万能無敵
ミルク・エンジェル



第2話
『侵入! 家庭教師』




 自称ミルク・エンジェルの正体は、意外と早く判明した。
 もちろん、前任者であるミヒロー大佐の諜報活動によるものだけど。
 この秘密基地と同じ町内に住む、初等教育5回生。16進法ならまだ1ケタという年齢である。いや、10進法でも2ケタになったばかり、といったところだ。
 名前は、舞川美玖。
 ココナが隠し撮りした写真を見るだけだったら、大きな瞳とちまっとした鼻が特徴の、可愛らしい女のコである。長い髪を二つに結んで分けた髪型が、いかにも少女らしい。
 ちなみに、あのコスチュームのなかでも一際目立っていた胸は、ホンモノだった。
「この地球のコたちは、みんな発育いいのかなあ」
 なんて、思わずつぶやいた僕を、ココナがジト目で睨んだ。



《オープニング・テーマ》
『飛びこえてミルキー・ウェイ』



 それはさておき――
 この舞川美玖、もしくはミルク・エンジェルをどうにかしない限り、僕の侵略活動は一向に進まない。
 ミヒロー大佐がこの恒星系に持ってきた竜機兵は、1大隊30機。そのうち実に16機が、ミルク・エンジェルによって撃破されている。ちなみに僕が乗ってきた竜機兵は1機のみ。それも、早々に彼女に破壊されてしまったわけだ。
 残りは、14機。1個中隊と少し、といったところである。
 少なくとも、この地球を統治し続けるためには、10機の竜機兵は残しておきたい。
 が、竜機兵をいくらぶつけてもミルク・エンジェルを倒すことができないことは、もはや明らかだ。
 となると、暴力とはまた違う次元で、彼女を攻略しなくてはならない。
「にしても、ミルク・エンジェルや、その動力源の情報を得ないことには、話にならないなあ」
「ミルク・エンジンのことですね」
 ココナは、頭を悩ます僕に言った。
「ミヒロー大佐が竜機兵による正面対決にこだわっていたので、活かしきれなかった情報があるんですよ」
「どんな?」
「そもそもミルク・エンジンは、あのミルク・エンジェル――舞川美玖の父親である、舞川蔵人という名の市井の研究者によって開発されたもののようなのです」
「そりゃすごいな」
 僕は、驚くよりも呆れてしまった。この地球に来てから、もう呆れっぱなしである。
「民間の科学者が銀河帝国にもないオーバー・テクノロジーを生み出すなんて」
「まあ、舞川蔵人が独力で開発したものなのかは疑問が残りますけどね」
「でもそれなら話は早い。その舞川蔵人を拉致するなり洗脳するなりして、ミルク・エンジンの秘密を手に入れよう」
「うーん、悪役っぽい作戦ですねー」
 そう言いながらココナが、その顔に困ったような笑みを浮かべる。
「でも、ダメなんですよ。舞川蔵人は、すでに死亡しているんです。あの、3年前のファースト・コンタクトに巻き込まれて」
「……」
 僕は、あの直径10キロにも及ぶクレーターを思い出して、眉をひそめた。
 銀河帝国の使節船がこの地球の原住民に撃墜されたという、あの場所。
 感傷めいた何かが頭をよぎるのを、頭を振って追い出す。今は、もっと優先しなければいけないことがあるのだ。
「つまり、ミルク・エンジンは、舞川蔵人が一人娘に残した遺産ってわけか」
「そうです」
「ミルク・エンジンがどれだけの能力を有しているのか分からない今、その娘――舞川美玖に直接接触するのは危険だね」
「そうですねえ」
「じゃあ、残るターゲットは一人だな」
 いいながら、僕は、もう一枚の写真をデスクの上に置いた。
 舞川瑠実。舞川美玖の母親。
 通った鼻筋に切れ長の目、ふっくらした小さめの唇と、どこか育ちのよさを感じさせる整った顔立ちだった。遺伝なのか、やはり、胸が大きい。
 不思議なことに、この文化圏と、僕自身が生まれ育った星の美人の基準は、ほとんど変わらない。恐らく、この舞川瑠実も、さぞや引く手あまただったのだろう。
 その彼女を妻に迎えることができた舞川蔵人なる男は、どんな人物だったのか、ちょっと気になってしまう。
 ココナの話だと、今、寡婦となった彼女は、デパートに勤務しながら、女手一つで娘の舞川美玖を育てているということだ。
 が、彼女一人の収入では、生活は難しいだろう。どうやら、舞川蔵人が残した資産が少しはあるようだ。
 まあ、それはいい。とにかく、僕は彼女と近付きにならなくてはならない。で、それは、深い関係であればあるほど望ましいわけだ。
「いい方法がありますよ」
 そう言って、ココナが、透明な液体の入った小壜を取り出した。
「何それ?」
「媚薬です。洗脳効果もあります」
 無邪気な顔で、こともなげにココナが言った。
「え……?」
「つまりですね、このクスリを服用すると、性的な興奮状態に陥ります」
 細い人差し指と親指で壜をつまみながら、ココナが説明を続ける。
「で、その間は、非常に暗示にかかりやすい状態になるんです。マスターは、マインド・コントロールの教程、受けられましたよね?」
「そりゃまあ、侵略士の必須教程だしね。ところで……」
 僕は、ココナの唾液の甘さを思い出しながら、ちょっと眉をひそめた。
「もしかして、それもミヒロー大佐の置き土産?」
「作戦行動に使うつもりはなかったみたいですけどね」
「じゃあ、何に使うつもりだったんだよ」
「プライベートじゃないですか?」
 しれっとした顔で、ココナが言う。
 僕は、小さくため息をついた。
 もちろん、僕にミヒロー大佐を責める資格はない。
 なぜなら、僕は、この地球を侵略するために、その媚薬を使用することに決めたからだ。
 ただ、この媚薬を使うにしても、舞川瑠実と差し向かいで飲み物を飲むくらいの仲になっていなければならない。会話が成立しなければ、マインド・コントロールだってできないからだ。
 と言うわけで、僕は、舞川瑠実と交際を始めるべく、作戦を開始した。
 そして、自分のしていることが、本星で思い描いていた侵略事業とはかなりイメージの違うものになりつつあることについて、僕は、できるだけ無視することに決めたのだった。



