すてきな終末を



第五章
−淫獄−



 俊司は、研究所に戻るなり、寝込んでしまっていた。
 高熱だった。額に乗せた濡れたタオルが、すぐに温まってしまうような熱だ。
 俊司が寝ているのは、早紀の部屋のベッドである。早紀は、所員が俊司を移動させようとするのを丁重に断り、自ら看病を買って出たのだ。
 夜は、ソファーで眠った。朝起きるとちょっと体が痛かったが、じきに慣れた。
 それよりも、兄の体が心配だった。
 俊司は、何かにうなされているようだった。
 ――君のお母さんが、僕たちの父さんを殺したよ。
 ――速水紀子が、速水重蔵を殺した。
 俊司の言うことは本当だった。
 音声を絞ってTVをつけると、ワイドショーでそのことを特集していた。現役の製薬会社社長が、その妻に惨殺されるというのは、確かに、それなりにショッキングなニュースだったのだろう。
 陳腐で無意味なセリフを言い続けるキャスターの背後に自分の家の塀が映っているのが、ちょっと可笑しかった。
 そして、数日でその件は、取り上げられなくなった。
 無論、早紀にとっては何も終わっていない。
 そして、俊司にとっても。
 ――僕が、そう仕向けたんだ。
 兄が、父を殺すように、母を仕向けた。
 そういうこともあるかもしれない、と早紀は考えていた。母は、父のことを深く憎んでいたし、父は母にいかなる意味でも愛情を抱いていなかった。母が父を殺すように誘導するなど、ずいぶんと容易だったような気さえする。
 しかし、それはそれとして、全く現実味が湧かないのも事実だ。
 死体を前にしたわけでも、母親と話をしたわけでもないのだから、当然のことだろう。
 ふと、早紀は、自分が受けるべきショックの全てを、俊司が代わりに引き受けたのではないか、と考えた。
 俊司には、そういうところがある。
 熱に浮かされながらうわ言めいたうめき声をあげる兄が、ひどく可哀想に思えた。



 その少し前。地下室。
 倉庫として使われていたのだろうか。5メートル四方ほどのスペースは、壁も床もコンクリートが剥き出しで、ひどく無表情だ。
 部屋の端に、鉄製のベッドが置かれ、マットレスが敷かれている。
 そのマットレスの上に、くるみは横たえられていた。
 ほとんど、全裸に近い格好である。白衣やスカートはおろか、下着まで、すべて剥ぎ取られた状態だ。
 純白の、清楚なデザインのブラウスはまだ身につけているが、前は全てはだけられている。結局、その幼げな裸身はほとんど剥き出しである。
 しかし、くるみは、自分でそのブラウスのボタンを留めることができない。
 両手にそれぞれ手錠をかけられ、万歳の姿勢で、ベッドのパイプに固定されているのだ。
 剥き出しの蛍光灯が灯っただけの薄暗い部屋に、うぃぃぃぃぃ……ん、と、わずかな音が響いている。
 それは、いわゆるローターの音だった。
 左右の乳首と、クリトリスの部分に、それぞれバンソウコウで固定されたうずらの卵大のローターが、くるみの華奢な体を責め苛む音である。
「んく……ぅ……くっ……ンあぅ……」
 噛み殺そうとしても、噛み殺しきれない喘ぎが、くるみの、小さな口から漏れ出る。
 くるみは、まだ催眠薬の影響で朦朧となってるうちに、この部屋に運びこまれ、手錠をかけられた上に、服を脱がされた。
 そして、扇情的なピンク色の小さな責め具を装着され、さらには、妖しげな薬品を注射されたのだ。
 全ての処置をしたのは、Lと、途中から合流したエイプリル・バーネットだった。
 そして二人は、くるみの意識が完全に回復する前に、ここを出ていってしまった。
 注射は、遅効性の媚薬のたぐいだったらしい。最初は嫌悪の対象でしかなかったローターの震動が、次第に快感となって、くるみの体と心を侵食していったのである。
 くるみは、屈辱に涙をこぼしながら、何度も絶頂を感じてしまった。
