第四章
−夏の影−
そして、何日かが過ぎた。
あの、台風の日以来、僕と美保さんは、何度となく、体を重ね合った。
午前中は、たまに智沙ちゃんが来るし、午後は美保さんは仕事なので、あの日ほど立て続けにはしなかったけど……それでも、昼夜関係なく、セックスした。
そして、一週間近くが経った。
その日、美保さんは、急な仕事の都合で、朝ごはんを食べてすぐに仕事に出かけていた。
アブラゼミの鳴き声を聞きながら、部屋で、本を読む。
午後は、一人だけで、海に出かけてみようか……と、左手首の傷を隠す腕時計をいじりながら、考えた。
ちょうど、その時だった。
ぴんぽーん。
家のチャイムが鳴ったのだ。
「はーい……。あ、智沙ちゃん」
玄関を開けると、そこに立っていたのは、智沙ちゃんだった。
もうとっくに夏休みだろうに、相変わらず学校の夏服を着ている。けど、それが何だか智沙ちゃんには似合っているように思えた。
「えっと……美保さんなら、仕事で留守だよ」
「知ってるわ。携帯にメール来てたもの」
切って捨てるような口調で、智沙ちゃんがそう言う。
「今日は、君に用事があって来たの」
「僕に?」
僕は、思わず声をあげてしまった。
だって、智沙ちゃんは、今までずっと僕を無視していたからだ。
僕が美保さんの家に来てから、これまで何度か、智沙ちゃんがここを訪れることはあった。智沙ちゃんは、美保さんに勉強を教わっているのだ。
けど、その時も、僕と智沙ちゃんは話らしい話をしたことがなかった。
「えっと……どんな用事?」
「ここじゃ話せないわ。うちに来てくれないと」
「って、智沙ちゃんの家に?」
「そうよ。……あ、あと、それから、“ちゃん”付けで呼ぶのはやめてってば」
「ん……うん」
そう言われても、どう呼んでいいのか分からないので、とりあえず曖昧に返事をする。
「とにかく、私の家に来て。自転車なら、美保さんのを借りれるんでしょう?」
「そりゃまあ、そうだけど……」
しかし、こんな非友好的な招待に、どうして応じなくちゃいけないんだ?
僕の顔には、おそらく、そういう表情が浮かんでいたと思う。
と、智沙ちゃんは、少し僕に顔を近付けて、言った。
「――君と、あと美保さんとのことで、話があるの」
その言葉に、僕は、思わず凍りついてしまった。
智沙ちゃんの乗る自転車の後を、美保さんの自転車にまたがって、追いかけていく。
空は晴れ。時折、大きな白い雲が、上空を横切る。
地面に落ちる影はすごく濃い色で……僕の心にも、そんな暗い影が差していた。
(いったい……智沙ちゃんはどういうつもりなんだろう?)
青々とした田んぼや雑木林に挟まれた片側一車線の道路を走りながら、そんなことを思う。
智沙ちゃんのセミロングの髪が、後ろにたなびいている。もちろん、その表情はこちらからは見えない。
智沙ちゃんが何を考えているのか――この夏に再会して以来、ずっと、それは謎のままだ。
道が、ちょっとした丘に差しかかった。この丘を越えてしばらく行くと、智沙ちゃんの家のはずだ。
と、丘の頂き辺りで、不意に智沙ちゃんが自転車を止めた。
「?」
少し驚いて自転車を止める。
智沙ちゃんが、肩に斜めにかけていたカバンから何かを取り出した。
智沙ちゃんの小さな手には似合わない、大きくてごつごつした一眼レフカメラだ。
素早く、そして正確な動きでカメラを構え、林と道の境目にある小川の一角に、レンズを向ける。
見ると、そこに、はっとするほどに青い目の色が鮮やかな、一匹のトンボがいた。
連続して、小さなシャッター音が響く。
しばらくすると、そのトルコブルーの目をしたトンボは、滑るように道を横切り、林の中へと飛び去ってしまっていた。
「…………」
智沙ちゃんが、カメラ本体の後ろ側にある液晶モニタで、今撮ったばかりの写真を確認している。どうやら、一眼レフのデジカメらしい。
デジカメと言えばポケットサイズの奴しかイメージになかった僕には、しっかりしたレンズのついているそのカメラが、とても本格的な物に見えた。
智沙ちゃんの後ろから、思わずモニタをのぞき込む。
透明な水の流れる沢から伸びた草の上に止まった、青い目のトンボ――それが、素人目にもしっかりとした構図の中に収まっている。光線の具合が良かったのか、特徴的な目の色は、肉眼で見た時よりもさらにきれいに写っているようだった。
