第七章
−夏の花−
表向きは、平穏な日々が続いていた。
ごく普通の毎日だ。
僕も、美保さんも、智沙ちゃんも、互いを求めることなく、ただ一日を過ごす。
コンビニの袋に入ったコンドームは、未開封のままだ。
ある夜、僕は、精一杯の勇気を振り絞って、美保さんに訊いてみた。
「あのコンドームは……その……どういう意味なの?」
「どうって……やだ研ちゃん、あれが何だか知らないの?」
美保さんが、穏やかな笑みを浮かべたままの顔で、聞き返す。
「ち、違うよ……。ただ、その……どうして美保さんが、って思って……」
「だって、研ちゃんじゃ、アレ、お店で買えないでしょう?」
「だから、そういう意味じゃなくて……!」
はぐらかされているような気持ちになって、僕は、つい大声を出してしまった。
「そうじゃなくて……だから……なんで、美保さんは……自分の時には、僕に付けろって言わなかったの?」
その時、美保さんは、一瞬――ほんの一瞬だけど――すごく、寂しそうな顔になった。
けど、すぐに、いつもの穏やかな顔に戻って、僕に言う。
「智沙ちゃんが、あの年で妊娠しちゃったら、困るでしょう?」
もっともだけど、やっぱり、どうもわざと的を外したような答え。
でも、僕は、それ以上追及できなかった。
さっきのような美保さんの寂しい顔を、見る勇気が無かったのだ。
「ごめんなさい……」
僕は、美保さんに聞こえないように、こっそり謝った。
夏祭りの夜、僕は、浴衣に着替えた。
美保さんのお父さん――つまり、僕にとってはお爺さんの浴衣だ。
ちょっとくたっとなってるけど、どこも擦り切れたり破れたりしていない。美保さんが、ちゃんと保存していたからだろう。
サイズも、僕にぴったりだった。お爺さんは小柄な人だったのだ。
「あ、よく似合ってるね」
僕の浴衣姿を見て、美保さんが、にこにこしながら言う。
美保さんは、紺色の地に朝顔をあしらった浴衣を着ていた。
「えっと……美保さんも、すごく似合ってる」
「んふっ、ありがと♪」
屈託なく、美保さんが微笑む。
それは、とても邪気のない笑顔だった。
「…………」
なぜか僕は、その美保さんの表情に、寂しいような、悔しいような、そんな気持ちを抱いてしまった。
いや、“なぜか”なんかじゃない。僕には、理由が分かってる。
美保さんが、まるで、僕とああなる前に戻ってしまったように思えたからだ。
やっぱり、僕は、取り返しのつかないことをしてしまったんだ、と、思う。
美保さんと、智沙ちゃん――二人を好きになって――二人とも抱いてしまうなんて――
ならばどうすれば良かったのかは、よく分からないけど……今は、確実に、何かが壊れてしまっている。
「研ちゃん?」
美保さんが、心配そうに僕の顔を覗き込む。
「どうか、した?」
「ううん……なんでもないよ」
「そう……。じゃあ、早く広場に行きましょう。智沙ちゃん、もう着いちゃってるかもしれないし」
「そうだね……」
美保さんと、智沙ちゃんと、僕の三人で、夏祭りに行く。
智沙ちゃんは、そのことを、まるで小さい子供みたいに楽しみにしていたっけ。
「行こう、美保さん」
口に出してそう言って、僕は、これまたお爺さんのお下がりの下駄を履いた。
夏祭りの会場に着いた時、美保さんの携帯が鳴った。
「もしもし、智沙ちゃん……? 今、どこ?」
僕は、電話に出た美保さんの横顔を、ぼんやりと見つめた。
と、微笑んでいた美保さんの顔が、かすかに強ばる。
「そう……そうなの……仕方ないわね……」
ささやくような美保さんの声が、固い。
「ええ、そうね……。うん、分かってる……うん……うん……」
美保さんの声を聞いているうちに、僕は、もしかして電話の向こうで智沙ちゃんが泣いているんじゃないかと思った。
