1−2
翌朝、由奈は、いつもより遅く目覚めた。
そのまま、のろのろと服を脱ぎ、シャワーを浴びる。ぬるいお湯に打たれながら、その幼い顔には、いかなる表情も浮かんでこない。
バスルームから出ると、由奈の携帯が、メールを受信していた。慌てて表示を確認する。
「ご主人様……」
メールは、遼からだった。
“少し遅くなる。昼過ぎには帰る。遼。”
ただそれだけの、そっけないメッセージ。
由奈の大きな瞳が、みるみる涙で潤む。
「ごしゅじんさまァ……」
まるで子どものような声でそうつぶやきながら、由奈は、ごしごしと涙をぬぐった。
と、いきなり、携帯が着メロを奏でだす。
由奈は、びくっと体を震わせ、そして、着信ボタンを押した。
ことさらゆっくりと、耳元に携帯を寄せる。
電話は、千鶴からだった。
千鶴が由奈を呼び出したのは、港に隣接した公園だった。
日本海の波が、高く昇った初夏の太陽に照らされ、きらきらと光っている。
「センパイ、遅刻ですよ」
そんな紺碧の海をバックに、腰に手を当てた姿勢で千鶴が言った。洗いざらしの涼しそうなデザインのカッターシャツにショートパンツという、例によってボーイッシュな格好である。
一方、由奈は、彼女にしてはおとなしいデザインのセーラーブラウスにスカートだ。
「だって……」
「だってじゃありません♪ ペナルティーです」
そんなことを言いながら、千鶴は、由奈の白く小さな手を無遠慮に握った。
そのまま、まるで幼い妹の手を引く姉のように、ずんずんと歩き出す。
「ちょ、ちょっと、千鶴ちゃん……」
その力ない抗議を無視して、千鶴は、由奈を公衆トイレの中に連れこんだ。
中に使用者がいないのを確認して、頭半分は小さい由奈の体を強引に個室に押し込み、自らも入って鍵を閉める。
「……」
薄暗い個室の中、由奈は、無言で千鶴を見つめている。
その哀しげな表情に気づいているのかいないのか、千鶴は薄く微笑みながら、背負っている小さなナップザックから奇妙な器具を取り出した。
「何、それ……?」
千鶴の手の中にある、ウズラの卵よりも一回り大きなプラスチックらしい楕円形の器具を見て、由奈は思わず訊いてしまった。
「これはァ、こうやって使うんです」
そう言いながら、千鶴は、真ん中で筋目の入ったその器具を、軽くひねった。
ジジジジジ……と小さく音をたてながら、そのピンク色の小さなプラスチックの卵が、細かく振動を始める。
「それって……」
「さ、センパイ、パンツ下ろして、スカートめくってください♪」
大きな目を見開く由奈に、千鶴が笑みを含んだ声で言う。
「そんな……!」
「センパイ、素直に言うこと聞いて下さいよ……」
狭い個室の中で、千鶴は、由奈に迫った。思わず後ずさる由奈の背中に、タイル貼りの壁があたる。
「千鶴ちゃん……」
「セ・ン・パ・イ♪」
耳元でそう囁きながら、千鶴は、振動しているその電池内蔵式のローターを由奈のスカートの中に差しこんだ。
そして、ショーツの薄い布越しに、敏感な部分に押し当てる
「ひやっ!」
思わず大声をあげて、由奈は、その小さな口を両手で押さえた。その仕草が、妙に可愛らしい。
「さ、早く脱いで……センパイのアソコに、コレ、入れてあげるから……」
由奈は、じっと唇を噛み、そして、おずおずとショーツに手をかけた。
例のビデオを押さえられている以上、結局、由奈は千鶴に逆らえない。しかも、昨日に続いて今日も体を許すことによって、ますますこの後輩に弱みを握られてしまう。
由奈は、自分が底無し沼にでもはまってしまったような絶望感を覚えていた。
ローターが、直接、由奈のその部分に押し当てられる。
「んン……んく……んんッ……」
