第12話
『復活! 銀河天使』
淫らな匂いの漂う、黒い部屋。
ベッドの上に、舞川美玖が横たわっている。
その小さな体の内と外に、僕は、大量の精液を浴びせかけた。
無残にも白濁液で汚されてしまった、白い肌と、褐色の髪。
その瞳は、ついさっき味わった強烈なエクスタシーの余韻のためか、ひどく虚ろだ。
めくれあがった、しかしあくまで綺麗なピンク色の秘裂からは、こぽこぽと愛液と精液の混ざり合ったものが溢れ出ている。
部屋には、僕と彼女の2人きりだ。
何かにせきたてられるように彼女の体を貪り、何度も何度も絶頂に追い込んだ。
舞川美玖も、それを全身で受け止め、歓喜の声をあげ続けたのだ。
その表情は、今も、快楽ですっかり蕩けきっている。
僕は、そんな彼女の顔を覗き込んだ。
「せ……せんせえ……」
「美玖ちゃん、もう一度訊くよ?」
「……」
「ミルク・エンジンの場所に、僕を案内してくれるかい?」
《オープニング・テーマ》
『飛びこえてミルキー・ウェイ』
「ミルク・エンジンがどこにあるかは、もう分かってるんだ。あとは、その中には入れればいい。それだけなんだよ」
「……」
「そうすれば……そして、美玖ちゃんが協力してくれれば、僕は、ミルク・エンジンの秘密を手に入れられる。美玖ちゃんも知らなかったような秘密までもね」
「……」
「そうすれば、ミルク・エンジンの本当の力を導き出すことができる。この宇宙における最高の力を、だよ?」
「……」
僕の言葉が理解できているのかどうか、舞川美玖は、どこかぼんやりとしかた顔で、こちらを見つめている。
「今、地球は、恐ろしい危機にさらされているんだ」
その言葉にも、舞川美玖は、反応を示さない。
「地球だけじゃない。この太陽系全体が、宇宙の塵にされそうになってる。これは、喩えでもなんでもないんだ。それに対抗できるのは――ミルク・エンジンだけなんだよ」
僕の声は、無意識のうちに、まるで懇願するような響きを帯びてきた。
「もう、僕は銀河帝国を追われた身だ。この地球を征服しようなんて考えてない。ただ、自分が身をおいてるこの地球を守りたいだけなんだ」
自分の言い分が、身勝手だってことは分かっている。でも、これは本当の気持ちだ。
「美玖ちゃん……案内してくれるね?」
「……」
肌に突き刺さるような、沈黙。
舞川美玖は、無表情なまま、まるで何かに耐えるように、ぎゅっとその唇を噛み締めている。
と、小さな口が開き、その一言が、小さな声で紡がれた。
「――イヤ」
ぱあン!
僕は、その音で我に返り、自分が彼女の柔らかな頬を平手で叩いたことに気付いた。
「……」
舞川美玖は、僕に叩かれた頬を左手で押さえ、きょとんと目を見開いた。
痛みなどまるで感じてないような、ただ、無邪気なくらいに不思議そうな顔。
その瞳に見つめられて、僕は、名状しがたいほど巨大な敗北感に苛まされた。
「……美玖ちゃん……ご、ごめん……」
自分でも哀れになるほど震えた声で、言う。
これまで、彼女とその母親にあれほどひどいことをしていながら、自分は何を言っているのか。
そう、心の片隅で思いながらも、震える指で、シャツの胸ポケットに入れていた鍵を取り出す。
僕の、負けだ。
僕は、何も手に入れてなどいなかった。この地球の支配権や、古代銀河帝国の超技術どころの話ではない。かつて僕を好きだといってくれた少女の心すら、手に入れていないじゃないか。
