第6章
いろいろと悩みを抱えているうちに試験期間となり、そしてそのまま期末試験が嵐のように頭上を通り過ぎた。
今、自分が思い悩んでいることに比べれば、学校の勉強なんて大したことじゃない――というのは理屈だけの話。結局、僕たち学生は、それでも試験というものに集中するよう習慣付けられてしまっているのだ。
いや、むしろ僕は、勉強に集中することで、しばし悩みを忘れようとしていたのかもしれない。
が、試験は終わった。
すでにすっかり夏の色になった空を仰ぎながら、僕は、ぼんやりと校門のところに立っていた。
目の前を、無味乾燥な試験勉強から一時解放され、一様に晴れやかな顔をした生徒たちが、下校している。
今日は金曜日。このまま、週明けにテストの返却があって、そのあとは夏休みである。
とは言っても、今のところ、特に予定なんか無い。
だけど……だけど、もし――。
と、長すぎる休みに思いを馳せかけたとき、目的のコが現れた。
「鳴川」
「あ、センパイ」
手をあげる僕に、鳴川は、にこにこ笑いながら小走りに近付いてきた。二つに結んだ猫っ毛が、ふるふると揺れている。
「待っててくれたんですか?」
「うん」
鳴川の問いに、僕は短くうなずいた。
「教室に行くと、よくすれ違いになるから、こっちの方が確実だと思ってさ」
「あは、あたし、帰るの早いから」
ぺろ、と鳴川が舌を出す。
「でも、今日は、そうでもなかったんだ?」
「試験が終わったの嬉しくて、ちょっと教室でぼーっとしてました」
「へえ。じゃあ、教室の方に行けばよかった」
そんな、他愛のないことを話しながら、バスに乗る。
「で……待ち伏せしてたってことは……」
バスが走り出すやいなや、並んで席についた僕に、鳴川は、ちら、と流し目を寄越した。
「センパイも、その気ってコトですよね?」
「それは、その……」
僕は、周囲に目をやりながら、言葉を探した。
確かに僕は、鳴川を抱きたいと思ってる。ただ、それだけじゃないのが、問題なんだけど。
「あたしは、その気ですよ?」
と、さすがに頬を赤く染めながらも、ささやくような声で、鳴川が言う。
「でも、今日は、家に家族がいるけど」
僕は、とりあえず、そう言ってみる。さすがに僕の小遣いでは、そうたびたびホテルに入ることはできない。
「あ、そうですか……」
「鳴川の家は、どうなの?」
言われて、鳴川はちょっと考え込んだ。
ふと、その黒い瞳に、いつになく物憂げな影が差す。
「――分かりました。いーですよ♪」
しかし、一転して明るい声で、鳴川はそう言った。
「家族はいないから、うんと楽しめますよう」
そう言って僕の顔を赤らめさせる鳴川は、いつもの彼女と全く同じに見えた。
鳴川の家は、郊外にある大きなマンションだった。
築10年以上は経ってる感じで、白い壁が強い太陽の光を反射させている。
鳴川の部屋は、8階。
スチールのドアにかけられたカギを、鳴川は、慣れた手つきで外した。
「おじゃまします」
そう、律義に言った僕の方を振り返り、鳴川が、くすっと笑う。
鳴川の家の中は――何もなかった。
家自体が殺風景なのだ。家具とか、調度品らしきものが、ほとんどない。
「こっちが、あたしの部屋です」
鳴川が、廊下の先を指差す。
「と言っても、ここ、あたししか住んでないんですけどね」
そう言って案内されたのは、明らかにリビングだった。
なのに、でん、とスチールパイプのベッドがある。
それと、何着か服がかけられたパイプハンガーと、職員室にでもありそうな事務机。その机の上には、ちょっと旧式っぽいパソコンとディスプレイが置かれている。
小間物とかポスターとか、女のコらしい装飾なんかは全然ない。それどころか、カーテンすらなかった。窓の外には高い建物がないから、覗かれる心配は、ないと思うけど……。
夏の高い日差しは部屋の中まで入ってこず、何だか奇妙に薄暗い。
「アニメに出てきた部屋みたいでしょ?」
そう言って、鳴川は、僕の観たことのないアニメのヒロインらしき名前を口にした。
「いや、よくわからない」
「なーんだ。先輩知ってたら、ココに、血まみれの包帯の詰まったハコとか用意してたのに」
それって、どういう話?