「作戦通り、近付きになる機会を得るべく、舞川瑠実を可能な限り尾行してるんだけど……」
 僕は、通信機の向こうのココナに伝えた。ココナは基地の中で、衛星の映像を分析しながら僕をサポートしている。
「はい」
「なかなか、ターゲットが落し物をしない。ハンカチなり財布なりを落としてくれないと、次の作戦段階に移れないんだけどね」
「うーん、困りましたねえ」
「それと、どうも、この黒のスーツにサングラスという格好は、思いのほか目立つようなんだけど」
「ソフト帽、忘れてませんか?」
「きちんとかぶってる」
「おかしいですねえ。いくつかのメディアを参考にしたところ、諜報活動を行う際は、そのような格好をするものだとされてたんですけど」
「テキストの選択を誤ったかな……?」
「あ、マスター、注意してください、警察機関がマスターをマークし始めたようです」
 ココナが、ちょっと慌てた声をあげる。
「なに? 正体がばれたのか?」
「いえ、その……どうやら、マスターの行動は『ストーカー行為等の規制等に関する法律』にひっかかったみたいで……」
「何だって? 単に、交際のきっかけをつかもうとこっそり後をつけてるだけなのに」
「制服警官、マスターに接触します!」
 その時、ぽん、と誰かが背後から僕の肩を叩いた。



 翌日。
「まったく昨日はひどい目にあった」
「麻痺銃が正常に作動してよかったですね」
「危うく目盛りを間違えそうになったけどね」
「それより、次はどうするんですか?」
「ターゲットの運転する地上車にわざとぶつかって、それをきっかけとしよう」
 舞川瑠実は、通勤には電気列車を使用するが、買い物などのプライベートには、個人の地上車を使用する。そして、今日は彼女にとって休日だった。
「当り屋ですか。ムチャな作戦ですね」
「仕方ないだろ。任務に危険は付き物だよ。それに、きちんとフォース・フィールド発生装置は装備してるし」
「アジモフ社製のやつですよね。動力の携帯原子炉、安全なんですか?」
「放射能漏れが起きても、フォース・フィールドが守ってくれるよ」
「そう……かなあ?」
「えい、気にしててもしょうがない。作戦決行だ」
 というわけで、僕とココナは、衛星で舞川瑠実の運転する地上車の行程を監視しだした。もちろん、僕が“当り屋”をするのに最も適したポイントを割り出すためだ。
 しかし――
「……」
「どうでしょう?」
「ダメだね、これじゃ」
「そうですねえ。ターゲットってば、完全な安全運転を心がけています」
「ワゴン車の影から飛び出す子どもや、携帯電話に夢中の女子高生、はては商店街を自転車で蛇行する老人すら、ターゲットの運転する地上車にはかすりもしない」
「これじゃあ、マスターがぶつかるなんてこと、できやしませんね」
「どうやっても不自然になるからなあ」
 運転教習所の教材に使えそうな舞川瑠実の運転振りを見つめながら、僕は長々と嘆息した。



