(ついに、見つけたわ……)
少女は、喜びに震えていた。
無論、これは比喩に過ぎない。
すでに少女は感動におののくべき肉体を失っているのだから。
それでも、少女の魂は、間違いなく歓喜の極みにあった。
(なんてこと……信じられない……怖いくらいの、偶然……)
(それとも……運命……?)
(そして、間違いなく、悪魔のささやきだわ……)
それでも、少女はためらわない。
この機会を失うわけにはいかないのだ。
(あたしは、帰らなきゃいけないんだから)
(そして、あの子を救わなきゃ……)
深く傷ついた彼女のことを考えれば、いかなる悪魔に、自らに残った最後のもの――魂を売り渡すことになろうとも、なんでもない。
(最高の素材……もう一人のあたし……)
少女は、時間と空間の狭間をさまよいながら、ようやく発見した“それ”に、ゆっくりと舞い降りた。
(あなたを、借りるわ……)
(ううん……あたしはあなたになる……あなたはあたしになって……あたしは……)
(心が、一つになる……癒着して……融合して……同化して……)
(ゆっくり……ゆっくり……ゆっくり……)
(まるで……あつらえた服に袖を通すように……)
(そして……)
久遠寺つぐみは、玄関に靴を脱ぎ捨てるようにして階段を駆け登り、自室に飛び込んだ。
大きな音を立て、ドアを閉める。その閉めたドアに背中を押しつけ、ささやかに膨らんだ胸を上下させながら、息を整えた。
窓の外は、明るい春の空。遠くの公園で、桜がほころんでいるのが見える。
「ふーっ……」
落ちつくと、今度は、じわっと涙が溢れてきた。
紺色の制服に包まれたしなやかな肢体が、ずるずるずる、とずり下がる。
「うっ……」
とうとう、こらえていた嗚咽が、溢れてしまった。
「うっ……ううっ……んくっ……」
密かに自慢の長いストレートの黒髪をわずかに乱れさせながら、つぐみは白い両手で顔を覆って泣き出した。
両親は、いつも夜遅くにならないと帰ってこない。
春だというのに、妙に寒々とした家の中で、少女は孤独だった。
卒業式のこの日、つぐみは、美術部の先輩である本坂幸治に告白された。
いつも冗談ばかり言って人を笑わせている本坂は、つぐみが気を許せる数少ない男性の一人だった。
その本坂が、いつになく真剣な顔で、つぐみの顔をじっと見つめ、言ったのだ。
「オレ、四月から東京の大学行くんだ……。だから……」
他に誰もいない、テレピン油の匂いがたちこめる美術室。外では、別れを惜しむ卒業生たちの声が響いている。
「だから、想い出がほしいんだ」
そう言いながら、本坂は、つぐみの細い肩に手を置いた。
「いいだろ、つぐみちゃん……」
本坂の顔が、近付いてくる。
つぐみは、思わず目を閉じてしまった。
(――こわい)
つぐみの頭を支配していたのは、恐怖だった。
恐怖で、体が動かない。よく言われる“ヘビににらまれたカエル”とはこれか、と思うほどに、全身が緊張しがちがちになっている。
そんなつぐみの唇に、本坂の唇が重なった。
「んんっ……」
高校一年生の最後にして、初めてのキス。――だが、何のときめきも感じない。
ただ、自分が何の返事もしないうちに唇を奪った本坂に対する、言いようのない恐怖と、理不尽な嫌悪が高まるだけだ。
そして、その本坂のごつごつした手が、セーラー服に包まれた胸に触れたとき、つぐみの恐怖と嫌悪は爆発した。
「イヤあっ!」
どん、と本坂の体を突き飛ばす。
不意をつかれ、本坂は背後の椅子を倒しながら尻餅をついてしまった。
「つ、つぐみちゃん……?」
驚いたような顔で、本坂がつぐみの顔を見る。
「ご、ご、ごめんなさい、センパイ……」
