S×M



「先輩の奥さん、美人ですけどちょっと気が強そうですよね」
 酔った勢いで携帯の中の妻の画像を見せたところ、同じく酔った勢いなのか、課の後輩がそんなことを言いやがった。
「まあな。何しろこいつ、学生時代はSMクラブで女王様のバイトやってたんだぜ」
「うえっ? マ、マジですか?」
 後輩が、さすがに目を見開いて声を上げる。
「……マジだと思うか?」
 わざと真面目な顔をつくって、後輩の赤い顔を覗き込む。
「へ……? あは、あはははは、もう、冗談やめてくださいよぉ! びっくりしたじゃないですかぁ!」
 後輩が、乾いた笑い声を上げる。
「で、先輩は、その奥さんに、尻に敷かれちゃってるわけですか?」
「そんなとこだよ」
 俺は、我ながら気のない返事をしてから、飲み屋の兄ちゃんに会計を頼んだ。
 別に、冗談じゃなかったんだが……まあ、確かに、あんまり人に言うことじゃないわな……。



「遅かったわね」
 昨年どうにかローンで購入したマンションに帰宅すると、妻が、下着姿で俺を出迎えた。
「お前、何てカッコしてるんだよ」
「暑かったのよ。別に、家の中でどんな服装でいようと自由でしょ」
 後輩に“美人”と評された顔に険のある表情を浮かべつつ、妻が言う。
 まあ、それはそうなんだが……その黒い下着は、普段着代わりにするには扇情的過ぎるだろうに。
 そんなことを思いながら、俺は、靴を脱いで部屋に上がった。
「ねえ、あなた」
 キッチンで酔い醒ましの水を飲んでいると、妻が、背中から声をかけてきた。
「んー?」
「あの……今日は、もう寝ちゃうの?」
「もうこんな時間だしなぁ〜」
「でも、明日はお休みなんでしょ?」
 そう言いながら、妻が、俺の前に回り込む。
 俺より5歳年下の、27歳……だったかな? 黒いロングヘアに、ややきつい印象のある目と眉。そして、通った鼻筋とぽってりした唇――確かに、美人かもしれない。
 その、ほどよく脂の乗った体は、くびれるところはきちんとくびれ、未だ、指名ナンバーワンのSM嬢だったころのプロポーションを保っている。特に、ハーフカップのブラと揃いのデザインのショーツに包まれた、たわわな巨乳と丸い美尻は、犯罪的なまでにセックスアピールがある。十代や二十代の若者であれば、この姿を前にして自制心を保つのは難しいだろう。
 だが、そこはそれ、俺ももう三十代だし、結婚5年目の夫婦でもある。特に苦労する事なく平静な顔ができるのだ。
「疲れてるんだよ」
 妻の言わんとしていることを何となく察しつつ、俺は、わざと素っ気なく言った。
「ん、もうっ……」
 妻は、そう言いながら、いきなり俺の目の前にいわゆるぺたんこ座りをし、その手の平を俺の股間に当てた。
「ちょ、お前」
「ほらぁ……固くなってるじゃない……正直に言いなさいよ。本当はしたいんでしょ?」
「いや、俗に言う疲れマラって奴さ」
「フン……疲れだけじゃなくて、別のものも溜まってるくせに……。せっかく私がちょっとだけその気になってるんだから、素直になりなさいよね」
 そう言いながら、妻が、俺のベルトを外し、ズボンのボタンまで外してくる。
「お、おいおい……」
「いつまでもスーツ姿でいられると鬱陶しいのよ……。とにかく、早く脱いじゃいなさ……キャッ!」
 ズボンごとトランクスを下ろしたところで、妻が、不覚にもといった感じの可愛い悲鳴を上げた。
「な、何よ……もうビンビンじゃない……こ、こんなに大きくして……ん、んっ、いやらしい……んくっ……」
 妻が、生唾を飲み込みながら、勃起した俺の肉幹に指を絡める。
「こんなにパンパンにして……よっぽど私のオマンコに入りたがってるのね」
