第五章



 アリエルは、その小さな体にきつく縄がけされた姿で、天井から吊るされていた。
 その爪先が、辛うじて石組みの床に届くかどうかという格好である。細めの麻縄が、薄い胸の上下に無残に食い込んでいる。
 アリエルは、全身に細かく汗の玉を浮かせ、はぁはぁと辛そうに喘いでいた。
 その目の前に、最近、ますます顔の鋭さを増したハリウスが佇んでいる。
 ネルドール魔王国の王都ヴァルディアの中央部、ヴァルド・ネロの居城の中にある、魔道士の塔の地下室である。
 レオンとノエルを拉致し、ネルドールに転向して以来、ハリウスはネルドールの宮廷魔道士の長として、この魔道士の塔の支配者となっていた。かつて、厳しく自らに課していた禁忌を捨て去った今、ハリウスの魔力に比肩する魔道士は、ここネルドールにすら存在しなかったのである。無論、ネロを除いてではあるが。
 この地下室は、今、ハリウスの完全に私的な実験室として使われている。壁際の棚には様々な魔道の法具が置かれ、部屋の空気は妖しげな魔薬の刺激臭に満ちている。
「ごしゅじんさま……おねがい、許してェ……」
 アリエルの哀れな声が、その部屋の中にか細げに響く。
 しかし、ハリウスはそれに答えず、どこか陶器じみた無表情な顔のまま、ぶつぶつと何か呪文のようなものを呟いた。
 その呼びかけに応じ、部屋の片隅に置かれた木製の桶の中から、ずるりと何かが這い出てくる。
「ひやッ……!」
 アリエルが、幼い少女そのままの悲鳴をあげる。
 それは、汚らしい緑色の、半透明の粘液の塊だった。それが、ハリウスの言葉に導かれるまま、その体をゼリーのように震わせ、ずりずりと床を這い進む。
「ヤ、ヤダよう……そんな……ス、スライムなんかけしかけちゃイヤあッ!」
 アリエルが、空しく身をよじりながら、声をあげる。しかし、ハリウスの魔力が込められた縄で戒められたアリエルは、変身することも、魔法を使うこともできない。
 今やアリエルは、見かけ通りの、年端もいかない哀れな少女でしかなかった。
 そのアリエルの足元に、小さな桶を一杯にするほどの粘液状の下等生物――スライムが、ぶるぶると震えながらうずくまる。その原形質の体の中には、細かな水泡や、未だ消化しきれていない様々な断片があるだけで、生物としての最低限の知性すらうかがえない。
 スライムは、のろのろとその体から何本もの偽足を伸ばし、アリエルの華奢な両足にまとわりついた。
「ヤダあーっ!」
 生きた粘液の、意外と温かなおぞましい感触に、アリエルが悲鳴をあげる。
「イ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤあ! ご主人様、やめてよう……アリエル、いいコになるからあッ!」
 まるで童女そのままのアリエルの台詞に、ハリウスはわずかに苦笑に似た表情を浮かべた。
「悪魔のくせに、いい子になるもないもんだ」
 そんな呟きも、アリエルの耳には届かない。
「あ、ヤダっ! ヤダヤダヤダあ! あああーッ!」
 スライムは、次々と細長い偽足を伸ばしては、その吸盤上の先端をアリエルの白い肌に吸い付かせ、自らの体を上へ上へと運んでいく。
 そして、おぞましい粘液の怪物は、とうとう目的の場所にまで達した。
「キャアアアアアアアアアー!」
 ぬるり、とスライムの一部がアヌスに触れたその感触に、アリエルは絶叫した。
 しかし、スライムには、そんな悲鳴に反応するだけの知性などない。ただ、ハリウスの簡単な命令と、そして盲目的な本能にしたがって、その体を、柔らかく温かい肉の穴の中に入り込ませるだけだ。
「あ、あああ、あ、ンアアあああ……ッ!」
 アリエルが、目を見開き、口をあけながら、がくがくと体を震わせる。
