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3−1



(かったるいなあ……)
 小夜歌は、眩しい太陽の光を反射する水面を眺めながら、ぼんやりと思った。
 スクール水着に水泳帽という姿の級友たちは、授業中とは思えないほどにうきうきしている。体育の教科担任の顔も、いつもより数段明るい。
 そんな中、一人、小夜歌だけが、いつもと同じ無表情だ。
 小夜歌は、水泳の授業など、別に面白いとも思わない。
 確かに暑い日に水につかるのは気持ちよくはあるが、それでも、皆で一斉に泳ぐことには全く心が動かなかった。物事は一人で楽しむのが彼女の流儀である。
 グラウンドを走っている男子生徒たちが、こちらに露骨な視線を向けているのも、何だか鬱陶しい。
「どうしたの? 小夜歌」
 同じ合唱部の瑞穂が、そう訊いてくる。
「ちょっと、気分が悪くて……」
 小夜歌の口から、するすると嘘が流れ出た。クラスで唯一といっていい友人を騙しながらも、そのことにほとんど罪悪感を感じない。小夜歌はそういう少女だ。
「今日、ちょっと日差し強いしね。あたしそういうの苦手なの」
「そうだったね」
 瑞穂が、心配そうな表情を、その可愛い丸顔に浮かべる。小夜歌が強い太陽を苦手とするのは本当だ。
 結局小夜歌は、水着をシャワーで濡らしただけで、プールの授業を欠席することにした。



 保健室で休む旨を教師に告げた後、小夜歌は、女子更衣室へと歩いて行った。更衣室は、プールに隣接した体育館の中にある。
 遠くから聞こえる高い嬌声をかすかに聞きながら、小夜歌は、更衣室のドアを開けた。
「!」
 セーラー服の夏服をまとったスレンダーな少女が、声にならない声をあげながら、小夜歌の方を向いた。そして、とっさに両手を背後に回し、その手に握っていたものを自らの体で隠す。
「誰、あなた……」
 少女が立っているのが、自分に割り当てられたロッカーの前であることを確かめながら、小夜歌は少女に近付いていった。
 眼鏡の奥のおどおどした目とカールした長いまつげが印象的な顔をしている。髪はやや褐色で、耳を隠す程度のショートカットだ。
 美少女、と言ってもいいくらいの顔立ちだが、小夜歌には見覚えがない。
 ――いや、あるにはあるのだが、該当する名前が頭に浮かんでこないのである。
「この学校のコ……でしょ? どっかで見たことある顔だもの」
 そう言われて、少女は、その桜色の唇を細かく震わせる。
 小夜歌は、少女を追い詰めるように、その前に立った。少女は無意識に後ずさり、背中をロッカーにぶつけてしまう。
 少女の顔を間近で見て、小夜歌の切れ長の目が、すっと細められた。
 少女は身をひるがえし、迫る小夜歌から逃げ出そうとする。
「あっ!」
 少女が悲鳴をあげる。小夜歌が、そのしなやかな腕を素早く伸ばし、少女の手を捕らえたのだ。
 そのまま、容赦のない力で、少女の腕をひねり上げる。
「い、いた……」
 ひねりあげられた手が握っているものを見て、小夜歌は困ったような笑みを浮かべた。それは、小夜歌の純白のショーツだったのである。
「可愛い顔して下着ドロなんだ。七瀬ってば」
 名前を呼ばれて、その体がびくっと震える。
「七瀬……タケルだったっけ? 下の名前」
「あ……」
 ため息のような声をあげながら、“七瀬タケル”は床にへたり込んでしまう。
「生徒手帳か何か、持ってる?」
 言われて、“七瀬タケル”はおずおずと小夜歌の顔を仰いだ。
「よこさないと、ここで大声出しちゃうわよ」
「……」
 観念したように差し出された手帳を、小夜歌は、腕を握っていない方の手で受け取った。
「2年E組、七瀬健……。ふーん、E組だったっけ? 健クン」
 生徒手帳の写真を意味ありげに眺めながら、小夜歌は言った。その写真の中では、線の細い眼鏡をかけた学生服の少年が、いささか緊張した顔でこちらを見つめている。
「立ちなさいよ」
 少女――いや、少女の姿をした健の手を離し、小夜歌は冷たい口調で言った。
「え……えっと……」
