夏 の 歌



第二章
−夏の月−



「……!」
 目が覚めた時、僕は少し混乱していた。
 自分がどこにいるのか、分からなかったのだ。
 独特の匂いが漂う、六畳の和室――
 その部屋に置かれたベッドに、僕は、寝ていた。
 和室にベッドというのは、ちょっとミスマッチだ。なんでも、この家に住んでいた祖母が、足を悪くして以来、このベッドに寝起きしていたらしい。
「……そっか、ここ、美保さんの家だ」
 そんな、当たり前のことを口に出して確認してから、僕は体を起こした。
 Tシャツと短パンを、僕は身につけていた。
「えっと……」
 昨夜の記憶が、よみがえってきた。
 僕は、おふろ場で、裸の美保さんに抱きついて、思い切り射精して――
 そして、それから――
「研ちゃん、起きてる?」
「う、うんっ!」
 部屋の外から美保さんに声をかけられ、僕は、必要以上に大きな声で返事をした。
「朝ごはんできてるから、食べちゃいましょう」
「うん……い、今行くよ」
 そう言ってから、自分が、右手を無意識のうちに左の胸に重ねていることに気付いた。
 激しい動悸を感じながら、昨夜のことを、さらに思い出す。
 僕は、美保さんの体に、たっぷりと射精してから――もう、何もできなくなるくらいにぐったりして、そのまま眠ってしまったのだ。
 美保さんに、服を着るのを手伝ってもらったような覚えがある。
 恥ずかしい。
 顔から火が出るってこのことか、と思うくらい、首から上が熱くなる。
「あれって……夢、だったのかな……」
 あまりにも激しい記憶に、僕は、思わずつぶやいた。
 起きぬけで、夢と現実がごっちゃになるのはよくあることだ。
 だけど、ベッドの上でいくら深呼吸をしても、おふろ場での光景は頭の中で鮮烈になるばかりだった。
 射精直後の、こめかみを内側から叩いていた血流の感触まで、よみがえってくる。
「どんな顔して、美保さんに会えばいいんだろ……」
 そんなことを考えながら、ベッドから降りる。
 僕の股間のモノは、持ち主の悩みなど知らぬげに、元気よく朝立ちしていた。



 拍子抜けしたことに――美保さんは、まったく普通の様子だった。
 いつもの、人を安心させるような笑みを浮かべたままの美保さん。
 そんな美保さんと向かい合わせで食べる、ご飯とおみそ汁と卵焼きの朝ごはん。
「卵焼き、甘かったかな?」
「え? そ、そんなこと、ないけど」
 はっきり言って、ごはんの味なんて分からなかった。
 普段通りの美保さんに対し、僕はいかにもおどおどしていたと思う。
 でも、美保さんは、そんな僕を不審がる様子もなく、いろいろと他愛ない話をしながら、箸を進めている。
 僕は、混乱していた。
 やっぱり、あのおふろ場での出来事は、夢か何かだったんじゃないかと思う。
 だけど、美保さんの肌の感触は、今も手の平に残っている。
 そして、あの、激しすぎる射精の感覚も――
「あ、あのさ」
 僕は、無意識のうちに左手の腕時計をいじりながら、言った。
「なぁに?」
 可愛らしい湯飲みでお茶を飲んでいた美保さんが、小首をかしげる。
「えと……あのう……ご、ごめん、なんでもない……」
 僕は、何を言っていいか分からず、自分の使った食器を重ねて、居間から逃げるようにして、それを流しに運んだ。
「研ちゃん」
 そんな僕の背中に、美保さんが声をかける。
「な、なに?」
「学校から、課題出てるんでしょ? 涼しいうちに片付けた方がいいわよ」
「そ、そうだね……」
「分からないところがあったら、あたしが教えてあげるから」
 そんな美保さんの言葉に、僕は、振り返ることもせず、ただ、あいまいに肯いた。



 そういうわけで、僕は、午前中には学校の課題をぼんやりと眺め、そして、午後には美保さんの自転車を借りて公立図書館に行った。
 美保さんの名前の書かれたカードで本を借りるのが、なんだか、ちょっとだけ恥ずかしいような、くすぐったいような気分だった。
