第1話
『就任! 第3惑星』
星間トンネルを通過するときの、体が裏返るような感覚は、実に久しぶりだった。
そのままゲートを通過し、恒星系に入る。
一応、敵地ではあるのだが、僕はあまり緊張していなかった。この恒星系の住民たちは、まだ惑星間航行さえろくにできないのだから。
速度を稼ぐためよりも、ちょっとした観光気分で鈍い赤色の第4惑星をフライ・バイし、そして、目的の星へと進む。
この恒星系の第3惑星。
「地球、か……」
僕は、ヘルメットを外し、多機能サングラスをかけながら、そう呟いた。
《オープニング・テーマ》
『飛びこえてミルキー・ウェイ』
モニターに映る、青い惑星。
銀河帝国が「再発見」した、116番目の「地球」。慣れない10進法なので、一度16進法に頭の中で直さないと、実感はつかめない。
本当に青い。あれは海の青さだ。それと、まだらになった雲の白。
地球は、いつも同じ顔だ。いや、要するに僕たちのご先祖様が、「オリジナルの地球」そっくりに改造した結果なんだろうけど。
まったく、ご先祖様のやることは徹底している。地殻をひっくり返して、古代人の遺跡や古代生物の化石まで埋めこむんだから。こうなると、どの惑星がオリジナルの地球なんだか、見当もつかない。
まあ、今では禁断の技術になってしまったナノマシンやマイクロブラックホール動力を駆使して、惑星の大きさや軌道まで変えてしまったご先祖様だ。化石を埋めるなんてのは、箱庭をいじる程度の感覚だったのかもしれない。
箱庭――浅い箱や鉢に土を盛り、小さな草木や石などを配し、模型の橋・家その他を置いて山水や庭園の姿を模して観賞するもの。うん、僕の頭に埋まったチップの方も好調だ。これから赴く地球の事物についての情報が、ほとんどストレスなく再生される。まるで僕自身の記憶のようだ。
それにしても、それほどまでにオリジナルの地球にこだわる僕たち人類……。
オリジナルの地球が、かつて――5万年以上前の前銀河帝国時代、帝国の帝都惑星だったということだけでは、説明がつかない。
例えば、再発見された地球の住民は、すでに前銀河帝国のことを忘れ去っていても、ほとんどが、自らの星こそ唯一無二の地球だと信じて疑わないのだ。
それは、こういうわけである。
オリジナルの地球以外は、前銀河帝国絶頂期の5万年から、せいぜい「大戦」直前の3万年前に地球化された、単なる複製の植民星に過ぎない。
そして、どの星がオリジナルの地球であるかという、銀河帝国のアイデンティティーの根幹に関わる情報は、約3万年前に勃発した、千年にも渡る大戦の前半で、徹底的に失われてしまったのである。
大戦の直接の原因が何であったのかは謎だが、そのことだけでも、とにかくすごい戦争であったことだけは分かる。
大戦中頃、ご先祖様たちは、乱れに乱れた銀河系を再統一すべく、我が星こそはオリジナルの地球なりと主張し合うようになった。そのためには、遺跡や化石の捏造など、当たり前のようにやったらしい。
だが、戦火はますます広がり、戦禍はますます激しくなって、そして人々はいかなる戦果も得ることはできなかった。
大戦末期には、人類は、星を渡る手段すら少しずつ失っていき、自らのついた嘘を抱え込んだまま、孤立するようになったのだった。
結局、自然消滅的に大戦は終結。その後、この銀河系では、いくつもの地球が、圧倒的な距離に隔たれて、それぞれの歴史を孤独に刻んでいったのだ。
そして、星間トンネル技術を復活させた英雄たちによって銀河帝国が再建されたのが、ここ700年ほどの話である。
3万年近くの空白は、真実をくらますのには充分過ぎた。
そういうわけで、多くの地球は、自分たちの星こそがオリジナルの地球であると信じこんだまま、3万年の時を過ごした。そしてその間、ほとんどの地球では、何回もの文明崩壊を経験してしまったのである。再発見されたときの地球の文明レベルは、実に様々だった。
もちろん、現在の銀河帝国では、帝都惑星アザトソトホートこそが、オリジナルの地球であることになっている。けど、僕に言わせれば、それだって疑わしい話だ。
とはいえ、現にこの銀河でもっとも力のあるのは我が銀河帝国なのだ。よって、銀河帝国は再発見した地球たちの誤った認識を正し、版図に加えなくてはならない。惑星侵略は、銀河帝国最大の公共事業なのである。
そして、この僕にとって、今回の任務は、一級侵略士の資格を取って始めての参加事業だ。