 まだ手の中にあるショーツと、小夜歌の顔を交互に見つめながら、健はとまどったような表情を浮かべる。
「去年同じクラスだったときから、ちょっと女のコっぽい奴だなとは思ってたけど……そういう趣味だったんだ」
「ち、違うんだ……僕は……」
 健が、中性的な声で何か言い訳しようとする。
「何が違うって言うのよ」
 まだ被っていた水泳帽を脱ぎながら、小夜歌が言った。しっとりと濡れた黒髪が白い肌にまとわりつく姿が、妙に色っぽい。
「僕は、その……脅されて、しかたなく……」
「しかたがないから、あたしのパンツ盗んだの?」
 そう言いながら、小夜歌は、ほとんど同じくらいの高さにある健の顔に、その顔を近付けた。
 スクール水着を着たままの少女に迫られ、セーラー服をまとった少年は、耳まで顔を赤くしてしまう。
「しっかしまあ、なんであたしの周りの男どもって、マトモなのがいないかなァ?」
 長いまつげにふちどられた潤んだ目を見ながら、小夜歌はぼやくようにつぶやいた。
「え?」
「こっちの話よ。……とりあえず、返してもらうわよ」
「あ……ご、ごめん……」
 謝る健の手からショーツを受け取った小夜歌は、少し考えた後に、その唇に笑みを浮かべた。
「健クンは、ホントに脅されてやったの?」
「う、うん……。セーラー服なら、女子更衣室入っても、目立たないだろうからって」
「じゃあ、パンツ脱いで、スカートめくってみて」
「ええっ?」
 大声を上げる健の口を、小夜歌は手の平でふさいだ。
「ダメよ、そんな声だしちゃあ」
 小夜歌は、小悪魔的な表情を浮かべながら、健の耳に口を寄せ、続けた。
「誰か来たら困るでしょ……。さ、早く脱いで。健クンがエッチな気持ちになってないかどうか、あたしが調べてあげる」
「そんな……」
「君には、選択の余地はないの♪」
 歌うような口調でそう言いながら、小夜歌は体を離し、健の生徒手帳をひらひらと動かした。
「……」
 健は、その繊細そうな顔をうつむかせ、のろのろとスカートの中に手を差し入れた。
 すとん、と健の足元にトランクスが落ちる。さすがに、女物の下着までは用意してなかったらしい。
 健の動きが、止まってしまう。
「ほら、スカートめくって」
 小夜歌が、躊躇する健に残酷な口調で言う。
 健は、うつむいたまま、自らがまとうフレアスカートを、そろそろとめくり上げた。その白く細い手が小刻みに震えている。
 次第にのぞく健の脚は白く滑らかで、とても少年のそれとは思えない。
「結城さん……もう、許して……」
 健が、泣きそうな声で言う
「ダメよ。健クンのオチンチンがどうなっているか、きちんと見なきゃ」
 美貌の少女の口から卑猥な言葉を聞き、健はますます顔を赤くした。
「それとも、人を呼んじゃおうか? この状況じゃあ、もう何も言い訳できないだろうけど」
「や、やめてよ……ッ」
「じゃあ――はやくしなさいよ」
 けして大声ではないが、ムチのように鋭い口調でそう言われ、健はとうとう自らの股間を露にした。
「え……」
 小夜歌は、思わず声をあげ、目を見張っていた。
 スカートの中に隠されていた健のそれは、その少女じみた顔からは想像もできないほどのサイズだったのである。
「うゎ、おっきい……」
 同年代の少女の中でも、かなりの男性経験を有する小夜歌だが、その巨根には、どうしても見入ってしまう。
 健のペニスは、半ば勃起した状態にあった。その状態で、拳二つで握ってもまだ余るほどの大きさになっているのだ。
 足腰のラインが華奢である分だけ、凶悪さを感じさせるほどのサイズである。完全に勃起すれば、その亀頭は臍の高さをゆうゆうと越えてしまうだろう。
 浅ましく静脈を浮かせて、劣情のままに屹立しつつある自らの欲棒を見つめられ、健は羞恥に顔を背けた。その膝は、かくかくと震えている。
「ずいぶんとおっきくさせてるじゃない、健クン……」
 そうやって言う小夜歌の声は、興奮のためか、かすかに上ずっていた。しかし、健はそんなことに気付かない。
「女装して、あたしのショーツにぎりしめて、こんなにオチンチンおっきくさせてたの?」