つぐみは、全身を細かく震わせながら、ようやく言った。
「でも……やっぱりあたし……ごめんなさいっ!」
「あ、待って……!」
走り出すつぐみの背中に、本坂が叫ぶ。
しかし、つぐみは、一度も後ろを振り返らずに、歩いて十分ほどの距離の自分の家まで走り続けたのだった。
(キスされた……胸に、さわられちゃった……)
(センパイ、怒ってるだろうな……)
(でも、ダメ……やっぱり……)
(やっぱり、こわい……)
(こわい……)
つぐみは、あとからあとから溢れてくる涙をぬぐいながら、ベッドに突っ伏した。
男性に対する恐怖と、自分自信に対する嫌悪が、つぐみの胸を締め上げる。
本坂には、悪いと思う。入学当時、おずおずと美術室のドアをくぐったつぐみを、真っ先に笑顔で迎えてくれたのは、あの本坂だった。そして、軽薄めかした態度で本心を隠しながらも、極端に人見知りする彼女を、いつもフォローしてくれたのだ。
本坂なら、自分の男性恐怖症を癒してくれるのではないか、そう思ったこともあった。
だが、駄目だった。
つぐみの体は、全身で“オトコ”を拒否した。幼いころに心に刻まれた傷は、未だに、触れただけで凄まじい痛みをもたらすのだ。
どれだけの時間が経ったのだろう。
いつのまにか、窓の外は夕暮れに染まっていた。
「おねえちゃん……」
つぐみは、涙声でつぶやいた。
その時――
「はあい♪」
思わぬ返事に、つぐみはがばっと起きあがった。
「!」
悲鳴が、あまりに大きすぎて、喉から出ない。
そんなつぐみの見開いた目に、ありえない光景が映っていた。
ベッドのすぐ隣の窓の外、せりだした一階の屋根の上に、ショートカットの少女があぶなっかしく立っていたのだ。
「おねえ、ちゃん……」
それは、五年前、つぐみの目の前で血に染まって倒れた、たった一人の姉だった。
「えっへっへー」
黙っていれば“凛々しい”と言ってもいいくらいに整った顔に、にやけた笑みを浮かべながら、つぐみの姉、かずみは、片手でピースサインなんかを作っている。もう片方の手は、屋根からずり落ちないように、窓の下半分を覆う柵を握っていた。
「ね、鍵開けてよ、鍵」
かずみが、そのピースサインを作る二本の指を揃えて、外から窓のクレセント錠を示す。
「う、うん」
つぐみは、慌てて窓の錠を外した。よっこらせ、などと言いながら、かずみがアルミ製の柵を乗り越えてつぐみの部屋に入ってくる。
門限を破って締め出された姉を、よくこうやって家の中に入れたことを、つぐみはぼんやりと思い出していた。
「あ、靴ぬがなきゃ」
かずみは、ちろっとピンク色の舌を出して、窓枠のところに立ったまま、履いていたスニーカーを脱ぎ、そして窓際のベッドに降り立った。
「お、おねえちゃん……どうして……」
フレアスカートを花のようにひろげながら、ぺたんとベッドに座りこんだままのつぐみが、やはりベッドの上に座ったかずみに、茫然とした顔で言う。
「そりゃ、可愛い妹が泣いてちゃ、成仏できないでしょ」
シンプルなデザインのシャツに動きやすそうな細身のジーンズ、という男のコのような格好のかずみが、答える。
「ホントに、おねえちゃんなの?」
五年前に他界した、五歳年上の姉……。
五年も前の記憶は曖昧だし、そもそも死んだはずの姉が現れるなんてことはありえないと思う。そのせいか、自分の目の前の同い年くらいの少女を姉だと断じるには、かなり違和感が残った。
しかし、その表情や、からかうようなその話し方は、まぎれもなく死んだ姉のものだ。
「ま、疑われるのはもっともだけどね。一応、あたしはあたしよ。久遠寺かずみ。可愛いつぐみのおねえさま♪」
「まさか……ゆうれい……?」
