万能無敵
ミルク・エンジェル



第7話
『失踪! 人造人間』





 帰宅は、真夜中になった。
 いや、帰宅という言葉は適当じゃない。ここはあくまで銀河帝国による地球侵略のための秘密基地。僕の家でもなんでもないのだ。
 まあ、僕には、もう帰るべき家というのは無いのかもしれないけど……。
 それはともかく――僕の、基地への帰還は、真夜中になった。
 路地裏に隠されたドアを開け、狭い階段を降りながら、今まさに昨日になりつつある1日にあったことに思いを馳せる。
 オーグルトの言葉や行動の意味、竜機兵とミルク・エンジェルの戦い、そして、舞川美玖のこと……。
 とにかく、オーグルトの奴には、一言文句を言ってやらなくてはならない。
 奴のしたことは、侵略活動を監視報告するのが役割の査察官に許された行為から、大きく逸脱している。上にばれたらよくて謹慎、悪ければ降格処分だ。
 それに、このことを逆手にとって、オーグルトに対するイニシアチブを取りたいという気持ちもある。
 僕は、いささか乱暴に、作戦室のドアを開けた。
「おーう、レニウス、遅かなあ」
 オーグルトが、いつもの調子で、僕を出迎える。
 僕は、口を開け、なにか言いかけた姿勢のまま、硬直してしまった。
「何やそのアホ面はぁ」
 揶揄するようにそう言うオーグルトには、四肢が――いや、それどころか胴体すらなかった。
 部屋の中央にある大テーブルの上に、ちょこん、とまるで何か悪趣味な冗談のように乗っかっている生首。
 それが、僕の悪友であるオーグルトの声で、げたげたといささか下品な声で笑ってる。
 情けないことに、ぐらりとよろめいた僕の体を、慌てて近付いてきたココナが支えてくれた。



《オープニング・テーマ》
『飛びこえてミルキー・ウェイ』



「いやー、コクピットの緊急消火装置がイカれててのう」
 変わり果てた姿のオーグルトは、どこか突き抜けたような笑みをその顔に浮かべながら、僕に言った。
「体ン中の配線を直接竜機兵に接続しとったのがアカンかった。人工内臓にまで引火してな。そいで、この体たらくじゃ」
 そう言いながら、オーグルトは、首の切断面からひゅるひゅると触手状の器官を出して、頭を掻いた。はっきり言って、メチャクチャに気色悪い。
「はい、マスター、水です」
 ココナが、気を利かせて、僕に水の入ったコップを差し出す。
「――お前、どうするんだよ? これから、そんな格好でさ」
 僕は、その冷たい水の半分くらいをあおってから、訊いた。もはや、怒る気力なんてとっくに消えうせている。
「どうもこうも、これじゃ何もでけんしのう」
 そう言いながら、オーグルトは、何本かの触手をまろび出して、頭足類のようにテーブルの上を這い回った。僕の隣のココナが眉をしかめ、口元をこわばらせる。
「こうやってちょっと歩くだけでもなまらこわいわい」
「自業自得だ」
 僕は、冷たい、と言うよりいささか疲れた口調で言った。
「言っておくけど、ここにはサイバーウェアの予備なんて無いぞ。本星に帰るまでおとなしくしてるんだな」
「それがよかなあ」
 オーグルトが、意外なほどの聞き分けのよさを見せる。てっきり、ありあわせの部品でいいから体を手配しろ、くらいは言うと思ったのに。
「とにかく、あのミルクなんちゃらゆうんは、でったんすげえシロモノじゃ。あんなんにかかわっとったら命が幾つあっても足りんぜよ――っととととと!」
 僕は、テーブルの端から落っこちそうになったオーグルトの頭を、間一髪で掴みあげた。
「あでででで、も、もっと優しゅう扱わんか!」
 そんな言葉を無視して、そのままオーグルトの部屋に放りこむ。
 ドアを閉じ、僕は、ふかぶかとため息をついた。
「で、あいつ、どうやって帰ってきたの?」
 そして、ココナの方に向き直って、訊く。
「脱出機が、近くの空き地に墜落したんです」
 ココナが、困ったような笑顔を浮かべながら、言った。
「そこから、あの状態で、ここまで自力で帰ってきたみたいなんですよ。目撃者の有無は分かりません」
「相変わらずだなあ……まあ、ここの場所さえ見つからなきゃいいけどさ」
 そう言って、僕は大きなあくびをした。
「ところで、マスターの方はどうだったんですか?」
「……彼女、僕の前で変身して見せたよ」
 オーグルトに聞こえないよう、声を潜めて、僕は言った。
「そ、そう、ですか」
 いささか驚いた顔で、ココナが言う。
「ミルク・エンジンの固有次元波動も、検出できたと思う。あとで分析しておいて」
 そう言いながら、僕は、ジャケットの内ポケットから銀色の小さな箱を取り出し、ココナに渡した。周辺空間における位相や力場の異常を観測し、記録する機械装置である。
「あのー……マスター?」
 ココナが、何かをためらっているような口調で、言ってくる。
「ごめん、ちょっと疲れてるんだ。明日に聞くよ」
 そう言って、僕は、自分の部屋のドアを開けた。実際、ものすごく眠かったのだ。
「はい――おやすみなさい、マスター」
 ココナのちょっと寂しそうな声を背中で聞きながら、僕は、ドアを閉めた。