 その後、美保さんの家の中で、ずっと好きな作家の小説を読んでいたんだけど――ぜんぜん頭に入らなかった。
 美保さんは、午後から、近所の小さな会社に、事務の手伝いに行っている。
 生計を立てるため、というわけじゃなくて、何か仕事をしていないと落ち着かないからだ、という話だ。
 生活費の方は、両親――僕にとっては祖父母――の遺産と、あと、離婚した時の慰謝料で、どうにかしている、という話を、小耳に挟んだことがある。
 つまり、美保さんが離婚したのは、美保さん自身に何か落ち度があった訳じゃない、ってことだ。
「そりゃ、そうだよな……」
 部屋に寝転び、枕元に文庫本の小説を置きながら、僕は思わずつぶやいていた。
 美保さんは、たぶん、いい奥さんだったと思う。
 なのに、どうして――美保さんは、離婚してしまったんだろう。
「……」
 詮索しても、しょうがない。美保さんを嫌な気分にさせるだけだ。
 僕は、この疑問を胸の中にしまっておくことに決めて、再び、ラミネート加工された文庫本を開いた。



 夕飯のころには、僕も少しは落ち着いていた。
 カレーを作ってみた。
 カレーをまずく作るのはとても難しい、という話を聞いたことがあるけど、ほぼ一年前、僕が初めてカレーを作った時はさんざんな出来だった。
 何かの本で読んで、隠し味にインスタントコーヒーを入れたのがいけなかったらしい。肉がナベに焦げ付いたこともあいまって、とにかく、辛いよりも苦いという不思議な代物になってしまったのである。
 そんなわけで、美保さんが僕のカレーを一口食べて顔をほころばせた時は、すごくほっとした。
「おいしい♪ すっごくおいしいよ、研ちゃん」
「そ、そうかな」
 ごくごく普通のカレーを手放しでほめられて、僕はくすぐったいような気分になった。
「うん。それにね、一人で暮らしてると、あんまりカレーって作らないのよね」
「ああ、量を作り過ぎちゃうから」
「そうなの。本当は、おっきなナベてたくさん作るのが一番おいしいんだって言うけどね」
「あ、それ、聞いたことあるよ」
 そんな会話を交わしながら、自分の作ったカレーを口に運ぶ。
 味の分からなかった朝食や、一人で食べた昼食より、はるかに美味しいのは、確かだ。
 そして、僕達は、カレーを平らげた。
「あ〜ん、おいしくて食べ過ぎちゃった」
 太っちゃうわ、と、小さく口の中でつぶやきながら、美保さんが食器を後片付けする。ゆうべ、夕食は作ってもらった方が洗い物をする、ということも、二人で決めたのだ。
 僕は、自分の使ったお皿とかを流しに運んで、そして、縁側に腰掛けた。
 ちょうどよく吹いてきた風が、風鈴を鳴らす。
 その音を聞くだけで涼しくなるほど、僕は風流じゃないけど――でも、澄んだ音は耳に心地よかった。
 背中で流しの水の音を聞きながら、夜空を仰ぐ。
 月が、雲を照らしていた。
 それをぼんやりと見ているうちに、忘れかけていたもやもやとした感覚がよみがえる。
 本なんかで、よく、月のことを“なまめかしい”と表現することがあるけど――そのことに、初めて、納得がいった気がした。
 確かに、柔らかな月の光は、人を変な気持ちにさせる。
 いや、変な気持ちで月を見てるから、こんなことを考えるんだろうか。
 いつの間にか、水の音が止んでいた。
「……」
 無言で、美保さんが、僕の隣に腰掛けてきた。
 美保さんは、今日も、ジーンズにTシャツという普段着姿で、髪をアップにまとめている。
 目を横に向ければ、綺麗な横顔と、まろやかに膨らんだ胸元が、どうしても目に入るだろう。
 それを恐れていると言うより、なんだかもったいないような気がして、夜空に目を向け続ける。
 美保さんも、そうしているのだろう。
 お互い、無言で、縁側に並んで、月を見る。
 月光に照らされた暗い灰色の雲の動きが、速い。台風が近付いているという話だ。
 それでも――当たり前だけど、月は、ただ静かに空の一点に留まり、流れる雲を照らし続けている。
「ね、研ちゃん……」
