第四章



 ノエルは、乾いた粘液にまみれた惨めな姿で、目を覚ました。
 形ばかりは豪奢な寝台にいつのまにか横たえられていた体を、そっと起こす。
「う……」
 そして、股間の、まるでまだ何かが挟まっているような異物感に、思わず呻き声をあげた。
 その感覚をきっかけに、寸断された記憶が、次第によみがえってくる。
 これまでに見た最悪の悪夢でさえ遠く及ばないような、忌まわしい体験だ。
「う……ぅくっ……んんっ……」
 ノエルは、小さく嗚咽を漏らしていた。聖王家の王女としての誇りも、その哀れな泣き声をおし止めることはできない。
 不気味な触手の怪物に汚され、思うさま嬲られ、愛する人に捧げるはずだった純潔を散らされてしまった。
 ノエルにできるのは、どうしようもなく溢れる泣き声を、細く抑えることだけだった。
 と、そのとき、こんこん、という場違いなノックの音が響いた。
「入りますよー」
 そして、妙に明るい少女の声が、思い金属のドアの向こうから響く。
 ノエルの返事を待たずに、ドアが開いた。
「え……?」
 ノエルは、涙に濡れた緑色の目を見開いた。
 入口から入ってきたのは、魔王の城の住民とはとても思えないような、メイド服をまとった黒髪のあどけない少女だったのである。
「あ、あなたは……?」
 ようやく、ノエルは、彼女がハリウスの横に寄り添っていた少女であることを思い出していた。
「あたし、アリエルです。王女サマ♪」
 ニコっ、と無邪気に笑いながら、メイド姿の少女は言った。その笑顔は、この不気味な地下牢の中で、ひどく場違いである。
 そんな表情のままで、アリエルは、まだ開いたままのドアの方に向き直って、ちょいちょいと指を動かした。
「……!」
 ノエルが、息を飲む。大きな入口にぎりぎりいっぱいくらいの、銅製のバスタブが、半ば空中に浮かんで、部屋の中に入ってきたのである。
「ゴメンなさいね。この部屋、急ごしらえなんで、おフロ、入れ忘れちゃってて」
 そう言うアリエルの前を横切って、バスタブは石組みの床の上に着地した。その中には、満々と湯が満たされている。香草の束がひたされているらしく、その熱い湯気は、どこか妖しい香りでノエルの鼻孔をくすぐった。
「さ、王女様、入ってください」
 どこから取り出したか、石鹸と柔らかそうなスポンジとを、それぞれ両手に持ったアリエルが、茫然としたままのノエルにそう言った。



 ちゃぷ、ちゃぷ……という、お湯が浴槽にふちに当たる音が、地下牢に響いている。
 ノエルは、たっぷりとした大きさのバスタブに膝立ちになっていた。その背中を、スカートを大きくめくりあげたアリエルが、スポンジで優しくこすっている。
 人に体を洗わせること自体には、王族であるノエルは何の抵抗も感じていない。ただ、それが裏切り者であるハリウスの手の者である上、少なくとも外見はあどけない少女である、ということが、いささか頭を混乱させていた。
 だが、ノエルは大人しく、されるがままになっている。何よりも、ヴァルド・ネロとのおぞましい行為の残滓を洗い清められることは、ありがたかった。
「まだ、ちょっと痕が残ってますね……」
 赤い傷跡を、きつくこすらないように気を付けながら、アリエルはつぶやいた。
 しかし、昨夜――なのかどうか、ノエルには時間の感覚が失われてしまっているのだが――の暴虐の激しさを考えると、その傷は意外なほど少なく、軽い。
 これも、全身に浴びせられたあの忌まわしい体液の効果なのだろうか、と考え、ノエルはぞっと体を震わせた。
 アリエルは、そんなノエルの裸身を包む泡を、お湯で洗い流した。
 ノエルの肌は、処女雪のような白さを保ちながらも、どこか以前とは違っているように見える。
 しっとりとした妖しいぬめりが、その肌に不思議な光沢を与えているのだ。
 無論、ノエル自身は、そんな自らの変化になど、気付いていない。
