第一章
夕方の電車の中は、驚くほど混んでいた。
近くにある都市型テーマパークの帰りの客たちだろう。
ターミナル駅に接続するまで、この混雑は続くはずだ。
窓の外の夕暮れを見つめながら、姫乃は、ため息をついた。
体中が、熱い。
駅まで走ってきてしまったため、ますますアルコールが回ってしまったようだ。
が、姫乃の心は、体とは別の次元で、千々に乱れていた。
(なっちゃん……)
あまりにも色々なことがあり、混乱したままの心の中で、夏希のことを考える。
(なっちゃんの……バカ……)
姫乃は、唇の動きだけでそうつぶやいた。
(あたしだって……なっちゃんのこと……好き、なのに……あんな、こわいことするなんて……)
唐突に、夏希とのキスの感触が、唇に甦った。
柔らかく、味覚とは全く異なる意味で、甘い、同級生の少女とのキス。
(なっちゃん、怒ってるだろうな……)
ちくりと、罪悪感が、胸の中をつつく。
(でも、でも……あれは……なっちゃんが悪いんだもん……)
姫乃は、無理やりに、自分にそう言い聞かせた。
今までも、何度か、夏希の身勝手ともとれる行動に、振り回されてきたことを思い出す。
だが、いつもの通り、姫乃は、心の中で夏希のことをすぐに許してしまった。
(もし……もしも……なっちゃんが、最後まで優しくしてくれたら……私……)
姫乃は、キスのその先に体験したことに、思いを馳せた。
(なっちゃんの……なっちゃんのアソコ……あんなに、なってたなんて……)
姫乃の、靄のかかったようになっている脳裏に、夏希のその部分の映像が、妙にくっきりと浮かんだ。
丸みを帯びた腰の中心で屹立する、ペニス。
姫乃は、それを、不思議と気持ち悪いなどとは思わなかった。
今も、あるのは驚きと困惑のみだ。
(なっちゃんのアレ……立ってた……)
姫乃がいかに奥手とは言え、男性のその部分が、どういうときにああいう反応を示すのかくらいは、知っている。
(なっちゃん……私と……したかった、のかな……?)
未だ体の芯に残っている甘い何かが、はしたなく熱を帯びる。
「あっ……」
姫乃は、思わず声をあげ、口を手で塞いだ。
(わ……私……ショーツはいてない……!)
夏希に脱がされたまま、それを履く暇も無く逃げ出したことを、姫乃は思い出した。
ぞわわっ、と背筋の産毛が逆立つ。
姫乃は、慌てて、満員電車の中、スカートの裾を直した。
今まで気付かなかったのが不思議なくらい、スカートの中が頼りなく感じる。
(私……私……なんてこと……してるの……)
小さなころから、細かな服装の乱れまで厳しく躾けられた姫乃は、羞恥と罪悪感で、目眩すら覚えた。
まるで、夢を見ているような非現実感がある。
いや、夢の中でさえ、ノーパンのまま乗客で一杯の電車に乗るなどという奔放な展開はなかっただろう。
アルコールによる酩酊感がさらに加速し、頭の中をぐるぐると熱い血液が旋回しているような感覚を覚える。
(どうしよう……どうしよう……)
自分の降りる駅までは、あと30分はかかる。
姫乃は、ぎゅっ、とワンピースの裾を握った。
尿意にも似た焦燥感が股間をくすぐり、そのことでますます、自分の秘密の部分が直接外気に触れているのだということを意識してしまう。
(とちゅうで……とちゅうの駅で降りて……買った方が、いいかな……?)
