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1−1



「晩ご飯、何にしようかなあ♪」
 初夏の日差しの降り注ぐ街の歩道で、彼女はそうつぶやいた。
 すでに夕刻だが、まだ空は充分に明るい。
 たまに吹く風が、ひらひらしたミントグリーンの彼女のワンピースを、なぶるように過ぎていく。やや子どもっぽいデザインは、小柄な体によく似合っているが、人目を引くほどに大きなその胸には、いささかアンバランスな感じだ。
「今日は、せっかくご主人様、帰ってくる日だし……」
 そう言う彼女の幼げな顔が、ほにゃ、とほころぶ。嬉しくてたまらない、といった風情だ。
「焼肉とか、うなぎとかじゃ、ちょっとあからさまかもしれないけど……少しガーリックきかすくらいが、いいのかなア」
 口の中だけでそう言いながらスーパーに入る彼女の柔らかそうな頬が、ぽっと染まる。
「やだ、あたしってば……」
 と、彼女の持つやや装飾過剰なバッグの中で、携帯電話が軽快な音楽を奏でだした。
「は、はい、槙本です」
「由奈か?」
 思わず名乗ってしまった彼女に、電話口の声が問いかけた。
「あ、ご主人様?」
 大声を出しかけて、彼女――由奈は慌てて口を押さえた。それが、あまり街中で口にすべき言葉ではないことを思い出したのだ。
「家にいなかったみたいだが……買い出しか?」
「はい――ご主人様、今日の夕飯は、何がいいですか?」
 そんな由奈の言葉に、電話の向こうの“ご主人様”は、少し困ったように沈黙した後、言った。
「あのな由奈、今日は、ちょっと帰れそうにないんだ」
「え?」
「人手が足りなくてちょっとごたごたしてるんだ。手が離せなくて」
「そう……ですか……」
 由奈と呼ばれた少女は、悲しげに肩を落として、そう言った。他人が見ても気の毒になるくらいの落胆ぶりだ。
「夜行バスで、明日の朝には帰れる。そんなにがっかりするな」
「はい……」
「明日は一日中可愛がってやるから」
「えっ? えっと……」
 由奈は、その大きな垂れ気味の目を大きく見開いた。
「あの……おねがい、します」
 そして、耳たぶまで赤くしながら、小さな声でそう言う。
「素直だな、お前は。……じゃあ、そういうことで」
 くつくつと笑いながら、“ご主人様”が言う。
「はい、気をつけて帰ってきてくださいね」
「ああ」
 ぷつん、とあっけなく切れてしまった電話の液晶表示を、由奈はぼんやりと眺めた。
「さみしい、な……」
 そして、思わずつぶやいてしまう。
 由奈は、片手でそっと自分の肩を抱きしめた。

 槙本由奈の主人の名は、結城遼という。
 主人といっても、配偶者などではない。その言葉通り、隷従と奉仕の対象だ。
 由奈は自分を遼の奴隷であると考えているし、遼も由奈をそのように扱っている。互いが、互いに特別な感情を有していることを告白した後でも、表向き、その関係は変わっていない。
 その、由奈の主人である遼は、今、東京にいる。以前、家出をして身一つで上京した際に世話になった知人の葬式に出席しているのだ。
「俺は、歳の割には葬式の経験積んでるしな」
 そう、冗談めかして言う遼の両親は、すでに他界している。また、父親の再婚相手――いわゆる義母も、故人である。
 その義母が生んだ子どもたちとは、遼は別居している。遼は、ただ由奈とだけ、二人きりで、いささか広すぎる古風な洋館に暮らしていた。
 その遼がいない以上、由奈はまた一人でその館での一夜を明かさなくてはならない。
 夏でもなお涼しいくらいの広々とした食堂で、一人わびしく食事をすることを考えて、由奈は、年よりもかなり幼く見られる小さな体を、ほんの少し震わせた。
「あーっ、センパイじゃないですかあ」
 と、スーパーの売り場でそう呼びかけられて、由奈は思わず振り向いた。左右で結ばれた由奈の柔らかそうな髪が、ふわりと揺れる。
「槙本センパイ! こっち住んでたんですかぁ?」
 そう元気な声で呼びかけてきたのは、ショートカットの少女だった。