そう言いながら、思わずつぐみはかずみの足元を見てしまった。長い脚が、綺麗な曲線を描いている。
「んー……ま、そんなもんだけどね。ちと、説明が難しいなあ」
かずみは、にっこりと笑いながら、つぐみの手をそっと握った。
「あ……」
ちょっとひんやりはするが、きちんと柔らかい感触がある。
「でも、実体はあるんだよ」
「じゃあ、じゃあなんで……?」
再び、つぐみの目からぽろぽろと涙がこぼれた。
「つぐみ?」
「じゃあ、何でもっと早く来てくれなかったのよぉ!」
叫ぶようにそう言いながら、つぐみはかずみの豊かな胸に抱きついた。
「あたし、寂しかった……寂しかったのに……!」
「ゴメンね、つぐみ……」
もう離すまい、とするように自分の体にぎゅっと抱きつく妹の、さらさらの髪を撫でながら、かずみは言った。
「ちょっと、準備に手間取っちゃって……五年もかかっちゃったの……ゴメンね……」
そんなかずみの声が耳に届いているのかいないのか、かずみは童女のように泣き続けた。
「で、さっきはなんであんなに泣いてたのよ?」
ようやく落ちついて、ベッドに腰かけた姿勢になったつぐみに、隣に同じように腰かけたかずみが訊く。
つぐみは、ぽつん、ぽつん、と今日の出来事を話し出した。
「あららー」
つぐみの話が終わったとき、かずみは天を仰いだ。
「それって、やっぱあたしのせいかなあ」
「……」
つぐみは、体を硬くして答えない。
「男がさ、みーんなああいうヘンなヤツってわけじゃないんだけどね」
「それは、分かってるよ……でも……」
今でも、目を閉じると、あの惨劇がありありと目に浮かんでしまう。
ナイフを振りかざす、かつてかずみの恋人だった男。飛び散る血。当時まだ小学生だった自分の、高い悲鳴。
そして、人形のように、力なく倒れるかずみ……。
「あれは、でも、あたしだって悪かったんだよね。二股かけてたのは事実だったし……アレ? 三つ股だったかな?」
かずみは、ひどくあっけらかんとした表情でそう言った。
「そういうことじゃない。そんなんじゃないの……」
「ふむう」
つぐみの言葉に、かずみは妙な声で唸った。
「あたし……」
「ん?」
「あたし、お姉ちゃんが好きだったの」
「は?」
思わず、かずみはつぐみのほうを向いた。つぐみも、かずみの目を見つめる。
「えっと……えーと……そりゃ、あたしも、つぐみのことは好きだけど……」
「そういうことじゃなくて……!」
もどかしげに、つぐみが言う。
そんなつぐみの肩に、かずみがそっと手を置いた。
かずみの顔に、めったに見せない、ひどく優しげな表情が浮かんでいる。
「つぐみ……」
かずみは、ほとんど聞き取れないような小さな声で、そっと囁いた。
「お姉ちゃん?」
「本坂君には、このあとどうされたんだっけ?」
「え……だから、そうやって、肩をつかまれて……キス……された……」
「こう?」
つぐみの心の隙をつくようなタイミングで、ちゅっ、とかずみはつぐみの唇をついばむようにキスをした。
「お、お姉ちゃん……!」
つぐみが、黒目がちな二重の目を、大きく見開く。
「どう? こんなだったの?」
「そ、そうじゃなくて……もっと……ずっと長く……」
つぐみの、まだあどけなさの残る顔が、みるみる赤く染まっていく。
「こんな感じ?」
そうささやくように言って、かずみはゆっくりとつぐみの唇に唇を重ねた。
「ん……」
緊張していたつぐみの体から、じわじわと力が抜けていく。
そんなつぐみの口を、柔らかいかずみの舌が優しくこじ開けた。
「んむ……ん……ふぅん……」
舌が歯をなぞり、口腔に侵入し、舌に絡まる。
つぐみは、まるで主人に媚びる子犬のような鼻声を思わず漏らしながら、かずみのキスに身をゆだねた。
