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(後編)


 ユーレリアは、盗賊ギルドに買われ、そして飼われていた。
 つまり奴隷だった。
 しかも、ただの奴隷じゃない。アサシン――暗殺者としての訓練を受けた、生ける凶器だ。
 その過程において、今よりもっと幼いころのユーレリアは、一緒に買われ、飼われていた、お兄さんを――殺した。
 ギルドの連中の邪悪な計画に組み込まれ、唯一の肉親を殺害したのだ。
 ユーレリアが、どのようにして兄を殺すまで追い詰められ、そして彼女の兄が、どんなふうに死の刃を受けたのか……それは分からない。
 けど、その時を境に、ユーレリアは本物のアサシンになってしまったんだと思う。
 そして、たぶん、その頃からだったのだろう。
 孤独なはずのユーレリアが、自らの周囲に死者の姿を見始めたのは……。



「――レムルナーガの、嘘つき」
 輝く褐色の目に涙すら溜めながら、ユーレリアは言った。
「お友達になってくれるって言ったのに……!」
「そ、それは……」
 僕は、絶句した。
 目の前のこの幼い少女は、今、本気で怒り、そして悲しんでいる。
 僕がおとなしく殺されなかったこと――彼女の“お友達”にならなかったことを、裏切りとして捉えているのだ。
「とにかく、ちょっと落ち着いてよ……ね?」
 自分を殺しかけた相手を、とりあえずなだめる。我ながら、何とも異様な状況だ。
「僕は、ユーレリアの言うことが、よく分かってなかったんだよ。その……ユーレリアの友達になるって事がさ」
「知らない、そんなこと!」
 ユーレリアが、まだ僕の精液に濡れたままの唇を、震わせる。
 朴念仁だの冷血漢だの、ひどい時には人非人だのと言われることのある僕だけど、こんな表情を浮かべる女の子を前にするのは、実は本当に苦手だ。
「いいわ……あなたなんて知らないから! あたしには、もういっぱいお友達がいるんだからね!」
 彼女は、どれほどの人数をその手にかけ、そしてその罪を歪んだ論理の中に埋没させてきたのか――
 僕は、ユーレリアをこんなふうにした誰かに対し、真剣な殺意を覚えていた。
「聞いてよ、ユーレリア」
 僕は、ぷいと横を向いた彼女に、話しかけた。
 綺麗な曲線を描く眉を怒らせ、柔らかそうな頬を膨らませている。
 そんなアンバランスな表情に、間違いなく、僕は魅力を感じていた。
「ユーレリア……」
「…………」
「ユーレリア。お願いだから、こっちを向いてくれないかな?」
「…………」
 ちら、とユーレリアが瞳を動かし、僕を見た。
「あのさ……その……あんなことをしても、僕は、ユーレリアの友達にはなれなかったんだ」
「そんなことないわ。死んだら、みんなお友達になってくれた。レムルナーガだってそうなるはずだった! 今だって、この部屋の中には、あたしのお友達がいっぱいいるのよ」
 言いながら、ユーレリアが僕に顔を向け直す。
「そんな人、僕には見えないよ」
「当たり前じゃない。この人たちは、レムルナーガのお友達じゃなくて、あたしだけのお友達なんだもの」
「で、でも……その人たちは、その……」
 ――ユーレリアのお友達になることを、嫌がらなかった?