それは、全く何の根拠も無いことではあったんだけど――
「うん……じゃあ、切るわね……」
美保さんが、電話を切った。
「智沙ちゃん、来れないって」
ぽつん、と美保さんが言った。
「模試の結果が悪かったから、家を出してもらえないって言ってたわ」
「……厳しいんだね、智沙ちゃんの家」
「あれは、厳しいのと違うわ」
美保さんが、いつになく険しい顔で、言った。
「自分の思いどおりにいかないのが嫌なだけよ」
「美保さん……」
美保さんは、僕の方を見ようとしない。
「智沙ちゃん……あの家に居続けると……いつか、死んでしまうわ」
「えっ……」
美保さんの物言いに、僕は、思わず声をあげてしまっていた。
「智沙ちゃんが写真を撮るのが好きなのは、知ってるでしょう?」
出店の明かりを見るとはなしに見ながら、美保さんが、言う。
「うん……」
「あの子ね、カメラマンになりたがっていたの。それで、そういう専門学校に行きたいって言ったのよ。そしたら……」
きゅっ、と美保さんが、その白いこぶしを握り締める。
「姉さんは――智沙ちゃんの顔を、思い切り叩いたの」
「え……?」
僕は、自分にとって伯母にあたる智沙ちゃんのお母さんの顔を思い浮かべながら、絶句した。
あの、いつも物静かで上品な伯母さんが……智沙ちゃんを……?
「全寮生の女子校から、名門の短大に行かせる……智沙ちゃんの両親は、そういうふうに決めてたのよ」
美保さんが、無表情な顔で、言葉を続けた。
「それで、その時、智沙ちゃんは、メガネを壊されちゃってね……それ以来、ずっとコンタクトにしてるの」
「…………」
「でも、智沙ちゃんは、あの時に壊れたメガネを、今も持っているはずよ」
知っている……。
智沙ちゃんの部屋にあった、あの、フレームの歪んだメガネ。あれが、そうだ。
伯母さんが――メガネがあんなふうになるほど強く、智沙ちゃんの顔を叩いた――
ただ、専門学校に行きたいと言っただけで。
「ね、研ちゃん」
美保さんが、僕の方を向いた。
「な――何?」
「智沙ちゃんを、助けてあげて」
切羽詰ったような口調で、美保さんが言う。
「そ、それは……もちろん、僕にできることなら……」
そう言いながら、僕は、美保さんの瞳に浮かんだ色に、ひどく悪い予感を覚えていた。
そして、その予感は、次の瞬間に、現実となる。
「だったら、研ちゃん……あたしと、別れて」
それは――予想通りの言葉だった。
「どう――して――?」
「智沙ちゃんには……もう、研ちゃんしかいないのよ」
美保さんが、静かな声で、言う。
ともすれば、すぐそこで繰り広げられている祭りの喧噪によって、かき消されそうな声。
「あたしと研ちゃんとが一緒じゃ、やっぱり駄目なのよ……。智沙ちゃんのことだけを想ってる研ちゃんでなければ……そうじゃなきゃ、智沙ちゃんを、救うことはできないわ」
美保さんが、決め付けるように言う。
それは――それは、そうかもしれないけど――でも――そんな――
「そんな……そんなの……そんなの、勝手すぎるよっ!」
僕は、想わず叫んでいる。
「さ、三人でって……そう言ったのは美保さんじゃないか! それを、どうして今になって……」
「あたしが、間違ってたわ……」
美保さんが、長い睫毛を伏せ、うつむく。
「あの場を収めるには、ああするのが一番だと思ったのよ。でも……そんなわけなかった。あたし、あの時、どうにかしてたんだわ」
「そんな……」
そんな言葉は――聞きたくなかった。
もし、仮に、それが本当のことだとしても。
「軽蔑して……。あたしは、こういう女なのよ……。あたしなんかを好きなままでいないで……智沙ちゃんだけの研ちゃんになってあげて……」
「…………」
肩が、震える。
目の前が、赤く染まっているようだ。