 が、アリエルは、ノエルの肌を見つめながら、やや吊り気味のその目を、いつしか、ひどく淫蕩に濡らしていた。
「王女サマ……」
 舌足らずな声でそうささやきながら、アリエルは、ノエルの背中の傷跡に、そっと唇を押しつけた。
「ひやっ!」
 幼い少女の予想外の行為に、ノエルが奇妙な悲鳴をあげる。
 構わず、アリエルは長い舌を伸ばし、ぞろりとその赤い筋を舐め上げた。
「あ……っ?」
 びくん、とノエルの体が小さく痙攣した。
 ネロの触手に鞭打たれ、その後にたっぷりと忌まわしい粘液を染み込まされたその傷跡が、熱く、そして甘く疼いたのである。
「えへ……感じてるんですか? はしたなァい♪」
 揶揄するように言いながら、アリエルはちろちろとノエルの傷跡を舐め続けた。その上、服が濡れるのも構わず、その小さな両手を前に回し、ノエルの形のいい乳房に重ねる。
「ダ、ダメ……そんな、イタズラしちゃ……!」
 ノエルが、うろたえたような声を出す。しかし、相手があどけない少女であることもあって、なかなか強い態度に出れない。
「ムリしなくてもイイんですよ。……ここでは、ネ」
 アリエルが、ノエルの胸をやわやわと優しく揉みながら、言う。
「あッ……! お、お止めなさい、そんな……っ!」
 ノエルがそう言っても、アリエルはくすくすと笑うばかりだ。
 そして、アリエルの手が、繊細な指使いでノエルの薄紅色の乳首をつまみ、くりくりと残酷にいじくる。
「あ……ンああ……ふあぁ……ン」
 ノエルは、屈辱に頬を染めながらも、媚びるような声をあげるのを止めることができなかった。
 すでに、甘い疼きは全身に広がり、アリエルにもてあそばれている乳首は、痛いほどに尖っている。しかも、純潔をうしなったばかりのノエルの秘部は、熱く充血し、とろとろと愛液を分泌し始めていた。
 快楽と切なさに胸がざわめき、体の奥深いところが妖しく脈打つ感覚に、ノエルはたまらず身をよじる。
 しかし、アリエルは意外と強い力で、ノエルの体を逃そうとせず、その背中や首筋にキスを繰り返した。
「ンはああアアぁッ!」
 同性の、年端もいかない子どもに愛撫され、股間をいやらしく濡らしてしまうという自らの反応に、ノエルは背徳の快楽をはっきりと感じていた。
(そんな……私のからだは……どうなってしまったの……?)
 たとえ、未だネロの体液の影響下にあるのだとしても、強い意思でそれを跳ね除けなければならない。
 そう思うのだが、アリエルによる淫靡な刺激に、まだかすかに幼さの残るノエルの腰は、ゆらゆらと浅ましく動いてしまうのだ。
 アリエルが、乳房を嬲っていたその右手を、そっとノエルの恥丘に置いた。
「ダ、ダメ……っ!」
 悲鳴のようなその声に反して、ノエルのクレヴァスは、まるで期待するようにひくひくと震えていた。
 その、愛液に濡れそぼった肉の割れ目に、アリエルがそおっと指を伸ばしていく。
 ちゅくっ、という、自らの性器がたてる淫猥な音を、ノエルははっきりと聞いた。
「あ、あああああっ……」
「えへへっ……ココ、すっごく濡れてますよぉ」
 そんなことを言いながら、アリエルが細い指でノエルの柔らかな花園をくちゅくちゅと優しくかきまわす。
「ああ……んくっ! ダ、ダメ……や、やめなさい……んうううううっ……!」
 そう言いながらも、ノエルは抗うことができない。ただ、へたりこんでしまわないように、バスタブのふちに両手をつき、はァはァと呼吸を早めるばかりである。
「すっごい……王女サマってば……。やっぱ、高貴なヒトの精気は、ちがいますね♪」
 右手を、ノエルが分泌する液でびしょびしょに濡らしながら、アリエルが言った。その舌は、しきりに自分の唇を舐めており、そのせいでひどく淫らな表情になっている。
「あ、ああ……もう、もうダメ……私、私もうッ……!」
 屈辱と快感に目もとをぽおっと染め、可憐な口からわずかに舌をのぞかせながら、ノエルは切羽詰った声をあげた。
