第一章
「あーア、退屈……」
ノエルは、アルメキア聖王国の王女にして第二位王位継承者とは思えぬような仕草で、邸宅のテラスで、うン、と伸びをした。
アルメキア聖王国の王都アルムの中心部にある、騎士団長の邸宅である。すぐ近くに聖王宮が、その偉容を誇っている。
今日のノエルの衣装は、彼女自身の純潔を示すかのような、処女雪のような純白のドレスである。そのドレスを飾るたっぷりとしたフリルやレースは、まるで美の女神を包む海の泡のように、彼女のほっそりとした体を優しく包んでいる。
ノエルは、その豪奢な金髪を、今日に限っては慎ましやかにまとめて、アップにして髪止めで止めている。黄金のように輝き、波打つ金髪は、彼女の密かな自慢であったが、今日のパーティーの主役はノエルではないのだ。
髪をまとめているために露になった彼女のうなじは、ため息が出るほどに美しいラインを描いていた。その白い首筋を、淡い月光が照らす。
「ここにいらっしゃいましたか、殿下」
後から声をかけられ、ぴくっと小さく方を動かし、ノエルは振りかえった。エメラルドグリーンの大きな瞳を見開いたその顔は、いつもの澄ました表情より、格段に幼く見える。
その瞳が、美丈夫、という言葉が一番ぴったりくるような、若い男の姿を映した。獅子のたてがみのような褐色の髪に縁取られたその顔は、精悍にひきしまりながらも、ごくわずかに少年の面影を残している。
「い、いやですわ、ダニル将軍……」
果実酒によってほんのりと染まっていたノエルの頬が、さらに赤く染まる。
ダニル将軍、と呼ばれたその若い男は、そのノエルの顔に、しばし言葉を失った。
(美しい……)
声に出そうになるのを、あわてて抑える。
完璧な輪郭を描いた小さな頭に、柔らかそうなサンゴ色の唇。あくまで白く滑らかな肌。秀でた額。そして、形のいい鼻梁に、やや大きめの、深い緑色の瞳……。
老臣達が、「死んだ王妃殿下に生き写し」と称する美貌である。しかし彼には、肖像画でしか見たことのない王妃よりも、目の前の温かなノエルの方が、何倍も魅力的に見えた。
「どういたしましたの? 将軍……。主役がこんなとこにいらしては、せっかくの席が台無しですわ」
「い、いや……」
照れ笑いを浮かべながら言うノエルに、ダニルは他愛もなくうろたえてしまう。
今日のパーティーは、騎士団長主催による、悪竜討伐の記念パーティーである。同じような名目で、ここ一ヶ月、すでに何度も宴が催されているのだが、人々としては何回でも祝いたい気分なのだろう。
「いささか、酔いましたもので、少し夜風に当たろうかと思いまして……」
「それは残念」
くす、とノエルは微笑んだ。
「てっきり、私を探しに来てくださったものかと思ってましたのに」
この、十以上も年下の少女の冗談に、ダニルは顔を赤く染めてしまった。
「いや、その……じ、自分は……実は、姫を、さがしておりました」
「え?」
ひどく重大なことを告白するかのような彼の口調に、ノエルはきょとんとした表情を浮かべる。
「自分は……その……何と身のほどをわきまえぬ奴とお思いでしょうが……その、殿下のことを、お慕いして……」
いつになく、しどろもどろになるダニルの逞しい体に、ノエルはその華奢な体をそっと寄せた。
「それ以上はおっしゃらないで……ダニルさま……」
手を伸ばせば触れることのできるほど近くにあるノエルの、意外なほど真剣な顔つきに、ダニルは思わず息を飲んだ。
「ドラゴンスレイヤーの称号をお受けになったあなたが、このような所で、要らぬ恥をおかきになることはありませんわ」
「は……?」