僕は、生まれて初めて抱くような感情を、目の前のこの人に抱いていた。
「…………」
無言で、美保さんの手を、強くつかむ。
「研ちゃん……?」
そのまま、僕は、夏祭りの会場の奥にある神社を目指して、歩きだした。
「ちょ、ちょっと、研ちゃん……!」
浴衣姿の人々の波をかき分け、出店の出す騒々しい音を聞きながら、広場を突っ切った。
僕に手を引かれ、前かがみになって歩く美保さんを、何人かの人が振り返り、そして、すぐにその人たちは祭りの賑わいの中に帰っていく。
僕は、体に響く和太鼓の音を背中で聞きながら、丘の上の神社に至る石段を昇っていった。
「ねえ、研ちゃん……ちょっと待って……」
美保さんの言葉に構わず、強引に手を引き、石段を昇り続ける。
そして、僕たちは、神社の境内に出た。
誰も、いない。
広場の明かりはここにまでは充分に届かず、お社は、闇の中にうずくまるシルエットにしか見えなかった。
「研ちゃん……その……怒るのも無理はないけど、でも、きちんとあたしの話を……」
「いやだ」
僕は、聞き分けの無い子供のようにそう言い、神社の敷地の中にある雑木林に、美保さんを引っ張り込んだ。
「け、研ちゃん……」
驚いた表情の美保さんの背中を、ケヤキの幹に押し付けるようにする。
そして、僕は、無理やりに、美保さんの唇に、唇を重ねた。
「んっ! んぐ……う……うん……んんんっ……!」
抱きすくめた僕の腕の中で、美保さんが、くぐもった声をあげながら身をよじる。
構わず、僕は、美保さんの唇を吸い、口の中に舌を差し入れた。
噛み合わさったままの歯を舌でなぞり、そして、息苦しくなって、唇を離す。
「はぁ、はぁ、はぁ……研ちゃん……」
ぽおっと頬を染めながら、美保さんが、潤んだ瞳で僕を見る。
「ねえ……もう、ダメよ……だから……お願い……」
「いやだ」
僕は、再び言った。
「そんな……研ちゃんは、智沙ちゃんのことが好きじゃないの?」
「それは……」
「ねえ……智沙ちゃんを悲しませるようなことは、やめて……」
「卑怯だよっ! そんなこと言うのは……!」
「…………」
美保さんが、悲しげにうつむく。
「でも、智沙ちゃんは……」
「そうじゃなくてっ……! だったら――美保さんはどうなんだよっ!」
僕は、思わず、そう叫んでいた。
「あたし……?」
「美保さんは――僕のこと、好きじゃないの?」
とうとう――
とうとうこの問いを、口にしてしまった。
今まで、このことを確かめるのを、半ば意識的に避けていた。
だって、美保さんは、一度も、僕のことを好きだと言ってくれてなくて――
「あたし……」
美保さんの声が、かすかに震えている。
「あたし……寂しかったのよ……。だから、研ちゃんを誘ったりしたの……」
「美保、さん……」
嘘だ、と言いたいけど、言えない。
美保さんの本心がどうあれ、今、このタイミングでそう言われたら、それは、本当と同じことだ。
「あたしは……自分の欲望に負けて、研ちゃんを誘ったの……利用したのよ……。何とでも言って……それで気が済むなら、好きなだけ殴って……」
「…………」
僕は、美保さんの浴衣の襟に、手をかけた。
そのまま、乱暴な手つきで、いっきに前をはだけさせる。
「キャッ……!」
自らの胸を隠そうとする美保さんの手を遮り、僕は、目の前の白い乳房を鷲掴みにした。
「い、痛いっ……! 痛いわ、研ちゃん……!」
苦痛に身をよじる美保さんの胸を、揉みしだき、こね回す。
僕の手の中で、大きな乳房が、柔らかく形を変えた。
「い、いや……いやっ……だめ……だめよ、研ちゃん……んんんっ……」
美保さんの乳房に指を食い込ませながら、噛み付くようにキスをする。
そのまま、首筋から鎖骨へと唇を這わせ、乳首を口に含み、舐め回した。