 美保さんの声が、僕の耳をくすぐった。
「どうして昨夜のこと、何も言わないの?」
 その言葉に、どきん、と心臓が跳ねる。
 顔が熱くなっているのが、自分でも、分かった。
「夢だと思ってるわけじゃ、ないんでしょ?」
「……」
 何か言わなくちゃ、と思うけど、何も言えなかった。
 情けない。
 しょうがないから、僕は、精一杯の努力をして、こくん――と、肯いた。
「よかった……。もし、ゆうべのこと、よく覚えてないなんて言われたら、どうしようかと思っちゃったわ」
 どこか晴れやかな、美保さんの声。
 その声の調子に誘われるように、僕は、ようやく美保さんの方を向いた。
 美保さんが、その顔に、穏やかな笑みを浮かべている。
 そんな美保さんに、お礼とか、想いの告白とか、いろいろと言わなくちゃいけないと思ったんだけど……僕は、無様に唇を震わせるだけだ。
「こういう時はね、別に、無理して何かを言わなくていいのよ……」
 お見通し、といった感じで、美保さんが言う。
 そして、美保さんは、ゆっくりと僕に顔を近付けてきた。
 ちゅ……と触れる、唇と唇。
 そうなることに、期待というより、予感があった。
 だから、僕は、心臓をどきつかせてはいたけど、もうパニックになることもなく、美保さんのキスを受け止めることができた。
 ぎこちなく美保さんの肩に手を置いて、キスを続ける。
「ん……んっ……ん……」
 かすかに漏れる美保さんの声に、僕は、全身の血液の温度が上昇するような気持ちがした。
 ふーっ、ふーっ、と鼻で息をしながら、美保さんの唇を感じ続ける。
 美保さんの口が僕の唇をついばみ、それを真似るように、僕も美保さんの唇を吸った。
 柔らかく、痺れるような感触――
 そして、ようやく、僕達は唇を離した。
「んふっ……続きは、研ちゃんのお部屋でしましょう」
 美保さんが、さっきと微妙に違う――どこか悪戯っぽい笑みを浮かべて、そう言った。



「んっ、んちゅっ、ん、んんっ……」
「ちゅ、ちゅむ、ちゅっ、ちゅうっ……」
 僕と美保さんは、ベッドの上で膝立ちになり、互いの唇を吸い合った。
 すでに、僕はトランクス一枚の姿になり、美保さんも、上品な白の下着だけの格好になっている。
 トランクスの下で、ペニスが、痛いくらいに勃起していた。
「ぷは……ふふ、研ちゃんのここ、とっても元気……」
「あっ……!」
 はっきりとテントを張った股間のものをそっと撫でられ、僕は、声をあげてしまった。
「ね……あたしに、研ちゃんのここ、直接見せてくれるかな?」
「う、うん……」
 僕は、肯いて、トランクスを下ろした。
「すごいわ……」
 ため息みたいな声で、美保さんが言う。
「おっきいね、研ちゃんのコレ……」
「そ、そう、かな?」
「うん。とっても立派よ」
 そう言って、美保さんが、その白い指で僕のペニスを優しく握る。
 びくんっ、とペニスがひとりでにしゃくりあげた。
「あ……」
 先っぽから少し液が出て、美保さんの手を汚してしまう。
 でも、美保さんは、そんなこと全然気にしてないみたいだった。
「ふふ……どうしてこんなになっちゃったの? 研ちゃん……」
「それは……」
 僕は、下着姿の美保さんの体を、見つめた。
 一度、お風呂場でハダカまで見てしまったわけだけど……ナツメ球のオレンジ色の光に照らされたその姿は、すごくエッチに思えた。
「あたしのことを見て、こんなふうにカタくしちゃったのね?」
「ごめんなさい……」
「謝ることなんてないわ。あたし、すっごく嬉しいんだもん」
 そう言って、美保さんは、右手で僕のペニスを握ったまま、左手で僕を抱き寄せた。
「ああ……」
 思わず声を漏らしながら、美保さんのふくよかな胸の膨らみに、顔を埋めてしまう。
 その柔らかな感触と、甘いような匂いに、僕は陶然となった。
 自分でも意識しないうちに、顔を美保さんの乳房に押し付け、滑らかな肌に唇を這わせてしまう。
「あ……んふん……はぁっ……」
