白 狼 伝



第二章



 西の窓から差し込む、沈みゆく夕日の赤い光が、部屋の中を一色に染めていた。
 ここは、ラーマンドの村のはずれに建つ、周辺一帯の領主であるクルペオン男爵の館の一室である。白塗りの、重厚な雰囲気の部屋だ。
 〈月の娘〉とシモンが呼んだ少女――ティティスを寝かせた寝台の横で、ファールはあわててランプに灯を点す。
 そして、部屋の隅に現われ、徐々にその勢力を広げつつある闇から目をそらすように、その明かりをじっと見つめる。
 ファールは、ふう、と思わずため息を漏らした。地下通路での失敗を思い出したのだ。
 また、ラグーンとシモンに迷惑をかけてしまった。その思いが、楔のように心に突き刺さっている。
 無論、ファールは二人の前ではそんなそぶりは見せない。いつもの明るいお調子者として、軽口を叩きながら、ここ領主の館までついてきたのだ。
 しかし、おそらくラグーンには、自分の気持ちなどお見通しだろう。シモンにだって気付かれてるかもしれない。
 こうして一人になって、誰も話し相手がいないというのが、ファールには一番つらいことだった。何よりも、昔の時のことを思い出してしまう。
 ぶるっと体が震えた。
 ラグーンとシモンの二人は、今、隣の部屋で領主であるクルペオン男爵その人と話し込んでいる。壁に耳を押し当ててみたが、さすがに領主の館、並みの家とは壁の厚さからして違っていた。
「ちぇっちぇっちぇーっ。どーせ、いいもん出されてるんだろうなあ」
 ことさらに大きな声で言ってみる。が、ねぐらにしている宿の部屋の五倍はあろうかというこの部屋の中で、ファールのぼやきはうつろに響くだけであった。
 ファールは、淡い期待を込めてティティスの顔を盗み見てみる。しかし、未だにこんこんと眠ったまま、起きる様子を見せない。
 不意に、眠気が来た。
 早朝から歩きづめだったのだから、無理もない。精神状態とは関係なく、若く健康な体が休息を欲しているのである。
 ファールは、寝台の隣にある机に置かれたランプの光を見ながら、床に座り込んだ。豪華ではあるが年代ものの絨毯に、ぺたんと腰を下ろして、片膝を両腕で抱え、あごを乗せる。
 そのまま、うつらうつらと目を閉じそうになっては、はっと頭を上げてランプを見る。視界が、闇に覆われるのが恐ろしいのだ。
(いつになったら、こんなことしなくて済むようになんだろ……)
 ぼんやりとそう考えながら、ファールは、少しずつ階段を降りていくように、眠りについた。



 一方、隣室。
 ラグーンとシモンは、ごつい一枚板のテーブルの前に座っていた。ファールの予想に反して、テーブルの上には何も「いいもん」らしきものはない。ラグーンが断ったのである。
 二人の向かいの椅子には、細身だが長身の、精悍な顔立ちの男が座っている。赤褐色の髪に、目は青。よく手入れのされた口髭のために、かえって年齢は判然としないが、まだ四十にはなっていないと思われる。
 クルペオン男爵である。
 しかし、領主を前にしても、二人は全く緊張した様子を見せていなかった。ラグーンなどは、厚い胸の前で、太い腕を組んでさえいる。
 実際、土地に縛られ、税を納める代わりに領主の庇護を受けている農夫などとは違い、冒険者は誰にも支配されているわけではない。とは言え、貴族を前にしてここまで堂々としている男も珍しい。
「話を整理させてほしいのだが」
 ラグーンは、言葉づかいも、あくまで変えなかった。
「要するに、あの娘を返しに行ってもいいんだな」
「無論、構わないとも」
 男爵は、まだ若々しいとさえ言える顔に、薄く笑みを浮かべた。
「むしろそうしなければ、彼らの動静を探って欲しいという私の依頼を遂行することができないだろう」
「そう、それが依頼の内容だ……が、要するに、何を見、聞けばいいのかが、分からない」
「彼らの儀式や祭礼の内容。彼らが伝える古い伝説。彼ら独特の習慣や禁忌。彼らが継承してきた祭器や財宝……そういったところでは、漠然としすぎているかね?」
「つまり相棒が言いたいのは、ですね」
 ここぞとばかりに、シモンが話に割り込んだ。
「彼ら、すなわち〈月の神〉の崇拝者のことを知りたいという男爵閣下の思惑が何処にあるのか、それを知っていた方が良い働きができる、ということなんです」
「さて、どこまで話していいものやら……」
 男爵は、長い指をこめかみに当てた。いささかわざとらしいが、それなりに洗練された動きである。
「男爵閣下は、我々のごとき者を雇うのは初めてのようですね」
 シモンは、そんな男爵におもねるように語りかけた。
「その通りだよ」
「では、冒険者に対する報酬に、三種類あることもご存じないでしょう」
「三種類?」