それも、いわく付きの侵略事業である。
前任者であるミヒロー大佐は、精神に失調を来たし、今では軍の施設内でポルノグラフィーを書く毎日だという話だ。銀河系第4象現にその人ありと言われた“竜”のミヒローが、である。
これから僕が赴くあの地球に、何があるのか。
星間トンネルを通過する際、電波信号には大量のノイズが混ざってしまう。だから、ミヒロー大佐が経験したことについては、本人の証言によるしかなかったのだが、廃人寸前にまで追いこまれてしまった彼の言葉には、何の情報価値もなかった。
惑星侵略は、通常、1名のスタッフと、そのサポートをするアンドロイドのみによって行われる。侵略士の資格保有者は多くないし、惑星侵略官の採用試験は狭き門なのだ。
結局は、この恒星系の地球の正体については、未だ現地に駐留しているアンドロイドと、あとは自分自身の目を頼りにするしかない。
僕は、大気圏突入を前にして、黒のスーツの襟を正し、明るい空色のネクタイを締めなおした。地球を侵略する際は、目標となる地球の風俗に合わせた服装をするのが、我が銀河帝国の流儀である。
僕の乗った侵略用機動兵器「竜機兵」が、光子発電のための翼をたたみ、突入体制に入った。
着陸の場所は、現地の言葉で「日本」と呼ばれているこの行政区分の、真ん中辺りにした。
都市部のただ中にある、大クレーター――我が銀河帝国とこの地球との、忌まわしいファースト・コンタクトの地である。
直径10キロに及ぼうかという、すり鉢上の窪地の中央に、竜機兵を着陸させた。
鈍い地響きが、周囲を襲ったはずである。
全長40メートル以上。長い尻尾と翼のある四足獣に似た姿。その表面は、夏の太陽の光を浴びて、禍々しい光を反射させているだろう。
何機か、現地の飛行機械が、遠巻きにこの竜機兵を見守ってる。あれの名称は、ヘリコプターだ。それも、どうやら報道関係のものらしい。
僕は、学生時代の教本に従って、竜機兵の喉を垂直に立て、咆哮とともに、恒星のプロミネンスのようなプラズマ炎を天に吹き上げた。侵略行為開始のためのアピールである。
「ははっ」
思わず、笑ってしまった。モニターに映っていたヘリが、滑稽なほどうろたえた様子を見せたからだ。
デモンストレーションを兼ねて、1機か2機、撃墜しようかと思ったところで、あれがみな有人機であることを思い出した。やはり、人死にを出すのは避けたい。
「そろそろ、周りの町じゃあ、避難が済んでるかな?」
ならば、挨拶代わりにいくつかインフラを破壊してやろう。そう思って、僕は竜機兵をふわりと浮上させた。
と、その時だった。
「待ちなさあぁーいっ!」
高い、どこか舌足らずな声を、竜機兵の聴覚センサが拾ったのである。
「な、なんだなんだなんだ?」
僕は、思わず声をあげながら、外の様々な情報がインジケーター付きで表示されているモニター群をきょろきょろと見回した。
と、実際に外で流れているのか、それとも音声系の処理回路がハッキングを受けたのか、アップテンポの能天気な音楽が、コクピットに鳴り響く。
「ばんのーむてき! みるく・えんじぇるっ!」
ぱやぱやぱやぱやぱやややや〜ん♪ といった感じの音楽をBGMに、自己紹介らしい宣言がなされたとき、僕はようやくそれを、モニターの中央に見付けた。あまりに小さくて見落としていたのである。
「なんだよ、これ……」
推定身長140センチ弱、推定質量35キログラム前後――要するに、どうひいきめに見てもただの子どもくらいの大きさの誰かが、ホバリングする竜機兵の目線の高度を維持しながら、こちらに飛来してきている。
そして、こちらとの距離約10メートルのところで空中停止し、びしっ、と見得を切った。
じゃじゃじゃん♪ というファンファーレを最後に、BGMが止む。
「……」
僕は、絶句してしまっていた。
それは、何やらレオタードのようなコスチュームと、装飾過剰な甲冑のようなものをムリヤリ合成させた感じの衣装をまとった、一人の少女だった。
戦闘用パワード・スーツに見えないこともないが、あんまりにもデザインが非実用的過ぎる。
ちなみに色は、ミルク色を基調に、ピンクや赤のストライプが要所要所に入っているというもので、とても戦闘用とは思えない。ヘルメットと肩当て、それからブーツのところには、鳥類の翼をモチーフにしたらしき飾りが広がっているのだが……まさか、あれが飛行装置なのだろうか?