僕の口の中で、乳首が固く勃起する。
「だめ……だめなの……! 研ちゃん……あ、あたし……!」
「寂しかったからでもいい……利用しただけでもいいよ……! 美保さんは、僕の女なんだろっ……!」
そう言って、美保さんの乳房を強く吸い、キスマークを付ける。
そして僕は、美保さんの右の乳首を吸い上げながら、右手を浴衣の裾に差し込んだ。
「あうっ……!」
ショーツの上からアソコを強く押すと、美保さんの体が、びくんと震えた。
「ほら……濡れてるじゃないか……」
そう言って、湿ったショーツの布地をぐいぐいと柔らかな部分に押し付ける。
「ああ、だめ……だめぇ……あ、はっ……あ……んんんんんっ……」
美保さんが、首を左右に振りながら、声が漏れるのを必死にこらえている。
僕は、ショーツの中に手を潜り込ませ、美保さんのそこに直接触った。
「ああっ……ダメぇ……!」
熱いぬめりが、僕の指に絡み付く。
僕は、美保さんの秘唇を指でまさぐり、膣口に指先を挿入した。
「あっ、そ、そんなっ……! そんなこと、ダメよ……うううんっ……!」
「今さらそんなっ……!」
怒りに似た激情に駆られ、人差し指と中指を膣内に差し入れ、親指でクリトリスの位置を探る。
「うっ、うあっ、あああっ……お、お願い、研ちゃん……待って……あ、う、う……アアンッ!」
美保さんの声が高く跳ね上がり、僕は、自分がクリトリスに触れたのだということを知った。
そのまま、膣内の指を動かしながら、親指でクリトリスを揉み潰す。
「うっ、うああっ、うく、あああんっ……そ、そんな……ああっ……こんな所で……あああんっ!」
「はぁ、はぁ、はぁ……すごい……すごいよ……すごく濡れてるよ、美保さん……」
「や、めて……お願いよ……あん、あああんっ……そんなに激しくしちゃダメよぉ……あううっ!」
大きな胸をたぷたぷ揺らして身をくねらせる美保さんを、左腕で強く抱き締めながら、右手を動かし続ける。
「ああうっ、あっ、あああン……け、研ちゃん、ダメ……あう、あん、あぁん……あああっ……」
いつしか、甘い喘ぎが、美保さんの濡れた唇から漏れだした。
美保さんのそこからは、あとからあとから蜜が溢れ、僕の手の平をぐっしょりと濡らしている。
僕は、すっかり勃起しきってる美保さんの乳首を交互に吸い上げ、甘く歯を立てた。
「あっ、うううんっ、んふうっ……や、やぁんっ……噛んじゃだめっ……あああンっ……」
美保さんが、痛がるどころか、さらに甘たるく声をとろかせる。
「美保さん……美保さんっ……」
とっくにいきり立っているペニスを、美保さんの剥き出しになった太腿に押し付けるようにしながら、僕は、執拗に愛撫を続けた。
「あ、あう、ううんっ……んく……あはぁっ……ひいいぃんっ……はひいいいいぃ……」
美保さんが、すすり泣きのような声を漏らす。
僕は、美保さんの液にまみれた右手を、ゆっくりと抜いた。
「ほら……こんなになってるんだよ……」
美保さんがどれくらい感じてしまったのかを示したくて、糸を引く粘液でぬめる指を見せつける。
「あ、ああぁ……イ、イヤっ……!」
美保さんが、僕の腕から逃れようと、身を翻そうとした。
けど、その足取りは危なっかしい。僕は、難無く美保さんを後ろから捕まえることができた。
そのまま、今度は美保さんのお腹を木の幹に押し付けるような格好になる。
「逃がさないからね、美保さん……」
美保さんの耳たぶに、荒くなった息を吹きかけるようにして、言う。
「ああん……ダ、ダメよ……お願い……いつもの研ちゃんに戻って……」
「僕をこんなふうにしたのは美保さんじゃないか!」
「ああああっ……」
僕の言葉に、美保さんが、目尻に涙を浮かべる。
