隷嬢二人



第十二章



 姫乃は、夏希の叫びに意識を取り戻した。
 その体に、夏希が取りすがる。
「うわああああっ、ひっ、ひあああっ……姫ちゃん……ボクのせいで……ご、ごめんなさい……ごめんなさいっ……!」
 夏希は、姫乃の胸に顔を埋めるようにして、そう叫び続けた。
「な、なっちゃん……?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
 夏希が、涙声で、そう繰り返している。
 そんな親友の様子に、姫乃は、表情を堅くした。
 そして、玄関に座り込み、夏希の体に腕を回した姿勢で、巳洞を見上げる。
 巳洞は、その顔から表情を消していた。
「ご……ご主人様……あのこと、なっちゃんに言ったんですか?」
 まるで責めるような口調で、姫乃が巳洞に言う。
「あのこと?」
「だから――最初の、時のこと――」
「ああ」
 巳洞は、無表情な顔のまま、肯いた。
「どうして言っちゃったんですか?」
「ま、成り行きさ」
 巳洞の言葉に、姫乃はきっと眉を吊り上げた。
「知らない方がいいことなんて、世の中には無えんだ。小賢しくそんなコト考えるのと、後悔しないように生きることは、全然別のことだぜ」
 巳洞が、自分自身に言い聞かせるような口調で、そんなことを言う。
 が、その声の響きには、どこか言い訳じみたものがあった。
「姫ちゃん――ごめんなさい――」
 夏希が、涙で顔をグチャグチャにしながら、言う。
「ボクの――ボクのせいだったのに――なのに、ボク――」
「ちがう、ちがうよ。なっちゃんのせいじゃないよ」
 そう言って、姫乃が、夏希の背中を撫でる。
 だが、夏希は泣き止む様子を見せない。
「――そうだな。誰のせいかって言うなら、そいつは俺のせいだ」
 そのからかうような口調に、姫乃が、再び巳洞の顔に強い視線を向ける。
 巳洞は、その瞳を、真正面から見返した。
 しばし、夏希の嗚咽だけが響く。
「お前ら、今日はもう帰れよ」
「――え?」
 巳洞の言葉に、姫乃は声を上げた。
「そんなにガキみたいにわあわあ泣かれたら、とてもその気になれやしねえよ」
「でも……でも、ボク……ボクは……」
 夏希が、ひっく、ひっく、としゃくり上げながら、切れ切れに言う。
「いいから、二人とも風呂を浴びて帰れ。あとで連絡する」
「……」
「……」
「帰る時は、もちろん貞操帯を付けた状態でだぜ」
 巳洞の言葉に、夏希は、どこか安堵したような顔で、こくりと肯いた。



 二人は、並んで駅まで歩いた。
 夏希は、どこか茫然としたような表情を、その顔に浮かべている。
「……」
 姫乃は、そんな夏希の手を、そっと握った。
「あ……」
 夏希が、驚いたような顔で、姫乃の顔を見る。
「なっちゃんは、何も悪くないからね」
 いつも通りの穏やかな口調で、姫乃が言う。
「でも……」
「私の、せいなの。私が……人よりいやらしかったから、こういうことになったんだよ」
「そんな……」
 姫乃の言葉に、夏希が声を詰まらせる。
「だから、自分のこと責めるの、やめて。大好きななっちゃんが私のことでそんなふうに思うなんて、その方が、私……つらいよ……」
「姫ちゃん……」
