前編
ボクは、今、光も音も無い世界に浮かんでいる。
匂いも味も、すっかり忘れてしまった。
ただ、温かい。
温かな何かが、ボクをすっかりくるんでいた。
上も下も過去も未来も分からない状態で、その温かさの中に漂っている。
自分と世界の境目さえも曖昧。
ボクの体は、もう、すっかり溶けちゃっているんじゃないかって、思う。
手も、足も、お腹も、背中も、胸も、首も、肩も、顔も、頭も――髪の毛の一筋すら残さず、とろけて、日なたの海に浮かんでいるような感じ。
体中を苛んでいたあの痛みも、今のところ、全く感じない。
あるのは、ただ、おぼろげなキオクだけ。
この大事な思い出が溶け流れてしまった時、ボクは――死んでしまうんだろう。
死ぬことよりも、この思い出を忘れてしまうことの方が、つらい。
だからボクは、あの夕方のことを、夢の中で回想する。
何度も――何度も――何度も――
「明日、最終検査なんだ」
ボクは、何げない風をよそおって、ヒカルに言った。
「……そっか」
ヒカルが、ボクの予想より一拍遅く、そう返事をする。
丘の上の公園に至る遊歩道。季節は春。キレイな新緑を、夕日が照らしている。
「でも――でもさ、すぐに退院ってことだってあんだろ?」
いつも通りの乱暴な口調で、ヒカルが言う。
「うん」
そうだといいな、という希望を込めて、ボクは肯いた。
「……けど、もう、これでヒカルとは会えなくなるかもしれない」
「バっ……バカなこと言うなよ!」
ヒカルが、怒った声を出す。
ボクは、並んで立っているヒカルの方に、顔を向けた。
ヒカルが、そのきりっとした目を、ちょっと潤ませているように見える。
「あのさ……えっと……」
卑怯かな? と思ったけど、この時を逃すともう機会が無い、と思って、口を開く。
「ボク……ヒカルと、キス、したい」
「……」
半ば予想してたんだろう。ヒカルが、ぎゅっと口を結ぶ。
「イヤ、かな?」
「……前に言ったろ? オレ、女が好きなんだって」
「うん、聞いたよ」
幼稚園のころからずっと続いていた幼なじみって関係を一歩前進させたくて、去年、ボクはヒカルに告白した。
結果は、あえなく玉砕。
それでも、こうやって今までと変わらず付き合ってくれたヒカルに、ボクは感謝してた。
だけど……。
「だけどさ、もし、これが最後だったら……」
「おい、マジで怒るぞ!」
「……」
ヒカルは、口をつぐんだボクの顔を見て、はーっ、と溜め息をついた。
「……お前が、女だったらなあ」
「何度も聞いたよ、それは」
「こんな可愛い顔して男だってんだから、まったく反則だよな」
そう言って、軽く屈むようにして、ボクに顔を近付ける。ヒカルはボクより10センチ以上背が高い。
凜としたヒカルの顔が、ちょっと赤く染まっているように見えたのは、夕日に照らされていたからじゃないと思う。
そして……
ちゅっ――
柔らかくて、幸せな感触。
永遠に続いてほしいと思った、短い時間。
「……はい、おしまい」
唇を離して、ヒカルが言う。
「ありがとう」
素直な気持ちでお礼の言葉を言うと、ヒカルは、拗ねたような顔をしてそっぽを向いた。
こういう仕草を見ると、ヒカルも女の子なんだな、って思う。
ポニーテールにまとめられた艶やかな黒髪と、豊かな胸。くびれた腰から長い脚にかけての柔らかなライン。
がさつな口調や態度よりも、その外見の方が、実は、ヒカルって女の子の本質に近いような気がする。
そんなヒカルの姿態を、網膜の裏に焼き付けるように、じっと見つめた。
「……そろそろ帰ろうぜ。ハラへっちまった」
「そだね」
ヒカルの言葉に肯いて、そして、並んで歩きだす。
こうやって並んで歩くのは最後になるだろうと思ったけど、そんなことは言わなかった。
「なあ、ケイ」
ヒカルが、前を向いたまま、言った。
「なに?」
「もし、医者がどんなこと言っても、諦めんなよ」
「――うん」
「もし……もし、検査の結果があれでもさ……お前は、オレが治してやるから」
もちろんボクは、その言葉を冗談だとは思わなかった。
ヒカルなら、もしかしたら、ボクという存在を根本から冒しているこの病気を、やっつけてくれるかもしれない。
「――うん。よろしくね」
だから、ボクはそう返事をした。
僕たち――折原契と、虎ノ門光の、14歳の春。
夕暮れの散歩道を、街までゆっくりと下りながら、日常の中へ――
ぎくん――!
