第三章



「馬鹿者ッ!」
 ダニル将軍は、宮殿の一角で、報告に来た若い騎士の頬を、思わず殴りつけていた。
「それでもお前は近衛騎士か! 何も分からぬとはどういうことだ!」
「も、もうしわけ、ございません……」
 赤く染まる頬に手をやることもなく、唇に血をにじませながら、直立不動の姿勢で騎士が答える。
「殿下……」
 ダニルが、その精悍な顔に似合わない、焦燥の表情を浮かべながら、つぶやいた。
 ただ、アルメキアの二人の「殿下」のうち、ダニルがその身を案じているのは、その片方のみではあったが。
「お前では埒があかん……。ハリウスは、どこだ?」
「そ、それが……」
 騎士が、言いにくそうに、それでも幾つかの目撃談を総合した内容を報告する。
「何だと……奴め、裏切ったのか?」
「は……。殺害された護衛の騎士たちの死因も、魔道によるもののようです」
「……魔道士め!」
 ダニルは、したたるような憎悪と、そして隠しようのない侮蔑を込めて、短くそう言った。



 ネルドール魔王国の王都、ヴァルディア。
 都とはいえ、その実、砦に近い。ネルドールとアルメキアの間に横たわる山脈に連なる火山地帯に建てられた、巨大な石の要塞である。
 ごつごつとした溶岩台地の上にある、高い城壁と幾本もの鋭い尖塔を備えたヴァルディアの都は、まるで異界の魔獣がうずくまっているかのように見えた。
 その都の中央に位置する、ヴァルド・ネロの居城。
 さらにその地下深くに、ノエルは捕らえられていた。

「んんン……」
 ノエルは、その部屋の中央で、小さくうめきながら、ゆっくりと目を開いた。
「ここ、は……?」
 硬い石造りの床に手をつき、半身を起こしながら、ノエルがつぶやく。
 そこは、石組みの地下牢だった。
 が、地下牢としては異様な場所である。中央には豪奢な寝台があり、その寝台に向かい合うように、巨大な石造りの椅子が備えつけられている。
 寝台も椅子も、貴人を迎えるにふさわしい、派手ではないが最高の装飾が施されていた。それでいながら、地下牢の天井からは何本もの鎖が下がり、壁には、やはり鎖でつながれた手かせが下がっている。
 出入り口は、重そうな金属製の扉が一つ、あるきりである。扉には、のぞき窓と、そして食事を差し入れるためのものらしい、やや大きめの隙間がある。無論、抜け出るどころか、ノエルの細い腕を通すのが精一杯の高さしかないが。
「なんなの、ここは……」
 自らの細い肩を抱くような姿勢で、ノエルはつぶやいた。自分の体が、細かくふるえているのが感じられる。
 寒いわけではない。それどころか、部屋の中は不自然なほどに暖かだった。
 と、重く錆びた音をたてて、扉が開いた。
「ようこそ、アルメキアの聖王女よ」
 ひくくひずんだ声が、地下牢に響く。
「何者?」
 きっ、とノエルは声の主に視線を向けた。見上げるような大男だが、ひるんだ様子は見せない。
「ネルドール魔王国の王、ヴァルド・ネロ」
 男は、そう言いながら、地下牢に足を踏み入れた。
 その背後で、手も触れていないのに、扉がきしみをあげながら閉まる。
「お前が、ネロ……」
 ノエルは、ネルドール魔王国の魔王、ヴァルド・ネロを、その美しい緑色の瞳でにらみつけた。
 厚手のマントをはおったその男の顔は、まるで部屋のランプの明かりがそこだけ届いていないかのように、判然としない。ただ、その顔があるはずの場所に、赤く光る目が浮かんでいるように見えるだけである。
 しかしノエルは、そんなネロの不気味な様子に、いささかも怯えの色を見せなかった。
「仮にも王を名乗るものが、隣国の貴人にこのような仕打ちをするのは、無礼ではありませんか?」
「勇ましいことだ」
 ネロが、低い、笑い声のようなものをあげる。
「惜しむらくは、この現状を認識する知恵を持たぬことだが……しかし、その勇気に免じて、選択の余地を与えよう」
「……何ですって?」
「お主がとるべき道は二つだ、王女よ」
 ネロは、ノエルに向かって一歩踏み出した。思わず後ずさりしそうになるのを、ノエルはなんとかこらえる。
「一つは、我が妻となること」
「ば、馬鹿なことを!」
「そうかな……? もう一つは……我が奴隷となることだが」
「下司!」
 思わずノエルは、ネロを、聖王女と呼ばれる身としてはいささか激しい言葉で罵っていた。