それに、銀河帝国の目的が、この地球を含めた星系全体の破壊であるなら、答えは決まっているのだ。
そう、僕がすべきことは決まっていたのである。
僕は、舞川美玖の両手を戒める手錠を、外した。
「せ、せんせえ……?」
不思議そうな声で、舞川美玖が呼びかける。
「もう、自由だよ、美玖ちゃん」
僕は、自嘲の笑みで口元を歪めながら、言った。
「でも、もうあまり時間はないんだ。僕を、好きなようにして……それから、今、この地球に迫っている連中と戦うといい。美玖ちゃんなら、勝てるよ」
僕の言葉に、次第に舞川美玖の顔に、表情が戻ってきた。
きゅうっと眉が吊り上がり、その大きな瞳が、みるみる涙で潤んでいく。
その口はぎゅっと歯を噛み締め、頬は真っ赤に染まっていた。
舞川美玖の怒りを感じる。僕は、無事ではすまないだろう。
彼女の激怒が、ミルク・エンジンの力によって形を為し、僕をこなごなに打ち砕く。その瞬間を、僕はじっと待ち続けた。
「先生は……」
震えている、舞川美玖のあどけない声。こんな子供に、僕は、なんてことをし続けてきたのだろう。
「先生は、美玖のこと、捨てるの?」
叫ぶように、舞川美玖は言った。
「え……?」
「美玖は、先生のドレイだって、あれ、ウソだったの? ママだけで充分だったの?」
「ちょ、ちょっと、美玖ちゃん……?」
「せんせえの――せんせえのバカああああああッ!」
舞川美玖の小さな体が、僕の胸に飛び込んできた。
そして、小さな拳で、ぽかぽかと僕の胸板を叩く。
哀しいくらいに弱い、子供そのままの力だ。
「美玖が子供だから? もういらなくなったから? 美玖のコトなんか好きじゃないから?」
涙に濡れた声で、舞川美玖は叫び続ける。
「あたし、ガマンしてたのに……先生のいうこと聞いたら、終わっちゃう……もう、あたしのこといらなくなっちゃうかもって……そう思って、いっしょうけんめい、ガマンしてたのに……なんで、なんで捨てるの? どうしてなのよおっ?」
何を――
何を言っていいか分からない。
僕は、今まで何をしていたんだろう?
どうして、気付く事ができなかったんだろう?
後悔なんて言葉では言い表せないくらい激しい感情の大波。
が、それが去ったときには、歓喜といってもいいほどの温かな何かが、僕の心を満たしていた。
「違う、違うよ、美玖ちゃん。僕は――ミルク・エンジンの秘密を知っても、美玖ちゃんのこと、捨てたりなんかしない。本当だよ」
とにかく、彼女の誤解を解くべく、大慌てで僕は言った。
「し……信じられない、よ……」
泣き声混じりに、舞川美玖が言う。
「どうして?」
「だって、せんせえ、美玖のこと、好きっていってくれてないんだもん……」
――僕は、バカだ。
この銀河系始まって以来の大バカ野郎だ。
こういうことで、女の子を泣かすようなバカが、この宇宙に存在していいのだろうか?
「ごめん、美玖ちゃん……今更だけど……こんな時だけど、言うよ」
「……」
「好きだよ、美玖ちゃん。大好きだ。愛してる。信じてもらえないかもしれない、だけど――」
「先生の、バカ……」
ああ、そうだ。彼女は正しい。僕は、本当にバカだ。
「信じるに決まってるでしょ……美玖だって、先生のこと、大好きなんだから……」
そう言って、彼女は、僕の胸を殴るのを止め、その細い腕で一生懸命にしがみついてきた。
僕も、彼女の小さな体を抱き締め返す。
なぜ、この温もりを忘れていたのだろう?
