第四章
「えっ……?」
朝の教室で、今日は一緒に映画を観に行けない、と姫乃に告げられ、夏希は一瞬絶句してしまった。
「ごめん……ごめんね、約束したのに……」
姫乃が、まるで叱られるのを恐れる子供のように、声を震わせている。
「う、ううん、いいんだよ。急な話だったもんね」
夏希は、目に涙をにじませている姫乃を前にして、慌てたように言った。
「ボク、ぜんぜん気にしてないよ」
そう言う夏希の声には、どこか自分自身に言い聞かせるような響きがある。
「ほんとに、ごめんねっ」
それを敏感に察し、姫乃は、改めて頭を下げた。
「そ、そんな、改まって謝らないでよ。そのう……ボクたち、友達でしょ?」
「うん……ありがとう」
姫乃が、かすかに微笑む。
そんな彼女の様子に、夏希は、どこか胸騒ぎのようなものを感じているようだった。
姫乃は、人気のない駅の一角を、きょろきょろと辺りを見回しながら歩いていた。
一度、家に帰り、私服に着替えている。
工事中の駅の一角にあるため、普段は人の目に止まらない、トイレ。
姫乃は、何度も周囲に人がいないのを確かめてから、男子用のスペースに入った。
胸の中で、もやもやとしたものが渦巻き、動悸を速めている。
一番奥の個室だけ、扉が閉まっているのを見た時、どきん、と姫乃の心臓が跳ねた。
そこが――姫乃の、初体験の場所なのだ。
姫乃は、きゅっと唇を噛み締め、その個室のドアを叩いた。
反応は、無い。
「あの……私です……」
このまま身を翻して逃げ出したくなる気持ちを抑え、姫乃は言った。
安っぽい木製のドアが、開く。
そこに、ダークグレーのスーツを着たあの男が、立っていた。
「よく逃げなかったな」
「……」
男の言葉に、姫乃は答えられない。
男の手元に、自分のあられもない姿を撮った写真がある以上、姫乃には選択の余地が無いのだ。
自分は、今日、この後でどうなってしまうのか――そのことを考えると、足がすくむ。
そんな姫乃の肩を、馴れ馴れしいとも言える態度で、男が抱いた。
「家には、何て言ってきた?」
「と……友達と、映画に行きますって……」
「門限は?」
「夕飯までには帰らないと……」
そうだな、と、男は口の中だけで呟き、そして続けた。
「ここじゃ、落ち着かないだろ?」
「え……?」
「場所を変えるぜ。ここから一駅だ」
そして、男は、姫乃の肩から手を外し、歩きだした。
「え、えっと、どこに……?」
「俺の部屋だよ」
そう言って、男は、特徴の無い顔を歪め、耳障りな声で、笑った。
そこは、住宅街の中にある、中古のマンションだった。
駅からは、それほど距離は無い。ただ、部屋は狭そうだ。世帯用ではない、いわゆるワンルームのマンションである。
姫乃は、男がカギを開けている間、じっと表札のところを見つめていた。
そこに入れられた紙は、白紙のままだ。
「あの……っ」
ドアを開こうとした男に、姫乃は、ありったけの勇気を振り絞るようにして、言った。
「なんだ?」
「あ、えっと……その……お名前は、何て言うんですか?」
「はぁ?」
男が、どこか間の抜けた声を上げる。
「……とりあえず、入れ。あんまり目立ちたくねえんだ。お前だってそうだろ?」
男が言い、姫乃を促す。
「は、はい」
返事をして、姫乃は素直に部屋の中に入った。
がちりと、男がカギをかける。
部屋の中は、散らかっていた。
それでいながら、生活感はほとんど無い。
まるで、引っ越して来たばかりのように、段ボールの箱が短い廊下に積まれている。
廊下の奥の部屋は、カーテンがかかっているため薄暗く、そして、やはり散らかっていた。
姫乃の基準から言えば、とても人が住むような場所ではない。
「上がれよ」
言われて、姫乃は一瞬躊躇した。スリッパが無いのだ。
靴を脱ぎ、そろそろと足をフローリングの床に置く。
そんな様子を、男は、どこか面白そうに見ていた。
