第一章
−憧憬−
白い会議室で、数人の男女が話をしている。
国籍も年齢もまちまちな、不思議な集団だ。
機能的な会議机が、細長い長方形を描くように配置された、清潔そうな部屋である。その部屋の一番奥にあたる席に座った若い女性が、この会議の座長役らしい。
アングロサクソン系の白人である。ストレートの金髪に、ミルク色の肌。どこか貴族的な、温かみを感じさせない美貌。大きな蒼い瞳には、二十代半ばから後半と思われる彼女の年齢に似合わない、どこか超然とした光が宿っている。
彼女は、流れるような英語で、何事かを言った。
それに対し、小太りで血色のいい中年の東洋人が、北京語で答える。
独特の音韻の言葉の中で、「L」というアルファベットだけが浮いて聞こえた。それが、この金髪の女性の、この場での通り名らしい。
東洋人の隣に座る、快活そうな赤毛の女性が、やはり英語で何事かを言う。年齢不詳のLよりも、おそらくさらに若い。二十歳を越えたか越えないか、というところだ。
「それなら大丈夫ですよ、バーネットさん」
赤毛の娘にかけられたその言葉は、日本語だった。
発言者は、白衣をまとった、二十代半ばくらいの青年である。やわらかそうなぼさぼさ頭に白衣という、あまり風采の上がらない外見だ。しかし、眼鏡をかけ、柔和な表情を浮かべたその顔は、それなりに整っている。
「実験結果は、甘博士の理論通りの数値を示しています。MWVの開発は最終段階に入りました」
彼の言葉を聞き、一同はみな満足げに肯いた。
そして、再び英語、ドイツ語、ロシア語などで、発言が交わされた。会議の参加者は、皆それらの言語全てに精通しているため、めいめいの母国語で発言ができるのだ。
「速水俊司――」
最後に、Lが、日本人青年に語りかける。正確な日本語の発音である。
その後の、英語で語られたLの言葉を、俊司と呼ばれた青年は、穏やかな笑みを浮かべながら聞いた。
「ご心配なく、L」
俊司は、ほんのかすかに透明な悲しみをうかがわせる表情をその白皙に浮かべながら、ゆっくりとした口調で言った。
「僕のMWVは、確実に、人類を終末に導きます」
俊司の言葉に、Lは、妖しい笑みをその美貌に浮かべた。
速水早紀は、ぼんやりとした表情で、学習机の前に座っていた。
厚手のカーテンに隠された窓の外は夜。雲が空を覆っているのか、星一つ見えはしない。
いわゆる高級住宅街の中でも、一際広大な敷地を誇る早紀の家は、どんよりとした静寂に包まれていた。
父も母も、家にはいない。使用人も、今日は皆帰っている。
兄が帰るはずの日だというのに、家中がそれを無視しようとしているような、そんな感じだ。
だから、せめて自分だけは、兄が帰宅するまで起きていようと、早紀は思っていた。
普段だったら、とっくにベッドの中に潜りこんでいる時間だ。早紀は、ふわ、と声をあげて、あくびをしてしまった。
そして、ちょっと顔を赤らめる。
肩の上で切りそろえられた、やや褐色がかったさらさらの髪と、可愛らしい目鼻だち。平均より低めの身長と細い手足、そして特徴的な大きな瞳が、十六歳という年齢よりは、やや幼い印象を見るものに与える。
そんな、まだあどけなさを残す容姿に相応しく、化粧っけらしいものはない。アクセサリーといえば、シンプルなデザインのヘアピンくらいのものだ。愛らしいデザインのピンク色のブラウスと赤のミニスカートが、よく似合っている。
兄の俊司と早紀は、ちょうど一回り、年が離れている。早紀は、この家の主である重蔵の後妻の座に収まった母、紀子の連れ子なのだ。
――こんにちは、早紀ちゃん。
当時まだ六歳だった自分に、やさしくそう語り掛けてきた、学生服姿の俊司の顔を、早紀は未だに鮮明に憶えている。
それが、十年前。
初対面のその時から、早紀にとって、俊司は特別な存在だった。
美人ではあるが温かみの無い紀子と、権威主義のカタマリのような重蔵は、あからさまに、早紀を疎んじていた。使用人たちは、複雑な境遇の早紀を敬遠するかのように、うやうやしくはあるが冷たい態度で接した。
上流階級の子女が通う早紀の学校の級友たちも、早紀にはどこか距離を置いていた。再婚するまで、紀子と早紀は母子家庭だった。本当の父親の顔を知らない早紀を、良家のお嬢さんであるクラスメートは仮面のような微笑で差別するのだった。
その状況は、高校に進学した今もあまり変わらない。
そんな早紀にとって、兄である俊司は、数少ない味方だった。
何かあるたびに優しい言葉で慰めてくれた俊司に対する漠然とした想いが、いつしか、純粋な思慕の念となったのは、ある意味で必然だったろう。
中学生の頃、「血のつながっていない兄妹なら結婚できる」ということを知ったとき、早紀は、踊りあがりたいほどの喜びを覚えた。