「ヤブヤンマのオスよ」
僕に気付いて、智沙ちゃんが言う。会心の写真が撮れたせいか、その顔には、ここに来て初めて見るような明るい笑みが浮かんでいた。
「智沙ちゃんが、写真好きなんだ」
その笑顔につられるように、僕は訊いた。
「うん」
驚くほど素直な調子で返事をしてから――智沙ちゃんは、はっとしたような顔でこっちを振り返った。
「ど、どうだっていいでしょ! そんなこと!」
「え……えと……」
「……行くわよ」
元のツンケンした態度に戻って、智沙ちゃんが、自転車を再び発進させる。
「な、なんなんだよ……」
僕は、口の中でそう言って、智沙ちゃんを再び追いかけた。
智沙ちゃんの家は、塀に囲まれた大きなお屋敷である。何でもここらへん一帯の地主さんらしい。
門をくぐり、広い庭を横切って、外車が収まったガレージの中に自転車を置き、瓦葺きの大きな家の前に立つ。
作りはもちろん和風だけど、家自体は新しい感じだ。
「今日、みんな留守だから」
そう言って、智沙ちゃんは、ポケットからキーホルダーを取り出して玄関のカギを開けた。
「入って」
「うん……おじゃま、します」
僕の部屋くらいはありそうな石造りの玄関から、広い廊下に上がる。
「適当にスリッパ使って」
「う、うん」
自分の家や美保さんの家じゃあスリッパなんてはかないんだけど、さすがに、この家の中だとはかなくちゃいけないような気持ちになる。
僕は、家の奥へと案内された。
真新しい畳の香りと、かすかな線香の匂いが、ぷんと鼻につく。
「ここが、私の部屋」
そう言って智沙ちゃんが僕を通したのは、家全体の造りに反して、洋間だった。
床はフローリングで、壁や天井は淡いピンク色のクロス張りだ。
そして、壁には、大小さまざまなサイズに焼かれた写真が、きちんとした額に収まって飾られていた。
トンボやチョウなどの昆虫や、カモメやトンビと思しき鳥、名前の分からない草花などの写真の他に、この近くの海岸や山並みなんかを写した風景写真なんかもある。
「これ、みんな智沙ちゃんが撮ったの?」
「あ……うん」
バッグを床に置きながら、智沙ちゃんが答える。
「上手だね」
「……フ、フン。君に写真のことなんて分かるわけ?」
「そりゃあ、よく分からないけど……きれいだな、って思うもん。これ、南の岬? ちょっと雰囲気違うけど」
「そうよ。冬の写真だけどね。今くらいの時期とは、海の色が違うの」
「へえ……そうなんだ……」
言いながら、僕は壁にかけられた写真を順々に見て――そして、それに気付いた。
ダッシュボードの上に置かれた、メガネ。
一目で女の子用と分かるデザインのそれは、しかし、レンズにヒビが入っていた。
見ると、つるの部分も微妙に歪んでるみたいだ。
「智沙ちゃん、メガネかけてたっけ?」
「前はね。今はコンタクトよ」
「じゃあ、これ何?」
と、智沙ちゃんは、僕がレンズの割れたメガネを指し示しているのに初めて気付いた様子で――怒ったように、顔を赤くさせた。
「何だっていいでしょっ!」
「……」
「だいたい、君、私がどうしてここに呼んだか、分かってるの?」
「それは……」
分からない。分かるわけがない。智沙ちゃんは、何もきちんと言わないんだから。
けど――
「君と、美保さんとのことよ」
智沙ちゃんは、あの言葉を繰り返した。
「どういう、こと……?」
「とぼけても無駄よ」
そう言って、智沙ちゃんが、再びキーホルダーを取り出して、今度は机の引き出しのカギを開ける。
そして、智沙ちゃんは、引き出しから数枚の写真を取り出し、僕に突き付けた。
「……っ!」
予想は、していた。
けど、それは、最悪の予想だった。
たぶん、プリンターでプリントアウトされたらしい、葉書大の写真。
それは、窓の外から、僕と美保さんが裸で抱き合っているところを写したものだった。
例の、台風の夜じゃない。でも、あれ以来、僕と美保さんは、ついつい窓際でそういうきわどいことをしていたわけで……そして、カーテンが半開きだったのに気付いて、あわてて閉める、なんてのも一回や二回じゃなかったのである。
時間帯は、多分朝だ。夜、美保さんと裸のままでベッドに入り……そして、そのまま目が覚めて……その時、やっぱりカーテンが開いてて……。
でも、どうして、こんなに早い時間に智沙ちゃんが?
