−幕間劇−
彼ら四人は、黄昏時の森の中を歩いていた。
一見して、どのような生業の者かを判別できない、異様な一団である。
彼らは冒険者であった。
ただし、彼ら自身は、自らが冒険者であると明確に自覚しているわけではない。報酬を得るために、技と力を発揮しているうちに、世間が自然と「冒険者」という名前で彼らを一括りにしただけである。
そして今、四人は、ある依頼を受けることを条件に手に入れた地図に従って、暗い森の中を歩いていた。
それは、いわゆる「宝の地図」だった。その地図によれば、この森の奥に、すでに滅びたとされているある教団の聖地があり、そこに、高価な装身具や貴重な工芸品、さらには、神々が鍛えたとされる伝説のアーティファクトさえもが隠されているというのである。
ただし四人は、あまりの貴重さに換金することさえかなわないアーティファクトなどよりも、普通の財宝に心引かれる者達だった。
巷には、一生遊んで暮らせるほどの、莫大な太古の財宝を手に入れた冒険者の話があふれている。そのような話のほとんどは法螺話なわけだが、全くそのような者がいないのかというと、そういうわけではない。
そして、冒険者と称されるような連中は、一攫千金の話を聞いた時に、いずれは自分も、という夢を抱くものである。
それは、この四人も同様であった。
四人は、互いに本名を知らない。知り合って以来、それぞれ渾名で呼び合っているのだ。
「ここいらで野営するか」
そう言ったのは、仲間に〈騎士崩れ〉と呼ばれる男だった。背はさして高くないが、肩幅が広く、逞しい体の上に、ごつごつとした剛直そうな顔がある。
「ああ」
答えたのは〈遺跡荒らし〉だ。街の邸宅に忍び込むより、盗掘の方が後腐れがないことに気付いた盗賊の一人である。
野営の準備を始めた四人のうち、一番最初にその気配に気付いたのは、〈野伏〉と呼ばれる若い男だった。
「おい、何か聞こえないか?」
「どうかしたか、〈野伏〉よ」
そう答えた〈退学者〉に、〈野伏〉は鋭く言い返した。自分は〈野伏〉などという名前ではなく、〈野伏〉と呼ばれることに合意してもいない。呪文を学ぶ暇があるのなら、自分の名前こそ憶えて欲しいものだ……。
そんな、〈野伏〉の愚にも付かない抗議を遮り、〈遺跡荒らし〉は耳をそばだてた。
獣の、気配がする。
割合と大きな獣だ。しかも一匹ではない。複数が、自分たちを囲むように迫りつつある。
すぐさま、〈騎士崩れ〉と〈遺跡荒らし〉は剣を、〈野伏〉は弓を構えた。その三人に守られるようにして、〈退学者〉が樫の杖を両手に持つ。この杖は、〈退学者〉が魔法を放つための法具であった。
日没後の森の中で、視界は木々に遮られ、その奥は闇に近い。四人は注意深く周囲に目を配った。
突然、ざっ、と音をたてて、茂みから獣が半身を現した。続いてもう一体、二体、三体……。
四人は思わず息を飲んでいた。
獣は、まるで熊のように後足で直立していたが、熊ほどの大きさはなかった。しかし、熊などの普通の獣よりも、はるかに危険な雰囲気を放っている。
いや、それは獣であって、獣でなかった。
黒い獣毛が全身を覆い、尖った顎は牙を剥き出しにしており、黄色い眼が爛々と光ってはいる。が、それらはまともな獣ではなかったのだ。直立した姿勢、そして体形は、おぞましいことに人間のそれにひどく似通っていたのである。
「ワー・ウルフ……!」
言いかけた〈退学者〉の頭上の枝から、何か黒いものが落下した。
耳を覆いたくなるような肉の潰れる音がし、〈退学者〉は一言も呪文を発することなく、前のめりに倒れた。うつぶせになりながら、〈退学者〉の首はありうべからざる方向に捻じ曲がり、その空ろな目は天を向いている。
そこに、ワー・ウルフがいた。
残り三人の中央であり、いずれのものにとっても背後に当たる位置である。
〈騎士崩れ〉が、怒りと、そして恐怖の絶叫を上げた。