 その本性が堕天使であるとはいえ、今のアリエルの肉体を構成しているものは、人間の少女と何ら変わりはない。そんなアリエルの腸内に、信じられないほど大量の蠢く粘液が、ずるずるとその体を侵入させていく。
「く、くるし……しん、じゃう、よう……」
 涙と涎で幼い顔をべとべとに汚しながら、アリエルがようやくそれだけ言う。
 だがスライムは、まだその体の半分をアリエルの体内に収めたのみである。
「せっかくだから、その腹の中をすっかり綺麗にしてもらえ」
「ア……やァ……ゆ、る、し、てぇ……」
 ハリウスの冷たい言葉に、アリエルは弱々しくかぶりを振る。
 しかし、スライムは容赦なく、アリエルの腸内への侵入を続けた。
 その白いすべすべのお腹はぷっくりとふくれだし、どこか蛙を連想させる。
「ひ、ああ……あ……あああー……」
 スライムが、自らの体内に浸透し、腸内の内容物をこそげとるようにして取り込んでいく重苦しい苦痛に、アリエルは痴呆じみた声をあげる。
 幼くして死んだ、肉親の情以上の想いを以って愛した妹と同じ顔が、のけぞるようにして天を仰ぎながら、かすかな悲鳴と大量の涎を噴きこぼす。そんな様子を、ハリウスは相変わらずの無表情で見つめていた。
 が、その暗い双眸の奥には、どす黒い愉悦の色が、かすかにうかがえる。それは、魔と闇に魂を売り渡した者特有の顔だった。
 今や、アリエルの腹部はまるで妊婦のように膨れあがり、はちきれんばかりになっている。もし針の先でつついたら、それだけで破裂してしまいそうな様子である。
「ァ……ァ……ァ……」
 ごぼっ!
 一杯に開かれた小さな口から、胃液が逆流する。
 もはや限界と見て、ハリウスは小さく印を切った。
「あ、あああああああッ! あ、あ、あ、あアアアーッ!」
 アリエルが、どこにそんな力が残っていたのかと思われるような、凄まじい絶叫をあげる。
 アリエルの腸の中を思う様に蹂躙していたスライムが、一気に全身を弛緩させたのだ。
 異様な破裂音をあげて、アリエルは、凄まじい量の緑色の粘液を排泄した。
 その細い両足の間を、汚穢な粘液を飛び散らせながら、スライムがぼとぼとと流れ落ちる。が、その体は途中で千切れることが無いため、アリエルは排泄を休むことができない。
「ひあああー! ああ! あ! わあああああッ! あ、いあ、あッ、アアアあああー!」
 強制的にその可憐な菊門を開きっぱなしにさせられながら、敏感になった直腸粘膜を連続してずるずるとこすられるおぞましい感触。
 アリエルは、その緊縛された幼い体で、陸に上げられた魚のようにのたうった。
 括約筋を弛緩させ、だらしなく失禁しながら、アリエルは、かつてないほどの肛虐に、涙を溢れさせている。
 そして……十数分にも及ぼうかという長い長い拷問そのままの排泄が、ようやく終わった。
 まるで肉でできた人形のように、ぐったりと吊るされたアリエルの足元で、飽食しきった様子のスライムが、満足げにぶるぶると震えている。が、ハリウスがそちらに目をやると、スライムは、まるでその視線に触れるのを恐れるかのように、驚くほどに素早く動き、再び部屋の隅の桶の中に身を隠した。
 ハリウスは再びアリエルに視線を戻し、その黒髪をつかんで、ぐい、と顔を起こした。
「……」
 アリエルは、悲鳴をあげるどころか、声を出すこともできない様子である。そのあどけない顔は、汗と涙と涎、さらには鼻水や吐瀉物でどろどろに汚れ、無残と言うのも愚かしい状態だ。
 しかし、その顔には、かすかにではあるが、どこか恍惚とした表情が見て取れる。
 ハリウスは、懐から柔らかな布を取りだし、アリエルの顔を乱暴にごしごしとぬぐった。
「ン……んぷ……んぐぅ……」
 息が苦しいのか、アリエルがかすかな呻き声を上げる。