ようやく、大事な何かを取り戻したという、安堵感に似た思いに、胸が痛いくらいに熱くなる。
そして僕は、不覚にもこぼしてしまった涙を、彼女に気付かれないように、こっそりとぬぐったのだった。
そして、僕たちは、シャワーを浴びた。
2人して、子供に戻ったように、互いの体を洗い合う。いや、美玖ちゃんは、実際に子供なんだけど。
と、体を包む白い泡をお湯で流しているときに、彼女が、妙な顔をした。
「どうしたの?」
「え、えっとね……おしっこ……」
消え入りそうな小さな声で、美玖ちゃんが言う。
「いいよ、ここでしちゃいなよ」
僕は、軽く笑って、そんなことを言った。
「え、でも……」
「ほら、ガマンは体によくないよ」
「先生の、イジワル……」
少女らしくない、媚を含んだ声で、美玖ちゃんが抗議する。
そして彼女は、軽く僕をにらんでから、その場に座り込もうとした。
「ダメ。ほら、立ったままして」
そう言いながら、美玖ちゃんの小さな体を後から抱きかかえる。
「や、やン! 恥ずかしいよォ」
「ほら、しーしーしてごらん……」
くすくすと笑いながら、彼女の耳に、まるで幼女に言うような言葉を囁きかける。
「せ、せんせえ、ヘンタイっぽいよォ……」
そう言ってから、美玖ちゃんは、はあぁン、とすごく色っぽい溜息をついた。
そして、軽く目を閉じ、脚を肩幅くらいに開く。
「あっ、ヤダ……あんまり、見ないで……」
ひくん、という彼女のおののきが、腕に伝わった。
その柔らかな頬が、赤く染まる。
ちょろっ、と最初のしずくが、床のタイルに滴った。
「あ、ああン……出ちゃうゥ……」
ちょろ、ちょろ、ちょろろろろろ……
最初は、何度か途中で止まっていた透明に近い黄色の液体が、ゆるい放物線を描きだす。
「あああぁぁぁ……出てる、出てるゥ……」
すでに開いてしまった尿道から溢れ出る小水が、音をたてて床で飛び散り、シャワーの温水と混じり合って排水溝に吸い込まれていく。
羞恥と、それ以外の何かに、彼女は顔を赤く染め、はぁはぁと小さく喘ぎ始めた。
「あ、ああン……と、とまんない、とまんないよォ……」
長々と続く排泄に、美玖ちゃんは、濡れた声をあげる。
間違いない。彼女は、排尿する姿を僕に見られ、欲情してしまっているのだ。
ちょろっ、ちょろっ、ちょろっ、と最後のしずくが床に落ちる。
はぁぁぁぁぁっ、と、美玖ちゃんは、甘い吐息をついた。
そして、その軽い体重を、背後の僕に預けてくる。
「感じちゃったんだね、美玖ちゃん」
僕の言葉に、こくん、と彼女は肯く。
「あたし……おトイレするだけで、エッチな気分になっちゃうの。先生の……先生の、せいなんだから……♪」
そして、まだ舌足らずな甘たるい声で、僕をなじる。
「美玖、ヘンタイさんになっちゃった……」
「いっしょに、仲良く変態さんだね」
僕の言葉に、くすっ、と美玖ちゃんは笑う。
「可愛いよ、美玖ちゃん」
ちゅ、とその小さな耳たぶにキスをして、そう囁いた。
そして、彼女自身のおしっこと、それ以外の体液で濡れてしまった脚の内側を、シャワーのお湯で流してあげる。
美玖ちゃんは、されるがままだ。
そして僕は、柔らかなタオルで彼女の体を拭いて、ひょい、と抱えあげた。
いわゆる、“お姫様だっこ”というやつだ。この地球の文化圏の王族は、妙な風習を持っている。
美玖ちゃんは、まるで猫のように、僕の胸に頬をすり寄せてくる。
そして僕は、彼女の可憐な体を、寝室にまで運んでいった。
《アイキャッチ》
《CM》
《アイキャッチ》
ベッドに横たえ、軽く肌を撫でるだけで、美玖ちゃんのアソコは早くも潤みはじめた。
くちゅくちゅと音が出るほどに濡れたクレヴァスを、指で弄ぶ。
ぷにぷにしたその柔らかな感触が、とても気持ちイイ。
「ああン……せんせえ、きもちイイよォ……」
並んで横たわり、股間にイタズラを続ける僕の首に腕を回しながら、美玖ちゃんがそう言う。
「どこがきもちイイの?」
「うぅン……オ、オマンコ……オマンコきもちイイの……」
羞恥に頬を染めながらも、素直に、卑猥な言葉を可憐な唇で紡ぐ。
僕は、桜色のその唇に、ご褒美とばかりにキスを繰り返した。
