Night Walkers

血殺/夜叉



第四章



 翌日の昼間、飄次郎氏から預かった携帯で、萌木氏と連絡をとった。
 今、萌木氏は、首都圏を離れ、信州の山の中にいるとのことだった。
 短いやりとりの末、萌木氏が潜伏している場所に俺達が行き、合流することになった。
 足は、師匠から拝借したままのピックアップ4WDだ。
 低い雲が立ち込める陰鬱な天気の下、だんだんと狭まっていく国道からさらに脇道に入り、山の中へと入っていく。
 萌木氏が言った場所に着いた時には、もう辺りは暗くなりかけていた。
「……これ以上は、この車じゃ無理だな」
 思わず、そう呟いた。
「なかなか雰囲気のあるところね」
 助手席で眠っていたはずのミアが、俺に言った。
 そこは、山間の小さな村だった。いや、人気がなく、家も荒れ放題になっているところを見ると、廃村らしい。
 車が通れる道は、その廃村の入口のところで途切れていた。
 黒々とした廃屋の影が、圧倒的な質量を誇る山の影に飲み込まれようとしている。
 俺は、車を降りた。ミアもそれに続く。
「あれ、緑郎のワゴンじゃない?」
「……そうだな」
 見ると、廃屋の向こう側に隠すように、見覚えのあるメタリックグリーンのワゴン車が駐車してあった。
「この道の奥の神社にいるって話だ」
「そう」
 俺とミアは、廃村を貫く細い道を歩き出した。
 村の奥へ行けば行くほど、雑草が高く繁っている。
 ようやく、丸太で土を押さえただけの、粗末な階段を見付けた。土の段は擦り減り、丸太は腐敗して、もはや階段の態をなしていない。
 神社は、この上だろう。
 丈の高い木々に挟まれたその階段を上った。
 階段脇に、石仏とも墓石ともつかない何かが、うずくまるように置かれている。
「……結界だわ」
 ミアが、呟いた。
 何か霊的な境界線が、ここに引かれていると、ミアは言っているのだ。
「ずいぶんと古いものね。いろいろ綻びができてるみたいだけど、まだ多少は効果が残ってるわ」
「それを知って、萌木氏はここに?」
「かもね」
 上りきると、少しだけ開けた場所に、崩れかかった木の鳥居と、小さな社があった。
 扉や窓が外れ、容易に覗きこめるようになったその社の中に、ぽおっ、と淡い光が灯っている。
 社に近付くと、かつて扉があった場所に、拳銃を構えた人影が現れた。
「……俺です」
「ふう〜、鷹斗ちゃんかあ。びっくりした〜」
 そう言って、人影が一気に緊張を解く。言うまでもなく萌木氏だ。
「元気そうね」
「ミアちゃんもね」
 そう言いながら、萌木氏は手招きして、俺達を社の中に招き入れた。
「靴はそのままでいいよん。あ、床板腐ってるから注意してね」
 言われて、俺は注意しながら中に入った。ミアは、いつもと変わらない足運びだ。
 中にはビニールシートが敷かれ、寝袋や携帯コンロ、バッテリーまでが持ち込まれていた。そのせいもあって、三人で入ると、かなり手狭な感じがする。
「なかなか素敵なお住まいね」
「風通しイイよ〜。ヤブ蚊が多いのが玉に傷だけどね」
「事務所、荒らされてたわよ」
 紙コップに、魔法瓶の中のコーヒーらしきものを入れる萌木氏に、ミアが言った。
「あ、そう?」
「驚かないのね」
「だって、あれやったのオレだもん」
 俺とミアに紙コップを渡しながら、萌木氏は言った。
「どうしてそんなことを?」
「そりゃあ、自分の足取りを消すためだよん」
 いささか驚いている俺に、萌木氏が涼しい顔で言う。
「焼いたり捨てたりしたって、痕跡は残るからねー。『あるべきものがそこにない』って痕跡が」
「……」
「だったら、散らかしとく方がいいの。そしたら、何を処分したらイイか考える手間もないでしょ?」
「――あなたの彼女、ずいぶんと心配してたわよ」
「えっへっへー」
 ミアの指摘に、萌木氏がにやけた表情を浮かべる。