胸の辺りが子どもにしては大きすぎるのは、装飾だろうか。もし、あれが本物だとすると、かなりのボリュームだ。
「青い地球をわがものにしようとする、悪の帝国ガイモス! たとえどんなに強いかいじゅーをよこしたって、あたしがいるかぎり、好きにはさせないんだから!」
と、僕のいささか不純な思考を、そんな声が遮った。
“ガイモス”ってのは、銀河標準語でまんま”銀河帝国”のことなんだけど、そういうことも含め、いろいろと誤解されているらしい。ミヒロー大佐は、あまりプロパガンダ活動は得意じゃなかったのだろう。
いや、それはさておき――
「こらあっ!」
僕は、頭部にあるコクピットのキャノピーを開け、風に煽られながら大声で怒鳴った。
「そんなとこにいると危ないぞっ! こっちは仕事でやってるんだ! 早く家に帰りなさい!」
目の前で展開していることのあまりの非常識さをどうにかしたくて、とりあえず、そんなことを言ってみる。
「あなた、ガイモスの新しいしょーぐん?」
そうこっちに呼びかけてくる声は、まさに子どもの声だ。10進法に直すと10歳前後といったところか。
「僕――いや、私は、銀河帝国地球侵略官レニウス少佐!」
何となく成り行きで、僕はそう名乗る。侵略行為のデモンストレーションとして名乗りをあげるのは、確かにセオリー通りなんだけど、これは何か違う気がする。
「レニウスしょーぐんね!」
「陸軍じゃないから将軍じゃない!」
「じゃあ、なに?」
「銀河帝国地球侵略官だって言ってるだろうが! 名前はレニウス! 階級は少佐! ちなみに資格は一級侵略士!」
手すりを両手で掴み、強い風にばたばたとスーツのすそをはためかせながら、僕は怒鳴り続ける。
「……」
少女は、ちょっと考え込んだ。
「ま、いいわ、かんぶなんでしょ、よーするに」
そう、軽い調子で言われ、僕はどっと疲労感を覚える。
一瞬、頭の中の翻訳用チップが機能してないんじゃないかとも思ったが、そういうわけじゃない。あのコは、こっちの言ったことを理解してくれてないのだ。
つまり、子どもなのである。
「ソード・オブ・ミカエルっ!」
と、僕の脱力っぷりにはお構いなしに、少女は、何やら叫んで両手を天に掲げた。
宗教上の儀式か何かか、と思いながら、とりあえず観察してみる。
「!」
少女の周囲に、ふわあっ、と光の粒子が舞ったかと思うと、一振りの剣が、その手の中に現れた。
物品瞬間移動? そんな技術、銀河帝国にだってない。なんだあのコは? サイキックか何かなのか?