 聞き返され、シモンは焦らすように間を置いて続けた。
「一つは、依頼者からもらう賃金。二つ目は、冒険の過程で手に入れる財宝です。洞窟や遺跡などには、思いもかけないような物が隠されていることがありますからね。さて、あと一つですが……」
「名誉かね?」
「はずれ。……真実、です」
 シモンの答えを聞いて、クルペオン男爵は愉快そうに笑った。しばし後、ようやく笑いを収め、口を開く。
「いや失礼、予想外の解答だったものでね」
「何を冒険者ごときが、とお思いでしょうね」
「そんなつもりはないさ」
「僕が言いたいのは、本当のことを教えてくれればくれるほど、冒険者ってのはいい仕事をするってことなんですね。何しろ、ギルドの保護もなく、だましだまされ、汚い世界に生きている連中なんで」
「ふむ……。確かに、今までの話では、君らも不審の念がぬぐいきれんだろうな」
 ラグーンは、素直すぎるほど素直にうなずいた。男爵は、その様子を面白そうに見ながら、先を続ける。
「話は、我らがエールスの建国にまで溯る。建国の父エールが、ここらを支配していたリカオニウスという怪人を倒したという伝説は、諸君も知っているだろう?」
「無論。エールス建国の英雄たるエール、〈白狼王〉を討伐す、の章ですね」
 常識、といった口調でシモンが言う。しかし、ラグーンは熱心に聞き入っているだけである。もともと草原の民なので、地元の伝説などには疎いのだ。
「そう、リカオニウスなる男は、自ら〈白狼王〉を僭称し、エールス建国前のこの一帯を支配していた。伝説によれば、彼は不死で、白銀の巨大な狼に変身したとされている」
「おそらくは、本当のことだったんでしょうねえ。狼に変身する人間、って怪物は実在しますから」
「ワー・ウルフだな。逢ったことがあるのかね?」
「死骸だけなら」
「よく話に聞く、数年前に北方の村々を襲った奴か?」
「いえ、それを退治した方です」
 シモンは、しれっとした顔で言ってのけた。
 一般にワー・ウルフは、賢者によれば呪いの一種とされている。そして、この呪いの最大の特徴は、人から人へと伝染することである。ワー・ウルフとの戦いによって傷を負った者が、満月の到来とともに新たなワー・ウルフになることがあるのだ。
 これは、怪物との戦いを生業とする冒険者には、常識のようなものだが、一般人にはあまり知られていない。それゆえ、大きな悲劇を生むこともある。
「彼は満月の晩、自らの剣で喉を突いて死んだんです。ワー・ウルフとしての不死より、人としての死を選んだ、ってことですね」
 シモンの声はあくまで平常どおりだが、さすがにクルペオン男爵は顔色を変えたように見えた。
「……いささか、話がそれたようだな。そう、エールと、〈白狼王〉リカオニウスの話だった」
「はい」
「伝説では、エールは十二宮神の力を借り、リカオニウスを倒し、エールス建国の礎を築いた。そういうことになっている。……少なくとも、神殿で聞かされるありがたい話ではな」
「ええ」
「建国以来、我がエールで神殿勢力が強い発言力を有しているのも、その伝説にのっとったものだ」
 そう言っているクルペオン男爵の目に、皮肉げで、それでいて危険な光が浮かんだ。少なくとも、ラグーンにはそう見えた。
(陰謀家の目、か……)
 かすかにラグーンは眉をひそめたが、男爵は、そんなことに気づいたそぶりは見せなかった。
「しかし、別の伝説では、エールを助けたのは〈月の神〉ということになっているのだ」
 男爵は、さも重要な秘密を明かすかのように、声までひそめて言い放った。
「その伝説によれば、そもそもリカオニウスなる男は、拝月教徒の一人だったということだ。それが、何らかのタブーを犯し、ワー・ウルフと成り果てたという。拝月教徒は、裏切り者であるリカオニウスを倒すべく、エールに〈月の神〉の秘宝である魔剣を預け、それによってリカオニウスを倒した、というわけだ」
「それでは、今の十二宮神殿の主張とは、全く違ってきますねえ。何しろ、十二宮神殿こそ、〈月の神〉崇拝者弾圧の急先鋒なんですから」
「その通り」
「……それが、俺達に、連中の動きを探らせる理由か」
 クルペオン男爵は、ラグーンの言葉にゆっくりとうなずいた。
「その通りだ。今回の拝月教徒の活動は、いつになく活発だ。どうやら今年は、彼らの執り行う祭礼にとって特別な年らしい。しかし、それが具体的にはどういうことなのか、我々異教徒は全く分かっていないのだよ」
「互いに、接触を避けてきましたからねぇ」
 と、シモン。
「だが、君達は彼らに対し恩を売れる立場だろう……。とにかく私としては、拝月教徒が英雄エールに協力していたという伝説などを、彼らから聞き出したい。さらに言うなら、確かな証拠がほしいのだ。十二宮神殿の連中がいかに否定しようともかなわないような証拠が、だ。私は、それを例の拝月教徒が持っていると踏んでいる」