「そ、そんな……」
 小夜歌に言葉で嬲られて、健は、なぜかますますその長大なモノをそそり立たせてしまう。
「こんなんじゃ、スカートの上からだって、男のコだってバレちゃうよ……」
 小夜歌はそう言いながら、右手でそろりと健の頬を撫で上げた。びくっ、と健の体が跳ねるように震える。
「オナニー、して見せてよ」
「!」
 小夜歌の言葉に、健は大きく目を見開いた。
「もう、一回出さなきゃおさまんないでしょ……。さ、してみて」
「でも……」
「口答えしちゃダメ♪」
 小夜歌はそう言って、健のスカートの裾を握り、その口元に近づけた。
「さ、これを咥えて……それから、あたしの前でオナニーするのよ」
 切れ長の大きな目に見つめられ、健は、思わず肯いてしまった。
 そして、小夜歌の言葉通り、スカートの裾を口に含み、両手で自らのペニスを握る。
 白く華奢な両手で握られたその男根は、よりいっそう逞しく見えた。
「んン……」
 そろそろと、健はその節くれだったシャフトに添えた両手を動かし始めた。
 しゅっ、しゅっ、しゅっ、しゅっ……と、少年が自らを慰めて快楽を育てていく姿を、小夜歌はその瞳を妖しく潤ませながらじっと見つめている。
 健のそれは、手淫によってますます体積を増し、急な角度でそそり立っていった。
 健の頬が、羞恥のために、これ以上はないというくらいに赤く染まり、その長いまつげが涙に濡れている。
 しかし、水着姿の少女の前で自慰にふけるというシチュエーションに、健が異様なまでに興奮していることも事実だった。
「んっ、んっ、んっ、んくっ、んんんっ……」
 健の手の動きは次第に速くなり、鼻息もせわしなくなっていく。
「セーラー服着てオナニーして、それでそんなに感じちゃうなんて……健クンってば、本当にヘンタイね」
 小夜歌の残酷な言葉に、健は、スカートの裾を咥えたまま、ふるふると首を振る。
 しかし、そんな仕草も、小夜歌の嗜虐心を満足させるだけだ。
「何が違うのよ……健クンのオチンチン、先っぽからどんどんエッチな汁が溢れてるわよ」
 小夜歌の指摘通り、健のペニスは呆れるほどのカウパー氏腺液を分泌し、その白い手を無残に汚している。
「ふふ……エッチな匂い……」
 その年齢からは考えられないような妖艶な表情を、小夜歌が浮かべる。
 その顔を見るだけで、健の股間のモノは、これまで感じたことのないような快楽にますます熱くなった。
 健の手の動きが、さらに激しくなる。まるで、自らのペニスを傷めつけようとしているかのようだ。
「んくっ……んんン……んぐ……んふーッ……!」
 健は、その細い眉を悩ましげにたわめながら、必死で快楽の喘ぎを噛み殺している。
 エアコンのない、蒸し暑い更衣室の空気の中、健の顔は、じっとりと汗をにじませながら、今まさに犯されている少女のように羞恥と快楽に歪んでいた。
 そんな健の顔を見つめながら、小夜歌も呼吸を速くしていく。
「んんンっ!」
 健が、スカートを咥えたまま、驚いたような声をあげる。
 今まで感じたこともないような、繊細で柔らかな刺激が、敏感になった亀頭をくすぐったのだ。
 見ると、小夜歌が、その顔に悪戯っぽい笑みを浮かべながら、右手につまんだショーツで、健のその部分をさわさわと撫でている。
「気持ちイイ? 健クン」
 小夜歌の言葉に、健はおずおずと肯いた。
「もう、出ちゃいそう?」
 もう一度、健が肯く。
「でも、ダメよ」
 小夜歌の言葉に、健は、え、と目を見開いた。
「当たり前でしょ。健クンのセーエキで、あたしの下着、ねとねとにする気?」
 そう言いながら、小夜歌は右手でショーツによるくすぐりを続けながら、左手を健の右手に添えた。
「ほら、手がお留守になってるわよ……」
「んン……」
 小夜歌に導かれるまま、健は手淫を再開してしまう。
 にちゅ、にちゅ、にちゅ、にちゅ……というイヤらしい湿った音が、かすかに小夜歌の耳に届いた。
 健の瞳は、これまで感じたことのない苦痛を伴う快美感に濡れ、きちんと焦点を結んでいない。