「父さんの残したミルク・エンジンが回り続けるかぎり、この地球をおまえたちの手にわたしたりしないんだから!」
またも謎のタームを叫びながら、少女が、剣を振るう。
もちろん、その一撃が届くような距離じゃないんだけど、僕は、本能的にキャノピーを閉ざした。
ばきゃんッ! というデタラメなくらいの衝撃が、竜機兵を襲う。
「な? な? な?」
コクピット内では、一斉に警告音が鳴り響き、警告灯が光り始めた。
何らかの攻撃を受けたことだけは確かなのだが、その攻撃の正体が全く分からない。
僕は、パニックに陥りながら、竜機兵を格闘戦モードにシフトした。
と、モニター一杯に、彼女の顔が映し出される。
メインの視覚センサのすぐ傍まで、一瞬で少女が肉薄したのだ。
ヘルメットのバイザーに顔の上半分が隠れててよく分からないが、そのピンク色の唇には、無邪気な子どもそのままの笑みが浮かんでいる。
僕は、何かタチの悪い冗談に巻き込まれてしまったような気分で、レバーを握り、思い切りペダルを踏み込んだ。
負けた。
惨憺たる有様だった。
あの少女――ミルク・エンジェル(自称)は、終始、生身で体験したらGでぺしゃんこになるような急加速と急旋回で竜機兵を翻弄し続けた。
そして、自分の身長くらいありそうな剣を軽がると振り回し、謎の衝撃波で着実に竜機兵にダメージを与えていったのである。
竜機兵と言えば、銀河帝国が技術の粋を尽くして開発した機動侵略兵器である。獣機兵や鶏機兵とは違うのだ。一個中隊――10機もあれば、いかなる技術レベルにある惑星だって制圧できるだけのものなのである。銀河帝国においては、侵略事業以外に竜機兵を使用することが禁じられているほどだ。
それを、彼女は、あっさりと打ち負かしてしまった。
最終的に、竜機兵は、彼女にいかなるダメージも与えることなく、空中分解してしまったのである。
「おのれ、覚えてろ……っ!」
僕は、教本通り、まだ侵略行為を継続する意思があることをアピールしながら、脱出装置を作動させた。
そして、服から白煙をたなびかせながら地上に降り立ち、駅前に放置してあった自転車を拝借して、現地基地まで撤退を始めたのである。
「ミルク・エンジェル、勝利っ!」
背後では、あの少女が嬉しそうに勝ち名乗りをあげている。
なんなんだ、この事態は。
そもそも、あのミルク・エンジェルって呼称からして意味不明だ。この星の代表的家畜の母乳と、あと一神教における超越存在の使者とが、どうして結びつくんだ。
ミルク・エンジンってのも訳が分からない。あのコはパワード・スーツの動力源みたいなこと言ってたけど、牛乳を燃料にして動く内燃機関か何かなのか?
贅沢は言わないから、納得のいく説明がほしい。
「なんなんだよ、ちくしょう……」
僕は、ちょっと涙目になりながら、自転車を乗り捨て、雑居ビルの裏口にカモフラージュされた現地秘密基地の扉をくぐった。
狭い、ここの言葉で表現するなら、2DKくらいの大きさの秘密基地。
でも、諜報収集や日用品調達なんかのためには、こういった街中の基地のほうが都合がいいのだ。ちなみに、まだ残ってる竜機兵なんかは、近海の海底とかに隠してある。
そこに赴任した僕を待っているのは、たった一人の部下。しかも、アンドロイドである。最少の人員で最大の効果が、銀河帝国のモットーなのだ。
「お疲れ様でした、レニウス少佐」
ぴっ、と敬礼をする動作に合わせて、エプロンドレスに包まれたたわわな胸の膨らみが、ふるん、と揺れた。
そう、僕を出迎えたそのアンドロイドの少女は、いわゆるメイド服を着ていたのだ。
それだけじゃない。彼女の頭の両脇からは、先の尖った三角形の耳が、ぴょこん、と突き出てる。その上、お尻からは、太い尻尾までが生えていた。ちなみに、本来耳が付いているべき場所には、規格通り、丸いメンテナンス・ハッチがそれぞれついている。
肩の上で切りそろえられた髪が明るいオレンジ色ということもあって、彼女のデザイン・コンセプトがキツネであることが、分かった。
「特務大尉待遇アンドロイド、ココナです」
彼女――ココナは、吊り気味の大きな目をにっこりと細め、言った。