「それ、とは?」
 男爵は、訊いてきたシモンに目を移し、言った。
「エールが〈白狼王〉リカオニウスの心臓を貫いたとされる、〈月の神〉の秘宝――〈月霊剣〉アシュモダイと呼ばれる魔剣だよ」



「どうやら、この国の勢力争いに巻き込まれたようですね」
 シモンは、露骨にくつろいだ様子で、語り始めた。
 すでに、クルペオン男爵は部屋にいない。所用と称して、つい先ほど退出したのである。二人は、晩餐を用意するまでこの部屋をあてがわれたという形になっている。
 シモンは、男爵がいなくなったのを契機に、彼の思惑を整理し始めた。こういう際、ラグーンは聞き役に徹するのが常である。
「多分、クルペオン君は、十二宮神殿派と対立する貴族派の一翼を担ってるんでしょうねー。そもそも彼は、三年ほど前に隣国との戦争で功績をあげた、平民出身の領主だって話です。彼を推戴した大貴族なんかが、背後に控えてるんでしょうねえ。伝説を盾に何かと政治に介入してくる神官達に対する、この国の貴族達の反発は、かーなり根深いって話ですよ」
「ふん……」
「ただ、できれば剣を持ってこいってのがよく分からないですけどね。まあ、魔剣だっていうのが本当なら、それなりに話に説得力が出てくるんでしょうけど……まさか邪魔な神官達を次々となで斬りにするってわけにもいかんでしょうし」
 魔剣とは、それ自体で意志を有するという、伝説の存在である。
 世界にわずか七十二本しかないと言われており、この世界とは別の世界から来訪した悪魔の魂が宿っている、とされている剣だ。さまざまな次元にわたって同時に存在しているため、鉄の武器が通用しない、強力な魔人や神霊をも、易々と斬ることができる、と世の賢者達はとなえている。
「でも、資格のない人間が手にすると、心を乗っ取られちゃうってんですから、あっぶない代物ですよー」
「それに、連中がその剣を持ってたとしても、盗むわけにはいかない」
 無論、ラグーンが連中と呼ぶのは、拝月教徒の巡礼たちである。
「そりゃあ全くその通りですがね」
 シモンは大袈裟に肩をすくめた。
「それじゃあ、断っちゃうんですかあ?」
「無理にでも取ってこい、と言うんだったら、断るしかないだろうな。それに、話したくないことを無理に聞き出すこともできまい。連中の方が、先客だからな」
「…………」
 シモンは、ふと思案顔になった。思いがけないほどの無表情が、その顔を支配する。
 しかし次の瞬間には、いつもの、へらへらとした顔に戻り、そして言った。
「つまり、あくまで僕たちは、クルペオン君の話を伝えに行くだけだと納得させれば、いいわけですね」
「伝言するくらいなら、ついでだからな」
「ついでですか。いやはや、男爵閣下も軽く見られちゃいましたねえ」
「そう言うが、筋は通さなくてはならんさ。それに……」
 ラグーンは、にやりと逞しい歯を見せながら笑った。したたかな冒険者の笑みである。
「それくらいの条件は、通す自信があるんだろう」
「あれだけ腹を割って話しちゃった以上、クルペオン君は引っ込みがつきませんもんね」
 そう言うシモンの表情は、どこが悪戯っぽい。
「……ところで、あの娘さんのことなんですがね」
「ああ。ティティスとか言ったな」
「どう思います、彼女」
 シモンが言っているのは、あの洞窟の中での怪異のことだ。〈月の娘〉ティティスは、狂信者に喉を切り裂かれながらも、蘇生し、無意識の状態のまま、その狂信者を天井に叩き付けて葬ったのだ。
「――しかし、あれは本当にあの娘の力なのか?」
「そりゃ、分かりません。あの時ティティス君は、普通じゃなかった。奇態な儀式の生け贄にされてたんですからねえ。神様関係は、僕の専門外です」
「お前に分からなければ、俺に分かるはずもない」
 言いながら、ラグーンは軽く微笑んだ。
「……拝月教徒、〈月の娘〉、ワー・ウルフの王リカオニウス、建国の英雄エール、それから魔剣――〈月霊剣〉アシュモダイ」
 シモンは、いささかわざとらしい仕種で指折り数えた。
「無論、月とワー・ウルフには、浅からぬ関係があります。月の光は狂気を生む。ワー・ウルフは、月の影響力によって、人を人たらしめる因子が狂ってしまったものだ、という説がありますからね。一方で、〈白狼王〉を葬ったのは、エールの携える〈月霊剣〉アシュモダイだと伝えられているんですねえ」
「何が言いたいんだ?」
「あのティティス君は、見かけよりよほど危険なのかもしれませんよお。何しろ、〈月の娘〉なんですからね」
「狼にでも、化けるか」
「そんなことはない……とは言えないでしょうねえ」