「おらあ、レニウス、起きんかい!」
 無遠慮な声と、鳩尾辺りで何かが跳ねまわる重苦しさに、僕は強制的に目を覚まされた。
 見ると、毛布を被った僕の腹の上で、生首状態のオーグルトが、ぽんぽんと跳ねている。
「だああっ!」
 僕は右手で乱暴に奴を払いのけた。この、なんともおぞましい目覚め方に、全身に鳥肌が立っている。
「なんばしょっと! こン大うつけがあ!」
 一度壁にバウンドしてから床に落っこちた頭部のみのオーグルトが、抗議の声をあげる。まあ、それなりにこいつにも言い分はあるのだろうが、今の僕にはそれを気遣うような余裕がない。
「ななななな、何なんだよ、いったい!」
「あの別嬪メイドがいなくなっとよ」
 衝撃でずれた眼帯を触手で直しながら、オーグルトが言う。
「何だってえ?」
 僕は、思わず大声でそう言ってから、枕もとの時計の表示を確認した。現地時間で、昼前になっている。
「言うた通りや。オイが起きたらあんココナっちゅうロボット娘がおらんさかい、きさんを起こしに来てやったんじゃ」
「……」
「ちいっと、ほっとき過ぎだったんとちゃうか?」
 にやにやとその顔にイヤらしい笑みを浮かべて、オーグルトは言った。
「お、大きなお世話だ」
「きさん、ガキの頃から気が多すぎっとよ。そんくせ、適当にあしらうこともでけんときちょる。そんなんじゃ幾つ体があっても足らんぜよ」
「知った風な口をきくな!」
 僕は言いながら、手早く着替えた。そして、手がかりになりそうなものを探す。
 部屋には、書置きも何もなかった。けど、メイド服はそのままで、耳や尻尾を隠すための大き目の帽子やコートなんかが洋服掛けから消えている。どうやら自分の意思で外出したことは確からしい。
「そんなに慌てんなら首に鎖でも付けときゃよかったっしょや」
「慌ててなんかないよ」
 そう言いながら、僕は、外出の準備を整えた。最近めっきり冷たくなった風に備えて、厚手のジャケットを羽織る。
「たぶん、報告の聞き漏らしか、スケジュール把握のミスだ。とりあえずそこらへんを探してくるから、適当にやっといてくれ」
「オイをこん基地に一人で残してよかと?」
 オーグルトが、意味ありげな声音で訊いた。
「お前、査察官だろ。家捜ししたけりゃ遠慮なくしろよ。別にやましいことなんてない」
 そう言ってから、僕はオーグルトに向き直った。
「けど、機械を壊したりするなよ」
「無論じゃ」
 そう答えるオーグルトを後にして、僕は、いささか早足で出かけたのだった。



 基地のシステムに保存しているデータは、何重にもプロテクトされているので、オーグルトを置いてきたことについては特に心配はしていなかった。
 それよりも、ココナのことだ。
 探すあてなんて、なかった。
 ただ、彼女がなんで出ていったのか、それを考えながら、さまようように街を歩く。
 不思議なもので、こうやって思い返すと、自分の些細な言動が、彼女を傷つけたんじゃないか、という気持ちになってきた。
 何しろ、彼女はフタナリで、キツネミミで、その上アンドロイドなのだ。普通でなさのてんこもりである。
 そのことに、どんなふうなコンプレックスを抱いていたのか……。
 なのに、そんな彼女に対し、僕は、ちょっと無神経過ぎたのかもしれない。
 舞川美玖や、舞川瑠実のことだってある。知らないうちに、深刻に嫌われてしまったということだって、考えられる。
 焦燥感が、ちりちりと胸の奥を焼いた。
 ふと、僕は、この前に寝床をともにしたときに見せた、ココナの辛そうな、切なそうな表情を思い起こした。
 八の字に眉を寄せ、大きな吊り目に珠のような涙を浮かべながら、指を噛んでいた彼女の上気した顔……。
 僕は、立ち止まり、青い空を見上げながら、嘆息した。
 股間のモノが、ちょっと、のっぴきならない状態になってしまったのである。