 ハリウスがふくのを止めると、アリエルは、あれほどの苦痛を自らに与えたその男に、とろけそうなほどの隷従の視線を向けていた。
「思い知ったか? アリエル」
 髪をつかんで、その頭をぐらぐらとゆすりながら、ハリウスが訊いた。
「ふぁい……ごひゅじん、さまぁ……」
 アリエルは、聞き取れないほどの細い声で、答える。
 ハリウスは、ゆったりとした布のズボンを下ろし、固く反り返った剛直をあらわにすると、アリエルの両足首をつかんで、高く持ち上げた。アリエルの薄い胸の上下にかけられた縄が、きりきりとその体に食い込む。
「あ、ああッ、あ〜ン……」
 だが、アリエルは、明らかに欲情に濡れた声をあげていた。
 もはや、苦痛がそのまま快感に変わってしまっているらしい。
 その無毛の秘所は、失禁の名残やスライムの粘液とは異なる、透明な愛液にねっとりと潤んでいた。
 ハリウスは、アリエルの両足をVの字に開いた状態で、めくれあがった鮮紅色の柔らかな靡肉の感触を楽しむかのように、自らの男根の裏側をそこに意地悪くこすりつける。
「ひあン……ご、ごしゅじんさま……じらさ、ない、でェ……」
 アリエルが、弱々しく訴える。
 ハリウスは、その赤黒い亀頭を、アリエルの柔らかな肉襞の合間に潜り込ませた。
 そのまま、ゆっくりと腰を進める。
「は……ぁぁぁ……ンぁあァァァ……」
 アリエルは、どこか壊れたような恍惚の表情で、自らの器官にハリウスの剛直が侵入していくのを見つめていた。
「ンくッ……」
 先端が、アリエルの未成熟な子宮口に届いた。ずん、と響くような強い快感に、アリエルは力の抜けた体をがくンと揺らす。
 ハリウスは、膣内の粘膜の感触をペニス全体で味わうように、しばらく動きを止めた後、ゆっくりと抽送をはじめた。
「ひは……ンわァ……ア……アアァ……」
 アリエルは、だらしなく開いた口から涎をこぼし、ハリウスに体をゆすられるまま、空ろな視線を宙にさ迷わせた。
 が、その靡肉は、まるでハリウスを離すまいとするかのように、その竿の部分にしっかりと絡みつき、きゅんきゅんとペニス全体をけなげに締め上げている。
「いい具合だ、アリエル……」
 アリエルの、やや尖った耳に口を寄せ、ハリウスが言う。
「う、うれしいよう……ごしゅじん、さまァ……」
 そう言うアリエルの顔を、ハリウスの、どこか怪物じみた異様に長い舌が、ぞろりと舐め上げた。
 アリエルが、震える舌を精一杯伸ばして、そんなハリウスの舌を捕らえようとする。
 尖った犬歯をわずかにのぞかせたハリウスの口と、ピンク色の小さなアリエルの唇が、ぴったりと重なった。
 二人は、二つの接合部から体液を滴らせ、粘膜同士がこすれる淫猥な音を地下室に響かせる。
 ハリウスが、唾液の糸を引きながら、顔を離した。
「どうだ? コレなしで生きていけるか?」
 ハリウスが、そんなことを言いながら、ますます深くアリエルの秘部をえぐる。
「ダメぇ……ア、アリエル、ごしゅじんさまなしじゃ……いきてけないよう……」
 ふるふるとかぶりを振りながら、アリエルが情けない声をあげた。
「ならば、もう浮気はするなよ」
 苦笑いに似た表情をその鋭い顔に浮かべながら、ハリウスが言う。
「し、しない、しないよう……っ……ひあ……アリエル、ご、ごしゅじんさまのが……いちばん、すきィ……」
「ご褒美だ」
 ハリウスは、ますますその腰の動きを速めた。
「ひあ! はああああ! ンあ! あっ! あっ! あっ!」
 じゅぶじゅぶという音とともに愛液がしぶき、アリエルの粘膜が痛々しいほどにめくれあがる。 
「あ! あはァ! ンわああああああああああああああああああああああああああッ!」
 アリエルは、最後の力を振り絞るようにして高い声をあげ、ぴん、と体を硬直させた。
「……ッ!」
 ハリウスが、声にならないうめきを上げながら、一際強く腰を突き上げる。