「ご覧になったでしょう? 私、本性はとてもおてんばで、はしたない娘ですのよ。それでも、よろしくて?」
「じ、自分こそ……一介の武人でしか……」
また何か言おうとするダニルの前に、王女は、シルクの長手袋に包まれた、細く長い人差し指を優雅に立てた。
「あなたは、救国の英雄です」
ノエルは、にっこりと春の日差しのような笑みを浮かべた。
「お父様も、私たちのことを、きっと認めて下さいますわ」
「姫……」
ダニルの大きな両手が、ノエルの白く小さな肩に置かれた。
そして、今生まれたばかりの恋人達が、その証を求めるように、唇を寄せる。
「ノエル王女殿下」
その二人の動きを、硬く、冷たい声が遮った。
「……なんですの?」
辛うじて王女の威厳を保ちながら、ノエルは、テラスに現れた不躾な闖入者を睨みつける。
「王子殿下のお加減が優れませぬゆえ、急ぎ、ご帰宮のご用意をお願いいたします」
その声の主は、王女の視線になど一向にひるんだ様子もなく、淡々と続けた。濃い青色のゆったりとしたローブを痩せた体にまとい、周囲の貴人に顔を見せるのをはばかるように、深々とフードをかぶっている。一見して魔道士と分かるいでたちである。
「分かりました。馬車の用意をなさい」
「御意」
魔道士は、慇懃に頭を下げ、そしてダニルに顔を向けた。
「邪魔をしたな、ダニル」
「気にするな、ハリウス」
内心はどうあれ、ダニルは見事な笑みで魔道士の言葉に答えた。
「ごめんなさい、ねえさま……せっかく、楽しみになさってたのに……」
王室専用の馬車の中で、くったりとクッションにみをもたれさせながら、レオンはすまなそうに言った。
「いいのよ、レオン。あなたが気にすることじゃないわ。それに、騎士長さんたちのお話は、退屈なものばかりだったんですもの」
ノエルは、そんな病弱な弟に、優しく微笑みかけた。
弟とはいえ、ノエルとレオンは双子の姉弟である。ただ、レオンは生まれつき体質が虚弱であり、十六になった今でも、同い年の少女である姉とほぼ同じ身長である。まるで、時の神に忘れられてしまったかのようだ。
結果、レオンは、姉のノエルそっくりの外見を保ったまま、今に至っている。肩で切りそろえられた髪と紫色の瞳という違いがなければ、父王でさえ、その顔を見分けることは難しいかもしれない。
「でも、なにかいいコト、あったみたいですね」
人込みの中で疲れたのか、やや蒼白になった顔に、それでも笑みを浮かべながら、レオンが訊く。
「んふ……ダニルがね、あたしのコト、好きだって言ってくれたの」
ノエルは、同じ年頃の娘と変わらない、無邪気な表情で、そう言った。レオンの前では、彼女は、聖王女としての仮面を被らずにすむ。
「ダニル将軍が?」
「ええ……。悪竜討伐に、西の山にまで彼が遠征に行ったときに、あたしが言えなかった言葉を、彼自身が言ってくれたのよ」
「それで……ねえさまは、将軍のもとへ?」
「そ、それは、まだ分からないけど」
ノエルの頬が、薔薇色に染まる。
「でも、彼はあたしの肩を抱いて……優しく口付けしてくれたわ」
「ウソ」
くすっ、とレオンは少女のような笑みを浮かべた。
「ねえさま、ウソついてるでしょう」
「ふふっ……。レオンにはかくしごと、できないね」
同じ星辰のもとに生まれたレオンとノエルの間には、常人にはない、不思議な感応力がある。愛しい人と初めてキスをしたというほどの衝撃を、この双子の弟が感じないわけがない。
「ホントはね、ハリウスの奴にジャマされちゃったの」
「……無愛想なんで、ねえさまのような方には誤解されるかもしれませんけど、彼は、忠実な臣下ですよ」