 さらに翌日。
「金で雇ったチンピラにターゲットを襲わせ、それを助けるとしよう」
「いよいよナリフリ構わなくなってきましたね」
「いいんだ。侵略士の資格を取ったときから、諦めはついてたんだ」
 というわけで、チンピラの手配はココナが行った。
 そして、夜。
「約10分後、その路地を帰宅途中のターゲットが通ります。それに対して、3人の現地採用のチンピラさんが深刻なセクハラをしますんで、マスターはそれを撃退してください」
「分かった。でも、麻痺銃は使っちゃダメなんだっけ?」
「この地球の技術レベルから考えると、ちょっと無理がありますね」
「じゃあ、どうしようか? 特殊閃光音響弾や電磁警棒はOK?」
「技術レベル的には、たぶん問題ないですけど……ダイジョブかなあ?」
「ま、いいや、そこらへんは臨機応変ということで」
「マスター、意外とイイカゲンな性格なんですね」
「そうだよ」
「あ、ターゲット、接近中です」
 ココナの声に、物陰から顔を出すと、いかにも、といった感じの3人の男が、舞川瑠実にからんでいる。
「そこまでだ――」
 そう言って、僕が出て行こうとした時だった。
「ばんのーむてき! みるく・えんじぇるっ!」
 ばばばん♪ とショート・バージョンの登場BGMを響かせながら、ミルク・エンジェルが空中から現れたのだ。
「ええーい♪」
 彼女の繰り出すたった一発のパンチで、どかばきごしゃ、といった感じのお手軽な擬音をあげ、チンピラ3人が呆気なく倒れてしまう。
「まあ、だめじゃない、美玖。ご近所にそんな格好で出てきたら」
 舞川瑠実が、なんだかズレたことを言う。が、その口調はあくまで柔らかい。
「ごめんなさぁい。でも、ミルク・エンジンが、ママがピンチだって知らせてくれたから」
 ミルク・エンジェル――舞川美玖が、空中に浮かんだまま、ぺろ、とピンク色の舌を出す。
「それより、早く帰ってご飯にしよ! あたし、カレー作ったんだ」
 そんなことを言いながら、ミルク・エンジェルは、ふい、と変身を解いた。シンプルなブラウスにキュロット・スカートという格好の普通の格好に戻る。
「それは楽しみね」
 舞川瑠実は、にこやかに微笑みながら、娘と手をつないで、何事もなかったかのように家路につく。
「……作戦は失敗ですね」
 その場に居づらくなってまた物陰に隠れた僕に、ココナが通信を入れる。
「あのミヒロー大佐があっさりとミルク・エンジェルの正体を割り出した理由が、何となく分かったよ」
 皮肉というにはちょっと力のない声で言う僕のそばを、舞川親子が、談笑しながら通りすぎた。