もちろん、それくらいの持ち合わせは、財布の中にある。
だが、途中で降りたとしても、そこは姫乃にとって知らない街だ。そこで、下着を売っている店を自力で探しだし、たった一人でそれを購入する、ということを考えるだけで、世間知らずの姫乃は、がくがくと脚を震わせてしまった。
(だめ……だめだよ……ふつうにしてなきゃ……)
そう思う姫乃の顔は、しかし、本人の意思に反して、何かを思い詰めたような表情を浮かべていた。
アルコールの影響でぽーっと染まっていた頬が、さらに赤くなっている。
眉を寄せ、目をわずかに潤ませた少女の顔は、本人が意識しないうちに、危険な色気のようなものすら漂わせていた。
駅に着き、乗客が出入りする。
姫乃が、途中下車をする決心をしかねている間に、その小さな体は、開いたのとは反対側のドアの方へと押されてしまった。
しばらく、こちら側のドアは開かない。
姫乃は、ドアの窓からオレンジに染まりつつある町並みに、目をむけた。
電車の中央に背を向ける格好だ。
そんな姫乃の背中――と言うより、腰に近い辺りに、何かが押し付けられた。
(え……!)
どきん、と心臓が跳ねた。
少しごつごつした感触が、腰の後ろに当たっている。
それは、男の手の甲のようだった。
(……っ)
きゅっ、と姫乃が、身を堅くする。
車内は、殺人的なラッシュとまではいかないが、かなりの混みようだ。並んで立っている乗客の体の一部に強く押されたとしても、自然なことではある。
が、男の手の甲が当たっているのは、姫乃が、今、最も人に触られたくないと思っている場所に、あまりにも近かった。
そして、もし、この接触が、淫らな意図をもってされたものだとしたら……。
(だめ……だめだよ……人のことを、そんなふうに疑ったら……!)
姫乃は、心の中で必死に思った。
(ちがうよ……そんなこと……この人は、そんないやらしい人じゃない……チカンなんかじゃ、ないよ……)
が、姫乃のそんな考えをあざ笑うように、手は、次第に位置を下へと移していく。
(やっ……やだ……)
手の甲が、ベルトのラインを越え、“腰”から“お尻”の領域にまで達した。
最近になって丸みを帯び出したヒップの、二つの膨らみのちょうどはざまに、手の甲の中央がある。
そこで、様子を探るように、手は、動きを止めた。
(やだ……そんな……そんなとこに、手を置かないで……!)
毎朝、電車で通学する姫乃だが、未だ通学途中に痴漢の被害に遭ったことはない。
それゆえ、この不埒な手の持ち主の行為が、いわゆる「痴漢行為」なのか、姫乃は確信がもてないでいる。
「チカンがお尻をさわる」というのは、手の平による、もっと激しい行為だと、姫乃は漠然と思っていた。
が、姫乃のヒップに当てられた手は、まるで何かを考え込んでいるかのように、その箇所に甲を当てたまま、じっと動かない。
(や……やっぱり、ちがうの……?)
かすかな希望を込めて、姫乃は思った。
(でも、でも……そこに手があったら……私が、下着をはいてないこと、ばれちゃうかもしれない……)
どきん、どきん、どきん、どきん――
動悸が、激しくなる。
こんなに大きな音だったら、周りに聞こえてしまうのではないかと、姫乃は思った。
再び、電車が止まる。
姫乃のお尻から、手が離れた。
ほっとするのも束の間、同じ手が、今度は手の平をヒップに押し当ててくる。
「――ひっ」
姫乃があげた小さな悲鳴は、電車のドアの音にかき消されてしまった。
大きな右手が、姫乃の小さなお尻の、右半分ほどを覆っている。
手の、小指辺りは、お尻の割れ目にかすかに食い込んでいた。
普段は触れるはずのないスカートの布地の感触を、感じる。
(やっぱり――この人、ほんとうに――ほんとうにチカンなの――?)
