第六章



 アルメキアの騎士達は、勇敢な義勇兵を率いてよく戦った。
 兵達にとって、これは聖王ナンテスI世の弔い合戦であり、悲劇の双生児を救出するための英雄的な出征でもある。士気は、旺盛だった。
 ダニルの用兵は的確であり、その采配は気迫に満ちていた。兵達はダニルに強い信頼を抱き、進んで死地に飛びこんだ。
 一方、ネルドール軍は敗走に敗走を重ねていた。彼らは、もともと荒地に巣食っていた山賊などの無法者の集まり、烏合の衆である。
 壊走する敵兵の背中に重い刃を振り下ろしながら、アルメキア兵達は勝利を確信しつつあった。

「気に食わん……」
 近頃、あの屈託無い笑顔を少しも見せることの無くなったダニルが、眉間にしわを寄せつつ、呟いた。その目は血走り、どこか飢えた獣を思わせる。
 が、戦場にあっては、そんなダニルの豹変も言わば当然のことであった。そのことに不審の念を抱く者はいない。
「奴らめ、脆すぎる」
 陣地の天幕の中、地図を覗きこみながらそう言うダニルに、副官のセプテムが近付いた。
「どうしました?」
「この地図を見ろ」
 自分より一回りは年上の彼に、ダニルが自然な威厳を見せつつ、言った。
「我々は、ほぼ一直線に、ネルドール王都ヴァルディアに向かっている。まるで導かれるがごとくだ」
「それは……敵軍に、国土を防衛しようという意識が薄いのです。もともと、つい数年前までは、ネルドールなどという国は無かったのですからね」
「それは、確かにそうだ」
 ダニルの声は、外の、星の無い夜空のように暗い。
「だが、絶対に何かある。相手は魔王国だ。連中は、まだ切り札を出していない」
「切り札?」
「魔道と、異種族どもだ」
「……」
 天幕の外で、谷を渡る風が、まるで幽鬼の声のように陰々と響いていた。

 ダニルの懸念をよそに、アルメキア軍は破竹の進撃を続けていた。
 敵の本拠地ヴァルディアは、すぐそこにまで迫っている。兵達は全身に闘気をみなぎらせ、険しい山道を力強く行軍している。
 そして、その先頭で逞しい白馬にまたがるダニルは、内心の不審をけして表には出さなかった。総大将に毛ほどの迷いでもあれば、たちまち全軍に動揺が生まれてしまう。ダニルは兵達を動かす術をよく知っていた。
 銀色に輝く兜の下で、ダニルの褐色の瞳が、きつくヴァルディアの尖塔群を睨んでいる。
 わあああああ……っ
 と、その時、軍のはるか後方から、驚愕に満ちたどよめきが聞こえた。
「何事かっ!」
 素早く、ダニルが反応する。
「敵襲です!」
「規模は?」
「さ、さして多くはありませんが、あれは……」
 副官が目を細め、後方の砂塵の奥に展開する、ネルドール軍の伏兵を見極めようとする。
 それは、異形の兵達だった。
 豚面のオークや、全身がカビに覆われたグール、食人鬼の異名を持つオーガー達。
 空には、人面鳥であるハルピュイアやサイレンが舞っている。
「ひるむな!」
 ダニルは叫び、腰の大剣を抜いて振りかざした。
「ひるむな、アルメキアの勇者よ! 敵は卑しい妖魔に過ぎん! 恐れるに足らんぞ!」
 そう言いながら馬に拍車をかけ、戦場を目指す。
 不意を打たれた兵達も冷静さを取り戻し、そして、ダニルに続いた。



 その目覚めは、まるで深い淵から浮かび上がってくるような感覚であった。
「ぁ……」
 何かを恐れるように、まつげを細かく震わせながら、ノエルはゆっくりと目を開く。
 そこは、もとの地下牢だった。暗い、闇が凝ったような天井から、何本もの鎖がぶら下がっている。
 ノエルは、はっと体を起こした。その緑色の目が、大きく見開かれる。
 寝台に向かい合うように置かれた椅子に、全裸のレオンがぐったりと座り、そして、その傍らに、魔王ヴァルド・ネロがいる。
 ネロは、例の厚手のマントを影のようにゆらめかせながら、ノエルに一歩近付いた。
「ひ……」
 ノエルは、喉の奥で短く悲鳴をあげた。ネロの赤い目を見るうちに、忌まわしい記憶が戻ったのだ。