「はぁッ!」
 体の一番深いところで、熱い精気に満ちたスペルマが弾ける感覚に、アリエルは肺に残っていた最後の空気を吐き出した。
 どくっ、どくっ、どくっ……! と力強く脈打ちながら、ハリウスのペニスがアリエルの体内に、大量の白濁液を注ぎ込む。
 そして、アリエルの膣壁は、その生命のエキスを一滴もこぼすまいとするかのように、貪欲に蠕動するのだった。
「あ……あああ……はぁアー……っ……」
 熱くたぎるような精気が全身に行き渡る感じに、アリエルが安堵したような歓喜の声をあげる。
 そして、アリエルはうっとりとした表情のまま、失神してしまった。

 しばらくして、ハリウスは、アリエルを戒める縄を解き、その柔らかな頬をぴたぴたと叩いた。
「ふえ……?」
「起きろ、アリエル」
 呆けたようなアリエルの顔を覗きこみながら、ハリウスが言う。
「アルメキアで、もうひと働きだ。出兵をしぶるナンテスI世の頭をいじくる……。あの方のために、な」
 そう言いながら立つハリウスの傍らに、アリエルもよろよろと並んで立ちあがった。



「レオン……」
 地下牢の寝台の上で、ノエルはレオンに話しかけていた。
 レオンの理性が戻る様子は一向にない。しかし、ノエルは、答えを返すでもないレオンに向かって、様々なことを話しかけていた。
 若くして死んだ美しい母親のこと。強く、厳しく、聡明な父王のこと。忠実な家臣たち一人一人に関する挿話。そして、宮廷での典雅な生活の想い出など……。
 自分が、いかに恵まれた生活をしていたのか。憎むべき仇敵に拉致され、悪夢のような辱めにさらされた今、それが痛いほどに感じられる。
 レオンは、鎖でつながれた姉の話の内容を理解できない顔のまま、それでも耳を傾けている様子だった。
「憶えてる? レオン……あの、狩りの日のこと」
「……」
 レオンが、少女じみた顔を小さくかしげる。
「十二歳になる前の秋、だったよね……」
 ノエルは、その美しい緑色の瞳に、懐かしげな光を浮かべた。
「レオンは、生き物を殺すなんてイヤだって、弓も矢も持たずに、狩場に出て……。一方あたしは、天幕を抜け出しちゃって……」
「……」
「森の中でお花畑を見つけて、はしゃぎまわってたあたしの前に、おっきなイノシシが現れて……」
「……」
「あのとき、すごく怖かった。それを、レオン、あなたが助けてくれたのよね……」
 その時レオンは、ほとんど丸腰のまま、姉に突進するイノシシの前に踊り出たのだ。
 そして、イノシシの牙の一撃を受けながら、覚えたての目くらましの呪文を使い、イノシシを退散させたのである。
 が、その時の傷が原因で、レオンは高熱を発し、その後も病気がちになってしまった。
「あたし、あなたにきちんと謝って……それから、お礼、言わなきゃって……」
 その後は、言葉にならなかった。
 ノエルの大きな目から、ぽたぽたと熱い涙が零れ落ちる。
 レオンは、そんな姉の様子を、不思議そうな顔で覗きこんだ。
 ノエルが、そんなレオンに、無理に微笑んで見せる。
 と、その時……地下牢の重い扉が、錆びついた音をたてながら開いた。
「!」
 はっ、とノエルが顔を上げた。
 扉の前に、魔王ヴァルド・ネロが佇んでいる。
 ノエルは、体が細かく震えるのを抑えることができないまま、その両手で剥き出しの乳房を隠した。
 ネロが、瞳を赤く光らせながら、捕われの双子に近付いてくる。
「よ、寄らないで……ッ!」
 ノエルは、悲鳴のような高い声で叫んだ。
「やめて……もう、やめて! もう、充分辱めたでしょ! あたしたちを、あたしたちを帰して! 帰してよお……っ!」
 聖王女としての誇りをかなぐり捨てたような泣き声混じりのその声に、いささかも心を動かされた様子もなく、ネロは、ノエルとレオンをつなぐ鎖に左腕を伸ばした。