「ごめんなさい。私がどう思うかなんて関係ないよね」
 姫乃は、小さく顔を伏せた。
「でも……これ、私のワガママだって、分かってるけど……でも、やっぱり、なっちゃんには、元気でいてほしいから……」
 姫乃が、次第に小さくなる声で、懸命に言う。
 そんな姫乃の手を、夏希は、おずおずと握り返した。



「ただいま……」
「お帰りなさい、姫乃ちゃん」
「あ、お姉ちゃん……!」
 帰宅した姫乃を出迎えたのは、琴乃だった。
 ショートに切り揃えられた癖のない黒髪と、整った目鼻立ち。スレンダーな肢体で、趣味のいいパンツルックをぴしりと着こなしている。
 琴乃は、変わっていない。その姿を目にするだけで、姫乃の胸に、思慕と憧憬の念が鮮やかに甦った。
「私もね、さっき帰ったばかりなのよ」
「え、えっと……おかえりなさい……」
「うん、ただいま♪」
 にこりと、同性の姫乃が見てもはっとするほど魅力的な笑みを、琴乃が浮かべる。
「さ、そんなところで立ってないで、上がりなさいな」
「う、うん……」
「佳織さん――お母さんは、さっきお出掛けしたわ。兄さんや父さんも、まだ帰ってきてないみたいだし……一人で、ちょっと寂しかったとこなの」
「そ、そうなんだ」
 母が、遠い異国から帰ってきた義理の娘を置いて、出掛けてしまった――そのことに、姫乃は少し悲しい気持ちになった。
 母親の佳織と、姉の琴乃の仲は、姫乃から見てもあまりよくはない。それが、姫乃にとって唯一の悩み事だった時もあった。
 だが、今は――自分も、琴乃が帰ってくる日に、家を空けてしまっていた。もし、夏希があのようにならなかったら、帰りはもっと遅くなっていただろう。
「コーヒー淹れるわね。向こうで、美味しいチョコレートを買ってきたのよ」
「うん」
 少し固い動作で廊下に上がりながら、姫乃が返事をする。
 そんな姫乃の様子を、琴乃は、理知的な光をたたえた瞳で見つめた。
「姫乃ちゃん、ちょっと見ないうちに変わったわね」
「そ、そうかな?」
 制服から着替えるため、一度自室に戻ろうとしていた姫乃が、階段の途中で立ち止まり、言う。
「ええ、とっても女の子らしくなったわ」
「……」
 琴乃の言葉に、動揺が顔に出そうになるのを、姫乃は必死にこらえた。
 琴乃は、その顔に、他意の無さそうな表情を浮かべている。
「今晩――久しぶりに、一緒にお風呂に入ろうか?」
「えっ……!」
「うふふ……冗談よ」
 絶句する姫乃に、琴乃が笑いかける。
「さ、早く着替えてきなさい。いろいろお話したいことがあるんだから」
「う……うん……」
 姫乃は、ぎこちなく肯いてから、二階に上がった。
「……」
 琴乃が、その顔から笑みを消し、思案深げな顔になる。
 その瞳の奥には、疑惑と、そして懊悩の色が、かすかに見て取れた。



 琴乃の土産であるチョコレートをつまみながらのお茶の時間は、姫乃の不安に反して、特に何の波乱もなく終わった。
 久しぶりに会った姉の話を聞き、笑い、自分の話をする。
 そうしながら、姫乃は、自分が仮面を被っているような気分になった。
 自分は、この大好きな姉に、本当の姿を晒していない。
 だと言うのに――
(どうしてだろう……?)