「イクんですね? 王女サマ♪」
 アリエルも、興奮に声を上ずらせながら、言う。
「わ、分からない、そんな……イ、イヤ、こんなの、こんなのイヤあっ!」
 びくぅ、とノエルの華奢な体が、アリエルの細い腕の中で痙攣した。
「あ、あああ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁ……ッ!」
 絶頂の予感に、ノエルが絶望の色に染まった声をあげる。
「きゃあア!」
 と、不意に悲鳴が響き、背後のアリエルの気配が消えた。
「ふわ……?」
 イキそこねて、痴呆のような表情を浮かべながら、ノエルは振り向いた。
 いつのまにか、閉まっていたはずの扉が、開かれていた。
「あ……!」
 そこに、数人の男たちが立っていた。
 魔王ヴァルド・ネロと、その背後に立つ、魔道士ハリウス。
 そして、ネロのマントの合わせ目から伸びる鎖が、全裸のレオンの首に巻かれた首輪につながっていた。鋲が打たれた、黒い革製の首輪である。
 レオンの顔にはいかなる表情もなく、その紫色の瞳はガラス玉のようだ。
 アリエルは、空中で逆さまになって、じたばたともがいている。
「つまみ食いの泥棒ネコめ……」
 どこか面白がっているような口調で、ネロは言った。
「申し訳ありません」
 ハリウスが、ネロに、慇懃ではあるが無表情な声で詫びる。
「躾は、主人の役目だ」
 ネロの赤い瞳が、かすかに光を強めた。
「きゃン!」
 悲鳴をあげるアリエルの小さな体が宙を飛び、ハリウスの足元に、びたん、と音を立てて落っこちる。ハリウスは、まるで猫の子にそうするように、襟首を掴んでアリエルの体を持ち上げた。
「ゴ、ゴメンなさいぃ……」
 情けない声をあげるアリエルを引きずるようにして、ハリウスは立ち去ろうとした。
「この、裏切り者っ!」
 ノエルは、そんなハリウスの背中に、痛烈な言葉を浴びせかけた。
 ちら、とハリウスがノエルに顔を巡らす。
「ハリウス……お前、私はともかく、レオンを裏切ったわね! レオンは、お前を本当に信頼していたのに……。私、絶対にお前を許さないから!」
 ハリウスは、その仮面のように無表情な顔に、かすかに悲しみに似た表情を浮かべた。
 しかし、そのまま、何も言わず、立ち去ってしまう。
「沐浴は済んだのかな? 王女よ」
 鎖をつながれたレオンを犬のように引きずりながら、ネロがノエルに近付いた。その背後で、音を立てて扉が閉まる。
「お、弟を、レオンをどうしたの!?」
 ノエルは、ネロに向き直り、涙混じりの声で叫ぶように言った。
「遺憾ながら、今の王太子殿下は、魂の抜け殻だ」
 ネロの声には、相変わらず、嘲弄の響きがある。
「アルメキアの王位を継承するには、彼の心はいささか脆弱であったようだな」
「く……」
 ノエルが、悔しげに唇を噛む。
「あの椅子に座っていろ」
 横柄なネロの言葉に、レオンは諾々と従った。寝台に向かい合うような位置にある大きな椅子に無言で座りこむ。
「レオン……」
 自分に対して、ほとんど興味らしい興味を見せない弟の哀れな姿に、ノエルは声を震わせた。
 そんなノエルの裸身に、背後から数本の触手が伸びてくる。
「あ……イ、イヤ、イヤあッ!」
 はっと気付き、慌ててその戒めから逃れようとするが、もはや手遅れだ。
 浴槽の中で膝立ちになっていたノエルの体が、触手によって後手に拘束されてしまう。
 その、粘液に濡れながらびくびくと脈打っている感触に、ノエルは忌まわしい記憶を鮮明に思い出していた。
 別の触手が、ノエルの白い双乳にくるくると絡みつき、まるでその形と大きさを強調するかのように、乳房を絞り上げる。
「く……」
 苦痛の中に混じる甘い快感に、ノエルは思わず声をあげてしまった。
「ヤ……イヤあ……やめ、て……」
 そんな言葉とは裏腹に、くすぶっていた官能の火が、ノエルの体内で再び炎をあげようとする。
「イヤあああッ!」