「あの……」
男に振り返り、姫乃はまた、口を開いた。
「ん?」
「お名前、教えてくれないんですか?」
そう言われて、男は、口元を笑みの形に歪めた。
「ん? 名前を聞いて、パパに言い付けるか? この人が私のバージンを奪いました、って」
「そんなんじゃ……! そんなんじゃ、ありません」
姫乃が、うつむく。
「ただ……あなたのことを、何て呼べばいいのか分からなくて……」
「――初めての男の名前は、やっぱ気になるか?」
からかうように、男が言う。
「……はい」
姫乃は、小さく返事をした。
男が、どこか拍子抜けしたように、笑みを引っ込める。
普通の――目付きがやや鋭いことを除けば、本当に普通の、どこにでもいる男の顔だ。
「巳洞だ」
男は、ぽつりと言った。
「えっと、どういう字を……」
「巳年の巳に、洞窟の洞だよ。巳洞至だ」
「みどう、いたる、さん……巳洞さん、ですか……」
姫乃は、かすかに安心したように、そう繰り返した。
「なんだ。変な奴だな。ほっとしてるのか?」
「えっ? そ、そういうわけじゃ、無いですけど……」
「言っとくけど、偽名かもしれないぜ」
「……」
「まあ、確かに、ぎゃあぎゃあ騒がれるよりはマシだけどな。でも、このマンションは、ボロい割には防音がしっかりしてるんだ。大声出したって無駄だぜ」
そう言いながら、巳洞は、奥の部屋に入った。
姫乃は、所在無げに、玄関前に立ちすくんでいる。
「来いよ」
言われて、姫乃は、少しためらった後、巳洞に続いて部屋に入った。
十畳ほどの、フローリングの部屋だ。やはりそこかしこに段ボール箱や紙袋が置かれ、真ん中には布団が敷きっぱなしになっている。
巳洞は、部屋の端で、スーツのジャケットを脱ぎ、ハンガーに架けていた。
と、巳洞が、姫乃の視線に気付き、そちらに顔を向ける。
「何見てるんだ?」
「そ……その手……治せないんですか?」
「――治す?」
「はい、あの……もし、手術のお金が足りないんでしたら、少しなら私が……」
じろり、と巳洞が姫乃の顔を睨んだ。
姫乃が、身をすくませる。
巳洞の目に――ほんの一瞬ではあるが、本気の殺意のようなものが、あったように思えたのだ。
「ご、ごめ……ごめんなさい……」
「謝ることはねえよ。善意で言ったんだろ?」
皮肉げな口調で、“善意”という単語を強調しながら、巳洞は言った。
「ただ、お前に心配されるようなことじゃねえよ。俺は好きでこの指を残してるんだ」
「え……?」
「人が、これを初めて見た時の顔を観察するのが面白くってな」
「でも……」
「あのな、勘違いするなよ? これは、別に珍しい症状じゃないんだ。けっこう俺みたいに生まれてくる奴はいるんだぜ」
「そう……なんですか?」
「ま、普通は、赤ん坊のころに切っちまうんだけどな。手術代だって、大したもんじゃねえし」
「じゃあ、あなたは……」
「ほっとかれていただけさ」
「え……?」
「しゃべり過ぎたな。どうでもいいことだ、そんなことは」
そう言って、巳洞は、体ごと姫乃に向き直った。
「胸、見せてみな」
「っ……!」
「オッパイ見せるんだよ。ほら、早くしろよ」
次第に自分のペースを取り戻して来たかのように、巳洞が、粗野な言い方で姫乃に追い打ちをかける。
「……」
姫乃は、震える指で、ライトグリーンのブラウスのボタンを、一つ一つ、外し始めた。
白い肌が、鎖骨のくぼみが、可愛らしい臍が、露わになっていく。
とうとう、姫乃は、全てのボタンを外し終えた。
「隠すなよ」
言いながら、巳洞は、姫乃の目の前にパイプ椅子を展開し、そこに座った。
ちょうど、巳洞の目の高さに、清楚な白いブラに守られた幼い胸の膨らみが、ある。
「まだ小さいな」
「……」
巳洞が、胸の大きさについて言っているのだと気付いて、姫乃は顔を真っ赤にした。