「この地球にようこそ、マスター。今日から、私があなたをアシストします」
「――銀河帝国地球侵略官レニウス少佐だ。IDは、DDD−F15E−1968−894E」
とりあえず、形式通りの挨拶をする。
「DDD……名家ですねえ」
「末っ子だし、厄介者扱いだよ。そんなことより――」
僕は、ココナの言葉をやや強引に遮り、訊いた。
「そのかっこう、なに?」
「あははっ、驚いちゃいましたか?」
ココナは、ぺろ、とピンク色の舌を出した。
「ミヒロー大佐の趣味で、こんなふうに改造されちゃったんです」
「あ、そう……」
それ以上何を言う気力も出なくて、僕は、ぐったりと用意された司令用のシートに座りこんだ。
「ミルク・エンジェルとの戦闘で、大佐も、かなり精神的に追いつめられてましたから」
「だろうね」
サングラスを外し、傍らのデスクに置きながらいう。
「あれは、いったい何者なの?」
「……一言で説明するのは、難しいですね」
そう言いながら僕の傍らに寄ってくるココナが、ぱちん、と指を鳴らす。と、壁の一面にあった大小様々なディスプレイに、映像が表示された。
「ミヒロー大佐の戦闘記録です」
「……噂通り、全部の竜機兵に乗ってたんだ」
「ええ。それが大佐のやりかたでした。ですから、出撃は必ず一度に1機だったんですよ」
確かに、この地球の文明レベルだったら、竜機兵1機で充分効果をあげることができるはずだった。加えて、ミヒロー大佐は、操縦する竜機兵の性能を何倍にもして引き出すという能力があったはずだ。
通常、竜機兵は、自動操縦か遠隔操作で扱うのが普通である。ミヒロー大佐という人は、おそらく戦闘行為そのものが好きだったんだろう。
「なのに、連戦連敗か……」
あらゆる戦場において、あの訳の分からない少女――ミルク・エンジェルに撃破されていく竜機兵の映像を眺めながら、僕は偏頭痛に見舞われた。
「はい。ミルク・エンジェル――あの存在が自称するその名前を、私たちもコードネームとしたわけですが――あれは、一度たりとも大佐の駆る竜機兵に遅れを取ることはありませんでした」
淡々とした口調で、ココナは言った。
「もちろん、私たちは、戦闘を通じて可能な限りのデータを収集しましたが、結果としては、謎がより深まったに過ぎませんでした。ミルク・エンジェルは、エネルギー保存則、光速度一定則、エントロピー増大則などなど、ありとあらゆる物理法則を任意に無視できるようなのです」
「何だか……そう、見えるね」
「驚くべきことに、ミルク・エンジェルの周辺ではエーテルさえ観測されてます」
「エーテルって……二個の炭化水素基が酸素原子によってつながれた構造をもつ有機化合物?」
「違います。光を伝達する媒質です」
こともなげに、ココナは答えた。僕は、ずる、と椅子からずり落ちかける。
「あの……冗談ではないので、ずっこけるところではないですよ?」
「君、何言ってるのか分かってるの?」
マジメな顔のココナに、僕は思わず大きな声をあげた。
「エーテルなんて、とっくに否定されてるだろ! 光速度一定則はどうなるんだよ!」
「だから、それが否定されてるんですってば」
ココナは、苦笑に似た表情をその顔に浮かべながら、言った。
「ようするに、物理法則がわやになっちゃってるんです。あのコの周辺ではね」
「……気が、狂いそうだ」
本音で、僕はそう言った。
「それは困りましたね」
そう言って、ココナが、椅子からずり落ちそうになってる僕の顔をのぞきこむ。
そして、何の前触れもなく、むちゅ、と口付けした。
「……!」
驚いて、その状態で口を開きかける僕の口内に、ココナが、とろりとした唾液を注ぎ込む。
「ん……」
味なんてないはずなのに、ほのかに甘く感じられるその液体を、僕は、思わず飲みこんでしまった。
「どうですか? 気持ち、収まりました?」
その、十代後半――10進法で、だけど――くらいに年齢設定された顔に、にこりと妖しい笑みを浮かべて、ココナが言う。
「……」
僕は、どう答えていいか分からなかった。たしかに、頭痛は収まっていたんだけど、その代わり、かーっと頭に血が昇ったような感覚がある。