 美保さんが、喘ぐような声をあげる。
「美保さん……僕、美保さんの胸、見たい……」
 僕の言い方は、なんだか、甘えるような感じになっていたかもしれない。
「うん……いいわよ……」
 そう言って、美保さんは、僕から手を放し、手を背中に回してブラのホックを外した。
 ぷるん、と美保さんの二つのオッパイが揺れ、そして、ブラがシーツの上に落ちる。
「すごい……」
 僕は、そんなことを言いながら、美保さんの了承も取らずに、あらわになった右の乳首に吸い付いていた。
「あっ……け、研ちゃん……」
 美保さんの体に腕を回し、ちゅうちゅうと乳首を吸う。
「あっ……!」
 ぎくん、と美保さんの体が固くなった。
「あっ、ご、ごめんなさい……痛かった?」
「う、ううん、いいの……ねえ、研ちゃん……今みたいに、して」
「え?」
「だ、だから……あのね……オッパイ、吸って……」
「うん……」
 どうやら、それを美保さんも望んでいるらしいということに勇気付けられて、僕は再び美保さんの乳首を口に含んだ。
 さすがに歯が当たると痛いだろうと思い、注意しながら、口の中の乳首を吸う。
「あっ、あぅん……あぁ……はあぁ……」
 美保さんは、どこか満足げな声を漏らしながら、僕の頭を自分の胸に押しつけさえした。
 犬のように息が荒げながら、僕は、貪るように美保さんの左右の乳首を交互に貪った。
「あん、あぁん、そう、そうよ……あうっ……うん、も、もっと、して……」
 美保さんの甘い声が、僕の頭の中を熱くさせる。
 いつしか、口に含む乳首の様子が、変わっていた。
 舌と唇に当たる感触が、固くなっている。
(女の人も感じると勃起するとは聞いてたけど……こういうことなんだ……)
 僕の行為によって、美保さんの体に変化が現れてる。
 それが、これまで感じたことのなかったような嬉しさを、僕にもたらした。
「美保さん……美保さん……!」
 ほとんど無意識にその名前を繰り返しながら、勃起して小指の先くらいになった美保さんの乳首を吸い、そして、舌で舐めしゃぶる。
「あっ、くぅん……もう、舐めたりして……悪い子ね」
 美保さんが、そんなことを言う。
「え、えっと……駄目だった……?」
 吸うのはよくても舐めるのはいけないという理屈が分からないまま、つい、訊いてしまう。
「だって……そんなにされると、エッチな気持ちになっちゃうわ……」
 そういう美保さんの声は、まるで、僕のことを誘ってるみたいだった。
 だから、僕は、ぴちゃぴちゃと音をたてながら美保さんの乳首を舐めることを、再開した。
「あ、う、うぅん……もう、研ちゃんてば……あっ、ああっ、あん……」
 美保さんの喘ぎに励まされるような気持ちで、夢中で乳首を吸い、乳房全体に舌を這わせる。
 そして、僕は、左手を美保さんの背中に回した状態で、右手を前に回した。
 美保さんの左の乳房を、右手でこねるようにする。
「うんっ……」
 ひくん、と美保さんの体が震えた。
(やっぱり、オッパイ揉むと、きもちいいのかな……)
 熱い興奮だけでなく、奇妙な好奇心にも促されて、美保さんの柔らかな乳房をむにむにと揉む。
「あっ、ああぁんっ……だ、だめぇ……だめぇん……あああぁ……」
 くねくねと、美保さんの体がうねる。
 でも、それが、僕のしていることに抗っているわけではない、ということは、はっきりと分かった。
「んんっ、んふぅっ……もう、反撃しちゃうんだから……!」
 きゅっ。
 美保さんが、また、僕のペニスを握る。
「んふふっ……研ちゃんのオチンチン、ぬるぬる……」
「あっ、ああっ、あっ……!」
 美保さんが、僕のペニスを、ゆるゆるとしごきだした。
 美保さんがあからさまな言葉を口にしたことの衝撃と、腰の辺りに広がる快感が相まって、背中がゾクゾクとする。
「ああっ、すごいわ……どんどんおっきくなる……それに、とっても固い……」
「そ、そんな……美保さん……ああっ……」
 憧れの人が、僕のオチンチンをしこしこと扱きながら、その状態のことを上ずった声で言っている。