 埃と、もっとおぞましいものに汚れていた肌は、いつのまにか清められ、つやつやとした光沢を取り戻してはいる。が、暗い快楽を伴った汚辱は、すでにノエルの心の奥深くにまで染みこんでいた。
「い、いやああああああああああああああああああああああああッ!」
 ノエルは、高い悲鳴をあげ、寝台の上で後ずさった。
「イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤあああああッ!」
 大きくかぶりを振り、豪奢な金髪を振り乱しながら、泣き喚く。
「どうした? 王女よ」
 あまり感情を感じさせない声で、ネロが訊いた。
「お主らしくもない」
「イヤ! イヤです! も、もう外は、外はイヤあ!」
 ヴァルディアの市民達にさんざんに辱められ、視線で犯され、汚穢な体液を浴びせられた感覚が、否応無しにノエルの体によみがえってくる。
 しかし、ノエルが最も恐れているのは、その屈辱のさなか、凄まじいほどのエクスタシーを感じてしまったことであった。
「……お主は、あの時、犯されることを望んでいたのだろう?」
 ネロが、ノエルのすぐ傍まで迫りながら、言った。
「ヤああーッ!」
 ノエルは、最も認めたくない事実を突き付けられ、耳を塞いでつっぷした。
「安心しろ、王女よ」
 その言葉とともに、無数の肉色の触手が、ノエルの細く白い体を包んだ。
「ひああッ!」
 ノエルが、おぞましさよりも純粋な恐怖に、叫び声を上げる。
「ああ……お、お願いです……もう、もうノエルをあんな目に、あわせないで下さい……」
 ネロよりも、自らの内に眠るおぞましい自分自身に、ノエルはあえなく屈服していた。
「……アルメキアのダニル将軍が、ここに迫っている」
「え?」
 ノエルの目に、恐怖に彩られた戸惑いの色が浮かぶ。
「出兵に反対するナンテスI世を殺した上でな」
「え、な、なんですって……!」
 一呼吸おいて、ネロの声の意味が意識に届いたとき、ノエルは大声をあげていた。
「ダニルが、ナンテスを殺した」
「う、そ……」
「嘘ではない。あの国に、お前を待つものはいなくなったのだ」
「そんな……そんなの……うそ、です……」
 そう言いながらも、ノエルは、ネロの言葉が真実であろうことを、直感によって気付いていた。
 だが、なぜか涙が出ない。突然で実感がわかないと言うこともあったし、すでに充分過ぎるほど泣いた。涙も、涸れてしまったのかもしれない。
「安心しろと言った。王女よ」
 ぬるぬると生温かい粘液を表面から分泌しながら、男根に酷似した触手達は、ノエルの体を戒めていく。
 それらはびくびくと脈打ちながら、すっかり敏感になったノエルの肌をまさぐり、乳首や秘部に、ぐりぐりとその先端を押しつけた。
「あ、ああァ……ンはぁ……」
 父の死を知ったばかりのノエルの唇から、他愛もなく熱い吐息が漏れる。
「お主を、他の者に渡したりなどせん。ダニルとかいう男にも、他の誰にもな」
 そう言いながら、ネロはノエルの体を寝台から下ろした。
「あ……」
 ぼんやりと濁ったノエルの緑色の瞳のすぐ前に、ネロの青黒い巨根がある。
 それは、ノエルの視線に反応したかのように、蛇のように鎌首をもたげ、ノエルの口元に近付いた。
「あム……」
 ノエルは、ほとんど抵抗することなく、ネロのペニスをその小さな口に咥えこんでしまっていた。
「ン……んちゅっ……んぐ……んんン〜ん」
 そして、その先端から溢れるねばつく液体を、半ば無意識のうちにすすりあげた。
 ノエルの白い肌はピンク色に染まり、鼻からはふンふンと媚びるような鼻声が漏れている。
 ノエルは、性の快楽の中に進んで堕ちようとするかのごとく、ネロの体液を積極的に吸い上げた。
 それにしたがって、体の奥の甘い疼きは強くなり、秘めやかな箇所はとろとろと愛液を溢れさせる。
 ネロのペニスは、まるでノエルの口腔を犯すように抽送を行い、そのたびに、ノエルの口から唾液と粘液の混じったものがだらしなくこぼれ落ちた。
「ン……んぶっ……ンう……んぐゥ……」
 いつしか、ノエルは、触手による愛撫をせがむように、我知らず腰をゆすっていた。