「私、よく早起きして、このへんの写真を撮ってるの」
僕の心を読んだみたいに、智沙ちゃんが言った。
「それで、美保さんの家の前を通りがかったら、美保さんと君がああいう格好をしてたのが見えたのよ。遠くて良く分からなかったけど、望遠レンズをのぞいたら……ってわけ」
「…………」
僕は、何も言うことができなかった。
無意識に、腕時計をまさぐる。
どうすればいいのか、さっぱり分からない。
パニックになりそうだった。
「……何か、言うことないの?」
智沙ちゃんが、薄くほほ笑みながら、言う。
「ど……」
僕は、ようやく声を振り絞った。
「どうすれば、いいの……?」
「そうね……」
智沙ちゃんが、写真を口元に当てて、考え込む。
今、智沙ちゃんに飛びかかって、あの写真を奪い取ったら……。
けど、そうしたとしても、写真のデータはメモリに残されているはずだ。
そんなことをしても、どうにもならない。
それに、もし、智沙ちゃんが何か交換条件を出してくるんだとしたら……。
智沙ちゃんは、別に、僕と美保さんのことをただ責めるだけというつもりじゃないみたいだ。もし、智沙ちゃんが僕にできるようなことを要求してくるだけならば……。
でも、いったい何を? お金? 美保さんの家からお金を盗んで来いとか……?
もし……もしそうだったら、僕は……。
「脱いで」
と、不意に、智沙ちゃんが言った。
「え?」
智沙ちゃんの声は聞こえてたけど、その意味が取ることができず、僕は聞き返した。
「だから、服を脱いで、裸になって」
「な……!」
「この写真で、君がやってるみたいにね」
智沙ちゃんが、手に持っている写真をひらひらと揺らす。
「…………」
「どうしたの? 早くしなさいよ」
服を、脱ぐ……?
女の子の部屋で……智沙ちゃんの目の前で……裸に、なる、だって……?
「今さら、何を恥ずかしがってるのよ。私、君が裸になってる写真を持ってるのよ」
「け、けど……」
「それとも、これ、叔母さんに送っちゃおうか?」
「っ……!」
僕は、唇を噛んだ。
智沙ちゃんも、僕と同じように、美保さんのことは「美保さん」としか呼ばない。だから、智沙ちゃんが言う「叔母さん」ってのは、僕の母さんのことだ。
もし、母さんがあの写真を見たら……。
でも……どうして……どうして僕はいつもこんな目に……。
「どうするの? 研児君」
「わ、分かったよ……」
僕は、うつむきながら、答えた。
そして、指を、ボタンにかける。
情けないことに、指先がぶるぶると震えていた。
苦労して、一つ一つ、ワイシャツのボタンを外す。
そして、僕は、ワイシャツを脱ぎ、下に着ていたランニングも脱ぎ捨てた。
「…………」
スラックスのベルトに手をかけて、さすがにためらう。
「早く、そっちも脱いで」
智沙ちゃんが、ちょっと上ずったような声で、僕をせかす。
でも、僕には、智沙ちゃんの表情をうかがうような余裕は無い。
ほとんどヤケで、ベルトを外し、スラックスを下ろした。
あとは、靴下とトランクスだけだ。
「ねえ、もう……」
僕の口から、思わず、弱々しい声が漏れる。
「だめ。パンツも脱ぐの。本当に叔母さんに送るわよ」
智沙ちゃんは、きっぱりとした口調で、そう言い放った。
「…………」
僕は、涙が出そうになるのをこらえながら、トランクスを脱いだ。
靴下だけの格好にさせられ、その屈辱に歯を食いしばりながら、両手で股間を隠す。
「手、どけて」
恐れていたとおりのことを、智沙ちゃんが言う。
僕は、手をどかし……手の平に爪が食い込むくらい強く、こぶしを握った。
「ふうん……」
ベッドに座ったまま、智沙ちゃんが、興味津々といった調子で身を乗り出す。
「ソレが付いてなきゃ、女の子みたいな体よね」
「そ……そんなことないよっ!」
コンプレックスの源泉を残酷に抉られ、僕は、反射的に声をあげた。
「そんなことあるわよ。君、顔も女の子みたいだし、チビだし、肌も白いしさ……」