どき、どき、どき、どき、どき、どき――
心臓がさらに動きを速め、未だアルコール分の混ざったままの血液を全身に循環させる。
かたかたと、姫乃の小さく白い歯が鳴った。
今、自分が、卑劣な性犯罪のターゲットになっているという事実を、姫乃は受け止め切れない。
足元がふらつくほどの非現実感が、姫乃を包み込んでいた。
走る電車の立てる音すら、今までとはまるで違って聞こえる。
(だれか……たすけて……)
姫乃は、すがるような目で周囲を見回した。
だが、周りの乗客たちは、皆、姫乃に背を向けるような形で、連れとのおしゃべりや、携帯の操作に夢中になっている。
人込みの中、姫乃は、言葉の通じない外国で迷子になったような孤独感を覚えていた。
(あっ――!)
姫乃は、大きな悲鳴をあやうく飲み込んだ。
手が――痴漢の手が、動いたのだ。
もぞり、もぞりと、どこか独立した生き物を思わせる動きで、姫乃のヒップの上を這い回っている。
撫でる、といった、優しいものではない。まだ固さの残る可憐な尻肉をつかむように手を押し付け、揉むように動かしているのだ。
小指らしき指が、さらに、さらに、お尻の割れ目に食い込んで行く。
(だめっ……だめえ……そんなに強く触られたら、ばれちゃう……!)
そんな姫乃の心の中での懇願を嘲るように、手は、幼いヒップをスカートの布越しにじわじわと犯している。
姫乃は、目を閉じ、唇を噛んだ。
視界を自ら塞いだせいか、痴漢がより大胆になったのか、余計に手の動きを感じてしまう。
今や、痴漢の指はうねうねと動き、姫乃の尻肉をいいように弄んでいた。
お尻に、かすかに指を食い込ませ、その状態のまま、円を描くように手を動かす。
無遠慮な、思いやりのない愛撫。
姫乃の背中を、ぞわぞわと震えが駆け登る。
だが――
それは、姫乃にとって信じられないことに、純粋な嫌悪のみによる悪寒ではなかった。
(やっ……やだっ……ど、どうして……?)
おぞましさと、そして甘さが、微妙にブレンドされた、奇妙な感覚。
見も知らぬ男に卑劣な行為を受けながら、姫乃は、快感の予兆のようなものを感じてしまっていた。
(そんな……うそっ……私……私、チカンされてるのに……)
どくんっ――と一際大きく、心臓がリズムを刻んだ。
(うそ! うそよっ! 私……私、そんな……)
はぁっ、はぁっ、と息が漏れる。
それは、姫乃自身が聞いたことがないほど、悩ましく、熱い吐息だった。
首から上が、かーっと熱くなる。
今、自分は、耳まで真っ赤になっているだろうと、姫乃は思った。
(私……私、さわられて……チカンされて……気持ちよく、なってるの……?)
禁断の問いに答えるように、ずきん、と下腹部が、甘く疼く。
もともと自分を偽る必要もないほど素直に生きてきた姫乃は、認めないわけにはいかなかった。
(私……エッチな気持ちになってる……)
潔癖だったはずの幼い心を満たしつつある、絶望感と、敗北感。
それが、なぜか、温かく、甘い。
(お酒、飲んじゃったから……? それとも、なっちゃんに、あんなことされたから……?)
ますます荒くなる呼吸を必死に押し殺しながら、姫乃は思った。
が、けして自身の非を人のせいにしないよう躾けられてきた姫乃は、自ら進んで官能の罠へと落ちてしまう。
(それとも……私……人より、いやらしいの……?)
女の生理にあまりにも無知な十四歳の少女は、その結論に、ぞくんと背中を震わせた。
自分が、夏希の愛撫の前に、いともたやすく意志を蕩けさせてしまったことを思い出す。
(私……私……あの時と、同じようになっちゃうの……?)
今や、下半身の疼きは、心臓の鼓動と同調してしまっている。
普段は意識していない箇所の激しい自己主張に、姫乃は、自分の体に裏切られたような気持ちになった。
(ど、どうしよう……どうしたら、いいの……?)