遼によって入念に開発され、見かけよりはるかに成熟してしまった靡粘膜が、あっけなく快楽の蜜をにじませる。
千鶴は、左手を由奈の右腕に添えながら、ローターを持つ右手をくりくりと動かした。
「ンうぅッ」
思わず、由奈は千鶴のシャツを握り締めてしまう。
千鶴は、その顔にサディスティックな表情を浮かべながら、振動を続けるローターを由奈の秘裂に埋没させていった。
「ン……ぅああ……あうぅ……」
体温のない冷たい機械を押しこまれる感覚に、由奈が辛そうな声をあげる。
「っはァ……」
すべて呑み込んでしまった後、由奈は、大きく息をついた。
そんな由奈のショーツを、千鶴が、いささか強引にずり上げる。
「あ……ど、どうして?」
てっきりこの場所で陵辱されると思っていた由奈は、千鶴の意図を計りかね、思わず訊いてしまう。
「お散歩しましょ♪ センパイ」
千鶴は、びっくり顔の由奈に微笑みかけながら、言った。
「あたし、けっこういい場所知ってるんです。穴場ですよ」
「で、でも……」
何か言おうとする由奈を無視して、千鶴はあっさりと個室の鍵を開けてしまった。
そして、またも強引に、由奈を公衆トイレから引っ張り出す。
由奈は、どこか危なっかしい足取りで、千鶴についていくしかなかった。
体内に淫猥な小道具を咥えこんだまま、由奈は、千鶴と並んで歩いている。
海岸に沿った、しゃれた石畳で舗装された遊歩道。何組かのカップルが、あるいはベンチで寄り添い、あるいは連れ立って歩いている。
最初は、そんな男女の視線が恐ろしかった。まるで、その幼げな腰の中にローターを隠していることを透視されているような気分にさえなったものだ。
しかし、由奈のそんな懸念は、今や、湧きあがる官能の波に押し流されてしまっている。
由奈の歩みは、傍で見ていても、何とも頼りない。まるで、雲の上を歩いているようだ。
その額にはじっとりと汗がにじみ、前髪が数本、貼りついている。
ずいぶん前から、千鶴は、その長い指で、由奈の細い指を絡め取るようにして手をつないでいる。そのことにも、由奈はきちんと気付いていない様子だ。
小さな、可愛らしいとさえ言えそうな責め具が、休むことなく由奈の体内で振動を続けている。
由奈が歩を進めるたびに、敏感な膣壁がローターにこすれ、刺激を感じてしまう。
その刺激に、由奈の花園は淫らな蜜を滴らせ、ショーツをぐっしょりと濡らしていた。
由奈の、思わずつつきたくなるような柔らかな頬が赤く上気し、呼吸が早くなっている。その大きな瞳は涙でうるうると潤み、きちんと焦点を結んでいなかった。
そんな、まるで熱でもあるかような由奈の様子をちらちらと横目で盗み見ては、千鶴は、満足そうな笑みを浮かべている。
「千鶴ちゃん、もう、ゆるして……」
由奈が、ひどく情け無い声で、千鶴に何度目かの許しを乞う。
「もう少しの辛抱ですよ♪」
千鶴が、相変わらず同じような返答をする。
次第に二人は人気のまばらな方へと歩いていった。
海岸の反対側、小高い丘になった場所へと上る道である。木々に遮られ、しばらく、海が見えなくなった。
無論、由奈はそんなことに気を回している余裕はない。へたりこんでしまいそうになる脚を交互に前に出し、何とか歩みを続けることで精一杯だ。
かすかなはずのローターの振動に、膣内全体が共鳴し、子宮まで震わせられているような錯覚を感じる。
敏感になったその部分は、もはや、足を地面に下ろすわずかな衝撃さえ、甘い疼きと感じていた。
脚の間から、ぽたっ、ぽたっと愛液が雫になって滴っていることに、由奈は気付いていない。
「ここですよ、センパイ」
「ふゎ……」
千鶴がようやくそう言ったときには、由奈は、思わずしゃがみこんでしまっていた。