 短期決戦は諦め、長期戦に移ることにする。
 というわけで、舞川瑠実の勤めているデパートに、地道に通った。
 彼女が担当しているのは、屋上にある園芸コーナーである。
 さすがに毎日だと不自然なので、3日に1度くらいにした……んだけど、やっぱりヘンな目で見られてる感じだ。
 それでもって、売り場に来て何も買わないで帰るのもおかしいと思って、ついつい鉢植えとかを買ってしまうのである。
 そんなこんなで1ヶ月。もはや、さして広くない基地の中は、観葉植物まみれだ。
 それでも、今日もここに来る。
 ショーウィンドウに写る自分の顔は、我ながらちょっと憂鬱そうだった。
「あのー」
 と、後ろから声をかけられた。
 振り向くと、デパートの制服にエプロン、という姿の舞川瑠実が、そこにいる。
 30代半ばのはずだが、その肌の艶は、20代のものだ。それでいながら、大人の女性としての落ち着いた雰囲気を身にまとっている。
「ぶしつけとは思いますが……どうか、されたんですか?」
 初めて間近で聞いたその声は、しっとりしてて、聞いてるだけで和んでしまいそうな感じだった。
「あ、いや、その……」
 思わずその豊かな胸に目をやってしまいそうになりながら、僕はしどろもどろになってしまう。
「ちょっと、悩み事があって……」
 そして、つい正直に言ってしまった。
「……」
 当たり前だけど、舞川瑠実は、きょとんとした顔をしている。
「お花のことですか?」
「……そんなとこです」
 そう答える僕に、舞川瑠実は、にっこりと笑った。
「もしかして、鉢植えを枯らしちゃうとかですか?」
「え、ええ」
 僕もココナも真面目に面倒を見ていないから、観葉植物は買った順に枯れていってる。嘘は、ついてない。
「いえ、おかしいと思ったんです。同じ花を、何度も何度も買っていくから」
「いやその、仕事で必要だったもので……」
「お仕事で?」
 舞川瑠実が、不思議そうな顔で訊く。
「そうなんです。でも、手入れの方法とかよくわかんなくて、どんどん枯れてくんです」
「そうなんですか」
 舞川瑠実は、ちょっと考えてから、続けた。
「もしよかったら、世話の仕方とか、お教えしましょうか?」
「いいんですか?」
「ええ。今日は、あまりお客さんも来ないみたいだし」
 人の好さそうな笑顔で、舞川瑠実が言う。
 これは、千載一遇のチャンスだ。
「あの、お茶!」
 僕は、思わず叫んでしまった。
「は?」
「えっと、お礼に、お茶でも、と思って」
「そんな、気を使わなくても……」
「いえ、あそこにある自動販売機、あれで売ってますよね。僕、買ってきますから」
 そう言って、返事も待たずに、買いに行った。
 そして、缶入りのお茶を二本買い、プルトップを開けて、例の薬を滴らす。
 内心、大汗をかきながら戻ってきた僕を、舞川瑠実は、おっとりとした笑顔で迎えた。
「よっぽど喉が乾いてたんですね」
 そう言いながら、彼女は、僕が差し出した缶入りのお茶を受け取る。
 丁寧な説明に生返事を返しながら、待つこと、数分。
 少ししゃべり疲れたのか、舞川瑠実は、小さな声で「いただきます」と言って、お茶を飲んだ。
 そして、さらに数分。
 舞川瑠実の様子が、目に見えておかしくなりだした。
 目許が赤く染まり、形のいい長い足を、もじもじと動かしている。
「どうしました?」
「あ、いえ、なんでもないんです」
 とぼけて訊く僕にそう答えながら、火照った体を鎮めようとするかのように、再びお茶を口に含む。が、それは全くの逆効果なのだ。
「あ……」
 舞川瑠実は、小さな声をあげて、よろめいた。
 その女性らしい体を、僕は抱き止める。
 彼女の手から離れた缶が、ころぉん、と音をたてて床に落ちた。
「だいじょうぶですか? 瑠実さん……」
 貝殻のような耳たぶに息を吹きかけるように、僕は言う。
「あ……な、なんだか、体が熱いんです……」
 熱っぽい口調で、舞川瑠実が答える。僕が、彼女の名前を知っていることを不審に思うこともできないようだ。
「そ、それに……なんだか、胸の奥が、切なくて……」
「それはいけないですね」
 言いながら、僕は、右手で舞川瑠実の肩を抱き、左手で、彼女の胸をまさぐった。
 手の平に余るくらいのボリュームのあるおっぱいが、服の下で形を変える。
「ああン……だめぇ……切ない……切ないです……」
 舞川瑠実が、眉をたわめながら、身をよじらせる。
「――僕の言うことを聞けば、楽にしてあげます」
「え……?」
「それどころか、うんと気持ちよくしてあげますよ」
「き……気持ち、よく……?」
 膜がかかったような目で、舞川瑠実が僕の顔を見る。
「そうです。僕の言うことを、何でも聞くって、約束してくれるなら、ね」
「あ、あン……あたし……あたし……っ」
 ひくっ、ひくっ、と舞川瑠実の豊かな腰が、物欲しげにうごめいている。
「さあ、返事をして……瑠実さん……」
「あたし……」
 はぁ……っ、と舞川瑠実は、熱い息を吐く。
「……あたし、あなたの言うこと……何でも聞きます……」
 そして、淫らな期待に瞳を潤ませながら、そう言ったのだった。