「お前は、憎むべき悪竜を遣わし、アルメキアの多くの善良な民を苦しめ、勇敢な兵たちを殺した敵だ! さらには、最愛の父の足を奪った憎むべき仇! そんな者の言うなりになど、誰がなるものですか」
「ククククククク……」
 ネルドールの魔王、ヴァルド・ネロは、心底愉快そうに笑った。
「誇り高き傲慢さだ。気に入ったぞ……。予言の件がなくとも、是非ともお主を手に入れねばな」
「予言……」
「『かの聖王女と結ばれし者、聖魔両王国の真の主君とならん』……」
 ノエルは、唇を噛んだ。どこにいても、自分にはその忌まわしい予言がついて回る。そう思った。
「下らぬと言えば、下らぬ予言だ。しかし、お主を、このような予言を目当てとする男どもにくれてやるのは、いささか惜しい」
「か、勝手な事を……」
 声に怒りをにじませながら、ノエルが言う。
「返事がまだだな。王女よ」
「返事?」
「我が妻となるか、それとも、奴隷となるか」
「どちらもお断りよ! もし無理やりに私に何かしようというなら、舌を噛んで死ぬわ!」
「ほう」
 ネロは、馬鹿にしたような声をあげた。
「屈辱よりは死を選ぶというのか。立派な覚悟だと言いたいが、その実、忌むべき短絡だ」
 言いながら、ネロは、身にまとう漆黒のマントを、自ら割り開いた。
「ひッ!」
 ノエルは、悲鳴をあげた。
 マントの中身は、いかなる意味でも、ヒトの肉体ではなかった。
 それは、肉色の触手の集合だった。様々な太さの、ぬらぬらと粘液に濡れた無数の触手が、紅い瞳を有する頭部を支えているのである。
 しかし、ノエルが思わず悲鳴をあげたのは、そのネロの姿を目にしたためではなかった。
「レ、レオン……」
 ネロの触手に半ば以上その体を覆われた、アルメキア王国の王太子が、そこにはいた。
 レオンは、ノエルによく似たその顔を蒼白にし、肩のところで切りそろえられた金髪を乱れさせながら、がっくりとうなだれている。
 彼は、全裸であった。その体にはネロの触手がびっしりとまとわりつき、腰から下はほとんど隠されている。それはまるで、美しい魚が、おぞましいイソギンチャクに今まさに捕食されているところを思わせた。
「レオンに、何をしたの?」
 ノエルが、声を震わせながら、訊く。
「まだ、何も」
 そう答えるネロの触手が、レオンの細い首にするすると絡みついた。
「やめて! 弟は、体が弱いの!」
 ノエルは、悲鳴のような声で言った。
「無理なことをしたら、死んでしまうわ!」
「屈辱よりも死を選ぶのが、聖王家ではないのかな……」
 レオンの、少女じみた美しい顔をぬらつく触手でなぶりながら、ネロが言う。レオンは、意識がほとんどないらしく、半ば閉じられたその紫色の目には、何も映っていない。
「卑怯者っ……」
「我の評価など聞いてはおらん。ネルドール王国王妃の地位か、それとも、奴隷か?」
「……」
「どうした?」
「ど……どれい、に……」
 ノエルは、まるで血を吐くような思いで、ようやくそう言った。
 聖王女と称えられた身でありながら、自ら奴隷であると言う屈辱に、ノエルは全身を細かく震わせる。
 しかし、目の前のこのおぞましい怪物の妻になるなどということは、ノエルには考えることすら忌まわしかった。
「奴隷に、なります……」
 ネロと、そして自らを襲う理不尽な運命への怒りに、ノエルが小さな拳をきつく握る。
 しかしネロは、そんなノエルの様子になど、いささかも心を動かされないように見えた。
「ならば、その服を脱げ」
「ええッ?」
「ネルドールでは、奴隷は服をまとわない」
 残酷なまでに淡々と、ネロは言葉を続けた。
「まさか、奴隷であると宣言するだけで、姉弟ともども許されると思っていたのか?」
 ノエルは、血がにじむほどに唇を噛んだ。
 そして、ゆっくりとうなだれ、手を後ろに回して、まとっているドレスの留め紐をほどいていく。
 片脚を失った父王を見舞うために選ばせた、落ちついた淡い青のドレスを、ノエルは、のろのろと脱いでいった。
 時折、どうしようもなく手が止まってしまう。そうすると、ネロは無言でレオンの体にまとわりついた触手を締め上げ、レオンに細い呻き声を上げさせた。
 とうとうノエルは、褐色の革のコルセットを身につけるだけとなった。その足元には、脱ぎ捨てられた最高級のシルクのドレスが、ふわふわとわだかまっている。
 コルセットなど全く必要がないくらいに細いノエルの腰に比べ、むきだしになったその胸は、意外と豊かである。しかし、その形はあくまで美しく、柔らかな曲線を描きながらも、薄桃色の乳首を上に向けている。