 言いつつも、シモンの口調は相変わらず軽薄なままだ。
「何にせよ、迷子の女の子を届けるだけじゃ、済まないかもしれません」
「頼まれたんだから全力でやる。それで無理なら逃げるさ」
 別に気負った様子も無く、ラグーンは言った。シモンは曖昧な表情でそれにうなずく。
 しばらくして、シモンは不意に立ち上がった。
「ファール君の様子を見てきますね」
「……ああ」
「クルペオン君のようなお偉いさんからの仕事を、彼は嫌うでしょうけどねー」
「まあな」
 ラグーンは、形のいい太い眉をしかめた。
「慣れるしかないだろう。いつまでも暗闇を怖がっていられるわけにもいかん。それと、同じだ」
 シモンはいつになく真剣な顔でうなずき、部屋を後にした。



 色のない夢だった。
 光のない風景。
 音だけの夢だ。
 耳を聾せんばかりの音である。
 喧騒、悲鳴、怒号、そして、断末魔の絶叫。
 悪夢である。胸が締め付けられるように苦しい。不安が体全体にあふれ、こぼれおちそうになっているのが感じられる。
 不安が体からあふれ出たとき、それは圧倒的な恐怖に変わるだろう。
 だから、声を出さない。いや、息さえもひそめている。何か言葉を口にすれば、それは悲鳴になり、恐怖の叫びとなって自分を引き裂くはずだ。
 それは分かっている。何度も見た悪夢なのだ。
 なのに、いっこうに不安は薄れない。
(やっぱり、出ていけばよかったんだ)
 自責と後悔の念が、心を責めさいなむ。
(殺されるかもしれなくてもよかった。ここでじっとおびえながら隠れていたから、こんな夢を見るようになっちまったんだ……)
(じっとしてちゃいけなかった。こんな……こんな、何も見えない闇の中で)
 闇。
 それを意識してしまったとき、ファールは悲鳴をあげてしまった。
 何度も何度も経験したはずなのに、いっこうに鮮烈さを失わない落下感が、長い悪夢のひとまずの終焉を告げた。



 目を覚ますと、緑色の目が、自分の顔を見ていた。
 いくらか褐色の混じった、ある種の猫のそれのような色である。
 窓の外は完全な闇だ。だいぶ時間が経ってしまったらしい。
 ランプの明りの中、今まで死んだように眠っていた少女が、寝台に腰掛け、床に座り込んだ自分の顔を、心配そうに見詰めている。
 ファールは荒くなっていた息を整え、何度かその大きな目を瞬きさせた。その拍子に、ぽろぽろと涙がこぼれる。それをぐいっとこすって、照れ隠しに笑ってみせた。
 緑の目の持ち主が、口を開く。
「どうしたの? 恐い、夢?」
「いや、別にそのー。……ティティス、だっけか?」
 必要以上に勢いをつけて立ち上がり、尻を両手ではたきながら、ファールは言った。緑の目の少女――ティティスが、こくんとうなずく。
「別になんでもないんだ。おいら、ファール。よろしくな」
「あ……よろしく」
 ファールが差し出した手を、寝台に座ったままのティティスは戸惑ったような顔をしながら握った。
 小さくて、柔らかい手だ。生まれてこのかた、重いものなど持ったことのないような手である。
 そう思ったことを、そのまま言葉にしようとした時、ファールはティティスが涙をこぼしてることに気づいた。
「ありゃ? え、えっと、強く握りすぎたか?」
 ファールは、驚いて手を引っ込めながら訊いた。
「え?」
「だって、涙が……」
「あ、あれっ?」
 ティティスは、自分の目尻に手をやって、あわてたように頬を染めた。自分でも泣いてることに気付かなかったらしい。
「違うんです……。あれ? ご、ごめんなさい、自分でも、どうして泣いてるのか分かんない……」
「わ、分かんないって……言われても……」
「なんだか、ファールさんが泣いてるとこ見たら、悲しくなっちゃって……。ホントに、ごめんなさい」
「いやその、あやまってもらっちゃっても、おいらも困っちまうっていうか……」
「――その歳で女の子を泣かせるなんて、隅に置けないですねー」
 事実上初対面の少女に、いきなりもらい泣きされるという事態にすっかり混乱してしまっていたファールは、唐突に投げかけられたその言葉に、文字どおり飛び上がってしまった。
「シモンさん! い、いつからそこに?」
「ティティス君が目を覚ます、ちょっと前くらいかな?」
 そう言いながら、扉の傍らにいたシモンが、寝台に寄っていく。ランプの明りの中に出現した、いかにも魔法使い然とした青いローブ姿の男に、思わずティティスは身を引いてしまった。
「じゃあ、けっこう前じゃんか! おいらに声かけてくれればいいのに、相変わらず、人がわりいんだからなあ」
 仮にも盗賊としての修行を身につけていながら、シモンの気配すらつかめなかったことへの屈辱もあり、ファールの声は自然と大きくなる。