「うっ……」
どうして……どうしてなんだろう……どうして僕の外見はこんなで……そして、それを人はいつも笑うんだろう……。
学校でだってそうだった。何度、女のようだというだけで、クラスの連中にひどいことをされたろう。
どうして……。
「……いいこと考えたわ」
僕の気持ちなど知らぬげに、智沙ちゃんがそう言って、立ち上がる。
そして、床に落ちたままの僕のスラックスからベルトを引き抜いた。
「後ろ向いて、手を背中で組んで」
「え……?」
「キレて暴れられたら困るから、縛っちゃうわ」
「そんな……!」
「ほら、言うとおりにしてよ」
「…………」
僕は、言われるままに、後ろを向いて、左右の手で反対側の手首をつかむようにして、手を組んだ。
智沙ちゃんが、僕の手にベルトを巻き付ける。
「はい、いいわ。こっち向いて」
「…………」
僕は、精一杯目に力を込めて、智沙ちゃんをにらんだ。
智沙ちゃんが、吊り気味の目で僕の視線を受け止めながら、再びベッドに座る。
そして……驚いたことに、いきなり自分のスカートの中に手を差し込んだ。
「…………!」
僕がびっくりしてるうちに、智沙ちゃんが、するするとショーツを脱いでしまう。
小さく丸まった可愛らしいブルーの布切れを、ぽん、と智沙ちゃんがシーツの上に投げ出した。
「……舐めて」
顔を赤くしながら、反対に僕をにらみつけ、智沙ちゃんが言う。
「なっ……って、どこを……」
「……決まってるでしょ。ここよ」
そう言って、智沙ちゃんは、スカートをまくり上げた。
ぎくっとするくらいに、真っ白い智沙ちゃんの脚。
その付け根で、美保さんのそれに比べるとあまりにもささやかなヘアが、股間を飾っている。
「は……早くしてよ。そこに座って!」
「う、ん……」
僕は、思わずうなずいて、ちょっとよろけながら、智沙ちゃんの足元に正座してしまった。
「…………」
智沙ちゃんが、無言で脚を開き、ベッドの上で腰を前にずらした。
スカートの布地を握るこぶしが、少し、震えてるように思える。
(う……わ……)
何の心構えも無い状態で見せられた、智沙ちゃんのそこ。
それは、ぱっと見には、単なる縦一筋のワレメだったけど……よく見ると、ピンク色のヒダがかすかにのぞいていて……そして、少し、濡れているようにさえ思えた。
「じ、じっと見てないで、さっさとしなさいよっ!」
怒ったような声で言って、智沙ちゃんは、僕の頭を両手でアソコに押し当てた。
「んぷっ……!」
美保さんのそれと似てるようで違う、ちょっと甘酸っぱいような不思議な匂い。
僕は、口元に柔らかな感触を感じ、美保さんに何度もしたように、まずは舌でまさぐった。
「あ……んっ……」
智沙ちゃんが、かすかに声を漏らす。
僕は、舌に力を込め、智沙ちゃんのワレメの奥を舐め上げた。
舌に感じる、独特の味――
目を閉じ、舌先に神経を集中しながら、さらに智沙ちゃんのアソコを舐める。
「は、ふっ……ん……あ……んんっ……」
智沙ちゃんが、少しだけ、感じた声をあげる。
そうやって声を出させることが、両手を拘束された僕にできる唯一の抵抗のように、なぜか思えた。
舌の動きを次第に速めながら、智沙ちゃんの敏感な部分を、探っていく。
「はっ……んんっ……あぅ……は、はふ……あ……あんっ……」
僕にいろいろとひどいことをしている子なのに――智沙ちゃんの声を、どうしても可愛いと思ってしまう。
その声をもっと聞きたいという気持ちが、そんどん高まっていくのを、僕は感じていた。
羞恥と屈辱と興奮が混ざり合い、ぐつぐつと煮えたって、頭の中を満たしていく。
「あンっ!」
そして僕は、とうとう、そこ――クリトリスを探り当てた。
「あ、あんっ! あっ! あん! あぁっ! あんンッ……!」
智沙ちゃんの声が高くなり、じんじんと熱くうずく僕の脳と共鳴する。
僕は、今や夢中になって、智沙ちゃんの快楽を高めるべく、舌と唇を使っていた。