 今までした最も放埓な妄想よりもさらに淫らな展開に、僕の脳みそは沸騰寸前だ。
「はぁ、はぁ、はぁ……研ちゃん、あたし、もうガマンできなくなっちゃった……」
 するっ、と美保さんの体が、僕から離れた。
 そして、ころん、とシーツの上で仰向けになり、綺麗な脚を天井に向けるような格好で、するりとショーツを脱ぐ。
「み、美保、さん……?」
 僕は、自分の許容量を超えた事態に、どうしていいか分からなかった。
「研ちゃん、セックス、したことある?」
 仰向けになり、下腹部のヘアの生えてる辺りを両手で隠しながら、美保さんが訊く。
「そんな……ないよ……」
「やり方は、知ってる?」
「え、えっと……」
「研ちゃんの、おっきくなったオチンチンをね……ここに、入れるのよ」
 そう言って、うふふっ、と笑いながら、美保さんが脚の付け根を、手でまさぐるようにする。
「あ、うん……はぁ、はぁ……どう? 研ちゃん……してみたい……?」
「いいの……?」
「うん……初めての相手が、あたしなんかでよければ……」
「したい、したいよ……! 僕……美保さんと……セ、セックス……したい……!」
 僕は、乗り出すような格好で、余裕なくそう言った。
 くすっ、と美保さんが優しく笑う。
「じゃあ、いいよ……あたしも、研ちゃんとしたいから……」
 そう言われて、僕は、ようやく体を動かすことができるようになった。
 美保さんの体に、両手と両膝をシーツについて、覆い被さるようになる。
 膝を置く場所に迷ってると、美保さんが、そっと脚を開いてくれた。
「腰を落として……」
 そう言って、美保さんが、僕のペニスに右手で触れ、アソコに導く。
 見ると、美保さんの左手は、人差し指と中指で、ぱっくりとアソコを開いていた。
(うわぁ……あ、あそこに……入れちゃうんだ……)
 美保さんにリードされるまま、そんなことを思う。
 ペニスの先端が、美保さんのそこに触れた。
「来て……」
 囁くような、美保さんの声。
 僕は、ぎくしゃくと肯いたまま、腰を進ませた。
 ぬるん、と勃起したペニスが、肉のぬかるみの中に入っていく……。
(あれ……?)
 想像していたのとは全然違う感覚が、僕のペニスを包み込んだ。
(あ、熱い……っ!)
 感触よりも、温度が、美保さんの中に入っているんだという実感をもたらす。
「み、美保さん……僕……」
 体を前に倒し、美保さんの体を抱き締めながら、僕はまるでうわ言みたいな声を出してしまった。
「研ちゃん、どう……?」
「すごい……すごく、熱いよ……」
「……気持ちいい?」
「う、うん……きもちいい……っ!」
 そう答えて初めて、それが、快感だということに気付いた。
 熱い快感が、これ以上はないというくらいに勃起して敏感になったペニスを包み込んでいる。
「うふ……じゃあ、腰を動かして……もっと気持ちよくなるから……」
「う、うん……」
 はぁっ、はぁっ、と息を吐きながら、ぎこちなく腰を使い始める。
 甘い熱がさらに高まり、それと、ペニスが同化していくような感覚――
「あ、うっ……す、すごい……」
「あ、んんっ……はぁっ……そうよ、もっと、動いて……」
「うんっ……はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……あうっ……!」
 少しずつ、少しずつ、自分の腰の動きがスムーズになっていくことが分かる。
「んっ、んんんっ……いいわ……いい……研ちゃんのが、あたしの中を……あんっ、ああぁんっ……」
 胸を愛撫していた時と同じような甘い喘ぎを、美保さんがあげる。
 でも、それは、胸を愛撫していた時よりも、何て言うか、深い感じの声だ。
「み、美保さん……きもちいいの……?」
「うん、いいの……あっ、あぁんっ……きもちいい……研ちゃんっ……!」
 ぎゅっ、と美保さんが僕の背中に手を回し、力を込める。
「ああっ、美保さん、美保さんっ……!」