そこは、かろうじてベンチを一つ置くことができる程度の、小さな見晴らし場だった。たいした高さではないが、それでも、遠くに港が見て取れる。
恋人同士が、誰にも邪魔されずに手製の弁当を食べるにはちょうどいいような、そんな場所だ。
「ほら、センパイ、立って立って」
由奈は、ぼんやりとした顔で、千鶴の言葉に諾々と従った。その動きは、まるで油の切れたロボットのようにぎこちない。
「そこのベンチに手をかけて、お尻、こっちに向けてください」
言われるままに、由奈は、木製のベンチに両手を当てる。そうしないと、そのままへたりこんでしまいそうだった。
「あ、ダメ……」
背後で、千鶴が自分のスカートをめくり上げる気配を感じ、由奈は辛うじて抗議の声をあげた。
しかし、千鶴は構わず由奈のスカートを完全にめくりあげてしまう。
「うわ、すっごい……先輩のココ、大洪水ですよォ」
「イ、イヤぁ」
由奈は、がっくりと力無くうなだれ、恥辱にぽろぽろと涙をこぼす。
「んふふっ、可愛いショーツがぐちゃぐちゃ……」
そう言いながら、千鶴は、由奈のショーツを脱がせようとする。
「や、やめてぇ……」
「どうしてですか? それとも、まだローター中に入れていたいんですかァ?」
そう言われて、由奈はお尻を突き出した格好のまま、ふるふるとかぶりを振った。左右で結んだ長い髪が、ゆらゆらと揺れる。
千鶴は、由奈のショーツをずり下げた。
ねっとりとした蜜が糸を引き、下着と秘所の間を結ぶ。
由奈のその部分はぱっくりとめくれ上がり、愛液に濡れながらひくひくと息づいていた。
千鶴が、ひどく優しい指使いで、その由奈のひだひだをなぞる。
「はう……ン」
それだけの刺激で、由奈はその小さな背中を弓なりに反らしてしまう。
「お、おねがい、早く……取ってェ……」
くちゅくちゅと音をさせながら濡れそぼるスリットをなぶる千鶴に、由奈は涙声で哀願した。
「はいはい」
そう返事をして、千鶴は、由奈の膣口に指を差し入れた。ぐちゅう、と信じられないほど卑猥な音をたて、由奈のそこが千鶴の指を迎え入れる。
「ンはあ……っ!」
びくっ、と由奈の体が震えた。
構わず、千鶴は由奈の膣にずりずりと指を侵入させ、内部をまさぐる。
「ダ、ダメえ……! そんなに、ぐりぐりしないでェ……っ!」
拳が白くなるほどベンチの背もたれを握り締めながら、由奈が悲鳴のような声をあげる。
「だって……中に入っちゃって、なかなか取れないんですよぉ」
千鶴が、面白がっているような口調でそう言った。
「そ、そんなァ……」
「じゃ、センパイ、ちょっと力んでみてください。そうすれば、取れるかも」
「う……ううぅ……っ」
由奈は屈辱に子どものような嗚咽を漏らしてしまった。
しかし、他にいい方法も思いつかない。由奈は、体内深く侵入してしまったローターを外に出すために、必死になって腰に力を込めた。
「ン……んくぅ……はァ、はァ、はァ……」
下半身全体に、思うように力が入らない。強い日差しの下、由奈の体は汗だくになってしまう。
小さな丸いお尻がぷるぷると震える。本人が一生懸命な分、ひどく可愛らしい光景だ。
「ひゃうウ……」
にゅる、といった感じで、陰唇の間から、ピンク色のローターが顔を出した。
その表面は、白濁した粘液にねっとりとまみれている。
「きゃは、出た出た♪ おめでとうございます、センパイ」
そんなことを言いながら、千鶴は、糸を引きながらぽとりと落ちるローターを、両手で受けとめた。
「んはあぁ……はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」
由奈は、両手をベンチの背もたれに添えたまま、再びしゃがみこんでしまう。