「ところで、こんな所にこもって、どういうつもりなんです?」
 俺が訊くと、萌木氏は、笑みを引っ込めた。
「実は、ちょっと困っちゃったことになっちゃってねえ」
「困ったこと?」
「うん」
 萌木氏は、ずず、と紙コップのコーヒーを啜ってから、続けた。
「スポンサーが、ツブれちゃった」
「スポンサー?」
「早い話が、オレたちにお金を出してくれてた人達だよん」
「やっぱりね……」
 ミアが、口元に笑みをためながら、言った。
 萌木氏を通して、俺達に払われていた、出所不明の報酬。その供給元が無くなったということを、萌木氏は言いたいのだろう。
「ノインテーターの仕業ね」
「たぶん。どーやら、自分の息のかかった美少女軍団で、こっちのトップの方とかを籠絡しちゃったみたい」
 平然と、萌木氏が言う。
 その意味するところを悟って、俺は、胸が悪くなった。
 そして、俺達が最近斃してきたヴァンピールの身なりが、妙に良かったことを思い出す。
「ノインテーターって、あんななりの割に、俗っぽいところがあるのよね」
 ミアが、紙コップの中のコーヒーには手をつけないまま、言った。
「で、仕返しを恐れて、こそこそ隠れてるってわけ?」
「それが、本来ならオレのやりかたなんだけどねん」
 ミアの言葉に怒りもせず、萌木氏が肩をすくめ、続ける。
「そーいうわけじゃないんだ。ちょっと、事情がね」
「……冬条綺羅がからんでくるのね?」
「ご名答」
 そう言う萌木氏の顔は、笑ってなかった。
「こっちとしては、綺羅ちゃんと一緒に、起死回生の逆転満塁場外サヨナラホームランを狙ってたんだけど……」
「あなたの言うことは、たまに、回りくどくて良く分からないわ」
「んじゃ、単刀直入直球勝負で言うよ?」
「そういうのが分かりにくいんだってば」
「……綺羅ちゃんと合流して、ノインテーターと直接対決したいんだ」
 言って、萌木氏は、俺とミアの顔を見比べた。
 俺は、口をつぐむ。
 今まで、俺達も、ノインテーターなる吸血鬼と対峙することを考えていなかったわけではない。何しろ、当面、ミアを狙う最大の敵はそいつだからだ。
 が、どうしても、その居場所がつかめなかったのだ。
 ノインテーターの情報に近付けば近付くほど、抵抗は大きくなった。そして、最終的には、ノインテーターの差し向けたモロイやヴァンピールを迎え撃つだけで、手一杯になってしまったのである。
 この一年、まだ見ぬノインテーターなる吸血鬼が、着実にその勢力を伸ばしつつあるのを、実感させられた。
 しかし――
「分かったんですか? ノインテーターの居場所が」
 俺は、萌木氏に尋ねた。
「綺羅ちゃんはね、ノインテータのところにいるんだよ」
「捕えられたの? それとも、気付かれずに潜伏してるのかしら?」
「きちんと連絡が取れないんで、何とも言えないんだ」
 萌木氏が、ミアの問いに、曖昧な言い方をする。
「でも、ノインテーターの居場所を捕捉したことは確かなんだよ」
「どうしてそれが分かるの?」
「打ち合わせどおり、あれがここに来たからね」
 萌木氏が、床の一点を示した。
 そこには、目の細かいステンレス製のザルが伏せられている。
「綺羅ちゃんは、ノインテーターの足取りを追う。オレは、ここに陣取って、ミアちゃんや鷹斗ちゃんと合流を図る。そーいう手筈になってたわけ」
 言いながら、萌木氏がザルに近付く。
 良く見ると、伏せられたザルの中で、黒い人型の紙片が、ひらひらと踊っていた。
 もう、俺は驚くようなことはない。綺羅が使役する、式と呼ばれるモノの一種だ。
 その紙片には、白い字で「木霊」と書かれている。
「これ、綺羅ちゃんが放ったもんなんだけどさ、一度俺に会ってから、また綺羅ちゃんのところに戻るようにプログラムされてるわけなんだな」
 なるほど、コダマか……。
「でも、随分と迂遠なやり方ね」
