人だろう。
彼女を追いかけるように、ミルク・ドラゴンを発進させる。
「美玖ちゃん、調子に乗って旗艦を爆発させたりしなけりゃいいんだけど……」
思わず、そんなことを口走ってしまったその時だった。
「きゃあああああアーっ!」
美玖ちゃんの悲鳴が、スピーカー越しに、コクピットに響いたのだ。
「ええっ?」
ばちばちと奇怪な色の火花を散らしてスパークする力場が、美玖ちゃんの小さな体を捕えていた。
「イ、イヤあ! イヤ! ヤダぁ! イヤぁーっ!」
まるで、蜘蛛の巣に捕えられた蝶のようにもがきながら、美玖ちゃんが悲鳴をあげ続ける。
力場は、ミヒロー大佐の乗る旗艦のブリッジから放射されていた。アンティークなデザインのパラボラアンテナから迸る、レーザーでもブラスターでもない奇妙な光が、美玖ちゃんを捕えている。
「な、なんだあれは?」
ミルク・ドラゴンのデータベースに慌ててアクセスするが、該当する項目はない。
「ふはははははははははは!」
ミヒロー大佐の哄笑が、再び通信に割り込みをかけてきた。
「見たか! これが、銀河帝国の叡智の結晶、アンチサイキックだ!」
「アンチサイキック……精神攻撃兵器か!」
「そうだ!」
思わず叫ぶ僕に、ミヒロー大佐が律儀に返事をする。
アンチサイキックは、超能力者殲滅のために開発された兵器だ。
原理はよく分からないけど、超能力者の超能力を打ち消し――と言うか逆流させ、その精神を攻撃するという。
おそらく、美玖ちゃんとミルク・エンジンの精神的なリンクそのものが、一時的にとは言えキャンセルされているのだろう。そうでなければ、あんなに簡単にミルク・エンジェルがピンチに陥るわけがない。
しかし……なんてことだ! 確かに、ミルク・エンジンの力は万能でも、美玖ちゃんの心は普通の女の子だ。それを、直接攻撃されたら……。
「かつて辺境のエスパーどもが反乱を起こしたときに、根城となった惑星の住民全員を精神崩壊に追い込んだいわくつきの逸品だ! 倉庫から引っ張り出すのに苦労したぞ!」
「あんたの苦労なんか知るか!」
つい、僕も言葉を返してしまう。
「美玖ちゃんを放せ! この竜機兵の全砲門が、そこのブリッジを狙ってるんだぞ!」
「ククククククク……もはや、我が懲罰艦隊はお終いだ」
狂気を滲ませた声で、ミヒロー大佐が言った。
「だが、そのポンコツでこの戦艦を沈めることができるか? それに、艦載機の砲門がお前を狙っていることも忘れるな!」
「く……!」
ミヒロー大佐の言葉どおり、生き残っていた無人艦載機がこの宙域に集結し、ミルク・ドラゴンに砲口を向けている。
ミルク・エンジェルの分身たちの姿はない。美玖ちゃんが精神攻撃を受けた影響で、消えてしまったようだ。
「せ、せんせえ……イヤ……イヤあ……」
弱々しい、美玖ちゃんの悲痛な声が、聞こえる。
「私の勝利だ! お前は、このデタラメな設定の小娘が悪夢に悶え、狂い死にする様をそこで見届けるがいい! ストーリーが破綻したら主人公を殺して幕を下ろすことこそ王道なのだ!」
「わけのわかんないコトを言うなァーっ!」
僕は、ミルク・ドラゴンの全てのエンジンを点火した。
急発進するミルク・ドラゴンに、艦載機から発射された質量弾が打ち込まれる。
「パージ!」
どっ! と一際強いGが、僕をシートに押しつける。
ミルク・ドラゴンの主反応炉が爆発し、巨大な光の華を宇宙空間に咲かせた。
その光を背負いながら、一瞬前に緊急分離した頭部だけで、旗艦艦橋に突っ込む。
凄まじい加速。十数人分の体重が、僕の体にかかる。そのまま失神しそうになるのを、唇を噛み破る痛みで耐えた。
ばきゃきゃきゃきゃン! という頭が割れそうな破砕音とともに、ミルク・ドラゴンの頭部が、ブリッジの正面装甲を突き破る。
「ぐッ……」
ばくン、とキャノピーが開く。
もうもうと煙のたちこめる、旗艦のブリッジ。司令席に、全身が正体不明のパイプにつながれたミヒロー大佐が座っていた。
僕は、どうやら体のあちこちの骨がどうかなったらしい。ここにきて、腕を上げることもできない。
「つ……詰めが、甘かったようだな」
安堵したようなミヒロー大佐の肉声を、激しく耳鳴りのする耳で、どうにか聞く。