レオンが、かばうように言う。かの宮廷魔道士は、レオンの養育係の一人でもあるのだ。
「それは、そうかもしれないけど……でも、魔道士でしょう?」
ノエルに限らず、アルメキアの国民全体の、魔道士に対する偏見は根強い。その偏見は、ネルドール魔王国の復活以来、より強くなっているようだ。
「魔道を制するには、魔道を知らなくてはならないんですよ」
「お父様みたいなこと、言わないでェ」
幼いころから素養を認められたレオンと異なり、ノエルは魔道についてまったく教育を受けていない。
「それに……ハリウスは、いい奴ですよ。思慮深くて、理性的で……僕は、魔道以外にも、彼に学ぶところが、たくさんあります」
「ふうン」
ノエルは、なんとなく気のない返事をした。
「……ねえさま」
改まった口調で、レオンが呼びかける。
「なあに? レオン」
「幸せに、なれそうですか?」
「えっ? ……そ、そうね。ダニルなら、あたしのこと、幸せにしてくれると思うわ」
はにかみながらそう答える姉に、弟はどことなく寂しそうな笑みを返した。
「ン……」
大きなベッドの中で、シルクのネグリジェをまとったノエルは、かすかに身じろぎした。
王女宮。聖王宮の中の、ノエルのための一角である。薄い桃色を基調とした大理石造の建物で、上品さを保ちつつも、カーテンや敷物にどこか可愛らしさをのぞかせている。
その、寝室の中に、聖王女として国民に慕われている少女の、秘めやかな声が、かすかに響いていた。
「ん……んン……ん……」
妖精の翅のように薄い、淡いピンク色のネグリジェの上から、ノエルは、そっと自らの乳首を撫でていた。
お椀を伏せたような、まだ発育途上ながら形のいい乳房の頂点にある、慎ましやかな桜色の突起が、次第に固く尖っていく。
「あァ……ダニル……」
王女は、愛しい名前をつぶやきながら、ネグリジェの前を開け、胸元にその右の手を差し込んだ。
壊れ物を扱うように優しい手つきで、自らの左の乳房をゆるく揉みたてる。
「んうッ……ン……あぅぅ……んはァ……」
その弓形の眉がたわめられ、ピンク色のつややかな唇から、白い歯がのぞく。
「ああ……い、いけない……いけないわ、ダニル……」
ノエルは、自慰行為の罪悪感を、空想の中の恋人に転嫁しながら、次第に大胆に手を動かしていった。
当時、片想いだった相手が、竜を倒すための絶望的な遠征に出かけたあの時。ノエルは、自らのうちに生じた不安や切なさに突き動かされるように、自らの体を慰めることを覚えてしまったのだった。
ダニルが、悪竜を退治し、無事に帰還した今も、彼女は、その悪習から逃れることができないでいる。
「んン……ッ!」
完全にネグリジェの前をはだけたノエルは、じんじんと甘くうずく両足の間に、右の手を差し込んだ。代わって、左の手が、すでに痛いほどに立っている乳首を撫であげ、二つの胸のふくらみを交互に揉む。
まだ薄い恥毛は、細く、金色であるために、ほとんど生えているようには見えない。そんな恥丘に手を這わせながら、ノエルは、そっと自分のスリットに指先を触れさせた。
「ダ、ダメ……っ!」
ぴくン、とノエルの体が、ふかふかのマットレスの上で跳ねる。
その部分は、すでにとろとろと愛液をあふれさせ、愛撫を待ちわびてひくひくと息づいていた。
「だめ……だめよ、ダニル……おねがい、やめて……」
拒絶の言葉を漏らしながらも、空想の中の恋人の激しさに合わせるように、ノエルははしたなく両手をうごめかす。
指が、限りなく柔らかい陰唇の間に入り込み、くちゅくちゅと音を立てながら、上下する。