激痛が、全身を貫いた。
無数の針を同時に打ち込まれたような、冷たさすら感じるような鋭い痛み。
体中が悲鳴をあげ、もがき、のたうつ。
ああ――そうか。ボクにはまだ体があったんだ。
痛みによってのみ自覚できる、ボクの体。
それが、遺伝子のレベルで生きることを拒否しだしたのは、いつのころからだったんだろう。
結局ボクは、あの思い出の日の翌日、病院で最終検査を受け――そして、入院した。
父さんの命を奪ったのと同じ、遺伝性だということ以外は原因不明の病気。
ベッドに伏せるようになってすぐ、体はほとんど動かなくなり、機械にチューブでつながれることによって、どうにか生きていけるという状態になった。
一日の大半を薬で強制的に眠らされ、外で何が起こっているのか、何も分からなくなった。
痛みと温かさと夢だけが、ボクに残された全てになった。
それでも、ボクは生き続けた。
体全体が生きるのをやめようとしている中、心だけで、生にしがみついたのだ。
心が、体の一部である脳によって生み出されていることを考えれば、それは悲惨というより滑稽なことだったかもしれないけど、それでも、ボクは諦められなかったのだ。
だって――
……ごぼっ!
く――
苦しい。
息が苦しい。気管の中に何かが入っている。
すごく――すごく懐かしい感覚。
そうだ。喉を何かで塞がれて息ができないって、こういう感覚だったっけ。
痛いのは慣れっこになってたけど、苦しいのは久しぶりだ。
体が、勝手に動く。
うねり、もがき、あばれる、ボクの体。
ごぼごぼごぼごぼ……。
夢じゃない。本当の音。大きな泡が浮かび上がり弾ける音だ。
思わずまぶたを開き、眼球を刺す純白の光と、自分が目を開くことができたことに、びっくりする。
ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼ……。
肌を、たくさんの泡が撫でる感触。
ボクは、今、自分が急激に五感を取り戻しているということに気付いていた。
いや、それとも、ボクの体はいつのまにか快方に向かっていたのだろうか?
でも――これって――いったい――
ざばあ。
体の周りで、大量の水が流れる。
肌が外気に触れ、それによってはじめて、自分が何か液体に身を浸していたんだってことに気付いた。
そして、ボクはゆっくりと上体を起こし――
「げほっ! んぶっ……げほ……ごほごほごほごほ……!」
大量の水を吐き出した。
うわあ、鼻からも水が出てる……みっともないなあ……。
「げほっ、げほっ、げほ……」
「ケイ!」
名前を呼ばれて、顔を上げた。
う、まだ目の焦点が合わない。でも、すぐ目の前に誰か立ってるってことは、何とか分かる。
「ケイ、オレが分かるか?」
ああ、聞き覚えがある。忘れるものか。これ……ヒカルの声だ。
「えと……おはよう、ヒカル」
「ケイっ!」
むぎゅ。
柔らかな膨らみが、まだ濡れたままの顔に押し付けられる。
「んむ……んぐぐ……ぷはあ。ダ、ダメだよ。服が汚れちゃうよ?」
「え……? あははははは! そんなことどーだっていいって!」
ヒカルの笑顔に、だんだんとフォーカスが合ってくる。
ポニーテールの艶やかな黒髪と、鼻筋の通った凜とした顔。大きな瞳に、ピンク色の唇。胸は大きいくせに、全体的にはすらりとした長身。その体に、今は白衣をまとっている。
最後に会った時より、ちょっと大人っぽく思える。身長も伸びたみたいだ。
ボク、何年くらい寝てたんだろう?