 ノエルは、右腕でその胸を隠し、左手で、やはりむきだしになった股間を隠した。
「手をどけろ、ノエル」
 ネロが、わずかに声のトーンを変え、言った。
 しかし、ノエルは、まるでそのような言葉が耳に入っていないかのように、じっと動かない。
「どけろ」
 ネロが、繰り返す。しかし、ノエルは無言で、ネロの赤い目を見返すだけである。だが、その深い緑色の瞳から放たれる視線は、かつてほどの力を失っていた。
 突然、ネロの触手が、数本、宙を走った。
「きゃッ!」
 鞭のように四肢にからみつく触手のおぞましい感触に、ノエルが悲鳴をあげる。
「イ、イヤ!」
 触手は、意外なほどの力で、ノエルの腕をしめつけ、ゆっくりと左右に開いていった。
「う、うううぅぅ……」
 ノエルが、小さくうめきながら、両手に力を込める。しかし、それははかない抵抗でしかない。
 とうとう、ノエルの白い双乳と、そして、淡い金色の体毛に覆われた恥丘が、ネロの赤い目にさらされた。
「あぁ……」
 絶望に満ちたため息をあげ、ノエルはがっくりとうなだれた。
 羞恥と屈辱、そして、うごめき、脈打つ触手への不快感に、目の前が真っ暗になる。
 そんなノエルの、雪のように白い体を、新たな触手が、ぞろりと撫で上げた。
「ひあっ!」
 ノエルの悲鳴を、まるで天上の音楽ででもあるかのように感じているのか、ネロは表情の判然としない顔にある両目を、わずかに細めた。
「お……お前は、何者なの……人間では、ないの……?」
 すぐ目の前で、蛇のように鎌首をもたげる赤黒い触手を思わず見つめながら、ノエルは、怯えを隠しきれない声で訊いた。
「我は、人間だ。これでもな」
 ネロの声には、嘲弄の色がある。
「そ、それでは、その姿は……」
「魔道の賜物だ、王女よ。魔道は、人のあらゆる意思や欲望を具現化する。物質は精神に正しく支配され、姿形などは、文字通り形骸と化すのだ……分かるか?」
 ノエルは、ふるふると首を振った。それは、ネロの言葉に対してではなく、次第に顔に近付きつつある触手を避けようとしてのことであったが。
「少なくとも、我が、かつて母と呼んだ人間の胎内から生まれたことは、間違いない。それゆえ……」
 言葉を続けながら、ネロは、ノエルの可憐な唇にその触手を押しつけた。
「や、やめ……んぷっ!」
 反射的に悲鳴をあげかけたノエルの口内に、ネロは無理やり触手をねじこむ。意外なほどの熱さと、びくびくという脈動が、ノエルの口腔や舌に伝わった。
「それゆえ、お主の胎内に我が子を宿らせることもできる」
「んんんんんンーッ!」
 ノエルは、口の中を犯す触手の感触よりも、ネロの言葉に、くぐもった悲鳴をあげた。そして、自由を奪われた体をよじって、どうにかこのおぞましい緊縛から逃れようとする。
 が、ネロは、そんなノエルの白い裸身に、一本、また一本と、粘液に濡れた触手を絡めていった。触手は、その得体の知れない粘液を塗りたくるように、無遠慮にノエルの体をまさぐる。
 いつしか、触手たちは器用にもノエルのコルセットを外し、彼女を全裸にしてしまっていた。
「くッ……!」
 ノエルは、きつく目をつむり、思いきり口内の触手に歯を立てた。
 びくん、と、ノエルを犯していた触手が痙攣し、そして先端から大量の生臭い液体を噴き出す。
「ンぶっ! ん! ンン! ンうーッ!」
 ノエルは、その小さな口から、白濁した粘液をあふれさせながら、悲痛な声をあげた。
 びくっ、びくっと律動しながら触手が放つ大量の粘液を、ノエルは、なすすべもなく、涙をこぼしながら飲みこんでしまう。
 しばらく後、唾液と粘液にまみれた触手が、ノエルの口からずるりとその身を引いた。
「ンぶっ……んぐ……えええっ……」
 はぁはぁと荒い息をつきながら、ノエルは、喉奥にからみつく汚穢な液を吐き出そうとする。
「躾のなっていない王女だな」
 触手をノエルの形のいい顎にかけ、ぐい、と持ち上げながら、ネロは言った。
「こともあろうに、噛みつくとは」
「……」
 ノエルは、ありったけの憎しみを込めて、ネロの赤い瞳を見返している。
「奴隷は、鞭を以って躾ねばならん」
 そう言いながら、ネロは、一本の触手をノエルの目の前でゆらめかせた。と、その先端が何本にも分かれ、房状になる。
「……?」
 その触手は、不審げな顔をするノエルの背後に周りこみ、そして、大きく宙を薙いだ。
 びしッ!
