School after School


lesson 1



プロローグ



 葬式がそうであるように、結婚式も、残された人の気持ちを整理させるためにあるんだと、僕は思う。

 今、姉さんの結婚披露宴が、終わりを迎えようとしていた。
 スポットライトを浴びながら、淡いブルーのドレスをまとった姉さんが、父さんと母さんへの手紙を読んでいる。
 あざといくらい、涙を誘う演出。
 でも、ここで泣いちゃった方が、気持ちはスッキリするんだろう。
 だから、父さんも、こんなに大勢の人の前で、涙ぐんでいる。
 父さんには、僕の分も泣いてほしいと思う。それが許される立場なんだから。
 僕は、泣かない。
 弟である僕が、姉さんの結婚式で泣くなんて、どうかしている。
 だから、僕は、姉さんや、父さんや母さん、そして、姉さんの隣にいる人を、ただ見つめていた。
 あんなに優しく、そのくせ頼もしく微笑むことのできる、姉さんの、旦那さん。
 お酒に弱いあの人は、この式の間に飲まされた大量のアルコールに真っ赤になりながら、それでもまだ緊張した顔で、姉さんの隣にいる。
 あの人が、姉さんに相応しくないような人だったら、よかったのに……。
 視界がじんわりとにじんでいるのが、とても奇妙だ。
 とりあえず、僕は目を閉じることにしてみた。
 そして、目蓋の裏に、昨夜の姉さんの姿を蘇らせようとする。
 泣くような可愛い声をあげながら、僕の腕の中でうねった、白い、ほんとうに白い、姉さんの、からだ。
 あのとき僕は、初めて、姉さんの体の中に、熱い思いの丈をぶちまけた。
 自らの体液を、血を分けた姉に注ぎ込む、背徳と倒錯のカイラク。
 このまま、死んでしまうんじゃないかと思うくらいに、頭の中が真っ白になった。
 姉の結婚式の日に、こんなことを考えるような弟が、果たしているだろうか。
 声に出さずに、笑う。
 もう大丈夫だ。
 僕は、あの姉さんの隣にいる人を、憐れみの目で見ることができる。
 できる――はずだ。
 そう思って、目を開いた。
 視界は、さっき以上にボケボケだった。
 姉さんも、旦那さんも、父さんも、母さんも、どんな顔してるのかさっぱりわからない。
 僕は、メガネを外し――
 そして、不可解にも頬を濡らしている熱い何かを、闇にまぎれて、慌ててぬぐったのだった。

 それが、この春のことである。


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