 というわけで、やや緊急避難的に電車に乗り、気ままに駅で降りた。
 そのまま、人通りのほとんどない通りを歩いていく。
 幾つかの通行止めの表示を無視して無人の街並みを歩いていくと、巨大なクレーターのふちに出た。
 まるで、川べりのような土手が、ぐるっと円形に、すり鉢状の窪地を囲んでいる。その直径、およそ10キロメートル。中央には、小さな水溜りができている。長い年月が経てば、ここはそのまま湖になってしまうかもしれない。
 無意識のうちに、ここに足を運んでしまった……。
 3年前、銀河帝国の使節船が墜落し、爆発した跡だ。
 使節船は、地球の原住民に撃墜されたことになっている。少なくとも、銀河帝国での記録上は。
「兄さん……」
 僕は、僕を孤児という境遇から救い出してくれた異母兄のことを思い出し、思わず呟いていた。
 チェズ兄さん。庶子ということで、10歳のときに半ば強制的に孤児院に入れられてしまった僕を、DDD家に呼び戻してくれた恩人。
 幼い頃から、常に僕をかばい続け、必ず僕を救い出すと約束し、そしてDDD家の当主になるやいなや、それを実行してくれた人。
 ここは、そのチェズ兄さんが死んだ場所だ。
 僕は、兄さんの死の謎を解くために、ミヒロー大佐の後任としてこの地球に派遣されることを志願したのである。
「ミルク・エンジェル……」
 この地球で、銀河帝国の宇宙船を撃墜するだけの力を有する存在といったら、それしか思いつかない。
 最初は、そうかもしれないと考えた。
 けど、今は、そうは思わない。舞川美玖は、何十万人の地球人の命もろとも、使節船を撃墜するような、そんなことをするようなコじゃない。そもそも、その時の爆発に巻き込まれて、彼女の父親、舞川蔵人は亡くなっているのだ。
 この地球の記録でも、使節船は、勝手にここに墜落したことになっている。と言うか、そもそも原住民達は、墜落したのが宇宙船だったなんて思っていないらしい。
「と、なると――」
 使節船は、銀河帝国側の誰かの手によって、落とされたのではないか?
 背後に、巨大な陰謀の影がある。
 チェズ兄さんが死んだことで、DDD家の当主の座は、叔父の手に移ってしまった。が、あの陰険ではあるが小心者の叔父が、そんな大それたことを独力でやりとげるとは思えない。
「マスター?」
 と、いきなり、横から声をかけられた。
「ココナっ!」
 きょとんとした顔の彼女が、同じ土手の上に立って僕を見ている。
「な、なんで黙って出てったんだよ! 心配したんだぞ!」
 僕は、そのキツネ耳を隠している帽子を弾き飛ばしかねないような勢いで、ココナの両肩を掴んだ。
「え、な、なんですか?」
「もしかして、アレのこと気にしてたのか? そんなの、僕は全然構わないし、それに、普段はしまっててくれてるし……!」
「あ、あの、ちょっと待ってくださぁい!」
 顔を真っ赤にしながら、ココナが大きな声をあげる。そこで、ようやく僕は少しだけ冷静になった。
「えーっと、いったい、どういう……何で、マスターってば、こんなトコに来てるんですか?」
「君を探しに決まってるだろ!」
 その、僕の切羽詰った調子の言葉に、ココナはその吊り目を見開き、そうしてから悪戯っぽく笑った。
「あたしのコト、気にしてくださったんですか?」
「当たり前じゃないか! だって、何も言わないでいなくなるから……!」
 再びヒートアップする僕とは対照的に、ココナは、くすくすと可笑しそうに笑い出す。
「マスター、オーグルトさんにからかわれたんですよォ」
「――え?」
 僕は、ぽかん、と馬鹿のように口を開けてしまった。
「あたし、きちんとオーグルトさんに言づてしましたもん。これから調査活動のために外に出ますって」
「だって、あいつ、そんなことちっとも……」
 言いながらも、僕は、オーグルトの意味ありげなニヤニヤ笑いを思い出した。
「そ、それに、どうして直接僕に言わなかったんだよ?」
「マスター、ぐっすりと眠ってて、起こすの可哀想だったし」
 そう言いながら、ココナは、僕の背中に、その細い腕を回してきた。
 着衣の上からでも分かる豊かな胸の膨らみが、ぴと、と僕の体に押しつけられる。
「ありがとうございます、マスター……そんなに、真剣になってくれて……」
「う……」
 僕は、言葉に詰まった。もはや言い訳の通用するような状況じゃない。
 それに、ココナのことが、物凄く心配だったのは事実なのだ。
 僕は、ココナの細い体を、ぎゅっと抱き締めた。
「ココナ……僕、君にまだ話してないことがあるよね」
「はい?」
「僕の、本当の目的を」
「それは……でも、もし教えてくださらなくても、あたしはマスターの味方ですよ」
「いや、きちんと話したいんだ、君に」
 そう言って、僕は、チェズ兄さんとの少年時代の思い出から、話し始めた。
 もはや帰らない、金色の宝物のような日々。
 それを、ココナの電子頭脳にも記憶していて欲しいと、僕は、なぜか思ったのだった。