「きゃああッ!」
 激しい音に、ノエルのあられもない悲鳴が重なった。
 ちょうど、拷問用の九尾鞭のような形の触手が、ノエルの白いお尻をしたたかに叩いたのだ。
 きめの細かい絹を思わせる肌に、無残な赤いミミズ腫れが走る。
 続けて、二度、三度、両手を広げた形で戒められたノエルの背中や尻たぶを、触手が容赦なく打擲した。
 白い肌に、赤い傷が縦横に走り、血をにじませる。
「……んぐ! ……ンッ! くぅッ……!」
 しかしノエルは、必死で悲鳴を噛み殺した。獣のように鞭打たれても、聖王女としての矜持を守るべく、泣き喚くような真似だけはすまいと咄嗟に決心したのである。
「……」
 ネロは、無言でノエルの華奢な体を打ちつづけた。
 次第に、鞭の痛みは痛みでなくなり、ただの熱い温度となって、ノエルの体を包み始めた。
(……これは……なに……?)
 ノエルは、自らの体内に生じた変化に戸惑っていた。
 鞭によってもたらされた温度が、次第に体の奥底まで届き、何とも言えない疼きに変わってきたのである。
「はぁ……んうッ……くぅ……んうゥ……」
 いつしか、ノエルの声は、わずかに甘く濡れ始めていた。自分では意識せず、舌で唇をなめ、太腿をもじもじとすり合わせる。
 その変化を認めたためか、ネロは、ようやく触手による鞭打ちを止めた。
「あァ……」
 ノエルは、我知らず熱い息をついていた。体内に生じた疼きが、はっきりとした甘く切ない感覚となって、ノエルの体の一番秘めやかな部分を責めさいなんでいる。
「どうした、ノエル……脚が震えているぞ」
 ネロの指摘通り、ノエルの脚は、かくかくと細かく震えていた。もし両腕をネロの触手に捕らえられていなかったら、そのままへたりこんでいたかもしれない。
「な、なに……? 私のからだに、なにを、したの……?」
 ノエルが、額に汗をにじませながら、力ない声で言う。美麗な顔は戸惑いの表情を浮かべながらも、どこか上気し、そのエメラルドのような瞳は涙で潤んでいた。
「……」
 ネロは、答えない。ただ、その不吉な血の色の瞳に、嘲弄に似た光を浮かべるだけだ。
 ノエルは、酒に酔ったような熱くまとまらない脳で、どうにか理性を保とうとした。しかし、ともすれば耐え難いまでになっている体内の淫らなうねりにのみこまれ、ネロの触手がにじませる粘液の牡くさい性臭までが、好ましいもののように思われてしまう。
(なんてことなの……私が飲まされたアレは……麻薬のように、心と体を冒すのだわ……)
 ノエルは、その唇を噛み締めた。
(ダメよ、ダメよ、ノエル……負けちゃダメ……負けるものですか……)
 そんな聖王女の決意をあざ笑うかのように、数本の触手がノエルの形のいい乳房にからみついた。
「ふわぁっ!」
 ぐにぐにとその胸をぬらつく触手で思うさま嬲られ、ノエルは他愛なく声をあげてしまう。
「イ、ヤ……イヤあッ! ダメ……こ、こんなの……ンあああぁアッ!」
 と、触手の一本がその先端を蛇の口のようにぱっくりと開いた。そのまま、すでに痛いほどに勃起しているノエルの可憐な乳首を、ちゅうーッと吸引する。
「んわあぁぁぁぁぁアーっ!」
 痛みと、そして明らかな快感に、ノエルはびくンと体を痙攣させた。
 今や、無数の触手がノエルの裸身にまとわりつき、ぬらぬらと粘液を滴らせながら、そのピンク色に上気した肌を愛撫していた。傷つき、敏感になった背中に、触手の分泌液が沁み込み、なぜかそれが心地よく感じられる。
 ベッドの中で、惨めな思いで自らを慰めていたときとは比べ物にならない快感は、ノエルの神経を焼き切りらんばかりであった。
 きつく閉じ合わされていたはずのノエルの細い両足はすでに大きく開き、やはり何本もの触手が、ぞわぞわと蠢きながらまとわりついている。ノエルは、無意識に腰を前後に動かし、局部に押し当てられた触手に、自身の最も柔らかな部分を擦りつけていた。
「ア、んああア……ッ! はあン……ダ、ダメ……ダメっ……ダメぇ!」