そのことにすら、頭の中が煮えるような興奮を覚え、僕は、美保さんの胸を後ろから掴んだ。
そして、もう一度、白く豊かな乳房を思うさま揉みまくる。
「うううっ、ああん、あああん……あく、あん、あああん……!」
もう我慢することができなくなったのか、美保さんの唇からあからさまな快楽の声が漏れる。
僕は、十本の指を駆使して美保さんの胸を揉み、勃起しっぱなしの乳首を強く指で摘まんだ。
「ひんっ、ひいいんっ、あひいいいっ……先っぽ、ダメっ……! あん、ああああぁんっ……!」
もう、どうすることもできない、といった風情で、美保さんが木の幹に両手を付き、僕にされるがままになる。
僕は、しばらく胸の感触を味わってから、美保さんの浴衣の裾をまくり上げた。
「あああ……研ちゃん……」
肩越しに振り返り、涙で濡れた目で、美保さんが僕を見つめる。
「ショーツ、びちょびちょだよ……」
そう言って、僕は、美保さんの愛液をたっぷりと吸ったショーツを下ろした。
丸く、大きなお尻が、剥き出しになる。
「もう、抵抗できないの? 美保さん……」
僕は、後ろから美保さんのアソコに触れ、指でくちゅくちゅと掻き混ぜながら、言った。
新たな熱い蜜が、さらに僕の手を濡らす。
「いやっ……ひどいわ、研ちゃん……」
「後ろからしてあげる……好きでしょ、美保さん……」
「し、知らない……」
まるで、拗ねたような声で美保さんが言い、視線を逸らす。
「美保さん……」
僕は、さっきから臨戦態勢のままのペニスを剥き出しにして、美保さんのアソコに押し当てた。
くちゅ……と僕のペニスが、柔らかなクレヴァスに食い込む。
「これで……おしまいよ……」
美保さんが、僕から目を逸らしたまま、言った。
分かってる。
そんなことは、分かっている。抱いたからって、美保さんと僕の関係が元のままになるわけじゃない。
こんなふうになってしまったら、もう、おしまいにするしかないんだ。
だから――
「ああああああああああああああああああっ!」
僕は、一気に、美保さんの体を貫いた。
先端が、美保さんの一番奥まで到達する。
「あ、あああ……あ……あああああんっ……」
美保さんが、快感に、声をあげている。
美保さんの濡れた肉ひだが、僕のペニスに絡み付いてくる。
温かくて、柔らかい。
僕は、欲しくて欲しくてたまらなかったこの感触を、この夏、手に入れて――そして、失うんだ。
そう思いながら、僕は、抽送を始めた。
「あんっ、ああんっ、あん、ああん、あん、あああん、あん、あん、あんっ……!」
僕の腰の動きに合わせて、美保さんが声をあげる。
いやらしくて、可愛くて、甘い――気持ちよさそうにとろけた声。
美保さんが、僕のペニスがもたらす快感に、完全に身を任せてしまっている。
だと言うのに、僕は、奇妙な焦燥感と敗北感を感じながら、腰を動かし続けていた。
「あああっ、はっ、あく、あくううっ……あああ……あああんっ……!」
「美保さん……僕……気持ち、いいよっ……!」
美保さんの背中に取りすがるようになりながら、前に手を回し、乳房を揉み続ける。
「知らない……知らないんだから……ああんっ! け、研ちゃんなんか、知らないっ……! あん、あああん……!」
零れる言葉と、溢れる体液。
鮮烈な快感が僕の肉棒をますます固くし、膨張したそれが、美保さんの膣内をさらにえぐる。
「ああうっ、うくうん、あう……あんっ! ああぁ……あふ……ああああんっ……!」
「美保さん……あああっ……すごく、動いて……絡み付いて……くるっ……」
「そんな……い、言わないで……言わないでっ……! うんっ、うううんっ、あっ、あああ……あくうっ……!」
悩ましい声をあげ続ける美保さんの乳房に、僕は、きつく指を食い込ませた。