しかし、義父である重蔵は、俊司が大学を卒業するとすぐ、彼に結婚を勧めた。いや、それは勧めるという生易しいものではなく、半ば強迫であった。一刻も早く結婚し、自分が一代で築き上げた大手製薬会社の後継者を産め、と、唾を飛ばすようにして喚くのだ。
早紀は、その重蔵の言葉を聞くたびに、文字通り胸が張り裂けるような痛みを感じた。
そんな早紀の気持ちを知ってか知らずか、俊司は、ここ一年ばかり、奥多摩の方にある会社の研究所に入り浸りになっている。学者肌の俊司は、大学で生化学に関する優秀な成績を修め、会社の研究所でいくつものプロジェクトを指導しているのだ。
父親の重蔵に比べれば圧倒的に覇気に欠ける俊司だったが、持ち前の協調性と確かな知識で、彼は二十代半ばの若さで、会社の研究部門を掌握していた。重蔵だけは、そのことを認めようとはしなかったが。
今日は、そんな俊司が帰ってくる日だった。
「遅いなあ……」
早紀は、最近増えた独り言でそうつぶやいて、ぼふ、とベッドに身を投げ出した。
そして、中学校の入学祝に俊司にプレゼントされた、大きな羊のぬいぐるみを抱きしめる。
柔和な、そしてどこかとぼけた表情のそのぬいぐるみは、ちょっと兄に似てる、と早紀はいつも思った。
そのふわふわした胴体を抱きしめると、きゅぅん、と胸が切なくなる。
しばらく、早紀はそのぬいぐるみにちまっとして形のいい鼻をうずめるようにして、目を閉じた。
次第に高まる切なさが、少しずつ、早紀のまだ幼い体の中で、別のものに変質していく。
「ン……」
早紀は、ミニスカートの裾から伸びた健康的な脚を、我知らずもじもじとすり合わせていた。
まだいかなる異物も受け入れたことのない未成熟なその部分が、甘く痺れるような感じになる。
(ダメ……おにいちゃん、帰ってくるのに……)
そう思いながら、ちら、と壁にかかった時計を見る。もう、日付が変わってだいぶ時間が経っていた。
(それとも……急なお仕事が入ったのかな……)
そんなことを考えながらも、早紀の体は、さらなる刺激を求めて、もぞもぞとうごめいている。
いつしか、早紀は、今まで抱き締めていたぬいぐるみを、脚の間に挟むようにしていた。
(ヤダ……あたしってば……)
そうは思っても、官能の火が灯った体を鎮めるには、方法は一つしかない。早紀は、ぬいぐるみを両手でぐっと自らの恥ずかしい部分に押しつけた。
「はァ……」
柔らかな布のかたまりが恥丘を圧迫する感覚に、かすかに喘ぎが漏れる。
もどかしいような、うずくような、淡い快美感。
自らの体が、着々と牡を迎え入れる準備を完成させつつあることに思い至らないまま、少女は、次第に昂ぶっていく牝の本能に身を任せていく。
羊のぬいぐるみを脚の間に挟んだまま、早紀は、くにくにと丸いヒップを動かしていた。
薄いショーツの布越しに、熱を帯びたその部分を、ぬいぐるみにこすりつける。
未だ早紀は、浴室以外では、自らの秘部に触れたことはない。オナニーという概念を覚えたばかりの早紀にとって、それは、自らの慰める唯一の手段だった。
「はァ……んン……んく……んンっ……」
じわっ、じわっと体内に満ちていく快感を自覚しながら、早紀は、そのピンク色の唇を噛んで、漏れ出る声を押し殺した。
その弓型の眉は、今は切なげにたわめられ、大きな両目は何かに耐えているかのようにきつく閉じられている。
(ショーツが……しみになっちゃうよ……)
頭の隅で、かすかな理性が、ぼんやりとそんなことを思ってる。しかしそれも、自らの浅ましい動きを止めるまではいたらない。
「っはァ……ッ」
とうとう早紀は、あからさまな快感の喘ぎを漏らしてしまった。
「あンッ……ンくッ……はぅ……くぅン……」
まるで、主人に媚びる子犬のような声が、次々と半開きになった唇からあふれ出た。
時折、ひくン、ひくンと、背中に震えが走る様が、少女らしいエロスをかもし出している。
すでに早紀の腰は、リズミカルに動き、貪欲に青い快楽を貪っていた。
すり、すり、すり、すり……と、ショーツ越しにぬいぐるみの布地と摩擦する度に、ひりつくような快感が湧き起こり、その小柄な肢体をぞくぞくと震わせる。
(きもちイイ……きもちイイ……きもちイイよう……)
快感が高まるに従って、ますます切なさは増し、早紀は、胸が締め付けられるような感覚さえ覚えていた。
ふわふわのぬいぐるみを股間に押しつけ、脚でぎゅっと締め付けると、かすかに安心感に似た何かを感じる。
早紀は、その錯覚にすがるようにして、ますますその幼い自慰行為にのめりこんでいった。
(お兄ちゃん……)
禁断の言葉が、早紀の胸の中で響いた。
(お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん……ッ!)