赤く染まった視界が、急速に狭まる。どうやら、頭部を含めてあちこちに怪我をしたらしい。出血で、体が冷たくなっていくのが分かった。
「残念ながら、私は生きている。特攻などという行為でケリをつけようというのは、個人的な見解を言わせてもらうなら悪しき習慣と言うべきものだ」
視界の端で、ミヒロー大佐が、腰の銃を抜いたのが見えた。
その、マスクに隠された顔を睨みつけるべく、全身の力を総動員して、顔を上げる。
「せっかくの男前の顔が血まみれだな。せめてもの慈悲だ。すぐに、楽にしてやろう」
ばッ! と視界が光で満ちた。
「――ッ!」
声にならない悲鳴。
急速に、視界が暗くなり……どうにか、辺りの様子が分かるようになってくる。
ミヒロー大佐が、うつ伏せに倒れていた。
その四肢が、断末魔の痙攣に、ひくひくと蠢いている。
僕の左眼から発射されたレーザーが、彼の脳髄を貫き、高熱で脳漿を蒸発させたはずだ。
左眼は、当然ながら何も見えない。義眼のレーザー発射口を覆っていた生体ポリマーの焦げた白い煙が、左の眼窩から上がっている。
かつて、僕の右肩を傷付けた、サイボーグ・アイ。それが、僕を救ったのだ。
「ありがとう……オーグルト……」
それを聞いたら、思いきりイヤな顔をするであろう友人に礼を言いながら、僕は、がっくりとうなだれた。
ブリッジは、僕の特攻でもはや火の海だ。美玖ちゃんを縛る呪縛も、もう解けているだろう。
ぽた、ぽた、と滴る血が、太腿に赤い染みを作っていく。
出血で死ぬのが先か、周囲に広がる火に包まれるのが先か。
長く苦しむ前に、意識を失っておきたい、という身勝手な思いが、心を占めていく。
その時――
――いや……いかないで……せんせえ……。
確かに、僕は聞いた。
美玖ちゃんの、涙に濡れた声を。
――いかないで……せんせえ……いや……やだよお……。
「く……っ!」
僕は、まだかすかに動く指先で、必死にスイッチをまさぐった。
キャノピーを下ろし、いつ爆発するか分からないロケットで逆噴射をかける。
突っ込んだときの何億分の1というスピードで、イヤになるくらいのろのろと、ミルク・ドラゴンの頭部は、めちゃめちゃに壊れた旗艦艦橋から自らを引っぺがした。
「ぁ……ぁぁ……っ」
まだ生きている。そのことに、安堵の息が漏れた。
僕は、全身を走る激痛に、かえって意識をはっきりさせながら、傷口を冷却処理した。
そして、あちこちに開いた機体の空気漏れの穴に、充填材を吹き付け、応急処置をする。
僕の体と、このミルク・ドラゴンの頭部、どっちが限界を迎えるのが先か。
それでも、精一杯に足掻く。痛みを覚えるのはまだ生きている証拠だ。
まるで、漂うようなスピードで、この戦闘宙域をさ迷う。
全ての戦艦は沈黙し、無人艦載機も、戦艦からの信号が無くなったために、活動を停止していた。
勝ったのだ。
勝ったはいいけど、生き残らなければ意味がない。
「――ご主人様っ!」
と、壊れていたと思い込んでいたスピーカーから、声が響いた。
ものすごく、懐かしく思える声。
「ご主人様! どこですか? 美玖ちゃんはこっちに乗ってます! ご主人様――ど、どこなんですかァ?」
まるで、子供みたいにぐずぐずとしゃくりあげながら、声をあげている。
そんな瑠実さんの声が、なぜか、奇妙なほど愛しかった。
「僕は……ここだよ……」
かすれる声で、どうにかそう通信を送りながら、僕は、信号弾をあげた。
ナイアーラトテップのコクピットは、何と言うか……すごい臭気が漂っていた。
あちこちに、乾きかけの白い体液がへばりついている。
そんな中、僕は、美玖ちゃんやココナと折り重なるようにして、後部シートに座っていた。コクピットに備えられていた救急セットで、瑠実さんが出血を止めてくれたので、どうにか人心地がついている。
「その……ココナは、だいじょうぶ?」
僕は、まだかすれている声で、操縦席に座る瑠実さんに訊いた。
「あ、はい……えっと、大丈夫だと思います。その……疲れて、寝てるだけみたいです」
そう言いながら、こっちを向いた瑠実さんの顔は、真っ赤だった。
ふと横を見ると、ココナは、これ以上はないというくらい安らかな顔で、平和そうに寝息をたてている。
要するに、あの状態のココナをおとなしくするために、全部搾り取ってしまったということだろうか?