確かに、姫乃の胸は、年相応と言うにはやや小ぶりなものだった。彼女自身の小さな手でもすっぽり包み込めてしまえそうな、そんな可憐な膨らみだ。
「ブラも外せよ」
巳洞が、言う。
姫乃は、顔を背け、ブラのホックを外した。
下着の戒めから解放されても、そのいたいけな膨らみは、同じ形を保っている。
まるで成熟する前の青い果実を思わせる乳房を、姫乃は、たまらず両手を交差させて隠した。
そのポーズによって、辛うじて、胸に浅い谷間ができる。
そんな様子をじっくり視姦した後、巳洞の大きな手が、姫乃の腕を掴んだ。
「ぁ……」
消え入りたげに声を上げながらも、姫乃は、巳洞の力には強く逆らわない。
巳洞は、姫乃の細い腕を外し、ブラをずらした。
成長途上の乳房の頂点で、ピンク色の乳首が、恥ずかしそうにその身をさらしている。
「み、見ないで、ください……」
姫乃は、閉じた目に涙を滲ませ、震える声で言った。
もちろん、巳洞は、姫乃の懇願など聞きはしない。
姫乃は、外気にさらされ、普段の何倍も敏感になっている乳首に、巳洞の無遠慮な視線を感じていた。
羞恥が、顔を熱くする。
男に肌をさらすことには、電車の中で剥き出しの股間に卑猥な悪戯をされるのとは、また違った恥ずかしさがあった。
周囲にばれてしまうことへの恐怖がない分だけ、より羞恥が純粋な気がする。
それが――なぜか、姫乃の感覚をさらに敏感にしていた。
巳洞の指が胸に触れる寸前に、その指の気配を察知する。
ふにっ――。
「あふ……」
予想外に優しい感触に、姫乃は、悲鳴と言うには中途半端な声を出してしまった。
巳洞の指が、乳首の周辺を、まさぐるように触れている。
「オッパイを可愛がってやるのは初めてだな」
巳洞の、“可愛がる”という言葉に、小さな胸の奥が、きゅんっ、と反応する。
姫乃は、そんな自分にとまどいを覚えながら、淡く声を上げてしまっていた。
「あ……ぁ……ぁ……ぁぅ……」
自在に動く、巳洞の、十二本の指。
時に円を描き、時に柔らかく乳房全体をついばむように刺激しながら、しかし、巳洞の指は、姫乃の乳首には触れようとしなかった。
くすぐったさに似た感触が乳首に集まり、それが、名状し難い感覚となる。
どこか切迫したような、むず痒い感じ。
姫乃は、自分の胸が、乳首を中心として奇妙に緊張していくのを、自覚していた。
「乳首が勃ってきたぜ」
巳洞に指摘され、姫乃は、顔を背けたまま、思わず目を開き、自分の乳首を見てしまった。
「あっ……」
乳首が、ほんのりと赤く染まり、そしてぷっくりと膨らんでいる。
自分で触れなくても、そこが、固くしこっているのが分かった。
奇妙な切なさが、さらに高まっていく。
「触ってほしいか?」
巳洞に訊かれ、姫乃は、あわててかぶりを振った。
体をおもちゃにされるのは仕方が無いが、自分から愛撫を求めるようなはしたないまねは、したくない。
巳洞は、そんな姫乃の様子ににやりと笑い、傍らのテーブルの上に置いてある紙袋から、何かを取り出した。
「っ!」
姫乃が、黒目がちな瞳を見開く。
それは、細身の注射器とアンプルだったのだ。
巳洞が、慣れた手つきでアンプルの中の薬液を注射器で吸い出す。
「な……なにを、する気なんですかっ?」
姫乃が、怯えた声を上げ、胸を隠そうとする。
巳洞は、右手に注射器を構え、左手で姫乃の腕を掴んだ。
「ま、まさか……麻薬……?」
鋭い注射針を凝視しながら、姫乃が言う。
「安心しろ。そんなんじゃねえよ」
巳洞は、そう言いながら、注射器を姫乃の胸に近付けた。
「いや……いやあっ! やめてっ! やめてくださいっ!」
姫乃が、大声を上げて、巳洞の腕を振りほどこうとする。
「おい、お前は、俺に逆らえないはずだろ?」
「うっ……」
巳洞の低く抑えた声に、姫乃が、声を詰まらせる。