そんな由奈の様子を見下ろしながら、千鶴が、ぬらつくローターを口元に持っていった。
「あーあ、電池切れちゃってる……。んふ、すごい匂い」
「いやあ……」
肩越しに千鶴の顔を見ながら、由奈が力無く言う。
しかし、そんなことに構わず、千鶴はひどく淫らな表情で、そのローターに舌を這わせた。
「美味しいですよ、センパイのお汁」
「あうぅ……」
「ほら、センパイ、これからがホンバンなんだから」
そう言いながら、千鶴は、ナップザックから双頭ディルドーを取り出した。
そして、ショートパンツを半ばずり下ろし、どことなく慣れた手つきで、その片方を自らに挿入する。
「んんんんん……っ」
その整った顔を切なげに歪めながら、千鶴は、シリコン製の人工ペニスで、自らを犯していく。
「あはっ、あたしも濡れちゃってるから、すぐ、入っちゃう」
そんなことを言いながら、千鶴は、ちろりと舌なめずりした。
ショートカットな上、服装がボーイッシュであるため、ややもすると、その姿は陰茎を剥き出しにした少年のようにも見える。
「もう……もう、ゆるしてェ……」
そう言う由奈の腰を、千鶴は乱暴に引き上げた。
「ひあ……」
未だとろとろと愛液を溢れさせているその部分に、ディルドーの先端をあてがう。
そして千鶴は、剥き出しにした由奈のお尻を、指が食い込むくらいきつく抱えながら、一気に腰を進ませた。
「ひあッ!」
膣内をディルドーでいっぱいにされ、どぷっ、と愛液が溢れる。
千鶴は、その凛々しい眉をたわめ、興奮に頬を紅潮させながら、ぐいぐいと腰を使い始めた。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」
ディルドーのくびれた部分が膣内粘膜をこすり上げる感触に、由奈はあられもない声を漏らしてしまう。
「センパイ……」
千鶴は、由奈の背中に覆い被さるようにして、その両手を前に回した。
そして、手の平に余る大きな胸の膨らみを、やわやわと服の上から揉みしだく。
ブラのカップに擦られて、由奈の乳首は浅ましくとがってしまった。
「あ……あくゥ……やああ……んんン……ンあっ!」
腕の中で、身悶えしながらいやいやとかぶりを振る由奈のうなじに、千鶴は口付けし、舌を這わせる。
由奈の汗の匂いや、たっぷりとした双乳の感触にうっとりと目を閉じながら、千鶴は、腰を回すようにして由奈を追い詰める。
「お、おねがい……ちづるちゃん……やめ、て……やめてェ……っ」
どうしても漏れ出てしまう喘ぎの合間に、由奈は千鶴に懇願した。
しかし、そんな由奈の哀れな泣き声も、千鶴には歪んだ快楽しかもたらさない。
「センパイ、かわいい……」
千鶴は、名残惜しげに由奈の背から体を離した。そして、由奈の腰を両手でしっかりと抱え直す。
そして千鶴は、まるで自分の腰を由奈のお尻に叩きつけるような勢いで、激しい抽送を始めた。
「ああアァーッ!」
由奈は、そこが野外であることを忘れてしまったかのように、高い声をあげてしまった。
そして、自らの声を封じるために、必死になって右手の人差し指を噛む。
「んぐ! ン! んんン! んぐッ! んんんーッ!」
千鶴は、まるでムキになったかのように、むちゃくちゃに腰を動かした。
ぶちゅっ、ぶちゅっ、ぶちゅっ、ぶちゅっ……というイヤらしく湿った音が、二人の陰部から響く。
「んんんんんんンッ!」
由奈が、ひときわ大きな声を噛み殺した。その白い指に歯が食い込み、血がにじむ。
由奈の、最も触れてほしくない敏感な部分を、千鶴が繰り出すディルドーが捉えたのだ。
いくら反応を抑えようとしても、体が勝手にびくびくと反応し、強烈な快楽の波にさらされていることが明らかに分かってしまう。
