エピローグ
そして、あれからしばらくたった、ある夜のこと。
「センパイ……こわい……」
「鳴川……?」
「こわい……やっぱり、人を好きになるって、こわい、ですよう……」
「ん……」
僕は、鳴川の涙をキスでぬぐった。
鳴川は、僕の胸の中で、こわい、こわい、と繰り返している。
まるで、むずがる子どものようだ。
あれ以来、僕は、何度も何度も、鳴川の家で、一夜を過ごした。
そして鳴川は、夜中、僕と一緒に寝てるとき、何かの拍子で、こうなってしまうことがある。
そういう時、僕は、鳴川が泣き止むまで、その体を撫でてやるのだ。
そのまま、つい勢いで、ということもあるけど……。
この夜も、そうだった。
不安の嗚咽が、快楽のすすり泣きに変わるまで、鳴川の細い体を責める。
普段と違う、静かな、静かな営み。
それが終わると、ようやく鳴川は、安心したような微笑みを漏らした。
「また、ごまかされちゃった感じ……」
そして鳴川は、その微笑みのまま、そんなことを言った。
「そう、かな……?」
「だって、センパイのセックス、きもちいいから……」
ふふ、と鳴川が声に出して笑う。
「どんなに不安でも、ごまかされちゃうんですよう」
甘えるような、すねるような、そして、いつものことながら予想外の、セリフ。
そんな鳴川がたまらなく愛しくて、ぎゅっと抱きしめる。
できることなら、僕の体温で、鳴川の不安を全て融かしてあげたい。
そのためには、時間がかかるかもしれないけど……。
だから、僕と鳴川は、近い将来、一緒に生活するようになる。
今は、そんな確信に近い予感が、僕の胸にあるのだった。