「アソコを血まみれにして便器に突っ伏してるお前の写真を見たら、親はびっくりすんだろうなあ。心臓マヒでも起こしちまうんじゃないか?」
「ひ、ひどい……」
巳洞の残忍な言葉に、姫乃の力が緩む。
「動くなよ。針が折れたら大変だからな」
実際は、注射針が折れるようなことなど、まずありえないはずなのだが、巳洞は、そう言って、姫乃の動きを封じた。
わなわなと唇を震わせる姫乃の胸――左の乳首の下辺りに、針先を当てる。
「あ――」
そして、ゆっくりと、巳洞は、針を少女の胸に刺した。
痛みは、耐えられないほどではない。しかし、姫乃は、絶望で目の前が真っ暗になった。
巳洞の指が、自分の胸に、得体の知れない薬液を注入している。
かたかたと、姫乃の白い歯が鳴った。
それでも、健気に、萎えそうになる足を踏ん張る。
巳洞は、姫乃の左右の胸に、ほぼ均等に薬液を注入した。
「あああぁぁぁ……」
終わった、と思った時、姫乃は、その場にしゃがみこんでしまった。
「う……うっ……ううぅ……
喉から、嗚咽が漏れる。
巳洞は、そんな姫乃の腕を取り、強引に立たせた。
姫乃は人形のようにされるがままだ。
「ひっ……ひっく……うっ……うぇっ……ううぅ……」
大粒の涙を流しながら、姫乃は泣き続けている。
巳洞は、支えていないとまたしゃがみこみそうになる姫乃を、自分の左の太ももに腰掛けさせた。
「おい、安心しろって。麻薬なんかじゃねえんだから。習慣性も副作用もねえはずなんだよ」
巳洞がそう言っても、姫乃は、むずがる子供のようにふるふるとかぶりを振るばかりだ。
「……」
巳洞は、小さくため息をつき、不意に姫乃を抱きすくめた。
「ひゃっ! ぁ……んんんっ!」
さすがに悲鳴を上げる姫乃の唇を、キスで塞ぐ。
「んーっ! んっ! んんんーっ!」
姫乃は、身をよじり、巳洞の突然の抱擁から逃れようとする。
が、巳洞は、左手でがっちりと姫乃の体を捕らえ、右手を彼女の胸に重ねて、ゆるゆると揉み始めた。
その間も、キスは続けたままだ。
次第に、姫乃の抵抗が弱々しくなる。
「んっ……んんっ……ん……ん……」
巳洞の唇が姫乃の唇を吸い、舌が、口内をまさぐる。
そして、巳洞の指は、姫乃の二つの胸の膨らみを執拗にまさぐった。
あの、たまらない切なさが、燃えるような熱を伴って甦る。
「ぷはっ……はぁ、はぁ、はぁ……」
巳洞が口を離した時、姫乃は、泣くことすら忘れてしまったように、ぼんやりとしていた。
そんな姫乃の頬に残る涙を、巳洞が、唇で拭う。
そのまま巳洞は、姫乃の胸を愛撫しながら、細い首筋を唇で撫で、舐め上げ、ちゅばちゅばと軽く吸った。
「あ、あぁん……ずるいっ……ずるいです……卑怯ですっ……」
姫乃が、隠し切れない甘い喘ぎの合間に、言う。
「何が卑怯だって?」
「だってっ……だってこんな……あっ! あーっ!」
姫乃は、高い声を上げた。
巳洞が、勃起していた左の乳首を、強く摘んだのだ。
つーん、と強い刺激が乳首から乳房全体に走り、体をかっと熱くさせる。
「こ、これ……お注射のせい、ですか……?」
「何がだよ」
「えっと……む、胸が、熱くって……じんじんするんですっ……」
「――かもな」
「そんな……あっ……はぁふ……あぁン……ああぁぁぁ……」
さっきまで感じていた冷たい恐怖が、日に照らされた雪玉のように他愛なく溶け、代わって温かな快感が姫乃の頭を占めていく。
それほど、巳洞の愛撫は的確だった。
左手で姫乃の体を支え、右手で左右の胸をいらいながら、首筋を吸い、耳朶を甘く噛む。
「はっ……はあぁ……あん……あぁん……あん……あんっ……」
いつしか、姫乃は、声を震わせ、甘く喘いでいた。
「お前は、何も心配するな」
巳洞が、熱い息を耳に吹きかけながら、囁いた。
「何が起こっても、俺がきちんと責任取ってやるよ」
そう言って、耳たぶを舌でねぶり、耳孔に舌先を差し入れる。
(やっぱり、あれ……危ないお薬だったのかな……)