「はあっ……セ、センパイ……スゴい……! 千鶴も、千鶴もスゴくいいのォ!」
興奮の極みにある千鶴も、きちんと意味のある言葉を発することはできない様子だ。
ただ、由奈が今感じている感覚を更に大きく育てるべく、激しく、そして小刻みに腰を使う。
「もうダメ……もうダメ……もうダメ……もう、ダメえ……」
いつしか指を噛むことすら忘れ、由奈は、切羽詰った声でそう繰り返すのみだ。
「センパイ……好き……っ!」
思わずそう叫んで、千鶴は、ひときわ強い動きを由奈の体内に打ちこんだ。
「あ……ッ!」
由奈が、体を弓なりに反らす。
「あああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアァーッ」
由奈の絶叫に、ぷしゃああ……という、体液のしぶく音が重なる。
絶頂のしるしの液体で足の内側を濡らしながら、由奈は、どこまでも深い穴に落ちていくような感覚を覚えていた。
昼下がり、由奈が館に戻ったときには、遼の車がガレージに停まっていた。
あの後、由奈は、コンビニで安物の下着を買い、千鶴の家でシャワーを浴びた。そして、隙を見て逃げるように千鶴の家を後にし、ここまで帰ってきたのだ。
「……」
傍で見ていても分かるくらいに緊張しながら、由奈は深呼吸をした。
そして、道々考えていた嘘を、頭の中で再確認する。
遼が言うには、自分は嘘が苦手らしい。由奈はできるかぎり平静な顔を作って、重い木製のドアを開いた。
「ただいま、帰りました……」
そう、力なくつぶやきながら絨毯の敷かれたホールに入る。
「おお」
ちょうど、遼が何か重そうな本を抱えながら、階段を降りているところだった。
夏だというのに伸ばしたままの前髪で、表情はほとんど分からない。しかし、その口元には、かすかに微笑みが浮かんでる。
「俺も、今帰ったところだ……おかえり」
そんな、ごく日常的な挨拶を口にするのが、遼には照れくさいらしい。微笑みが、苦笑いの形になる。
そんな遼を前にして、由奈が一生懸命考えていた嘘は、彼女の頭の中からどこかへ消え去ってしまっていた。
「どうした?」
遼のの口元から、笑みが消える。
由奈は、その場に立ち尽くしたまま、ぽろぽろと大粒の涙をこぼしていた。
「あの……ご……ごしゅじん、さま……あたし……あたし……」
それ以上は、言葉にならない。
由奈は、幼い子どものように、手の甲で涙をぬぐいながら泣き続けた。
千鶴は、胸に秘めた決意にやや顔を硬くしながら、バス停からの道を歩いた。
丘を覆う林を抜けると、目的の屋敷が見える。芝生が植えられているだけの広々とした庭の奥にある、古びた洋風の館だ。
夕暮れの空気を、セミの鳴き声が震わせている。
(あそこに、センパイがいる……)
そう思うと、張り詰めたように緊張した胸が、急に切なくなる。
(センパイ……)
由奈が、あの館の中でどういう生活をしているのか、千鶴にはよく分かっていない。ただ、誰か男と同棲しているのではないかと、漠然と考えているだけだ。
先日、千鶴の家から飛び出ていった由奈の携帯にメールを送ったところ、今日の日付と今の時間、そしてここの住所を記したメールが返信されてきたのである。
それは、千鶴が前に調べていた由奈の住所と一致していた。
何かの罠かもしれない、というくらいは、千鶴も考えている。由奈の相手の男が、二人の関係を問いただすくらいのことはありうるだろう、とも思う。
千鶴には、男女関係の修羅場の経験はない。だが、持ち前の強気な性格で、ひるむことなくここまでやってきた。
(あのビデオのことで、そいつがセンパイのこと諦めてくれるんなら、それが一番楽なんだけど……)