 やや堅そうな髪を七三で分け、きりっとした眉の下の目は、やや吊り気味だ。しかし、可愛らしい鼻と口元のラインのおかげで、あまりキツい印象は受けない。ざっくりしたサマージャケットにTシャツ、細身のジーンズにごつい靴というボーイッシュないでたちが、その顔に似合っていた。
「えっと……ちづる、ちゃん?」
「そうでーす。橘千鶴でっす♪」
 少女はそう名乗って、由奈の正面に立った。身長は、由奈より頭半分は高い。それでも、平均よりやや高めといったくらいだが。
「一年ぶり、かな?」
「ちょうど、それくらいですね。……突然学校やめちゃったんで、部の連中、びっくりしてたんですよ」
「う、うん、ちょっとね」
 千鶴の無邪気そうな物言いに、由奈は口篭もった。
「本橋さん追いかけて家出したんじゃないかって噂も、ありましたけど」
「そんなんじゃないってば」
 ちょっと笑って、由奈はこの元気な後輩の冗談を受け流す。
「……センパイ、変わりましたね」
「え?」
「前は、本橋さんの話になると、真っ赤になっちゃってたのに」
「それは……あたしだって、いつまでも子どもじゃないし」
「そう、ですか?」
 千鶴は、そう言って、今年十九歳のはずの由奈の姿を見直した。小柄で童顔な由奈は、下手をすると、未だに中学生に間違われそうだ。少なくとも、千鶴の方が確実に年上に見える。
「ところで、センパイ」
 千鶴が、何でもなさそうな口調で、言った。
「お時間、あります? ちょっと……相談したいことが、あるんですけど」
「相談? あたしに?」
「はい」
 そう返事をする千鶴の顔は、内心の緊張を無理に押し隠している様子である。由奈は、少し不審げに眉を寄せた。
(なんか、千鶴ちゃん、真剣な顔……)
「じゃ、あそこの喫茶店入ろっか?」
「え……! えっと、じゃなくて、あたしの部屋で」
「千鶴ちゃんの?」
「はい。えーっと……ダイエットしてるし、お小遣いピンチだし」
 そう言われると、根が素直な由奈は、それ以上目の前の後輩を疑ったりしない。
 そして由奈は、千鶴に導かれるまま、バスに乗って彼女の家へと向かった。



 千鶴の家は、特にこれといった特色のない、スレート葺きの一戸建てだった。ニ階にある千鶴の部屋は、小奇麗に暖色系統で統一されている。
 由奈が不思議に思ったのは、彼女の部屋にヌイグルミの類が一つもなかったことだった。
(他は、普通の女のコの部屋なのになあ……)
 置き場に困るほどヌイグルミを集めている由奈にとっては、妙に新鮮な感じがする。
 その代わりなのかどうか、壁には、バスケットボール・プレイヤーらしき黒人のポスターが貼ってあった。
 由奈には、黒人の顔の見分けなどつかない。千鶴とともにバスケットボール部のマネージャーをしてはいたが、そもそもバスケットボールのルールさえ、正確には把握していなかった。
 自分が、つい一年ほど前まで高校生をやっていたという事実が、ひどく遠く思える。
「お待たせ〜♪」
 妙にはしゃいだ声の千鶴が、トレイにアイスコーヒーを二つ載せて、自室に戻ってきた。
「ありがと……でも、そんな気を使わなくてもいいのに」
 ミルクとシュガーを入れながら、由奈が言う。
「いえ、べつに、気を使ってるなんて」
 千鶴の声がどこか上ずっているように聞こえて、由奈は小首をかしげた。そうすると、ますますその童顔が幼く見える。
「で……相談事って?」
「えっとですねえ」
 言いながら、千鶴は、ごそごそとベッドの下から何かを取り出そうと四つん這いになった。
「まずは、コレ見てもらってから、お話したいんですけど」
 千鶴が取り出したのは、一本のビデオテープだった。
 ラベルも、何も貼られていない、無愛想な黒い直方体である。
 ぞく、となぜか由奈は悪寒を覚えた。
 しかし、千鶴は、妙ににやけたような笑いを浮かべながら、部屋のすみにある、ビデオと一体型になったテレビに、そのビデオテープをセットする。
「あ、あの……千鶴ちゃん……?」
 言いかけた由奈の方に、千鶴がどこか妖しげな流し目をちらりとよこす。
 再生が、始まった。