霞がかかったようになった頭で、姫乃は、ぼんやりと考えた。
しかし、当然感じるはずの怒りは、なぜか湧いてこない。
六本の指が織り成す愛撫に乳首をますます固くしこらせながら、姫乃は、そのさして重くない体を巳洞の左腕に委ねきってしまっていた。
熱い疼きは、今や胸から全身に広がり、特に姫乃の下腹部を甘く痺れさせている。
姫乃は、知らず知らずのうちに、もじもじとお尻を揺らしてしまっていた。
巳洞が、それを目ざとく見つける。
「こっちも、もう我慢できなくなってるみたいだな」
そう言って、スカートをまくり上げ、右手の指をショーツに当てる。
「あぅんっ……!」
薄い布の上から秘部をぐいっと押され、姫乃は体をのけ反らせた。
じゅわっ、と熱い蜜がショーツに滲み、巳洞の指を濡らす。
「びしょびしょだぜ」
「そんな……だってそれは、お注射のせいですっ……」
巳洞の仕打ちを非難するその声には、どこか拗ねているような響きがある。
「可愛いぜ、お前――」
不意打ちのようなその言葉に、思わず、姫乃は巳洞の顔を見る。
巳洞は、目を閉じ、その唇を再び姫乃の口元に寄せていた。
瞼を閉ざした巳洞の顔が、意外なほど優しく見える。
そのことにさらに驚きを覚えた姫乃の唇に、巳洞の唇が重なった。
「うっ……うんっ……んん……んんんー……ん……んっ……」
呼吸を制限され、姫乃は、頭をくらくらとさせてしまう。
巳洞は、キスを続けながら、姫乃のショーツを下ろし、濡れそぼる秘裂に直に触れた。
膣口を中心に指を回すように動かし、蜜にまみれた肉の花を開花させていく。
巳洞が、姫乃の口に唾液を流し込んだ。
「んっ、んぅっ……んくっ……ん、んん、んーっ……」
ふーっ、ふーっ、と鼻で息をしながら、姫乃は、従順に口内の唾液を飲み干してしまう。
半ば開いた姫乃の唇を割って舌が侵入し、姫乃の舌を促すように舐めた。
姫乃は、どうしていいか分からない。
「舌を出せよ」
キスを中断した巳洞のその言葉に従い、姫乃が舌を出す。
巳洞は、姫乃のピンク色の舌を唇で咥え、ちゅーっ、と吸った。
そして、ちゅぽん、と音をさせて、口を離す。
姫乃は、虚ろになった瞳で、ぼーっと巳洞の顔を見つめていた。
ちゅっ、ちゅっ、と頬や額にキスを繰り返しながら、巳洞が、姫乃のはだけたブラウスとブラを器用に脱がせる。
「やん……やです……やあぁん……」
口で、形ばかりの抵抗をしながら、姫乃は裸に剥かれていく。
巳洞が、そんな姫乃の体を抱き抱えるようにして立ち、そして、敷きっぱなしの布団の上に横たえた。
ショーツを脱がし、秘処に指を這わせると、くちゅくちゅという淫らな音が響く。
巳洞は、勃起したままの姫乃の乳首を左手で弄びながら、右手でスカートを脱がせた。
姫乃が、靴下だけを身につけた、ほとんど全裸に近い姿になる。
「あぁ……」
姫乃は、両手で胸と股間を隠そうとした。
巳洞が、姫乃に覆いかぶさり、その両手をシーツに押し付ける。
「み、巳洞さん……私……私っ……」
かすかにおののく唇が、どうにか言葉を紡ごうとした。
「分かってるよ。セックスしてほしいんだろ?」
「ち、ちがいます……私、そんな……」
そう言いながらも、姫乃は、自分が何を言いたいのか分からないでいる。
「お前の体は、セックスしたくてたまらないって感じだぜ?」
そう言って、巳洞は、姫乃の胸に顔を伏せ、左の乳首を口に含んだ。
「んあっ……!」
舌で乳首を転がされる感触に、姫乃が高い声を上げる。
巳洞は、姫乃の手から両手を離し、その細い胴を抱くようにしながら、ちゅばちゅばと左右の乳首を交互に舐め、吸った。
強く吸われると、つーん、つーん、と、鋭い快感が小さな乳房から全身を貫く。
巳洞が、乳首から口を離し、乳房全体を舐めた。
柔らかな膨らみを唾液まみれにしながら、さらに頭を移動させ、なだらかなお腹やお臍の周囲を舌でくすぐる。