「んあァ、だ、だめ……はァッ……んくっ……イヤ、ぁあン……」
はぁはぁと荒い息をつき、時折、ふるふると首を振りながら、ノエルは淫らな行為に没頭していく。
「あぁ……そ、そんなトコロ……おねがい、ゆ、ゆるしてっ……」
あくまで、空想の中では、無理やりに体を犯されているだが、その手はすでに両方とも股間に回され、浅ましく快楽を汲み出していた。無論、処女であるノエルには、夫婦が閨の中でいかなる行為を行うのか、正確な知識はない。ただ、心の奥底に眠っていた浅ましい本能が、自身の一番感じる部分を残酷に責めたてることを、ノエルに教えたのだ。
指の根元までを自らの分泌液に濡らし、右手でクレヴァスをこすりあげながら、左手で、包皮に包まれたままのクリトリスを刺激する。
「あふッ……! あ、あああ、そこは、そこはダメーっ!」
フードから敏感な肉芽を露出させ、愛液を塗りつけるようにくりくりと刺激しながら、ノエルははしたなく腰を浮かしてしまっていた。
「ンうううううううううううううううううううううウっ!」
自らの未成熟な体を絶頂にまで押し上げたノエルは、びくん、と体を痙攣させた。
そして、ぐったりと体から力を抜く。
「……ああ……また、しちゃった」
ぬらり、といやらしい液に濡れた自らの指をぼんやりと見ながら、ノエルはつぶやいた。自慰のあとのけだるさと罪悪感が、じわじわとその胸に広がっていく。
「ダニル……」
その名を口にすると、急に切なくなって、ノエルはぎゅっと大きなふわふわの枕を抱き締めた。
「ダニル」
夜中、パーティーはようやく終わった。満月が西の空に傾きかけている。
そんな折、騎士団長宅の庭に佇むダニルに、不吉なローブ姿の魔道士が声をかけた。
「おお、ハリウスか」
「先刻は、悪かったな」
「気にするな。悪竜討伐の戦友だろう、俺たちは」
ダニルが、その彫りの深い顔に、裏表のない笑みを浮かべる。
「……王女殿下は、何と?」
「俺と同じ気持ちだと、そのようなことを、仰ってくださった」
少年のようにはにかみながら、ダニルが答える。ハリウスは、フードの奥の顔に、複雑な表情を浮かべた。
痩せた鋭い顔に、東方の血を受け継いだらしい、一重の目。瞳は黒く、そして、やはり黒かったはずの髪の色は、厳しい魔道の修行のためか、半ば白く変わっている。
「お前は、王女殿下に関する予言を知っているか? ダニル」
「……?」
「『かの聖王女と結ばれし者、聖魔両王国の真の主君とならん』……殿下ご生誕の際に下された予言だ」
「ああ、聞いたことはある、が……しかし、俺は、玉座に野望など持っていないぞ」
心外そうに、ダニルが言う。
「いや、俺も、お前を疑っているわけではない。ただ……せめて、レオン殿下のご即位までは、あまり軽率なことはしてくれるなよ」
「殿下のご即位? ……国王陛下のお加減は、悪いのか?」
「芳しくない。今のところ、お命に別状はないにしても、これからの激務に耐えられるかどうか……」
「そうか。だが、王子殿下が王位を継承されるにしても、すんなりとはいかんかもな」
ダニルが、太い眉をしかめた。
魔王ヴァルド・ネロが遣わした、あの巨大な竜を倒したとはいえ、アルメキアの宿敵ネルドールは健在なのだ。そして、そのような中で、片脚を失った国王や、虚弱な王太子に対し、不安の声をあげる貴族がいることも確かであった。
「……ところで、ダニル」
「なんだ?」
「あの、ギルド長のご令嬢……エレーヌ様との件は、どうするのだ?」
「それを言われると、辛い」
ダニルは、その顔に沈痛な表情を浮かべた。