一方で、そんな楽観的な考えを抱いてしまう。
千鶴は、挑むような目つきで、玄関のノッカーを鳴らした。
一分以上待たされた後、扉が、開く。
前髪を両目が隠れるくらいに伸ばした、すらりとした長身の男が、そこに立っていた。
「槙本センパイ、いますか?」
「君は?」
倣岸な口調で、男が訊く。千鶴はむっとしながら、その前髪の奥の目を見返した。
「あたし、橘千鶴です」
「なるほど。……由奈なら、奥だ」
ごく自然に由奈を呼び捨てにするこの男に、千鶴は言いようのない嫉妬を覚える。
「えっと……ユウキ・ハルカさん、ですか?」
千鶴は、館の中に導かれながら、門のところにあったローマ字の表札を思い出し、訊いた。
「そうだ」
男――遼が、そっけなく答える。
「センパイの、恋人なんですか?」
ずけずけと訊く千鶴に苦笑いしながら、遼は、無言で階段の陰にある鉄製の扉を開いた。
「――!」
扉から続く階段を降り、地下室に入った千鶴は、息を飲んでいた。
「セ、センパイ……」
確かに、由奈はそこにいた。
由奈は、全裸だった。さらに、その幼い姿態には不釣合いに大きな乳房の上下で縄がけされ、後手に縛られている。千鶴は知らないが、俗に高手小手と言われる緊縛の方法だ。
その格好で、由奈は、産婦人科にあるような分娩台に横たわっている。
寝台に角度がついているので、腰掛けているのに近い姿勢だ。その両脚は無残に割り広げられ、脚を乗せる台にベルトで固定されている。
うぃんうぃんうぃんうぃんうぃん……
よどんだ地下室の空気を、何かの低い唸り声が震わせている。
それは、剥き出しになった由奈の秘部に挿入された、真っ黒いバイブがたてる音だった。
信じられないほどの太さのそれは、由奈の膣口を痛々しく引き伸ばし、その部分を休むことなく蹂躙し続けている。
すでに、何度も強制的に絶頂に追い込まれているのか、由奈の秘めやかな箇所は大量の愛液に濡れ、堅そうなマットレスに大きな染みを作っていた。
「んぐぅ……」
部屋に入ってきた千鶴に気付いたのかどうか、由奈は、空ろな表情のまま、何か声を上げた。
しかし、その口には穴のあいたギャグボールが噛まされているため、きちんとした声になっていない。
「どうして、こんな……」
千鶴は、あまりの光景に茫然としてしまっていた。背後で遼が地下室のドアに鍵を閉めるのにさえ気付かない様子だ。
「君に関係あることだ……それで、由奈は罰を受けているのさ」
そう言いながら、遼は、千鶴の脇をすり抜けて、由奈に歩み寄った。
「ばつ……?」
千鶴は、思わず聞き返していた。その声が細かく震えている。
「ああ。こいつは、ガキみたいな顔してるが、知っての通りどうしようもない淫乱でな。俺の留守の間に、あろうことか、君を誘惑した」
「……」
絶句する千鶴に目もくれず、遼は、分娩台の傍らにあるキャスターの上から、金属性のクリップを取り上げた。そのクリップからは細いビニールのコードが伸び、やはりキャスターの上にある四角い機械につながっている。
「女である君を誘って、無理やりに深い関係を結んだんだ。罰は当然だろ」
「そ、それは……!」
千鶴は、その吊り気味の目を大きく見開いていた。
(センパイは、あたしをかばって……? でも、これって……こんなのって……)
次々ともたらされる衝撃に、千鶴は混乱しきっている。
そんな千鶴を無視するように、遼は、口元に笑みを浮かべながら、クリップを由奈の秘部に近付けた。由奈の靡肉は、これまでの暴虐に紅くめくれあがり、ひくひくと息づいている。
「ンぐうッ!」
由奈が、くぐもった悲鳴をあげながら、緊縛されたその小さな体をびくりと震わせた。