そして、巳洞は、前触れもなく、姫乃の足を大きく開いた。
「きゃっ!」
今まで、巳洞の舌の感触に陶然としかかっていた姫乃が、さすがに悲鳴を上げる。
「ついこないだまで処女だっただけあって、さすがにキレイなもんだな」
桜色の肉の花弁が恥ずかしげに綻んでいる幼いクレヴァスを見つめながら、巳洞が言った。
そして、果物を両手で割るように、くぱぁ、と親指で秘裂を割り開く。
「中もカワイイ色してるぜ。濡れてキラキラ光ってる」
「見ないでっ! 見ないでくださいっ!」
秘密の場所を無遠慮に品評され、姫乃が、泣きそうな声を上げる。
必死でそこを隠そうとする姫乃の手を易々とどかし、巳洞は、さらにそこに顔を近付けた。
「きゃんっ!」
再び姫乃は悲鳴を上げる。
巳洞が、愛液に濡れたクレヴァスを、ぞろりと舐め上げたのだ。
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ……。
卑しいハイエナが獲物の肉を味わうように、巳洞が舌を使う。
「あっ、ああぁっ、やあっ、あーっ……!」
敏感な粘膜で巳洞の舌のざらつきすら感じながら、姫乃は、身をよじった。
「だめっ! そこ、きたないですっ! ああうっ! やっ! やあああっ!」
初めてクンニリングスの洗礼を受け、姫乃が、まるで釣り上げられた若鮎のようにのたうつ。
姫乃の手が、巳洞の頭を押しのけようとするが、その力は哀しいくらいに弱々しい。
巳洞は、そんな姫乃の腰をしっかりと両手で固定し、ますます舌の動きを激しくした。
「は、あぅ……だめェ……! あん……や、やぁ……あ……だめ、ですぅ……ああぁン……あンっ……!」
姫乃の体から次第に力が抜け、拒絶の声も次第に快楽の喘ぎに埋没していく。
姫乃は、巳洞の口唇愛撫から逃れることを諦め、真っ赤に染まった顔を両手で覆った。
肉襞の合間をなぞり、膣口に差し入れられる、巳洞の舌。
それが、包皮から頭を出しかけたクリトリスを捕らえた時、姫乃は、びくーん、と体を硬直させた。
「あっ……ああっ……そこは……そこは、だめですうっ……!」
最も敏感な快楽の突起を、舌先でちろちろと嬲られ、姫乃は髪を振り乱した。
その手は、今は顔から離れ、シーツをかきむしるように爪を立てている。
「あっ、あっ、あっ、あっ……!」
姫乃の声が、切迫する。
姫乃の性感は、巳洞の舌技の前に、呆気なく絶頂を迎えようとしていた。
と、それを察知した巳洞が、わざとポイントをずらし、足の付け根の内側や肉襞の周辺部に舌を這わせる。
「はあぁぁぁ……ひゃぅっ!」
油断した姫乃の中心部を、巳洞の舌が舐める。
再び、舌が激しく動いた。
膣口に舌先を抽送され、姫乃は、ひくひくと体を震わせる。
「あ、あぁんっ! あっ! ああっ! あっ! あーっ!」
さっきよりも高い声で、姫乃は叫ぶ。
じゅっ、じゅるっ、ちゅばっ、じゅぷ、じゅじゅじゅっ……。
巳洞が愛液を啜る卑猥な音が、姫乃の羞恥を煽った。
快感と羞恥が交互に累積し、姫乃の興奮をさらに高みまで持ち上げる。
しかし、巳洞は、またも舌の動きを中断し、溢れた蜜にまみれた秘部全体をソフトに吸い上げるだけの愛撫に移行した。
ひくっ、ひくっ、と柔らかく綻んだ肉の花弁が物欲しげにおののく。
巳洞は、そこに、ふーっ、と息を吹きかけた。
それだけの刺激で、姫乃の肉襞は、じんじんと熱く疼いてしまう。
「あぁ……もう、もう、私……」
「どうした?」
巳洞が、笑みを含んだ声でいい、そして指先でくにくにとクリトリスの辺りをいじる。
もちろん、そこに直接触れて姫乃を不用意に絶頂に導いたりはしない。
「ああぁんっ! あっ……やあああっ! もう、もう許して……許してくださいっ……!」
たまらないもどかしさに急き立てられるように、姫乃が懇願する。