 すでにくるみの秘所は熱い愛液を溢れさせ、マットレスまでびしょびしょに濡らしている。
 くるみの、顔相応に幼い体は、アクメの余韻に浸る間もなく、強制的に快感を入力し続けられた。
「んぐッ! ひっ……いいッ……! んああああぁぁッ!」
 まるで、見えない相手に弄ばれているかのように、体をよじり、腰を浮かし、背中を反らしてしまうくるみ。
 どれくらい、そんな時間が続いたのか……
 ようやく、頑丈そうな鉄製の扉が開いた。
「く……」
 眼鏡の奥の、快楽に潤み、焦点の合わない瞳を、どうにかその方向に向ける。
 入ってきたのは、エイプリルだった。ウェーブのかかった赤毛のショートヘアに、くるみほどではないが、まだ幼さを残す快活そうな顔。そのヘイゼルの瞳は、欲情のためか、きらきらと光っている。
「気分はどう? くるみちゃん」
 そんなことを言いながら、ベッドに戒められたくるみに近付いていく。
「こ……殺すなら、殺しなさいよ……覚悟は、できてるんだから……」
 くるみが、力ない声で、振り絞るように言う。
「ふふっ、勇ましいことね。結社の人たちって、みんなそう……」
 エイプリルは、ベッドに腰掛け、くるみの顔をのぞき込んだ。
「あらゆる国家、信仰、人種を超越して、人類の存続のみを目的とする秘密組織“人類結社”……。人類のためなら、自分の命なんてなんとも思わないってこと?」
 エイプリルの口元に、妖しい笑みが浮かぶ。
「ご立派な覚悟だけど、ここをこんなにしてちゃ、説得力ないなあ」
 そう言いながら、エイプリルは、くるみのクリトリスを責めていたローターに手を伸ばした。
「きゃうううッ!」
 震動を続けるローターを強くそこに押しつけられ、くるみは、高い悲鳴をあげた。くちゅうっ、といやらしい音をたてながら、ローターがくるみの柔らかなクレヴァスに、半ば埋没する。
「あなたが仕掛けたウィルス、けっこう処理に手間取っちゃってね……それで、こんなに遅くなっちゃったの。ほったらかしにしてごめんねェ」
 そう言いながら、エイプリルは、すでに愛液でふやけてしまったバンソウコウをはがし、股間のローターをさらに激しく動かした。
「あッ! や、やめ……ひあッ! ンああぁン!」
 激しくかぶりをふりながら、くるみが身悶える。エイプリルは、そんなくるみの様子を熱っぽい目で見つめながら、ちろりと自らの唇を舐めた。
「すごく敏感になってる……。よっぽどこのオモチャが気に入ったのね」
「ひぁあ……ち、ちがう……コレは、クスリの……きゃうううううッ!」
「どっちでもいいわよ、そんなこと」
 エイプリルはそう言って、勃起して半ば剥き出しになった肉の芽に、強くローターを押しつけた。
「ひああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアーッ!」
 高い声を上げ、体を弓なりに反らしながら、くるみは一際高い絶頂に押し上げられた。
 ぴゅるるっ、とおもらしでもしてしまったかのようにしぶいた愛液が、エイプリルの右手を濡らす。
「気持ちいいんでしょ……それだけが、全てなのよ……」
 がくがくと体を痙攣させた後、ぐったりとマットレスに体を落としたくるみに、エイプリルが言った。
 しかし、くるみは返事をすることもできない。
 エイプリルは、そんなくるみの呆けたような顔を見ながら、するすると衣服を脱ぎ捨てた。
 白衣や、意外とおとなしいデザインのワンピースなどを脱ぐと、その下にまとっていたものが剥き出しになる。
 それは、赤い革製の、コルセットに似た衣服だった。いわゆるボンデージ・デザインの衣装で、乳房の部分は、その半球型の膨らみを強調するような形にカッティングされている。そして、股間の部分は金属性のリングになっており、やはり革製の細いベルトがそれに接続されて、辛うじて下着の形をとっていた。