 ミアが、腰に両手を当て、言った。
「あたし達がここに来なかったらどうするつもりだったわけ?」
「いや、二人には、これでもきちんと幾つものルートを用意してアプローチしたんだよ? 今回はたまたま飄次郎ちゃんルートだったみたいだけど、冬条宗家ルートとか、見譜ちゃんルートとか、葛城兄妹ルートとか、皆月家ルートとか、特務局ルートとか、D.D.T.ルートとか……」
 指を折って数えながら、萌木氏が言う。
「そうじゃなくて、あたし達が警戒してここに来なかったらどうするつもりだったのか、訊いてるのよ」
「そりゃ、一人で行くしかなかっただろうね」
 けろりとした顔で、萌木氏は言った。
「でも、オレは、二人が近いうちにここに来てくれるって信じてたよー♪」
「で……お金の当ての無くなった緑郎は、あたしたちにどんな報酬を用意してくれるのかしら?」
 ミアは、意地の悪い口調のままだ。
「んんんんん、それを言われると痛いなあ〜」
 ザルのそばにうずくまりながら、萌木氏は言った。
「でもさ、ミアちゃんや鷹斗ちゃんだって、ノインテーターの旦那をほっとくわけにはいかんでしょ? オレとしちゃあ、これは今までみたいな依頼じゃなくて、共同戦線を張らないか、っていう提案のつもりなんだけどね」
「俺は、もともと萌木さんとは一緒に戦ってるつもりでしたよ」
「嬉しいこと言ってくれるにゃ〜」
 萌木氏が、わざとらしく泣きまねをする。
「んで、ミアちゃんは?」
 そう言って上目使いに自分を見る萌木氏に、ミアは、困ったような笑顔で溜息をついた。



 綺羅は、ゆっくりと目を開いた。
 体が再生するとともに、混乱していた五感が戻っていく。
 そこは、コンクリートが剥き出しの部屋だった。
 明かりは、無い。が、綺羅の目は、部屋の様子をはっきりと捕えていた。
 さして広くはない。十畳ほどだろうか。
 天井に幾つもの滑車が取り付けられ、鎖が下がっている。
 壁に目をやると、重そうな鉄の扉があり、その反対側の壁には、X字型の磔台があった。
 部屋の中央にある、大きな鉄パイプ製のベッド。
 綺羅は、ぼろぼろになった服を着せられたまま、ベッドの上のマットレスに直接横たえられていた。
 両手首と両足首に、それぞれ枷がはめられ、そこに繋がった鎖は、どうやらベッドに接続されているようだ。
 どの道、まだ血が足りない。暴れるにはもう少し休養が必要だ。
 が、それをノインテーターがむざむざ許すかどうか。
 それでも、綺羅の顔に、絶望はない。
 整った顔には、不敵な笑みさえ浮かんでいる。
 その時、重い軋みをあげ、扉が開いた。
「お目覚めのようね」
 部屋に入るなりそう言ったのは、黒いマントをゆったりと纏った静夜だった。
「右手は、もう治った?」
「ええ」
 しゃあしゃあとした口調で尋ねる綺羅に、静夜が短く答える。
 そして、静夜は、ベッドの傍らに立ち、綺羅の顔を覗き込んだ。
「可愛げないわね。もう少し怯えた顔をしてくれると思ったのに」
「安く見られちゃったもんですねー」
 そう言う綺羅の細い首に、静夜が手を伸ばす。
 そのまま、静夜は、ゆっくりと右手で綺羅の喉をつかんだ。
「このまま、首をへし折ってあげようかしら」
「そんなんじゃ、吸血鬼は死にませんよ」
「分かってるわ。ただ、あなたの悲鳴が聞きたいのよ」
「聞けるといいですね」
 綺羅の表情に、変化はない。
「あたしは、あなたの泣き声を、よーく覚えてますよ」
「……」
 静夜の切れ長の目が、すっと細まる。
「ノインテーターは、今、この次元に出現できないんでしょう?」
 その言葉に、綺羅の喉をつかむ静夜の指が、ぴくりと動いた。
「“花嫁”さんから、あの旦那の弱点についてはいろいろ聞きましたからね」
「でも、あなたはあの方に敗北したわ」
 静夜が、表向きは平静な口調のまま、言う。