 一瞬画面が大きく乱れ、そして、次第に映像が安定していく。
「……!」
 由奈は、息を飲んだ。
 うそ寒い懸念とともに抱いたかすかな予感が、あっけなく現実のものとなったのである。
 画面の中で、一人の少女が、豪奢な革張りのソファーに腰掛けていた。
 少女は、その髪を左右に分けて結んでいる、プラスチックの飾りのついたゴムひも以外、その身に一糸もまとっていない。
 少女の股間に、犯罪的に幼いいスリットが刻まれているのが、はっきりと見て取れた。しかし、モザイクを含め、何の修正も入っていない。
 少女は、はにかむような微笑みを浮かべながら、そっとこちらを上目遣いに見つめていた。
 左右の手は交差して、その幼げな肢体からは考えられないくらい豊かな胸を、恥ずかしげに隠している。
「これ、センパイですよね……」
 かすれたような声で、千鶴が言う。それは、質問ではなく、確認ですらなかった。由奈を追い詰めるための言葉である。
 そして、画面の中の少女は、間違いようもなく、由奈その人だった。
「な、なんで……千鶴ちゃんが、こんなモノを……」
 由奈の声は、哀れなほどに震えている。
 そんな、現実における由奈の気持ちなど知らぬげに、画面の中の由奈は、頬を桜色に染めながら、そっと胸を隠していた手をどかした。
 そして、右手を、ほとんど無毛の、ぷっくりとした恥丘にあてがう。
「兄貴が、あるツテで手に入れたんです」
 画面の中の由奈と、そして自分の傍らにいる由奈とを、交互に見つめながら、千鶴は言った。
「兄貴はセンパイのこと知らなかったけど、スゴい巨乳の女のコが出てるって言って大騒ぎしてて、で、あたしも見せてもらったんです」
「……」
「あたし、すごくビックリしちゃった……」
 画面の中の由奈は、じれったくなるほどゆっくりと、自らの秘部にあてがった右手を動かし始めた。
 左手は、そろそろと右の乳房に伸ばされ、その小さな手の平にはおさまりきらないほどの巨乳を、やわやわと揉みはじめる。
「ン……」
 指先が、ピンク色の乳首に触れ、由奈は小さく声をあげた。そして、切なげな表情を浮かべながら、左手の指先で乳首をつまむ。
「んん……ん……んく……ふぅン……」
 画面の中の自らの媚声に、由奈は耳を塞ぎそうになった。
「ダメですよ、センパイ」
 そんな由奈の心を見透かしたように、千鶴が言う。
「きちんと、見て……」
 そう言われて、由奈は、落としていた視線を再び画面に向けた。
 画面の奥では、由奈の指使いが、次第に大胆になっている。
「ア……んんん……んふ……んんン、んっ……」
 くりくりと左右の乳首を交互になぶりながら、右手の中指をスリットに浅く潜らせ、上下に動かす。
 そうしながらも、由奈は、自らの唇を舐めながら、カメラの方に潤んだ瞳を向けた。
「おねがい、です……ください……」
 ささやくような声で、由奈が何事かをおねだりする。
 と、カメラを構えているらしき男の声が、何事かを言った。マイクが指向性のためか、その内容まではよく聞き取れない。
「はい……」
 由奈は、すこし顔を横に向け、頬を赤く染めながら、ゆっくりと脚を開いていった。
 そして、自らのクレヴァスを、両手の指先で割り広げる。
 鮮やかな紅色のその部分はすでにきらきらと濡れ光り、愛液は革張りのソファーの上にまでこぼれている。
 さらに何かを命じられ、由奈はこっくりと肯いた。
 そして、右手の中指をその部分にあてがい、小さく回すように動かす。
「あァ……ッ」
 つぷっ、と由奈の指が、膣口に浅く入りこんだ。
 その指をくちゅくちゅと動かしながら、カメラに向かって、何か訴えかけるような視線をよこす。
 カメラが、由奈に近付いていく。どうやらハンディ・タイプのビデオカメラのようだ。
 カメラを持つ男がすぐ前に立つと、由奈はソファーからずり落ちるように、床にひざまずいた。
 そして、高級そうなじゅうたんの上に膝立ちになり、カメラを構える男の股間に手を伸ばす。