「ん、やめればいいのか?」
巳洞が、愛撫を中断する。
「ちがっ……ちがい、ます……ああ……もう、私……私、がまんできません……」
はぁっ、はぁっ、と熱い吐息を吐きながら、姫乃が、自らの足の間にある巳洞の顔に目を向ける。
「どうしてほしいんだ?」
「あぁ……」
半ば予想していた巳洞の言葉に、姫乃の秘部が、じゅわりと新たな蜜を溢れさせる。
(私……また、イヤらしいおねだり、させられちゃう……)
羞恥と被虐の感覚が、頭の芯をぼおっとさせる。
そして、姫乃は、その言葉を口にしていた。
「して、ください……私に、セックスしてください……」
「もっとイヤらしい言葉で言えよ」
「そんな……」
泣きそうな声を上げる姫乃を見ながら、巳洞は、半身を起こし、服を脱ぎ捨て始めた。
シャツを脱ぎ、ズボンを下ろした巳洞のトランクスが、大きく膨らんでいる。
そして、巳洞は、姫乃がそこを凝視しているのを確認しながら、ペニスを露わにした。
自ら分泌した腺液にぬらぬらと濡れ光っている男の器官を前にして、姫乃は、んくっ、とはしたなく生唾を飲み込んでしまう。
「これを、挿れてほしいんだろ?」
巳洞は、静脈を浮かせた肉棒に手を沿え、そこでぺたぺたと姫乃の秘部を叩いた。
「は、はい……いれて、ほしいです……」
偽りのない本心を、姫乃が、喘ぐように言う。
「だったら、きちんとスケベなことばでおねだりしな」
「ど……どう言えば、いいんですか?」
「そうだなぁ……」
巳洞が、ペニスをクレヴァスにこすりつけながら、姫乃が聞いたこともないような卑猥な単語を言った。
にゅるにゅると粘膜と粘膜がこすれるのを感じながら、姫乃が、何度か舌で唇を湿らす。
「あ、あの……」
「ん?」
「巳洞さんの……オ……オチンポを……姫乃の……」
「何だよ?」
「オ……ああっ……い、言えません……!」
「なら、ずっとこのままだな」
巳洞が、姫乃の腰を固定し、肉茎の腹で姫乃の秘部をこすり上げる。
「そんな……ああっ……おねがいです……私……おかしくなっちゃいますっ!」
「だったら、きちんと言えよ」
「でも、でも……」
「俺は、このままでもいいんだぜ。お前のここ、擦ってるだけでも結構気持ちいいしな」
余裕をたっぷりにそう言いながら、巳洞が、腰を繰り出す。
「あっ……やああぁっ……!」
姫乃が、きゅっと唇を噛む。
「い、言います……だから……おねがいです……」
「ああ、聞いてやるよ」
「はぁ、はぁ、はぁ……巳洞さんの……オチンポを……姫乃の……オ……オマ……はぁっ……」
一度、呼吸が苦しくなったかのように、姫乃は言葉を切った。
その目尻から、珠のような涙が、一粒こぼれる。
「ひ……姫乃の……オマンコに、入れてくださいっ!」
姫乃は、最後は叫ぶように、その恥ずかしいセリフを言い切った。
巳洞が、満足げに口元を歪める。
「ああ、入れてやるよ」
そう言って、一度腰を引き、ゆっくりと腰を進ませる。
「あ……ああああああああっ!」
姫乃は、明らかな歓喜の声を上げていた。
逞しい雁首が膣内を擦り上げ、奥へ、奥へと進んでいく。
姫乃は、無意識のうちに腰を浮かし、その幼い体内にペニスを迎え入れた。
「あ……んあうっ!」
最深部に肉棒の先端が到達した時、姫乃は、ひくひくと体を痙攣させた。
軽い絶頂が、姫乃の意識を、一瞬だけ途切れさせる。
「ふゎ……」
気が付くと、巳洞が、姫乃の体に覆いかぶさるようにして、顔を覗き込んでいた。
「イったのか?」
巳洞が、訊く。
「わ、分かりません……」
姫乃は、顔を背けながら、まだかすかに震えている声で言った。
「嘘つけ。お前、入れられただけでイっちまったんだろ?」
「ああぁ……」
「いいんだよ、イっても。思う存分感じろよっ!」
ぐんっ!
「きゃあうっ!」
突然の巳洞の動きに、姫乃は体をのけ反らせた。
ぐんっ、ぐんっ、ぐんっ、ぐんっ!