 SM嬢だったころの癖が抜けてないのか、妻が、すんなんりとその四文字を口にする。まったく、はしたない。
「ねえ……私とオマンコしたいんでしょ……ん、んく……こ、今夜は、私も、ほんの少しだけだけど、そんな気分だから……させてあげるわよ……オマンコ……」
 妻が、強すぎず、弱すぎず、絶妙な力加減でペニスを握り、シコシコと扱く。
「んうっ……バカみたいに大きくて……な、何ていやらしいチンポなの……まるでサカった馬だわ……は、はっ、はふぅ……」
 そんなふうに言いながら、妻が、先程よりもさらに膨張したペニスに上気した頬を寄せる。
「あふ……熱いわ……んふ、んふぅ……ねえ、どうなの? したいの? んふぅ……し、したいんでしょ? オマンコ、今すぐしたいんでしょ?」
 妻が、上目使いで俺の顔を見る。
「でも、まだ風呂もシャワーも使ってないしなあ」
「い、いいわよ、そんなの……ほら、あなたのチンポ、こんなに膨らんで……はぁ……か、可哀想だわ……」
 そう言って、妻が、俺の亀頭に鼻を当て、匂いを嗅ぐ。
「クンクン……うぶっ、く、臭い……臭いわぁ……クンクン……んふぅ、チ、チンカスの凄い匂い……クンクン、クンクン……は、はふ、はふぅ……クンクンクン……んふ、はふぅン……」
 たまらない、といった顔で俺のペニスの匂いを嗅ぎ、そして、熱い吐息を吐きかける。
「やれやれ……」
 俺は、妻の両腋に手を差し込み、半ば強引に立たせた。
 そして、その唇に、口付けする。
「んっ……ちゅぶっ、ちゅぷ、ちゅ……ちゅっ、ちゅぶ、ちゅぶぶっ……」
 妻が、すぐに俺のキスに応え、舌を出してくる。
 その舌を吸ってやると、妻が、ちゅぱちゅぱと音をさせて唇を吸い返してきた。
 そのまま、じっくりと、キスを交わし合う。
「んふ、んふン、んちゅ……ちゅぶっ、ちゅぷぷっ、んちゅ……んっ、んふ、んふぅン……」
 鼻から悩ましい息を漏らしながら、妻が、俺の舌や唇を吸い続ける。
 そして、俺と妻は、どちらからともなく、唇を離した。
「んふっ、もう、がっついちゃってぇ……」
 そう言いながら、するりと妻が俺の腕の中から抜け出る。
 そして、隣の寝室への扉を開け、きちんとベッドメイクされたダブルベッドの傍らに立った。
「ふふ、いいわよ……来て……」
 いいわよも何も、そこは俺の寝室でもあるんだが。
 そう思いながらも、俺は、ベッドに近付き――シーツの上に、妻を押し倒してしまった。
「あんっ! ちょ、ちょっと、焦り過ぎよっ!」
 そう抗議する妻の足の間に手を差し込み、ショーツの上から股間に指を押し付ける。
「あうっ……!」
「おい、濡れてるぞ……?」
「んっ、い、言ったでしょ……ちょっとだけ、そういう気分だって……」
 そう言いながら、妻が、ほんのりと頬を赤く染める。
 俺は、ショーツの中に手を差し込み、妻の秘部を直接まさぐった。
「あ、あうっ……んく……あなたの指……い、いやらしいわ……んは、はっ、はぁはぁ……」
 さらなる蜜を溢れさせながら、妻が息を弾ませる。
 俺は、指先に纏わり付くニュルニュルとした感触を味わいながら、なおも妻の秘唇を愛撫した。
「ね、ねえ……早く、オチンチン入れなさいよ……あ、あうん……本当は、入れたくて余裕ないくせに……んっ、んく、んふぅ……」
「確かに、ここはもう準備オッケーって感じだな」
「なっ、ちが……! わ、私は、その……あなたのチンポがすごいことになってるから、その、お情けで……!」
 妻が、上気した顔をますます赤くさせながら、何やら言う。
 俺は特に反論せず、妻のショーツを丁寧に脱がしてやった。
 妻が、腰を浮かし脚を一本ずつ抜いて、俺に協力する。