 そんな残酷な問いを、この状況で発することができるわけがない。
 でも、ユーレリアは、僕の言いたいことを察したみたいだった。
「確かに、あたしがお友達になろうとした時、びっくりしたり、こわがったりした人もいたわ」
「それなら――」
「でも、お友達になってからは別。みんな、あたしの味方よ。お兄ちゃんだってそう。あたしの言うこと、何だって聞いてくれるわ」
「…………」
「レムルナーガだってそうよ。もし、今、お友達になるのがイヤでも、その体を捨てちゃえば、あたしのお友達になるはずだった。それに、レムルナーガは、お友達になってくれるって言ったのに……!」
「僕は、ユーレリアの友達になりたいと思ってる。本当だよ」
「嘘っ!」
「嘘じゃないよ」
 辛抱強く、僕は言った。
「僕は、ユーレリアの友達になりたい。でもね、ユーレリアのやるような方法だと、友達にはなれないんだ」
「そんなこと、ない……!」
 ユーレリアが、意固地になったように言う。
 それはそうだろう。“自分が殺した人間はお友達になる”という彼女のルールが否定された時――彼女は、たくさんの恐ろしい罪を背負わなくてはならないのだから。
 だから、僕は、別のルールで、彼女の友達にならなくてはならない。
 自分のお兄さんを殺した罪すら隠すような、強力なルール――そう、それに対抗するには――
「ユーレリア」
 僕は、言った。
「あのさ、僕、別の方法を知ってるんだよ」
「…………」
「えっと……友達になるための、さ」
「…………」
「それを、試させてくれないかな? もし、それをやっても、まだ君と僕が友達になれなかったら……君の方法で僕を友達にしていいから」
 彼女のルールは、彼女自身を不幸にする。
 だから、僕が、彼女のルールによって彼女の“お友達”になるわけにはいかない。
 そういうわけで、今、僕が言った言葉は、真っ赤な嘘なわけだ。
 けど……言葉は嘘だとしても……その気持ちは……覚悟は本当なのだと……僕は、自分に言い訳する。
「……いいわ」
 長い時間の後に、ユーレリアはそう言った。
「レムルナーガのやり方でやってみて。でも、その後は、あたしの番だからね」
「うん」
 僕は、肯いて、彼女の手を取った。
 そして、ベッドの上、僕の隣に座らせる。
 僕は、一つ深呼吸をしてから、ユーレリアの顔に顔を近付けた。
 ユーレリアは、ひるむ様子を見せない。
「ん……」
 ユーレリアと、唇を重ねる。
 さっきまで僕のを咥えていたはずなのに、その口は、ほんのりと甘い香りがした。
 高級娼婦のように、行為の前に匂い付きの飴をこっそり口に含んでいたのかもしれない。
 口内に舌を差し入れると、小さな舌先が触れてきた。
「んっ……ちゅ、む……んむ……ちゅぷ……」
 ユーレリアの口から、吐息混じりの声と、淫らに湿った音が漏れる。
 唇を離すと、細い唾液の糸が、僕たちの口元を一瞬つないだ。
「……キスだけ?」
 ユーレリアが、琥珀色の瞳で僕を睨みながら、言う。
「こんなこと、お友達を作る時に、しょっちゅうしてたわ」
「こ、これだけじゃないぞ……」
 ユーレリアの挑発に乗るような感じで、僕は、彼女の体を左腕に抱き、薄い胸に右手を重ねた。
「きゃ……!」
 ユーレリアが、意外なほど可愛い悲鳴を上げた。
 だが、僕は止まらない。
「あ……レ、レムルナーガは、お友達になる時……こんなこと、するの?」
「ん、まあ……女の子にはね」
 そう言いながら、ユーレリアの胸をまさぐる。
「あ、あぅ……やっ……ん、あぅ……何これ……? はぁん……っ」
 ユーレリアが、頬を赤らめながら、体をくねらせる。
 それは、単にくすぐったがっているようにも見えたが――彼女の声の調子は、それ以上の感覚を覚えていることを示していた。
「は、うっ……あんっ……やだ、あ、あんっ……こんなの、ヘン……んふう……やぁっ……」