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《CM》



《アイキャッチ》



「じゃあマスター、『設定』を復唱してください」
「ん――」
 僕は、一つ咳払いをして、ココナと向かい合った。
「名前は、有珠黎二」
「だいじょぶですか? “ウス・レイジ”って漢字、書けます?」
「練習したよ、一応。で、竜凰学園大学部2年生。一浪一留で22歳……」
 そう言ってから、僕は顔をしかめた。
「これ、どうにかならないかなあ」
「この文化圏では浪人や留年は当たり前なんです。2並びで憶えやすいじゃないですか」
「そういう問題?」
「そういう問題です。それとも、ストレートで卒業したけど就職浪人、って方がよかったですか?」
「いや、まだ学生の方がいいだろ。何たって、家庭教師なんだからさ――」
 そう、僕は、舞川美玖の家庭教師として、彼女の家に週に3日、通う身となったのだ。
 すっかり僕の暗示の虜となってしまった舞川瑠実は、舞川美玖からミルク・エンジンを取り上げるという僕の計画に、進んで協力することを申し出た。
 もともと舞川瑠実は、自分の娘が「地球を守るスーパー・ヒロイン」として活躍することに、心の中で不安を感じていたらしい。いくら本人が「万能無敵」を名乗っていたとしたって、客観的に見れば、全長40メートルの機動兵器なんぞと戦っているのである。
 それに、舞川美玖は、ミルク・エンジンを手に入れてから、成績が下がる一方だったようだ。ミルク・エンジェルとしてミヒロー大佐の駆る竜機兵を相手にするほか、銀行強盗を捕まえたり、街の幽霊屋敷の謎を解いたり、木に上って降りれなくなった仔猫を助けたりと、八面六臂の大活躍だったという話だから、そりゃまあ成績も下がるだろう。
 そういうこともあって、僕は、家庭教師として、舞川家に侵入することに決めたのだった。
 舞川美玖本人も成績のことを気にはしていたらしく、家庭教師の件は、あっさり受け入れたそうである。
 てなわけで、僕は、舞川瑠実の勧めで、ざっくりしたカッターシャツにジーンズという格好で自転車にまたがり、舞川家に向かう。
「いってらっしゃーい」
 背中で聞くココナの声は、何だか面白がってるみたいだった。



「こ、こんにちは……」
 玄関で僕を出迎えた舞川美玖は、意外なほど静かな声で、そう挨拶した。
 何だか、抱いていたイメージと違う。思い切り大騒ぎでもしそうな感じだったんだけど。
 しかし、改めて見ると、本当に子供だ。
 子供だけど、胸の大きさは、そこらの大人に負けてない。Tシャツの布地がその部分だけ、ぼよん、と膨らんでいる。
「こんにちは。これから、よろしくね」
 発育過剰なおっぱいに視線をやらないように注意しながら、僕は挨拶する。
「じゃあ、今日のところは、テストでもしようか」
「え、テストぉ?」
 僕の言葉に、舞川美玖は、むー、と眉をしかめる。
「実力を知りたかったんだけど、イヤだったかな?」
「あ……そんなこと、ない、です」
 いかにも使いなれない感じの敬語で話しながら、舞川美玖は、かーっと顔を赤く染めた。
「……」
 大人の男と話す経験が少ないんで、ヘンに意識してるのだろうか? 何にせよ、その分かりやすい表情の変化は、確かに可愛い。もとが美少女といっていい顔立ちだからなおさらだ。
 などという邪念を抱いてしまった自分を内心戒めながら、僕は、舞川美玖の後について階段を上り、彼女の部屋に入った。
 ピンクを基調としたいかにも女のコっぽい部屋だ。ずいぶんと綺麗に整頓されている。
「ふーん、きちんと掃除してるんだね」
 自分の基地の惨状を思い浮かべながら、僕は言った。と、舞川美玖の顔が、さらに真っ赤になる。
「じゃあ、国語、算数、理科、社会、と。1教科30分だからね」
 そう言いながら、問題の書かれたプリントアウトを用意する。
 そんな僕の顔を、舞川美玖は、やけに熱い視線で、じーっと見つめていたのだった。