愛しい人のことを想うことで、快感と切なさが倍化していく。
(お兄ちゃん……きもちイイ……早紀、イヤらしいの……どうしよう……)
その言葉を、声にすることはできない。そんなことをすれば、自分の心は、弾け飛んでしまうのではないかと、早紀は真剣に考えている。
「ああッ! あうッ! ンくッ! ひうッ!」
その代わりに、早紀の声はますます激しく、大胆なものになっていった。
まだ口にすることのできない想いが空けた穴を快感で埋めようと、少女はその白い肌に汗をにじませながら、覚えたばかりの絶頂まで、昇っていこうとする。
(お兄ちゃん……好き……ッ!)
そう叫ぶ代わりに、早紀は、短く高い悲鳴を上げていた。
「きゃうゥッ!」
そして、慌てて両手で口元を押さえる。
「んッ! んんンッ! んぅッ! んんンー……ッ!!」
ぴくン、ぴくン、ぴくン……と、まだ幼さの残る体が、絶頂の余韻に何度も痙攣する。
「はぁ……あぅ……ン……ふー……っ……」
早紀は、呼吸することを思い出したかのように、長々とため息をついた。
(すご……かった……)
早紀は、軽く脚を開き、ベッドの上で細めの大の字になった。
その潤んだ瞳に、見慣れた天井が映る。
(あたし……どうしよう……すればするほど……すごくなる……)
もやがかかったような頭で、早紀は、ぼんやりとそんなことを考えた。
その時――
ドアが、開いた。
「お兄ちゃん!」
がばっと体を起こし、早紀は叫んでいた。
ドアを開けたのは、俊司だった。
「久しぶりだね、早紀」
俊司は、いつものように、ラフなシャツとジーンズといういでたちで、優しい笑みをそのやや面長の顔に浮かべていた。そして、なぜか胸ポケットの中につながるイヤフォンを、その右の耳にはめている。
早紀は、自分の顔がかっと熱くなるのを自覚した。
「カ……カギ、かかってなかった?」
ようやく、カの鳴くような声で、ぽつぽつと喋りだす。
「でも……ひどいよ……ノックもなしに……」
「ごめんね、早紀」
そう言いながら、俊司は、ぬいぐるみを抱き締めてベッドの上に座っている早紀に近付いていく。
うつむいていた早紀が、すぐ近くに俊司の気配を感じ、はっと顔を上げた。
「合い鍵、作っておいたんだ」
「え……?」
「今日はね、早紀をさらいに来たんだよ」
「な……」
なに言ってるの? と言おうとして半開きになった早紀の唇に、素早く俊司の唇が重なった。
「!」
驚く早紀の細い肩を、俊司が、意外なほど強い力でつかむ。
「ん! ん! ん! んンー!」
反射的にもがく早紀の小柄な体を難なく押さえながら、俊司は、眼鏡の奥の目を閉じて、早紀の口を味わった。
桜色の唇を軽く吸い、口の中に、舌を侵入させる。
そして、ちゅぴ、ちゅぴ……と軽く音をたてながら、口内への侵入を阻む歯を、舌でなぞった。
早紀は、大きな目を見開き、兄の口と舌による蹂躙に、呼吸さえ忘れている。
ようやく、俊司は口を離した。細い唾液の糸が、一瞬、二人の唇をつなぐ。
「キスするのは、初めて?」
いつもと変わらない口調で俊司に訊かれ、素直に肯いてしまった後、早紀はますます頬を紅潮させた。
「ひ、ひどいよッ! こ、こんな、むりやり……!」
ファーストキスを奪われたことより、何の前触れもなく口付けされたことに、早紀の胸に怒りに似た感情が湧き起こっている。
「イヤだった?」
「だって……お兄ちゃん、なんでこんなことするの?」
「言ったろ。僕は今夜、早紀をさらいに来たんだ」
「さ、さらうって……?」
茫然とする早紀の肩から手を離し、俊司は、胸ポケットに入っていた小さな機械を取り出した。
そして、イヤフォンのコードを抜き、スイッチを押す。
“はァ……んン……んく……んンっ……”
すこし変質した自分の声が、機械の小さなスピーカーから漏れ出る。
「な……?」
「そのぬいぐるみにね、盗聴器をしかけておいたんだよ」