「いや失敬しっけい。こう見えても、若い男女を二人きりにしとくのが心配で来たんですよ。案の定でしたがねー」
「違うって!」
「そうです、違うんです」
 むきになるファールとともに、ティティスまで反論してきたので、シモンはいささか面食らったような顔をして見せた。
「別に、ファールさんは何もしてないんです。あたしが勝手に泣いちゃっただけなんです。本当に、ごめんなさい」
 言い終わって、丁寧に頭を下げる。
「シモンさんに謝るのなんてやめたがいいよ」
 ファールは、くしゃくしゃと頭を掻きながら言った。
「謝ったってからかうの止めやしないし、謝らなくたって応えないんだから、この人は」
 ティティスは、しばらくきょとんと緑色の目を見開いていたが、不意に、拳を口に当て、くすくすと笑い出した。
 ようやく、目の前のひょろりとした魔法使いが、悪人でないことに気づいて安心したようである。一方シモンは、十は歳の違う少女に笑われて、ちょっと憮然とした様子だ。
 なんだかおかしくなって、ファールも笑いだす。
 お互いが笑ってることでますます笑い出した二人の顔を、置いてきぼりをくらった子供のような表情で、シモンは交互に見ていた。
「……男爵が、晩餐を用意してくれるそうですよ」
 そう伝えるシモンの憮然とした顔に、ようやく笑いを収めた二人は、また吹き出してしまう。



 男爵の用意した晩餐は、それなりに手はかかっていたものの、おおむね質素なものだった。エールスにおける地方領主はけして無限の富を有しているわけではないし、冒険者は、爵位を有する者が精一杯歓待するたぐいの人種ではないのである。
 とは言え、量を重視した食卓ではあったし、そういう点では豪勢と言えた。
 その豪勢な料理を、ファールはよく食べた。次から次へと食べ、ラグーンやシモン、ティティスを相手に軽口を叩き、甘い果実酒も浴びるほど飲む。
 ただ、ファールがけしてクルペオン男爵の方を見なかったのに、ティティスはしばらく前から気付いていた。
 一方シモンは、男爵と何やらいろいろなことを話している。仕事をする上での、細かな打ち合わせのようなことらしい。ラグーンはと言うと、ほとんど何もしゃべらず、ただシモンの問いかけに、ごくたまにうなずき返すだけである。
「ところでティティス君」
 不意に、シモンがティティスに向かって話しかけた。
「は、はい」
「その、〈月の神〉の崇拝者の方々がおっしゃってた聖地なんですけど、馬車で行けるようなところなんですか」
「馬車、ですか? それは……」
 ティティスは、奇妙な違和感を覚えた。その突然の違和感にとまどいながらも、続ける。
「大丈夫です。街道からは、当然外れてますけど……獣道みたいな道があって、馬車でも、通れます」
 そう、自分は聖地までの行程は知っている。毎年この季節には欠かさず巡礼をしているのだ。
 なのに、記憶に靄がかかったかのように、自分の言うことに自信が持てない。まるで、耳元で教えられていることを、そのまま繰り返して口にしているかのような感覚である。
 自分は、この目の前の人たちによって、聖地へ巡礼する仲間たちのもとへと送り届けられる。自分は〈月の娘〉なのだ。儀式には欠くべからざる存在である。
 そんな当たり前の事実が、まるで借り物のようにしっくりこない。
 それを言うなら、自分がこのクルペオン男爵という貴族に世話になっていることも、不思議ではある。しかし、その点に関しては、「領内の危険な怪物を倒した褒美としての便宜である」との説明をシモンに受けているし、それなりに納得はしている。
 なのに、肝心の自分自身のことが、なぜか納得いかない。自分が〈月の娘〉ティティスであるということ自体、きちんと心のなかで噛み合わないのである。記憶が欠落しているわけではない分、余計に奇妙な感覚だった。
「どうしたのさ、ティティス」
 少女の物思いを、ファールの明るい声が遮った。
「デザート食わないの? うまいよ。お互い、育ち盛りなんだからさ」
 そう言いながらファールは、目の前の、果物をワインで蒸して作った菓子をぱくついている。
「……ファールさん、ほんとに、おいしそうに食べるのね」
「普段食ってないから、よけいにうまいね」
 にっ、とファールは白い歯を見せて笑った。
「今まで甘いもの食わない兄貴に黙ってついてきたんだから、これくらいのご褒美、あってもいいよな」
 そう言いながら、鮮やかな手つきで、ラグーンの前の皿と、すでに何ものってない自分の皿とをすりかえる。よそ見をしていたラグーンは、もともと菓子などに興味がないのか、全く気付いた様子はない。
「ファールさん……」
「しーっ。黙ってくれてたら、山分けしたげるよ」