 けっこう一生懸命に問題を解いている舞川美玖を部屋に残して、階下に降り、ダイニングキッチンに入った。
「あ、ご主人様……」
 マインド・コントロール下にある舞川瑠実は、僕のことをそう呼ぶ。
 これが、ミヒロー大佐の残した薬の効果なのか、僕自身のマインド・コントロール技術によるものなのか、それとも彼女自身の秘められた願望のせいなのか、よく分からないけど。
「ご主人様がおっしゃっていたものを、探しておきました……」
 従順な口調でそう言いながら、舞川瑠実は、キッチンテーブルの上に、いくつかの書類の束と、数枚の光ディスクを並べた。
「舞川が書斎に仕舞っていた、例のものの研究資料です」
 この文化圏では、女性は、配偶者のことをファミリーネームで呼ぶことがあるのだ。この習慣には、ちょっととまどう。
「ありがとう」
 僕は言って、持ってきた封筒の中に、書類とディスクを入れた。
「あの……」
 舞川瑠実が、上目遣いでこちらを見ながら、小さな声で言う。
「ご主人様、どうか……ごほうびを、ください……」
「今、ここで?」
 少し意地悪な口調で、僕は訊く。
 そして、黙ってしまった舞川瑠実に、僕は近付いた。
「あ……」
「娘さんが一生懸命勉強してるのに、いけないお母さんだね」
「あぁ、言わないで、ください……」
 その白い頬を赤く染めながら、舞川瑠実が恥らう。
「でも、我慢できないんでしょ、瑠実さん……」
 そう言いながら、僕は、舞川瑠実の体を抱き寄せた。
「あっ……」
 肩に手が触れただけで、官能をにじませた声を漏らしながら、舞川瑠実が僕にしなだれかかる。
 ボリュームのある彼女の胸が、僕の胸元を柔らかく押した。
「いいよ……約束通り、してあげる」
「は、はい……」
 小さな声で、嬉しそうに返事をする舞川瑠実の体に、僕は手を這わせた。
 背中から、細くくびれたウェストに手をやり、量感のあるヒップを撫でまわす。
「あ、あン……」
 舞川瑠実は、控え目な喘ぎを漏らしながら、もじもじと腰を揺すった。
 圧迫され、刺激された僕のペニスが、ジーンズの中でぐんぐん膨張する。
「ご主人様ぁ……」
 わずかに身を引き、今まで僕の背中に回していた手で、ジーンズの膨らみをまさぐりながら、舞川瑠実が声をあげる。
 その切れ長の瞳は濡れ、目許はぽおっと桜色に染まっていた。形のいい弓型の眉は、今は切なそうにたわんでいる。
「欲しいんだね? 瑠実さん……」
「はい……」
 こくん、と舞川瑠実が子供のように肯く。
「いいよ。自分の好きにしてごらん」
「はい……」
 再び返事をして、舞川瑠実は、僕の前にひざまずいた。
 そして、ジーンズのジッパーを、その白魚のような指で下ろす。
「あぁ……っ」
 僕のペニスを露わにした舞川瑠実は、ため息のような声をあげた。
 今まで、ずっと指で彼女のことを満足させていたので、舞川瑠実が僕のそれを目にするのは初めてである。ペニスの挿入は、ミルク・エンジンの研究データを手に入れたときのご褒美に、という約束だったのだ。
 そのご褒美を目の前にして、舞川瑠実は、ちろり、と自らの唇を舌で舐めた。
 そんな仕草すら、上品な顔立ちの彼女がすると、妖しく美しい。
 僕は、自分の中で高まる期待を必死に外に現すまいとしながら、彼女の次の行動を待った。
「大きい……素敵です……」
 舞川瑠実は、うっとりとした口調でそう言ってから、小さな口を開いて、ぱくりと僕の亀頭を咥えこんだ。
「んっ……!」
 ぬるりとした熱い口腔の感触に、僕は思わず声を漏らしてしまう。
 その声が聞こえたのか、舞川瑠実は、嬉しそうに目を細めた。
 そして、本格的な口唇愛撫に移る。
「ん……んぐ……んむ……んんン……」
 ふっくらした紅い唇が、僕のシャフトの表面を滑りながら、えもいわれぬ快感を生み出していく。
 口腔内では、舌がひらひらと蠢き、ペニスの下側を刺激しているようだ。
 その、慣れた感じのフェラチオによって、僕のペニスに、ますます熱い血液が集まってくる。
「ああ、すごい……まだ大きくなります……」
 ペニスに手を添え、ぴちゃぴちゃと音をたてて裏筋を舐め上げながら、舞川瑠実が言った。
 そうしながらも、右手の指先は亀頭を弄び、溢れ出た僕の腺液をペニス全体に塗りたくるようにする。
 ひりつくような快感に、腰が砕けそうだ。
「はぁ……あむ♪」
 ひくひくと痙攣する僕の亀頭を、再び舞川瑠実は口内に収めた。
 そして、ずずずずっ、と奥まで咥えこむ。