それどころか、体中が……いや、間違いなく股間のあたりが、熱くたぎっていた。
どうやら、ココナの唾液には、男をその気にさせるような成分が含まれているらしい。
「これも、ミヒロー大佐の改造のせい?」
「そうです。でも、大佐は、その成果を試すことなく、施設に収容されちゃいましたけどね」
「……」
「だから、その……あたし、さみしくて……」
耳を伏せながら、ココナがちょっと切なそうな顔をする。
「――ったく、反則だよ、これじゃ」
言いながら、僕は、コンソールを操作してディスプレイの映像を消した。
そして、椅子に座ったまま、ココナの細い腰を抱き寄せる。
「あ……」
声をあげるココナの唇を、キスで塞いだ。
愛情があっての行為というわけではないが、こうしていると、何だかほっと心が休まるのも確かである。
今日は、ちょっといろいろなことがありすぎた。
ここは、一つ甘えさせてもらおう。
いや、ココナが、すごく魅力的な顔と体をしてたってこともあるんだけど……。
僕は、ようやく、唇を離した。ココナの顔が、ぽーっと染まっている。
白い肌に、通った鼻筋と吊り目。そんな顔の彼女が、頼りない表情を浮かべているのが、可愛らしい。
エプロンドレスに包まれた、豊かな双乳の合間に顔を押し付けると、なんとも言えない柔らかさがあった。
「あぁン……マ、マスターぁ……」
ココナが、甘ったるい声をあげながら、すりすりと身を寄せてくる。ふぁさっ、ふぁさっ、とゆれる尻尾が、彼女のお尻の辺りに回った僕の右手をくすぐった。
「マニアックだなあ……」
「こういうの、キライ、ですか?」
思わず言う僕に、ココナが、ちょっと不安そうに訊く。
「嫌いじゃ、ないけど」
そういいながら、僕は、その毛並みのいい太い尻尾を、撫でてみた。
「あ、ああン」
ココナが、切ない声をあげながら、僕の膝の上で身をよじる。
「ダメ……力が、抜けちゃいます」
「ふーん」
「あ、だから、ダメですってばあ」
しつこく尻尾を撫でまわす僕に、ココナが恨みっぽい瞳を向ける。怒った顔も魅力的、なんてのは陳腐な言い方だけど、何だか生き生きしてるのは確かだ。
「きもちよくないの?」
「ちょ、ちょっと……ひゃん! で、でも、くすぐったい……です……っ」
そういうことなら、ここばかり責めるのも可哀想だ。
僕は、ココナのブルーのワンピースの前をくつろげ、ほどよく熟れたその胸を、外に解放した。
可愛いピンクの下着に包まれた丸い乳房に、手を這わせる。
「ふーん、この文化圏の下着は、こうなんだっけ」
そんなことを言いながら、ブラのフロントホックを外す。こんなものの外し方まで僕の頭の中のチップには入力されてるわけだ。
ぽろん、と溢れ出た白いおっぱいの頂点で、小粒の乳首が、何だか恥ずかしそうにしている。
「ん……ちゅっ……」
僕は、半ば勃起したその乳首に、交互に口付けした。
「あ、あぁン……」
口に含み、舌でころころと転がすと、みるみる乳首は固く尖ってくる。かなり感度はいいようだ。
「あはっ……マ、マスター……き、きもちイイ……ですゥ……」
媚びるようなその声が、僕の思考をますます蕩かす。
そして、股間のものは、ココナの唾液の効果など関係ないくらいに、僕自身の興奮によって、痛いくらいに屹立していた。
「はぁ……ン」
ココナは、僕の愛撫に身をよじらせながら、腰の辺りで、僕のズボンの膨らんだ部分を刺激する。
ひとしきりそうしてから、ココナは、腰を後退させ、僕と向かい合ったまま、膝にまたがるような格好になった。
太ももに、薄手のショーツに包まれた彼女の秘部の感触がある。それは、柔らかくて、そして熱かった。
「マスター……もう、いただいちゃっていいですかぁ?」
その白い手で、ズボンの布地の上からペニスの形をなぞりながら、ココナが訊いてくる。
「いいよ」
「うれしいっ♪」
僕の返事にはしゃいだ声をあげて、ココナは、細くしなやかな指で僕のズボンのジッパーを下ろした。
そして、どこか慣れた手つきで、トランクスの奥から、僕の不肖の息子を外に引っ張り出す。