いやまあ、そんなことはどうでもいい。
「鳴川、ここに一人で住んでるの?」
「そうですよう」
何でもなさそうにそう言いながら、鳴川は、イスの上にカバンを置いた。
「家計苦しいから、もらい物や拾い物で、どうにかしてるんですよ。あと、フリマとか」
「へえ……」
「このパソコンは、自作マニアの人からもらったんです。バイト先の店長さんなんですけどね。その人ってば、使う予定もないのに、どんどんパソコン作っちゃうんですよ。すごいですよね」
「そうなんだ」
僕は、どんなコトを言えばいいのか、分からなくなっている。
いろいろと事情を抱えてるんじゃないかとは思っていたのだが、この部屋は、正直、予想外だったのだ。
明るく、屈託のない笑顔で語る鳴川が、普段はこんな部屋で一人過ごしてるということが、どうしてもしっくりこない。
と言うか、白い壁紙や、カーペットも何も敷かれていない、合成樹脂のタイルが剥き出しの床が、あまりに無機質で――なんだか、痛々しかった。
「シャワー、浴びましょ」
鳴川が、そう言って、僕の顔をのぞきこむ。
僕は、無言でうなずいた。
広めのユニットバスの中、例によって、僕の知らない歌を口ずさみながら、鳴川がシャワーを浴びている。
水滴が流れるその背中は、すごく小さく思えた。
「鳴川……」
僕は、なんだかたまらなくなって、後から鳴川の体を抱きしめた。
「あ、もう、センパイってば、せっかちさんですよう」
そういうつもりじゃ、なかったんだけど――
だけど、股間のものは、僕の思いとは無関係に、きちんと屹立してしまっている。これじゃあ、何を言っても説得力がない。
「んふふっ」
鳴川が、小さく笑いながら、僕の腕の中で、振り返った。
そして、僕の足元にひざまずく。
「え、ちょっと……」
「はじめてだから、あまり上手じゃないと思うんですけど……」
言いながら、鳴川は、すっかり上を向いている僕のモノに両手を添えた。
「ん……っ♪」
そして、目を閉じ、亀頭の部分に、ちゅっ、とキスをする。
「な、鳴川……」
このまま、こんなふうに始めてしまっていいのだろうか、などと考えているうちに、鳴川は、そのやわらかなくちびるを、僕のモノにかぶせてしまった。
「あ……」
生温かい快感に、息が漏れた。
情けないことに、鳴川に対する気使いとか、そういったものが、とろとろと溶けていってしまう。
と、鳴川は、幹の途中まで口にくわえたところで、動きを止めた。
そして、何か考え込むようにうっすらと目を開いてから、もごもごと口を動かす。
「あ、んっ……」
たどたどしいながらも、しっかりとうごめいている舌の感触に、僕は思わず声をあげてしまった。
鳴川のくちびるが、僕のシャフトの表面を、ぬるぬると滑り、前後する。
腰がくだけてしまいそうなほどの快感だ。
「どうですか、センパイ?」
唾液の糸を引きながら口を離し、鳴川が上目使いで訊いた。
「ゲームとか、マンガとかで、いろいろ勉強したんですけど」
「き、きもちいいよ……」
僕は、正直にそう答えてしまう。
「うれしい♪」
そして鳴川は、はむっ、とまた僕のペニスをくわえこんだ。
そして、わざとなのか、ちゅばちゅばと音を立てながら、僕のそこを刺激する。
見ると、まだ幼さの残る鳴川の顔に、どこかうっとりしたような表情が浮かんでいた。
フェラチオをすることで、自分でも興奮してしまっているらしい。
ふゥン、ふゥン、という可愛らしい鼻声が、シャワーの音に混じってかすかに聞こえる。
僕は、どうしていいか分からずに、鳴川の濡れた髪に、ゆるく指をからめた。
このまま、鳴川の頭を固定して、激しく腰を使いたいという凶暴な衝動を、必死になって押しとどめる。
「んう……ン……んちゅ……っ」
鳴川が、竿を口から解放し、その表面に口付けした。
そして、根元と先端に手を添え、ハーモニカでも吹くように、くちびるを滑らせる。
かと思うと、舌を尖らせて、雁首のあたりをちろちろとくすぐるのだ。
その合間に、鳴川は、反応をうかがうように、ちら、と僕の顔に瞳を向ける。
ゲームとかで仕入れた知識を、全て実践しようとでもしているのだろうか?