 溢れ出そうになる快楽の迸りを、健は、意志の力を掻き集め、必死になってこらえている様子だ。
 その細い体が、ぷるぷると小刻みに震えている。
「エッチな顔ね、健クン……」
 小夜歌は、右手に持つショーツでペニスをくすぐりながら、その左手を健の頬に当てた。
「ンぁ……」
 奮える健の唇が半開きになり、フレアスカートの裾がはらりと下に落ちた。
 しかし、スカートは健の長大なペニスに引っかかる形になり、その自慰行為を隠す役目を果たせない。
「健クン……」
 小夜歌はその切れ長の目を半ば閉じながら、健の顔に顔を寄せた。
「ゆうき、さん……」
 ひどく情け無い声で、健が応じる。
 小夜歌が、健の唇に唇を重ねた。
「んんんンンっ!」
 しなやかな舌で口内をまさぐられながら、健はくぐもった悲鳴をあげた。
 びくびくびくっ! と、堪えようのない強烈な快楽に、健の体が震える。
 そして、健は、小夜歌のショーツを弾き飛ばすような勢いで、射精してしまった。
「ん! んン! ん……んふーっ……!」
 同い年の少女に口腔を舌で犯されながら、健は、絶望的な息を漏らした。
 その若いペニスは何度も律動を繰り返し、びゅうっ、びゅううっ、と白濁した液を放ち続けている。
「ンあぁ……」
 健は、人形のように空ろな表情で、ぺたん、と座り込んでしまった。
 しわくちゃになったスカートの端から、まだぴくぴくと痙攣している亀頭がのぞいている。
「あーあ……ダメだって言ったのに……」
 小夜歌は、右手につまんだ自らのショーツを、健の目の前にさらした。その可憐な白い布地は、少年の精液によって無残に汚され、ぽたぽたと粘度の高い汁を滴らせている。
「ぐちゃぐちゃになっちゃったじゃない」
 そう言いながら、小夜歌が、生温かい牡のエキスにまみれた下着を、ぺたぺたと健の柔らかそうな頬に触れさせる。
「う……うっ……」
 自らの浅ましさの証を思い知らされるようなこの仕打ちに、健は顔を背け、目尻に涙をにじませた。
「健クン……」
 小夜歌は、健の名を呼びながら、無造作にショーツを床に落とした。べちゃ、という音を立てながら、モルタルの床に落ちたショーツから白濁したしぶきが跳ねる。
「ココに、お詫びのキスをするのよ……」
 そう言いながら、小夜歌は、横を向いたままの健の顔を、正面に向けた。そして、自らの股間に、その少女じみた顔を導いていく。
「はい……」
 自分でも何に対して返事をしているのかきちんと理解しないまま、健は吸い寄せられるように、小夜歌のその部分に顔を寄せていく。
 まだしっとりと水を含んだスクール水着の上から、健は、小夜歌のその部分に口付けした。
「あン……」
 意外なほど可愛い声を、小夜歌があげる。
「そ、そのまま……あたしのアソコ、舐めて……」
 自身の喘ぎを少し恥じ入ったように、ことさらに冷たい口調で、小夜歌が言う。
 健は、従順そうにその目を閉じ、小夜歌の言葉通りに舌を使いだした。
 紺色の水着の上から、少年の舌が少女の陰裂をなぞる。
「はぁ……っ」
 小夜歌は、大きく息をつきながら、自らの体を抱き締めた。
 厚めの布地の上からのもどかしい口唇愛撫よりも、どこかこのシチュエーションに陶酔しているかのような健の表情に、ぞくぞくするような快感を覚えてしまう。
 健は、正座を崩したような姿勢のまま、まるで主人に媚びる犬のように鼻を鳴らしながら、小夜歌のその部分を舐め続けた。
 そして、そうするとますます小夜歌が悦ぶのを知っているかのように、ちゅうちゅうと布地の上から敏感な部分を吸い上げ、恥骨に鼻をすりつけるようにする。
「ン……んふっ……ア……健クンてば……」
 はァはァと息を荒くしながら、小夜歌は、こみ上げる快感に耐えられなくなったかのように、スチールのロッカーにその背を預けた。
 そして、健の頭に両手を置き、その顔をますます自分のその部分に押しつける。
「んんんんン〜ッ!」
 健が、苦しげな声をあげた。
 が、見ると、健の股間では、その巨根が再び力を取り戻し、次第に屹立しつつある。
 小夜歌は、ぞくりとするような微笑みをその口元に浮かべた。