「そもそも、あの方が本気を出せば、あなたなど一瞬で灰となっていたのよ」
「でも、そうはしなかったですね。明らかに戦力を出し惜しみしてたでしょ?」
「……」
「第八機密機関や、“花嫁”さんとの対決にばかり気が行って、ついあたしのことをおろそかにしちゃったんですよねー」
「……」
「あたしを殺さないでいるのも、あわよくば戦力の補充を狙ってるからじゃないんですか?」
「……そうよ」
 苦々しげに言って、静夜は、まだ綺羅がまとっていた衣服を一気に引き裂いた。
「っ……」
 闇に浮かび上がるような白い裸身をさらされ、綺羅が、かすかに屈辱の声をあげる。
「あなたを、奴隷としてノインテーター様に献上するわ」
「できるんですか? 本人ならともかく、あなただけでなんて」
「……ふっ」
 静夜は、その紅い唇に初めて笑みを浮かべ、マントの前を開いた。
 マントの下は、全裸だ。
「……!」
 綺羅が、息を飲む。
 綺羅に勝るとも劣らない見事なプロポーションを誇っていた静夜の体が、大きく変化していた。
 腹部が、まるで妊婦のように膨らんでいるのだ。
 その上、艶やかな陰毛が茂る恥丘の下からは、赤黒い異様な外観の男根が生えている。
「それは――」
「ノインテーター様よ」
 どこか誇らしげに、静夜は言った。
「私の体の中に、出現途中のノインテーター様のお一人が宿って下さっているの。私の子宮は、今、あの方で満ちているのよ」
「……!」
「こうすれば、あの方はいつもより早くこの世界にお戻りになれるのよ。現に、もう、その一部が顕現されているわ……」
 ぬらりと、静夜の女陰から姿を現していた触手が、鎌首をもたげる。
「ば、馬鹿な事を……そんなことしたら、あなたの体は……」
「んっ……私の体が、どうしたと言うの?」
 触手がうねうねと身をくねらせるたびに、その形のいい眉を悩ましげに寄せながら、静夜は言った。
「あぁ……素敵……ノインテーター様が、お腹の中で暴れてるわ……」
「あなたは……」
「ククククク……冬条綺羅、あなたも覚えてるはずよ。あの方が下さる、素晴らしい快楽の味を……」
 静夜が、マントを完全に脱ぎ捨て、ベッドの上に上がった。
 綺羅の顔が、固く強ばる。
「目論見が外れて残念ねえ、綺羅……あなたも、私と同じようにあの方の奴隷になるのよ」
 妊娠から出産に至る人の営みの全てを冒涜するような静夜の体が、綺羅に迫る。
 その股間から出現した触手状の陰茎の先端が、汚穢な粘液を滴らせながら、綺羅の陰裂を撫で上げた。
「ひっ……!」
 おぞましさに、綺羅は声をあげてしまった。
 まるで、自らが分泌する粘液を塗り込めるように、亀頭部が、綺羅のクレヴァスをぐねぐねとまさぐる。
 沸き起こる嫌悪感とは全く別の次元で、異様な感覚が、綺羅のその部分から湧き起こった。
「や、やめなさい……こんなこと……くっ……!」
「どうしたの? さっきまでの余裕はどうしたのかしら?」
 綺羅に覆いかぶさり、その肌を細長い指で撫でながら、静夜が言う。
「強がってても、こっちの方は全然みたいね。ほら、もう濡らしてるじゃない」
「そ、そんなこと、ないわ……あ、んっ、んんっ……」
「嘘ね。匂いで分かるわ。あなたのここ、もうすっかり興奮してるわよ」
「くっ……ひ、卑怯者っ……!」
 悔しげに、綺羅が唇を噛む。
「何とでも言えばいいわ。すぐに、その口でイヤらしくおねだりするんだから」
「だ、誰が、そんなコト……あうっ……んっ……くうっ……」
 女としての弱点を執拗に嬲られ、綺羅は、喘ぎ声をあげ始めた。
 自分の体が反応してるのは単なる生理現象なのだと思おうとしても、下腹部で高まる甘い疼きが、着実に敗北感を煽る。
「ほら、あなたは我慢できないはずよ。もう、あの悦びを知ってしまったんだから……」
「あっ、やぁっ……あたし、こんなことで……ああぁんっ!」