 露わになった妻の秘唇は、蜜に濡れながら淡く綻び、ヒクヒクと物欲しげに息づいていた。
「あ、あうっ……見てるのね……私のオマンコ……んっ、んく……スケベ……ほんと、スケベなんだから……は、はふ……」
 俺に見られて興奮を新たにしたのか、かすかに綻んだクレヴァスが、さらなる愛液に濡れ光る。
 俺は、もう完全に勃起している肉棒の先端を、妻の割れ目にヌルヌルと擦り付けた。
「んあ、あ、あぁン……な、何してるのよぉ……は、はふ、あ、あはぁン……い、入れるところが分からなくなったわけ?」
「そんなわけないだろ」
 そう言いながら、俺は、なおも妻のその部分を先端で刺激し続けた。
「あ、あっ、あはぁ……あぁん、もうっ……そ、そんなのいいからぁ……は、は、早く入れたらどう? ん、んふ、んふぅ……う、ううっ、うく、あうぅ……」
 何とか余裕ありげな態度を装おうとする妻であるが、いかんせん、その腰はくねくねともどかしげに動いてしまっている。
 俺は、内心ちょっと妻の反応を面白がりながら、肉の莢の中でプックリと膨らんでるクリトリスに、亀頭をグリグリと押し付けた。
「んあああああっ! や、やだ、あううっ、もう、バカ、バカっ! そ、そこっ……! あ、あぐっ、あ、あはぁ、あああ、ああン、あはぁ、あはあああぁぁぁ……!」
 包皮がめくれ、剥き出しになった肉真珠を、なおも肉棒の先で嬲る。
「あ! あく! あっ! あ! あっ! や、やっ、やはぁ! あ、あああああ!」
 開いた口元からわずかに舌をのぞかせて喘ぎながら、妻は、いつしか腰を浮かしていた。
 膣口が、透明な果蜜を溢れさせながら、もどかしげにパクパクと開閉している。
 その卑猥な光景にさすがに我慢できなくなり、俺は、妻の肉壷にペニスを挿入した。
「あ、ああっ、イ、イクっ……!」
 びくんっ、と妻の体がおののき、きゅーっと膣肉がシャフトを締め付ける。
 俺は、妻の膣内の感触と反応を、ペニスでじっくりと味わった。
「ふぅ……お前、入れられただけでイったのか?」
「ち、ち、違うわ! そんなわけないでしょっ!」
 何を強がっているのか、妻が、俺を睨みつける。
「だってお前、自分で言ったじゃないか」
「そ、そんなわけないわ……聞き間違えでしょ……ん、んああン!」
 少し腰を動かすと、とたんに、妻の声が甘くとろけた。
「はぁ、はぁ、そ、そんな簡単に私がイクわけないでしょ……あ、あはぁン……う、自惚れないで……んく、あ、あくぅ……」
 なまめかしい喘ぎ声の合間に、妻が悪態をつく。
「あん、ああん、ハァハァ、ちょ、ちょっとチンポが大きいからって、んく、調子に乗らないでよね……! んあン! んふ、はふう……」
 そう言いながら、妻が、体をくねらせる。
「だ、だいたい……あ、あん……あなたのチンポなんて、んうっ、わ、私を気持ち良くするためだけにるんだからっ……!」
「おい、お前、そりゃ、いくら夫婦でも失礼だぞ」
「んふっ、な、何よぉ……ふうふう、怒ったの? ねえ、怒ったの?」
 妻が、俺を挑発するように、流し目をよこす。
「はぁはぁ、あん、あ、あなたなんて、んふぅ、こ、このデカチンポ以外は、用無しなんだからねっ! んあっ、あはン! もし、もしオマンコしてくれなくなったら、ああっ、う、う、浮気してやるんだから!」
「お前、いいかげんにしろよっ……!」
 俺は、そう言って――妻の頬を、ピシャリと平手打ちした。
「あうッ! な――何するのよっ! ただの冗談でしょ! そ、それとも、本気にしたの?」
「別に、お前が叩かれたがってるような顔してたからさ」
「そ、そんなわけないでしょ! 誰が――あうっ!」
 俺は、セリフの途中で再び妻の頬を張った。
 一度や二度では収まらない。それくらいに、俺は――興奮していた。