 男が身に付けているのは、黒いワイシャツのみだ。半ば血液を充填させ、鎌首をもたげつつあるその股間のものが、そのワイシャツのすそを持ち上げている。
 由奈は、その赤黒いペニスに、そっと右手を添えた。左手は自らの股間に回している。
「あむ……」
 由奈の小さな口が、グロテスクな牡器官をぱっくりと咥える。
 咥えたまま、しばらく動きを見せない。しかし、男が小さく身じろぎをしたところを見ると、どうやら彼女の口腔の中で、その舌が亀頭部分を刺激しているらしい。
 由奈の口にはいささか大きすぎるようなその剛直に、次第に力がみなぎり、さらに一回り大きくなっていく。
 由奈は、その可憐な唇を半ば開いたまま、亀頭を一度解放した。そのまま、うんと舌を伸ばして、情熱的にシャフトに絡める。
 たちまち、ペニス全体が由奈の唾液で濡れていくのを、カメラはすぐ近くから撮影した。
 時折、由奈は恥ずかしげに伏せていた目を、カメラのレンズに向ける。その童顔からは考えられないような、妙に艶っぽい流し目だ。
 その目元が、欲情でぽおっと染まっている。
「んっ……ふうン……んむ……んんん……」
 由奈は、顔全体を男の股間に押しつけるようにして、ペニスの裏筋に舌を這わせ、陰嚢を優しく口に含んだ。シャフトに塗りつけられた由奈自身の唾液が、無残に彼女の顔を汚す。
 ぴくぴくとペニスが快感にしゃくりあげると、由奈は嬉しそうに微笑んだ。
 そして、再び口を精一杯あけて、ペニスを口いっぱいにほおばる。
 ちらっ、と男の顔のほうに視線をよこし、由奈は情熱的にフェラチオを始めた。
 ぢゅぢゅぢゅっ、と由奈が口内の唾液とともにペニスを吸い上げる淫猥な音が響く。
 由奈は、ふンふンという媚びるような鼻声をあげながら、その可愛らしい顔をねじるようにしてディープスロートを続けた。
 マイクが、男の荒い呼吸を拾っている。
 と、いきなり、男の左手が、由奈の髪をつかんだ。
 そして、男が乱暴に腰を使い出す。
「んんんッ?」
 驚きに目を見開いた由奈の顔が、苦しげに歪む。しかし、男は腰を動かすのを止めようとはしない。
「んぶっ! んっ! んぐ! んんン! ンーッ!」
 くぐもったうめき声とともに、大量の唾液がだらだらとだらしなく由奈の口元からこぼれ、その豊かな胸元を汚している。
「ン……! んんん……! んウ……んふン……んんんッ……んん〜ン」
 次第に、由奈の声と表情に、変化が訪れた。
 乱暴に頭をぐらぐらとゆすぶられ、唇に凶暴な男根を出し入れされながらも、その声は濡れ、顔には恍惚の表情が浮かび始めている。
 浅ましく静脈を浮かせたペニスに口を犯されながら、由奈は明らかに感じていた。
 由奈の両手は、音が出るくらい激しく、自らの秘部をまさぐっている。その胸は、男の動きに応えるように、ゆさゆさと揺れていた。
 そんな由奈の姿を、カメラが、時に激しくぶれながらも捕らえ続けている。
 男の腰が、ひときわ強く、由奈の顔に押しつけられた。
「んんんンーッ!」
 苦悶と歓喜に、由奈の形のいい眉がたわむ。
「んッ……!」
 由奈と男の動きが、しばし止まる。
 息詰まるような沈黙の後、こくっ、こくっという、由奈が喉を鳴らしながら何かを嚥下する音が響いた。
 男が、まるで余韻を楽しむように、ゆっくりと腰を引く。
 唾液と精液にたっぷりと塗れたそれは、まだ半ば勃起したままだ。
「ンはぁーっ……」
 喉奥に注ぎ込まれた粘つく精液を全て飲み干し、満足げにため息をついた後、由奈は、そのペニスに熱く濡れた視線を絡ませた。

「すごいんですね、センパイって……」
 そう千鶴に声をかけられ、由奈ははっと我に返った。
 顔を向けると、千鶴の吊り気味の目が、ねっとりとした光をたたえている。
 そんな千鶴の瞳を、由奈は怯える小動物のような目で見返した。
 確かに遼と由奈は、少なくない収入のために、自らの痴態をビデオに収め、裏のルートを通して販売していた。
 しかしそのビデオが、顔にモザイクもかからず、この近辺で流通しているなど、ありえないことだった。しかし、目の前に展開されている現実を認めないわけにはいかない。