 無論、リングの部分はエイプリルの秘所を隠していない。繊細なヘアの下でほころぶ肉の花弁が剥き出しになっている。
 エイプリルは、ベッドの横に置かれたキャビネットから、小さなプラスチックの箱と、それから奇妙な棒状の道具を取り出した。そして、箱はキャビネットの上に置き、まるで見せつけるように、棒状の道具をぶらぶらと揺らす。
「……っ!」
 悦楽に上気していたくるみの顔に、緊張が走る。
 それは、黒光りするシリコン製のディルドーだった。まがまがしく反りかえったその両端に、亀頭を模した膨らみがあるタイプである。
 エイプリルは、兇暴なまでに長大なそれに、ねっとりと舌を絡めた。
 おぞましい人工ペニスが、エイプリルの唾液で濡れていくのを、くるみは、どこか魅入られたような瞳で見つめてしまう。
 エイプリルは、そんなくるみに、悪戯っぽく笑いかけた。そして、両手をディルドーに添え、股間のリングに通すように、ゆっくりと自らに挿入していく。
「ン……んんっ……んくっ……」
 さすがに小さく声を漏らしながら、エイプリルは、その形のいい眉を切なそうにたわめた。
 が、くるみを責めたてているうちに興奮していたのか、エイプリルのそこはじっとりと濡れており、意外とスムーズにその人工ペニスを受け入れていく。
 ようやく、エイプリルの秘所が、双頭ディルドーの半分を飲みこむ。ちょうど、リングがくびれた真ん中部分を固定した。
「や、やめて……」
 くるみが、顔に怯えの色を浮かべながら、体をずらす。しかし、手首を手錠で固定されているため、逃げることは不可能だ。
 手錠の鎖が、じゃらじゃらと鳴る。
「くるみちゃん……まだバージンなの?」
 くるみは、無言である。しかし、その表情は、エイプリルの言葉が図星であることを物語っていた。
「どうせ、あなたみたいなコは、初めては好きな人に捧げたいとか、そんなコト考えてるんでしょ。……でも、ダメよ」
 そう言いながら、エイプリルは、四つん這いの姿勢でベッドに上がり、くるみににじり寄った。
「あたしはね、初体験はレイプだったわ。相手はストリートのチンピラでね、十三の時……。それで、一発で妊娠させられて……父さんに、処置してもらったの。辛くて、悔しくて、苦しくて……父さんのこと、嫌いになりそうになった」
 エイプリルの顔に、凄惨な笑みが浮かぶ。
 それは、歪んだ笑みではあったが、怖いくらいに美しい顔だった。
「その父さんは、あたしがきちんとお礼を言う前に、堕胎手術反対を唱える狂った連中に殺されたの……。人間ってものに絶望するには、充分な理由だと思わない?」
 そう言いながら、エイプリルは、その白い手で、くるみの柔らかな頬をゆっくりと撫でた。細かな震えが、手の平を通して伝わってくる。
「ふ……復讐、なの?」
 ようやくそれだけ言ったくるみの膝を、エイプリルは、頬から離した手で強引に割り開いた。そして、くるみの脚の間に、その腰を進ませる。
 ひんやりとしたディルドーの先端がクレヴァスに触れた感触、くるみはびくっと体を震わせた。しかし、快楽に冒されたその小さな体では、エイプリルを押しのけることはできない。
「復讐なんかじゃない……仲間が、欲しいの……」
 そう言いながら、エイプリルは、ゆっくりと、しかし確実に腰を進ませていった。
「いやああアア……ッ!」
 すでに愛液で濡れているとはいえ、ほとんど無毛のくるみのそこは、ひどく幼い。
 その部分にはどう見ても大きすぎるディルドーを、エイプリルは、残酷にねじ込んでいった。
「ひぎいいッ!」
 くるみが、悲痛な叫びをあげる。
 しかし、エイプリルは動きを止めない。
「んぐ……ぁ……あア……あああああッ!」
 絶望に彩られた、血を吐くような叫び。
 エイプリルは、ディルドーの先端に何か当たるのを、膣内粘膜で感じた。
 異物の侵入を健気に押しとどめようとする、儚い純潔の証しだ。
