すてきな終末を



エピローグ




 あれから、半年ほどが過ぎた。
 北海道の、とある海水浴場。未だシーズンにはなっておらず、人影はない。
 岩山に囲まれた、小さな砂浜である。時期が時期だけに、砂は白く、波打ち際も綺麗なものだ。
 俊司と早紀は、誰かに置き忘れられたような一つだけあるベンチに、並んで座っていた。
 空は蒼く、その色を反射して海も藍い。二人の髪をなぶる風までもが、かすかに青色に染まっていそうだ。
 岩山にしがみつくように生えている木々が、鮮やかな緑色の葉を茂らせている。
 静かだった。
 ざああ……んんん……ざああ……んんん……ざああ……んんん……
 深く単調なリズムを刻む波の音が、二人の耳にすでに馴染んでいる。
「すてきね、お兄ちゃん……」
 純白のワンピースを着込み、つば広の帽子を膝の上に乗せた早紀が、言う。
「そうだね……」
 俊司が、眼鏡の奥の目を優しげに細めながら、答える。
「……あのさ、お兄ちゃん。訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」
 遠慮がちにそう言いながら、早紀は、右隣に座る俊司の顔を覗きこんだ。
「なんだい?」
「あのさ……研究所のコンピューターが壊れて、大騒ぎになったときのことなんだけどさ」
「うん」
「あの時、お兄ちゃん……くるみさんのこと、逃がしたんでしょ?」
「くるみさん? ああ、児玉さんのことか」
 洗いざらしのシャツにジーンズというラフな格好の俊司が、苦笑する。
「どうなの?」
「……そうだよ」
「どうして?」
「自分でも、よく分からないんだけど……」
 俊司は、はるか遠くに浮かぶ小さな雲を眺めながら、続けた。
「早紀が、僕の赤ちゃんが欲しいって、泣いただろ。あの時から、ずっと、迷ってたんだよ」
「……」
「正直に言えば、僕は、Lやバーネットさんほど、人類に絶望していない。ただ、自分自身に対する絶望を、人類全体に転嫁していただけなんだ」
「……」
「でも、理性では、人類がAIに全てを継承するというのも、選択肢としてありうるとは、本気で思っていたし、今も考えてるよ。それに、“終末”を意識した方が、人類はよりよい生活ができるんじゃないかとも思ってる。もっと、時間や、生命や、他人や、他のいろいろなものを大切にするような、ね」
「……」
「でも、早紀の言葉を聞いて……もしかしたら、人類には、まだやり残したことがあったかもしれない、と思ったんだよ。それが何かは分からないけどね」
「そう……」
「要するに僕は、心が揺らいでいたんだ。このまま人類を滅亡させた方がいいのか、それとも、人類の時代をもう少し続けたほうがいいのか……傲慢な悩みだけどね。そして結局、一番、無責任な方法をとったのさ」
「無責任な、方法?」
「賭けることにしたんだよ。児玉さんと、人類結社を駒にしてね」
「ふうん……」
 そう言って、早紀は、小さくため息をついた。
「児玉さんが持ちかえった情報だけでは、ワクチンが開発できるかどうかは、半々だと思う。MWVは、次々と変種を生み出していくからね。それでも……希望はあるわけさ」
 俊司が、自嘲じみた笑みを浮かべる。
「――お兄ちゃん、いつもあたしの知らないところで、悩んでるね」
 ちょっと拗ねたような口調で、早紀が言う。
「ごめんね。でも、これで最後にするよ」
「ほんと?」
「うん」
 子どものように素直な顔で返事をして、俊司が早紀に向き直る。
「もう、父さんのことも、母さんのことも、MWVのことも、人類の終末のことも、全部忘れるよ。これからは……早紀のことだけを、考えるから」
「ほんと? 信じちゃうよ?」
「いいよ」
「ふふっ、お兄ちゃんたら……」
 そう言って、早紀は、その柔らかな唇で、俊司の唇を塞いだ。
 帽子を離し、その細く白い腕を、俊司の首にからみつける。
 俊司は、早紀のキスを目を閉じて受け止めながら、その華奢な体を抱き締めた。
「ン……んん……んむ……うン……」
 早紀の舌が、大胆に俊司の口腔に侵入し、その舌に絡みつく。
 俊司は、それに応えるように舌を蠢かせ、早紀の口内に唾液を送りこんだ。
 ぴちゅっ、ぴちゅっ、ぴちゅっ……と音をたてながら、唾液を交換し合う。
 ひとしきり、互いの舌と唇を味わった後、二人はようやく口を離した。
 唾液の糸が、二人の唇の間で、一瞬、逆向きのアーチを描く。
 早紀は、悪戯っぽい表情をそのあどけない顔に浮かべ、その両脚をまたぐようにして、俊司に向き合った。
「お兄ちゃん……して……」
 頬を上気させながら、早紀が言う。
「こんなところでかい?」