 触手の、見かけによらない繊細な動きに勃起してしまった肉の芽を、ぬらつく亀頭部で擦りあげられ、びくん、と綺羅の体が震える。
「んふふっ、呆気ないわねえ。もう少し楽しませてよ」
「なっ、何言ってるの……あたし、負けてなんか……ない……あうっ……んんんんンっ!」
「自分から腰を動かしてるくせにそんなこと言っても、説得力ないわよ」
「そん、な……あ、あんっ! あん!」
 静夜の指摘どおり、綺羅の腰は、まるでさらなる刺激を求めるかのように、もじもじと動いていた。
 綺羅が、そんな自分の浅ましい動きを必死に抑えようとする。
「無駄よ……」
 ぴんっ、と静夜が綺羅の乳首を指で弾いた。
「ひいっ!」
 甘い痛みに、びくん、と綺羅の体が弓なりになる。
 静夜は、面白がるように、綺羅の両方の乳首を指で弾き続けた。
「ひんっ! やっ! やんっ! それ、それヤメテぇっ!」
「気持ちいいんでしょ? 乳首、固くなってきたわよ?」
「そんなこと……あんっ! やっ! もう、もうイヤっ! イヤぁっ!」
 クリトリスと、左右の乳首。すっかり勃起してしまった三つの肉の突起を攻められて、綺羅は拘束された体を身悶えさせた。
 そんな綺羅の反応を楽しみながら、静夜は、さらに白い体を愛撫する。
 ふにふにと柔らかい力で乳房を揉み、触れるか触れないかという微妙なタッチで、脇腹をくすぐる。
 首筋や乳首にねっとりと舌を這わせると、綺羅の喘ぎはさらに熱く、激しくなった。
「入れてあげるわね……あなたのイヤらしいアソコに……」
 四つん這いになった静夜が、綺羅の耳に唇を寄せて、言う。
「やめ、て……」
「むだよ……あぁんっ。ノインテーター様が、早くあなたを味わいたがっているもの……」
 綺羅の腹部を、膨らんだ静夜の腹部が圧する。
 その体内で何が蠢いているのかを想像して、綺羅は、背筋を寒くさせた。
「さあ、覚悟しなさい……」
「いっ、いやああっ! 入れないで! 入れないでェっ!」
「そうよ……その声を聞きたかったのよ……!」
「ひ――あああああああっ!」
 逞しい触手が、すでにすっかり愛液に潤んだ秘裂に侵入する。
 ごつごつとした表面が膣壁を擦りあげる感触に、綺羅は、体をのけぞらせた。
 さっきまで感じていた悪寒を、圧倒的な熱を帯びた快楽が押し流してしまう。
「ああっ……やっ……いやぁ……いやああああっ!」
「うふっ……ノインテーター様を通して、あなたの中を感じるわ……あぅン……子宮、痺れちゃうゥ」
 静夜の上品な口が、卑猥な言葉を漏らす。
「どう? いいでしょう?」
 静夜の言葉に、綺羅は、大きくかぶりを振った。
 だが、その眉はたわめられ、白い歯は何かに耐えるように唇を噛んでいる。
「強情ね……」
 静夜は、艶然と笑いながら、長く伸びる舌で、綺羅の顔をなめ回した。
「ひうっ……」
 全身が敏感になった綺羅は、嫌悪よりも快感に、体を震わせてしまう。
 そんな綺羅の熱い膣内を圧しながらも、触手は、なぜか動こうとしなかった。
「う……」
 熱い肉の杭を打ち込まれながら、それ以上の刺激を与えられない状態に、綺羅の下腹部が切なく疼く。
 綺羅は、腰がうねりそうになるのを、目に涙をためながら耐えた。
「どうしたの?」
 とぼけたように、静夜が訊く。
「な、なんでも、ないわ……んっ……あぅ……」
「意地を張る必要はないわ。動いてほしいんでしょう?」
「だ、誰が……あンッ!」
 一度だけ膣奥を先端で小突かれ、綺羅は他愛なく快楽の声を漏らしてしまった。
「我慢しなくていいわ……。あなた、犯されたいんでしょう? ノインテーター様のモノに、子宮の入り口をずんずん突かれたいんじゃないの?」
 自らの重みによって下向きの砲弾型になった豊かな双乳を揺らし、乳首同士を擦り合わせるようにしながら、静夜が言う。
 勃起した静夜の乳首が、やはり勃起した綺羅の乳首を嬲り、玩ぶ。