「えっと……」
周りを見回すと、清潔な感じの広い地下室だった。
ここ、記憶がある……。
見覚えがないのは、今自分が座っている不思議なベッドだけだ。棺桶と風呂桶を足して2で割ったみたいな代物で、ガラスみたいな透明な素材の蓋が、今はぱかっと開いている。
そして、ここは、ヒカルの“研究室”だ。
ヒカルは、一種の天才少女だった。小学校のころに、解剖した蛙を蘇生させたというエピソードは眉唾だけど、医学・薬学方面で凄まじいばかりの才能を見せていたのだ。
いや、あれは才能というより異能と言った方がいいだろう。何しろ、中学校の時点で海外に幾つも論文を発表し、ことごとく認められてたって話なんだから。
だから、ボクの病気だって、ヒカルだったらいつかは治してくれると信じてた。
ただ……まさか、病院ではなく、ヒカルの“研究室”で目を覚ますとは思わなかったけど。
「ダイジョブか? 頭とか痛くないか? 気持ち悪いとかは?」
「えっと……」
痛みは、もう全然ない。喉がまだちょっとヒリヒリするけど、じきに収まると思う。
強いて言うなら、体全体に違和感があるんだけど、あれだけ長い間――たぶん何年もの間――寝ていたんだとするなら、それは当然の――
の。
の?
「の……?」
ボクは、視線を下に移し、そして絶句した。
何かが、ボクの視線を遮っている。
白くて、滑らかで、ぼよんと膨らんでて、先っぽがぷくんと小さく出っ張ってて……。
「のぅわあああああああああああああああああああああああああああ!」
「あ……驚いたか? そりゃ驚くよな」
困ったような、それなのにちょっと笑いをこらえてるような複雑な表情で、ヒカルが言う。
けど、ボクはそれどころじゃない。
だって、ボクの胸にあるこれは、どう見たって女の子の――それもかなり立派な部類に入るおっぱいで――
「……!」
ボクは、剥き出しの自分の股に、手を当てた。
よかった、付いてる……。
いや、ぜんぜんよくない! だって、その、棒の下にある袋が、無い。
そこは、なんだかつるんとしてて、縦に割れ目が走ってるみたいで――
「こっ、これ、これって、これは……」
「落ち着けよ、ケイ。きちんと説明するから」
これが落ち着いてられるもんか!
だって、目が覚めたら、いきなりボクの体はオトコノコとオンナノコのアイノコみたいになっていて――
なんだなんだなんだなんなんだ?
ああっ、もう、ボクの体はどうなっちゃったんだよーっ!
「今は、ケイが入院してから、ちょうど3年目の春だよ」
場所を移して、ヒカルの部屋。
大きな家の二階にある、十畳ほどの洋間だ。
ヒカルは、中学に入った時からこの家に一人暮らしだった。両親は、外国で大学の先生か何かをしてるらしい。
意外と少女趣味な部屋の中、大きなベッドの上で、ボクは、ヒカルが差し出した天使の柄のマグカップを受け取った。
「さんきゅ」
とりあえずお礼を言って、中の温かな白い液体を口に含む。
それは、どうも蜂蜜を溶かしたホットミルクみたいだった。
「覚えてるかどうか分からないけど……ケイは、入院して3カ月足らずで病状が急変したんだ。全身に悪性の腫瘍が転移して、外科手術や放射線治療じゃおっつかない状態になった。年が若かったから、病状の進行も早かったんだな」
「……」
「で、結局ケイは、2年前に死んだわけ。表向きはね」
「し、死んだって……」
「病院にもメンツがあるから、ケイが生きてる間はオレも治療に参加できなかったんだよ。オレがしようとしてたことは、いわゆる医療倫理ってヤツに激しく抵触したからね」
「それで……ヒカルが、ボクをこんな体にしたわけ?」
ボクは、脱衣所にあった大きな鏡で見た自分自身の姿を思い浮かべながら、言った。
おっきな……ヒカルと同じくらいの胸に、丸みを帯びたお尻。なのに、脚の間にはアレがぶらさがってる。その上、袋の方は体の中に引っ込んだみたいに無くなってて、奇妙な割れ目がそこにある。
もともと子供っぽい顔だった上に、寝てる間に髪が伸び続けていたせいで、鏡の中にいるのはどう考えても女の子だった。
ヒカルの大きすぎるブラウスを着ている今も、自分の体に恐ろしく違和感を覚える。
「仕方なかったんだよ。何しろ、ケイの遺伝子の半分近くをとっかえたんだからな」
「できるの、そんなこと?」
ボクは、声変わり前に戻ったような高い声で訊いた。そう言えば、ノドボトケも無くなってたっけ。
「ケイが入院してからずっと、そのために研究してたからね。基礎理論の完成まで3カ月。特殊酵素その他もろもろの開発に1年。実験に半年。治療に1年。んでもって調整に2カ月ちょっと……」
「で、でも、どうしてこんな体なのさ?」
「手元のサンプルデータが偏ってたからな」