「変? どんなふうに?」
「あ、あの……あううン……体が……えっと……せ、切なくなっちゃぅ……」
 服の上からの胸への愛撫に、ユーレリアが、敏感な反応を返す。
 そのことは、僕のを興奮を、いやが上でも高めていった。
「こういうふうにされたこと、ある?」
「あうん……な、無いわ……あっ……こんなことで、お友達になれるの……?」
「なれるよ……ユーレリアは、これ、もっとしてほしくなってるでしょ?」
「う……うん……たぶん……」
 恥ずかしげに、こくん、とユーレリアが肯く。
「じゃあ、してあげる……」
 僕は、そう言って、ユーレリアの服をはだけた。
 白い膨らみかけの胸と、小さな桜色の乳首が露わになる。
「あっ……!」
 その乳首を口に含んだ時、ユーレリアは、驚きの声を上げていた。
 構わず、舌を動かし、その突起を舐めしゃぶる。
「はっ……んふう……そんな……こんなのヘン……ぜったいにヘンよっ……あうううン……」
 ユーレリアが、喘ぎ混じりに、戸惑ったような声を上げる。
 彼女は、“する事”は徹底的に教え込まれていたのだろうが、“される事”には全くの無知なのだ。
 そのことに、僕は、安堵に似た感情を覚えていた。
「あ、ふうっ……やっ……あぁん……切ない……切ないの……」
 ユーレリアの声を聞きながら、滑らかな肌を撫で、発達途上の乳房に舌を這わせる。
 いつしかユーレリアはシーツの上に横たわり、僕は、その小さな体に覆いかぶさっていた。
 その華奢な肢体がくねり、服がさらに乱れていく。
 僕は、異様な興奮を覚えながら、彼女の服を少しずつ剥ぎ取っていった。
「あ……」
 自分が全裸に近い格好になったことに気付いたのか、ユーレリアが、両手で顔の下半分を覆う。
 僕は、愛撫の手を緩めることなく、続けた。
 そうしながら、彼女の顔を覗き込む。
「……いや? いやなら、やめるけど」
「…………」
 ユーレリアは、ふるふるとかぶりを振り、そして、いっそう顔を赤くした。
 快楽と、そして羞恥に、その体がおののいている。
 僕は、ユーレリアの両手を優しくどかし、花びらのような唇を露わにした。
 そして、再び、唇を重ねる。
「んっ……ちゅむ……ん……んちゅ……ちゅむむっ……」
 自らの知ってる行為を行うことで安心しようというのか、ユーレリアは、積極的に舌を絡めてきた。
 目蓋を閉じ、舌先で口内を探り、唾液を交換する。
 ちゅぽ、と音をさせながら唇を離し、ユーレリアの顔を見た。
 その顔は、何だか、ぽーっとしていた。
「ユーレリア……」
 あれほどの口技で僕を翻弄したくせに、愛撫にはほとんど免疫の無い彼女が、可愛くて仕方が無い。
 僕は、指先で彼女の胸を撫で回し、鳥が餌をついばむように乳首を何度も摘まんだ。
「はっ、はふううぅ……やっ……きゅうううン……」
 まるで、甘える子犬みたいな声が彼女の口から漏れる。
 僕は、ユーレリアの胸を責めながら、彼女のなだらかなお腹にキスを繰り返した。
 そして、さして強くない力によって閉ざされた脚を、ゆっくりと割り開く。
「や……見ちゃダメ……」
 ユーレリアが、両手で自らの股間を隠した。
「どうして見ちゃ駄目なの?」
 当たり前のことを、尋ねてみる。
「だ、だって……だって……恥ずかしいの……恥ずかしくなっちゃってるの……」
 目に涙を溜めながら、それでも、ユーレリアはきちんと答えた。
「いいんだよ……大丈夫……」
 僕は、ユーレリアの両手をどかす。
 まるで、さっきキスした時と同じ。
 そして、ユーレリアの下の唇は、透明な蜜でキラキラと濡れ光っていた。
「ユーレリア……」
 彼女の小さなお尻を抱えるようにして、その無毛の恥丘に顔を寄せる。
「や、やだ……まさか、そんな……はひっ……!」
 そこにキスした時、ユーレリアの体が、ぴくんっ、と跳ねた。
 蜜を舐め取るように、その部分に舌を這わせる。