 あまり上手ではないウインクをして見せた後、ファールはまた屈託なく笑った。ティティスもそれに微笑み返しながら、蜜に包まれたつややかな果肉を、スプーンですくいだす。
 ティティスの奇妙な違和感は、いつのまにか消えてしまっていた。



 馬車の手配や、食料、油などの調達に、丸一日がかかった。
 しかし、これから半月程の道程を考えるなら、準備は早く済んだ方と言えた。きちんとした街道筋を行くのではない。多くの人が知らない、〈月の神〉の聖地への旅なのだ。
 無論、冒険者ゆえの身軽さである。財産を抱えた商人や、ギルドに属する職人、そして土地に縛られた農夫などの中には、自らの生まれた地から一歩も外に出ないで生涯を終えるものも少なくないのだ。
 旅をすること、いや、旅ができることが、他の大多数と冒険者を分かつ、見えない境界だった。ここで言う冒険者の中には、吟遊詩人や隊商の構成員、傭兵なども含まれる。
 ――そして、出発前夜。
 四人は男爵にあてがわれた部屋で、それぞれの寝台に横たわっていた。
 夜中過ぎである。鋭い鎌のようであった三日月は、もう西の地平に沈んでいた。神々の現し身であるところの星が、どことなくよそよそしい光を、地上に投げかけている。
 寝息が三つ。昼間、ティティス相手にはしゃいでいたせいか、ファールの寝息もいつになく安らかであった。
 その寝息のリズムを、低いささやき声が乱していた。
 会話である。
「……呪文は、成功のようだな」
「はい」
 老人と青年の声だ。
「今は同調しているが、じきに慣れる。他の杯から注がれた酒が、その杯の形に合うかのごとく、だ」
「記憶は、多少、混乱しているようです。それに……」
 師と弟子の口調である。
「なんだ?」
「いずれ、無理がでるかと」
 それは、宿主と寄生者の会話であった。
「不満そうだな」
「……いささか」
「命を弄ぶな、か? 命、魂、心。それがどうしたというのだ? いずれも、道具にすぎん。そう、肉体同様、精神も道具なのさ。所詮な」
「……僕も、ですか?」
「お前は、私だ。今は運命共同体さ。しっかりしてもらわねば、私が困る」
「やはり道具じゃないですか」
「人は、人に必要とされている間は生きていられる。そういう意味で、人は皆、道具さ」
「それでは、あなたは……? いや、これは愚問でしたね」
「…………」
「約束は、憶えてらっしゃいますね」
「無論。……覚醒までの間隔が、次第に短くなっている。我が大願の成就する日も近い」
「……僕に……本当の命を……」
「――おい」
 第三の声が割り込んだ。ラグーンである。
「明日出発だ。……眠れないのか、シモン? それとも寝言か?」
 それは、つい先ほどまで眠っていたとは思えないほど、はっきりした口調だった。
「いやいやいや、お恥ずかしながら、緊張してしまいまして」
 応えたのは、いつものシモンの声だった。
「明日からここを離れるわけでしょ」
「ああ」
「旅先のエレメンタルとは未契約です。僕の魔術は、今までのように、ああ派手にはいきません」
「そうか」
「かなりきつく契約したエレメンタルがいますんで、そいつらなら、何体か連れてけますけどねー。……それだけです」
「まあ、しかたない。契約し直す時間もないだろう」
「ないですねぇ」
「……なんとかなる」
 ぽつりと言って、そのままラグーンは口を閉ざした。
 再び、規則的な寝息を立て始める。
「…………」
 シモンは、それまでのようにじっと仰臥したまま、右手で胸から下げてるメダルをきつく握った。
 目は自然な感じで細められ、瞑想を行う行者のようである。
 メダルに埋め込まれた宝石が、意味ありげに、窓から入ってくる星の光を反射した。



「ふわ〜あああああ」
 ファールは御者台で派手なあくびをした。
 領主の館から出立して二日目。晩夏と早秋の間である。比較的、四季の区別のはっきりした山国エールスの空には、この季節特有の、刷毛ではいたような雲がある。
 空は高く、風は軽く、太陽はかつての荒々しさを失っていた。ファールならずとも、眠りを誘われる陽気である。
 一行の乗った二頭だての馬車が進んでいるのは、〈月の神〉の巡礼者達が、つい数日前に通ったはずの道だ。帝国時代の遺物である、石畳で舗装された街道ではない。地面がむき出しの、二台の小型馬車がぎりぎりすれ違えるかどうかという幅の道である。
 その道が、くすんだ淡い金色の平原を横断し、濃緑色の森にまで続いている。丈が高く、針のように鋭い葉を持つ、テレノア杉の森林である。
「あの森の中に入ると、この道はもっと細くなるの」
 ファールに並んで、ちょこんと御者台に座っているティティスが、細い指で西の方角を差し示しながら説明を始めた。