ちゅ、ちゅ、という音が、ちょっと気恥ずかしい。
だからというわけじゃないけど、僕たちは、ほどなく“大人のキス”に移行した。
イヤらしく舌を絡ませ合い、互いの唇を吸い合う。
美玖ちゃんの唾液は、なぜか、甘く感じられた。
「ん、んく……うン……んむ……ぷはっ……」
ねっとりとした唾液の糸を引きながら、唇を離す。
そして僕は、美玖ちゃんの愛液で濡れた指先で、大きなおっぱいの先端の乳首をいじりはじめた。
「あ、ああン……ひゃ、ああッ……せんせえ……おっぱいイイ……イイよお……♪」
ふるふると震えるたわわな乳房の頂点で、ピンク色の乳首が尖っていく。
僕は、魅惑的な2つの膨らみを両手でやわやわと揉みながら、勃起した乳首を交互に吸った。
そして、滑らかなそのミルク色の肌に頬擦りする。
「きゃうン……んふふっ、先生、赤ちゃんみたい……」
そう言いながら、美玖ちゃんは、僕の髪を撫でた。
そのことにすら、ぞくぞくすような快感を感じ、脳が痺れてしまう。
僕は、夢中になって美玖ちゃんの巨乳に舌を這わせ、甘く歯を立てた。
「あッ、ああン……イイ、イイのぉ……っ♪ 美玖、おっぱいだけでイっちゃいそう……」
執拗な胸への攻撃に、美玖ちゃんがそんな声をあげる。
僕は、上体を起こし、いきり立ったペニスをクレヴァスにあてがった。
僕のペニスは、先ほどさんざんに使い込んだせいで、ちょっとヒリついている。たぶん、美玖ちゃんもそうだろう。
「だいじょぶ? アソコ、痛くない?」
訊くと、美玖ちゃんは、にこりと笑った。
「ちょっと、ヒリヒリしてるけど……でも、入れてほしいの……」
「うん」
肯いて、僕は、腰を進ませた。
柔らかで、そしてきつい締め付けが、僕のペニスを包む。
「ああぁ……あン……あぁン……」
眉を寄せながら、美玖ちゃんが、艶っぽい喘ぎを漏らす。
ゆっくり、ゆっくり、彼女の体内に入っていくペニス。
それは、根元まで、その小さな体に収まった。
「ん、んふ……ふゎぁ……ぜ、全部はいった?」
その問いに肯いて見せると、美玖ちゃんは、どこか誇らしげな顔になった。
「せんせえ……かんじて……あたしのオマンコの中、先生のオチンチン全体で、うんと感じてェ……」
僕は、答える代わりにキスをして、そして腰を使い出した。
互いの粘膜をいたわるような、ゆっくりと優しい抽送。
でも、美玖ちゃんの肉襞は、きゅんきゅんと僕のペニスを締め上げ、確実に射精へと導こうとする。
「きもちイイ……いいよ、美玖ちゃん……」
「ウン……美玖も、イイの……ああン……せ、せんせいのオチンチン、奥まで感じるゥ……っ♪」
可愛らしい声で、卑猥な言葉を紡ぎながら、美玖ちゃんは白い体をうねらせる。
その体の、唇が届くいたるところにキスの雨を降らせながら、僕は、腰を動かした。
腰が蕩けてしまいそうな官能。
暴風のような陵辱では味わえない、ねっとりとまとわりつくような粘液質の快感が、腰から全身まで包み込んでいく。
それは、美玖ちゃんも同じようだ。
「せんせえ……せんせえェ……」
互いの肌がこすれ合う感触すら、あまりにも甘美だ。
性器だけでなく、体全体で、セックスの快楽を貪りあう。
いつしか、僕の体内で、後戻りできないほどに射精への欲求が高まってきた。
「ああッ、あッ、あッ……せんせえのオチンチン、中でぴくぴくしてるよォ」
その兆しを感じ取った美玖ちゃんが、嬉しげな声をあげた。
「ね、出してえ、美玖のオマンコの中に、熱いミルク、うんとだしてェ……」
そして、全身で僕に抱きついて、おねだりをする。
ペニスをぴったりと包む膣肉までが、ざわざわとざわめき、精液を搾り出そうとしているのだ。
「ほしい、ほしいの……ミルクほしいィ……美玖、せんせえのミルクでイキたいよォ……っ!」
そんな、あどけなくもはしたない言葉に、僕は、次々と神経が灼き切れていくような錯覚を覚えていた。
「み、美玖ちゃん……出る、出るよ……っ!」
我ながら、かなり情け無い声をあげながら、僕は、渦巻く白濁色の欲望を解放した。
「あっ! あン! あン! あア! あッ! ああアーっ!」
ぶびゅっ! びゅる! びゅびゅびゅっ! びゅううーっ!