「ダメ、ダメェ……ああぁン……そこ、汚いから……恥ずかしいオシッコで汚くなってるからァ……あっ、ああぁン……!」
 ユーレリアが、体をよじって僕から逃れようとする。
 僕は、彼女の腰をしっかりと捕らえ、ちゅばちゅばと音をたてながらその部分を責め続けた。
 あとからあとから、淫らな蜜が溢れ出てくる。
「ああああぁン……ダメ……ダメなのにぃ……はっ、はひぃ……ひン……あはぁぁぁぁン……!」
 ユーレリアの、甘い悲鳴。
 ヒクヒクと震えるその体は、もう、僕を拒否してなどいない。
 いつしかユーレリアは、その幼い腰を浮かしてさえいた。
「はっ、はふうっ……はぁ……切ない……体中切ないよ……あ……あン……んくうううン……!」
 少女の未熟な花弁は柔らかく綻び、まるで誘うようにおののいている。
 もう、我慢なんてできるわけがなかった。
 浅ましく勃起している肉棒を剥き出しにし、体を起こして、彼女の脚の間に腰を進ませる。
「レ……レムルナーガ……」
 敏感な粘膜で僕の亀頭を感じ、ユーレリアがかすかに怯えたような声を上げる。
「あんまり痛いようだったら、言ってね……」
 何を言われようと止まらないほどの獣欲に支配されているくせに、なんて偽善。
 でも、その偽善は、いま自分を衝き動かしている欲望と、同じ根っこから現れたもの。
 つまり、僕は、たったあれだけの時間で、この少女のことを――
 そんなことを考えている間にも、僕の肉棒は、ユーレリアのそこに侵入していった。
「あ……つうッ……!」
 鋭い悲鳴が、わずかに、僕を冷静にさせた。
 だが、すでにその時には、肉の楔が、彼女の繊細な部分に、半ば以上、埋没していた。
「だいじょうぶ……?」
 肉棒を包み込んでいく熱くきつい感触に背筋を震わせながら、僕は、訊いた。
 そんな僕の表情から、何を読み取ったのか――しばらく僕の顔を見ていたユーレリアは、こくん、と肯いた。
「い、いくよ……」
 僕がしようとしていることを正確に把握していない彼女にそう言って、さらに、腰を進ませる。
「う、くっ……あく……ひッ……! 痛あァい……!」
 びくっ!
 ユーレリアの体が、痙攣する。
 彼女の秘唇は、僕によって奥まで貫かれ、鮮血を溢れさせてしまっていた。
「痛い……痛いィ……あ、ううっ……くっ……んくうぅぅぅ……」
 僕を殺して“お友達”にしようとした少女が、僕の腕で組み敷かれ、破瓜の苦痛に呻いている。
 僕は、正体不明の熱で頭を飽和させながら、腰を動かし始めた。
「あぐ……ひ……きっ、ひいいぃ……やあぁ……いたい……いたひぃ……ひっ……ひうううううっ……!」
 ユーレリアが、啜り泣きのような声を上げる。
 いや、それは、正真正銘の泣き声だったんじゃないだろうか。
 それでも、僕は、抽送を続け……そして、彼女の体を愛撫した。
「はうっ、はひ、ひいいん! あ、あううっ、あぐ……うううっ……うっ、ううんっ、うく……! あああああああっ……!」
 その小さな体で受け止めるにはあまりに大きな刺激に、ユーレリアの感覚がパニックを起こしている。
 でも、それは、緩やかに、ある一つの方向に収束をし始めていた。
「あっ、あつっ、ううう……熱い……あ、熱いの……はああっ……あひい……熱くて、ヒリヒリするゥ……ううううんっ……!」
 苦痛が、いつしか熱となり、ユーレリアの体奥を炙り始めている。
 その体内の火は、僕の動きによって、さらに大きく、そして粘っこくなって、彼女の体内を満たしていった。
「ああぁ……何……? すごい……! これって……こんなのって……っ! あっ、やああっ、あああ……あうっ! あうううン! あぐ……あああああああ!」
 ユーレリアが、喘ぎ、悶える。
 今や、血に濡れた肉杭を咥え込んだ彼女の幼い秘唇は、健気に僕の抽送を受け止めながら、大量の愛液を分泌させていた。