自らの内にある性感の萌芽を意識してしまったためか、痴漢の手の動きが、どこか優しさのようなものを含ませているように感じ始める。
が、手の動きそのものがおとなしくなったわけではない。
むにっ、むにっ、むにっ、むにっ……と、尻肉を揉み込みながら、時折、足の付け根と付け根の間に、指先を遠征させる。
その手は、確実に、姫乃の何かをこじ開け、暴き立てようとしていた。
(そんなふうに……そんなふうにされちゃったら……)
その時、姫乃の左の耳に、ふっ、と吐息がかけられた。
びくんっ、と姫乃の体が震える。
が、姫乃は、それでも必死に声を漏らすまいとしていた。
そのことに安心したように、痴漢は、さらに大胆な行為に出た。
(やああああああっ!)
姫乃は、声にならない悲鳴を上げた。
痴漢が、右手でお尻を撫で回しながら、左手でスカートをまくり出したのだ。
高級ではあるが、デザインとしてはおとなしめの、膝くらいまでの丈のワンピース。その、スカートの後ろの部分が、ゆっくり、ゆっくり、たくしあげられている。
姫乃は、叫んだり暴れたりする代わりに、ますます硬直してしまった。
(ばれちゃう――ばれちゃう――ばれちゃうようっ――!)
直接指で触れられれば、もちろん、その瞬間に自分が下着を履いていないことはばれてしまうだろう。
が、ここで暴れれば、周囲の全員にそのことが知れてしまうかもしれない。
少女の羞恥心に付け込む痴漢の卑劣な手管に、姫乃は、自ら身を投げ出してしまったようなものだった。
まるで、刑の執行を待つ囚人のような気持ちで、姫乃は立ちすくむ。
そんな姫乃の苦しみをわざと長引かせようとしているかのように、痴漢は、極めて緩慢な動きで、スカートをまくり上げていった。
(いっそ――いっそ、一気に、してもらえた方が――)
姫乃の目尻に、涙が浮かぶ。
とうとう、スカートが、男の右手の位置にまでまくられた。
右手が、スカートの中に潜り込む。
(あ……あああぁぁぁ……)
ぴと、と右手の指が、剥き出しの肌に触れた。
指先が、下着の感触を探そうとするかのように、ヒップの表面を滑る。
(はっ……恥ずかしい……恥ずかしいようっ……し、死んじゃいたい……っ)
ぽた、ぽた、と涙が溢れ、頬を伝う。
と、右手の指が、お尻の割れ目を、つーっ、と上から下に撫でた。
まるで、姫乃のお尻の様子を探る、その最後の確認のような動作。
ふうっ――
痴漢は、再び、姫乃の左の耳に息を吹きかけた。
その、かすかに大人の男の臭気を含んだ息が、微妙に温度を上げているように思える。
そして、とうとう、男は言った。
「やっぱり……履いてねえんだな、お前」
(ああああああああああああっ……)
がくん、と姫乃の体が崩れかけた。
男が、それを左手で支える。
姫乃は、その瞬間を迎え、緊張が一気に溶解し、蒸発してしまったような感覚を覚えていた。
(ばれ、た……ばれちゃった……ばれちゃったよう……)
何もかもがおしまいになったような気持ちが、胸の中に満ちる。
が、その一方で、姫乃は、どこか救われたような気持ちになっていた。
いつばれるか、という極度の緊張の後で、姫乃は、くったりと意識と肉体を弛緩させてしまっていたのだ。
もし、ここが満員電車でなかったら、姫乃はそこにしゃがみこんでいただろう。
そんな姫乃を支えるように、男の指が、姫乃の秘部に、後ろから差し入れられた。
「んんっ……!」
その敏感な部分に男の指をはっきりと感じ、姫乃の意識が、少しだけ覚醒する。
男は、指を、小さく、ゆっくりと動かし始めた。
ちょうど中指をクレヴァスに半ば潜らせるようにして、前後に動かす。
それは、姫乃にとって意外なことに、全く痛みをもたらさなかった。
驚くほどスムーズに、男の指が動いている。
「濡れてるぜ……」
男の声が、また、響いた。
そして、姫乃は、そのぬめりに、初めて気付いたのだった。
(ぬれ……てる……?)