 エイプリルが、さらに腰を進ませる。
 ディルドーによって処女膜が破られるぷちぷちという感触が、伝わってきた。
「あ! あああああ! ああアアアーッ!」
 くるみが、眼鏡の奥の目を見開き、信じられないような苦痛に、叫びをあげた。
 そして、必死になって細い腕を動かそうとする。
 が、手錠の内側が鉄パイプにあたる、がきッ、がきッ、という音が響くのみだ。
 無力な抵抗を突き破ったディルドーが、ずるうっ、とくるみの繊細な膣内を押し開く。
「はぐッ!」
 くるみは、一声叫び、そして空気を求めるかのように、ぱくぱくとその小さな口を開閉させた。
 痛々しく引き伸ばされたくるみのそこから、鮮血が溢れる。
「……ッう……うぁ……ぁ……ぁぅぅぅ……」
 くるみは、かくん、と壊れた人形のように頭を落とし、失神してしまった。

 どれくらい、気を失っていたのだろうか。
 くるみは、燃えるような熱さによって、強引に現実に引き戻された。
 体内深くを何かが執拗に摩擦する、そんな熱さだ。
 脳髄が熔かされてしまうのではないかと思わせるような、圧倒的な熱量。
 理性も、思考も、意識も、何もかもが熔け崩れてしまい、はっきりとした形にならない。
 残るのは単純な感覚だけだ。
「あ……つ……い……」
 くるみは、ぼんやりと呟いていた。
 その童顔から予想されるよりもなお幼い、童女のように頼りない声である。
「あつい……あついよぉ……あつい……あっつい……あついィ……」
 次第に、熱い塊が、体内をずんずんと動いているのが分かってくる。
 さらには、視覚と聴覚も、意味のある情報を把握するようになっていった。
 エイプリルが、くるみの小さな体にのしかかるようにして、抽送を続けている。
 あの鋭い苦痛は、もう無い。凄まじい破瓜の痛みが、全て熱に変換されてしまったかのようだ。
 身を焼くようなこの熱が、しかし、苦痛ではない。
 それどころか、この体内で暴れ狂う巨大な温度が、そのまま兇暴な快感であるかのように思われた。
 そんなことを考えた瞬間に、熱は、間違いなく激しい快楽へと変化した。
「ふああああああああああああああああああッ!」
 思わず、声をあげてしまう。
(……う、うそっ! ……なんでぇ?)
 わずかに熔け残った理性が、ぼんやりと思う。
(……そんな……これは……クスリの、せい……?)
(……そう……そうだよ……これって……クスリの……せい、なんだ……)
 熱い快楽のうねりにどろどろの意識を途切れさせながら、くるみはそう思った。
 媚薬を盛られ、血の通わぬ性具で処女を散らされ、しかも感じてしまっているという屈辱が、胸のうちで燃え、そしてそれさえも、圧倒的な快楽の炎に飲み込まれてしまう。
「んぐ……え……えうっ……う……うあ、ああああああッ!」
 熱い涙が溢れ出る。そうやって涙を流すことすら、どこか心地よかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
 エイプリルが、短く喘ぎながら、ぐいっ、ぐいっ、とその細い腰を容赦なく突き上げる。
 そのたびに、くるみの体の中で渦巻く熱が育っていくようだ。
「あいッ! ひい……いいいッ! あッ! ひああアッ!」
 断続的に高い声をあげるくるみの顔を、エイプリルの、緑とも褐色とも灰色ともつかない不思議な色合いの瞳がのぞきこむ。
「……感じてるの? くるみちゃん」
 エイプリルの残酷な問いに、くるみはぶんぶんとかぶりを振る。
「うそばっかり……乳首が、こんなに立ってるわよ」
 そう言って、エイプリルは、ささやかな胸の頂点にある桜色の乳首を、きゅっとつまんだ。
「ひゃううううウッ!」
 びくン、とくるみの体が跳ねる。
「やっぱり感じてるんでしょ? くるみちゃん、実はMなんだよね」
「ち、ちがう……ンアッ! そんなこと……!」