《アイキャッチ》


《CM》



《アイキャッチ》



「それが、マスターの真の目的なんですか? その時の真実を知るという、そのことが」
 ココナの問いに、僕は肯いた。
「ああ。ことによったら、帝国軍を……それどころか、銀河帝国そのものを敵に回すかもしれない。それくらいの陰謀があったはずなんだ」
 そう言いながら、僕は、クレーターに視線を移した。
 一体どれだけの人が、ここにかつてあった街で、平和に暮らしていたんだろう。
 チェズ兄さんを燃やしたのと同じ炎は、どれほどの人々を焼き尽くしてしまったのだろう。
 僕は侵略官だし、義憤を感じる資格なんてない。それでも、真相を闇に葬るわけにはいかないという、使命感に似た思いを、今は感じていた。
「マスター……」
 ココナは、静かな口調で言った。
「あたし、今日、その鍵を、見つけたと思います」
「え?」
「真相を知るための鍵です」
「えっと、つまり……?」
「ミルク・エンジンは、ここの地下に、眠ってるんです」
 その言葉の意味が、脳に届いた時、僕は、ぶるりと身を震わせてしまった。

 背の高い雑草の生い茂る、クレーターの内側。ココナの後ろについてそこを歩いているうちに、奇妙な場所に出た。
 融けた岩で形作られたような、奇妙な構造物。
 一見すれば、ただの岩塊のようにも見えるそれは、しかし、明らかに意図的に作られたものだった。
 まるで、お皿を引っくり返したような円盤型。直径10メートル、頂きの高さは30センチほどだろうか。
「爆風で、周囲の土が吹き飛ばされて、地上に現れたんだと思います」
 そう言いながら、ココナは、その岩の後ろ側に回りこんだ。
 ついていくと、ある場所で、岩が、ぽこんとへこんでいる。
 膝を着いて観察すると、円形のその凹みには、螺旋状に、奇妙な文様が描かれていた。
「銀河標準語――いや、銀河古代語だ」
 僕は、驚いて言った。
「内部に、熱反応があります。それから、微弱な空間の歪曲や、特異点波動も」
「つまり……」
「恐らくこの中に、ミルク・エンジンはあるんです」
 そう言うココナの、ちょっと震えた声を聞きながら、僕は、じっと文様を凝視した。
「たぶんこれは、ミルク・エンジンを収める部屋の一部が、露出しているんだと思います。もし、この中に入ることができれば、ミルク・エンジンを肉眼で確認することもできるはずです」
「……」
「街の記録では、この場所には、土地神を祭るための宗教施設があったということです。“星名神社”という……。天から飛来した星の神を祭る場所であるといった、という伝承も残っています」
「星の神、ね……」
 それが、いつ頃、どのように成立した伝説なのかは分からないけど……すごく暗示的なことは確かだ。
「……舞川蔵人は、この中に入る方法を知っていたのかな?」
「もしくは、ミルク・エンジンに招かれたのか」
 僕は、そう言うココナに向き直った。
「特殊な信号を送り込むことによって、この中に瞬間移動なり何なりするのかもしれません」
「特殊な信号……何らかの光、電波、または呪文とかかな?」
 僕は、笑いもせずに、言った。
「とにかく、この文様の解読を進めよう」
「はい」
 そう返事をして、ココナは、記録装置に映像を記憶させた。
「――よく見つけてくれたね」
「マスターが入手したミルク・エンジェルの固有波動があってこそです」
 はにかむような口調で、ココナが言う。
「でも……もしよろしければ……特別ボーナスとか、いただけますか?」
 そう言って、ちろ、と上目遣いでこちらを見る。
 その瞳の奥に見え隠れする淫らな期待に、僕は、初心な少年のように耳を熱くさせてしまったのだった。