「ええッ!」
早紀の驚きをよそに、その機械は、彼女の愛らしい喘ぎを再生し続ける。
“あンッ……ンくッ……はぅ……くぅン……”
マイクがぬいぐるみの中に入っていたせいだろう。しゅっ、しゅっ、という布のこすれる音が、声に被さっている。間違いなく、“あのとき”の音だ。
自分自身の浅ましさの証を目の前にして、早紀は、言葉を失っていた。
憧れていた優しい兄が、自分をこんな目に遭わせるということが、とても信じられない。まるで、夢でも見ているような非現実感がある。
しかし、機械が再生している声は、間違いなく、ついさっきの自分の声だ。
「可愛い声だね、早紀」
「や……いやアーッ!」
とうとう早紀は、悲鳴をあげ、両手で耳を覆っていた。
“ああッ! あうッ! ンくッ! ひうッ!”
それでも、自分の声は聞こえてくる。
「もうイヤ! バカッ! お兄ちゃんのバカあ!」
早紀は、近くにあった羊のぬいぐるみを、おもいきり俊司めがけて投げつけた。
俊司が、それを易々とかわし、その動きのまま、早紀に迫る。
「きゃン!」
早紀は、悲鳴をあげていた。俊司が、早紀の体をベッドに押し倒したのだ。
すでにその手には、例の機械はない。ただ、早紀の細い両手首を、しっかりと左右の手でシーツに押さえつけている。
眼鏡の奥の俊司の瞳は、今まで早紀が見たことのない光を湛えていた。
「早紀……」
俊司が、いつになく真剣な口調で早紀のことを呼ぶ。
ぞく、となぜだかは知らないが、早紀の細い体に戦慄が走った。
「ずっと、お前を見ていたんだ……もう、離さないよ……」
「お、お兄ちゃん……」
早紀は、声を震わせながらそう言うだけで精いっぱいだ。
俊司の長身が、早紀の小柄な体に覆い被さる。
「あッ……!」
俊司の体重を全身で感じて、早紀は、思わず声をあげていた。
そんな早紀の首筋を、俊司の唇がなぞる。
「あっ……ダ、ダメ……ダメえ!」
そんな早紀の悲痛な言葉も、俊司の動きをとめることはできない。
俊司の脚が、早紀の細い脚を割り開き、腿が布越しに恥丘を圧迫する。
「ダメ……おねがい……お兄ちゃん、やめて……」
涙に濡れた声でそう訴えながら、早紀は、俊司の体の下で身悶えた。
ついさっき、自慰行為で絶頂を迎えたばかりの体の中で、再び、浅ましい牝の本能が鎌首をもたげつつある。
「あ……ダメ……んぅ……イヤ……イヤぁ……」
早紀の声に、次第に、喘ぎが混じっていく。
俊司は、早紀の両手を、彼女の頭の上に持っていき、左手一本で押さえつけた。
そして、右手を早紀の左の胸に当てる。
「あァ……」
膨らみかけの胸を優しくまさぐられ、早紀は、思わず熱い吐息を漏らしていた。
ブラのカップにこすれ、乳首が、だんだんと固く尖っていく。
「おねがい、おにいちゃん……もう……もう、やめてェ……」
ぽろぽろと早紀の瞳からこぼれる涙を、俊司は、唇でぬぐった。
そうしながら、左右の胸を交互にまさぐり、繊細な手つきで愛撫する。
布越しの刺激に、早紀は、ぴく、ぴく、と敏感に反応した。
(うそ……あたし、感じてる……感じちゃってる……)
自分自身の反応に戸惑いながらも、体が淫らにうねるのを止めることができない。
俊司は、そんな早紀の脚の間に、右手を潜りこませた。
「あう……ッ!」
布越しに、熱を帯びたその部分を触れられただけで、びくっ、と体が震えてしまう。
「熱く湿ってるよ、早紀……」
「イ、イヤ……」
顔を背ける早紀に、俊司は、くすりと笑いかけ、そして、ショーツの中に右手を差し入れた。
「あああッ!」
すでに、じっとりを愛液を分泌している肉の襞が、ぴったりと俊司の指先に吸いつく。
俊司は、その感触を楽しむように、くにくにと指で肉の花弁を弄んだ。
「ダ、ダメ……お兄ちゃん……そんなふうにしたらダメえ……!」
かつてない快楽を感じながらも、早紀は、そう叫ぶ。