 全身をネロの粘液で濡らし、ぬらぬらとした淫靡な光沢に包まれながら、まぎれもない恍惚の表情を浮かべるノエル。しかし、その顔は、そのような状況の中でもあくまで美しかった。
 ネロの触手達が、ノエルの体を引き寄せる。
「んはア……」
 ネロのペニスから解放されたそのピンク色の柔らかな唇が、熱い吐息を漏らす。
「我のものになるか? ノエル」
 闇が凝ったような、ただ目だけがぎらぎらと赤く光るその顔を寄せ、ネロが訊いた。
「ああ……な、なります……」
 全身を触手でまさぐられ、すっかり濡れそぼった秘裂を、蛇のような青黒いペニスで嬲られながら、ノエルがうっとりとした声で答える。
 その、エメラルドに喩えられた緑色の瞳は虚ろで、ただ快楽の予感に淫らに潤んでいる。
「誓うか?」
「ち、ちかい、ます……ノエルは、ネロ様のものです……」
 他者に全てをゆだねきった者特有の頼りない声で、ノエルが隷従の誓いを宣言する。
「お主は、我のものだ」
 重々しくそう言いながら、ネロは、その男根を深々とノエルの体内に打ちこんだ。
「アアアアアアアアアアアアアアアアーっ!」
 触手に体を支えられて、どうにか二本の足で立っていたノエルの白い裸体が、しなやかにのけぞる。
 挿入されただけで軽い絶頂に達し、ぴくぴくと体を痙攣させるノエルの細い体に、ネロが容赦なく力強い動きを送りこむ。
「あッ! あはッ! はひン! いあああああああン!」
 ノエルは、体を弓なりに反らしたまま、膣内をきつくこすられる感触に声をあげ続けていた。
「す、すごい……すごいです……あァ、ノエル、お、おかしくなります……!」
 触手によって緊縛されたその身をよじりながら、ノエルが訴える。
 素直に快楽を受け入れるようになったノエルの反応を楽しむように、ネロはノエルのありとあらゆる性感帯を触手で刺激した。その丸い先端をこすりつけ、細かい繊毛を這わせ、口の部分でちゅうちゅうと吸い上げる。
「あひッ! そ、そこは、そこはあああッ!」
 ノエルが、一際高い声をあげた。触手の一本が、ノエルのつつましやかなアヌスを探り当てたのである。
「そ、そこは、いけません……あ、ダメ、入ってきますうっ!」
 表面から分泌する粘液と、ノエルが溢れさせている愛液に濡れた触手は、驚くほどスムーズに、ノエルの直腸へと侵入していく。
「お、おねがいです……そんなところ……わたし……わたし……ッ!」
 切なげに眉を寄せ、初めての肛姦にぞくぞくと背中を震わせながら、ノエルは体内をえぐる二本の触手を我知らずきゅんきゅんと締め上げた。
 まるで、その締め付けに応えるかのように、膣内を蹂躙する青黒いペニスと、肛門を犯す肉色の触手が、薄い壁を挟んでノエルの靡肉を挟むように刺激する。
「あ……! そ、そんな、されたら……わたし、もう……!」
 息もたえだえな様子で、それでも甘く喘ぎ続けるノエルの口に、別の触手がねじ込まれる。
「ン……んぷっ……ンむむむむ……っ」
 苦しげな息を漏らしながら、ノエルは口腔をこすりあげる触手の表面に舌を絡ませ、ちゅうちゅうと吸い上げた。
「ンンッ!」
 しかし、その口淫も、すぐにくぐもった悲鳴に中断される。
 触手の先から生え出た細い繊毛が、ノエルの小さな尿道口にまで侵入し、内部をざわざわと刺激し始めたのである。
「ん! ん! んんン! んぐ! んぶぶッ! んんんんんんんんんんんんんンーッ!」
 ノエルの声はもはや声にならず、呻きとともに、ただ口の端からだらしなく涎が溢れるだけだ。
 ネロの触手は、ノエルの穴という穴を執拗に犯し、体液とともに苦痛を伴う強烈な快楽を絞り出している。
 中でも、ネロの青黒い剛直は一際激しく動き、その動きに翻弄されるノエルの体は、半ば宙に浮く形になっていた。
「ーッ! ッ! ッ! ッ!」
 何度も押し寄せる絶頂の大波にさらされ、ノエルはもう何も分からなくなっていた。
(ああ……わたし、しぬの……? それとも……もう、しんじゃったのかしら……?)