「晴れた日はすごく景色がいいんだけど、曇った日だと、森の中はすごく暗くて恐いんです。で、ずうっと進んで森を抜けると岩山に出て、聖地はその岩山の中」
「へえ〜」
 半分あくびが混じったようなもぐもぐした声で、ファールが応じる。
「でも、多分、あの森の中で、おいら達はおいつけると思うよ。あさってか、その次の日くらいだってさ。そうすりゃ、父ちゃんや母ちゃんにも会えるよね」
 ファールの言葉に、ティティスは少し目を伏せ、言った。
「……親は、いません。みなし児だったから」
「あ、ゴメン」
ファールは、ティティスに見えないように横を向き、失敗した、という表情をした。
「ううん、いいんです。それに、みんな、とても大事にしてくれてるから、平気」
「ふーん。おいらもたまには、兄貴やシモンさんに大事にされてーよなあ。せめて御者くらいはかって出てほしいや」
 その嘆きがあまりに真に迫っていたもので、ティティスは一瞬きょとんとする。しかし、ファールがおどけたように笑いかけたので、つられてくすくすと笑い出した。
「それは、ファールさんの腕を信頼してるんでしょ」
「違う違う。兄貴は、馬は叩くもんじゃなくて乗るもんだ、って言ってきかないんだ。何しろ、草原の出だからねえ。実際、馬車の旅になると元気ねえんだぜ」
 その言葉どおり、ラグーンは幌の中で、丸めた毛布を枕に昼寝を決め込んでいる。一方シモンは、分厚い呪文書を広げて、珍しく真剣な表情を見せていた。とは言え、あまりに凡庸な顔立ちのせいか、どこか抜けて見えるのも確かなのだが。
「シモンさんは、場所を変えるたびに、役に立たなくなるしさ」
 ティティスは、返事に困ったように曖昧な表情を返しつつ、言った。
「でも、二人とも強いんでしょう。あたしは眠ってたけど、あの恐い人とか、おっきな怪物をやっつけたって……」
 ティティスが言っているのは、カリヴスとワームのことである。
「強いね」
 さして気負った風でもなく、ファールは言った。
「しょーじき、あの二人につきあってると、命がいくつあっても足んないんだよね。……この前なんか、馬みたいにでかい犬が村を襲うってんで退治に出かけたんだけど、そいつ、口から火ぃ吹きやんの」
 その様子を再現するつもりか、ファールはと口を尖らせて、息を吹いて見せる。恐ろしい怪物というより、消えかけたかまどの火をおこそうとしてるようにしか見えないのだが、ティティスは目を丸くして聞いていた。
「おいらは危ねえってんで後ろで弓射ってるだけだったんだけど、火はこっちまで届いちまうわけ。おかげで髪は焦げるは服は燃えるはで、大騒ぎ」
「……本当に、危ないことしてるのね」
「ん、まあ、そうなんだけど、ね」
 威勢のいい話をしてたつもりが、意外なほど真剣な口調で言われ、ファールは思わずたじろいでしまった。
「大丈夫なの? だって、冒険者をしてて、死んじゃう人だっているんでしょ」
「まあ、中には」
「それは、ラグーンさんやシモンさんは大人だし、すごく強くて、そんなことないかもしれないけど……」
「どーせ、おいらは子供だよ。チビだしね」
「そんなつもりじゃ……」
「どういうつもりだろうと、実際そうだもんな」
 ファールは、拗ねたような口調で言う。
「心配したんじゃない、ファールくんのこと」
 ティティスは、その不思議な色の瞳で、ファールの顔を上目でにらむようにしながら、続けた。
「それに……お母さんやお父さんだって心配するでしょ」
「そんなの関係ないよ!」
 不意に、ファールは声を荒げる。
「関係ないことないじゃない!」
 突然の大声に、ティティスもつられて大きな声を出してしまう。さらにそれにつられ、ファールはさらに大きな声を出した。
「危ないことしなきゃ、ティティスだって助けられなかったんだぞ!」
「…………」
 ぷいっ、とティティスは、顔を背ける。
 ファールは、続けて何かを言おうとしたが、そのまま口をつぐんでしまった。すぐ目の前のきゃしゃな肩が、細かく震えている。
(ありゃりゃ……ひでえこと、言っちゃったかな、おいら)
 ファールは、後悔に似たものを感じた。
 じゃれあっていたはずの猫が、思いの外強く相手を噛んでしまったような、戸惑いの入り交じった後悔である。
(考えてみりゃ、女の子なんだよな。いつも相手にしてる、酒場の酔っ払った冒険者じゃねーんだもんなあ。……きっと、すげえ怒ってんだろうなあ)
「……ゴメンなさい」
 ファールが、ちょうどその一言を言おうとした時に、ティティスが口を開いた。声まで震えて、しかも湿っている。要するに泣き声だ。
 顔は、依然としてむこうを向いたままである。
(なーんで、先に謝っちゃうんだヨお!)