こんなに残っていたのか、と感心するほどの大量のスペルマが、すごい勢いで美玖ちゃんの幼い子宮めがけ迸る。
まるで、全身がドロドロに解け、そのまま彼女の体内に吸い込まれてしまいそうな射精。
「あああン! ミルク! ミルクぅ! せ、せんせえのミルクでイっちゃうぅーっ♪」
僕の放った精液の弾丸を体内で受け止め、美玖ちゃんは絶頂への階段を駆け上った。
「あっ! あああ! あ、ああァー……っ!」
ひくん、ひくん、と互いをきつく抱きあったまま、僕たちは痙攣した。
そして、すとん、と、ほとんど同時に、眠りに落ち込んでいく。
それは、夢さえも溶け合ってしまいそうな、とても幸せな眠りだった。
久しぶりに、美玖ちゃんを外に連れ出した。
明るい冬の青空の下、街は、なぜか緑と赤と白に飾り付けされている。
「うわぁっ、外は、もうクリスマスなんだァ」
その美玖ちゃんの言葉に、ちくりと胸が痛んだ。
と、そんな僕に、美玖ちゃんが振り返る。
「先生、気にしちゃった?」
「あ……うん」
バツが悪そうな顔をしているであろう僕に、美玖ちゃんは、複雑な笑顔を向けた。
どこかイタズラっぽいような、それでいて、僕のことを気遣っているような、不思議な表情。
「先生って、なんか可愛い」
「え?」
「でもね、気にしなくていいんだよ。だって美玖、先生のドレイでしょ?」
辺りをはばからず、あどけない声でそんなことを言う。
「だから、美玖に、どんなコトしたっていいんだよ……ドレイって、そういうことでしょ?」
「う、うん……」
肯くことしかできない僕に、美玖ちゃんは、今度は満面の微笑みを見せる。
「さ、早く行こ! 時間ないんでしょ?」
そう言って、駅を目指して走り出す。
僕は、慌てて彼女を追いかけた。
「パパ……美玖です」
あのクレーターの底にある野原の片隅で、美玖ちゃんは、声に出して言った。
例の、剥き出しになった円形の岩に向かって。
美玖ちゃんの胸のペンダントが、一瞬光る。
ほどなくして、ビュウウウウウゥゥゥ……ン、という、虫の羽音のような音が響く。
そして、高熱で融けたように滑らかだったその表面に、ぽっかりと穴が開いた。直径1メートルくらいの竪穴だ。
「これが、ミルク・エンジンへの入口なの」
驚いている僕に、美玖ちゃんが説明する。
「神社の、ほこらの下に埋まってたのをパパが見つけたときは、開いてたんだって。でもね、その時は、ミルク・エンジンは眠ってたの」
そう言って、美玖ちゃんは、恐れ気もなく、その穴の中に身を躍らせた。
「あ……!」
僕は、思わず声をあげてしまう。
ふわりと、まるで羽毛が落ちるような速度で、美玖ちゃんの体が穴の底に吸い込まれていく。
僕は、慌ててその後を追った。
おっかなびっくりで、穴の縁から、下に向かって飛び降りる。
そこは、直径10メートルはあろうかという、球形の空間だった。
その天井から、美玖ちゃんと僕は、ゆっくりと床に落ちている。
壁は、宇宙の闇そのままに漆黒で、その表面に、ちかちかと小さな光が明滅していた。
まるで、星のよう……いや、これは、この地球から見た各恒星の位置を示しているらしい。ほのかに光る帯状の模様は、銀河系――つまり天の川だ。
そして、空間の中心には、白く柔らかに輝く、不思議な球体が浮かんでいる。
直径は、2メートルほどだろうか? 材質はよく分からないけど、その表面はなんだか微妙に波打っているようでもあった。重力から解き放たれた液体が、そこにわだかまっているように見える。
「あれが、ミルク・エンジンなの」
ようやく床に着いた僕に、一足先に着地していた美玖ちゃんが言う。
「あの時……空から、宇宙船が落っこちてきたときね、美玖とパパは、この中にいたの」
「な、なんだって?」
僕は、思わず叫び声を上げた。
「すごい音がして、ムチャクチャに揺れて……この中も、どんどん熱くなって、もう死んじゃうんだって思った。その時、パパが、あたしにペンダントを渡して――それで、ミルク・エンジンが動いて――あたしだけ、家にテレポートできたんだ」
「……」