「ああン……マスター……」
 まだ日は高かったのだが、性行為専門の宿泊施設、という奇妙な場所に、僕とココナは入りこんだ。
 そして、余裕のない恋人同士のように、着衣のままのお互いの体をまさぐる。
 相手を調教し、服従させようという意識なんてない、ごくまっとうな愛撫。それを、誰の目も気にすることなく、ココナに施していく。
 服の上からでも自己を主張している豊かな胸を、やや乱暴に揉みしだくと、ココナは、身をよじりながら甘く悶えた。
「マスター……マスター……っ」
 その瞳からは、いつもの、ちょっと生意気な感じは消えうせている。ただただ、僕に媚び、淫らな刺激を求める色が見られるだけだ。
 そんなココナの顔に、キスを繰り返しながら、一枚一枚、服を脱がせていく。
 そしてココナも、慣れた手つきで、僕の服のボタンを外していった。
 ココナのスレンダーなボディラインが露わになった。
 ほっそりとした体に、アンバランスなくらいの大きな胸。でも、それが、何とも言えない淫らな魅力をかもし出している。
 胸を包む下着を取り去ると、つん、と小粒の乳首が上を向いた、形のいい乳房が現れる。
 その白い双乳をまさぐりながら、ココナの唾液の効果を借りるまでもなくしっかりと勃起した僕のペニスを、彼女の腰に押しつける。
「あ、あン……あ……はぁっ♪」
 ふぁさ、ふぁさ、と尻尾をくねらせるように振りながら、ココナは甘たるい喘ぎを漏らした。
 そして、僕の股間の膨らみに、まだショーツに包まれた恥丘をくにくにと押し付けてくる。
 その、淫らにおねだりをする腰をあやすように、僕は、ショーツの中に右手を潜り込ませた。
 薄目のヘアの感触を楽しんでから、クレヴァスに指をやると、そこはもうじっとりと蜜で濡れている。
 僕は、ココナのショーツを膝上辺りまで下ろしてから、ベッドに押し倒した。
「きゃ、ああン!」
 びっくりした声をあげながら、ぱたあん、と大きなベッドの上に倒れてしまうココナの体に覆い被さる。
 そして、今度は完全にショーツを脱がせてから、再びクレヴァスをまさぐった。
「あ、ひぃン……うっ、ん、んン……マ、マスタぁ……」
 熱い愛液が指を濡らすのを感じながら、可愛らしく喘ぐココナの唇に、キスをする。
「ン……ンむ……んちゅ、ん……ちゅる……んふ、ふぅン……」
 ココナが、僕の舌や唇を柔らかく吸い、口腔に注ぎこまれた唾液を、慎ましやかにすする。
 その整った顔はピンク色に上気し、睫毛が、ふるふると震えていた。
 僕は、指を上に滑らせ、ぬるっ、とクリトリスを包む包皮を剥いた。
「んうッ!」
 ココナが、うっとりと閉じられていた吊り目を見開いた。
 構わず、剥き出しになった肉芽を指で挟み、くにくにと弄ぶ。
「ン! ぷはァっ! だ、だめェ! ダメですうッ!」
 首を振り、僕のキスから逃れたココナが、慌てた声をあげる。
「ソ、ソコ、そんなにイジめられたら……ンっ! あくッ! う、ンいいいっ!」
 ココナが、あの、快楽と苦悶の入り混じったような切ない顔で、喘ぐ。
「どうしたの?」
「だ、だって……あ、あああッ! ダメ! それ、それはっ、ホントにダメですーっ!」
 かくかくと腰を揺らしながら、ココナが訴えた。
 それでも僕は、ムキになったように、執拗にクリトリスを刺激する。
「あッ! きャ! イヤあ! イヤあーっ!」
 ずるうん、と僕の手を押しのけるように、クリトリスが急激に膨張した。
 そのまま、それは青筋を浮かせたペニスとなり、先端からびゅるびゅると透明な液体を漏らす。
「あ、ダメえ……だから、ダメって言ったんですゥ……」
 目に涙を浮かべながら、ココナは僕を睨んだ。
「やっぱり、普段はガマンしてたんだ?」
 そう、口元に笑みを溜めながら訊くと、ココナは、さらに泣きそうな顔になった。
 そんなココナのおでこにキスをしながら、びくびくと熱く脈打つ彼女のペニスを握る。
「ひゃあアっ?」
 ココナが驚きの声をあげるのにも構わず、僕は、そのペニスをくにくにとしごき始めた。
「ダ、ダメです! マスター! そんなの、ダメえ!」
 うろたえたココナが、僕を押しのけようとする。
「あ、こら、おとなしくしなって!」
 ぎゅっ、といささか強く、ペニスを握り締める。
「きゃあああああッ!」
 悲鳴をあげながら、ココナは全身を硬直させた。
 抵抗がなくなったところで、再び、体液で濡れたシャフトににゅるにゅると手を滑らせる。
「ひ、ひはぁ……ダメ、ダメですう……」
 苦痛から再び快感に体を支配され、ココナが喘ぐ。
「遠慮しなくていいよ。自分ので、扱いには慣れてるんだからさ」
 僕は、そんなことを言いながら、手淫を続けた。
「あッ、イヤあ……でも、でもォ……」