それが意味するところを、姫乃は、不充分な性知識でもって、ようやく理解した。
(私のあそこ……ぬれちゃってる……)
そのことに気付いたとたんに、今まで意識に上ってこなかった幼い快感が、ぶわっ、と溢れた。
(わ、私……ぬらしちゃったんだ……)
そして、それを痴漢に指摘されたことを思い出し、かーっと頭が熱くなる。
(やだ……恥ずかしいよう……ぬれてるの……この人にばれちゃってるよう……)
だが、そのことが、当然感じるはずの、痴漢行為に対する嫌悪や恐怖、憎悪などに、なぜかつながらない。
まるで、ショーツを履いてないことがばれた瞬間に、そういう大事な気持ちを落としてなくしてしまったようだ。
姫乃は、人に隠れて自分の秘密の部分を愛撫している男に、奇妙な共犯意識のようなものすら感じ始めていた。
痴漢の指が、ぬるぬるとうごめいている。
それは、今までずっと中途半端なまま放置されていた姫乃の性感を、確実に目覚めさせ、煽っていた。
(この人……私を、きもちよくさせようとしてるの、かな……?)
姫乃は、ふと、そんなことを思ってしまった。
なぜか、その瞬間、男の指がもたらす刺激が、さらに甘やかになる。
(あ……んっ……どうしよう……声、出ちゃいそう……)
姫乃は、小さく可愛らしい口を、右手で押さえた。
もう、声を上げることはできない。
声を出せば、それは、意味をなさない淫らな喘ぎになるだろう。
思えば、痴漢の手が動き始めた時、なぜ悲鳴をあげなかったのか。
そのタイミングを逸してしまったせいで、今、自分は甘い悲鳴を必死で押し殺しているのだ。
すでにすっかり潤ってしまった吐息が、喘ぎ声に変わりそうになるのを、必死にこらえる。
その分、自分の中で、押し殺された喘ぎが反響し、甘い痺れに変わっていくように思えた。
(あ……あんっ……さわってる……エッチなとこに、さわられちゃってるっ……)
姫乃は、淫らな行為を受け入れかけてる自分に気付き、愕然とした。
衆人環視の中、まだ子供の自分が、こんな行為をされて性的快感を感じるなんて、あっていいことではない。
(だめ……だめだよう……かんじちゃ……かんじちゃだめ……)
必死になって、自分に言い聞かせ、脚をぎゅっと閉じる。
だが、未だ成長期の姫乃の脚は細く、いくら脚を互いに押し付けても、その部分に隙間が生じてしまう。
男の指は、卑劣な愛撫を続けながら、そんな姫乃の脚の感触を楽しんでさえいるようだった。
男のねちっこい指の動きの前に、姫乃は、理不尽な罪悪感を抱えたまま、ただただ体を甘く疼かせてしまうばかりだ。
(おねがい……おさまって……ふつうに戻ってようっ……ああん……だめ……気持ちよくなっちゃダメえ……っ!)
が、そんな理性の声は、あまりにか細かった。
(ダメ……ダメなのに……どうして……? どうしてこんなに……あああんっ!)
一際大きな電流が、姫乃を襲った。
大胆に前方まで滑った男の指が、包皮に包まれたままの姫乃の快楽の突起に触れたのだ。
(なに……? なに、今の……あ、またっ! あんッ! ああああアンッ!)
夏希の悪戯じみた愛撫ではけして得られなかった本格的な快感が、体の一番奥から背筋を駆け登り、脳を叩く。
今や、痴漢は、左手まで姫乃のスカートの中にさし入れ、前後から姫乃の幼い性器を凌辱していた。
少女自身の透明な蜜に濡れた指先が、巧みに感じる箇所を探り当て、撫で、擦り、そして摘む。
姫乃は、ぎゅっと閉じた瞼の裏に、チカチカと星が舞うのを感じた。
(ああ……これ、なに……? こんな……こんなふうになるなんて……私……私のからだ……どうなっちゃってるの……?)