「はふ……あう……あああン……! やぁっ……! やン、やあぁン……! 恥ずかしい……あたし、恥ずかしくなる……どんどん恥ずかしくなっちゃうっ……! あううううううっ!」
「ユーレリア……気持ちいいの?」
「やっ! いやぁン……! 聞かないで……恥ずかしいこと聞かないでェ……あああああああン!」
「大事なことなんだよ……きちんと教えて」
 知りたかった。僕がしでかしてしまったこのことに、ユーレリアが肉の悦びを覚えているのかどうか、どうしても聞きたかった。
 そして、とうとう、その答えは返ってきた。
「あああ……いぃ……い、いいの……あっ、ああぁン……っ!」
「気持ちいいんだね?」
「あうぅ……! いいの……いいのォ……! あああああ……いい……気持ち、いいィ……! 恥ずかしい場所が、気持ちよくなっちゃってるゥ……! あああああ、いいぃ……いいいン……ひああああああン!」
 ぎゅっ、ぎゅっ、と、きつい締め付けがさらにきつくなる。
 そして、ユーレリアの両腕も、いつの間にか僕の体を抱き締めていた。
「あっ、あううっ、あひン、ああぁン! すごいっ……! 来ちゃう! 何か来ちゃうゥ! あうっ、あううっ、んく……ひああああああああァ〜ッ!」
 きゅーっ、とユーレリアの体が弓なりに反った。
 肉棒を食い千切らんばかりに、ユーレリアの膣肉が収縮する。
 そして、僕は、限界を迎えていた。
「い、いくよ……ユーレリア……」
「えっ? な、なに? あ! あああ! あっ! あああああああああああ! あああああああああああああああああああああーっ!」
 どぶっ! びゅっ! ぶびゅっ! どぶぶっ!
 ユーレリアの膣奥に先端を食い込ませ、その位置で射精する。
「ひーっ! あひっ! はひいいいいいい! きひいいいいいいいいいいぃ〜っ!」
 激しく迸る熱い精液を子宮の入り口に叩きつけられながら、ユーレリアが絶頂に達する。
 凄まじいまでの快感に、僕は、しばし思考を停止させてしまった。
「……あ……かはっ……はひゅ……あひ……は……はひぃン……」
 僕の体の下で、ユーレリアが、必死に呼吸を整えようとしている。
 射精直後で敏感になった僕の肌は、ユーレリアの動きを、余す事なく感じ取っていた。
「あ……あはぁっ……あひ……はあぁ……あああああ……はーっ……はーっ……はーっ……はーっ……」
 きついままの膣圧によって、萎えかけの僕のモノが、ぬるんと外に押し出される。
 それが、何だか寂しくて、ユーレリアの小さな体をぎゅっと抱き締めた。
「あぅ……レムルナーガ……あうぅん……」
 ユーレリアが、まだきちんと力の入らない腕で、抱擁を返してくる。
「これで……あの……あたし、あなたのお友達になれたの?」
「うん……」
 僕は、しっとりと汗に濡れた彼女のおでこに口付けして、続けた。
「ユーレリアは、僕の友達だよ……すごく特別な、ね」
「…………」
 彼女の琥珀色の瞳が、僕の目を見つめる。
 そして、その半開きの唇が、かすかに動いた。
「うれしい……」
 その言葉に感動すら覚えながら、僕は、ユーレリアの唇に唇を重ねた。



 そして、その後の数日間、僕は、“踊る青猫”亭を根城にして活動を始めた。
 午前中は、ユーレリアの物騒な考えをどうにか正すべく、とにかく話をした。
 これまで僕が経験してきた、いろいろな旅の上での物語。
 あの吟遊詩人のようにうまくは語れなかったけど、それでも、ユーレリアはきちんと聞いてくれた。
 ユーレリアは、常識が無いだけで、頭はけして悪くなかった。普通に友達を作るためにはどうすればいいのか――ともに話をし、時に遊び、そして相手の気持ちを思いやるということを、次第に学んでくれたようだった。
 それは、はっきり言えば、今までユーレリアがしてきたことより、ずっと簡単で、そして彼女自身にとっても楽しいことのはずだ。実際、この宿に逗留する前に見かけたあの猫と、ユーレリアは、ことあるごとにじゃれあっている。