「だって、乳首、いじめればいじめるほど、立ってきちゃうよ?」
「それは……それは、クスリのせい……きゃああああッ!」
 つままれた乳首を残酷に持ち上げられ、くるみは体を反らしながら身悶えた。
 苦痛と恥辱が、体内の熱をさらに煽り、今まで感じたことの無かったような快感へと変化させていく。
「可愛いおっぱい……もっともっと、いじめたくなっちゃう……」
 エイプリルは、その顔に似合わない淫蕩な笑みを浮かべ、キャビネットの上に乗せられたままの箱に手を伸ばした。
「……?」
 一時的に激しい抽送から解放されたくるみの顔に、かすかに不審そうな表情が戻る。
 エイプリルが箱から出したのは、太く、鋭い一本の針だった。
「ま……まさか……」
 くるみが、唇をわななかせる。
「あとで、うんと可愛いアクセサリー、用意してあげるからね」
 針を、消毒薬を浸した脱脂綿でぬぐうようにしながら、エイプリルは言った。
「や、やめて! やめてやめてやめてえええエーッ!」
 くるみが、がちゃがちゃと鎖を鳴らして暴れ出す。
「くくくっ……くるみちゃんのあそこ、きゅううって、締めつけてる……」
 嬲るような口調でそう言いながら、エイプリルは、強引にくるみの左の乳首を捻りあげた。
「きゃああアアーッ!」
 くるみが、子供のように絶叫する。
「……やめて、ほしい?」
 打って変わって優しい声で、エイプリルが訊く。
 くるみは、しばし暴れることを忘れて、激しく肯いた。
「――ダメよ」
 そう言った時には、エイプリルは、くるみの乳首に、水平に針を突き通していた。
 一瞬の空白。
「……ぁぁぁあああああああああああああ!」
 痛みが脳に到達するとともに、事態を理解したくるみが、声をあげた。
 自分の乳首に、まるで冗談のように、太い針が突き通っている。
 かああっ、と視界が赤く染まった。
 痛覚よりも、視覚的な衝撃が、くるみの意識を惑乱させる。
「イ、イヤああああああああああッ! 抜いて! 抜いてエーッ!」
 くるみは、涙をこぼしながら訴えた。
 しかしエイプリルは、出血を抑えるためか、針を抜こうとしない。
 純潔を奪われながら、さらに純潔を奪われる。そんな感覚に、くるみは混乱しきっていた。
「ヤダよお! もうヤダあ! ヤダヤダヤダあああああああッ!」
 まるで、駄々をこねる子供のように、くるみは叫び続けた。
 すでにその胸には、人類結社の一員としての誇りも、エージェントとしてのプライドも無い。あるのは、喩えようも無いみじめさだけだ。
「ホントにイヤなの?」
 エイプリルの声は、相変わらず優しい。
 そして、優しい笑みを浮かべながら、残酷に腰をグラインドさせる。
「はぐッ!」
 真紅の視界を、白い光が貫く。
 くるみは、叫ぶことすら忘れ、ぴくぴくぴくっ、と体を痙攣させた。
「くるみちゃんのあそこ、エッチなお汁で大洪水よ」
「……ウ、ウソ!」
「嘘じゃないわ。ほら、くちゅくちゅいってるの、聞こえない?」
 そう言いながら、エイプリルは、ゆっくりと腰を使い、ディルドーでくるみのそこをえぐった。
 ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ……
 淫猥な粘液質の音が、地下室の空気を震わし、くるみの耳に届く。
 血の混じった愛液に濡れた靡粘膜が、おぞましい人工ペニスにからみつく音だ。
「あ……あ……あ……ああぁ……」
 自らの浅ましさを突き付けられ、くるみは耳まで赤く染めながら、顔を背けた。
「ち……ちがう……こんなの……こ、これはクスリのせい……クスリのせいだもん……」
 そして、まるで自分自身に言い聞かせるように、そうつぶやく。
 そのつぶやきも、はぁっ、はぁっ、という喘ぎの中に埋没していった。
 熱っぽい、間違いようもなく、官能に濡れた喘ぎ。