 たとえ今、遼とともに世間から隔絶した生活を営んでいるにしても、由奈にだって個人的な知り合いはいる。このようなビデオが知人に見られて、平気なはずがない。
「あ、あのね……千鶴ちゃん……」
 何か言いかける由奈の唇に、千鶴は、立てた人差し指を当てた。
「つまんないこと言わないで下さいね、センパイ」
「え……っと、つまんない、ことって?」
「幾ら欲しいの? とか、そういうことです」
 そう言いながら、千鶴が、ボーイッシュな顔を由奈に寄せる。
「じゃあ、いったいどうすれば……」
「最初は、こんな気持ちじゃなかったんですよ、あたしだって」
 千鶴が、再び由奈の言葉を遮る。
「初めは、センパイがこんなビデオに出てるってことにビックリしただけでした。でも、なんでだか気になって、何度も何度も見てるうちに……あたし……」
「あ、ダメ……!」
 千鶴は、身をよじって逃げようとする由奈の肩を抱き、強引に唇を奪った。
「んんんッ!」
 千鶴の舌が、由奈の口腔を蹂躙する。
 顔を離したとき、千鶴の顔には、ひどく危険な表情が浮かんでいた。
「あたしね……このビデオに、バージン捧げちゃったんです」
「……?」
「ビデオ観ながら、もう、どうにもたまらなくなって、通販で買ったバイブ、入れちゃったんです……。すごく……すごく、気持ちよかった……」
「千鶴、ちゃん……」
 もはや由奈は何を言っていいか分からない。
「でも、それでも、一人でするんじゃ、何か足りなかったんです。だからあたし、一生懸命、センパイのこと探して……調べて……追っかけて……」
 ゆっくりと、千鶴は立ちあがった。
 千鶴の腕から解放された由奈も、立ちあがろうとする。しかし、なぜか力が入らない。
 よろけた由奈は、そのまま、背後にある大きなクッションに身を預けるように仰臥する形になった。
「ま、まさか……」
 由奈が、目を見開きながら、飲みかけのアイスコーヒーのグラスに視線を向ける。
「よく効くお薬ですね、センパイ♪」
 言いながら、千鶴はするすると着ているものを脱ぎ捨てた。
 健康的な小麦色の肌が、カーテンから漏れる夏の日差しを反射している。
「今日は、親も帰りが遅いし……時間はたっぷりあります」
 とうとう、千鶴は、由奈の前にそのスレンダーな裸体をさらした。
 小ぶりだが形のいい乳房から、くびれたウェスト、そしてひきしまったヒップに至る曲線に、由奈は状況を忘れて見入ってしまう。
「センパイも、脱いで……」
 そう言いながら、手足の自由の利かない由奈の服を、千鶴は丁寧に脱がし始めた。
「ダ、ダメ……っ。やめて、千鶴ちゃん……!」
 由奈は、ふるふると首を振りながら、必死で訴える。が、千鶴は、口元に笑みを浮かべながら、ワンピースのボタンを外し、その前をくつろげていく。
「あは……やっぱり、ホンモノは違いますね」
 そんなことを言いながら、千鶴は、ブラに包まれた由奈の胸に手を這わせた。
「いやァ……」
 か細く声をあげ、由奈が顔を背ける。
「けっこう、大人っぽい下着ですね」
 例のふりふりワンピースを脱がし、由奈を下着姿にした千鶴が、笑みを含んだ口調で言う。千鶴の言葉通り、由奈の下着は、色は白ながらレースをふんだんに使った代物だ。
 今日帰るはずだった遼を想いながら選んだ下着をそう評されて、由奈の顔が真っ赤になる。
「センパイ……」
 そう呼びかけられ、千鶴に向き直った由奈は、息を飲んだ。
 千鶴が、今まで由奈が見たこともないような器具を手にしていたのである。黒いシリコン製のその器具は、長さ四十センチほど。凶暴に反り返ったその両端には、亀頭を模したようなふくらみがある。
「センパイのこと犯すために、あたし、こんなものまで買っちゃったんですから……」
 そう言いながら、千鶴は、その先端をたっぷりと舐めしゃぶった。
 そして、淫靡に濡れ光るその片方を、ゆっくりと自らの中に入れていく。
「んん……あは……ン……」
 千鶴は、切なそうな声をあげながら、由奈の前でへたりこんだ。
 思わず正座してしまったその股間からは、まるで冗談のように、人工のペニスがそそり立っている。