ちゅぷっ、ちゅぷっ……という、濡れた柔らかな唇がたてる音が、かすかに薄暗くなりつつある部屋に響く。
最後に、またもや軽いキスをして、かずみはつぐみから顔を離した。
つぐみの瞳はぼんやりとして焦点が定まらない。
「それで、胸、触られたんだよね」
くすっ、と悪戯っぽい笑みを浮かべながら、かずみは、そっとつぐみの胸に手をやった。
「あ……ッ」
ぴくん、とつぐみの細い体が震える。
しかし、つぐみは抵抗しなかった。
そろそろと壊れ物を扱うような姉の優しい愛撫を、切なげに眉を寄せながら受け入れる。
かずみは、そんなつぐみの頬に頬を寄せ、その白いうなじにそおっと唇を這わせた。
「ひゃうっ」
つぐみが、くすぐったそうに身を縮める。
「つぐみ……」
「な、なに……おねえちゃん……」
「つぐみは、オナニーとかしたことあんの?」
「そ、そんなこと……!」
叫ぶようにそう言って、自分の声に驚いたように、つぐみはうつむいた。
「そんなこと、しないもん……」
んふふっ、と口の中で微笑んで、かずみはつぐみの恥ずかしい部分に手を伸ばした。
「あっ……!」
しわくちゃになったスカートの上から、ぐいっ、と股間に手を押しつける。
「や、やだよ……っ」
つぐみは、小さな両手をかずみの肩に当て、耳まで真っ赤に染めながら言った。
「そう? こうすると、じんじんしない?」
「わ、わかんない……」
かずみに答えるつぐみの声は、ひどく頼りない。
「ふーん」
そう言いながら、かずみは手を離した。つぐみが、半開きの口ではぁはぁと息をつく。
「じゃ、お姉ちゃんが検査したげる」
「え……?」
「女の子はね、気持ちよくなると、あそこが濡れてきちゃうのよ。覚えない?」
答えるのが恥ずかしいのか、それとも本当に知らないのか、つぐみがふるふるとかぶりを振る。
「だ・か・ら♪ お姉ちゃんが見てあげる……。そーれっ!」
「きゃ!」
妙な掛け声をかけて強引にスカートをめくるかずみに、つぐみは短い悲鳴をあげる。
つぐみは、不意をうたれた形で、ベッドの上に倒れこんでしまった。
「へえー、水色のパンツか。けっこうかーいーのはいてるんだ」
「や、やだあっ」
つぐみが、起きあがるのも忘れて、両手で顔を覆う。
「あたしの知ってるつぐみは、白いコットンのぱんつだったもんねえ。立派に成長してくれて、お姉さんは嬉しいぞ」
そんなことを言いながら、かずみは、つぐみにかぶさるようにしながら、そのショーツにそっと触れた。
「ぁ……」
つぐみが、消え入りたげな声をあげる。
かずみの指は、薄い布地の上から、はっきりとした湿り気を感じていた。
「濡れてるよ、つぐみ……」
顔を背けるようにして横を向いているつぐみの耳元に、かずみは囁いた。
「だいじょうぶ……リラックスして……」
そう言いながら、かずみは、その細い指をゆるゆると動かし始めた。
「ぁ……ぁぅ……ぅん……」
布越しの繊細な愛撫に、つぐみは声をあげてしまう。
「こわくないよ……自然なことなんだから……素直に、感じてみて……」
震えるつぐみの首筋や耳朶にキスを繰り返しながら、かずみが言う。
次第に、つぐみの全身から力が抜けていった。
「あ……んんん……んくっ……」
つぐみは、顔を覆っていた手を離し、声を漏らすまいとするかのように、その細い指を白い歯で噛んでいる。
「んはっ!」
が、つぐみは、その指さえも口からはずしてしまった。
かずみが、ショーツの中に手を差し入れ、じかにつぐみのもっとも大事な部分に触れたのだ。
かずみの中指が、無垢なつぐみのスリットに浅く潜りこみ、細かな動きを送りこむ。