 完全に謝るタイミングを逸してしまったファールは、自己嫌悪半分、やり場の無い怒り半分という複雑な表情で、視線を前に移した。
 そんな二人の背中を、シモンがきょとんとした顔で見ている。呪文書に夢中で、これまでのやりとりが耳に入っていなかった様子だ。
 道は、暗い緑色の森の中に、吸い込まれるように続いている。
 秋の天気は変わり易い。いつの間にか、日は灰色の雲に遮られていた。



 そのころ、〈月の神〉を崇拝する巡礼団は、彼らの聖地へと歩き続けていた。
 聖地――この世でただ一個所、〈完全なる満月〉の昇る地だ。
 そして、今年のこの時期の満月こそ、待望の〈完全なる満月〉なのである。百年以上の周期で一度だけ現われる、一部の狂いもない真に円形の月である。
 子供や女、老人もいるため、その歩みはのろい。しかし、みな一様に前方をにらみ、唇を引き結んで一心に歩を進めている。母親らしき女性の胸に抱かれた幼児でさえも、じっと押し黙って、集団の向かう方向を見ているのである。異様な雰囲気が、その一団を覆っている。
 空は鉛色の雲に支配され、巡礼団が歩む森の中の道は、まるで黄昏のように薄暗い。しかし、もし風景が光に包まれていたとしても、彼らはそれに心を奪われなどしなかったろう。
「……長老」
 行列の中ほど、ラグーン達に依頼を持ちかけた老人の、すぐ後ろを歩く若い男が、不意に、そう呼びかけた。
「……ティティスは、間に合うでしょうか?」
「…………」
 長老と呼ばれたその老人は、押し黙ったままだ。
「やはり、案内の人間が残るべきだったのではないでしょうか。冒険者などに任せきりというのは、どうも……」
 若者がそう言いよどんでしばらくしてから、長老は重い口を開いた。
「……不安か?」
「は、いささか。特にあの魔術師、何か知っているのではないかと思いまして」
「しかし、我々のうち誰が欠けても、連中の攻めをしのぎきれんぞ。おそらくな」
「…………」
 今度は、若者が沈黙する番であった。
「闇に血を売るとは、そういうことだ。心を失う代わりに力を得る。数で劣りでもすれば、我々など、羊のように屠られるじゃろうて」
「し、しかし、ティティスが〈完全なる満月〉に間に合わなかったらいかがするつもりです? それに、冒険者の始末は?」
「始末などと、恐ろしい言葉をむやみに口にするでないわ」
 若者の顔に、不満気な表情が浮かんだ。前方を凝視したまま、まるでそれが見えたかのように、長老が続ける。
「その、はやり、焦る気持ちこそが、我らをして血を闇に売らせしむるのじゃ。焦ってはならん。血を熱くしてはならんのだ。……冒険者など、連中に比べれば恐れるに足らん。金を渡して、適当に追い払えばよいのじゃ」
「ですが万一、儀式を邪魔されでもしたら……」
「ダイロンよ、焦るな、と言うのに」
 老人が、皺だらけの眉間に、さらに深い皺を寄せる。
「〈月の神〉の守護により、ティティスは間に合い、儀式は成就する。〈完全なる満月〉と響き合いし〈月の娘〉は、我ら全てを忌まわしい血の呪いから解放するであろう」
 長老の断固たる口調に、さすがに若者――ダイロンは口をつぐんだ。
 もはやその顔からいかなる表情も消し去り、仲間同様、前方を睨んでいる。無理に、迷いを押え込んだかのような様子である。
そのような様子を知ってか知らずか、しばし間をおいて、長老は続けた。
「あの子は、〈月の神〉に選ばれたのじゃからな」
 そして、再び沈黙が巡礼団の歩みを支配する。
 単調だが確実で、ある意志が込められた歩み――
 下生えがうっそうと茂る森の奥深くで、不意に、その歩みが止まった。
 先頭を歩く壮年の男が、両手を広げ、停止の合図を示したのだ。
 沈黙を維持したまま、皆が、周囲をうかがう。全員が、耳に両手を当て、しきりに匂いを嗅ぎ出す。目よりは耳、耳よりは鼻を頼りにしている様子である。
 巡礼団は、自分達が囲まれていることに気づいた。
「連中だ……」
 恐怖と憎悪を込めて、誰かがつぶやいた。



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