そんな僕の振る舞いすら、美保さんの乳房は、優しく吸収してしまう。
「はぁ、はぁ、はぁ……美保さんの、オッパイ……やわらかい……」
「やん、やあっ……ああ、あん、ああん……あく……ああっ……きゃうううっ……!」
「すごい……乳首摘まむと、アソコがきゅーってなる……やっぱり好きなんでしょ、これ……」
「そんなこと、ないわっ……! あうっ、あああん、あん、あくうん……はひいいいいいいんっ……!」
なおも乳首を転がし、つんつんと引っ張ると、それに合わせるように、ますます膣肉が締まる。
そこは、とろけそうに柔らかいのに、ぐいぐい僕の肉棒を搾り上げた。
まるで射精をねだっているようなその動きに、僕は、何もかも忘れそうになる。
「ああっ、ああっ、ああっ、ああっ、ああっ……ダメっ……あたし、あたし……あああっ……!」
「イクの? 美保さん……イクんでしょ?」
「うううんっ、あ、あうっ、んくうっ、あうっ、あはあっ……!」
声にならない叫びをあげながら、美保さんが、ぶんぶんとかぶりを振る。
僕は、とっくに射精してもおかしくないくらいの快感と興奮に歯を食いしばりながら、無茶苦茶に腰を振った。
ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん……と、僕の腰が、美保さんのお尻を叩く。
「あああ……もう、もう、あたしっ……! あああんっ……あくっ……ああああああああああああっ!」
きゅうううっ、と、美保さんのアソコが、ひときわ強く僕の肉棒を強く締め付けた。
美保さんが、イきそうになってる。
僕は、美保さんの体を後からきつく抱き締め、根元までペニスを突き入れた。
ぷりぷりとした子宮の入り口に、肉棒の先端がめり込むのを感じる。
「もう――ダメええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーッ!」
美保さんが、木の幹に爪を立てるようにして絶叫する。
「んッ! ッ! ッ! ッ!」
びゅっ! びゅるる! どびゅっ! びゅぶぶっ!
激しい勢いで、僕は、美保さんの子宮の中に、熱い精液を注ぎ込んでいた。
「あああっ……! あ、あ、あ、あああ……! あう、あはっ、あああ……あひいいいいいッ……!」
美保さんが、僕の精液に子宮を叩かれ、立て続けに絶頂を極める。
僕は、美保さんの子宮口に亀頭を押し付けたまま、最後の一滴まで射精し尽くした。
まぎれもなく、今までの中で、一番激しい快楽。
暴力的なまでの甘い衝撃が、僕の意識を、しばし寸断する。
本当は、この快感を、ずっとずっと味わいたくて――
だけど、全てを忘れていられたのは、涙が出そうなくらい、短い時間だった。
「ああっ……あううううんっ……あう……はふ……は……ううぅん……はふぅ……はぁぁぁぁ……」
今まで、一つになって痙攣していた僕と美保さんが、再び、二つに分かたれる。
浴衣の布地の向こうにある美保さんの体温を、とても、とても、遠くに感じた。
ぬるん、と力を失ったペニスが、美保さんのそこから抜ける。
「…………」
美保さんが、はだけた浴衣の襟を寄せ、僕の指の跡の付いた乳房を隠す。
「あぁ……」
僕は、溜息をついた。
智沙ちゃんだけじゃなくて、美保さんまで……無理やりに、犯してしまった。
僕は、人に暴力を振るわれる痛みを、分かっているはずなのに――
「いけない子ね、研ちゃんは……」
こっちを振り返って、美保さんは、言った。
「あたし……こんなことする研ちゃん……嫌いよ……」
その言葉に、どういうわけか僕は、爽快感にも似た何かを感じてしまった。
お社の縁側に、僕と美保さんは、並んで座った。
下の広場ではまだ夏祭りが続いているのだろうけど、ここには、喧噪しか届いてこない。