けろっとした顔で、ヒカルが言う。
「けど、生身の体だったことだけでも感謝してほしいもんだぜ? 従姉妹の梨花なんかは脳だけアンドロイドのボディに移し替えようなんて言ってたからな」
「……」
さすがに、そっちの方がましだった、とは言えないけど……。
「でも、遺伝子の半分がボクのものじゃないなんて……それって、ホントにボクって言えるわけ?」
「アイデンティティーの基盤をどこに置くかが問題だな。でも、一卵性双生児やクローンが“同一人物”じゃない以上、逆に考えれば遺伝子を総とっかえしても個人の識別には無関係だと思うぞ」
「そうかなあ……」
「ま、傍から見れば別人に見えるかもしれないけどさ。でも、記憶は継承してるはずだろ」
「それは、まあ……」
確かに、ボクは、ボク自身のことや、ボクの友達のこと、父さんや母さんのことを覚えてる。
でも、母さんがボクをボクだって認めてくれなかったら――
「母さんは?」
意識した時には、そう訊いていた。
「母さんは、ボクがこんな体になったってこと、知ってるの?」
「……」
ヒカルは、ひどく難しい顔になった。
「悪い」
そして、ポニーテールをふわりと揺らして、頭を下げる。
「悪い、オレのミスだった。治療がうまくいくかどうか分からなかったから……小母さんには、このこと話してないんだ」
「じゃあ、母さんは、ボクが死んだって思ってるままなわけ……?」
「そうなんだ。すまない」
「……」
ボクをこんな体にしたことは謝らないくせに、このことについては、ヒカルがいつになく神妙に頭を下げている。
イヤな予感が、ちょっと頭をよぎった。
「で……今、母さんは?」
「……再婚したよ」
聞き取れないくらい小さな声で、ヒカルが言った。
「ちょっと前のことだ。オレ、まさかそんな話になってるとは思わなくて……本当は、もっと早く知らせるべきだったのに……」
「……」
「あ、でも、そんなに気にすることはないと思うぞ。だって、ケイの顔はほとんどケイのままだし、親子の縁ってのは、遺伝子うんぬんとかそういうものじゃないはずだしさ。それに……」
「そだね」
ボクは、ヒカルの言葉を遮った。
「今度、様子見てみるよ。……死んだはずの息子が、いきなり女の子になって帰ってきちゃ、母さんもびっくりするだろうしさ」
「悪い……」
「……いいって。ヒカルが謝ることじゃないでしょ?」
「怒ってないのか?」
「うん」
「そっか、よかったあ」
安心したように、ヒカルが言う。
確かに怒ってはないけど――でも、複雑な気分だ。
だけど、表向きボクが“死”んで2年。独りぼっちになったお母さんにとっては、それは、長い年月だったんだろう。
その間、ずーっと眠っていたボクが、“再婚”という母さんの決断に異を唱えても、それはワガママでしかない。
だったら――
「……ケイ、泣いてんのか?」
ああもう! デリカシーの無いやつだなあ!
「違うよ。ただ……ちょっと、肌がピリピリして……」
半分ホントのことを、ボクは言う。
「ああ、ケイの肌は赤ちゃんと同じだからな。今、薬塗ってやるよ」
「え? いや、自分でやるよ、そんなこと」
「遠慮すんなよ。まだ、きちんと体動かないんだろ?」
そう言ってヒカルは、有無を言わせない感じでボクのブラウスのボタンを外し始めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「恥ずかしがることないって。お前の裸なんて、地下室で毎日見てたんだからな」
そう言いながらも、ヒカルの顔には妙に嬉しげな笑顔が浮かんでいる。
「ほーら、むだな抵抗すんなっ」
「わああっ!」
簡単に、ハダカにされてしまった。
反射的に、両手で股間を隠してしまう。そうすると、腕に両側から挟まれ、よけいに胸を強調するようなポーズになってしまった。
「んふふ〜、セクシーポーズじゃん」
「ヘ、ヘンなこと言うなよっ!」
「分かってるって。薬塗るだけだからさ」
そう言いながら、ヒカルは、懐からハチミツのチューブみたいなものを取り出した。どうやらこの機会を狙ってたらしい。
ぬろ〜、と、透明なローション状のものを、ヒカルがその白い手に絞り出す。
ぺと。
「んはンっ」
背中に触れた冷たい感触に、思わずヘンな声を出した。
構わず、ヒカルはボクの背中に薬を塗り伸ばしていく。
「あ、ああっ、んっ……あう……」
「ふふ……ケイの肌、きれいだぜ……」
「そ、そういう言い方、よしてよぉ……あうっ……」
ぞく、ぞく、ぞく。
異様に敏感な肌が、ヒカルの繊細な指遣いを感じる。
背中から、脇腹の方に回って、腰の辺りをぬるぬると撫でて――
ううっ、何だか、体が勝手にひくひくするっ……!