(こんなのヤダ……むりやりなんて……やだよう……)
好きな相手にレイプされつつある、という状況が、早紀の心を乱れさせる。
一方、俊司は、迷いのない動きで、早紀の幼い性感を煽っていった。
恥丘全体を手の平で包みこむようにして、熱い蜜をたたえたスリットに指を這わせる。
ほとんど生え揃っていない、繊細なヘアの感触が、妙に生々しい。
俊司は、早紀の陰唇を挟むようにして、指を細かく動かした。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……」
初めて経験する直接の愛撫に、ひりつくような快感を感じながら、早紀は、短い喘ぎをあげ続けた。
早紀のそこが、新たに愛液を溢れさせ、俊司の指先をぬるぬると濡らしていく。
俊司は、その淫らなぬめりを、複雑な構造の秘部の隅々に塗りたくるように、指を動かした。
敏感な十六歳の肉襞は、その刺激にますます蜜を分泌してしまう。
そして、俊司の指先が、まだフードに覆われた肉の芽を優しく挟んだ。
「きゃうううッ!」
まだ、自分でも触れたことのない過敏な器官をつままれ、早紀が高い声をあげる。
俊司は、はァはァと喘ぐ早紀の頬に唇を這わせながら、くりくりとその部分を弄んだ。
「あいッ! ひッ! ひあああッ! きゃッ! きゃあああああああッ!」
痛みと錯覚するような強烈な快感に弾かれるように、早紀の幼さを残す腰が跳ねる。
「だ……めッ! ソ、ソコ……あうッ……ひ……きゃうううううううッ!」
指先で、円を描くようにして自らが分泌した愛液を塗りつけられ、早紀は、ほとんど半狂乱になった。
そんな早紀の柔らかな唇を、俊司がキスで塞ぐ。
今度は、早紀の歯も、俊司の舌を拒もうとはしなかった。
俊司の舌が、早紀の舌に絡まり、口蓋をくすぐる。
「んむむむム〜ッ!」
口の中も、まぎれもない性感帯だ。早紀は、くすぐったいような快感に、くぐもった声をあげる。
くいっ、と俊司の指先が、充血した早紀のクリトリスを優しく摘んだ。
「! ! ! ! !」
強い衝撃とともに、早紀のまぶたの裏で、白い光が弾けた。
びくびくびくッ! とその小柄な肢体が、これまで感じたことのないような強烈な絶頂感に痙攣する。
(ア……ア……ア……ァ……)
しぶくように溢れた愛液が、俊司の手を恥ずかしいほどに濡らしてしまったことに、早紀は気付いていない。
(あう……ン……)
視界が、ねっとりとした闇に包まれる。
早紀は、口をキスで塞がれたまま、くったりと気を失ってしまった。
気がつくと、早紀は、車の助手席に座らされていた。
「あ……!」
両手に手錠がかけられ、足首にも、細い鎖でつながった足かせがはめられている。
「目が覚めたかい? ……早紀はねぼすけさんだね」
運転席を見ると、ハンドルを操りながら、俊司がちらりとこちらに笑いかけてくる。
「これって……?」
早紀が腕を動かすと、じゃら、と鎖が音をたてた。
「ごめんね、早紀。痛かったら言うんだよ」
「……」
早紀は、黙り込んでしまった。兄の意図がどこにあるのか、未だによく分からないが、とにかく、本気であることは確かだ。
車は、見覚えがある。車種は知らないが、俊司の所有の、軽快そうなツードア車だ。
早紀は、きょろきょろと辺りを見まわした。夜中、というか、明け方に近いのだろう。車の通りはほとんどない。
「ここ、どこ……」
「東北道だよ。僕の研究所に向かってる」
「……え? 研究所って、奥多摩でしょ……?」
「それは、会社の研究所さ」
俊司は、どこか悪戯っぽい表情で微笑んだ。
「僕の研究所はね、ずっと北の方にあるんだ」
早紀は、めまいを感じて、ぐったりとシートにもたれかかった。
「眠かったら、寝てていいんだよ」
そんな俊司の言葉が、どこか遠く聞こえる。
細い下弦の三日月が、ふと、視界の隅に見えた。