そこは、すでに充分過ぎるほどに潤っており、かずみの指を滑らかに受け入れた。
「あ、あ、あ、あぁぁ……っ」
つぐみの声が、次第に高くなる。
今まで感じたことのない、危ういような快感が、つぐみのその秘めやかな部分から、じわじわと全身に広がっていく。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……っ!」
いつしか、つぐみは、自らのしとどに濡れたクレヴァスで指を游ばせているかずみにしがみついていた。
「こわい……あたし、あたし、ヘンになっちゃうよ……」
「だいじょぶよ、つぐみ」
かずみは、右手を忙しく動かしながら、空いた左手でかずみの背中を優しく抱き締めた。
「だいじょぶ。お姉ちゃんが、一緒にいるから……」
「あ、あ、あ、あぁーッ!」
つぐみは、そのしなやかな体を弓なりに反らせ、ぴくぴくと全身を痙攣させた。
そして、生まれて初めて味わう絶頂感を漂った後、ゆっくりと温かな闇に堕ちていく――。
ぼんやりとした朧の月光に照らされながら、二つの白い影が絡み合っていた。
白いシーツの上で全裸になった二人は、どこか、古い神話の中の淫靡な妖精を思わせる。
そして、姉の繊細な愛撫に喘ぐ妹の顔は、かつてないほどに安らかに見えた。
「ン……あぁ……あはっ……きもちいいよ、おねえちゃん……」
まだ固さの残る胸をくりくりと弄ばれながら、つぐみはうっとりとそう訴えた。
「ふふっ……じゃあ、こういうのはどう?」
つぐみの細い体の両脇に手をついた姿勢のかずみが、そっと上体をかぶせてくる。
かずみの豊かで形のいい乳房が、つぐみの乳房に重なった。
かずみは、くすくす笑いながら体をゆすり、互いの乳首が触れ合うようにする。
「あ……んくっ……はぁン……」
つぐみも、淡く微笑みながら、次第にその刺激に陶然となっていった。
敏感な部分同士がこすれ合い、赤く尖っていく。思うように互いを刺激できないのがもどかしく、まるでじりじりと体を炙られているような感覚を、つぐみは覚えた。
「おねえちゃん……おねがい……」
つぐみは、眉をたわめながら、切なげな声で訴えた。
「どうしたの? つぐみ」
「おねがい……つぐみのおっぱい、吸って……」
自らのはしたないおねだりに頬を染めるつぐみの唇に、かずみはちゅっ、と口付けした。
そして、その唇を、ゆっくりとずらしていく。
「あはぁ……」
頬から首筋、そして、鎖骨のくぼみを経て、かずみの唇が、ゆっくりと左の胸の膨らみを上っていく。
つぐみは、もどかしげに体をゆすった。そんなつぐみの長い髪をあやすように撫でながら、かずみはことさらじっくりと乳首の周囲を舐めまわす。
「お、おねえちゃん……は、はやく……」
疼くような切なさにせかされて、つぐみは声をあげてしまう。
ようやく、かずみの柔らかな唇が、つぐみの桜色の乳首を咥えた。
そして、ちゅうっ、と音をたてて固く尖った乳首を吸う。
「あうッ!」
待ちかねたような歓喜の声をあげながら、つぐみの細い体が小さく跳ねた。
そんなつぐみの二の腕に両手を添え、かずみは、交互に左右の乳首を責めたてる。
「あっ、あっ、ンく、はぁ〜ん……」
ぴくン、ぴくンと体を震わせながら、つぐみが可愛らしい声をあげる。
まるで、妹の体の感じる個所を全て知り尽くしているかのように、的確に性感帯を捉えながら、かずみは愛撫を続けた。
そして、乳首からさらに下、ムダな肉の全くないお腹や、お臍の周りに、くるくると舌と唇を這わせながら、かずみは体の前後を入れ替えていった。
「お、おねえちゃん……?」
はァはァと喘ぎながら不思議そうな声で言うつぐみの頭を、かずみの膝がまたいだ.