確かに、慣れてるとは言えない感じだけど、ダイタンで情熱的な愛撫に、僕は他愛もなく先走りの汁を溢れさせてしまっている。
「あ、スゴい……男の人も、おもらし、しちゃうんですね……」
目を見開き、熱っぽい視線を僕のモノに注ぎながら、鳴川が、そんなことを言った。
そして、ちゅ、とまた鈴口の辺りに口付ける。
「んー、不思議な味……」
眉をちょっと寄せながら、鳴川が言う。
そして、今度はディープキス、とばかりに、ぬるりと亀頭を口内に収める。
そうしてから、鳴川は、僕のシャフトを、すりすりと右手の指先でしごき始めた。
「う、わっ!」
その容赦のない責めに、僕は、声をあげた。
腰が、勝手に動き出しそうになる。
そんな僕をあやすように、左手で腰のあたりを撫でながら、鳴川は、右手の動きをますます速めた。
そうしながら、亀頭全体を、舌でなぶるようにする。
僕の限界は、それで、易々と突破されてしまった。
激しい勢いで、鳴川の小さな口の中に射精してしまう。
「きゃあン!」
と、最初の一撃に驚いたのか、鳴川は悲鳴をあげながら顔を離した。
その顔や髪の毛めがけ、僕のペニスが、びゅーっ、びゅーっ、と白濁液をまきちらす。
「あ、あぁ……シャセイ、してる……」
自分でこんなにしておきながら、鳴川が、暴れる僕のペニスを見つめ、茫然とした顔でそんなことを言う。
ようやく、射精がおさまった。
鳴川は、力を失っていく僕のペニスと、精液でどろどろになった自分の両手に、交互に目をやっている。
「すごかった、ですねえ」
そして、なんだかノンキな声で、そんなことを言った。
「う、うん……」
一方僕は、まだそれどころじゃなくて、呼吸を整えるので精一杯だ。
「何だか、思ったよりどろどろしてる……って、あれ? あれえっ?」
立ちあがって、再びシャワーを浴び出した鳴川が、素っ頓狂な声をあげる。
「ど、どうしたの?」
「あ、えっと、髪に付いたの、なかなか落ちなくて」
そう言いながら、鳴川は、何やら前髪をいじって、悪戦苦闘している。
「は、恥ずかしいから、先に出ててください!」
今更のようにそう言う鳴川の勢いに圧倒され、僕は、素直に脱衣場に出たのだった。
ベッドで待ってると、ほどなくして鳴川が現れた。
まだ気になってるのか、しきりに前髪に触れていた鳴川が、僕の視線に気付いてちょっと顔を赤らめる。
「なんか、かっこ悪いですね、あたし」
そして、そんなことを言う。
「えっと、どこが?」
「髪にかかってあわてちゃうなんて、いかにも慣れてない、って感じじゃないですか」
そんな鳴川の、いつもの奇妙な背伸び。
なぜか今日に限って、その態度に、ちくんと胸が痛む。
僕は、隣に座りかける鳴川の体に、腕を回した。
そして、無言で抱きしめる。
「あン……」
鳴川は、小さな声をあげて、僕の胸に体重を預けた。
「今日のセンパイ、ホントにせっかちですね」
「ち、ちがうよ、そんなんじゃ……」
言いかける僕のくちびるを、鳴川がキスで塞ぐ。
「ン……」
そして鳴川は、そのまま、僕の体をベッドに倒した。
いつになく積極的な、鳴川のキス。
まるで、僕が何か言うのを恐れているように、鳴川は、いつまでもいつまでも、僕のくちびるを貪った。
ぴちゃぴちゃと水っぽい音を立てながら、舌を差し入れ、くちびるを吸う。
理性に、ぼおっと膜がかかる感じ。
それくらいに、鳴川のキスは気持ちいい。
鳴川は、くちびるだけじゃなくて、重ねた肌をすりすりと擦りつけてきた。
その感触に、僕のアレは、きりきりと固く立ちあがっていく。
「センパイ、さわって……」
鳴川が、耳元で、僕にそうささやいた。
僕は、まるで催眠術にでもかかったように、鳴川の股間に手を伸ばした。
僕の腰をまたぐように脚を開いていた鳴川が、膝を立てて隙間を作る。
僕は、鳴川のやわらかなその部分に、触れた。
すでに溢れていた愛液が、指にからみつく。
「んっ……く、うン……んン……」
鳴川が、甘えるような声をあげながら、ぺろぺろと僕の胸元をなめた。
くすぐったいような淡い快感を感じながら、僕は、指を動かす。
くちっ、くちっ、という湿った音が、次第に大きくなった。
手の平に、鳴川の分泌する液が、つつーっ、と流れるのを感じる。
「あ、はっ……きもち、イイ……」
鳴川はそう言いながら、その右手の指を、僕のアレに絡めた。