 自らの体の浅ましさに、ノエルは触手に戒められながら大きく身をよじった。
「奴隷の身でありながら、主を拒むのか?」
 ネロが、ノエルを捕らえている触手に、力を込めた。
「きゃああッ!」
 ノエルの体が、あっけなく浴槽から宙に浮いた。触手が、ノエルの体に食い込む。
 珠のような水滴を滴らせるノエルの体を、ネロは、石組みの床に下ろした。ちょうど、レオンが座る大きな椅子の正面である。
 ノエルは、床に両膝をついてしまった。ちょうど、玉座の前で、配下の礼をとるような格好である。
 が、両手を後手で拘束されているため、その姿勢はより屈辱的なものになっていた。
 その後に、ネロが体を移動させる。
 ノエルは、体をねじるようにして、背後のネロに視線を向けた。そのエメラルドのような瞳には、憎悪と、そしてかすかではあるが隠しようの無い怯えの色がある。
「反抗的な目だ」
 ネロは、さも楽しそうに言った。
「まあ、易々と屈服されては、楽しみも少ないが……いつまで続くかな」
 ネロの触手が、ノエルの白い肌の上を這いまわり、巧みに性感を煽っていく。
 ノエルは、肌を綺麗な薄桃色に上気させながらも、きつく唇を噛み、そのおぞましい快感に耐えようとした。
 だが、触手が分泌するぬらつく粘液が、次第にノエルの理性に白い靄をかけていく。
 いつしか、ノエルは可憐な唇を半ば開き、はァはァと喘ぐような息を漏らしていた。
 体中を、男根に酷似した器官で愛撫され、すえたような性臭を放つ汁に汚されていく。
「く……ン……んくっ……」
 触手が、先端に生えた繊毛で乳首を撫で、背中を這うたびに、ノエルは小さく声を漏らしてしまう。
 もはや、ノエルの秘部はとろとろと透明な愛液を滴らせ、さらなる刺激を待ち望んでいるような風情さえ見せていた。
 しかし、ノエルを嬲る無数の触手は、意地悪く肝心の部分を避け、焦らすようにその周辺を撫で上げるだけだ。
 そんな甘美な拷問のような責めが、延々と続く。
「ンあああああ……あうぅっ……ンはァっ……!」
 とうとう、ノエルははっきりとした喘ぎ声を漏らしながら、目蓋を閉じてしまった。目の端から、透明な涙がこぼれる。
「どうだ? 王女よ」
 ネロが、体の奥底に響くような声で問いかける。
「そろそろ、素直になってはどうだ?」
「な……なんですって……?」
「自らの求めてるものを、我にねだるがいい……奴隷の身とは言え、遠慮はいらぬぞ」
 ネロの声は、圧倒的な優位を確信している様子である。
「あ……ンううううううっ……! くうン……はあッ……!」
 いっそう激しく自らを撫でまわし、汚穢な粘液を塗りつける触手の動きに、ノエルは小さな両手を握り締めた。その肉の花弁は蜜を溢れさせながら、物欲しげにひくついている。
 しかし、ノエルは、残る理性を必死でかき集め、言った。
「イ、イヤ、よ……だれが、おまえなんかを……」
 辛そうな息の合間に、はっきりと、拒絶の言葉を告げる。
 まるで、その言葉に怒りを覚えたかのように、一本の触手がノエルの豪奢な金髪に絡みついた。
「あああああッ!」
 そのまま、ぐい、と背後に引っ張り、ノエルの顔をのけぞらせる。
 思わず、ノエルは目を開いていた。
 目の前に、石造りの椅子に腰掛け、首輪をはめられた全裸のレオンがいる。
「あぁ……」
 ノエルは、思わず声を漏らしていた。
 レオンの顔に、わずかに表情が戻っている。
 姉の痴態に興奮しているのか、その頬にはわずかに赤みが差し、空ろだった紫色の瞳は、どこか涙で潤んでいるようだ。
 その、少女のような顔に、まぎれもない、欲情の色が見える。
 ノエルは、一瞬、まるで鏡を見ているような錯覚にとらわれた。
「ア……っ!」
 ノエルの中で、細く張り詰めていた糸が、ついに切れた。
「あ、ああ、あああっ? ンあああ、あ、あァ、ああああアアアアアアアアアっ!」
 自らの内に爆発的に高まる性感に、うろたえたような高い声をあげる。