「つぐみ、脚、もっと開いて……」
かずみが、興奮のせいかちょっとかすれた声をあげる。
「ど、どうするの……?」
顔のすぐそばにある姉の秘部に、ちらちらと恥ずかしそうに視線を向けながら、つぐみが訊く。
「心配しなくてもだいじょうぶ♪」
そう言って、かずみは、柔らかなかげりに覆われたつぐみの恥丘にキスをした。
「あン」
「これからお姉ちゃんがするみたいに、つぐみもしてみて……」
「え……? ひゃうっ!」
つぐみは、思わず高い声をあげていた。
ゆるやかに開いたつぐみの脚の間に頭を差し入れたかずみが、繊細な肉襞を軽く吸い上げたのだ。
すでに愛液に濡れそぼっているつぐみのアソコが、さらに熱い蜜を溢れさせる。
「お、お姉ちゃん、そんなの……ダメ……」
弱々しい抗議の声に構わず、かずみは、つぐみのスリットの間に舌を潜らせ、ちろちろと動かした。さらには、かすかに左右にめくれあがった淫靡な粘膜を唇ではさんで刺激する。
「あ、ああッ……ひあッ……あうウん……」
「つぐみ……おねえちゃんにも、して……」
口元を妹の粘液で淫らに濡らしながら、かずみがそう言って、腰を落とす。
「おねえちゃん……」
つぐみは、目の前の柔らかそうな肉の器官がたたえる透明な蜜に誘われるように、軽く頭を持ち上げた。
「あ……そ、そう……そこ、なめて……」
うっとりとした声を、かずみがあげる。
「おねえちゃん、きもちいいの?」
「うん……すっごく、感じちゃう……」
記憶の中の姉より数段幼い声でそう訴えるかずみに、つぐみはなぜかぞくぞくとした震えを感じてしまった。
「じゃあ、もっとしてあげる……」
そう言って、つぐみは再びかずみのその部分に口を寄せた。
どうしていいか分からないまま、自分が感じる個所と同じ所を、たどたどしい動きの舌で舐めあげる。
「あン……ん、んふっ……つぐみったら……」
顔を上気させ、目を欲情に潤ませながら、かずみも愛撫を再開した。
ぴちゃぴちゃとネコがミルクを舐めるような音に、じゅるじゅるという淫猥な音が重なる。
かずみとつぐみは、与えられる快感に応えるように、互いの性器を刺激しあった。
ふンふンと鼻を鳴らしながら、息が続く限り、繊細な肉の襞を舌でなぞり、熱い愛液をすすり合う。
「おねえちゃん……あたし、あたしもう……」
しかし、先に音を上げたのは、やはりつぐみだった。
「もう、ダメ……なんだか……あ、あ、ああァ……ッ!」
これまで感じてきたものよりも何倍も激しい快楽のうねりに身をよじらせながら、つぐみが切羽詰った声をあげる。もはや、かずみの秘部を愛撫するどころではない。
「つぐみ……」
かずみは、その長い指で、つぐみのその部分を優しく、そして残酷に割り広げた。さらなる淫臭が、かずみの鼻腔を悩ましく刺激する。
かずみは、さらにつぐみのもっとも敏感な部分を覆ってるフードをめくり上げた。
「あ! おねえちゃん、そこは……!」
外気にさらされただけでひくひくとおののく、敏感過ぎるほどに敏感な部分を、かずみは激しく舐めしゃぶった。
「あひッ! ひあ! あ、あああああああああああああッ!」
未だ成熟しきっていないその体には強すぎる刺激に、つぐみは全身を硬直させた。
かまわず、ひとみはつぐみのクリトリスを吸い上げる。
「ひああああああああああああああああああああああああああああああああーッ!」
つぐみは、痛みを伴う凄まじい快感に、高い声で絶叫した。
視界が赤く暗転し、一瞬後、まばゆい光に覆われる。
そして――
蒼い月の光の中、つぐみは目を覚ました。
(おねえちゃん……?)