 心臓が、どきどきと高鳴る。
(なんだか、これって……)
 胸の中に、際どい秘密が、実体を持って詰まっているような感覚――
 それが、なぜか姫乃に、罪悪感混じりの奇妙な快感をもたらしたのだった。



 翌日の日曜日、巳洞の部屋に、決められたリズムでチャイムの音が響いた。
「……」
 テーブルの上でA4ノートを展開し、何やらいじっていた巳洞が、顔をしかめる。
 そして、巳洞は、パソコンの電源を落とし、玄関に向かった。
 魚眼レンズで外を確認してから、ドアを開ける。
 そこにいたのは、硬い表情をした夏希だった。その吊り気味の目の下には、くっきりと隈が出ている。
「どういうつもりだよ」
 巳洞は、今日、ここに来るようには言っていない。自然と声が警戒するような響きを帯びる。
「いろいろ、話したいことがあって……」
 夏希は、巳洞の顔を見ることなく、ぼそぼそと言った。
「――上がれよ」
 こく、と肯いて、夏希は靴を脱いだ。
「紅茶とコーヒー、どっちがいい?」
「え……?」
 リビングで巳洞に言われ、夏希はひどく驚いた顔をした。
「なんだ、飲みたくないなら何も出さないぜ」
「じゃあ、えっと……紅茶」
「分かった。そこに座ってろ」
 巳洞が、愛想のないデザインのマグカップにティーバッグを入れ、熱湯を注いだ。
 そして、いささか安っぽい香りを放つそれを、夏希の前に置く。
 夏希は、湯気を立てるマグカップと、平凡な顔立ちの巳洞を、不思議そうに見比べた。
「なんだよ」
 巳洞が、不機嫌そうな声で言った。
「……ううん、別に」
 そう言って、夏希は、まだ熱い紅茶をふーふーと息で冷まし、少し啜った。
 そして、器の中で揺れる琥珀色の水面を、じっと見つめる。
「話があるんじゃなかったのか?」
 巳洞が、自分のためにインスタントのコーヒーを淹れながら、夏希を促す。
 夏希は、言葉を探すように、何度か口を開きかけ、そして閉ざした。
「姫乃をああいうふうにした自分に、罰を与えて欲しいのか?」
 巳洞が、ナイフで切り込むように、夏希に言う。
 夏希は、巳洞の顔を見上げた。
「そいつは、色々と筋違いだな。姫乃の今の境遇の原因と責任は、俺にある。姫乃も、そしてお前も、単なる被害者さ」
「でも――」
「姫乃だって、お前が罰を受けることなんて望んでやしないだろうよ」
「……」
 夏希は、巳洞の言葉に、きゅっ、と唇を噛んだ。
「そもそも、俺に誰かを罰するような資格なんて無いしな」
 しばしの沈黙の後、巳洞は再び口を開いた。
「じゃあ……姫ちゃんにしてることは、何なの?」
 夏希の目に、真剣な光が宿っている。
「どうして姫ちゃんにあんなことするの? 何が目的なのさ?」
「目的――?」
「そうだよ。脅迫してお金を取るとか、何かの復讐とか、いろいろあるでしょ? そういうのじゃないの?」
「復讐、か……」
 ふん、と鼻を鳴らすように、巳洞は笑った。
「例えば……姫乃の父親の会社のせいで倒産した町工場の嫁が、借金でノイローゼになって、挙句に多指症の赤ん坊を放置して死にかけさせた――って話なら、納得いくか?」
「え……?」
 夏希が、コーヒーの入ったマグカップを持つ巳洞の手を、見つめる。
 小指のさらに外側にある第六指は、今は、折りたたまれていてきちんと確認できない。
「バカ、冗談だよ」
 巳洞は、そう言って、コーヒーを一口飲んでから、続けた
「俺は、姫乃を一目見て気に入って、どうしてもメチャクチャにしてやりたいと思って付け回してたんだ。それでいいだろ?」
「よ……よくはないけど……」
 夏希が、眉をしかめる。
「じゃあさ」
「ん?」
「姫ちゃんのこと、好きなの?」
「……」
 再びマグカップを口元に持って来ていた巳洞が、その姿勢のまま、動きを止める。
「なんだそりゃ」