「ケイ……」
声とともに、熱い吐息が、ぞわっと後ろから耳をくすぐった。
ボクが知っていたのとどこか違う、なんだか濡れたような、ヒカルの声。
「今度は、こっちに塗ってやるよ」
「え……? わひゃんっ!」
さすがに、声をあげた。
だって、ヒカルが、腋から手を通してボクの胸に触ってくるから。
「ちょ、ちょっと、ダメ……あ、あうっ、あん……!」
腋を締めて抵抗しようとするけど、まだ体にうまく力が入らない。
ぬにゅ、ぬにゅ、ぬにゅ、ぬにゅ。
ヒカルの手が、指が、ボクの胸に薬を塗りたくり、ぬるぬるにする。
「やわらかい……」
ヒカルは、どこかうっとりしたような声でそう言って、ボクの胸をしつこく触ってきた。
いや、それは、触るなんて生易しい感じじゃなくて、揉んでる、って言った方がいい動きだ。
「は、はふ……やあぁ……ちょっ……やめてよォ……」
ボクの口から漏れる声は、ひどく情けない。女の子みたいな声になってるからなおさらだ。
自分自身の声で、妙な気持ちになってしまう。
それにしても――胸を触られてるだけで、こんなふうになるなんて。
肌が敏感になってるせいもあるだろうけど、何だか、体中の力が抜けてくみたいな感じだ。
抵抗するどころか、きちんと体を動かすことすら難しくなっている。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
ボクは、目を潤ませながら、ただ喘いでいた。
視線を下に移すと、白くて丸い胸に、細くて長い指がむにゅっと食い込み、むにむにと動いている。
胸の先っぽは、さっき見た時より赤くなってるように思えた。
と、そこを、ヒカルがいきなり摘まむ。
「ひゃうっ!」
もはや薬を塗るためでもなんでもないその仕打ちに、ボクは、思い切り身をすくめてしまった。
まるで、体に電気が走ったみたい。
「ケイ……」
ヒカルが、ささやくような口調で、言った。
「わりぃ……オレ、もうガマンできない……」
そう言って、ヒカルは、本格的にボクの胸を揉み始めた。
むにゅ、むにゅ、むにゅ、むにゅ、むにゅ、むにゅ……。
「あ、ああっ、あうん、あっ、あぅ、あはんっ……!」
想像したこともなかったような甘い感覚が、イヤらしく形を変えられている胸から湧き起こり、ボクの理性をとろかせていく。
ヒカルにイタズラされてる、と思うと、その感覚はさらに強く、そして熱いものになった。
「ねっ……ねえっ……もう、いいかげんに……あんんんンっ……!」
これ以上されたら戻れなくなる、という気持ちから、そんなことを言う。
「いいだろ……ケイだって、オレのこと好きだって言ってくれたじゃんか……」
「で、でも、こんなふうになんて……あううっ……は、はくうっ……!」
まるで男女が逆転したような――ボクについて言えば半分以上そうなんだけど――セリフを、二人して言い合う。
「ケイ……乳首立ってる……」
ヒカルにそう指摘され、どくん、と心臓が跳ねる。
「ほら……もう、こんなにコリコリして……」
「あわっ! ひゃああっ! ダメっ! ダメだよっ! あっ――あーっ!」
乳首が、ヒカルの指先で転がされ、摘ままれ、引っ張られる。
つーん、つーん、と、ちょっと痛いような感じと、それを上回る甘い感覚が、乳首から胸を貫き、全身を痺れさせる。
「ああ、あああぁっ……ダメだよォ……あうっ……んああああっ……」
「ケイ、こっち向いて」
「ああ、ヒカルぅ……」
首をひねって後ろを向くと、ヒカルが、身を乗り出すようにして唇を重ねてきた。
ヒカルの柔らかな唇の感触を、唇で感じる。
と、ぬるりとした何かが、ボクの口の中に入ってきた。
ヒカルの舌だ――
かーっと、頭の中が一気に沸騰したみたいに熱くなる。
「ん……んちゅ、ちゅぶ、ちゅっ……ぴちゅ……れる……んむむ……」
ボクとヒカルの口から、エッチなキスの音が漏れる。
そのキスの間も、ヒカルは、ボクの胸を揉み続けていた。
もう、体がバターでできてるみたいに力が入らない。
「ぷはっ……はーっ、はーっ、はーっ……」