 そして――僕が彼女を友達にしたあの方法は、本当に大事にしたい人にだけすること、ということも、教えた。
 何やら僕にとってはかなり虫のいい話をしているようだが、勘弁してほしい。
 僕がユーレリアを大事にしたいと思っているのは、紛れも無い事実だからだ。
 そして、僕は、その思いに一つのけじめをつけるために、毎日のように午後の街を探索したのだった。



 夜中――僕は、そっと寝床を抜け出した。
 そして、あの歪な両手剣を抱え、宿を抜け出す。
 “踊る青猫”亭の主人には話をつけてある。もし、僕の姿が見えないことでユーレリアが騒ぎだしても、少なくとも一晩はなだめすかしてくれるはずだ。
 下弦の月を夜空に仰いでから、人通りの絶えた通りを歩き、路地に入る。
 これまで得た情報が正しければ、今夜が、チャンスのはずだ。
 僕は、周囲に気を付けながら、狭い路地裏を歩き続けた。
 そして、小さな十字路に座り込んだままの物乞いに、コインを一枚差し出す。
 そいつは、フードの奥の目で僕を確認してから、こくりと肯いた。
 彼に対する感謝の言葉は敢えて口にせず、目の前にある狭い路地の奥に入った。
 人がぎりぎり二人並んで歩くことができる程度のその路地は、袋小路になっていた。
 行き止まりの壁に小さな木製の扉があり、隙間からかすかにオレンジ色の光が漏れている。
 待つこと、しばし。
 すでに、僕に情報を売ってくれたあの物乞いは、姿を消してるはずだ。
 そして――半刻ほど時が過ぎた時、ゆっくりとドアが開いた。
 カンテラを持ち、奴を先導していた男が、一瞬、動きを止める。
「“長い手”のチャリストだね」
 僕は、先頭の男の奥にいるそいつに、声をかけた。これは、“獣使い”のエルドから聞いた名前だ。
「ヘルネドス一派の残党か?」
 僕の言葉を否定することなく、そいつ――チャリストは言った。
「お前が売り買いした奴隷の身内だよ」
 そう言って、すでに鞘から抜いてある剣を構える。
 一呼吸ほどの間もなかった。
「――やれ」
 短く、チャリストがカンテラを持った男に命令した。
 男が物も言わずに僕にカンテラを投げ付ける。
 がっ、と音がして、それが額に当たる。
 構わず、僕は大きく踏み込み、剣を振り下ろした。
「ギ……ッ」
 剣に頭の鉢を割られ、動物じみた声を上げながら、僕にカンテラを投げ付けたその男が、倒れる。
 右手で腰の曲刀を抜きかけたままの姿勢で、そいつはびくびくと痙攣した。
 僕がカンテラを避けるか叩き落とす隙を突こうとしたのだろうが、カンテラごときが頭に当たって死ぬわけがない。無視をするのが正解だ。
「糞っ……!」
 チャリストが身を翻す。今までいた部屋に戻ろうというのだろう。
 僕は、倒れた男の死体を跨ぎ越え、その背中に迫った。
 まずその足を止めるべく、剣を振り下ろす。
 が、チャリストの足は、僕が予想したところに無かった。
「しまった……!」
 僕は、思わず叫んでいた。
 チャリストは、部屋に逃げ込む代わりに、開きっぱなしだったドアに飛びつき、よじ登ったのだ。
「ひゅっ!」
 チャリストが、ドアの上の壁を蹴り、僕の頭上を軽々と跳び越える。
 奴を追うべく振り返りかけた時、ぞわりと、首筋の産毛が立った。
 わずかな風圧で敵の気配を察し、両手で剣を構え、ドアが開け放たれたままの入り口に向き直る。
 入り口から、曲刀を構えた黒づくめの男が、飛び出してきた。
 この気配の殺し方――アサシンだ。おそらく、あの部屋の中で、チャリストとともに、ヘルネドスの次は誰を暗殺するかなんてことを話していたのだろう。
 そんな話の内容には興味は無いが、アサシンの攻撃を無視するわけにはいかない。僕は、思い切り剣を振り下ろした。
 斬首の刃が、空を切る。
 ――外した!