 快楽と、そして紛れもない幸福感に満ちた死を意識しながら、ノエルは壊れた人形のように気を失っていた。

 ――そして、ノエルが再び意識を取り戻したときには、目の前に、レオンの姿があった。
 その紫色の瞳は、相変わらず弱々しい光しか宿していない。が、その股間のものは、痛々しいほどに勃起し、懸命に自己を主張していた。
「レオン……」
 ぼんやりとした、それでいながら淫らに濡れた声で、ノエルは弟の名を呼んだ。
 ノエルは、犬のように四つん這いになっていた。その体には、未だ、何本もの触手が絡みついている。しかし、股間に突き立っていた二本の触手は、すでにノエルの体内から抜かれていた。
「ふふ、レオンてば……そんなになって……」
 そう言いながら、ノエルは、石でできた椅子に座ったままのレオンに、ゆっくりと四つん這いでにじり寄っていった。
「ねえさま……」
 はぁはぁと少女のように可愛い声で喘ぎながら、レオンが言う。
 ノエルは、そんなレオンの様子にちろりと舌なめずりした後、背後に流し目を送った。
 そこに、自らの支配者であるネロが佇んでいる。
「ネロさま……」
 媚びるような甘たるい声で、ノエルはネロに語りかけた。
「私、レオンのが、ほしいんです……お許し、いただけますでしょうか?」
「淫乱な聖王女もいたものだ」
 嗤いを含んだ声で、ネロが言う。
「好きにするがいい」
「ああ、嬉しい……」
 うっとりとそう言いながら、ノエルは、座ったままのレオンの腰に、その白い腕を蛇のように絡めた。
「レオン……可愛いわ……」
「ああ、ねえさま……ぼく……」
「いいのよ。私が、全部してあげる」
 にっこりと微笑みながら、ノエルはレオンの股間に、上気した顔をうずめた。
「ん……」
 そして、長いまつげに縁取られた大きな目をうっとりと閉じ、固く反り返った成長途上のペニスを、口内に収める。
「ああっ……」
 姉の口腔粘膜の感覚に、ぴくん、とレオンのほっそりとした体が震えた。
 ノエルは、歯を立てないようにしながら、唇をしめつけ、ディープスロートを始める。
「あっ、ああアっ……ね、ねえさま……っ!」
 レオンは、小さな白い拳をぎゅっと握り締めながら、高まっていく快感に声をおののかせた。
「あ、だめ、ねえさま……そんな……ン……あああッ!」
 少女のような高い声を上げるレオンの敏感なペニスに、ノエルは大胆に舌を絡める。唾液を塗りつけるようにシャフト全体を舐め上げ、舌の裏側の柔らかい部分で、まだエラを張りきっていない様子の亀頭を刺激する。
「アアアっ!」
 レオンは、あっけなく絶頂を迎え、細い腰を跳ね上げた。
 口の中に軽い痛みを覚えるほどの勢いで、レオンのペニスの先端から、何度も熱い精液が放たれる。
 ノエルは、いったんはその粘液を口内にため、そして、こくンこくンと喉を小さく鳴らしながら飲み干した。さらには、尿道に残る最後の一滴までもちゅるちゅると吸い上げ、レオンの体をぴくぴくと痙攣させる。
「……ふふっ、いっぱい出したね」
 ノエルは、その美しい顔に淫蕩な表情を浮かべながら、体を起こした。そして、まだはぁはぁを喘いでいるレオンの体を柔らかく抱きしめる。
「ネロ様のと同じ味がしたわ……」
 そう言いながら、ノエルが、レオンの唇にその唇を重ねた。
 姉弟とも、生まれて初めてのキスだった。
 ノエルの口が、レオンの舌を激しく吸い上げ、舌が口内をねぶりあげる。その間も、ノエルの白い手はレオンの華奢な体をまさぐっていた。
 そして、繊細な指が、レオンの股間のものをそっと包むように握る。
「あっ……!」
 ぴくん、とレオンの体が震え、白く細い首をのけぞらせる。
 それは、あれだけ放出したにもかかわらず、少しも勢いを衰えさせていなかった。
「レオン……」
 レオンの首筋を、ノエルの唇がなぞる。
 そしてノエルは、浅く腰掛けたレオンの腰を大胆にまたぎ、唾液と精液に濡れたままのペニスを、熱く濡れる自らの靡粘膜の狭間に導いた。
「あああ……ッ」
 双子の声が、ハーモニーを奏でる。