「パパは、ダメだった。その時は、ミルク・エンジンにどうやって話しかければいいかわからなかったから……」
「そう……」
「美玖が、ここに戻ってきたのは、一月以上たってからだったの。パパが持ち込んだ機械とかは、みんな黒焦げになってて……」
言われてみると、歪曲した床のあちこちに、何かの残骸が転がっていた。
想像できないほどの高熱で融け崩れたのだろう。もはや原形を推測することすら難しい。
無理もない。墜落した宇宙船の負質量ドライブが、あのクレーターの中央で暴走し、爆発したのだ。ミルク・エンジン本体は無事でも、この空間はまさに灼熱地獄と化しただろう。
「でね、パパの体は、どこにも残ってなかったの」
美玖ちゃんの声が、細かく震えている。
僕は、その小さな体を、背中からぎゅっと抱き締めた。
「パパは……ずっとずっと、ミルク・エンジンのナゾを解きたがってた。あたしが生まれる前から……ママと会う前から、ずっと。まだパパが子供だったときに、ほこらの下にある洞くつを探検して、ミルク・エンジンを見つけたときから、ずうっとだって」
「……」
「先生なら、パパのしていたこと、分かる? パパが解こうとしていたナゾを、解くことができるかな?」
美玖ちゃんは、僕の腕の中で振り返って、僕の顔を見つめながら、言った。
「――努力するよ」
そう答えて、床に膝をつき、懐から解析機を取り出す。
床の、ちょうど一番底。ミルク・エンジンの真下に、例の、銀河古代語の羅列があった。
表面に刻まれていたのと同じような、螺旋状の文様だ。複雑怪奇な文法で書かれたそれを、僕は、解析機で解読し始めた。
すでに、表面に書かれていた文様の解析は済んでいる。そのデータを応用し、まるで複雑な数列か方程式でも解くように、僕は、半ば暗号化された文字列を解読していった。
頭上のミルク・エンジンが、まるで月のように、そんな僕と美玖ちゃんを照らしている。
と、解析機が、このミルク・エンジンのマニュアルにアクセスする信号をはじき出した。
超古代の遺跡の、取扱説明書――。
僕は、ちょっと苦笑いしながら、解析機が示すとおりに、床の文様にタッチしていった。
僕が触れた文字が、少し遅れて、ぽおっ、ぽおっ、と光り始める。
「あ、これ、見たことある……いつかパパがしてたよ!」
そうか。舞川蔵人は、自力でこの文様を解読していたのか。
おそらく、気の遠くなるほどの時間をかけたのだろうが、それでもただ者ではない。
最後の文様にタッチしたとき、淡い光で形作られたホログラフが浮かび上がった。
僕たちの言語に合わせて、この地球の公用語と、この文化圏の言語で表示された、立体映像の文章。
「うわ、英語と……日本語……? むずかしい字ばっかり」
僕の傍らで、美玖ちゃんが言う。
柔らかな白色の文字で表示されたそれは、このミルク・エンジンの真の機能を説明していた。
しばし、それを読みふける。
「銀河駆動機関……“Milky-Way Drive Engine”?」
表示された文字を見て、再び口元に笑みが浮かんでしまう。
「すごい翻訳だなあ。この場合、“Milky-Way”じゃなくて“Galaxy”だと思うんだけど」
「なになに、どういうこと?」
「美玖ちゃん、ミルク・エンジンはね、その名前どおり、宇宙船を動かすエンジンだったんだよ」
「えんじん……?」
「ああ。人のイメージを具現化する力は、ただ、星を渡るためだけに導かれたんだ。敵を倒すためでもなく、人を支配するためでもなく、ただただ、この広い銀河を超光速で移動するためのシステムだったんだよ」
現代の銀河帝国が用いている超光速移動方法は、星間トンネルを利用したものだ。この方法は、あらかじめ設置されたゲートとゲートの間だけを、光の速さを超えて移動するというもので、ワームホールと量子結合を応用している。
もちろん、それだって銀河帝国の最先端技術なのだが、いかんせんゲートを準備するためには、まずは目的地に通常空間を通って移動しなくてはならないのだ。