 エグゼキューショナーズソードは、一撃で首を落とすために作られた剣だ。二撃目を繰り出すのには向いていないし、剣先で突きをすることもできない。
 その覆面に隠された顔に、アサシンは、笑みを浮かべていたかもしれない。
 いや、それとも、チャリストに殺人機械として作り上げられたこいつには、感情など無いのだろうか。
 アサシンの曲刀が迫る。ほぼ確実に、その刃には致命的な毒が塗られているはずだ。
 僕は、大きく後退しながら両手に力を込め、体を反らすようにして、この使いづらい剣を振り上げた。
「ぐが!」
 顎から鼻先までを断ち割られ、血をしぶかせながらアサシンが倒れる。
 構えてから振り下ろすのでは遅すぎた。僕は、振り上げる刃でアサシンを攻撃したのだ。
 アサシンの生死は不明だが、もう戦える状態ではないはずだ。僕は、改めてチャリストを追った。
 もうすぐ、十字路。
 その中央で――チャリストは、なぜか僕を待ち構えていた。
 奴が、その左腕で、小さな女の子の体を盾にするように抱えている。
「――ユーレリア!」
 僕は、思わず叫んでいた。
 チャリストが盾にしているのは、紛れも無くユーレリアだった。
 奴の左手が、彼女の細い首に食い込んでいる。
 どうして彼女がここに――
 いや、ユーレリアはアサシンとしての訓練を受けていたのだ。宿屋の親父に気付かれないように窓から抜け出すことも、気配を殺して僕を尾行することも、彼女には可能だったのである。
「クク……ヘルネドスをバラした後で姿が見えねえと思ってたら、手前が拾ってやがったのか」
 チャリストが、汚い歯を剥き出しにして、嘲笑する。
「俺の仕込んだこの小娘にご執心かよ! お目出てえな!」
 そう言って、チャリストは、右手一本で細い筒を取り出し、口に咥えた。
 ブロウガン――つまり吹き矢だ。
 そう思った瞬間に、鋭い痛みが、頬をかすめた。
「ぐ……っ」
 一瞬で視界が暗くなり、全身から力が抜ける。
 僕は、がっくりとその場に膝をついていた。
 歯を食い縛りながら、どうにか倒れそうになるのをこらえる。
「レムルナーガに何するの! やめて!」
「うるせえっ!」
 腕の中でもがくユーレリアの喉を、チャリストが締め付ける。
「う、ぐ……っ」
「けっ……ちょっと見ない間に飼い馴らされたか? この後で、俺から逃げ出そうなんて思わないよう、念入りに躾け直してやるぜ……!」
「その手を離せ……」
 僕は、言うことを聞かない体に鞭を入れ、剣を杖にして立ち上がった。
 全身に、冷たい脂汗が浮く。
「フン……まだ生きてるってのか……冒険者どもは頑丈にできてやがる」
 チャリストが、にたにたと笑いながら、口元に再びブロウガンを構えた。
「だが、二発目は耐えられるか……? まあ、耐えても三発目をお見舞いするがな」
「あ……あなた、レムルナーガを殺す気……?」
 苦しい息の中、ユーレリアがチャリストに言う。
「当たり前だ。この青二才を片付けた後、そのちっけえ体で楽しませてもらうぜ」
 チャリストが、ブロウガンを口に含む。
 と、その時だった。
「お兄ちゃんっ!」
 鋭い叫びが響くと同時に、ユーレリアの琥珀色の瞳が、光った。
「みんな――こいつをやっつけて!」
 おおおおおおおおうっ……!