かずみの姿はない。わずかに開いた窓から、まだ少し冷たい夜気が入り込んでいる。
(やっぱり、ゆめ……?)
(それとも……)
少し茫然としながら、つぐみは、丁寧に自分の体にかけられていた毛布を、くるくるとその身にまとった。
そして、短く嘆息し、淡く微笑む。
まだ、両親は帰ってきていないようだ。
目覚まし時計のライトを点けると、辛うじて、人の家に電話をしても非常識でない時間である。
つぐみは、まだ少し震える手で、コードレスの受話器を取り上げた。
そして、本坂の家の番号をプッシュする。
しばらくして、電話口に出た本坂に、つぐみは、意外と落ち着いた声で丁寧に謝った。
そして、自分の気持ちを告げる。
相手が聞きたいと期待している言葉ではなく、本当の自分の気持ちを、だ。
電話口の向こうの沈黙に、つぐみは必死で耐える。
「……分かったよ、つぐみちゃん」
しばらくして、穏やかな声で、本坂は言った。
「辛くなるから、もう会わないけど……元気でね」
本坂の優しい言葉に、涙が溢れてくる。
だが、つぐみには、その温かな涙が、凍りついた自分の心を溶かしてくれるように感じられた。
つぐみは、二年生に進級した。
一学期初日の朝、温かな風に、校庭の桜が散っていく。そんな様子を、初めて座る座席で、つぐみはぼんやりと眺めていた。
と、始業を継げる間延びしたチャイムが、校内に響く。生徒たちが、座席表に従ってだらだらと自席についた。
気がつくと、つぐみの隣の席は空いたままである。
「あー、久遠寺の隣は、転校生だな……。遅れてるようだがー」
鶴のように痩せた、どこか陰の薄いつぐみのクラス担任が、困ったような声をあげる。
「おっくれましたーっ!」
と、異様に元気な声とともに、教室の前のドアが開かれた。あっけに取られる教室の雰囲気の中に、ショートカットの少女が飛び込んでくる。
つぐみは、大きく目を見開いていた。
(おねえちゃん……!)
まさしく、それは、五年前の姿のままでつぐみの目の前に現れた、あのかずみだった。
しかし――明るい日の光で見ると、どこか違う。
確かに、死んだ姉に驚くほど顔立ちはそっくりだが、それだけだ。間違いなく別人である。
「えー、転校生は、久遠寺の隣だー。ほれ、あの空いてる席」
「はあい♪」
担任が指し示すつぐみの隣の席に、少女がにこやかに微笑みながら近付いていく。
「はじめまして。あなたが、久遠寺さん?」
「う、うん……」
「あたし、早瀬ひとみ。よろしくっ」
そう言いながら、すとん、と椅子に腰掛ける。
そして、じっと自分の横顔を見つめ続けるつぐみに、ひとみは向き直った。
「どっかで、会ったことあるかな?」
「え? ……たぶん、そんなこと、ないけど」
つぐみは、自分の心臓の動悸を自覚しながら、ようやくそれだけ言った。
「あは、そうだよね。でも、なんか初めて会った気がしなくて」
そう言いながら、ひとみが、かずみそっくりの表情で笑う。
「んふふっ、なんだか口説いてるみたい。とにかく、よろしくね♪」
差し出すひとみの手を、つぐみは思わず握った。
(あ……)
体が憶えている、柔らかい、ちょっとひんやりした感触。
(やっぱり……!)
つぐみは、その時、何かを確信した。
少女たちは、この春、再会を果たしたのである。