「それに、他人にされて、気持ちいいんでしょ? どんどん大きくなってくるし、それに、すごく熱いよ……」
「う、ンあぁア……マスター……ダメえ……ダメですよォ……!」
「ガマン汁を、お漏らししたみたいに漏らして……ココナのペニスは、本当にイヤらしいね」
「あああああああアっ」
 僕に言葉で嬲られ、ココナは、身も世もないような声を上げた。
「マスター、お願いです! ココナを、こんなココナを、嫌わないで下さい……っ!」
 そして、涙をこぼしながら、そう訴えてくる。
 僕は、ココナの涙を、唇でぬぐった。本物そっくりに、塩の味がする。
「嫌うわけないよ、ココナ……」
 僕は、彼女の可愛らしいキツネ耳に、そっと囁いた。
「ホ、ホント、ですか?」
「ああ……だから、安心して、このイヤらしいチンポでイっちゃいなよ」
 そう言って、僕は手淫のペースを速めた。
「あッ! ああッ! ああン!」
 ココナが、体を弓なりに反らし、大きく腰を浮かす。
「ひゃッ! ス、スゴい! スゴいですう! オチンチンが、オチンチンが気持ちイイーっ!」
 そしてココナは、何かのタガが外れたように、そんな言葉を喚き散らした。
 僕は、ココナの柔らかな乳房に舌を這わせ、ちゅうちゅうと乳首を吸引しながら、彼女の勃起をしごき続けた。
 男色のケはないはずなんだけど――あるはずのない器官を弄ぶことで、女のコの体を嬲るこの行為には、間違いなく、倒錯的な悦びがある。
「も、もう、ダメえ! ダメですうッ!」
 と、ココナは、ひときわ高い声をあげた。
「マ、マスター、あたし、もうダメ……出したい……シャセイして、イイですかぁ?」
「いいよ。たっぷり出しなよ……!」
 そう言って、痛みを覚えるであろうほど強くペニスを握り、思い切りしごく。
「う、うれしい……ひッ! ひああ! イク! イクイクイクイクうーッ!」
 ココナは、かくかくと浅ましく腰を動かしながら、大量の精液を迸らせた。
 勢いよく溢れ出た精液は放物線を描いて飛び、ココナ自身の体にぴしゃぴしゃと振りかかる。
 なだらかなお腹や、ふるふると震える豊かな乳房まで、自らの白濁で汚れていくココナ。
 むっとするような精液の匂いに、なぜか、頭がくらくらとしてきた。
「はひ……ひぁ……あ……ああぁー……」
 ココナは、痴呆のような顔で、びゅるびゅると精を漏らし続けた。
 そして、ようやく長い射精が終わり、ぐったりとシーツの上に身を横たえる。
 彼女のほっそりとした体は、まるで何人もの男に浴びせ掛けられた後のように、無残にも白濁液にまみれている。
「いっぱい出したね、ココナ……」
 僕がそう言うと、彼女の顔に、じわじわと羞恥の表情が戻ってきた。
「ほら、こんなに僕の手が汚れちゃったよ」
 そう言って、ココナの精液でどろどろになった右手を、彼女の鼻先に差し出す。
「ああ……マスター、申し訳ありません……」
 そう言って、ココナが、僕の指に舌を這わせ、自らの精液を舐め取っていく。
 この、屈辱的な仕打ちに興奮しているのか、ココナの頬は、羞恥とは違う何かで、ぽおっと染まっていた。
「ん……じゅる……ンうう……ちゅ……んくっ……こくっ、こくっ、こくっ……」
 ココナは、僕の右手を両手で捧げ持つようにしながら、濃度の高そうなゲル状の精液をちゅうちゅうとすすりあげた。
「どんな味だい? ココナ……」
 恍惚とした表情で僕の手を舐めしゃぶる彼女に、ひどく意地悪な気持ちになりながら、僕は訊く。
「ぷぁ……コ、ココナのセイエキ……とっても濃くて……イヤらしい味がします……」
 声をかすかに震わせながら、ココナが答える。
 僕は、いっそう嗜虐的な気持ちになって、愛液と腺液と精液と唾液にまみれた指を、ココナの整った顔になすりつけた。
「ああぁ、マスター、ひどいィ……」
 恨みっぽくそう言いながらも、ココナの声には、媚びるような甘さがある。
「で、イヤらしいココナは、次はどうして欲しいのかな?」
 そう言いながら、僕は上体を起こした。
 僕の股間で上を向きっぱなしになっているペニスに、ココナが、熱っぽい視線を注ぐ。
「マスター……あたし、マスターのが、ほしいです……」
 そして、はぁはぁと喘ぎながら、ココナが言う。
「もっときちんと、分かりやすくおねだりして」
 内心のたぎるような気持ちを押し隠しながら、僕は催促する。
 ココナは、ちょっと唇を噛んでから、体を起こし、四つん這いになった。
 そして、広いベッドの上で、僕のほうにお尻を向ける。
「ここに……ココナのオマンコに、マスターのオチンチン、入れてください……」
 そう言いながら、ココナは、両手を後ろに回し、自らお尻を割り開いた。
 ぱっくりと割れ、とろとろと愛液を溢れさせるクレヴァスを見せつけられ、僕は、思わず生唾を飲み込んでしまう。