「……ボク、難しい質問してるかな?」
「……」
 巳洞は、苦い顔でコーヒーを飲み干し、カップをテーブルに置いた。
「俺は、俺が一番大事だ。自分より大事に思ってる人間なんて、いない」
「別に、そういうことを聞きたかったんじゃないんだけどな」
 そう言って、夏希は、頬を緩めた。
「メチャクチャにしたいと思って付け回してたんだったら、それで充分好きになってるんだと思うけど?」
「――調子に乗るなよ」
 巳洞は、そう言って、夏希の襟首を掴んだ。両目が、いつにも増して異様な光を湛えている。
 その目を、夏希は、褐色の瞳で真正面から見つめ返した。
 強い力で襟首を締められながら、夏希が、舌で唇を湿らし、口を開く。
「ボクを――姫ちゃんと同じように扱って」
「何?」
「だから……ボクのことも、奴隷扱い、してよ」
「どういうつもりだ?」
「ボク、姫ちゃんが好きなんだ」
 夏希は、夏希自身が驚くほどはっきりした声で、そう言っていた。
「ずっと、姫ちゃんと一緒にいたいと思ってる。でも、姫ちゃんが誰かのものでいるって言うなら……姫ちゃんと同じになるしかないでしょ?」
「……」
 巳洞は、夏樹の襟から手を離した。
「だったら、口のきき方をもう少し何とかしろ」
「うん、分かってるよ……ご主人様」
「ほとんど赤点だな」
 巳洞は、溜め息のような声で言った。



「!」
 駅で、姫乃は驚きに目を見開いた。
 改札の内側に、巳洞と、そして夏希がいたのだ。
 夏希が、恥ずかしそうな淡い笑みを浮かべ、姫乃に片手を上げる。
 夏希の家は、二人が通う学校と同じ街にある。夏希は、わざわざ早起きをして、学校とは逆向きにここまで来たのだった。
 無論、巳洞の命令に従ってのことだ。
「来いよ」
 夏希と、驚きの表情を浮かべたままの姫乃を、巳洞が促す。
 そして、巳洞は、人気のない男子トイレの中で、二人の貞操帯を外し、持っていたスポーツバッグの中に収めた。
 姫乃も、夏希も、学校指定のスカートの下に、何も身につけていない状態になる。
「あ、あの……」
 その格好になって、ようやく、姫乃は言葉を発することができるようになった。
「今日から――いや、昨日からか、夏希も、俺の奴隷だ」
 巳洞が、姫乃に言った。
「先輩奴隷として、きちんと俺に服従する態度を示すんだぞ」
「は……はい……」
 質問を事前に封じるようなことを言われ、姫乃は、そう返事をした。
 巳洞が、制服姿の二人に先導させ、ホームに移動する。
 ホームへの階段を登る時、姫乃と夏希は、恥ずかしそうに顔を赤くしながら、スカートの後ろを押さえた。
 ちょうど、電車がやってきた。ほぼ満員の車内に、三人が乗り込む。
 事前にそういう話になっていたのか、巳洞と夏希は、姫乃を前後から挟むような位置についた。
 電車が、発進する。
「姫ちゃん……」
 後ろから、姫乃の耳に息を吹きかけるように、夏希が言う。
「ボクも、姫ちゃんと同じになるよ……」
 そして、夏希は、すでに半ば勃起してしまっているペニスを、スカート越しに姫乃のヒップに押し付けた。
「あ……」
 次第に熱く、そして固くなっていく肉棒の感触に、姫乃が声を漏らす。
 そんな姫乃のスカートの中に、巳洞が手を滑り込ませた。
「鞄で隠しとけよ」
「はい……」
 言われるまま、姫乃は、自分の鞄を“壁”にして、周囲の視線を遮る。
 巳洞は、さらに大胆に手を差し入れ、右手で姫乃の秘部に触れた。
 じっとりと湿りだしているその部分に、にゅるにゅると指を滑らせる。
「あっ、あふ……あ、ああぁ……」
 姫乃は、かすかに声を上げながら、本格的に淫らな蜜を分泌し始めた。
「夏希。姫乃の胸を揉んでやれ」
「……うん」
 夏希は、そう返事をして、左手の鞄で“壁”を作りながら、右手を姫乃の胸に回す。