 ノエルの体が、これまで感じたことのないような、激しい絶頂を迎えようとする。
 と、意地悪く、股間にわが身を押し当てていた触手が、その身をかわした。
 その表面は、ノエルの分泌した液によって、熱く濡れている。
「あ……」
 かすかな理性の光が、ノエルの瞳に戻った。
「気付いたか? 自身の本性に」
 ネロの言葉によって、今まで自分が演じていた浅ましい動きを思い知らされ、ノエルは羞恥に顔を真っ赤に染めた。
「ひきょうもの……」
 ノエルが、力なくつぶやく。
 そのノエルの白い体を、無数の触手が軽がると持ち上げた。
「い、いや……ッ!」
 空中で、はしたなく脚を広げられ、ノエルがふるふると首を振る。その度に、長い豪奢な金髪が揺れた。
 ノエルの、最も恥ずかしい部分では、ネロの粘液と、彼女自身の愛液に濡れたスリットが、柔らかくほころびている。わずかにのぞいた肉襞は美しいピンク色をしており、まるで南洋の花が咲きかけている様を思わせた。
 その秘めやかな器官に、数本の触手がまとわりつき、先端から生え出た無数の繊毛で、ぞわぞわと撫で上げる。
「ンああ……あはァ……あく……ンくうううぅ……」
 官能の炎に再び油を注がれ、ノエルはがくがくとその身を震わせた。
 ノエルの股間からは、止めどもなく透明な愛液が溢れ、ネロの粘液と交じり合い、零れ落ちる。
 その淫猥なしずくは、まるで壊れた人形のようにネロの足元に横たえられているレオンの体に滴っているのだが、ノエルは、そのことに気付いてはいなかった。レオンは、未だその半身に触手をまとわりつかせたまま、姉の痴態など知らぬげな空ろな顔で、ぴくりとも動かない。
「あふっ……ふあぁ……ンあ……あああアぁ〜ッ!」
 ノエルは、またもや快楽に理性を駆逐され、はしたなく腰を動かしてしまう。
 そのノエルの秘部を、触手たちがぱっくりと左右に開いた。鮮やかな赤色の肉の穴が、生温かい外気にさらされる。
 その部分に、いつの間に現れたのか、青黒い触手がぴったりと押し当てられた。
 その、人間の陰茎に似ていなくもない不気味な器官は、まるでそれ自体独立した生物のように、はっきりとした意思を持って、ノエルの陰部をぐりぐりと嬲る。
「あ、ああああぁぁン……ンあぁ……ンくうぅ……ッ!」
 ノエルは、たまらず白い喉を反らせ、悦楽に濡れた喘ぎ声をあげる。
 ネロの、その一際大きな触手が、とうとう、ノエルのクレヴァスに頭を潜りこませた。
 それは、ゆっくりと、しかし圧倒的な力でもって、ノエルの体内に侵入していく。
「あああああああああああああッ!」
 体が内側から押し広げられるような感覚。
 しかし、ネロの体液に冒されたノエルの身体は、それを強烈な快感として感じてしまっていた。
「イ、イヤ……イヤよ……イヤ、イヤあぁ……」
 童女のように首を振り、弱々しく拒絶の言葉をあげるのは、わずかに残った理性と矜持の、最後の儚い抵抗でしかない。
(……たすけて……ダニル……おとうさま……おかあさま……レオン……)
 ノエルの目蓋の裏に、愛しい人々の顔が浮かんでは、溶けるように消えてしまう。
 代わって、巨大な赤い瞳が、闇に閉ざされたはずの視界一杯に広がった。
(あああ……っ)
 ノエルは、心の中で、敗北の声をあげていた。
 ネロのペニスが、ノエルの狭い肉の通路を進み、純潔の証を、易々と貫こうとする。
「あ……!」
 びくン、と無数の触手に持ち上げられたノエルの体が、弓なりに反った。
 そして、おぞましい触手が、ノエルの処女膜を破り、彼女の体内の最深部にまで達する。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアーッ!」
 破瓜の激痛と、それを上回る凄まじいばかりの快感に、ノエルは鮮血とともに高い声をほとばしらせた。

 床に横たわるレオンの、半ば閉じられた目蓋が、ぴくりと動いた。



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