 ココナのそこから溢れた液は、すぐ下のペニスを伝い、糸を引いてシーツに零れ落ちた。
 この扇情的なポーズを僕に見られることで興奮しているのだろう。萎えかけていたココナのペニスが、再び膨張し始めている。
「ああン、マスター……お願いです、早くう……!」
 ココナは、焦れたように、その小さなお尻をはしたなく揺らした。
「ココナ、オチンポの次は、オマンコでイきたいんです……っ! お願いです! お願いですからァ!」
 僕のサポート役、というかツッコミ役に回ってる時のクールさをかなぐり捨て、ココナが、淫らなおねだりを喚くように言う。
 僕は、ガマンできなくなって、膝立ちになり、一気にココナを後から貫いた。
「ひあああああああああっ♪」
 ココナが、背中を反らして歓喜の声をあげる。
 そのまま、二、三度抽送をすると、びくびくとココナの腰が震え出した。
「あ、ダメっ! あたし、もう――で、出ちゃいますーッ!」
 そう言うが早いか、僕に背後から犯されたまま、びゅるびゅると精を漏らしてしまう。
「ふふ……ココナってば、ちょっと早いんじゃない?」
「は、はひいィ……ら、らってえ……」
 射精の余韻で舌が回らないのか、はっきりしない発音で、ココナが言う。
「ほら、続けていくよ……」
「はッ! ひああン! あ、ンああああああっ!」
 僕が容赦なく腰の動きを再開すると、ココナは、ばたばたと両手を動かして悶えた。まるで、溺れかけているような格好だ。
「あぅッ……ひあぁ……スゴい……すごいれすうぅ……!」
 ココナの蕩けるような声を聞きながら、僕は抽送を続ける。
 しばらく腰を動かしているうちに、膣肉が収縮し、ぴったりと僕のシャフトに吸いついてきた。
 まるで、僕専用のオーダーメイドのような心地よさだ。
「は、はあぁ……ん……マスター……どう、ですかァ……?」
 どうにか余裕が出てきたのか、ココナは、くいっ、くいっ、とヒップを動かし、僕を追い詰めるような動きを見せる。
 ふぁさふぁさと揺れる太い尻尾までが、僕のお腹をくすぐり、快感を高めようとしているかのようだ。
 確かに、すごく、気持ちがいい。
 舞川美玖の強烈な絞め付けとも、舞川瑠実の蕩けるような甘さとも違う。しっとりと馴染むような、そんな感触だ。
 着実に快感のボルテージがアップし、射精にまで追いこまれそうな感じ。
「うん……すごく、気持ちいいよ……」
 僕は、正直にそう言って、ココナの背中に覆い被さった。
 そして、右手を前に回し、ココナのペニスを握り締める。
「ひゃふうッ!」
 あれだけ射精したにもかかわらず、しっかり勃起しているペニスをしごきあげることで、僕は、あっさりと主導権を取り戻した。
「ひ、やああああ! マスター、それ、反則ですうーッ!」
 抽送にあわせてペニスをしごかれ、ココナがそんなことを叫ぶ。
 が、反則だろうが何だろうが、僕は止めたりしない。
 ココナの白い滑らかな背中に唇を押し付けながら、僕は、彼女を前後から責めたてていった。
「は、はひいィ! ダメえ! 腰に、ちから、入ンないれすうう!」
 ぴゅるっ、ぴゅるっ、とまるで射精するような勢いで腺液を漏らしながら、ココナが訴える。
 そして、ココナの意思通りではないとは言え、その膣肉はひくひくと不規則に収縮し、結局は僕自身も追い詰めていった。
 もはや僕は、ココナを責めるだけでなく、自分自身の快楽を高めるためにも、ココナのペニスをしごきあげていた。
「あ、あああああ、スゴい! スゴすぎですううーッ!」
 ぎゅっ、とその小さな両手でシーツを握り締めながら、ココナが声をあげる。
「ひッ! ひああああッ! はひッ! イ、イクう! オマンコとオチンポっ、一緒にイキそうですうッ!」
 そう、あられもなく叫ぶココナの膣肉が、ぎゅうううっ、と僕のペニスを締め上げた。
 僕と、そしてココナの絶頂めがけ、僕は最後のスパートをかける。
「あ、あああああああ、ああああああああアアアアアアアアアーッ!」
 どびゅううううっ! と音が聞こえそうなほどの勢いで、僕とココナは、ほぼ同時に射精した。
「あ、あああああ、あー……!」
 僕は、どくどくと大量の精液を彼女の体内に注ぎこみ、ココナは、びしゃびしゃと辺り一面に精液を撒き散らす。
 浅ましい犬の交尾の姿勢で、快楽のままに射精を続ける二人。
 僕とココナのペニスは、ひくひくとひくつきながら、何度にも分けて精液を放ち続けた。
 ココナのペニスの律動に合わせ、その膣肉も蠕動し、僕の精液を一滴も逃すまいとするかのように貪欲にうごめく。
 僕は、体の中の全てを持っていかれそうな快感を感じながら、ぐったりとその背中に身を預けてしまった。
「ひぁ、はあぁぁぁ……」
 そして、僕達は、二人重なって、シーツの上に横たわったのだった。