「あ、あぁっ……やめて……お願いよ……あぁん、あ、あんっ……!」
「ほぉら、ねえ……たまらないでしょ……?」
「やっ……こ、こんなの、ああン……あぁっ! あうぅン……ひやァ……ひあぁンっ……!」
「ねえ……一緒にあの方の奴隷になりましょうよ……」
 甘い蜜のような声を綺羅の耳に流し込みながら、たぷん、たぷんと乳房を揺らし、綺羅の胸を柔らかく叩く。
 綺羅は、虚ろになった赤い瞳を涙で潤ませ、はぁン、はぁン、と喘ぐばかりだ。
「さあ、奴隷になるって言うのよ……動かしてほしいんでしょ?」
 そう言って静夜は、綺羅の唇にねっとりと口付けした。
「ふぅんっ……ふん……んんんんんン……」
 静夜が口を離すと、二人の艶やかな唇の間を、唾液の糸が結んだ。
 綺羅の顔に、惚けたような表情が浮かんでいる。
「……奴隷に、なるわよね?」
「……い、や……」
「本当に強情ねっ!」
 耐えられなくなったように、ぐんっ! と触手が大きく動いた。
「あああああああああああっ!」
 綺羅が、大量の愛液が溢れさせながら叫んだ。
 触手の動きは、止まらない。
 綺羅の心よりも早く、その体が、快楽の前に屈服する。
「あーっ! ダメっ! やめてえっ! あっ! ああっ! あああアアアァ〜っ!」
 綺羅は、激しい触手の抽送に、何度も何度も絶頂を極めた。
「いやだなんて言えるのも、今のうちよっ! すぐに、あなたも私と同じになるわ!」
「あーっ! ああっ! ダメっ! ダメぇ! もう、もうダメぇ〜っ!」
 静夜の声も、今の綺羅の耳には届いていない。
 ぐうっ、と綺羅の中で、触手が膨張した。
「ひ……!」
 綺羅が、赤い目を見開く。
 そして、熱い粘液の固まりが、触手の先端からほとばしり、綺羅の子宮口を激しい勢いで叩いた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 綺羅の意識が、強すぎる快楽にヒューズを飛ばした。
 暗黒に転じた視界に、一瞬だけ、鳶色の瞳をしたあの男の顔が浮かぶ。
 そのことに驚きを覚える間もなく、綺羅は、熱く粘液質な闇へと堕ちていった。



 萌木氏のワゴンが、低い唸りをあげながら、峠の道を下る。
 ダッシュボードの上で、「木霊」と書かれた式が、ひらひらと動きながら方向を示していた。
 俺も、ミアも、萌木氏のワゴンの中である。
 ――ふーん、修三さんの車でここまで来たんだ。
 出発直前、萌木氏は珍しく難しい顔で言った。
 ――まずかったですか?
 ――分かんにゃい。でも、これ以上あの人の車を乗り回すのは、やめといたほーがいいよ。
 その忠告に従う形で、俺達は、師匠の車をあの場所においていくことにしたのだ。
 雨が、降っている。土砂降りだ。
 ワゴンの後部座席で、ミアが、体を丸くして、不機嫌な顔をしている。
 流れる水のリズムが、ミアの血流のリズムを阻害しているのだろう。
「……やば」
 萌木氏の呟きに、助手席から後ろを振り向いた。
 極端に悪くなっている視界の中、後方に、ヘッドライトの光がある。
 それは、俺達の乗っているワゴンよりもなお速いスピードで、ぐんぐんこちらに近付いていた。
 ヘッドライトの幅が、極端に広い。そして、四角い車体は、そのヘッドライトの幅よりもさらに広いようだった。
 師匠のピックアップ4WDよりなお大きい。化け物じみたサイズだ。
「日本で、あれに乗ってる人がいるなんてねー」
 萌木氏が、口笛を吹いてから、言った。
「あれ、湾岸で使われてた軍用車だよ。これだけのスピードを出してるってことは、改造もしてるかも……」
 ヒイイイイイイィィィィィン、という聞き馴れない高い音が、萌木氏の言葉を遮った。
 後方の車が、弾かれたように、さらに加速する。
「過給器かな? 無茶なことを……」
 がつッ!