羞恥のために慎ましく頬を染める瑠実さんに、僕は、女性の凄みのようなものを感じてしまった。
「せんせえ……」
と、包帯の巻かれた僕の胸に寄り添うようにして眠っていた美玖ちゃんが、声をあげた。
その長い睫毛には涙がたまり、眉はたわめられている。アンチサイキックの影響で、まだ悪夢から覚めてない様子だ。
無理に起こすと、精神に悪影響が出てしまうので、今は、傷ついた腕で彼女の小さな体を抱き締めるしかできない。
でも、夢なら必ず覚める。
「せんせえ……いや……いっちゃいや……」
「――僕はここにいるよ。どこにも行かないよ、美玖ちゃん」
そう、小さな耳たぶに、囁く。
「いや……ヤなの……みく、まだイってない……せんせえ、さきにイっちゃいやあ……」
「……」
えっと――。
つまり、どういうことだろう。
だから……美玖ちゃんは、万能無敵で、僕なんかでは逆立ちしたってかなわないってことか。
考えてみれば、最初からそうだった。僕は、初めて出会った時から、この限りなく愛しい少女に負けっぱなしだったのである。
ともあれ、これで、地球の平和はとりあえず守られたのだった。
《エンディング・テーマ》
『白い天使のうた』
《映像特典》
「ああン……せんせえ、せんせえェ……」
美玖ちゃんが、僕の腰にまたがって、淫らに腰をうねらせている。
その動きは、幼い少女とは思えないほどにこなれていて、着実に、僕と彼女の快感を高めていった。
あれから、一週間。
この太陽系に設置された星間トンネルのゲートは、ナイアーラトテップを派遣して、破壊してしまった。
これで、一番近くにあるゲートまでは、4.3光年。少なくとも4年は猶予があるわけだ。
それまでに、この地球に完璧な防御体制を敷かなくてはならない。
僕が持ち込んだ銀河帝国のテクノロジーと、ミルク・エンジンの力を使い、この地球の経済や科学を裏から支配すれば、それは可能なはずだ。
この地球を守るため、この地球を支配する。結局、僕が最初に託されていた使命は、こういうカタチで果たされつつあるわけだ。
紆余曲折の末、銀河帝国にとってはまるきり正反対の結果になってしまったわけだけど……。
「ね、ねェ、せんせえ……もっと、おっぱいして……おっぱいいじめてェ……」
物思いにふけってしまったせいで、つい愛撫をおろそかにしてしまった僕に、美玖ちゃんがせがむ。
僕は、彼女のたわわな胸に手を伸ばし、柔らかな感触を手の平全体で味わった。
「っ! ひやァン! き、きもちイイ……おっぱい、きもちイイよォ……!」
一番の性感帯を刺激され、美玖ちゃんは喉をそらして甘い声をあげる。
「美玖ちゃん……素敵よ……」
「あ、あたしたちも、仲間に入れてください……」
さっきまで、傍らで濃厚なキスをかわしながら、互いのペニスをこすりつけあっていたココナと瑠実さんが、こちらににじりよってくる。
「あ、ああン、来てェ……ママも、ココナおねえちゃんも……美玖のこと、ムチャクチャにしてエ……っ!」
「ああ、美玖ちゃん……入れてあげる……お尻に、入れてあげるね……」
興奮に上ずった声をあげながら、瑠実さんが、美玖ちゃんのヒップを割り開き、自身とココナの腺液に濡れたペニスを挿入させた。
「はわあああああああっ♪」
体の奥を、熱いペニスで押し広げられる感覚に、美玖ちゃんが涎をこぼしながら声をあげる。
「ス、スゴい、中が、中がこすれて、こすれてるよォーっ!」
僕と瑠実さんのペニスで、体の中の薄い肉の壁を揉み潰され、美玖ちゃんがあられもない声をあげる。
「ココナおねえちゃんも、早く、早くウ!」
「み、美玖ちゃん、おねがいします……っ!」
そう言って、ココナは、僕の頭を立ったまままたいで、美玖ちゃんの鼻先にペニスを突き出した。