そして、僕の胸に突っ伏すような姿勢のまま、僕のペニスを優しくしごきだす。
「あ……ン……く……」
「はぁ……アン……ア……んんン……」
僕の漏らす声と、鳴川の可愛い喘ぎが、とけあって耳に届いた。
僕がそうであるように、鳴川も、僕のアレを愛撫しながら、余計に感じてるんだと思う。
とろとろと湧き出てくる鳴川の液は、たぶん、もう太ももの内側まで濡らしてしまってるだろう。
僕は、右手で鳴川のそこを責め続けながら、ちょっと強引に、彼女の頭を左手で引き寄せた。
「あ……」
半開きになったまま、甘い吐息を漏らしている鳴川のくちびるに、キスをする。
「んっ……ン……んん……」
鳴川が、弱々しく身じろぎする。
ムリな姿勢に息が苦しくなって、くちびるを離した時、鳴川の瞳は、涙で潤んでいた。
「い、入れますね……っ」
そして、そう短く宣言して、体を起こす。
どうやら、いわゆる騎乗位でつながろうとするつもりのようだ。
ぽたっ、と雫になった鳴川の愛液が、僕の下腹部に滴る。
鳴川は、舌でくちびるを湿らせながら、僕の腰を膝でまたいだ姿勢で、ペニスに手を伸ばした。
でも、やっぱり、はじめての体位なんで、勝手が分からないんだろう。鳴川の腰付きは、なんだか危なっかしい。はぁっ、はぁっ、と息をしながら、ふらふらと腰を揺らしている。
僕は、鳴川の腰に左手を添え、右手で、自らのペニスをきちんと上向きにした。
鳴川が、まるで、していた事を横取りされた子供のような顔で、むっ、と僕をにらむ。
僕は、ちょっとしたイタズラ心に誘われて、右手に持ったペニスの先端で、くちゅくちゅと鳴川の入り口をまさぐった。
「あ、う、んくゥ……」
鳴川の腰から、ふら、と力が抜ける。
ぬるっ、と鳴川のアソコが、僕の先端をくわえこんだ。
「んう……!」
鳴川は、一瞬だけ悔しそうに眉を寄せてから、ゆっくりと腰を落としていった。
ペニスが、温かな鳴川の中に収まっていく。
「あぁ……ン……ふゥん……」
鳴川が、声を漏らす。
僕は、ペニスに添えていた右手を放し、鳴川の細いウェストを両手で持った。
そして、鳴川の腰を引き寄せながら、ペニスを下から突き上げる。
「はぁン!」
びくん、と鳴川の体が、のけぞった。
「はぁぁぁぁ……」
鳴川が、根元まで僕のを飲みこんだ状態で、僕の胸に両手を付く。
そして、目を閉じ、切なそうに眉をたわめながら、くいっ、くいっ、と腰を動かし始めた。
からみついてくるような鳴川のアソコの感触もさる事ながら、彼女の丸いヒップの可愛らしい動きに、僕は、頭が熱く感じるくらいに興奮してしまう。
鳴川の動きは、いやらしくて、それでいながら、何だか危なっかしかった。
ともすれば、湧き起こる快感に力が抜けてしまうのだろうか。止まりがちな自分の腰に鞭打つように、うんっ、うんっ、と小さく声をあげながら、鳴川はお尻を動かしている。
大きく開いた鳴川の脚の間では、ぱっくりと開き、僕のアレをくわえこんだぬれた肉が、見え隠れしていた。
そこから視線を上に上げると、鳴川の小ぶりな胸が、ぷるん、ぷるん、と揺れている。
僕は、胸の頂点で可愛く勃起している桜色の乳首に手を伸ばし、指先で転がすように愛撫した。
「きゃううン!」
鳴川が高い声をあげながら、きゅっ、と身を縮ませた。アソコが、僕のモノを痛いくらいに締め付ける。
「す、すごいよ、鳴川……」
僕は、我ながらうわ言みたいな頼りない口調でそう言いながら、鳴川の乳首をころころと刺激し続けた。
「は、ひゃん! ひあ、あ、あぁ、あぁン……!」
鳴川が、僕のをきつく締め付けながら、身じろぎする。
膣肉でペニスをしぼられているような、たまらないカイカン。
僕は、その気持ちよさに夢中になって、いつしか腰を突き上げ続けていた。
「あン! あ! ひあ! はぁ! うンッ!」
まるで、暴れ馬にでも乗っているような感じで、僕の腰の上で、鳴川の軽い肢体が揺れる。
僕たちは、互いのもたらす快感に翻弄されながら、二人して激しく腰を使っていた。
大きく不規則なストロークで出入りする僕のペニスは、鳴川の分泌した液体でぬるぬるになっている。
それどころか、溢れた鳴川の愛液は僕の会陰を伝い、シーツにまでこぼれているようだった。
ぶちゅッ、ぶちゅッ、とヒワイな音をあげながら弾けているしぶきは、僕のへそ近くまで届いている。