「わぁ……マスターの、もう、ビンビンですね」
笑みを含んだ声で、ココナが言う。
「君がそうさせたくせに」
「あの薬、そんな強いものじゃないですもん。ここまでなってるのは、マスターがエッチだからです」
そんなことを言いながら、ココナは、指先で僕のペニスを弄んだ。
先端からにじんだ僕の体液で、ココナの指が濡れていく様が、ひどくいやらしい。
自分で意識しなくても、ひくひくとペニスが震えてしまう。
と、ココナが、指を離した。
「マスター……ココナのパンツ、脱がしてください……」
そう言って、僕の膝をまたいだまま、両手でスカートをまくりあげる。
ココナが履いていたのは、ブラと同じピンク色のショーツだった。サイドが、紐になってるタイプのやつである。
なるほど、これなら、この姿勢でもすぐに脱がすことができる。
僕は、するするとその紐パンツをほどき、ココナのそこを露わにした。
薄めの、明るいオレンジ色のヘアが、ぷっくりと膨れた恥丘を、慎ましやかに飾っている。
その奥に、すでにほころんだ肉色のクレヴァスが見えた。
「濡れてる……」
そう、僕が言うまでもなく、ココナのそこは、しっとりと蜜をふくみ、きらきらと光っていた。
脚を開いたはしたない姿勢のココナのその部分に指を伸ばし、くちゅくちゅとくすぐる。
「あ、あン……ああ、ア……っ♪」
ココナは、倒れないように僕の首に両手を回しながら、その細い体をうねらせた。
身悶えるたびに、ふるん、ふるん、とそのたわわな乳房が揺れる様が、何とも煽情的だ。
「ココナ……」
僕は、ちょっと息を荒げながら、彼女の脚をそれぞれ抱え引き寄せた。
そして、椅子の肘掛の上に載せる。
細い脚をMの字にして、僕のペニスにアソコを摺り寄せる格好だ。
その状態で、まくりあげたスカートごとココナの細い腰に手を回す。
「あ、はぁ……マ、マスター……早く……ください……」
潤んだ瞳で僕のペニスを見つめながら、ココナがおねだりをする。
僕は、反りかえったペニスの腹のところを、すでにとろとろと透明な液を溢れさせているココナのクレヴァスにこすりつけた。
「ひあ……っ! じらさないで、じらさないでくださいィ……」
ぐっ、とココナが僕の首を掻き抱きながら、哀願した。
もちろん、僕自身、あんまりガマンできるような状態ではない。
ココナの腰を持ち上げ、そして、ペニスで狙いを付ける。
「ンああああああああん♪」
ぐうっ、と一気に挿入すると、ココナは体を反らして嬌声をあげた。
熱く、柔らかな感触が、僕のペニスを包み込む。
僕は、ココナの腰をつかみ、ゆっくりとローリングさせた。
「んんんっ……あ……マスターのが、ココナの中、かきまわしてます……」
手を後ろに回し、僕の両膝に重ねるような姿勢になったココナが、そんなことを言う。
ちょうど、腰をいやらしく前に突き出すような格好だ。僕とココナの結合部が丸見えである。
その上、膝を肘掛に乗せてしまったココナは、思うように体を動かすことができない。
それをいいことに、僕は、自分のペースで、ココナを責めることにした。
ゆっくり、しかし大きなストロークで、ココナのお尻を上下させ、アソコをペニスでえぐる。
「あ……ンはぁ……あう……ン……ぅああン……」
ぽたぽたと愛液がしずくになってこぼれるのを見るまでもなく、ココナの性感が高まっていってるのが分かった。
靡肉がますます熱くなり、そして、きゅうん、きゅうん、と収縮を繰り返している。
ぬらつく僕のペニスが、一杯に広がったココナの膣口を出入りする様は、淫ら過ぎて、いっそ無残なくらいだ。
僕は、何かに追いたてられるように、次第にピストンを早めていった。
そうしながら、目の前で誘うように揺れる桃色の乳首を、口に含む。
「あ、あン……あぁ……あっ……あン、あンンっ、あ――あひいッ!」
不意に歯を立てると、びくン! とココナの体が硬直した。
構わず、左右の乳首を甘噛みしながら、ココナの腰を上下に揺する。
「ひッ! ひああ! か、かんじゃダメぇ……かんじゃ、ダメ、ですっ……!」
そう言いながら、スレンダーな体に不釣合いなくらいの巨乳をぷるぷると揺すり、ココナは身悶える。