たっぷりと潤い、太腿にまで愛液を滴らせたココナの秘部が、興奮にヒクヒクとおののいているのが見える。
「スゴい……ココナおねえちゃんの、ビキビキになって……においで頭がクラクラしちゃうよォ……」
そう、舌足らずな声で言ってから、美玖ちゃんは、ココナのペニスをしゃぶり始めた。
「ンあああッ! み、美玖ちゃん! ひあああッ!」
「はわぁ……おっきいィ……はむ、はぐ、あむン……じゅるる、ぶちゅ……ンふぅン……」
「ンあッ! すごいです……美玖ちゃんの可愛いベロが、あたしのオチンチンを……はゥっ! あ、ンあああああッ!」
「ココナおねえちゃん、感じてる……かわいい♪ ……はぷっ」
「ああーッ!」
その小さな口に先端を咥えられ、ココナは、こらえきれずに射精してしまったようだ。
「あぶ……ぢゅる……じゅじゅっ……んぐ……はぶ……ううン……」
美玖ちゃんは、それでもココナのペニスから口を離そうとせず、口唇愛撫を続ける。
ココナは、いつしか自らもかくかくと腰を動かし、そのペニスで美玖ちゃんの口を陵辱していた。
「あああッ! み、美玖ちゃん、おしり、締まるウ!」
きゅうん、と体内にある2本のペニスを締め上げた美玖ちゃんの括約筋の収縮に、瑠実さんが声をあげた。
「すごい、すごい……っ! ママのオチンチン、こんなにぎゅうぎゅう締めて……」
はぁ、はぁ、と熱い息を吐きながら、瑠実さんは、締め付けに逆らうように激しく腰を動かした。
「ンううううッ! ひはァ! ら、らめェ!」
「ココナさんのをおしゃぶりして、お口で感じてるんでしょう。ほ、本当に、イケナいコね……っ!」
そう言いながら、美玖ちゃんの細いウェストを両手で抱え、ぐいぐいとペニスを抽送させる。
薄い肉の壁越しの、瑠実さんのダイナミックな動きに、僕のペニスは否応なく快感のボルテージを上げられてしまう。
このままで終わるわけにいかない、という気持で、僕も、必死で腰を突き上げた。
「はぶゥ! んぶッ! ンああああああッ! らめエ! ひゃうううう!」
美玖ちゃんが、ココナの精液を口からこぼしながら、身悶える。
「ウソばっかり……美玖ちゃんのお尻、こんなによろこんで……あ、あはァっ! オチンポ千切れちゃいそうよ……!」
「あああッ! 美玖ちゃんのお口、お口ィ……あたしの精液が、ペニスにからみついて……ああン! 出る! またお口に射精しちゃいますーッ!」
僕は、もはや何が何だか分からないくらいの状態で、揉み潰さんばかりに美玖ちゃんの巨乳を弄ぶ。
チカチカと脳の奥で光る星。
「あああン! オ、オチンチンすごいイ! みんなのオチンチン、びくびくしてるよォーっ!」
僕も、美玖ちゃんも、ココナも、瑠実さんも、一つの場所めがけて、互いに昂ぶり、高め合っていく。
「イっ! イっちゃううううううううウウウウウウウウウウウウウウウウウウっ!」
ぶびゅ! びゅるるるるるる! ぶびゅっ! どびゅうう! ぶぴゅッ!
熱い白濁液が迸り、美玖ちゃんの体にどくどくと注ぎ込まれる。
体内を熱く白い液で満たされ、それだけでは足りず、その上気した肌に次々とスペルマが浴びせられる。
3本ペニスによって体の内側を精液で満たされ、体の外側を精液で汚されながら、美玖ちゃんは、全身で絶頂の快楽を貪っていた。
(まさか……美玖ちゃんまで……)
僕は、まるで温かな海の底に沈んでいくような快楽の余韻に浸りながら、ふと思った。
(美玖ちゃんまで、ペニスがほしいとか……言わないだろうなぁ……)
そして、閉じていく視界の端で、ねっとりとした白濁液に濡れた美玖ちゃんのペンダントが、きら、と一瞬だけ光って見えたのだった。
終劇