クリトリスをぴたぴたと舌で叩くように弾き、ちゅばちゅばと唇で断続的に吸引する。
「ああんっ……! う、うそっ……こんな……あんっ、ああぁんっ……あーっ!」
智沙ちゃんは、うろたえたような喘ぎ声をあげながら、髪を振り乱すように首を横に振っている。
息苦しくて荒くなっていた僕の息が、いつしか、興奮のために荒くなっていた。
「うっ、くうんっ……ハァ、ハァ、ハァ……んくっ……んんんんんんんッ!」
「んっ……!」
突然、腰に甘い電気が走る。
自分の口と、智沙ちゃんのアソコにだけ集中していた僕は、びくん、と体を震わせてしまった。
智沙ちゃんの右足が――僕の肉棒を、強く圧迫している。
そして、僕は――
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……うふふ……研児君、勃起してるじゃない……」
智沙ちゃんの言うとおり、僕のそれは、まだ触れられてもいないうちから、固くなって上を向いてしまっていた。
「私のを舐めて、興奮しちゃったの……? やらしい」
言いながら、智沙ちゃんが、靴下をはいたままの足で、僕のペニスの先っぽをぐりぐりと撫でる。
「あうっ……」
「すごい……ぬるぬるしてる……アソコみたいに濡れてるわ……」
「う、あっ、ああっ、だ、だめェ……」
「んふ……声も女の子みたい……」
そう言いながら、智沙ちゃんが、上向きになっていた僕の顔をアソコに押し付けた。
「んむっ……」
「ほら、休まないでよ……ここ、足でしてあげるから、もっと舐めて……!」
「うっ、ううっ、んっ……」
僕は、まるで快楽を与えてほしいがためにそうしているように、口による愛撫を再開させた。
「んんっ、そ、そう……はぁっ……ご褒美ほしいんだ……ふふふ……」
智沙ちゃんが、妖しい笑みを漏らしながら、ソックスの布地で包まれた足指で、僕の肉棒をこする。
乱暴で、粗雑な、愛撫とも言えないような愛撫……。
それでも僕は、しっかりと快感を感じてしまい、さらなる先汁を溢れさせてしまった。
再び、形勢が逆転している。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ……」
「んふふっ……あ、あぁん……あぁ……まるで、研児君をペットにしちゃったみたい……はぁン……っ!」
どぷっ、とびっくりするくらいの量の蜜が、僕の口を濡らす。
まるで、踏み潰すような乱暴な動きで、僕のペニスを攻め立てる智沙ちゃんの足。
イキたくても、これじゃイクことなんてできない。
僕は、両手を自由にしようと、ベルトがギシギシと音を立てるくらい強く、腕を左右に引いていた。
「感じてるんだ、研児君……」
智沙ちゃんの上ずった声に、あの優越感がにじんでいる。
人を虐げ、貶め、嬲っている人間特有の、神経を逆なでするような……。
「君……いじめられて悦んでるの?」
そんな……そんな……そんな……。
そんなわけ……。
「そんなわけないだろっ!」
そう言って、僕は、思い切り腕を引き――ベルトを弾き飛ばしていた。
「え……!」
驚く智沙ちゃんに、反射的に飛びかかり、のしかかる。
「ど、どうして……キャッ」
智沙ちゃんが驚くのも無理は無い。うんときつくベルトを締めていたつもりだったんだろうから。
でも、僕は、両手を後ろに回した時、わざと腕と腕の間に透き間を作っておいたのだ。
さらには、右手で、左手の腕時計を外し、その分だけさらにスペースを作った。
それもあって、汗に濡れた僕の腕は、ベルトによる拘束から脱出することができたのである。
「やっ、や……やああっ!」
両手を僕によってシーツの上に押さえ付けられ、智沙ちゃんは悲鳴をあげる。
腕時計が外れているので、智沙ちゃんの右手を押さえ込んでいる僕の左手の手首の傷は、あらわになっている。
僕は――もう、すっかり頭に血が昇っていた。
「ちょ、ちょっと、やめてっ! どきなさいよ! 何する気っ?」