 まるである種の生物が捕食活動をするかのように、ノエルの秘部は、レオンのけなげに反り返った陰茎を飲みこんでいった。
 レオンは、まるで処女を捧げる乙女のような切なげな表情で、柔らかそうな頬を赤く染めている。
「あっ、あっ、あっ、ああっ、ああ〜ン……」
 レオンの全てを受け入れきったとき、ノエルは満足げな吐息を漏らした。
「ねえさま……ぼく、きもちいいよ……」
「わたしもよ、レオン……いっしょに、もっと気持ちよくなりましょう」
 そっくりな顔をすりすりと摺り寄せながら、互いの耳元に熱く囁く。
 そして双子は、悩ましげな顔で、腰を動かし始めた。
「は……ンああ……あッ……ンあああああああッ……」
 次第に腰の動きを早くするノエルとレオンに、てらてらと濡れ光る触手が何本も絡みついた。
 二人の白いつややかな肌に、赤黒い触手が這いまわり、粘液を塗りつける。
「ああ……す、すてき……すてき、ですゥ……っ!」
 弟を半ば犯すようにしながら全身を触手に嬲られる快感に、ノエルは一際濡れた声をあげた。
 今や、アルメキアの聖双生児と言われた王子と王女は、肉色の触手に半ば覆われながら、互いの性器を貪るように腰を激しく動かしている。
「あああああああッ!」
 ノエルのアヌスに、再びネロの触手が侵入してきた。
 見ると、レオンも、切なげに眉を寄せながら、ふるふると大きく首を振っている。彼のアヌスも、魔王の触手の洗礼を受けているのだろう。
 前立腺を刺激されたのか、レオンのペニスが、一層その容積を増したかに、ノエルには感じられた。
「ンわああああッ!」
 そのレオンのペニスと、ネロの触手に激しく貫かれ、ノエルはかつてない快美感に全身をぞくぞくと震わせていた。
「す、すごい……すごすぎ、ですッ……も、もうダメ、ダメ、ダメですう!」
 そんなノエルの切羽詰った声にせかされるように、レオンとネロの動きが一層激しさを増す。
 そして、その時が来た。
「あ、あああああ、あア、ンあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
 ノエルの体内に、熱い粘液が次々と打ちこまれる。
 その感触に、ノエルは何度も何度も絶頂に舞い上げられていた。
 膣内と直腸に、大量の白濁液が注ぎ込まれ、どぷどぷと隙間から溢れ出る。
「あ、ンあああ! イク! またイきます! あ、あああ、ふわああああアッ!」
 最早、ノエルは全てを忘れ、ただただ断続的に自らを襲う凄まじいエクスタシーにその身を委ねきっていた。

 外の喧騒を聞き、ネロはそっとノエルの体から離れた。
 ノエルの白い体が、ぐったりと地下牢の床に横たわる。
「来たか……」
 ネロは、その赤い目を細め、つぶやいた。
 王城の地下にまで届くその声は、ヴァルディアを包囲したアルメキア軍のときの声であった。



 アルメキア軍が、ヴァルディアを包囲して一週間が経った。
 血のように赤い夕陽が、今日も、ネルドールの山の中に沈む。
 ダニルは、ヴァルディア包囲陣の中で、密かに焦燥していた。
 糧食が、足りなかった。もともと不足気味だった食料はすでに底を尽きかけ、しかも補給の目処は立っていない。
 ネルドール軍の目的は、アルメキア軍の兵站の徹底的な破壊にあったのだ。
 素早すぎる進軍によって伸びきっていたアルメキアの補給線は極端に脆くなっており、各所でネルドールの遊撃隊に寸断された。
 そもそもが、ネルドール側からの最初の襲撃からして、そうだった。異形の怪物達からなるネルドールの奇襲部隊は、アルメキア兵達に目もくれず、徹頭徹尾、アルメキア軍の糧食を奪い、焼き、そして谷底に投げ捨てたのである。
 驚くべきごとに、オークやオーガー、トロール鬼などは、戦場にありながら、アルメキアの糧食を貪り食った。また、ハルピュイア達は、その強酸性の排泄物を荷馬車に浴びせかけ、荷駄もろとも、食料を駄目にしてしまったのである。
「将軍……」
 副官のセプテムが、いらいらと天幕の中をうろつくダニルに、口を開いた。