「やっ! あ、ああっ! あうっ! んあ! ああっ!」
 妻の悲鳴を聞きながら、その顔を、何度もビンタする。
 俺の下半身で血液がたぎり、ペニスが、一回り以上大きくなった。
「あううっ、チ、チンポ、膨らんでるっ……! はぁはぁ、私を叩いて興奮してるの? こ、この変態! ケダモノっ! あ、あうっ! あひいっ! あン! あぁン! あぁ〜ン!」
 叩かれるたびに、妻の悲鳴が甘く濡れ、そして、膣肉がキュウキュウと嬉しげに肉竿を締め付けてくる。
 俺は、力を加減しつつも、妻の頬が赤く染まるまで、平手打ちを続けた。
「あううっ、や、やめて……痛いっ! あ、あっ……お願い、ねぇ、もうぶたないでぇ……!」
「ぶたれるようなこと言うからだろ。お前、まだSMクラブの女王様のつもりなのかよ!」
 俺は、思わず大きな声を出してしまう。どうも、妻を叩いているうちに頭に血が昇ったようだ。
「ううっ、ち、違うわ……そんな……」
 一方、妻の声は、だいぶ弱々しくなっている。
「フン……だいたい、処女だったくせに、女王様気取りで客を罵り倒してたんだから笑わせるぜ。しかも、その本性はとんでもないドMだしな!」
「あああっ……い、言わないでぇ……」
 眉をきゅうっと切なげにたわめながらも、妻は、俺の言葉を否定しない。
 妻のあまりの豹変ぶりに、俺は、全身が震えそうなほどの興奮を感じてしまった。
「俺に処女膜ブチ破られた時も、ヒイヒイ泣いて喜んでたろ? ええ? このマゾブタ女!」
 高ぶった心の赴くまま、汚い言葉で妻を罵る。
「ああっ、ち、違うの! あの時は、あなたに処女を上げられたのが嬉しくて、それで……! し、信じて!」
 目尻に涙まで溜めながら、妻が言う。
 そんな妻の表情が――俺の嗜虐心を、ますます煽った。
「ったく、あんな、半分レイプみたいな初体験が嬉しかっただあ? この変態が!」
「あ、あっ、そんな、ひどい……」
 妻なりに、自らのロストバージンをロマンチックな思い出に変えているのか、泣きそうな声を上げる。
 しかし、俺に言わせれば、あれは、さんざん挑発された挙句にやってしまった犯罪行為だ。
「フン……望みどおり、犯してやるよ、早紀……!」
「ああ……雅寿さん……」
 妻が、最初とは打って変わったすがるような目で、俺を見つめる。
 俺は、中断していた腰の動きを、わざと乱暴に再開させた。
「ひぐっ! うっ、うあああっ……あ、あひ……! いやっ……は、激しいっ……! あ、あううっ!」
 悲鳴じみた声を上げながら、妻が、俺から逃げるように身をよじる。
 俺は、妻の両手首をシーツに押さえ付けるようにして、さらに腰を使った。
「んあっ、あ、あひぃ……! や、やっ……! ああ、お願い……うぐうっ! もっと、優しくしてぇ……あ、あっ、あううっ!」
「こういうのがいいんだろ? そら、そらっ!」
 さらに大きく腰を繰り出し、張り詰めた亀頭で子宮口を小突いてやる。
「ひああっ! あぐっ! あ、あああ、あひぃ! あああ、ダメ、ダメっ! んぐ! ゆ、許して……あ、ああああッ!」
 妻が、艶やかな髪を振り乱し、身悶えする。
「あううっ、お、お願い、お願いっ! さ、さっきのこと、謝るから……んあ! あああっ! そ、そんなに乱暴にしないで……! うぐっ! うああっ! あひ! ひいいい!」
「何でだよ。乱暴にされるの好きだろ? このマゾブタ!」
 実際、妻の秘所はおびただしい量の果蜜を溢れさせている。
「ああっ……でも、でもぉ……オマンコ壊れたら、あなたの赤ちゃん産めなくなっちゃう……」
 瞳を涙で潤ませながら、妻が、俺の顔を見つめる。 
「フン、知るかよ。だいたい、マゾブタはブウブウ鳴いてりゃいいんだよ」