「だが、エレーヌ嬢は分かってくれた。彼女は……修道院に入られるそうだ。俺は、苦悩で胸が締め付けられる思いだよ」
「……」
ハリウスは、表情を動かさない。
しかし、その心中は穏やかではなかった。
(勝手に苦悩にひたってるがいいさ)
苦労知らずの貴族の整った顔を眺めながら、ハリウスは思った。
(だが、自殺しかねんばかりだったエレーヌ嬢を説得し、怒り狂うギルド長をなだめすかして、お前の火遊びの始末をしたのは、この俺なんだぜ……)
と、その時であった。
ハリウスは、その脳髄を、細く冷たい針で刺し貫かれたような感覚にとらわれた。
「何奴!」
フードを跳ね上げ、後で結んだ半白の髪を夜風にさらしながら、邪悪な気配の方角に視線を向ける。
そこに、一匹のコウモリが、宙を舞っていた。ハリウスは、一瞬で複雑な印を組み、鋭い気合とともに呪文を完成させる。
「どうした、ハリウス?」
「……いや」
ハリウスは、息をついた。コウモリはハリウスの魔術から逃れ、飛び去ってしまっている。
「おそらく、ネルドールの間者だ」
「あのコウモリがか?」
「ああ……取り逃がしてしまったがな」
言いながら、ハリウスは、未だ頭に残る不快感を取り除こうとするかのように、自らの広い額を右手で撫で上げた。
どことは知れぬ、闇の中。
地上は、明け方である。まるで朝日に追いたてられるように、一匹のコウモリが、その闇の底部に降りてきた。
闇の中には、一人の男が佇んでいる。漆黒の、厚手のマントで全身を覆った、巨大な男である。
いや、それを“男”と称していいものかどうか。
それどころか、人間であるのかどうかさえ、判然としない。
“彼”には、顔がなかった。いや、その部分に、まるで黒い靄でもかかっているかのように、顔の造作が曖昧なのである。まるで、有り余る魔力のために、顔の周辺の空間が歪んでいるかのようだ。
ただ、その二つの紅い瞳だけが、この暗い部屋の中で、強い光を放っている。
「陛下っ! アリエル、ただいま戻りましたア」
場違いなほど明るい声で、“彼”の足元に降りたコウモリが言った。舌足らずな少女の声である。
いや、それはもはや、コウモリではなかった。
みりみりと音を立てながら、コウモリの形をとっていた体が膨れ、次第に人に似た姿をとりつつあるのである。
「……んんン……んッ……んくう……ッ」
苦悶と歓喜をうかがわせる声をあげながら、それは、次第に一人の少女の形になる。
「ぷはアっ」
ようやく、変身が完了した。
男の足元に、全裸の幼い少女が、ぺたん、と腰を下ろしている。ちょうど、第二次性徴を迎えたばかりの年頃の少女である。その薄い胸は忙しく上下し、肩までのつややかな黒髪は、妖しく濡れていた。大きな黒目がちの目はやや吊り気味で、どこか悪戯っぽい光をたたえている。
「それが……あのハリウスの心の中にあった姿か……」
低い、腹の底に響くような声が、“彼”の顔とおぼしき場所から発せられた。
「ケッサクでしょ。どんなボインのおねーちゃんがいるかと思ったら、こンななんだもん」
“彼”の、圧倒的なまでの威圧感に、まるでひるむ様子も見せず、少女はあどけない顔に笑みを浮かべた。
「そこにこそ、あの男の弱みがある……」
ぐつぐつと、何かが煮えるような音が、辺りの空気を震わせた。どうやら、“彼”が笑っているらしい。
「ねえ……ネロ陛下ぁ……」
その可愛らしい顔に似合わない、ひどくねっとりとした視線を投げかけながら、少女は、膝立ちで“彼”――ネルドール魔王国の魔王ヴァルド・ネロの脚にすりよった。
「アリエル、疲れちゃったの……。陛下の、濃くて熱い精気、アリエルにちょうだァい……」