「お気をお静め下さい。これからは持久戦です。幸い、本国にはまだ大量の備蓄がありますし、あと一ヶ月もすれば、我々の後から来る兵達も合流します」
「一ヶ月!」
 ダニルは、咆えるように叫び、セプテムに向き直った。
「お前には、その一ヶ月という時間が、どれだけ兵達の士気を損ねるのか分からんのか!」
「しかし……」
「未だ、我が軍の士気は高い。決戦のときは、今、そう、今しかないのだ!」
「ま、まさか?」
 目を見開くセプテムに、ダニルは、獣じみた強烈な笑みを浮かべる顔をぐいと寄せた。
「何がまさかだ?」
「そ、それは、冒険が過ぎます。これだけの兵で敵の王都を落とそうなど……せめて、ファーレン将軍の第二軍の合流を待って……」
「馬鹿がッ!」
 ダニルは、一声咆哮し、抜き打ちに腰の大剣を払った。
「!」
 声をあげかけた表情のまま、切断されたセプテムの頭が宙を飛ぶ。
「しょ、将軍、いかがなさいましたッ!」
 外で見張りをしていた騎士が、慌てて天幕に入ってきた。
「こ、これは……」
 そして、足元に転がるセプテムの首を見て、絶句する。
「セプテムは、我が軍の糧食を不当に横領していた」
 セプテムのマントで剣に付いた血をぬぐいながら、ぞっとするほど冷静な声で、ダニルは言った。
「よって、私が処刑した」
「……」
「それよりも、伝令だ。我が軍は明朝、ヴァルディアの城門を破り、全軍市内に突撃する!」

 そして、翌朝早く、ヴァルディアの攻防戦が始まった。
 確かにアルメキアの兵達の士気は未だ高く、訓練は行き届いていた。しかし、王都ヴァルディアに温存されていたネルドール軍主力を相手にするには、その兵力はけして充分過ぎるとは言えなかったであろう。
 また、昨日になって突然副官のセプテムが処刑されたことも、アルメキア軍に微妙な動揺をもたらしていた。
「それにしては、いい覚悟だ……」
 ネロは、王城の一番高いバルコニーに立ち、あちこちで火を上げている市中を見ながら、呟いた。
 その頭上で、空はどんよりと曇り、生温かい風が、かすかに煙の匂いを運んでいる。
「巧遅よりも拙速……ダニルめ、自軍の兵の効率のいい殺し方を心得ているな」
 そのネロの声は、どこか楽しげだ。
「我が望み通りの消耗戦だ。これで、奴がきちんとここまでたどり着いてくれれば……」
 ネロの赤い目から放たれる視線の先で、アルメキアの騎士達とネルドールの怪物達が、もみ合うようにして血闘を演じ続けている。
 ネロは、さも可笑しそうにくつくつと笑い、そして城の中へと姿を消した。

 ダニルは、溝の中にいた。
 冷たい汚水と、流れ続けている血が、着実にダニルの体力を奪っていく。
 こんなはずではなかった。
 つい先ほどまで、ダニルは全軍の先頭で馬を駆り、勇敢に突撃を繰り返していたのだ。
 それが、市中の地理に精通したネルドール兵の横撃を受け、態勢を立て直す間もなく、乱戦になったのである。
 鉄と鉄がぶつかり合う鋭い音と、断末魔の絶叫が渦巻く中、血煙で半ば視界を塞がれながらも、ダニルは狂ったように剣を振るい続けた。
 しかし、まず最初に乗馬が槍の一撃によって倒され、地面に転がったダニルの脇腹を、誰とは知らぬ者の曲刀が深くえぐったのである。
 ダニルは、大量の出血に朦朧としながら必死で身をかわすうちに、街路脇の溝に落ちこんでいた。ダニルの逞しい体が辛うじて入るような、それだけの幅の側溝である。
 そして、主戦場は別の場所に移り、ダニルはそこに取り残されたのだ。
(こんな、馬鹿な……)
 たとえ、もし仮に死ぬとしても、自分にはもっと英雄的な死に場所が用意されているのではなかったか。
 涙は、出ない。瀕死の獣のような呼吸が、細く口から漏れ出るだけだ。
「……失望したぞ、ダニル」
 と、その時、聞き覚えのある声が、ダニルの耳に届いた。
 ダニルは、大声を上げ、身を起こそうとした。しかし、消耗しきった体ではそれは果たせず、ただ空しく体をよじったに過ぎなかったのだが。
「ハリウス……」
 その声も、かすかなうめき声にしかならない。
「殺しちゃえ、こんなヤツ」
「そうもいかないさ、アリエル」
「だって、コイツがご主人様の腕を……!」