「クスリの……あぅ……うあああっ……クスリの、せい……ひあっ……ふわあン……はうううううう……ッ!」
 痛みと衝撃に一時忘れかけていた官能が、前以上の勢いでくるみの幼げな体を翻弄する。
 乳首を針で貫かれた痛みさえ、じんじんとした疼きとなって、その快感を煽りたてているのだ。
 ひどくみじめで、泣きたくなるような快美感。
 それが、くるみの幼げな体の中に満ち、渦巻き、全てを支配しようとしている。
「薬のせいで、痛いのが気持ちイイの?」
「そう……そうだもん……はぐッ! クスリの、せい……だ、よう……んんんんんんあッ!」
 エイプリルは、まだ無傷の右の乳首を、すりすりとしごきあげた。
 そして、ふっ、と優しげな仮面を脱ぎ捨て、淫らな笑みを浮かべる。
「――そんな都合のいい薬、あるわけないでしょ」
「え……? あ、あああ、あぐううううッ!」
 乱暴に乳首を摘み上げられ、くるみが細く白い喉を反らす。
「あれは、ただの興奮剤よ。それにね、効果時間だって、とっくに切れてるんだから」
「……そ……そんなァ……」
「くるみちゃんはね、根っからのマゾなのよ! こっちが恥ずかしくなっちゃうくらいのね!」
「そんな……そんな……そんな……そんなああああッ!」
 哀しげな、くるみの叫び。
 その悲痛な声を聞きながら、エイプリルは、もう一本の針を取り出し、素早く消毒して、くるみの乳首にあてがった。
「あ……!」
 もはやくるみは、暴れることも、声をあげることも、目をそらすことすらできない。
 眼鏡の奥の瞳が、涙で潤む。
 しかしその瞳の奥底には、何かを期待しているような光が隠れているようだった。
「いくわよ」
「ひ……ッッッッッ!」
 針が、くるみの右の乳首を貫いた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
 くるみは、みたびその体を貫かれ、絶叫した。
 激しい、悲哀と歓喜に満ちた叫び声。
 ディルドーに犯されたままのその股間から、大量の愛液と小水をほとばしらせながら、くるみは、深く昏い穽にどこまでも堕ち続けていくような快感を感じていた。



 その日の朝、ようやく俊司は、はっきりと意識を取り戻した。
「ん……」
「だいじょうぶ? お兄ちゃん」
 早紀が、心配そうな顔で、眼鏡を外した俊司の顔をのぞきこんでいる。
「うん……ちょっと、おなかすいた……かな……」
「あ、じゃあ、おかゆ持ってきてもらうね」
 そう言って、早紀は、備え付けのインターホンに手を伸ばした。
「もっと普通のものが食べたいんだけど……」
「ダメよ! 胃のほうがびっくりしちゃうでしょ」
 今まで俊司は、ほとんど無意識のうちに、ジュースや流動食を喉に流しこむだけだったのである。早紀の言うことももっともだった。
「うどんとかなら、大丈夫だと思うんだけどなあ」
 そう言いながら、俊司は上体を起こし、そして妙な顔で毛布をめくりあげた。
「あ……」
 そして、何とも情け無い声をあげる。
「早紀、これって……」
「いろいろ設備が整ってて、助かっちゃった」
 早紀が、悪戯っぽい顔で言う。
「その……早紀が、セッティングしてくれたの?」
「なあに? 今さら照れるようなカンケイじゃないでしょ」
 早紀はそう言って、ひどく複雑な表情で微笑んだ。
「……兄妹、なんだからさ」
 そのあどけない顔に似合わない、どこか大人っぽい表情である。
「だから……だからね……あんまり一人で背負いこまないで、きちんと、話してほしいな」
「早紀……」
 俊司が、まぶしいものでも見るような表情で、妹の顔を見つめる。
「きちんと食べて、落ちついてからでいいから、ね」
 早紀は、まるでダメを押すかのようにそう言って、そして今度は屈託のない表情で笑うのだった。


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