「確かに、だいぶ消耗している様子だな」
「だぁって、あのカタブツ、本気で突っかかってくるんだもン。ちょっと頭の中、覗かれたくらいでさ」
「その堅物とやらが、お前の主人となるのだぞ」
「分かってるってばア」
そう言いながら、恐れ気もなく、立ったままのネロのマントを割り開き、その股間に顔を寄せていく。
「あはっ♪」
嬉しげな声をあげながら、少女は、ネロの股間からグロテスクな器官を両手で取り出した。それは、確かに男性器に似てはいたが、はるかに長大で、不気味な青黒い光沢を放っていた。
「スゴい……陛下の、見てるだけで、おマタがうずうずしちゃうゥ……」
少女は、飼い主に甘える仔猫のように、その奇怪な触手に右手を添え、すりすりと頬ずりした。そうしながらも、左手で自らの股間をまさぐっている。
「かつて、異界にてあの孤独な神に仕えていた身が、堕ちたものだな」
小さな口を開け、生々しい淫臭を放つその触手の丸い先端を口に咥えている少女を、ネロが嘲る。
「天使が空に住んでるんだったら、あとは堕ちるしかないもン」
少女は、鼻にかかった甘え声でそう言いながら、ピンク色の舌で、触手の先端の切れ目からにじみ出る汚穢な粘液を、おいしそうに舐めしゃぶった。
はるかな次元の彼方のヘブライの神に、“神の祭壇の炉”の名を賜り、使役されていた天使アリエルが、あどけない少女の姿を取って、魔王を名乗るものに淫猥な奉仕を捧げている。
そんなアリエルの幼げな四肢に、ネロのマントのすそから現れた何本のもの触手が、ぬらぬらと粘液をしたたらせながら、絡みついていった。
「ああン……」
ヒトの亀頭に酷似した先端を有するその触手たちは、アリエルの動きを封じながら、そのほとんど膨らんでいない胸や、無毛の恥丘をまさぐり、無遠慮に分泌液を塗りたくった。きゃしゃなアリエルの体が、きらきらと淫らに濡れ光る。
「きもちイイ……ああン……すごいィ……」
触手によるおぞましい愛撫に半ば身をゆだねながらも、アリエルは、ネロの男根――もしくは最も太い触手に、伸ばした舌を絡め、情熱的な口付けを繰り返した。その顔は、すえたような異臭を放つネロの粘液と、自らの唾液に無残に汚されながら、恍惚とした表情を浮かべている。
アリエルの胸をまさぐっていた触手が、まるで蛇が口を開けるかのように、ぱっくりと先端を割った。以外と柔らかそうなその内部で、無数に生えた半透明の繊毛がざわざわとざわめいている。
その触手が、すでに固く尖っているアリエルの乳首に吸いついた。
「ひあああああアッ!」
乳首をきつく吸引されるともに、内部の柔らかい繊毛によってこすりあげられ、アリエルは高い声をあげた。
吸いついた触手は、くいくいとアリエルの乳首を弄び、肉付きの薄い胸の形を変える。
すでに、アリエルの、ネロの半分ほどしかない小さな体は、十を数える触手に支えられ、空中に浮いている。そして、アリエルの股間に潜りこんだ触手は、その幼げなクレヴァスを思う様になぶっていた。もはや、アリエルはネロに対して奉仕をするどころではない。
「ンあ! へ、陛下、ソ、ソコはアっ!」
触手に体を拘束されたまま、アリエルは、びくン、と体を痙攣させた。触手のうちの一本が、包皮に隠れていた肉芽を探り出し、乳首をそうしたようにきつく吸い上げたのである。
「んうううううううッ! んぐッ! ヒイイッ! あいいいいイイイイイイっ!」
目のくらむような激痛と快感に、アリエルは空中で空しくのたうち回った。食いしばった小さな口からは、だらしなく唾液がしたたり、目尻からは玉のような涙がこぼれる。