 そう言いながらも、俊司は、早紀の右腕を左手で支え、右手でその胸をまさぐった。
「あン……だって……したくなっちゃったんだもん」
 恥ずかしげに顔を伏せながらも、早紀は、俊司の服の上からの愛撫に身を任せている。
「組織か結社の人が、僕たちを監視してるかもしれないよ」
 そう言いながら、俊司は、早紀のワンピースのボタンを、右手だけで器用に外していく。
 ふるん、と清楚なデザインのブラに包まれた豊かな双乳が、露わになる。
「早紀だけを見てくれるんじゃないの?」
 子どものように口を尖らせて、早紀が言う。
「そうだね、ごめん」
 くすくすと微笑みながら、俊司は、両腕で早紀を引き寄せ、その胸の谷間に顔をうずめた。
「あはっ、く、くすぐったァい……」
 俊司の頭を抱きかかえるようにしながら、早紀が嬌声をあげた。それにかまわず、俊司は、早紀の柔らかな胸に頬ずりする。
 ブラのカップがずれ、小粒の乳首が、外気にさらされる。
 俊司は、ぱっくりとそのピンク色の突起を咥えた。
「あうン……」
 ぎゅっ、と早紀の腕に力がこもる。俊司が、口内で舌を蠢かせ、ちろちろと乳首を刺激したのだ。
 そして、ちゅばっ、ちゅばっ、と音をたてながら、早紀の乳首を交互に吸い上げ、尖らせていく。
 俊司の唾液に濡れた早紀の乳首が、ぷくん、と小生意気に勃起するのを見て、俊司はまたくすくすと笑った。
「おっぱい、揉んでほしい?」
 そして、胸の谷間から妹の顔を見上げるようにしながら、訊いてくる。
 あからさまな言い方にちょっと頬を染めながらも、早紀は、こっくりと肯いた。
 俊司は、不安定な姿勢で膝の上に乗る早紀の華奢な体を左腕で支え、その右手を、柔らかな乳房にそおっと這わせた。
「きゃうン……」
 優しく微妙なタッチに、早紀は、俊司のシャツを小さな握りこぶしでぎゅっとつかむ。
 スレンダーな肢体のわりに豊かな乳房を、その手で包みこむように、揉みしだく。
 その柔らかな弾力を感じながら、俊司は、腕の中の早紀の頬を、ちゅっ、とついばんだ。
「うん……ンあ……おにいちゃん、きもちイイ……」
 そう言いながら、早紀は、唇を半開きにしながら、俊司のキスを待つ。
 が、俊司は、まるで焦らすように、頬や目蓋、おでこ、耳たぶに口付けするばかりで、唇を重ねようとはしない。
「お兄ちゃん……わざと?」
 潤んだ目でにらまれ、俊司は苦笑いしながら、ようやく唇を重ねた。
 そして、胸を揉んでいた右手を、ワンピースのスカートの中に差し入れる。
「んむ……っ」
 ショーツの上から秘部をつままれ、早紀は、くぐもった声をあげた。
 俊司が、早紀のショーツの前側の三角部分を引っ張り、股間に布地を食い込ませる。
「んんン〜ん!」
 早紀は、きゅっ、とその眉を切なげにたわめ、ぷるぷると体を震わせた。
「んはぁっ……お、お兄ちゃん、そ、それ……あううン」
 くちゅっ、と音が出そうなほどに潤んだクレヴァスに、ショーツが食い込む。
「やあん……そ、そんなにしちゃ、ダメえ……」
 はぁっ、はぁっ、はぁっ、と息を弾ませながら、早紀が訴える。
「お兄ちゃん、早紀、もうガマンできないよ……」
 妹の可愛らしいおねだりに、俊司は、ちゅっ、とまた頬に口付けし、そして、一時ショーツから手を離した。
 そして、桃の皮をむくように、早紀の丸いお尻から、ショーツをはいでいく。
 早紀は、俊司の腰のあたりをまたいだ膝を交互に上げて、片足ずつ、ショーツから足を外した。
 俊司が、早紀の蜜を吸ってぐっしょりとなったショーツをベンチに置く。
 一方早紀は、俊司のジーンズのすでに強張っている部分を愛しげに撫で、そして、ジッパーを下ろした。
「お兄ちゃんの、すごい……」
 淫らな期待にその瞳を濡らしながら、早紀は、俊司のシャフトにその小さな両手を添えた。白い手と、褐色のペニスのコントラストが、妙にエロチックだ。
「あは……熱くって、ぴくんぴくんしてる……お兄ちゃん、興奮してるんだね♪」
 そう、嬉しそうに言って、早紀は、ゆっくりと腰を下ろしていった。
 ぬちゅっ、といった感じで、亀頭の先端が、熱く濡れた靡粘膜に触れる。
「あ……」
 その感触だけで、とろん、と恍惚の表情を浮かべながら、早紀はさらに腰を落とした。
 ぬぬぬぬぬっ、と俊司のペニスが、早紀の濡れた肉襞を掻き分け、その熱い体内に侵入していく。
「ンっ……はあああああッ♪」
 早紀が、シャフトから手を離し、俊司の両肩に手を置いた。
 ふわっ、とワンピースのスカートが、二人の結合部分を隠す。
「自分からしちゃうなんて、早紀ってばエッチだなあ」
 俊司は、からかうような口調で言った。