「何ボッキさせてんのよっ!」
 そして、そう罵りながら、健の長大なペニスを素足で踏みつける。
「んぎゃっ!」
 たまらず、健が叫びながら、その体をのけぞらせた。
 小夜歌はかまわず健のペニスを踏みにじる。
「あ、あああ、あッ! ああああアーッッッ!」
 健は、絶望的な声をあげながら、二度目とは思えぬほどの大量の精を、女子更衣室の床にぶちまけてしまっていた。

 ようやく健が我に帰ると、小夜歌はすでにセーラー服に着替え終わっていた。
「あ、あの……結城さん……?」
 床に落ちた精液まみれのショーツと、小夜歌の顔とを交互に見つめながら、まだへたりこんだままの健が言う。
「替えの下着くらい、持ってきてるわよ」
 にっ、と悪戯っ子のように歯を見せて微笑みながら、小夜歌が言う。
 そして、小夜歌は、部屋のすみにあるバケツの中にあった雑巾を健の膝の辺りに放った。
「床くらいはきちんと拭いてよ」
 更衣室の床や、木製のすのこの上には、健が放った欲望の残滓が、点々と付着している。小夜歌の言葉に、健はかーっと顔を赤くした。
 そんな健の様子に構わず、小夜歌はさらにパイプ椅子を持ち出し、自分に割り当てられたロッカーの前で展開させる。
「でさ、盗れって命令されたのは、あたしの下着だけ?」
「し、信じてくれるの?」
 はっ、と健が顔を上げる。
「そりゃまあね。健クンがそんな度胸の持ち主とは思えないし」
 ずけずけとそんなことを言いながら、小夜歌はパイプ椅子の上に上がった。そして、自分のロッカーのちょうど向かい側のロッカーの上を調べだす。
「あー、あったあった。こんなこったろうと思ったわ」
 そう言いながら、小夜歌は、ロッカーの上に放置されたダンボールの箱を動かした。
 そして、ダンボールの陰に隠されていた何かを右手に持ち、椅子の上に立ったまま、健に見せる。
「カ、カメラ……?」
「ビデオカメラね。最近のはホントに小さいなあ」
 妙なことに感心しながら、小夜歌は手に持ったビデオカメラを操作し、中のテープを取り出した。
「大方、下着がなくて右往左往するあたしを撮ろうとしたんだろうけど……。水着に着替えてるとこも、撮られちゃってたかな?」
 そう言いながら、小夜歌は健に視線を移した。
「し、知らないよ、僕は……」
「分かってるって」
 そう言って、小夜歌はテープを抜いたカメラだけ、ロッカーの上に戻した。
「健クンがしたのは、下着ドロの未遂だけだよね♪」
「……ごめん、なさい……」
 健が、気の毒になるほどしょんぼりとうなだれる。
「ふふ……さっきの可愛い顔と声に免じて、許してあげる」
「結城さん?」
「あたしの下着、持ってっていいわよ。どうせ、健クンので、べとべとになってるし……。洗濯して、いじめっ子に渡したら?」
「結城さん……」
 茫然としたような顔で、健は、淡く微笑みを浮かべたままの小夜歌の顔を見つめた。



 翌日の、朝。
「あ、お帰り、お兄ちゃん」
 マンションのドアを開けながら、小夜歌は、少し意外そうな顔でそう言った。
「土産だ」
 ぶっきらぼうな口調で言いながら、小夜歌の兄、遼は、ビニール袋に入った菓子折りを差し出した。
「銘菓ひよこに鳩サブレ?」
「東京だからな。雷おこしのほうがよかったか?」
 面白くもなさそうな顔で、遼が言う。
「わざわざどーも」
「帰る途中に寄っただけだ。車、ここの駐車場に預けていたからな」
「そうだったね」
 小夜歌は、苦笑いしながら言った。この、伸びた前髪で表情を隠した兄の態度には、とっくに慣れっこになってる。
「でさ、ちょっと時間ある? 家で由奈さんが待ってるとは思うんだけどさ」
「大きなお世話だ。……学校は?」
「今日は土曜で休みだよ。自由業は気楽でいいね」
「自由業、か……」
 遼が、自嘲するかのような声で言う。
「そんなことよりさ、ちょっと、相談があるんだ」
 妙にしおらしいことを言う妹に、遼は、前髪の奥の眉をわずかに寄せた。



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