「したら、こいでさいならじゃけえ」
 人里離れた暗い森の中、垂直離着陸式の小型ロケットのコクピットから、オーグルトが声をかけてきた。
 今夜で、こいつの査察期間が終了したのだ。
 あれだけの大騒ぎのわりには、何とも呆気ない幕切れだ。
 もちろん、終わったのはオーグルトの査察に関することだけで、僕にとっては、これからが本番みたいなものなんだけど……。
「今度は、仕事抜きで会いたいな」
 相変わらず生首状態のまま、ちょこんとシートに収まっているオーグルトに、僕は言った。
「おうとも。そいから別嬪さん、レポート手伝ってくれてありがとなあ」
「いえ、どういたしまして」
 結局、オーグルトの報告書は、ほとんどココナが書いたような状態だ。だから手伝ったという言葉はちっとも正確じゃない。
 でもまあ、僕達にとっては、ありがたいことなんだけど。
「んじゃ、お二人さん、こいからも仲良くせえよ」
「よ、余計なお世話だ」
 にやにや笑いを浮かべるオーグルトに僕は言い、ココナは頬を染める。
「んじゃ、そろそろ時間だきに、オイは行くでえ」
「あ、ああ」
「お気をつけて」
 そう返事をして、僕達はロケットから離れる。
 オーグルトは、ひらひらと触手を振ってから、キャノピーを閉めた。
 そして、エンジンが点火される。
 鋭い音ともに、ロケットはぐんぐん上昇していった。
 晩秋の夜空に、強烈な光が舞い上がる。
 まるで重力に逆らって飛ぶ流星のようなロケットの軌跡は、しかし、あっさりと見えなくなってしまった。
「マスター……また、ふたりぼっちですね」
 ココナが、ちょっと不思議な現地語を使った。
「核恒星系を離れて約2万光年……すぐ近くの植民星まで約25光年……あたしたち、本当に二人きりの帝国臣民なんですよ」
「そうだね……」
 僕は言って、自分でも驚くほどに照れながら、彼女の肩を抱き寄せた。
 ココナが、恥ずかしそうに、そのしなやかな体を摺り寄せてくる。
 そして僕達は、いつまでも、もはや見えなくなってしまったオーグルトのロケットを探すように、夜空を眺めていたのだった。

 ――思えば、この時こそが、安穏とした日々の最後のひとときだったのである。



《エンディング・テーマ》
『白い天使のうた』



《次回予告》

今日は、ご主人様の命令で、私のはしたない姿をおもてでさらしています。
恥ずかしいのに、体の中で燃え盛る火が、私を煽っているのです。
もっと、本当のお前の姿を見せてみろと……。
次回、『爛熟! 淫未亡人』
あの、この淫未亡人って……「みだらみぼうじん」って読むんですね……あぁ、恥ずかしいです……。

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