遼が、由奈の陰唇をクリップで挟んだのである。
「ン、ン、ン、ンンン〜ッ……」
痛みにがくがくと体を震えている由奈の頬を、遼は奇妙に優しい手つきで撫でた。
そして、空いた手でもう一つのクリップを取り上げる。
「や、やめて……」
さすがに顔を青ざめさせながら、千鶴が言った。
「なぜそんなことを言う? 君は、被害者なんだろ?」
そう言いながら、遼は、由奈の敏感な肉の芽を、クリップで挟んだ。
「ンぐ………………ッ!」
さらに激しく、由奈は体をのけぞらせた。その拍子に、細身の縄がさらに由奈の白い肌にきりきりと食い込んでいく。
「やめて、やめてぇ……ちがうの……センパイじゃなくて、あたしが……」
「めったなことを言うなよ」
低い声で、遼は言った。その前髪の奥の目が、物騒な光をたたえている。
「罰を受ける覚悟なしに、軽々しく妙なことを言うもんじゃない」
千鶴は、その視線に圧倒されていた。目の前の男が支配する歪んだ地下室の気配に、心身ともに飲みこまれつつある。
そんな千鶴の様子を見つめながら、遼は、機械のスイッチをひねった。
「んぶッ!」
由奈は、ギャグボールの間から唾液を迸らせた。
がくがくがく……ッ、とその体が激しく痙攣する。
クリップにつながったコードを通して、電流が流されているのだ。
「いやああああああああああああああああああああああアーッ!」
口をふさがれている由奈に代わって、千鶴が絶叫する。
「あたしですッ! あ、あたしが、あたしがセンパイを犯したんですッ!」
悲痛なまでの千鶴の言葉に、遼はスイッチを切った。
「ン……ンふぅ……ンぐ……」
ぐったりと由奈の体が弛緩する。
その顔は涙と涎でべっとりと濡れていた。
ちょろちょろちょろ……と小さな水音が響く。由奈が失禁してしまっているのだ。
遼は、そんな由奈から離れ、千鶴に歩み寄った。
千鶴は、蛇に睨まれた蛙のように動けない。
「いいのか?」
震える千鶴の手を強引につかみながら、遼は言った。
「ぁ……?」
「お前が罰を受けることになるが、それでいいのか、と訊いているんだ」
遼の奇妙な理屈に、千鶴は茫然とした顔のまま、こっくりと肯いていた。
遼は、満足げに微笑み、そして、千鶴の細い左の手首に、素早く手錠をはめた。
「あ!」
千鶴が驚きの声をあげたときには、その手をねじ上げ、手錠の余った片方を、壁から突き出た金属の輪にはめてしまう。
「な、何……?」
千鶴は、はっと我に返って、周囲を見回した。今まで由奈に気を取られていてきちんと見えていなかったが、その地下室は、異常な器具で満ちている。
天上からぶら下がった鎖や、X字型の磔台、壁から下がった手かせや足かせ……。
「ちょ、ちょっと! どういうこと? どうするつもりよっ?」
「もう二度と下らん悪戯をする気にならないよう、きちんと躾てやるよ」
そう言った後、遼は、再び由奈の傍に寄っていった。
「依頼なしに調教するなんて、珍しいことなんだぜ」
くすくすと笑いながら、一つ一つ、由奈の拘束を解いていく。
「ンぷぁ……ごしゅじん、さまァ……」
最後にギャグボールを外されたとき、由奈は、舌足らずな声でうっとりと言った。
「ごしゅじんさま……もっと、ゆうなにおしおきしてください……」
「え……?」
信じられない言葉を聞き、千鶴は、思わず声をあげていた。
その声を聞いて、由奈が、まだ焦点の合ってない感じの瞳を千鶴に向ける。
「あは……ちづるちゃん、きてたの……?」
由奈の無邪気な笑顔に、千鶴は、足元が崩れ落ちてしまうような感覚を感じていた。
左手を手錠で壁につながれたまま、ぺたん、と座り込んでしまう。
そんな千鶴の視界の端で、遼が、鞭の用意をしていた。