「だ、だってェ……お兄ちゃんが、早紀をこうさせたんじゃない……」
 耳まで赤く染めながら、早紀が反論する。
「そうだね」
 俊司は、くすくすと笑って、そして、ゆっくりと下から腰を動かし出した。
「あ、あう……ン……あうン……」
 ゆったりとした優しい動きに突き上げられ、早紀が、うっとりとした声を漏らす。
「あ……スゴい……おにいちゃんのが……早紀の中で、う、動いてるゥ……」
「きもちいいかい?」
「うん、イイの……な、中で、ぐりぐりってして……あうッ……あ、あああああッ!」
 熱い官能のうねりを感じながら、いつしか早紀は、自らも腰を動かしていた。
 その早紀の動きに合わせて、はだけたワンピースの胸元からこぼれる乳房が、ふるん、ふるんと揺れる。
 俊司は、そんな早紀の双乳を、すくいあげるように両の手の平に収めた。
「はあああああッ!」
 ぐにぐにぐにっ、とやや激しく乳房を揉まれ、早紀が高い声をあげる。
「お、お兄ちゃん、きもちイイ、きもちイイよお……っ」
「どこが気持ちいいの?」
「お、おっぱいと、アソコが……あ、あう、はう〜ん」
「アソコじゃないでしょ、早紀」
 そう言って、俊司は、一瞬、素早い動きを早紀の膣内に送りこんだ。
「きゃううううッ! オ、オマンコ、オマンコが気持ちイイのッ!」
 早紀が、まるで湧きあがる快感に鞭打たれたように、体を震わせ、猥語をわめく。
「よく言えたね、早紀……ごほうびだよ」
 そう言いながら、俊司は、きゅうっ、と早紀の乳首を摘み上げた。
「ひああああああッ!」
 早紀の悲鳴とともに、その膣肉が、きゅるるん、と俊司のペニスを締め上げる。
「う……さ、早紀……っ」
 俊司は、痛いくらいの快楽にかすかに眉を寄せながら、ぐいぐいと腰を動かした。
「あ、あうッ! ひあっ! ひゃううッ!」
 早紀も、俊司の首にしがみつくようにしながら、腰の動きを激しくする。
「す、すごいよ、早紀……自分でたててる音、聞こえるかい……?」
「いやあん……! は、はずかしい……」
「何言ってるんだい。こんな昼間に、外でしてるんだよ……」
「ああ、ああ、ああ、ああ、あああああああッ!」
 俊司の言葉に、ますます早紀の性感は高まっていくようだ。その瞳は半ば空ろで、半開きになった唇からは、唾液が一筋、垂れている。
「ほら、聞こえるだろう? こんなはしたない音たてて……」
「き、聞こえるうッ! あああッ! さ、早紀のオマンコ、ぐちゅぐちゅいってるの、聞こえるよおーッ!」
「他の人に、見られちゃうよ……聞かれちゃうよ、早紀……」
「み、見られてもいいのッ! あうン! んくッ! す、すごい! いいの、いいーッ!」
「早紀いッ!」
 俊司は、半狂乱になって悶える早紀の体を、思いきり抱き締めた。
 結果として、体内深くまでペニスで貫かれ、早紀の快感が限界を突破する。
「ひああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
 絶頂を迎えた早紀の膣内が、まるで射精をねだるように、きゅんきゅんと俊司のペニスを締め上げる。
「うあッ!」
 短く叫び声を上げて、俊司も、ペニスの根元に溜まっていた欲望の塊を解放した。
 重力に逆らって大量のスペルマが輸精管を通過する感覚。
 びゅるるるるッ! と音をたてそうな勢いで、早紀の子宮口に、熱い精液が浴びせられる。
「あーッ! あッ! あッ! あッ! あああああーッ!」
 びゅくっ、びゅくっ、びゅくっ、びゅくっ、と、ペニスが律動し、スペルマを吐き続けるたびに、早紀はより高い絶頂へと舞い上げられる。
「はぁあ……あ……ああああああ……」
 そして、二人の体から、ほとんど同時に力が抜けた。
 半分失神したような状態で、互いの体温を感じる。
「早紀……」
 しばらくして、胸に妹の息遣いを感じながら、俊司は口を開いた。
「ん……?」
「好きだよ、早紀……」
 今までは言えなかったその言葉。
 もしかしたら、この言葉を言うために、自分は人類を終末に導こうとしたのではないだろうか。
 そんなことを考えてしまう。
「あたしも、お兄ちゃんが好き……」
 父を殺し、母を破滅させ、人類を滅ぼそうとした自分に、早紀はそう言ってくれる。
 俊司は、早紀の体を優しく抱き締めた。
 早紀も、俊司の抱擁に応えるように、しがみついてくる。
(もし、今の二人の状態をもたらしたのが、人類の終末であるならば、それも悪くないな……)
 未だ快感にぼんやりとかすむ頭で、俊司は、そんなことを考えていた。


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