と、鳴川が、胸を責め続ける僕の手から逃れようとするかのように、ぐうっと体を後に倒した。
そして、両手を自らの背後に付き、結合部を僕に見せつけるような姿勢で、腰をうごめかす。
それは、クラクラするくらいに、扇情的な眺めだった。
とても自分のものとは思えないくらいに凶暴に膨れ上がったペニスが、鳴川の、まだいたいけなクレヴァスを押し広げ、出入りしている。
「ひゃうッ!」
鳴川が、ひときわ高い声をあげた。
「コ、ココ、すごいッ!」
そう言いながら、かくかくと腰を小刻みにゆする。どうやら、一際感じる個所を見つけたらしい。
「う、あア! あくッ! ひや、あああン!」
自分で腰を使いながら、まるでムリヤリに犯されているみたいに、涙をこぼし、ぶんぶんとかぶりを振っている。
「あ、ダメぇ……なんか、なんかもれちゃうようッ!」
そう叫ぶ鳴川の声は、ほとんど泣き声だった。
なのに、自らはしたなく動かしている腰を止めることはできない様子だ。
僕は、そんな鳴川の姿に圧倒されながらも、凄まじいほどにペニスの付け根が熱くたぎっているのを感じていた。
「あ、やあッ! ダメえ! こ、これ、何? ああああアッ!」
まるで、失禁するのをこらえようとしたかのように、きゅううっ、と一際強く鳴川のその部分が収縮する。
きつく絞り上げられ、たまらなくなった僕は、再び鳴川のウェストに両手を添え、ムチャクチャに腰を使った。
「ひゃぐッ! そ、それ、ダメえええーッ……!」
そんな叫びとともに、僕の射精より一瞬早く、鳴川が、アソコから透明な体液を勢いよく迸らせる。
「あーッ! イ、イヤぁ! と、止まらないよぉーっ!」
ぴゅーっ! ぴゅーっ! とまるで射精でもしているような感じで、鳴川は体液を放ち続けた。
僕は、もう、ワケがワからなくなった。
思考を真っ白にしたまま、思い切り、ありったけの欲望をぶちまける。
「きゃああああああッ!」
スペルマを発射しながら、僕のペニスは、彼女の体内でよほど暴れたらしい。鳴川が、一際高い声をあげる。
痛いくらいに激しい射精感が、いつまでも、続いた。
びくん、びくん、と、僕の腰をまたいだまま、鳴川が体をケイレンさせている。
「ふゎ……はぁ……あぅ……はゎぁ……」
ふらっ、ふらっ、と体を揺らしながら、鳴川が、僕に覆い被さろうとする。
そして、そのまま力尽き、ぺたん、と僕の胸に倒れこんでしまった。
僕も、鳴川も、汗と体液にまみれたまま、ぴくりとも動けない。
ただ、僕たちは、殺風景な部屋の中、荒い呼吸だけを繰り返していたのだった。
先に意識を取り戻したのは、僕だったと思う。
胸の上では、鳴川が、まだ、くったりと体を横たえていた。
汗と、シャンプーの匂いが混じったような鳴川の髪の香りが、鼻孔をくすぐる。
僕は、自分でも意識しないうちに、鳴川の細めの猫っ毛を撫でつけていた。
「はぅ……セン……パイ……」
鳴川が、細い声で僕のことを呼びながら、顔を起こす。
僕は、そんな鳴川に、静かに、口付けした。
「ん……」
舌を使わない、くちびるだけの、淡いキス。
と、そんなキスをじっと受けとめていた鳴川が、ばっ、といきなり体を起こした。
「や、ダメ……っ!」
かなりびっくりした顔をしているであろう僕に、鳴川が、口元を右手で押さえながら言った。
「こ、こんな、恋人同士みたいなキスしちゃ、ダメですよう……」
そして、泣きそうな声で、そう抗議をする。
「どうして……?」
僕は、シーツの上で座りこんでいる姿勢の鳴川に向き合うように、上体を起こし、訊いた。
「だ、だから、あたし、そういうのダメって……」
「それは、聞いたよ。でも、なんでなの?」
そう、重ねて訊くと、鳴川はうつむいた。
「理由、あるんでしょ?」
「……どうしても、聞きたいですか?」
そう言う鳴川の表情は、前髪に隠れて見えない。
「聞きたい」
僕は、短くそう答えた。
「じゃあ……話しますね……」
小さく吐息を漏らしてから、鳴川が口を開く。
「――あたし、父親、いないんです」
そして、ぽつん、と物を放るような感じで、鳴川は言った。
「戸籍上もそうだし、どんな人間なのも、知らないんです。――それに、知りたいとも思いません」
いつになく冷たく乾いた、鳴川の声。