 ハリウスの声に、興奮したような少女の声が重なっている。
「この男には、まだ演じてもらわなくてはならない役割があるのだ」
 ダニルの視界の端に、ハリウスの痩せた体が現れた。
 そして、右腕一本で複雑な印を組み、何か呪文を唱える。
「ぬッ!」
 ダニルは、驚愕していた。
 体の奥底から、強烈な活力が涌き出てくるのが自覚できたのだ。
 これまでに感じたことのないような高揚感が、体を熱くたぎらせる。
 ダニルは、凄まじい勢いで立ち上がった。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
 ダニルは、まるで魔獣の如き咆哮をあげていた。

 戦場は、バルディアの王城の前の広場に移っていた。
 すでに、そこには累々と死者が横たわっている。両軍とも、疲弊しきっていた。
 それでも、アルメキアの兵も、ネルドールの兵も、何かに魅入られたかのように、互いに向かって血と脂に汚れた武器を振るいあっている。
 だが、乱闘の中で指導者を見失いながらも士気に勝るアルメキアは、ごくわずかにネルドールを押しているかに見えた。
 と、その時であった。
「うわああああああああああああああああああーッ!」
 アルメキア軍の中央で、大音声とともに、炎が炸裂した。何人もの兵士が、炎に包まれながら、一度に宙に舞い上げられる。
「ネロ様!」
「ネロ様だ! ヴァルド・ネロ陛下だ!」
 ネロの出現に、ネルドールの兵達は大きく気勢を上げた。
「あ、あれが……魔王?」
「ひるむな! 奴とて、本物の魔神などではない。魔道に長けただけの、ただの人間のはずだ!」
 アルメキアの騎士の一人が、声を励まして叫ぶ。しかし、それも、自分自身で、どこまで信じていることなのか。
 ネロの赤い目が、強く光を放つ。
 すると、無数の炎の矢が空中に出現し、次々とアルメキア軍に殺到した。
「ぐわーッ!」
「だ、誰か、誰か火を消してくれっ!」
「く、くそっ、これまでか……ッ!」
 ネロの圧倒的な魔力の前に、アルメキアの兵達が火に包まれて、次々と倒れていく。
 ただ、ネルドールの兵達も、崩壊しつつあるアルメキア軍に突撃するどころか、ネロの魔道に巻き込まれないようにするので精一杯だ。
 それでも、アルメキアの敗北は時間の問題であるかに見えた。
 その時――
「ぬあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
 鬼神の如き絶叫を上げながら、戦場を突っ切る姿があった。
「あ、あれは……!」
「将軍!」
「ダニルさまだあっ!」
 確かに、それはダニルだった。ダニルが、血と埃で汚れた姿で、凄まじい咆哮をあげながら、剣を振りかざして駆けているのである。
 数本の炎の矢が、ネロに一直線に迫るダニルの体を貫く。
 アルメキア兵達は、みな一様に悲鳴をあげた。その悲鳴が、大きなどよめきに変わる。
 魔道の炎が髪やマントに引火し、激しい火焔に包まれながらも、ダニルは突進を止めなかったのである。
「だあッ!」
「ぬおっ?」
 ネロと、ダニルの体が、ぶつかった。
 ネロの背中から、その巨体を貫いた大剣の先が現れる。
 そして、ダニルの体を包む炎が、ネロのマントにも燃え移った。
 二人は、立ったまま、ぴくりとも動かない。その二人の体を包む炎が、ますます激しくなっていく。
「お、おおお……」
「何ということだ……」
 両軍の兵士とも、目の前に展開されたことに、ただ声をあげるのみだ。
 皆、あまりに壮絶で伝説的な光景を目の当たりにし、等しく戦意を失っている。血に濡れたその手から、がらン、ごろンと、次々と武器が滑り落ちた。
 ヴァルディアの王城の前で、つい先ほどまで死闘を演じていた両軍の兵達が、燃え盛る炎を囲むようにして、茫然と立ち尽くしている。

 そんな様子を、アリエルとともに空中に浮かぶハリウスは、どこか悲しげな目で見下ろしていた



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