あくまで勝気な智沙ちゃんの物言いが、僕の危険な衝動をさらに煽る。
僕は――しどけなく開かれた智沙ちゃんの脚の間に強引に腰を割り込ませ、まくれあがったスカートの中心にあるクレヴァスにペニスを近付けていった。
「や、やだ……! やめなさい! 君、自分が何をやってるか分かってるの?」
もちろん――知るもんかっ!
智沙ちゃんの体に覆いかぶさり、腰を腰にこすりつけるようにして、肉棒を繰り出す。
「やああああっ! やめて、やめてっ! ちょっと待ってってばっ!」
二度、三度、いきり立った肉棒が、さっきまでの愛撫で愛液と唾液にまみれた肉襞を浅く抉る。
そして――
「あ、ああっ……ねえっ! 本当に……!」
ずるんっ。
「いたあああああああああああっ!」
その、あまりに悲痛な声で、一瞬だけ、理性が戻った。
勃起したペニスを、熱くてぬるぬるする強い圧力が、包み込んでいる。
「バ……バカっ! バカあっ! は、早く……早く抜いて……!」
苦痛にたわむ眉。涙に濡れる瞳。
それを見つめながら、僕は、目がくらむような衝動に突き飛ばされ、さらに腰を突き込んだ。
ずずずずずっ!
「ンああああああああっ!」
智沙ちゃんの、悲鳴。
それが、なぜか、ゾクゾクと背中を震わせる。
これまで美保さんと共有してきた、体がとろけてしまいそうな快楽とは全く違う、鋭く、危険で、切羽詰まった快感。
僕は、そのまま、ぐいぐいと腰を動かしていた。
「やあっ! やめっ……やめてぇっ! いた……いたいっ! いたい! いたい! いたいぃっ!」
ぎゅっ、ぎゅっ、と僕を拒むように締め付けてくる智沙ちゃんのアソコ。
皮肉にも、それが、僕の快感をさらに煽り、ますます激しい抽送を誘ってしまう。
「いっ! いひいっ! や、やめ……ひいいンっ! あっ、くっ、イ、イタイ……イタ……アアアアアアア!」
悶え、うねる智沙ちゃんの体を捕まえたままでいようと、その華奢な体を抱き締める。
僕の腕から抜け出た智沙ちゃんの手が、僕の背中に爪を立て、かきむしった。
鮮烈な痛みと、強烈な快感が、ますます僕を駆り立てる。
「あぅっ……く、ひっ……! んっ……! あぐっ……ひ、く……あああぁっ……!」
いつしか濡れ始める、智沙ちゃんのアソコの中。いつしか濡れ始める、智沙ちゃんの喘ぎ声。
次第に滑らかになっていく膣内を、抉り、掻きむしるように、僕のペニスの雁首がこすり続ける。
シャフトに、肉襞と、鮮血と、愛液が絡み付き、たまらない快感をもたらす。
「バカ……バカっ……! あ、あう……ひ……ひんっ……ひいっ……ひ……ひあああああああ……!」
啜り泣くような喘ぎ。喘ぐような啜り泣き。押さえ付けた結果、触れ合った頬と頬を、智沙ちゃんの涙が濡らしていく。
「ひあっ、あんっ、あうっ……や……やぁんっ……もう、もう、私……ひいんっ……あひぃっ……!」
智沙ちゃんが、少しは感じているのか、それともただ痛いだけなのか――それすらも分からないまま、遮二無二腰を使い、一方的に自分の快楽を高めていく。
自分が、幼なじみの女の子にひどいことをしているということを、強い快楽の中で、おぼろに自覚する。
「あんっ、あくっ、ひ、ひぁ、あ、あ、あ、あああ、ああああっ……!」
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……!」
智沙ちゃんの喘ぎと、僕の荒い息遣いが交錯する。
うねうねと動く智沙ちゃんの体を僕は抱き締め続け、二人の体に挟まれた夏服はしわくちゃになっている。
そして――
「い……くっ……!」
ただ、その時が近いことを察し、僕は、反射的にそう言っていた。
そして、勢いで抜けちゃいそうになるくらい、大きく、速く、無茶苦茶に抜き差しする。
「あっ、あああっ……そんな……だめええええええええええええええええええっ!」
智沙ちゃんが、どういうつもりで、その拒絶の叫びを上げたのか――
びゅうううううううううっ!