「ケイ……かわいいよ……」
ヒカルが、キレイな顔を真っ赤にして、瞳を涙で潤ませながら、言う。
「ケイ、好きだ……ずっと前から……ケイが男だった時から好きだったんだ……」
「え……? だって、ヒカル、女の子が好きだって……」
「違うんだ……オレ……こういう体だから……」
そう言って、ヒカルは、片手でブラウスのボタンを次々と外し、形のいい胸をあらわにしながら、タイトスカートをまくり上げた。
上品な白のショーツを突き破るようにして、真っ赤になったアレが――オチンチンが、ボッキしてる。
「ヒカル……それって……!」
「オレ、今のケイと同じなんだよ……」
そう言いながら、ヒカルは、ボクをベッドに優しく押し倒した。
白衣や服をまとったまま、オッパイとオチンチンを剥き出しにしたヒカルが、ボクの上に覆いかぶさる。
「オレ……ケイが、オレと同じになって、初めて告白できたんだ……ごめんな」
「じゃ、じゃあ、その……ヒカルのやった遺伝子治療ってのは……」
「ああ……。ケイの遺伝子の半分は、オレのなんだよ」
そう言って、ヒカルは、ボクが何か言うのを恐れるように、再びキスで口をふさいだ。
確かに、いろいろ言いたいことは、ある。
でも、その“言いたいこと”は、ヒカルの情熱的なキスの前に、あっと言う間にどこかへ行ってしまった。
「んっ、んむっ、んちゅ……んんっ、ふっ、んふぅっ……」
ヒカルの胸とボクの胸が重なり、むにゅっ、とつぶれる。
それだけでも、じわあん、とした感覚が、ボクの上半身に広がった。
もぞもぞと、ヒカルが、体を動かす。
「んんっ」
ボクは、思わず口の中のヒカルの舌を噛んじゃいそうになった。
乳首が、痺れるような感覚。
ヒカルが、自分の乳首をボクの乳首に触れさせて、こすり合わせているのだ。
切ないような、ヒリヒリするような感じが、どんどん高まっていく。
「ちゅ、ちゅむ、んちゅ……ぷはっ……ケイ……感じてるんだろ?」
ヒカルが、その顔に淡い笑みを浮かべながら、言った。
「チクビ、すごく固くなってるし……それに、ここも……」
「わっ!」
今まで、わざと意識しないようにしていた場所に、予想外の刺激を感じて、ボクは声をあげた。
恥ずかしいくらいに固くなり、いきり立っている、ボクのオチンチン。
そこに、ヒカルが、ショーツから半ば以上はみ出た自分のオチンチンをこすりつけてきたのだ。
「あっ、ああっ、ちょっ……やめっ……ああうっ……!」
いろいろあってものすごくビンカンになってる場所を、熱く固いモノでこすられて、ボクは、ひくひくと体を震わせてしまった。
「すごい……そんなに感じて……」
ちゅっ、ちゅっ、とボクの頬にキスをしながら、ヒカルがちょっと上ずったような声で言う。
「ケイのオチンチン、すごくボッキしてる……固くって、それに、ヌルヌルになってるよ……」
「あああっ、も、もう、ダメぇ……んはあああっ……!」
「すごいよ……オレ、もうどうにかなっちゃいそうだよ……」
ヒカルが、なおもオチンチンでオチンチンを愛撫しながら、ボクに囁く。
ボクは、それどころじゃなかった。
想像していたよりも何倍もエッチだったヒカルに、感じる部分を次々と刺激されて、呼吸すらままならない状態なのだ。
気が付くと、ボクのアレは、もう引き返せないところまできていた。
「ダッ、ダメだって……あ、あああっ! どいてっ! ヒカル、どいてよっ!」
「やだよ……だって、ケイってば、ムチャクチャ気持ちよさそうじゃん」
「でっ、でも……あーっ! もうだめっ! かかっちゃうっ! ヒカルにかかっちゃうよっ!」
ヒカルは、ボクの言葉にちょっと驚いたような顔をして見せた。
そして、ぎゅうっ、と下腹部全体をボクのアレに押し付けてくる。
そのまま、ムチャクチャにイヤらしく腰を動かすヒカル。
「あっ、ああっ、あっ、あっ、あっ、あーっ!」
勃起したオチンチンをヒカルの肌やショーツやオチンチンで揉みくちゃにされ、ボクはあっという間に限界を突破してしまった。
「で、出る……ッ!」
ぶびゅびゅっ! びゅぷっ! びゅるるるるるる!