 そう、それは、人間の腕だった。あの、マントの中にあった触手の集積とは違う。が、その表面はどことなくぬめぬめとした光沢をはなっており、今にもおぞましい触手に変わってしまいそうだ。
 その腕が、鎖を握り、ぐい、と引き寄せた。鎖につながった、鋲を打たれた革の首輪が、ノエルの細い首に無残に食い込む。
 たまらず、ノエルは寝台から立ち上がった。レオンも同様である。
「うぅ……」
 ノエルが、悔しげな呻き声を弱々しく上げる。
「たまには、外を散歩をさせてやるぞ」
「イ、イヤ……イヤよ……」
 ノエルが、ふるふるとかぶりを振る。
「お前が選択すべきときはとうに過ぎたのだ、王女よ」
 ネロは、どこか面白がっているような口調で言った。
「お前は我が奴隷になることを選んだ。奴隷が主人に逆らうことは許されまい?」
 そう言いながら、左手で鎖を握ったまま、右腕をノエルの股間に伸ばす。
「ああッ?」
 得体の知れない粘液に濡れたネロの右手の指が、ノエルのクレヴァスに食い込んだ。
「や、ヤああ……あああッ!」
 ノエルは、その細い腕で、必死にネロの体を押しのけようとする。しかし、ネロの巨体はびくともしない。
「ふあっ!」
 ノエルの体から、いっぺんに力が抜けた。
 ネロの右手の指が、深々とノエルの秘部をえぐったのだ。
 いや、それはもはや指ではなかった。うねうねとうごめく触手と化したネロの一部が、ノエルの体内に、あのおぞましい媚薬効果をもつ粘液を分泌しながら、侵入しつつあるのである。
「あ、あああ……い、やあァ……ア……ンううううっ……」
 ノエルが、はっきりとした快感に長い脚を震わせながら、切ない喘ぎ声を上げる。
 ネロが、右腕を引いた。
 しかし、触手はノエルの体内に残ったままだ。触手は、ネロの体から分離し、ノエルのまだ経験の浅い膣内で、蛇のようなその体を蠢かせている。
「あぁあ……はあぅ……ン」
 ノエルは、蜜壷から湧き起こる感覚にその体を支えきれず、四つん這いになってしまった。
 無意識に、その白く丸いヒップが、ゆらゆらと動いてしまう。
 まだ幼さを残しながらも、淫猥にめくれあがり、とろとろと透明な愛液をあふれさせているその膣口からは、ピンク色の触手が、尻尾をわずかにのぞかせ、くねくねといやらしく動かしていた。
 ノエルの横で、レオンも、首輪につながった鎖に引かれ、両手と両膝を床についている。
 しかし、おぞましい快美感に、半ば虜となったノエルは、そのことにすら気付いていない様子だ。
「行くぞ」
 ノエルとレオンの首輪をつなぐ鎖のほぼ中央に、別の鎖を金具でつなぎ、Yの字の形にした後、ネロは歩き出した。
「あああッ……」
 絶望的な悲鳴をあげながらも、ノエルは、それについていく。
 アルメキア聖王国の王女と王子は、犬のように、四つん這いで鎖に引かれ、地下牢の扉をくぐるのだった。

 外の空気は、生暖かかった。
 まるでねっとりとからみつくような風が、ノエルの美しい裸体をなぶる。
 しかし、それ以上に忌まわしいものが、ノエルの白く美しい肌を犯し、汚していた。
 それは、群集のざわめきと視線だった。
 城門から出たネロと、そのネロに鎖をつながれて引かれる美しい王女と王子を、表通りの脇に集まったヴァルディアの街の民衆たちが見つめているのだ。
「ぁぁぁ……」
 これまで考えたこともなかったような屈辱と羞恥に、ノエルが細い声をあげる。
 ヴァルディア市民達は、一様に汚らしい服をまとい、下卑た表情を浮かべながら、全裸のノエルとレオンに粘つくような視線を送っていた。
 そして、ネロと、その周囲を固める無表情な衛士を恐れながらも、家畜のように這いつくばる美しい双子に、そろそろと近付いていく。