「さ、センパイ、ビデオみたいに、おしゃぶりして……」
 そう言いながら、千鶴は、膝立ちで由奈ににじり寄った。
 そして、クッションの上に横たわる由奈の上半身を膝でまたぎ、その子どもっぽさの残る口元に、いわゆる双頭ディルドーの先端を押しつける。
「や、やめて、千鶴ちゃん……」
「ダーメ♪」
 そう言って、千鶴は、強引にシリコン製の剛直を由奈の口内に押しこんだ。
「んぶぶぶっ!」
 異様な質感の人工ペニスに口をふさがれ、由奈は苦しげな声をあげた。
「あア……スゴい……センパイ、ビデオと同じ顔、してる……っ!」
 千鶴は、興奮に声を上ずらせながら、ぎこちなく腰を動かし始めた。
 シリコンのディルドーに口腔を犯され、由奈はぽろぽろと大粒の涙をこぼす。
 しかし、その四肢にはほとんど力が入らず、千鶴の体を押しのけようとしても、ただいたずらにもがくだけだ。
「もう、いいかな……」
 千鶴は、ようやく由奈の口を解放した。由奈が、けほけほと小さく咳き込む。
 自らの唇を淫らに舐めながら、千鶴は、由奈の脚を両手で大きく広げた。
「や、やめてェ……」
「うわア♪ センパイ、すっごく濡れてる〜っ」
「やああああーっ!」
 由奈は、涙をこぼしながらはげしくかぶりを振った。
「すごぉい……これだったら、おしゃぶりしてもらわなくてもよかったかなア」
 そんなことを言いながら、千鶴は、由奈の脚を一度閉じ、するするとショーツを脱がせる。
「ウソぉ……ウソよォ……」
「ウソなんかじゃないですよ。ホラ……」
 再び由奈の脚を開き、愛液に濡れるそこに指を遊ばせながら、千鶴が言った。
「くちゅくちゅいってるの、聞こえません?」
 その言葉通り、千鶴の長い指に弄ばれる由奈のその部分は、淫猥に湿った音を響かせる。
「あァ……イヤあああああぁ……」
 羞恥と屈辱に、由奈は泣き声をあげた。
「センパイ……これから、センパイのこと、犯します……」
 そう宣言し、千鶴は、由奈の両足を抱えるようにして、その部分にディルドーの先端をあてがった。
「イヤ、イヤあ……」
 由奈が、童女のように首を振る。
「ああ……早く、入れてください……」
 突然の自分自身の声に、由奈ははっと顔を上げた。
 それは、未だ再生されていたビデオの中の由奈の声だった。男のペニスに再び奉仕し、すっかり力を取り戻させた由奈が、その濡れたシャフトに頬ずりしながら、挿入をねだっているのだ。
「ホラ、やっぱりセンパイ、入れて欲しいんでしょ?」
 絶妙なタイミングで聞こえたビデオのセリフにくすくす笑いながら、千鶴が言う。
「ちがうの! あたし、そんな……あああああアッ!」
 みなまで言わせず、千鶴は、由奈の膣内にディルドーを一気に挿入した。
「ダメえ! お願い! 抜いて、抜いてえーッ!」
 絶叫する由奈の涙に濡れた顔を陶然と眺めながら、千鶴は、ゆるゆると腰を動かし始めた。
 人工ペニスのデフォルメされた雁首が、容赦なく由奈の膣内をえぐる。
「スゴい……あたし、センパイのこと、犯しちゃってるゥ……」
 そう言いながら、千鶴は、自らの腰の動きに応じてたぷたぷと揺れる由奈の双乳に手を伸ばした。
 そして、思いきりその柔らかな膨らみを揉みしだく。
「ひああアーッ!」
 由奈が、高い悲鳴をあげた。
 それでも、千鶴は、由奈の豊かな乳房への、そのいささか乱暴な愛撫をやめようとはしない。
 由奈のピンク色の乳首が、みるみる尖っていく。
「乳首、立ってる……感じてるんですね、センパイ……」
 熱に浮かされたような口調で、千鶴は言った。
「やっぱりセンパイ、マゾなんですね」
「ちがう、ちがうのォ……ああァ……」
「ウソ。だって、あんなに乱暴にされて、すごく嬉しそうだったじゃないですか」
「そ、そんなこと……」
 口篭もる由奈の乳首を、千鶴は残酷にひねりあげた。
「いあああああああーッ!」
 由奈が、必死で身をよじる。
「んうぅ……ひっく……ひいン……や、やめて、やめてえェ……」
 子どものようにすすり泣く由奈の体に、千鶴は覆い被さった。