「お母さんは、要するに、その男に捨てられたんですね。で、その時、あたしを妊娠してて……そのことが知れて、親に勘当されたんですよ。縁を切られたんです。お母さんの実家って、厳しくて……ここらへんだと、けっこう名家ってことになってるみたいですね。どうでもいいですけど」
「そう、なんだ……」
と、僕の声から同情の響きを聞き取ったのか、鳴川はきっと顔を上げた。
「あたしは別に、このこと、不幸だなんて思ってませんよ」
「あ、うん……」
僕の、あまりにマヌケな声。
「お母さんは、実家からの援助もほとんどなしで、あたしを立派に育ててくれました。あたし、お母さんを尊敬してます」
「うん……」
「あたし、お母さんが好きでした。もともとお嬢さん育ちだったのに、いつも明るくて、強くて、すごくキレイで……あたしに、父親なんて、要らなかったんです」
一言一言区切るような、強い口調。
「なのに、あたし……お母さんに、ある日、訊いちゃったんです……。あたしの父親って、どんな人って……」
声を抑えることで隠そうとしても隠し切れない後悔の色が、鳴川の口調ににじむ。
「その時あたし、学校で色々言われて、ちょっと普通じゃなかったんですね。でも、お母さんは、真に受けちゃって……あたしの言葉なんて、聞き流してくれればよかったのに……」
「それは……」
それはムリだよ、と僕は言いかける。
「その日から、お母さん、たくさんお酒を呑むようになっちゃって」
けど、鳴川は、僕が何か言うのを遮るように、強引に話を続けた。
「お母さんは、普段ならいつも通りだったんですけど、お酒呑むと、ダメだったんです。テーブルに突っ伏して、泣きながら、いろいろ言うんですよ。きっとあの人は、迎えに来てくれるはずだ、とか……そういう、コトを……」
「……」
「それで、あたしが慰めると、ごめん、ごめん、ってあたしに謝るんです。あたし、謝って欲しくなんかなかった。ただ……いつも通り、笑ってほしかったのに……」
ぎゅっ、と鳴川が、こぶしを握る。
「……で、やっぱ、結局のところ、誰も迎えになんか来なかったんですよね。父親も、実家も、お母さんを見捨てたままだったんです。お母さんは、お酒の呑み過ぎで体壊して、死んじゃって……伯父さんも伯母さんも、その時は、せいせいしたって顔でした」
もう、鳴川の声からは、何の感情もうかがえない。
まるで用意された文章をただ読んでいるような、そんな口調。
「で、あたしの法律上の保護者は、伯父夫婦ってことになりました。でも、伯父さんの家にいるといろいろ向こうの子どもたちに教育上よくないからって、ここにいていいってことになったんです。もちろん、伯父さんの家に住みたいなんて、ぜんぜん思いませんでしたけど」
「……」
「だから、なのかな? あたし、人に依存するのがイヤなんですよ。まあ、伯父さんも、この部屋のお金は出してますけど、生活費とかは出す気ないみたいで……今は母さんの遺産食いつぶしてるんです」
「……」
「やだなあ、そんな顔しないでくださいよう」
鳴川が、にこっと微笑んだ。
けして、ムリして作った笑顔じゃない。普段通りの鳴川だ。
それが、余計に、辛い。
「あたし、この生活も、自分の性格も、けっこう気に入ってるんですから」
鳴川が、いつもの通りの口調で言う。
僕は、何を言っていいのか分からない。
そういう、未熟な自分が、心底イヤになった。
「鳴川……」
そう呼びかける声すら、情けないくらいに震えている。
「――しばらく、会わないでいましょう、センパイ」
そんな僕に、鳴川が言った。
「え……?」
まるで、刑の宣告を受けた罪人のような気分で、僕は聞き返す。
「やっぱり、言わなきゃよかったですよう。今のセンパイ、なんだか、すっごく辛そう」
「こ、これは、その……」
「センパイ、優しいからなあ」
ふふっ、と鳴川が微笑む。
「でも、いいんですよ、そんなふうに考えなくて。だって、センパイが責任感じることじゃないじゃないですか」
「……」
「――別に、愛なんかなくたって、セックスはできるし、子供だってできちゃうんですよね。あたしが、そうだったように」
まだ何か言おうとしている僕に止めを刺すように、鳴川は言った。
「けど、今のセンパイとは……セックスしたくないです。あたし、センパイの重荷になりたくないから」
もう、何も言えない。
僕は、何かを、間違えた。