けど、ミルク・エンジンは、その周囲にエーテル宇宙を展開させることによって、光速度一定法則を無視することができる。この宇宙の“絶対”である光の速度をその地位から引きずり下ろし、ミルク・エンジンとリンクした“操縦者”の意志を新たな“絶対”とするのだ。それによって、全く何の制約もなしに、無限の速度を得ることができるわけだ。
それは、新たな星を冒険するためだったのかもしれないし、宇宙の神秘を覗くためだったかもしれない。もしかしたら、この銀河のどこかにいるはずの、まだ見ぬ異星の友人を訪ねるためだったのかもしれない。
何にせよ、前銀河帝国の人々は、争うことをしなかった。想いをカタチにすることができるようになった人たちには、他人と争う理由がなかったのだろう。
それが、どうして、滅びてしまったのかは、不思議だけど……。
「よく、わかんないよォ」
僕の説明は、しかし、美玖ちゃんにはピンとこなかったようだ。
「だいじょうぶ。あとで、きちんと教えてあげるよ」
「うんと勉強しないとわかんない?」
「たぶんね」
そう言って、僕は、さらに先を読み進めた。
そして、ある一文を読んで、愕然とする。
いや、これは、しかし、予想の範囲だったことだ。でも、事実として突きつけられることの衝撃は、予想以上だった。
「ど、どうしたの……?」
僕のただならぬ様子に、美玖ちゃんが訊いてくる。
「……お、落ち着いて訊いてね、美玖ちゃん」
僕は、ちょっと震える声で、言った。
「美玖ちゃんは、このミルク・エンジンの“操縦者”に選ばれてる」
「うん」
「それでね、ミルク・エンジンに、“操縦者”として登録されると――その登録を抹消することはできないんだ」
「まっしょう?」
「美玖ちゃんは、一生、このミルク・エンジンの“操縦者”でいなきゃならないってことだよ」
「ふーん、そうなんだ」
こともなげに、美玖ちゃんは言った。
「別にいいじゃない」
「そ、それだけじゃないんだ! ミルク・エンジンの“操縦者”になれるのは、1人だけ――瑠実さんがミルク・エンジンの力を導けたのは、美玖ちゃんを通じてでしかないんだ。それも、精神パターンが酷似していたから、どうにかできたことだったんだよ! だから、瑠実さんの力は部分的なものでしかなかったんだ」
「よ、よくわからないけど……美玖だけが、ミルク・エンジンをきちんと使えるってこと?」
「そうだよ。確かに、複数の人間の空想を具現化するなんてことは、不可能だ。予想はしていたことなんだけど……」
「それで、なんで困ってるの?」
「だから!」
僕は、我知らず大声になっていた。
「あの、システム・クラッシャーと戦うためには、美玖ちゃんが戦場に出なきゃいけないってことなんだよ!」
「あたりまえじゃない、そんなこと」
しれっとした顔で、美玖ちゃんは言う。
「なに? もしかして、先生1人で行くつもりだったの?」
「当然だろ! そうじゃなきゃ、わざわざミルク・エンジンの解析なんかしないよ! 美玖ちゃんを危険なメに遭わせたくないから、僕が――」
「先生」
怒ったような声で、美玖ちゃんは僕の言葉を遮った。
「気持はうれしいけど、そんなの、ダメだよ」
「ダ、ダメって……」
「地球を守るのは、あたしの役目……先生が手伝ってくれるのなら、うれしいけど、先生だけが戦うなんて、ぜったいにダメだよ」
「……」
「だって――だってあたしは、万能無敵の、ミルク・エンジェルなんだから」
そう、美玖ちゃんは、幼い体に不釣合いに大きな胸を張って、僕に言ったのだった。
《エンディング・テーマ》
『白い天使のうた』
《次回予告》
我が名は“竜機士”ミヒロー大佐。
再びお前とあいまみえるために、あの屈辱を雪ぐために、
ミルク・エンジェルよ、私は還ってきた!
私は、銀河帝国の栄光のために、この星系を灰塵となす。
もし、万能無敵と奢るお前が立ち塞がろうとも、私の歩みを止めることはできない!
次回、『決戦! 万能無敵』。いよいよ最終回である!
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