 そして、ぐりぐりと腰を動かしながらも、由奈の顔に唇を這わせ、舌を伸ばしてこぼれおちる涙を舐めとる。
「ふわ……ンくぅ……んうぅン……」
 喘ぎ声をこらえながら、どうにか、由奈は千鶴の体を押しのけようとする。
 未だ千鶴の盛った薬の効果は切れておらず、千鶴の体はびくともしない。
 それでも、少しずつ、由奈の体に、力が戻ってきつつあるようだ。即効性な分だけ、効果は長続きしないのだろう。
(は……早く……何とかして、千鶴ちゃんを止めなきゃ……)
 次第に高まってくる被虐の官能に飲みこまれそうになりながら、由奈は祈るような気持ちでそう思った。
 そんな由奈の気持ちを嘲笑うかのように、千鶴の繰り出す動きは、確実に由奈の性感を高め、快楽を紡ぎ出していく。
 千鶴は、ようやくコツをつかんだらしく、由奈の細い肩を両腕で抱きながら、リズミカルに腰を動かし始めた。そして、由奈の一番奥にまでディルドーを届かせる。
「ンはァっ!」
 子宮口を小突かれ、由奈はとうとうあからさまな喘ぎ声をあげてしまった。
「これが、イイんですか? センパイ……」
 由奈から快楽の反応を引きずり出すことに成功した千鶴は、自らも快感に眉をたわめながら、訊いた。
 その間も、腰を大きくグラインドさせ、激しく由奈を貫き続ける。
「ダメ……おねがい、ちづるちゃん……ゆるして、ゆるしてェ……」
 そう訴える由奈の声は、ひどく頼りない。
「やっぱり、感じてるんだ……うれしい……」
 千鶴は、ますます腰の動きを速めた。
「ンあああ! はくうッ! あ、あああ! そんなに、そんなにしたら……もう……ッ!」
 由奈の小さな体が、絶頂の予感にぶるぶると震える。
「ああッ……センパイ、センパイ……っ!」
 千鶴の声も、切羽詰っていく。
 千鶴は、思いきり由奈の首筋を吸った。
「あああああああああアーッ!」
 その由奈の声は、キスマークを残される恐怖に対するものではなく、純粋な快楽に対する反応だった。
 二人の少女の靡肉がたてる、ぐちゅぐちゅといういやらしい音が、淫猥な二重奏を響かせる。
「センパイ……イクって……イクって言って……!」
 千鶴が、由奈の耳元に口を寄せ、熱い吐息の合間に、そうせがむ。
「あ、あああッ! ふあああああッ!」
 ようやく力の戻った両腕で、由奈は、我知らず千鶴の体を抱き締めていた。
 そして、脚を大胆に開き、腰を浮かして、シリコンのペニスをさらに自らの中へと迎え入れようとする。
 由奈と千鶴は、互いに互いの体に腕を回しながら、激しく快楽を貪った。双頭ディルドーに犯された二つの淫裂から、しぶくように愛液が漏れ出る。
 先に絶頂を迎えたのは、由奈だった。
「イクうっ!」
 無意識のうちに、千鶴のスレンダーな裸体をぎゅうっと抱き締める。
「イ、イク、イクイクイクっ! イっちゃう、イっちゃうううううううううううゥーッ!」
 小さな体を弓なりに反らせ、がくがくと体を痙攣させながら、由奈は叫んだ。
「ス、スゴいッ! センパイ……千鶴も、千鶴もッ!」
 由奈の膣の激しい収縮をディルドー越しに感じながら、千鶴も、絶頂を迎えた。
「ンああああああああああああああああああああああああああああああああアぁーッ!」
 生まれて初めて味わうような凄まじい絶頂感に、千鶴は、がっくりと気を失った。



 日がとっぷりと暮れた頃になって、由奈はようやく解放された。
「センパイ……」
 どこか夢を見ているような頼りない足取りで玄関を出る由奈に、千鶴は声をかけた。
「また、会いましょうね♪」
 しかし、由奈は答えない。
(どうしよう……どうしよう……どうしよう……)
 とぼとぼとバス停への道を歩きながら、由奈は、出口のない迷路に迷い込んでしまったような気持ちだった。
 生温かい湿った風が、由奈の小さな体をけだるく包み込んでいく。
 よどんだ初夏の空気は星の光を遮り、月は、まだ昇っていなかった。



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