何を間違えたのか分からないまま、その確信だけがじわじわと胸に広がっていく。
人生は、取り返しの付かない過ちの連続。
そんなことをぼんやりと思いながら――僕は、いつのまにか、鳴川に見送られ、白茶けたマンションを後にしていたのだった。
週末は、不思議なくらい、静かに、そして機械的に過ぎていった。
月曜日。昼前から、雨が降り出した。
土砂降りである。
朝から空は鉛色に曇っていたし、天気予報でもしきりに呼びかけていたんだけど、僕は、傘を持って来ていなかった。
傘を用意することすら面倒だったのだ。
放課後になっても一向に止む様子を見せない外の雨を眺めてから、僕は、特別棟に移動した。
ぬれて帰るのも悪くはなかったけど、親に何か言われるのもわずらわしい。
けど、図書室も、文芸部の部室も、閉まっていた。
と、文芸部の部室の隣の、漫研の部室のドアが開いているのが、目に止まる。
覗くと、林堂さんと、あと西永さんがいた。やっぱり雨が止むのを待ってるのか、並んでマンガなんか読んでいる。
「あの……ここで時間つぶしたいんですけど、いいですか?」
そう言うと、僕に気付いた林堂さんが、ちょっとだけバツの悪そうな顔をした。
「ん? あ、どーぞォ」
西永さんが、屈託のない口調で言う。
「と言っても、あたしも漫研のヒトじゃないんだけどねっ」
そう言う彼女に、林堂さんは、小さく耳打ちをした。と、見る見る西永さんの顔が、赤くなる。
が、そんな反応にも、なんの興味も湧かない。僕は、本棚の膨大なマンガや資料のうちから、適当なのを見つけ、ソファーに座った。
「――えと、黒須くん?」
しばらくして、西永さんが話しかけてきた。どうやら、林堂さんから、僕の話を少しは聞いているらしい。どこまで話題にしたのかは、どうでもいいけど。
「はい」
とりあえず、無愛想にならないぎりぎりの声で、答える。
「君、顔が死んでるよ」
眉をひそめながら、西永さんは言った。
「そう――かもしれませんね」
僕は、そう答えてから、なぜかちょっと笑ってしまった。
自分でもぞっとするような、自嘲じみた笑い方。
「俺がこの前言ったこと、余計だったか?」
そう、林堂さんが訊いてくる。
「そう――じゃないと思います……。いずれは、こんなふうになると思ってましたし」
「こんなふう?」
当然のコトながら、西永さんには話が見えないようだ。不思議そうな顔でそう言ってくる。
「実は――」
僕は、口を開いた。
自分でも意外なことに、鳴川との関係について、きちんと訊かれてもいないのに、話し出してしまう。
そう。僕は、このことを誰かに聞いて欲しかったのだ。話し始めてから、その事に初めて気付いた。
結局、一人で解決することどころか、胸に秘めておくことすらできない、自分。
自己嫌悪すら湧いてこない。
ただただ、この苦しみを少しでも減らしたくて、林堂さんと、そして、ほとんど初対面の西永さんにすがっている。
鳴川の抱えてる事情や、過去について、他人に話すべきかどうかなんてことにすら、思いが回らなかった。
林堂さんは、右手で口元を隠し、そして、西永さんは、その童顔に、ひどく難しい表情を浮かべていた。
「黒須くんねえ――」
僕が話し終わったとき、西永さんが、意外なほど大人びた口調で訊いてきた。
「そのコに、きちんと、好きって言った?」
「は――?」
僕の反応に、西永さんはため息をつく。
「言って、ないんだ……」
「あ、はい。でも、それは、言わなくても……」
「その鳴川さんってコもよくないけど、君も本当にダメね」
西永さんは、一刀のもとに僕を切り捨てた。
その容赦のない一言は、かえって清々しいくらいだ。
「智視ちゃんも智視ちゃんよ。もうちょっとしっかりと相談に乗ってあげられなかったの?」
「いやその……瑞穂の方が適任だろうとは、言ったんだけどな」
そんな、珍しく筋の通らないコトを言う林堂さんを、西永さんがにらみつける。
「まったくう。そのくせ、女のコの相談を受けたときなんかは、すごーく熱心なんだから」
「いや、それは……えーと……」
林堂さんが、とっちめられている。
おかしな、という表現を通り越して、ちょっと不思議な光景だ。
「でもね、こんな智視ちゃんだってねえ、たまには、きちんとあたしに好きって言ってくれるんだよ?」
と、また矛先が僕の方を向いた。いや、これは二人を同時に攻撃してるのかな?