「んっ……!」
 ふにっ、と服の上から優しく胸をつかまれ、姫乃は危うく声を出しそうになった。
「姫ちゃん……姫ちゃんのおっぱい、すごい……」
 豊かな左右の乳房を交互に揉みながら、夏希は、自らの胸を姫乃の体に擦りつけた。
 二人の乳首が、ブラの内側で、固くしこっていく。
「あ、あん、ああ……あぅ、あ、あうぅん……」
 秘部と乳房を二人によって同時に刺激されて、姫乃は、甘い喘ぎをあげてしまった。
 その声を、がたんがたん、がたんがたん、という列車のたてる音が、掻き消している。
「は、はふ……あん……そ、そんな……あ、あっ……あん……声、出ちゃいます……」
「我慢しろよ」
 そう言って、巳洞は、自身の肉棒を露出させてから、姫乃のスカートをさらに捲り上げた。
「あ……」
 すでに自分がこれからどうされるのか予想していた姫乃は、驚くことなく、巳洞を迎え入れやすいように足を開き、かすかに腰を突き出した。
 巳洞が、すっかり濡れ綻んだ少女の花園に、肉棒の先端を当てる。
 ずずずずず……っ。
「あ、くふううぅ……」
 下から巳洞に貫かれ、姫乃は、爪先立ちになりながら、熱い息を漏らした。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
 客で一杯の車内で犯されるというシチュエーションに興奮しているのか、姫乃の膣肉が、きゅん、きゅん、とさかんにうごめく。
 だが、巳洞は、根元までペニスを膣内に収めたまま、本格的な抽送をしようとしない。
「……きゃっ?」
 アナルに感じた冷たい感触に、姫乃は、体を強張らせた。
 巳洞が、手に持っていたチューブから潤滑ジェルを絞り出し、姫乃のその部分に塗り込めたのだ。
「な、何を……あ、あぅ……あっ……ああっ……は、ああん……」
 体内を逞しい男のもので占領されたまま、アナルを嬲られる感触に、姫乃は声を蕩かせてしまう。
 巳洞は、チューブをしまってから、姫乃の尻肉を左右に大きく開いた。
「あうっ……そんな、まさか……」
 さすがに、姫乃が怯えた声をあげる。
「夏希だけ仲間外れじゃ可哀想だろう?」
「そ、それは……でも、こんなところで……あうっ!」
 ずん、と子宮口をペニスの先端で小突かれ、姫乃が小さく悲鳴をあげる。
「口答えするなよ」
「あ、あぅ……ごめんなさい……」
 夏希は、そんな二人のやりとりを、半ば口を開き、頬を真っ赤にそめながら見つめていた。
 その瞳は涙で潤み、キラキラと輝いている。
「ほら、夏希、入れてやれ」
「うん……姫ちゃん、ごめんね」
 夏希が、すでに完全に勃起し、透明な腺液を滴らせているペニスを露出する。
「ああ、なっちゃん……」
「いくよ、姫ちゃん……」
 夏希は、驚くほどに固くなった肉棒の先端を、姫乃のアナルに触れさせた。
 そのまま、ぎこちなく腰を前進させる。
「あっ、ああっ、あっ……あああっ……」
 姫乃のアナルが、夏希のペニスによって貫かれていく。
 体の前後から肉棒で犯される感覚に、姫乃は、ここが電車の中であるということを忘れそうになった。
「あく……!」
 巳洞の胸に顔を伏せ、自らの指に歯を立てて、必死に声を噛み殺す。
 開発された少女の排泄器官は、とうとう、親友の肉棒を根元まで咥え込んでしまった。
 もはや姫乃は、身動きすらままならない。
「動かすぞ……」
 そう言って、巳洞は、細かく腰を揺すり始めた。
「ひっ……ひぎっ……んっ……んくっ……」
 姫乃の体内で、巳洞の肉棒が上下に動く。
 その動きに誘われたように、夏希も、腰を使い始めていた。
「あ、ああっ……姫ちゃん……あふぅっ……」
 夏希が、目を虚ろにしながら、かすかな声をあげた。