 俺は、そう言って、さらに腰の動きを速めた。
「あううっ! うぐ……んひ、あひいっ! ああっ、ひ、ひどい、ひどいぃ! あうっ、あ、ああぁン! んひい〜!」
「違うだろ、ほら、このブタッ!」
「んぐっ! ぶ、ぶうぶうっ……! んふ、んふぅ……ぶう、ぶうぶうぶう!」
 俺の罵倒に、妻が、陶酔の表情を浮かべながら、喘ぎ混じりにブタの鳴き真似を始める。
「うあ、あはぁ! んぐぐ……ぶ、ぶうぶうっ……! ぶひ! ぶ、ぶひいい! んい、ひっ! あひい! ぶひ、ぶひいっ!」
 妻の目尻から溢れる涙が、恥辱によるものか、それとも快楽の反応なのか、よく分からない。
 いや、そもそも、今の妻にとっては、恥辱と快楽はほぼ同意義であるような気もする。
 確かなのは、妻の肉壷が、実に嬉しそうに俺の肉幹を締め付けていることだけだ。
「そろそろ出すぞ……ほら、どこに出してほしい? 人間の言葉でいいから言ってみろよ」
「あうっ、あああっ、はひ、はひぃ……! あああっ、中、中にください……あ、ああぁン! オマンコに中出ししてぇ! ハァ、ハァ、お願い、あン、お願いしますっ!」
 妻の膣内がウネウネと蠢き、俺の射精を催促する。
「うぐっ……出すぞ、メスブタ!」
 俺は、妻にのしかかるような姿勢になり、そのまま射精した。
「ひああああああっ! 熱いっ! 熱いぃーっ! あっ! あっ! あっ! あっ! イ、イクぅうううううううううう!」
 妻が、白い喉を反らして絶叫する。
 俺は、きつく収縮する膣壷の奥へ、さらに精液を放った。
「んあああっ! 当たってるぅ! 子宮に、子宮にあなたのミルク当たってるのぉ! あひっ! イク、イク、イクっ! またイっちゃうぅううううううううううううう!」
 ビクッ、ビクビクッ――と妻の体が断続的に痙攣する。
 靡肉が、俺のシャフトをきつく絞り上げ、最後の一滴まで、ザーメンを吸い取ろうとする。
「うく……ハァ、ハァ、ハァハァ……」
 俺は、グッタリとなって、妻の体の上に倒れ臥した。
 胸板の下で、妻の乳房がぐにゃりと潰れている。
「んは……はっ、はく……んはああっ……あ、あはぁ……」
 絶頂の余韻に浸りながら、妻が、俺の背中に腕を回し、甘い吐息をついた……。



「ねえ、あなた……」
「んー?」
「ごめんね……こんな私に付き合わせちゃって……」
「何の話?」
 俺は、いいかげんメチャクチャ眠かったので、かなり適当に返事をしてしまった。
「……ううん、ゴメン、何でもない」
「そっか……」
 シャワーは明日の朝に浴びよう、と決めて、本格的に眠る態勢に入る。
 妻は、どうするつもりなのか……もう、そのことを確かめるだけの気力すら、眠気の中でとろけてしまった。
「ねえ、あなた……」
 もう、俺は眠ってしまったと思ったのか、しばらくして、妻が、俺の耳元にそっと囁いた。
「あのね……す、好きよ……大好き……」
「――俺もだよ。愛してる」
「え……? ん、もうっ……もうちょっと照れながら言ってよ……」
 どこか拗ねたような口調で、妻が言う。
「それは、お前の芸風だろ」
「うふ……そうね……」
 妻は、その顔に可愛い笑みを浮かべながら言った。
 今はこんなに可愛いが、家事のストレスやら欲求不満やらが溜まると、また女王様モードになっちまうかもしれない。
 しかも、俺に手ひどく反撃をされることを期待して。
 ああ……やれやれ……まったくもう……ホントに楽しみだ……あ、いや、その、そうじゃなくて、えーと……メンドクセエナア……。



あとがき

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