 美保さんが感じてる、ということに、感動すらしながら、僕は、懸命に腰を使う。
 いつしか、腰の辺りで高まる快感は、どうにもならないくらいに高まっていた。
「あ、あぁん、あっ、ああっ……! け、研ちゃん、激しいっ……! ああぁんっ……!」
「だ、だって、美保さん、僕、僕っ……と、止まらないよ……あああぁっ!」
 ドロドロと熱く渦巻く快楽に、むず痒さのようなものが混じる。
 そのむず痒さは、ペニス全体に広がり、一つの欲求へと変化していった。
「あ、あぁんっ……研ちゃん、出そうなの……?」
 美保さんが言おうとしていることの意味が、時間差で脳に届き、僕は、こくんと肯いた。
「うん、うぅんっ……で、できるだけ、我慢して……ね?」
 美保さんのその言葉には、まるで、甘えるような響きがあった。
「でも、もし、どうしても我慢できなくなったら……出して、いいから……あ、うくぅんっ……!」
「み、美保さんっ……!」
 美保さんの願いに答えたくて、僕は、迫り上がる射精感を歯を食い縛って耐えた。
 ペニスの付け根に、かすかに痛みを感じる。
 それでも、美保さんと、そして僕自身の快感をできるだけ高めたくて、僕は、夢中で腰を使った。
「あっ、ああぁんっ、あうっ……す、すごい……研ちゃんの、すごいの……あぁ、素敵っ……!」
 僕の腕の中で、美保さんが喘ぎ、悶えている。
 そんな美保さんを逃すまいとするようにきつく抱き締めながら、僕は、本能の赴くままに、抽送を続けた。
 摩擦がもたらす熱と快楽が、かつてなかったほどに射精欲求を高めていく。
 限界、だった。
「ご、ごめん……ごめんなさい、美保さん……僕、もう……」
「いいの、いいのよ、研ちゃん……出して……精液、いっぱい出してっ……!」
「ああっ、み、美保さんっ……!」
 がくがくがくがく……という僕の最後の腰の動きは、ほとんど痙攣だったと思う。
 そして――僕は、美保さんの中に――
 びゅびゅっ! びゅるるるるる! びゅっ! びゅっ! びゅっ! びゅーっ!
「あああっ、す、すごい! 研ちゃんのが……! ああぁんっ! あたし、あたし……うそっ、イ、イっちゃうっ!」
 びくっ、びくっ、びくっ、びくっ……!
 美保さんの体の震えを、腕で感じる。
「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ……」
「はあぁ、はあぁ、はあぁ、はあぁ、はあぁ……」
 美保さんと僕が、体を重ねた状態で、息を整える。
「あっ、ああぁ……あぁんっ……すごい……射精されて、イっちゃった……」
 ぼんやりとした声で、美保さんが言った。
「美保、さん……」
 うまく力の入らない体をどうにか起こし、美保さんの顔を覗きこむ。
「やん……そんなふうに見ないで……」
 美保さんは、はにかむように笑いながら、僕の頭を抱き寄せた。
 ちゅっ……と唇が、重なる。
 僕と美保さんは、目を閉じ、互いの舌と唇を触れ合わせた。
 しばらくそうしてから、頬と頬とをこすりつけるようにして、身を寄せ合う。
 僕も、美保さんも、すごく汗をかいていた。
「いっぱい出したね……研ちゃん……」
「う、うん……」
 どう答えていいか分からなくて、とりあえず、肯く。
 そんな僕の背中を、美保さんの指先が、撫でた。
「うふ……研ちゃんのが、あたしの中に染み込んで……ちょっと、ぴりぴりする……。でも、きもちいい……」
「美保さん……」
 首をひねって、美保さんの方を向く。
 と、美保さんも、僕に顔を向けていた。
 至近距離で、瞳と瞳が合う。
 美保さんの顔には、僕がこれまで見たことがないような、綺麗で、可愛くて――そして妖しい表情が浮かんでいた。
「これで、あたし……研ちゃんの女だよ……」
 思いもかけなかったその言葉に、僕は、ぞくぞくと体を震わせながら……こくん、と肯いていた。



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