 満員の電車の中、巳洞と夏希の動きは大きく制限されている。それでも姫乃には、薄い肉の壁を挟んで、巳洞と夏希の肉棒が擦れ合っているように思えた。
「夏希、姫乃の具合はどうだ?」
 巳洞が、姫乃の体越しに、夏希に訊く。
「すっ……すごい……すごいよ……キツくって……ボクの、千切れちゃいそう……」
 まるで苦痛に耐えるように眉を寄せながら、夏希が喘ぐように言う。
「んっ、あっ、あっ、ああっ……姫ちゃん……ボク、きもちいいよォ……」
 夏希は、姫乃の背中に体を押し付けるようにしながら、小刻みに腰を突き上げた。
「あんっ、あん、あん、あくっ……ダ、ダメぇ……そんなに、激しくしちゃ……あぁン……」
「ゴメン……でも、止まらないよ……あっ、ああっ、ああぁン……」
 夏希に押されるような形で、姫乃が巳洞の体にそのたわわな乳房を押し付ける。
 その先端は、とぷとぷと母乳を溢れさせ、姫乃のブラと、そしてブラウスをじっとりと濡らしていった。
 冷房が効いているはずの車内で、姫乃たちのいる一角だけに、熱が籠もっているように思える。
 いつしか姫乃は、自ら母乳を搾り出そうとするかのように、胸を突きだし、自らの乳房を押し潰していた。
「あっ、ああっ、はふ……あ、ああ、あっ……」
 巳洞と夏希のペニスが、異なるリズムで、姫乃の体を突き上げる。
 姫乃の小柄な体は、ほとんど宙に浮き、黒いパンプスを履いた爪先は空しく床を掻いていた。
 快感に比例するように放乳はますます激しくなり、ぴゅるっ、ぴゅるっ、と白い液体がブラのカップの中に漏れ出るのを感じる。
 自身が溢れさせる母乳の甘い匂いにむせ返りそうになりながら、姫乃は、ほとんど我を忘れていた。
 そして、それは、夏希も同じだ。
 満員の列車の中で自らの秘密の部分を晒し、親友とアナルで性交する、というシチュエーションに、夏希は、非現実的なまでの快楽を感じている。
 もし、この姿を知り合いにでも見られたら、自分も、姫乃も、学校に通うことはおろか、外出さえできなくなるだろう。
 だが、そんなかすかな破滅の予感さえ、今の夏希にとっては、変態的な快楽を際立たせるためのスパイスでしかなかった。
「は、はふ、あん、ああん、あっ……」
「んっ、んくっ、んふ……はっ、はあっ、はくっ……」
 足元の電車のリズム、学生の他愛の無いおしゃべり、窓の外で流れ飛んでいく風景、エアコンのかすかな冷気――
 それらを、二人の少女は、ひどく遠いものに感じていた。
 肌に張り付くブラウスと、その向こうにある体温――そして、耳に響く甘い喘ぎ――
 何よりも、敏感な粘膜と粘膜が熱く摩擦し合う感触が、意識を支配していく。
「あっ、ああっ、あくっ、はっ、はあっ、ああっ……!」
「あんっ、ああん、あん、あん、あん、あぅ、あううんっ……!」
 いつしか、二人の少女は、その愛らしい唇から漏れ出る声を抑えることができなくなっていた。
 その声と、かすかな匂いが、周囲の乗客の不審の念を抱かせている。
 だが、姫乃も、夏希も、もはやどうすることもできない。
 まるで、そうすることでかすかな安堵を感じ取ろうとするかのように、姫乃と夏希は、互いに手を握り合った。
「あっ、ああっ、あっ、あっ、あっ、あっ……!」
「んっ、あくうっ……もう、もう、私……あ、あああっ……!」
 姫乃と夏希は、かつて感じたことのないような絶頂へと誘われていった。
 次第に高まる声が、列車のたてる音を上回っていく。
 二人の足元には、クレヴァスから溢れ出た愛液がぽたぽたと滴り、カバンの金具はカチャカチャと音を立てていた。
 そして――その時が来た。
「あ、ああっ、もう――もうダメ――イクっ――!」
 駅への到着を告げるアナウンスに、そんな少女の声が重なった。
 夏希の体を、鋭い射精の快感が貫く。
 びゅるるっ! びゅるるるっ! びゅるるるるっ!