きりきりとペニスを締めつける膣肉の感触に、僕はますます夢中になった。
乳首だけではなく、おっぱいの滑らかな表面のそこかしこに歯を立てながら、ぐいぐいとココナの腰を動かす。
「あっ! ダメえ! き、きもちイイっ!」
きゅううううッ! と一際激しく、ココナのアソコが僕のペニスを絞り上げる。
「ダメ、ダメダメダメダメえー! ロ、ロックが、はずれちゃうううーッ!」
そう、ココナが妙な叫びを上げた瞬間、ぐりん、という硬い快感が、僕のペニスの背中を辺りを襲った。
「え――!」
ぶるるん! とすごい勢いで、ココナのアソコから、ピンク色の妙なものが飛び出る。
それは、青筋を浮かせ、ひくひくと射精の予感に打ち震える、立派なペニスだった。
一瞬、僕のものがぬけたのかと思ったが、そうじゃない。ココナのクリトリスの辺りから、ペニスが生え出てきたのである。
驚きのあまり声を失いながらも、僕は、ラストスパートにはいった腰の動きを止めることができない。
「ああああッ! マスター! あたしイク! 出るッ! 射精しちゃいますーッ!」
そんな、ムチャクチャな喘ぎ声。
それを聞きながら、僕は、最後のときを迎えた。
「くッ……!」
堪えていた大量の精を、一気にココナの膣奥に注ぎ込む。
「ああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーっ!」
と、ココナも、歓喜の声をあげながら、すごい勢いで射精した。
剥き出しのペニスが、体をのけぞらせるココナの股間で、びゅくびゅくと激しく律動し、あたり構わず本物そっくりの白濁液を撒き散らす。
ココナのスペルマは、鋭い放物線をいくつも描きながら飛び散り、僕と彼女の服を、どろどろに汚してしまった。
「あ、あぁ……ああぁ……あー……」
ココナは、快感に呆けきった顔で、未だ鈴口から精を漏らし続けている自らのペニスを眺めている。
そして、それよりも少し早く理性を取り戻した僕は、部屋の掃除と服の洗濯を担当するのはどっちなのか、ということを、つい考えてしまったのだった。
結局、洗濯は全自動洗濯機が行い、部屋の掃除は、ココナがすることになった。
服を着替えた僕は、食事用のテーブルに移って、拭き掃除をしているココナの尻尾を、ぼんやりと眺めている。
「あれも、ミヒロー大佐の趣味なの?」
「そうです」
ココナが、元気のない声で答える。
「すいません……きちんと収納できるはずだったんですけど……お見苦しいところを見せました」
そんなことないよ、と言うには、僕自身が受けたショックも大きかった。ノーマルなはずの僕の性癖に倒錯した影を落としてしまうほどに。
僕は、つい、言葉を探してしまった。
見ると、ココナの細い肩は落ち、尖った耳もしゅんと伏せられている。
僕は、一つ息をついてから、ココナの背中に歩み寄った。
「ま、その……あんま、気にしないでいいよ」
そう言いながら、体に腕を回す。
「君は、僕を元気にしようとして、してくれたんだしさ」
「マスター……ありがとうございますっ♪」
ココナは、僕の腕の中で振りかえり、ぎゅっ、と抱きついてきた。
腰の辺りに、ぐにゅ、と奇妙な感触を感じる。
「あの、それはそれとして……やっぱ普段は、しまってくんない?」
「あ、ごめんなさぁい」
てへへ、と笑いながら、ココナはスカートの中に手を差し込んだ。
「あ、うン……♪」
そして、ひどく悩ましい声をあげながら、なにやら股間をごそごそしだす。
僕は、前途にいささか不安を覚えながら、基地の白い天井を仰いだのだった。
《エンディング・テーマ》
『白い天使のうた』
《次回予告》
はじめまして、舞川美玖、ようやく登場です♪
今日、家庭教師の人がうちに来ました。背が高くてカッコよくて、ちょっとドキドキ☆
でも、なんだかママも、その先生のコト、熱いヒトミで見てて……もしかして、恋のライバル?
次回、『侵入! 家庭教師』。お楽しみにっ!
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