 ぞくぞくぞくっ、とノエルの背中が震えた。
「欲しいか?」
 ネロが、短い言葉で訊く。
 ノエルは、再び背後のネロに顔を向けた。
 その、ぞくりとするような流し目が、欲情に濡れている。
「あ……あァ……わ、わたし……わたし……」
 ノエルの瞳に、彼女の純潔を奪った、青黒いネロの器官が映る。
「欲しいか?」
 再び、ネロが訊く。
「う……」
 ノエルは、童女のように頼りなく、こっくりと肯いてしまった。
「クックックックックッ……」
 ネロが、ある種の鳥を思わせるような声で、嗤う。
「尻を上げろ、ノエル」
 聖王女としての誇りをずたずたにするような屈辱的な命令に、ノエルは、体を小刻みに震わせながらも、従った。
 目から、涙が溢れる。
 しかし、恥辱が、なぜか胸を熱くざわめかせるのだ。
 ネロの熱い男根が、高々と上げられたノエルのお尻の谷間を、ぞろりと撫で上げた。
「ひッ……!」
 たったそれだけの刺激で、ノエルはびくンと体を痙攣させてしまう。
 その青黒い触手は、自らをノエルの肉襞の間に浅く潜りこませ、細かく動いた。自らの恥ずかしい部分がたてる、くちゅくちゅという卑猥な音が、左の頬を床に押し当てるような屈辱的な姿勢をとるノエルの頭を狂わせる。
「ひあ……ああァン……あ……はァ……あああァん……」
 ノエルは、悩ましげな声をあげながら、ゆらゆらとその可愛いお尻をゆすった。
「欲しいのだな、ノエル王女」
「……ほ……ほしい……ほしい、です……」
 確認するネロに、ノエルは熱に浮かされたような声で答える。
 ずるり、とネロのペニスがノエルの中に侵入した。
「はッ……ンはああああアアア……はああァ……っ!」
 熱く濡れる肉の花びらを掻き分け、まだ狭い膣内の粘膜をこすりながら、長大な触手がノエルを犯していく。
「あ、あああああ、ンああ……はあああああああ……」
 その、処女を失ったばかりの少女には太すぎる触手が、ノエルから細い悲鳴を押し出す。
 が、その声は、まぎれもない快美感に甘く濡れていた。
 ネロの器官は、その表面から奇怪な粘液を分泌し、靡粘膜でそれを吸収したノエルの体に、火のような熱さが満ちていく。
 体の最深部にある、痛みを伴う圧倒的な存在感に、ノエルはわずかに残っていた理性をなくしていった。
「あああッ?」
 ネロが、抽送を始めた。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……」
 節くれだったネロのペニスが、ノエルの小さな秘部を出入りする。そのたびに、赤い靡肉はめくれあがり、大量の体液が床に滴った。
 じゅぼじゅぼという、信じられないほどに淫猥な音が、つい数日前までは自らの指しか知らなかったその部分から湧き起こる。
「ア……んううううっ! ンああ、あ、あ、あふ……ふあぁ〜ン……」
 両手を後手に戒められ、犬よりも屈辱的な姿勢で床に這いながら、ノエルは甘い喘ぎ声をあげていた。
 自身の涙と涎で、秀麗な顔を汚しながら、ノエルは恍惚の表情を浮かべている。
 レオンが、その姉の姿を、かすかに光の戻った紫色の瞳で、じっと見つめていた。
「ああああああーッ!」
 ネロの男根が、いっそう激しく膣内をえぐり、ノエルは戒められたままの体を大きく震わせた。
 ノエルの全身にからみつく触手たちまでが、非人間的な情動をあらわにしながら、ずりずりとノエルの白い肌に自らをこすりつける。
「あッ! あッ! あッ! あッ! あッ! ああああああああぁアーッ!」
 ノエルが、悲痛な歓喜の声をあげた。
 一斉に、ネロのマントの奥から伸びる触手たちが、びくびくと律動する。
 そして、その先端から、おびただしい量の白濁液が放たれた。
 びしゃっ! びしゃっ! と音をたてるほど強く、粘つく液体がノエルの体を叩く。
 今や、その感触も、精液そのままの青臭い匂いも、ノエルの頭を官能に痺れさせるものでしかなかった。