巳洞が、容赦のない動きを、姫乃の中に送り込む。
「あっ! あうっ! ひああっ! あんっ! ああンッ!」
少し苦しげな、姫乃の声。
が、それもすぐに甘く蕩けていく。
「ああぁン! ああン! あッ! あッ! あッ! あッ! ああァ〜ッ!」
「くっ……さすがにまだキツいな……イイ具合だぜ、お前のオマンコ」
「あああっ、やっ! は、恥ずかしいっ! やぁン! ああン! ああン! ああン! ああン!」
自らのはしたない部分を褒められることへの、奇妙な嬉しさの入り混じった羞恥にかぶりを振りながら、姫乃は、声を上げた。
姫乃のそこは、焦がれるほどに望んでいた抽送の快楽に、まるで失禁してしまったかのように愛液をしぶかせている。
ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん……。
巳洞の腰が姫乃に叩きつけられる音が、しばし、部屋に響いた。
「くっ……」
危うく精を漏らしそうになって、巳洞が、腰の動きを緩める。
そして、巳洞は、腰と腰を密着させ、ぐりぐりと回転させた。
「はうっ……んわぁんっ……あっ、あああぁぁぁ……」
膣内を撹拌され、恥丘を圧迫されて、姫乃がさらに甘い声を上げる。
「気持ちいいか?」
「は、はい……いい、です……きもち、いいですぅ……はぁん……いい……」
うわ言のように、姫乃が言う。
半開きになったその可愛らしい唇に、巳洞が唇を重ねた。
恋人同士でも滅多にしないような濃厚なディープキスに、姫乃は、くうん、くうん、と子犬のような声を上げた。
「きもちいい……んっ、ちゅぶっ……ぷはっ、はぁ……あぁン……きもちいいです……ちゅっ、ちゅうっ、ちゅ……んんんんん……」
キスの合間に、熱っぽい声で、快感を訴える。
姫乃は、いつしか巳洞の背中に腕を回し、狂おしくその舌に舌を絡めていた。
ぴちゃぴちゃと唾液の弾ける音が響く。
巳洞が、体を離し、上体を起こした。
「あぁん……きゃうっ!」
キスを中断された姫乃の名残惜しげな声が、悲鳴に変わる。
巳洞が、本格的なピストン運動を再開させたのだ。
「あン! あン! あン! あン! あン! あン!」
白い太ももを抱え上げるようにして、巳洞が激しく腰を使う。
その、単純で力強い動きがもたらす快感に、姫乃は翻弄され、身もだえた。
自分自身と、そして相手の性感を追い詰めるための、巳洞の動き。
先に屈服したのは、姫乃だった。
「あッ! んああああああッ! イクっ! イキますっ! あーッ! イクぅーッ!」
絶頂を目前に控え、姫乃の膣肉が、きゅんきゅんと痙攣する。
「うっ……こ、これは……」
「あっ! あああッ! ひあッ、ああああああああああああああああぁ〜ッ!」
驚きの声を上げる巳洞よりも先に、姫乃が絶頂を迎える。
巳洞は、それに追いつこうとするかのように、遮二無二腰を動かした。
「キャアアッ! ひいいンッ! ひあッ! あわっ! あッ! んわあああああああぁぁぁッ!」
激しいスパートを幼い腰で必死に受け止めながら、姫乃が、何度も何度も絶頂を極める。
その度に、姫乃のただでさえ狭い膣道は収縮を繰り返し、牝の本能であるかのようにペニスを搾り上げた。
「出すぞっ!」
「はっ、はいっ! あ、あああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ〜ッ!」
どばあああっ! とお腹の奥に熱いものがぶちまけられた感触に、姫乃は、さらなる高みに舞い上げられた。
ぶびっ! ぶびゅるっ! ぶびゅびゅっ! びゅううううーっ!
姫乃の幼い子宮目がけ、巳洞がたっぷりとスペルマを迸らせる。
「あ、ああぁ……あン……はあぁ……あぁン……」
自分の中で、びくびくとペニスが律動する感触を、感じる。
そして、姫乃は、その意識を、甘たるい敗北感の蜜の中に溺れさせていった。
さあああああぁぁぁぁぁ……。
「……」
凄まじい絶頂の余韻にぼんやりとしたまま、姫乃は、一人、巳洞の部屋の中のシャワーを浴びた。
まだ、足がふらつく。
あの濃密な時間の間に、自分が味わったことを、未だ整理しきれないまま、姫乃は浴室から上がった。
ひどく狭苦しく感じる脱衣場の床に置かれたカゴを見て、あることに気付く。
今更のように顔を赤くしながら、姫乃は、手早く服を着た。
「み、巳洞さんっ!」
巳洞は、敷きっぱなしの布団の上で、半裸のまま、煙草をくゆらせていた。
嗅ぎ慣れないその匂いにわずかに眉をしかめる姫乃に、巳洞が、顔を向ける。
「あ、あの……」
「どうした?」
「し……下着が、無いです……」
スカートの裾を押さえながら、姫乃が言う。
「くくくっ……それでいいんだよ」
巳洞は、カンに触る笑い声を漏らしながら、言った。
そして、紙袋から、奇妙なものを取り出す。
一言で言うなら、それは、薄い金属の帯で作られたT字帯のようなものだった。
金属の帯が交わるところに、小さな丸い錠が付いている。
「これが、今日からお前の下着になるんだ」
「な、なんですか、それ……?」
姫乃が、怯えた声を上げる。
「知らないのか? いや、普通は知らないか」
そう言いながら、巳洞は、再び笑った。
その六本指の右手が、いつの間にか、銀色の鍵を握っている。
「――貞操帯だよ」