 明確な意志をもって、追突された。
 俺と萌木氏が、大きく前につんのめる。
「ミア!」
「だ、だいじょうぶ……」
 シートから転げ落ちかけたミアが、言う。
 普通、これしきのことでミアがバランスを崩すということはない。間違いなく、この豪雨の影響だろう。
「第八機密機関の人達だね。たぶん」
 緩やかに蛇行する下り道で、危険なほど速度を上げながら、萌木氏が言った。
「修三さんに、あそこの連中がしつこくラブコール送ってたって噂もあったし……修三さんの4WDに、発信機でも付いてたのかも」
 萌木氏が言ってたのは、そのことだったのか……。
 自分の迂闊さに、思わず唇を噛む。
「ま、しゃーないやね。どうせ、いつかはこういうコトになると思ってたし……うわおっ!」
 がつん!
 再び、かなりの速度で追突された。
 濡れた路面でハンドルを取られそうになった萌木氏が、どうにか持ち直す。
「雨を、待っていたのね……」
 忌ま忌ましげに、ミアが言う。
 確かに、この天候の下では、ミアを戦力に数えることはできない。
「萌木さん、銃はどこですか?」
「ダッシュボードの中。でも、対吸血鬼用の純銀ホローポイントだから、アレには荷が重いかも」
 とは言え、何もしないという訳にはいかない。俺は、萌木氏の拳銃を手に取った。
 この稼業を始めてから、念のため、拳銃の扱い方も一通り覚えたが、実際に使うのは初めてである。
「後ろの扉は駄目よ。歪んで開かなくなってる」
「分かった。水が入るから、気を付けろよ」
 言って、俺はサンルーフを開け、上半身を出した。
 雨は車の進行方向から来るので、目を水滴で叩かれることはない。
 幅が広いので平べったく見えるが、問題の軍用車は、思いの外、車高が高かった。
 まるで、ジープをそのまま巨大にしたような無骨なカーキー色の車体に、銃口を向ける。
 四角いフロントガラスを目標に、引き金を二度ずつに分けて、連続して絞った。
 銃声が、雨音に混じり、夜気に吸い込まれる。
 まるで蹴飛ばされたようなショックを、何度も、腕から肩にかけて感じた。
 効果は……まったく無かったようだ。おそらくは、車体だけでなくフロントガラスも防弾仕様なのだろう。
「駄目でした」
「たははっ、あの弾、けっこう高かったんだけどな〜」
 体を引っ込め報告する俺に、萌木氏が言う。
「そんなこと言ってる場合?」
「……ミア、あれを取ってくれ」
 眉を怒らせるミアに、俺は言った。
「え? 鷹斗、まさか……きゃんっ!」
 どんッ! とまたも追突され、カーブに差し掛かってたワゴンは大きく後部を振った。
「うっひゃあっとととととォ!」
 萌木氏が、ガードレールに車体を掠めさせながら、必死にステアリングのコントロールを回復させる。
 見ると、後部ドアが、はっきりと見て分かるほどに凹んでいた。
 軍用車の方は、何の影響も出てないようだ。恐ろしく頑丈な車である。
「直接行くしか無いんだ。俺は、それだけが取り柄だからな」
「でも……」
「心配するな。別に、特攻するつもりなんかじゃないから」
「――だったら、そんなふうな顔しないでよ」
 ミアが、妙なことを言いながら、俺に、銀の籠手をよこした。
「顔?」
「あなた、今、すごく優しい顔で笑ってたわよ」
 笑ってた? この俺が?
 問い返そうとした時、また、追突された。
 今は、俺がどんな顔をしていたかなんていう些細な事を確認してる場合じゃない。
「鷹斗ちゃん、分かってると思うけど、無理はダメだよん」
「はい」
 銀の篭手を右手に装着しながら、俺は萌木氏に返事をした。
 そして、後部座席のミアに視線をやる。
「じゃあ、行ってくる」
「気を付けてね」
 俺は、心配そうなミアに肯きかけた。
 そして、サンルーフから身を乗り出し、雨を背中に浴びながら、車の屋根に腹這いになる。
 軍用車が、まるで、目を光らせた巨大な猛獣のように見えた。

第五章

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