「あふッ! ふあァ! イ、イっちゃうッ!」
びくん、とアリエルの幼い体が、痙攣する。
「あああ、あ、あああアァ……」
あっけなく絶頂を迎えたアリエルは、がくがくと触手と粘液にまみれた体を震えさせた後、がっくりと体から力を抜いた。
その体を、触手たちは軽々と運び、大きくVの字に脚を開いた姿勢で、ネロの腰の高さまで運んでいく。アリエルの股間は、みっともないほど大量の愛液を漏らし、まるで失禁してしまったかのようであった。
「んア……」
ぴったりとネロのペニスが自身の小さな性器にあてがわれる感触に、アリエルは空ろな表情で目を開いた。
「くれてやるぞ、堕天使め」
「ふあァ……ちょ、ちょうだいッ……」
涙と涎を垂れ流した哀れな顔で、それでもアリエルは、魔王の触手をおねだりする。
そして、アリエルの腕ほどもあるその触手が、まるで独立した生き物のように、アリエルの狭い膣内にその身を侵入させた。
「んぎッ!」
アリエルが、その大きな目を見開き、背中を弓なりに反らせる。
「ひあ……あああ……キ、キツい……キツいよう……」
ぱくぱくと、空気を求めるように小さな口を開け閉めしながら、アリエルは涙声で訴えた。その膣口は血の気が引くほどに引き伸ばされ、下腹部はネロの性器の形に膨らんでいるように見える。
しかし、触手たちはそんなアリエルの様子に構いもせず、乱暴に幼い体を上下させた。
「んあッ! あ! いアあッ! し、しぬ! しんじゃうッ!」
ずりずりと巨大な器官がアリエルの小さな性器をえぐるたびに、アリエルは悲鳴をあげた。
「あ! んふわあああああッ! あひッ! い! ひあア! ああああああああッ!」
だが、その悲鳴は次第に甘くとろけ、苦痛とともに快楽を告げるものになっていった。
それとともに、すでに大量の液を分泌していたはずのアリエルのその部分から、触手の出入りに合わせて、さらに愛液がしぶくように溢れ出る。
「ア、アリエル、もうダメ! ダメなのッ! ダメえ!」
苦痛ではなく、明らかに快楽に狂乱し、アリエルは激しく首を振った。しかし、触手たちの運動はとどまるところをしらず、アリエルの乳首やクリトリスを吸引し、その秘めやかなアヌスまでも刺激する。
「ダメっ! ダ、ダメダメダメ〜っ! もう、もうダメなの! おねがい、おねがいッ!」
もたらされる快感を、その小さな体では処理することができないかのように、アリエルは激しく身をよじった。
触手たちが、ひときわその運動を加速させる。
「んああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!」
アリエルが、ひときわ高い絶叫をあげたのとほぼ同時に、ネロの触手たちがいっせいに律動をはじめた。
そして、それぞれの先端から、大量の白濁液を、アリエルの全身に浴びせかける。
ぶびゅうっ、と驚くほどの音をあげ、ネロのペニスとアリエルのホールの隙間から、大量の粘液が溢れ出た。
「ふあああッ……あひ……ス、スゴい……いっぱい、いっぱいなの……」
魔王の熱い体液を通し、凄まじい量の精気を吸収しながら、アリエルは至福の表情を浮かべていた。
触手たちが、興味を失ったように、アリエルの体をネロの足元に横たえる。
「ふわァ……」
しばらく後、ぼんやりと、アリエルは目を開けた。
そして、がくがくと手足を震わせながらも、ネロの足元に犬のようにはいつくばる。
「んふ……もったいなァい……」
そんなことを言いながら、アリエルは、床にこぼれ落ちたネロの体液を、ぴちゃぴちゃといつまでも舐めしゃぶるのだった。