 吹きすさぶ風のような音が、ユーレリアの叫びに応える。
 間違いなく、辺りの気温が、下がった。
 そして――
 そいつらが、現れた。
「う――おあああああああああ!」
 チャリストが、驚愕と恐怖の悲鳴を上げる。
 どこからともなく出現した青白く光る人影が、チャリストの体に殺到したのだ。
 その数、十数人――いずれも、見開いた目には瞳がなく、ぽっかりと開いた眼窩には暗黒のみが宿っている。
 口を大きく開け、この世のものとも思えぬ声を上げながら、そいつらは、突き出した両手でチャリストに掴みかかった。
「うわっ! おわああああ! 何だっ! 何だこいつらっ!」
 ユーレリアを戒めていた手を放し、声を上げながら両腕を振り回すチャリスト。
 その拳は、ことごとくそいつらの体を通り抜け、空を切る。
「手前ッ! ヘルネドス! 糞ッ! 死に損ないがッ!」
 チャリストが、目の前に立つ太った男の影に叫んだ。
 いや、死に損ないなんかじゃない。こいつらは、本物の死者――死を超えてしまった人でない存在――ユーレリアの“お友達”だ。
 街から出たことのない連中は、こういうのを見るのは初めてか。
 なるほど、死者の霊を見たことがないから、人を殺して自らの欲望を遂げようとなんてするわけだ。
 みっともないほど慌てふためくチャリストを見ながら、僕は、どうにか呼吸を整え、剣を振り上げた。
「ひいいいいいいいいいいいいいいい!」
 年端もいかない少年の姿をしたそれに纏わり付かれ、逃げかけていたチャリストが、腰を抜かしてへたり込む。
 斬首の刑を受ける科人の姿勢。
 僕は、父親に習った通りに、その首に処刑剣を振り下ろした。
 ぱっ! と血飛沫が上がり、首が飛ぶ。
 ごろごろと路地の上を転がるチャリストの頭部は、頬のところが、悔悟の涙に濡れているように見えた。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……」
 再び、地面に膝をつく。
「レムルナーガ!」
 ユーレリアが、僕に駆け寄る。
 気が付くと、この狭苦しい十字路を満たしていた青白い影は、全て消え失せていた。
「あ、ありがと……助けてくれて……」
「当然よ。あなたはあたしのお友達だもの。あんな奴のお友達になんてさせないわ!」
 やれやれ……ユーレリアは、まだ誤解したままらしい。
 しかし、僕の方でも誤解があった。
 ユーレリアの“お友達”は実在する――普段は、見えてないだけなのだ。
 ネクロマンシー。死者の霊を操るタナトスの業(わざ)。何度かそういう力の使い手とやり合ったことはあるけど、ユーレリアのそれは、彼女が無意識に開花させた能力だろう。
 ともあれ……僕は、ユーレリアがこの力を乱用しないよう、しばらく彼女を監督しなくちゃならないようだ。
「これに懲りたら、一人で夜に出歩いちゃだめよ。お友達は、いつも一緒にいないといけないんだからね」
「うん……反省するよ」
 僕は、そう言って、冒険者の必需品である毒消しの草を懐から取り出し、噛み潰して苦い汁をすすった。
 ふと頭上を仰げば、歪んだ月が中天で輝いている。
 それが、僕達を祝福しているのかどうかは、吟遊詩人ならぬ僕には、さっぱり分からないのだった。



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