 ペニス全体を熱く柔らかい快感に包まれ、僕は思わず小さくうめいてしまった。
 先端が喉奥に当たるのにも構わず、舞川瑠実は、僕の腰に手を添え、頭を激しく前後に動かす。
 僕に奉仕し、口腔をペニスに支配されているだけで感じているのか、舞川瑠実は、くにくにと淫らにヒップを揺すりながら、フェラチオに没頭していた。
 その、ツボを心得た責めに、限界が近付いてくる。
 僕は、無理に我慢せず、この快楽に身を委ねることに決めた。
「瑠実さん……で、出るよ……」
 さすがに何も声をかけないのはどうかと思って、そう声をかけた。
 こくん、とペニスを咥えたまま、舞川瑠実が小さく肯く。
 僕は、腰の中で痛いくらいに高まっていた性感を、一気に解放した。
「んんんんんっ!」
 びゅうううううっ! と自分でも呆れるくらいの勢いで放たれた射精を喉奥に受け、舞川瑠実はくぐもった声をあげた。
 きゅっ、と寄せられた眉が、更なる射精を誘う。
 僕は、獣のように荒い息をつきながら、何度も何度もペニスを律動させ、彼女の口の中に精液を迸らせた。
 それを、舞川瑠実は口内に溜め、こくん、こくん、と少しずつ飲み干していく。
 肉体的な快美感と、精神的な征服感に、僕は、我知らず満足げなため息をついていた。
「ぷはぁ……」
 ようやく、舞川瑠実が口を離した。
 まるで強いアルコール飲料を飲んだ後のような表情を、その整った顔に浮かべている。
 自らの唾液と、僕の精液に濡れたその唇が半開きになっているところを見ているうちに、萎えかけていた僕の股間のモノに、血液が戻ってきた。
「立って、瑠実さん」
 そう言うと、彼女は、従順に立ちあがった。
「スカートをめくって、どうなってるか見せて」
「はい……」
 言われた通り、地味めなデザインのスカートを自らまくりあげる。
「すごい……下着が、びしょびしょになってるよ」
 僕は、思わずそう呟いていた。
「ああ……恥ずかしい、です……」
「僕のを咥えてるだけで、こんなになったんだね?」
 そう言いながら、白いショーツの中に指を差し入れた。
 ぷっくりと盛り上がった恥丘に生えた柔らかな陰毛が、僕の手の平をくすぐる。
「は……い……」
 羞恥と、そして間違いなく興奮に顔を真っ赤にしながら、舞川瑠実が答える。
「瑠実さんのここ、もう、すごく熱くなってるよ……」
 そう言いながら、僕は、彼女の膣口に、中指を挿入した。
 自ら分泌した液にまみれたその部分が、きゅっ、と僕の指を愛しげに咥えこむ。
 これまで、さんざ味わってきた感触を右手の指先に感じながら、僕は、左手で彼女の胸を揉みしだいた。
「あ、ああっ……あ、あぁ……」
 火照った体には、服の上からの愛撫でも充分に感じるのか、舞川瑠実は、白い喉を反らしながら、濡れた声で喘いだ。
 スカートを持つ両の拳が、ぷるぷると小刻みに震えている。
 僕は、名残を惜しみながら、右手の指をそこから抜き、ショーツに手をかけた。
 淫らな期待に満ちた瞳が、僕の顔を見つめる。
 綺麗に整った顔に浮かぶその表情を見るだけで、僕のペニスは、完全に力を取り戻した。
「入れてあげるよ、瑠実さん……」
 そう、耳元で囁きながら、ショーツをずり下ろし、腰を近付ける。
「ああっ、く、ください……ご主人様……」
 舞川瑠実は、キッチンユニットに背を預けるようにしながら、その豊かな腰を前に突き出した。
 そして、そんなポーズをとってしまった自分を恥じるように、つい、と目を逸らす。
 僕は、思わず生唾を飲み込みながら、上を向いたペニスの角度を調節し、熱くぬかるんだその部分に誘導した。
 ほどよく熟した粘膜の感触を、敏感になった亀頭で感じる。
「ん……っ!」
 僕は、もはや彼女を焦らすだけの余裕も失い、一気にペニスを挿入した。
「んぐ……ッ!」
 舞川瑠実が、声をあげそうになって、スカートを握っていた右手を放して口元を覆う。
 彼女の中は、想像した通り、熱く、柔らかく、滑らかだった。
 膣肉が、ぴったりと、一部の隙もなく、僕のペニスを包み込んでくれている。
 その、優しい快感に包まれているだけで、そのまま射精に追いこまれてしまいそうなほど心地いい。
「気持ちいいよ、瑠実さんのアソコ……」
 僕がそう言うと、舞川瑠実は、目に涙をためながらかぶりを振った。
 さきほど、淫らにフェラチオをしていた彼女とは、まるで別人のように可愛らしい仕草だ。
 けど、その二つの顔とも、彼女の本当の顔なのだろう。
 淫らな本性を内に秘めながら、そのことに激しい羞恥を感じているのだ。