「特に、その鳴川さんみたいなタイプには、何度も何度も言ってあげないとダメだと思う。話は、それからだよ。分かった?」
お姉さんぽい口調でそう言いながら人差し指を立てる西永さんに、僕はうなずく。
と、僕の携帯が鳴った。
「――センパイ?」
鳴川からだった。
「今、だいじょぶですか?」
普段通りのような、そうでないような、ヘンな感じの声。
「あ、うん、だいじょぶ、だけど……」
視線をやると、林堂さんと西永さんが、興味深そうにこっちを見てる。
「よかったあ。あのー……あんなコトいってすぐになんですけど……助けて、ほしいんですよう」
「は?」
「あたし、今、追いかけられてるみたいで……」
「えええ?」
言われてみると、移動しながらかけてるせいか、受信状況が悪い。
「追われてるって……誰に? どういうこと? それって」
「あの、あたし――おととい、援助交際、やってみたんです」
鳴川は、とんでもないことを言った。
僕は、携帯を握り締め、息を止める。
「でも、途中で恐くなって……ホテル入る直前で、逃げ出したんです。そしたら、どうもその人、ヤクザっぽいって言うか、普通の人じゃなかったみたいで……」
「こ――この馬鹿ッ!」
僕は、あらん限りの声で叫んでいた。
半分は鳴川に、あとの半分は、僕自身に向けた言葉だ。
「ご、ごめんなさい……っ」
鳴川の声が、泣き声に変わる。
「え、えっと……怒鳴って、ごめん。今、どこにいるの?」
小さな子供みたいに、ごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返す鳴川を、できるだけ落ち着かせようと、僕は努めて声を平静にしようとする。
「デ、デパートの、前です。今日、帰ったら、マンションの前に、その人のみたいな車が停まってて……それで、駅の方に行くバスに乗って……人がたくさんいる方がいいと思って……でも、でも、なんか周りの人が、みんなあの人の仲間みたいで……」
明らかにパニックに陥ってるらしく、上ずった声で、鳴川が言う。
「分かった、すぐ行くから」
「あ、ありがとう、センパ――きゃっ!」
「何?」
「あ、あの人が、こっちに――ごめんなさいっ!」
その声を最後に、鳴川の声が、不意に途切れた。
「鳴川? 鳴川っ?」
呼びかけても、ツー、ツー、ツー、ツー、という音が響くばかりだ。
「どうした?」
僕の肩に手を置き、林堂さんが訊く。
「な、鳴川が……あいつ、誰かに……ヤクザとか……それで電話を急に切って……」
僕自身、すっかり混乱してしまって、きちんと言葉が出てこない。
「鳴川ってコが、何者かに拉致された可能性がある、ということか?」
察しよく、林堂さんが言う。僕は、うなずいた。
「分かった」
そう言って、林堂さんは、右手で口元を隠す。
「しばらくしてから、もう一度、彼女に電話をかけるんだ。その時の状況で、場所を割り出す」
「で、でも、そんなことしたら……」
「確かに、これは賭けになる」
林堂さんが言う。
「それとも、何もせず、あてもないまま、警察に通報するかい?」
「……いえ」
僕は、首を振った。それでは、手遅れになってしまうかもしれない。
「もし、彼女が携帯を道路に落としていたら、目撃者が着信音を鳴らしている携帯を拾うことに賭ける。そうでなければ……彼女が、犯人に気付かれないように着信することに賭ける。最後の時の様子は、どうだった?」
「えっと……たぶん、鳴川は、自分で携帯を切ったんだと思います」
「いい判断だな。携帯を取り上げられたら、元も子もない」
林堂さんが、鋭い視線を宙にさまよわせる。
「街中で拉致……目撃者のないタイミング……外はまだ雨……おそらく、スモークガラスの自動車だな。で、まず間違いなく後部座席……。犯人が単独なのかどうか、分かるか?」
「たぶん、一人です。あの人が、って言ってたから」
「まあ、これも賭けだな。でも、分は悪くない。自分から携帯を切ったくらいだから、マナーモードにするくらいは考えてると思おう。あとは行き先……」
言いながら、林堂さんは、腕時計を確かめた。
「そろそろ、電話をかけた方がいいな」
その林堂さんの言葉に、僕と、あとようやく事情を飲み込めたらしい西永さんが、息を飲む。
「警察には、それから連絡しよう。――で、どうする?」
最初、僕は、林堂さんの問いかけの意味が分からなかった。
そして、その意図に気付いて、一つ、深呼吸をする。
「僕が、かけます」
「――OK」
林堂さんがうなずくのを見て、僕は、かすかに震える指先で、鳴川の番号をプッシュした。