 ヴァルディアの大通りは舗装されておらず、ひどく埃っぽかった。乾いた土に四肢を汚しながら、ノエルとレオンは、その惨めな姿を人々にさらしていく。
「ぅ……ンぅぅッ……くぅっ……」
 まるで全身の血が逆流するような汚辱に、ノエルはたまらず嗚咽を漏らしていた。しかし、その泣き声は、どこか媚を含んだように、淫らに濡れている。
「見ろよ、あの顔をよ……」
「ああ。ネロ陛下のを咥えこんで、ヨガってやがる」
「へへえ、聖王女サマったって、きちんと濡れンだなあ。大洪水だぜ」
 以前の彼女であれば、下賎の者として目にするのも汚らわしいと感じたであろう無法者たちのささやきが、ノエルの肺腑をえぐる。
 淫猥な責めによって敏感になったノエルの靡粘膜は、男たちの視線を感じ、ちりちりと火であぶられるような感覚を覚えていた。そして、ネロの触手が分泌する体液は、そんな刺激さえも快楽に変え、ますますノエルの肌を上気させるのである。
 二人を視姦しているのは、人間だけではなかった。
 ずんぐりとした体躯と豚そっくりの顔をしたオーク鬼や、どす黒い体全体にカビを生やした犬面のグール族、女の顔と乳房を備えた人面鳥ハルピュイアたち……。
 それら異形の種族たちまでが、おぞましい欲情に濡れた目を、自分達に向けている。
 ノエルは、屈辱と羞恥と恐怖、そして体の奥からこみあげてくる快感に、頭の中が真っ白になった。
 男たちのすえたような体臭や、荒い息遣いまでもが、ノエルの細い体を責めさいなむ。
「ぶごおおおおおおっ」
 突然、何事かわめきながら、オークの一人が、醜悪な牡器官を取り出した。
「ひイッ……!」
 犯される、と思い、ノエルは悲鳴をあげた。
 が、オークはそこまで命知らずではなかった。ネロの所有物に手を出そうものなら、その魔力によって、骨も残さず蒸発させられてしまう。
 そのオークは、ノエルのその部分をにらみつけながら、猛烈な勢いで手淫を始めた。
「イ、イヤっ!」
 目の前で展開される忌まわしい行為に、かすかに残っていたノエルの理性が嫌悪の声をあげる。
 が、まるでその言葉をきっかけにしたかのように、何人もの男たちが、ノエルに群がってきた。そして、競うようにズボンを下ろし、すでに反り返ったペニスを激しく自ら慰める。
 ネロは、その様子をまるで面白がっているかのように、赤い瞳を光らせながら、足を止めていた。
「イヤ、イヤああああ! やめてえッ!」
 ノエルは怯える小動物のように、道の上で体を丸める。
「あああアアアーっ!」
 が、次の瞬間、ノエルはひときわ高い声をあげて、上半身を起こしてしまった。
 膣内に埋め込まれたネロの触手が、何倍もの大きさに膨れ上がり、狂ったように暴れだしたのである。
「ダ、ダメ! ダメえ! ンああ! ひああああああああああああああああッ!」
 衆人環視の中、強制的に絶頂へと押し上げられ、ノエルは背中を反らして激しく痙攣した。
 獣じみたわめき声とともに放たれた不潔な白濁液が、そのおののく体に浴びせられる。
「ンわああああッ!」
 その美しい顔に付着した粘つく体液の意外なほどの熱さに、ノエルが悲鳴をあげる。
 そんなノエルの体に、次々と淫臭を放つ精液が発射される。
 たちまち、ノエルの体は、牡臭い粘液にまみれ、どろどろになってしまう。
「アッ! アッ! アッ! アッ! キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!」
 熱気と、熱い視線と、熱い体液とに包まれ、立て続けに絶頂を迎えるノエルの悲痛な叫びが、ヴァルディアの空高くまで響いた。



「ダニルよ……」
 病床の中、アルメキア聖王ナンテスI世は、苦渋に満ちた声で言った。
「お前の気持は、一人の父親として、有り難く思う。しかし……」
「陛下!」