 与えられる快楽が大きいほど、ますますそれを求め、そしてそのことを恥らってしまう。
 そんな彼女の顔をもっと見たくて、僕は、腰を動かした。
「んッ! んぐ! んううッ!」
 口を押さえるだけでは足りなくなったのか、右手の指を噛み締めながら、舞川瑠実が身悶える。
 たぷたぷと揺れるその巨乳をなぶりながら、僕は、ますます激しく腰を動かした。
 僕の雁首が、、彼女の膣壁のひだをこすりあげ、涌き出る愛液を外にかき出す。
 溢れ出た液は彼女の白い太腿を伝い、床にまで滴り落ちているはずだ。
「すごいよ、瑠実さん……」
 僕は、ほとんど泣きそうな顔で悶え、指を噛んでいる彼女に、言った。
「こんな明るいうちに、服を着たまま……それも立ったままするなんて……本当に、瑠実さんは淫乱なんだね……」
 そう、僕が言うと、ううっ、ううっ、とくぐもった声を漏らしながら、いやいやをする。
 その目尻からこぼれる涙に、僕は、ますます興奮した。
 首筋に唇を這わせ、舌で涙を舐めとりながら、ぐっ、ぐっ、と腰を突き上げる。
「ンあああああッ」
 とうとう彼女は、指を口から離し、声をあげてしまった。
 さすがにちょっと慌てて、右手で口を塞ぐ。
 こうすると、まるで強姦をしているような構図だ。
「だめだよ、瑠実さん……」
 僕自身、かなり追いつめられた状態の中、そう言う。
「聞かれちゃうよ……上に、美玖ちゃんがいるんだから……」
 と、舞川美玖の名が出た瞬間、きゅううっ! と舞川瑠実のアソコが締まった。
 いままでは、まるでお湯に浸かっていたような気持ちよさだったのだが、それが一気に沸騰した感じである。
 そのまま漏らしてしまいそうな射精感をやりすごし、僕は、負けじと抽送を早めた。
「んっ! んぐ! んふう! ンうううううう!」
 舞川瑠実が、悲鳴のような声をあげながら、かぶりを振る。
 そうしながらも、右手を僕の背中に回し、さらなる抽送を求めるように、指を立てるのだ。
「美玖ちゃんの名前を聞いて興奮するなんて、本当にいやらしいなあ……」
「んうう! んっ! んふううううう!」
「本当は、見られたいんでしょ……娘に、自分の、今の姿を……」
「んううううーッ!」
「それどころか……一緒に犯されたいと思ってるんだよね、瑠実さんは……」
 耳から、甘い毒を流しこむように、僕はそう囁く。
 もはや、教わった洗脳技術を行使しているという意識はない。ただただ、僕の中の昏い欲望を言葉にして、彼女の心さえも陵辱する、そんな感じだ。
 僕の言葉に怯え、悶えながら、淫らにも膣内を収縮させてしまう彼女が、愛しい。
 僕は、歯を剥き出しにして笑いながら、彼女を快楽の奈落に突き落とすべく、無茶苦茶に腰を使った。
「犯してあげるよ……瑠実さんも……美玖ちゃんも……一緒に、僕のセックス奴隷にしてあげる……」
 それが、地球侵略のための行為なのか、自分自身の欲望の発露なのかも、もうどうでもいい。
 快楽に溺れかけていることを自覚しながらも、僕は、すでに後戻りのできない一歩を踏み出してしまったことに気付いていた。
「――んんんんんんんんんんんんんンッ!」
 舞川瑠実が、絶頂を迎え、その体を弓なりに反らした。
 膣肉が、引き千切らんばかりに僕のペニスを締め上げ、蠢いて、射精をねだる。
 それに応えるように、僕は、彼女の子宮めがけ、大量のスペルマを迸らせた。
 二度目とは思えないほどの量の精液を、びゅるるっ、びゅるるっ、と彼女の体内深くに注ぎ込む。
 腰が抜けてしまいそうな、凄まじい快感だ。
 舞川瑠実の口元を押さえていた右手をその背中に回し、その体を、ぎゅっ、と両手で抱きしめる。
「ンぁあああ……あ……ああああぁぁぁ……っ」
 未亡人となってから、おそらく初めて夫以外の男の精液をその体内に迎え入れ、舞川瑠実が、絶望と恍惚の入り混じった声をあげている。
 それは、僕の耳に、奇妙なくらい心地よく響いたのだった。



《エンディング・テーマ》
『白い天使のうた』



《次回予告》
ご主人様が、とうとう美玖の体にお手をかけました。
もちろん、そうなることは分かっていたこと。覚悟はしていたのに……。
でも、絡み合う二人の姿を覗き見て、体を、熱くしてしまったんです。なんてはしたない私……。
次回、『陵辱! 巨乳少女』。ああ、悪い母さんを許して……。



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