ボクとヒカルのお腹の間に、大量のセイエキをぶちまける。
頭の中が、真っ白になった。
「うわ、すげえ……ケイ、いっぱい出したな……」
ヒカルが、感心したように言いながら、少し体を離した。
二人の肌と、そしてヒカルのショーツやスカートを濡らした濃いセイエキが、ねっとりと糸を引く。
「こんなにしてくれちゃって……」
そう言いながら、ヒカルが、長く伸びたボクの髪を撫でた。
「ふわん!」
「んふふっ……可愛い声……」
「やっ、く、くすぐったいよ……あんっ、はふ、ふゎ……はあぁんっ!」
ヒカルが、ボクの髪や肌を撫で回す。
「あっ、あふん、んああっ……やめ、やめぇっ……あ、ああっ、あう……ひあああっ……!」
自由にならない体が、びくン、びくン、とひとりでに跳ねる。
しばらくして、ヒカルが、ようやく手を止めた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
喘ぎながら、ボクは、ヒカルのことを見つめた。
にらんでやるつもりだったけど……視線にまで、力が入らなくなっている。
「ケイ」
と、ヒカルが、いつになく真剣な声で、ボクのことを呼んだ。
どきん――
かすかな不安と、奇妙な期待。
「入れるよ……」
とんでもないことを、ヒカルが言った。
「ちょ……んあああっ!」
何か言いかけ、ボクは、叫んでいた。
ヒカルの指が、ボクのオチンチンのもっと奥の方を、細い指でかき回して――
「あっ、やめっ! そ、そこ触わんないでよっ!」
「ホラ、ケイのだって、こんなになってんじゃん……」
「なっ――にゃあああああっ! や、やめて……あ、あんんんんっ!」
「熱くなって、グチョグチョに濡れてる――すごくヤラシイよ、ケイのオマンコ♪」
なっ、ヒ、ヒカルってば、なんてことを!
がさつで大ざっぱだけど、ヒカルは間違いなく女の子なのに――なのに、そんなイヤらしいこと言うなんて。
「ケイ――オレ、ケイのバージン、もらうからな」
「待っ……!」
待ってって、言おうとしたのに――
ずるん!
「ひぎゃああっ!」
い――たい――!
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、いたい、いたい、いたい、いたい、いたイ、イタイ、イタイ、イタイイタイイイタイ――!
「ケイ、痛いか?」
訊かれて、ボクは、恥も外聞もなくぶんぶんと肯いた。
痛いなんてもんじゃない。
自分でもさっきまで意識していなかった開口部を、無理やりに引き裂かれる、鮮烈な激痛――
なのに――
「ごめん……でも、してるうちに気持ちよくなるはずだから」
ちょ、ちょっと待てえええええ!
が、ボクは、そう叫ぶことができなかった。
ずるるるるるるるる……!
まだ、中に入ってくる。
いや、さっきのは、ヒカルのモノがちょっと頭を潜らせただけに過ぎなかったのだ。
今、固くボッキしきったヒカルのオチンチンが、ボクの体の中にむりむり入ってきて――
「あ、あああ、あっ……あうぅ……ひどい……ヒカル、ひどいよォ……」
かつて好きだと告白した――いや、今だって大好きな女の子にレイプされながら、ボクは、情けない声をあげる。
「ゴメンよ、ケイ……こうすれば、少しはマシか?」
「ひああン!」
むにゅっ、とヒカルがボクの胸を揉んだ。
ふに、ふに、ふに、ふに、ふに、ふに……。
忘れかけていた乳房の快感が、ひたひたとボクの体に満ちていく。
「あ、今、ケイのここ、きゅんってなった……」
そう言って、ヒカルが、ズリズリとあれを動かし始めた。
「んわあんっ……あ、あうっ、はっ、はひ……ひあああああっ……!」
体の中を、ごつごつとした固いものでこすられる感触。
痛みが、重苦しいような圧迫感と、焼けるような灼熱感に分離し、それぞれボクを内側から苛む。
「はんっ、あうっ、あく、あんっ、あぅ、あああんっ……!」
お腹の奥を押されて、エッチな声が、自然と口から漏れる。
そんなボクの声に興奮したのか、ヒカルは、ますます腰を動かした。
「あっ、あうっ、あふ、ああん、あん、あんっ……ヒ、カル……もっと、優しくしてェ……」
「んっ……こ、こうか……?」
「あうううっ……」
動きが、小刻みなものになる。
もう、体が裂けるような痛みは、無くなっていた。
ただ、ひりひりとした熱さが、揉まれ続けているオッパイの快感と混ざり合っていく。
「はああっ、あはん、はふ、はぅん……は、はふ、はん、はふぅん……」
「ケイ……きもちいいか?」
「そ、そんなっ……ふ、普通、初めてで、きもちよくなんか、ならないでしょ……? あくぅっ……あふ……」
「でもさ――」
きゅっ。
「んンっ!」
その部分に、ヒカルの指を、感じた。
ボク……また、ボッキしちゃってる……!