智沙ちゃんの叫びの意味を図る間もなく、僕は、限界まで高まった欲求を、従姉の膣内にぶちまけてしまっていた。
「ひああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
熱い精液を初めて体内に受け止めた衝撃に、智沙ちゃんが絶叫する。
「あ、ああぁ……あ……あ……」
僕は、智沙ちゃんの爪によってつけられた背中の傷の痛みを感じながら、放心しきっていた。
たまらない快感に、視界がチカチカと明滅し、意識が半分飛んでしまう。
びゅるっ、びゅるっ、と間欠的に射精を繰り返しながら、僕は、智沙ちゃんの体を抱き締め続けた。
腕の中で、華奢な体が、ひく、ひく、と震えている。
遠い遠い、夏のある日、子犬のようにじゃれあって遊んでいた智沙ちゃんを過って押し倒してしまい、ひどく泣かれてしまったという記憶が……真っ白になった脳裏に、唐突によみがえった。
「…………!」
我に返り、バネ仕掛けのように、僕は上体を起こした。
すでにペニスは智沙ちゃんのアソコから抜けていて、そこからは、どろりと血の混じった精液が溢れ出ている。
「う……」
智沙ちゃんは、ちょっと僕をにらみつけてから、ごしごしとこぶしで涙を拭った。
「ひどいなあ、研児君……」
そう言う智沙ちゃんの声は、こっちが意外に思うほどに、しっかりとしていた。
大声をあげたせいか、かすれてはいるけど、泣き声じゃないし……怒った声ですらない。
それどころか……智沙ちゃんの声には、この事態をちょっとだけ面白がってるような響きさえ感じられた。
「え、えと……」
僕は、謝るべきなのか怒るべきなのか迷ってしまい……そして、どちらもできなかった。
「私、初めてだったのに……」
智沙ちゃんが、服の乱れを直しながら、言う。
そう。僕は、処女だった智沙ちゃんをレイプしてしまったのだ。
しかも、智沙ちゃんは、僕の致命的な弱みを握っているって言うのに……。
いや、そういうことじゃなくて、暴力で女の子を犯すなんて、それは、絶対にしちゃいけないことのはずだ。
けど、それは、もともとは智沙ちゃんが僕を脅迫したからだし……そもそも無理やりにアソコを舐めさせるなんて行為そのものがある意味でレイプと同じかもしれなくて……だけどやっぱり……。
「これで、おあいこよ」
と、僕の悩みをすっぱりと切り捨てるように、智沙ちゃんは言った。
「え……?」
そ……そうなんだろうか?
いや、でも、だって、そもそもは……。
と、いきなり、智沙ちゃんは、くすっと笑った。
さっき、道でトンボの写真を撮ったあとに見せた笑顔に似てるけど、なんて言うか、それよりももっと子供っぽい表情。
それは……小さいころの思い出の中で、幼い智沙ちゃんが浮かべていた、屈託の無い笑みだった。
「お人好しだよね、研児ちゃんって」
智沙ちゃんが、そんなふうに言う。
外では、セミが、うるさいくらいに鳴いていた。