「しかし、出兵を許可することはできん」
 その言葉に、寝台の傍らに立つダニルの顔が、大きく歪む。
 ナンテスI世の療養のための離宮の、一番奥の 一室である。天井の高いその部屋には、ダニルとナンテスI世以外、人払いされている。
 寝台に力なく横たわり、大量のクッションで辛うじて上体を支えているナンテスI世は、痩せ衰え、無残なほどに憔悴していた。
 ただ、その目に宿る光だけが、かつての英雄王の威厳をわずかにうかがわせる。
「冒険的な出征のために、民草を無駄に死なせるわけにはいかん。……お前の、ノエルを案じる気持は嬉しい。しかし、情に溺れて大局を見失うわけにはいかんのだ」
「私が、情に溺れているとおっしゃるか?」
「……」
 沈黙が、ダニルの問いに答える。
 ダニルの褐色の双眸に、危険な色が浮かんだ。
「陛下……」
 ダニルが、歯を強く食いしばりながら、寝台に近付いていく。
「あなたは、この国にはもう用済みのお方だ」
「ダニルっ……!」
 ダニルの言葉よりその表情に危険を感じ、ナンテスI世は呼び鈴に手を伸ばした。
 が、衰えた王の手よりも数段早く、ダニルの逞しい両腕が走る。
 ダニルの両手が、ナンテスI世の頭の両脇のクッションをつかみ、強く王の顔に押しつけた。
「……ッ!」
 王の、枯れ枝のような両腕が、空しくダニルの体を押しのけようともがく。
 が、次第にその力は弱まっていった。
 ナンテスI世の腕の動きが、止まった。
 二人は、まるで石と化してしまったかのように、ぴくりとも動かない。
 そして……かつて英雄王とまで称えられたナンテスI世の両腕が、がっくりと毛布の上に落ちた。
 それでもダニルはしばらくの間、アルメキアの聖王を黄泉路に送ったその手を、緩めようとはしなかった。
 その精悍な顔に、ノエルが見たら思わず顔を背けそうな、悪鬼のような笑みが浮かんでいる。
「……順番が、狂っただけのことだ……」
 ダニルは、その顔のまま、低く呟いた。
「アルメキアは、私がいただく……」
「ダニル!」
 と、その背後から、聞き覚えのある声が響いた。
「ダニル、お前は……!」
 ダニルが振り返ると、そこに、青いローブ姿の魔道士ハリウスと、そしてアリエルがいた。
 ハリウスの、東方系の顔が、複雑な表情を浮かべている。
「ハリウスっ!」
 ダニルが、腰の大剣を鞘走らせながら、大理石の床を蹴る。
 裂帛の気合を込めて、ダニルがハリウスの頭部めがけて大剣を薙いだ。
「ご主人様ッ!」
 アリエルが、高い声で悲鳴をあげる。避けることも、呪文を唱えることも間に合わない。
 鋼が肉と骨を断つ鈍い音が、響いた。
 どっ、と音をたてて、かつてハリウスの一部であったものが、床に落ちる。
 それは、ハリウスの左腕だった。
 ハリウスは、致命的な一撃を、左手を犠牲にすることによって受け流したのだ。
「ダニル……やはり、あの方のおっしゃった通りか……」
 傷口から鮮血をしぶかせながら、しかしハリウスは憐れむような視線を、ダニルに投げかけていた。
 そして、呪文を完成させ、部屋の空気に溶けこむように、すうっと姿を消す。
「待てッ!」
 ダニルが、狂乱したような声で、喚いた。
 しかし、すでに部屋からは、ハリウスも、そしてアリエルの姿も消えてしまっている。
「……侵入者だ!」
 しばしの逡巡の後、ダニルは大声で叫んでいた。
「ネルドールの間者に、聖王陛下が害されたぞ!」
 冷たい石でできた離宮の中、弑逆者の太い声が、どこか虚ろに響いた。



 翌日、ダニルは配下の騎士団や義勇兵を率い、ネルドール魔王国への出兵を開始した。
 世に言う、第四次聖魔戦役の勃発である。



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