次第に、そこが電車の中で、今自分の秘所を弄っているのが見知らぬ男であることすら、圧倒的な快感の前でどうでもよくなってくる。
必死になって自分を保とうとしても、包皮ごと陰核を優しく摘まれるたびに、気力が萎えてしまう。
今や、十四歳の少女の純潔の牙城は、痴漢の巧みな愛撫の前に、あえなく陥落しようとしていた。
恐怖とは全く別の理由で、脚がかくかくと震える。
唇から漏れる吐息は、まるで熱があるみたいに熱く、そして、鼻にかかっていた。
(あんッ……あああんッ……ダメぇ……こんなふうに……こんなふうにされちゃったら……私、もう……あ、あああぁぁぁ……)
いつしか、姫乃は閉じていた脚を緩やかに開き、無意識のうちに男の指が動きやすいようにしていた。
もし、痴漢が、自分の前に身を置いていたとしたら、姫乃はその体をたまらず抱き締めていただろう。
男の指の動きが、激しくなる。
そして、つるん、とクリトリスを保護していた包皮が、剥かれた。
「あひっ……!」
とうとう、姫乃は声を漏らした。
他の誰が聞いていなかったとしても、顔を寄せている痴漢だけは、この声を聞いただろう。
痴漢が、小さなクリトリスに包皮を再び被せた。
そして、また、包皮を剥く。
包皮を被せ、剥き、被せ、剥き、被せ、剥く……その繰り返しに、姫乃は、大きく口を開いていた。
叫び声を上げなかったのは、快感があまりに大きく、呼吸がままならなかったからに過ぎない。
(あ――あああ、あ、あああああああああああーっ!)
姫乃は、両手で必死に口を覆い。心の中で絶叫した。
そうしなければ、気が狂うと思った。
頭の中で、自分の絶叫が反響する。
それは、少女にとって、初めての絶頂だった。
(あ……)
かくん、と糸の切れた操り人形のように、姫乃は、倒れかかった。
それを、男が左腕で支える。
そして、男は、右手で何かをポケットから取り出し、片手だけで巧みに操作した。
スカートの中で小さな機械の作動する気配を、姫乃は、ぼんやりと感じている。
が、当然起こるはずの警戒感は、まったく湧かなかった。
電車が、姫乃の降りるターミナル駅に着いた。
どっ、と乗客が降りる。
男は、姫乃の体を支えながら、ホームに降りた。
その様子は、はた目には、具合を悪くした少女を介抱しているように見えたかもしれない。
「……ついて来いよ」
男が、さも当然のように、言った。
姫乃が、快感の余韻でぼんやりとした目を、男に向ける。
「おまえのスカートの中、デジカメで撮ってやったぜ。ばらまかれたくなかったら、言うことを聞くんだ」
そんな男の言葉の意味が、姫乃の心に届かない。
「――お前、もしかしてイってたのか?」
男の問いに、きょとん、と姫乃が目を開く。
くひひひひっ……と男が、耳障りな声で笑った。
「それで、俺が何言ってるのか分かんねえのかよ。とんだ色ボケだな、お前……」
そう言いながら、男が、姫乃の肩を右腕で抱いた。
そして、顔を近付けて、言う。
「いいから来いよ。もっと気持ち良くしてやるぜ」
男の言葉に、ずきん、と姫乃の女の芯が、貪欲に疼いた。
全くの不意打ちで絶頂を味わった少女の体は、まだ、どこか満たされないようなものを感じていたのだ。
(もっと……もっと、きもちよく……?)
姫乃の脳に、その言葉だけがリフレインされる。
「もっともっと気持ち良くなりたいんだろ? この淫乱中学生のお嬢さんはよ」
男の言葉に、姫乃が――夢見心地のまま、こっくりと頷く。
その時、姫乃は気付いた。
姫乃の肩に回された男の右手には、指が、六本あった。