 周囲のどよめきを遠くに聞きながら、姫乃は、膣内と直腸に熱い精液が迸るのを感じていた。
 体中が、熱い快楽にじんわりと満たされる。
「お、おい、君――」
 背広姿の男が、汗と母乳でブラウスを湿らした姫乃の肩に、触れようとした。
「どけ」
 身なりを整えた巳洞が、男を異様に鋭い視線でたじろがせる。
 その時、鋭い空気音をたてて、ドアが開いた。
 両手に姫乃と夏希の手首を掴み、巳洞が大股で歩き出す。
「きゃん!」
「うわっ!」
 未だ絶頂の余韻の中にいる二人が、足をもつれさせながら、どうにか巳洞とともに電車を降り、ホームを抜けて駅舎の中へ入っていく。
 茫然とする乗客たちの前で、電車のドアが、無愛想な音をたてながら閉まった。



「はぁ、はぁ、はぁ……」
 駅舎の奥にある自動販売機コーナーでベンチに座り、姫乃は、大きく喘いでいた。
 夏希は、姫乃より先に息を整えていたが、その顔は赤いままだ。
「ほれ」
 巳洞は、並んで座る二人に、スポーツドリンクの缶を差し出した。
 姫乃と夏希が、それを受け取る。
「まだ……心臓が……ドキドキしてますよォ……」
 姫乃は、その豊かな乳房の少し下を押さえながら、小さな声で言った。
「ククク……確かに、落ち着いてヤれる雰囲気じゃなかったな……」
 巳洞は、悪びれもせず、そんなことを言った。
「けど、お前達があんな声を出さなきゃ、あそこまで注目を集めないで済んだんだと思うけどな」
 巳洞の言葉に、二人が、顔を見合わせる。
 姫乃も、夏希も、絶頂に達した前後の記憶があいまいで、自分がどれほど乱れていたのか覚えていないのだ。
「仲良く同時に声を上げてたぜ」
 巳洞の言葉に、二人が、さらに顔を赤くする。
 と、巳洞は、その顔から表情を消した。
「二人とも、いきさつはどうあれ、俺の奴隷になるとその口で言ったんだ。――覚悟は、しておけよ」
「……はい」
 その言葉に、姫乃が素直に返事をする。
 そして、夏希も、しばらく間をおいてから、小さく顎を引くようにして肯いた。



 巳洞が用意していたブラウスに着替えた姫乃と夏希は、並んで、学校までの道を歩いていた。
 梅雨の晴れ間の眩しい太陽が、二人の濃い影を歩道に落としている。
「ね、なっちゃん……」
 姫乃が、意を決したように口を開いた。
「えっと……どうして……」
 夏希が、姫乃に顔を向ける。
 その顔には、これまで姫乃が見たこともなかったような、不思議な笑みが浮かんでいた。
 穏やかで、どこか寂しげな、淡い微笑み。
 その顔を見て、姫乃は、言葉を続けることができなくなってしまった。
「これで、ずっと一緒だよ」
 夏希が、姫乃に言う。
「ごめ……」
 姫乃は、反射的に謝りかけて、口をつぐんだ。
 それが、夏希に対して、ひどく失礼なことのように思えたのだ。
 二人が、立ち止まる。
 同じ制服を来た学校の生徒たちが、涙ぐむ姫乃と、淡い笑みを浮かべたままの夏希を、追い越していく。
 そして、姫乃は、ようやくその言葉を見付けた。
「なっちゃん――ありがとう」
 姫乃のその言葉に、夏希は、これから来る季節のように明るい笑顔になった。


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