「ここ、すごく固くなってるぜ……? やっぱ、きもちいいんだろ?」
ヒカルが、腰を動かしながら、まだセイエキでぬるぬるなままのオチンチンをしごいてくる。
「あっ、あうっ、あふっ、あく、あんっ、あああんっ……!」
「すごい……ケイのチンポ、ぴくぴくしてる……」
「やっ、やだあっ! そんなふうに言わないで……んあああああっ!」
自分が快楽を感じてるという事実を突き付けられ、ボクは、くねくねと身をよじった。
粘膜を擦られる熱さも、体が裂かれるような痛みも、お腹の奥を押される苦しさも――全てが、快感に変換されていく。
「ケイ……自分でオッパイもんでみなよ」
「やっ、やああっ……そんな……そんなこと……」
口では拒んでるはずなのに、ボクの手は、むにむにと自らの胸を揉んでしまっていた。
一番キモチイイ強さを探りながら、指を、丸い乳房に食い込ませ、乳首を摘まむ。
「ああ、すごい……ケイ、ムチャクチャやらしいっ……!」
「あうっ、あっ、あああっ! ヒカルっ……ヒカルう……っ!」
「ケイ……っ!」
ヒカルは、ボクの右脚をまたぐような格好になって、左の脚を抱え上げた。
そして、腰を動かし、ボクのオチンチンを右手で扱きながら、左の足を舐めてくる。
「ンああああああああッ!」
予想もしなかったような快感に、ボクは叫び声をあげた。
全身を、激しい快感が駆け巡る。
オッパイが――オチンチンが――アソコが――弾け、溢れそうになって――
「んちゅっ、ちゅむ、ちゅじゅじゅっ、んちゅ……ぷは……はあ、はあ、はあ……ケイ、オレも限界だよ――!」
ボクの足の指をしゃぶり、指の間に舌を這わせていたヒカルが、切迫した声で言った。
そして、腰の動きをいっそう激しくする。
「あっ、あああン……! ヒカル……んひゃあああああああンっ!」
「出る……出るよ……っ! ケイのオマンコにセーエキ出すよっ!」
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ――!
ヒカルのオチンチンが、ボクのアソコをメチャクチャにする。
もう、キモチイイってこと以外は、何が何だか分からない――!
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
びゅるるるっ! びゅっ! びゅぶぶぶびゅびゅびゅびゅびゅっ!
すごい勢いで、精液が迸る。
ヒカルと、ボクのオチンチンから。
ボクたちは、いっしょに声を上げながら、ほとんど同時にシャセイしていた。
「あああああ、あ、あ、あああ、あああ、ああぁー……!」
びゅううっ、びゅううっ、って、白いのが、いっぱい、いっぱい溢れて。
あ、ボク……チクビからも、何か出してる。
すごく濃厚な、ミルクの匂い……。
ああ、ボク、オッパイまで出しちゃったんだ……。
ヒカルのオチンチン……ボクの中で、まだ、びゅくンびゅくン、って動いて……。
ヒカルのセイエキ……熱くって……じわあって体の中に広がって……何だか、ちょっとしみて、ピリピリする……けど、キモチイイ……。
むにゅ。
ヒカル柔らかい体が、ボクの上におおいかぶさってきた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「はー、はー、はー、はー、はー、はー、はー、はー……」
ぐったりとした喘ぎ声が、お日さまの差し込むヒカルの部屋の中で混じり合う。
それを、ボクは、意識を真っ白にしたまま、ボンヤリと聞いていた。