ただ、明かりで、夜の底がぼおっと白くなっていた。
「研ちゃん……」
美保さんが、こっちを見ているのかどうか、僕には分からない。
僕は、美保さんの方を向かず、ただ、前を見ていた。
「明日、帰りなさい……」
それは――予想通りの言葉だった。
だけど、僕は、涙をこらえるために、かなりの努力をしてしまった。
「……うん」
ようやく、そう、返事をする。
「…………」
美保さんの気配は、まだ隣にある。
それが、何だか、不思議だった。
「……ねえ、研ちゃん」
美保さんが、僕に呼びかける。
「何?」
僕が、美保さんに返事をする。
「あたしね……」
言いかけて、美保さんは、黙ってしまった。
しばらく、そのまま。
下の広場のお祭りは、もうすぐ終わりそうだ。
「あたし……ずっと不思議だったの」
「え?」
「どうして、夏の歌って、みんな寂しい歌ばかりなのかな、って」
「…………」
どう答えていいか分からず、僕は、黙ってしまう。
すると、美保さんは、静かな声で、僕の知らない歌を、何小節か歌った。
本当に寂しい、夏の歌だった。
言葉の並びが綺麗すぎて、きちんと意味を取れなかったけど――夢と、思い出は、つまり同じものなんだという、そういう歌だ。
きっと、そうなんだろう。
だから、つまり、思い出は夢と同じだ。
過ぎ去ったできごとは、心の中の思い出でしかなくなり、そしてそれは、夢のように虚ろで空しいものなんだ。
けど……どうして、神さまは、そんなふうに世の中を作ったんだろう。
時間は流れ、何もかも変わっていき、けしてひとところにとどまっていない。
そんな当たり前のことが、悔しいくらいに寂しくて――
「でもね、研ちゃん」
美保さんの声が、僕の思いを、優しく遮る。
「夏の歌は、寂しいばかりじゃないの。ただ、寂しい歌ばかりが、心に残っちゃうだけなのよ」
「…………」
「だから……」
美保さんが、そこで言葉を詰まらせる。
僕は、耐え切れなくなって、美保さんの方を向いた。
美保さんが、じっと、こっちを見ている。
ああ――
美保さんは、最初からずっと、こっちを見ていてくれてたんだ。
でも、美保さん――
どうして、美保さんは泣いてるの?
「だから――」
どん――!
美保さんの言葉を、花火の音が、かき消した。
今年の夏が、終わった。
家に帰って、僕は、できるだけ父さんや母さんと話をするようにした。
子供のころみたいには話せなかったし、他の人たちみたいに話せなかったと思うけど、それでも、どうにか会話をした。
してみれば、それは、何ということはないことだった。
思っていたほど恐くはなく、そして、感動的でもない。ごくありきたりの、平凡で他愛のないやり取り。
チャットでこのことを話題にすると、誰かが、日常ってそういうもんですよ、というようなことを発言した。
そう言われて、ようやく、自分が、日常ってものをそんなに嫌っていなかったことを思い出した。
けど、別に、日常を取り戻したくて、両親との会話をしだしたわけではなかった。
目的があったのだ。
美保さんのことを、知りたかった。
いろいろと聞いて、そして、僕は、美保さんの離婚の原因を知った。
はっきり父さんや母さんが言った訳ではないが、話を総合すると――美保さんは、赤ちゃんの産めない体なのだということだった。
どうやら、美保さんの結婚相手の家では、そのことが離婚の理由として通用したらしい。
少し唖然とした後で、猛烈な怒りを覚えた。
それから――美保さんが、どうして僕とああいう関係をもって――どうして智沙ちゃんのことをあんなに考えていたのか、何となく、分かったような気になった。
そして、僕は、美保さんが、あの海の近くの町から引っ越したという話を聞いた。
美保さんとは、音信不通になった。