 最後に、ノエルの体内奥深くまで差し込まれたネロのペニスが、大量の精をノエルの子宮めがけ発射した。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァーッ!」
 一際高い声が、地下牢の空気をいつまでも震わせた。



 アルメキア聖王国宮廷。
 その一室の、淀んだ空気の下で、王国の重鎮たちは会議を繰り返していた。
 最も高貴な者が座るはずの席には、誰もいない。国王ナンテスI世は療養中であり、彼に代わってその座についていた王太子は、宿敵であるネルドール魔王国によって、その姉ともども拉致されている。
 しかも、その手引きをしたのが、他でもない王太子の養育係であった宮廷魔道士なのだ。
 大臣や将軍たちの顔には、疲労の色が濃い。
 その中で、唯一、狂おしいほどに活力に満ちているのが、ダニル将軍だった。
「何度も言うように」
 ダニルは、机を叩かんばかりの勢いで、言っていた。
「出征は、早ければ早いほどいい。一日送れれば、その分、ネルドールは力を蓄えてしまうのだ」
「将軍」
 このところ、めっきり老け込んだ宰相のユーリック公が、物憂げに口を開いた。
「なんです?」
「将軍は毎朝、何を召し上がっておいでかな」
「は……?」
 アルメキア最大の貴族の言葉に、ダニルは少なからずとまどった様子だった。
「健啖家である将軍なれば、一つや二つのパンでは足りぬであろう」
「はあ……」
「兵士たちも、そうだ。勇壮なる我が騎士団や義勇兵たちも、三度三度、パンと、少なくとも豆のスープと、時には干し肉や火酒を、口にせねばならん」
「……」
 ダニルは、宰相が言いたいことを悟り、苦い顔をした。
「後方からの補給無しでは、戦はできん。将軍ともあろう者が、それを忘れているわけではあるまい」
「しかし……」
「今、各地から徴している兵糧が集まるまで、どれくらいかかる?」
「出兵を行う最低限の量が集まるまで……ざっと一週間です」
 ユーリック公に尋ねられた彼の補佐官が、あくまで事務的に答える。
「話にならん!」
 ダニルは、勢いよく椅子を蹴り、立ち上がった。木製とはいえ、充分に頑丈に作ってあったはずの椅子が、石の柱にあたって形を歪める。
「私は、たとえ一人でも行く!」
「子供のようなことを言うな、ダニル!」
 つられて、ユーリック公も大声を出してしまった。
「山に巣食う竜を狩りにいくのとは、訳が違うのだぞ!」
「……ならば、私の直属の騎士達を率いて、先行する」
 ダニルは、その褐色の瞳に強い光を宿しながら、並み居る文官、武官を睨み渡した。
「それなら、文句ないでしょう」
「……外征には、国王の許可が要る」
 議長役の老貴族の言葉に、ダニルは太い眉を怒らせた。
「ならば、今から許しを戴いてくる! 御免!」
 ダニルは、そう言い捨て、大股で部屋を出ていった。



 ノエルは、ランプの灯が絞られた地下牢の中で、寝台の上にぼんやりと座っていた。
 その首に、レオンがしているのと同じ、鋲を打った革製の首輪がかけられている。
 その首輪からは鎖が下がり、そして、その鎖は、同じように寝台に腰掛けてるレオンの首輪につながれていた。
「レオン……?」
 時々、思い出したように、同じ鎖でつながってる双子の弟に、ノエルは声をかける。
 そのたびに、レオンは、並んで座ってる姉の方にわずかに首を巡らせるのだ。
 そして、姉の顔を認めると、かすかな――ノエルでなければ認めることすらできないようなかすかな微笑みを、その少女のような顔に浮かべるのである。
 透明な、哀しい微笑みだ。
 ノエルは、そんな弟の哀しい笑みによって、辛うじて理性と矜持を保つのである。

 外の夜空に昇る、白々とした満月を仰ぐこともなく、姉と弟は闇の底に沈んでいた。



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