Night Walkers

長夜/無明



第一章

「いなくなったあ?」
 新学期。
 学食で、俺の話を聞いた夕子が、でかい声を上げた。
 昼前の学食には、ちらほらとしか人がいない。俺の目の前のトレイにはカレーうどん、夕子のトレイにはハンバーグ定食の大盛が乗っかっている。
「いなくなったって、どういうこと?」
「文字通りの意味だ。どこに行ったか分からないってことさ」
「いつ?」
「三ヶ月くらいになるな」
「ああもう! なんでそう簡単に逃がしちゃうのよ!」
 まるで、自分が当事者であるかのような勢いで、夕子が言った。
「なんでと言われても……」
「そう言えば、あたしがミアちゃんと会った日から、鷹斗、一週間くらい行方不明だったよね」
「ちょっとな」
「何か、あったわけ?」
「……」
 まさか、ミアを狙っていた異端審問官に監禁されていたとは言えない。
 さらには、そんな俺を救け出したミアが、その異端審問官を葬ったとは――。
 チボーらしき死体が路上で見付かったという記事が新聞に載ることはなかった。おそらく、奴の属する組織の連中が、秘密裏に処理したのだろう。
 つまり、ミアと敵対する連中は、まだきちんと活動をしているということだ。
 吸血鬼と、それを葬ろうとする人間達――。
 そもそも夕子は、ミアが吸血鬼だということを知ってるわけではない。ただ、普通の人間とはどこか違うということを感付いているだけである。
 俺も、言わなくていいことは、極力こいつに話さなかった。
 夕子を、吸血鬼と、それを狩る者との諍いに巻き込むわけにはいかない。
 その場に立つのは――俺だけで、充分だ。
「また、だんまり?」
「ああ」
「ったく、こうなったら、鷹斗は絶対に話してくんないからなぁ」
 あーあ、と声を上げて溜息をついてから、夕子が箸で器用にハンバーグを切り分けていく。
 俺も、無言でカレーうどんを啜った。
「じゃあさあ、一コだけ教えて欲しいんだけど」
「――なんだ?」
「ミアちゃんて、あの、いつか鷹斗の言ってた初恋の相手なわけ?」
「多分、そうだ」
 そう答えた俺を、夕子が、ハンバーグを口に運びながら睨みつける。
「……あんなに想ってた相手に逃げられても、鷹斗は、平気な顔なんだ」
 別に、平気なつもりはないんだが。
 だが、平気でないとして、それでそういう顔をすればいいのか分からないだけだ。
 そのことを、どうやって夕子に説明したらいいか考え込んでる間も、夕子は、ますます険悪な目で俺を睨んでいる。
「……お前、もしかして怒ってるのか?」
「怒ってないように見える?」
 刺々しい口調で、夕子が言う。
「いや、怒ってるとして、その理由が分からなかったから訊いたんだが」
 その俺の言葉を聞いて、夕子は、いきなり飯の入った茶碗を抱え上げて、ぐわーっと掻き込んだ。
 そして、皿の上に残っていたハンバーグや付け合わせを、次々と平らげる。
 俺が呆気に取られているうちに、夕子は、プラスチック製の安っぽい湯飲みの中の緑茶を一気に飲み干した。
 とん! と鋭い音を立てて、湯飲みをテーブルに叩き付ける。
 眼鏡の奥の瞳が、俺を真正面から睨みつけた。
「あたし、鷹斗のそういうところ、大ッ嫌い!」
 いつか言われたセリフを、俺は、またも面と向かって言われてしまったのだった。



 夜。人工の光に彩られ、区画された空間を、金属の巨鳥が、甲高い哭き声をあげながら舞い上がり、そして舞い降りる。
 新東京国際空港第一ターミナル一階到着ロビー。
 海外旅行にしては意外なほど少ない荷物を手にした一人の少年が、税関を抜けてから、ぐるりと辺りを見回した。
 癖のない金色の髪に、ヘイゼルの瞳。色白の肌は、どこか陶器を思わせるほど滑らかだ。
 十代半ばと思われるその顔立ちは、まだ幼さを残し、夢見る者のような淡い微笑みを浮かべている。
 寄宿舎学校の制服を思わせるジャケットが、その育ちのよさそうな容姿によく似合っていた。
「――アラン・ラクロワか?」
 そう声をかけられ、少年は振り向いた。
 そして、声をかけてきた相手が、自分の期待していた人物とは違っていたためか、かすかに首をかしげる。
 少年に声をかけてきたのは、やはり、白人の男だった。
 灰色のコートをまとった、二十代とも三十代とも取れる、痩せた長身の男である。淡い褐色の髪に、鋭い光を湛えた氷のような薄青い瞳。まるで、刃物で削いだように薄く高い鼻とこけた頬が、より冷たい印象を人に与える。
「あなたは、誰ですか?」
 アランと呼ばれた少年が、そのバラ色の唇に相応しい柔らかな声で、訊いた。
「ユーリー・グロボフ」
 男の名乗りに、少年が少し目を見開く。
「あなたがユーリー・グロボフ? ダンピールの?」
「その言葉を口にするな」
 低く抑えられた声で、男――ユーリーが言った。
「あ……」
 その冷たい迫力に圧倒されたように、少年――アランが一歩退く。
「……しかし、『舞踏会』から派遣されたのが、お前のような半人前とはな」
 ユーリーの薄い唇が、笑みの形に歪んだ。そのあからさまな嘲弄に、アランが、むっと眉を怒らせる。
「どうした? 牙を剥いたらどうだ、吸血鬼」
 ユーリーは、余裕のある態度で、ゆったりとした薄手のコートの懐に、手を差し入れた。
「こ、ここで、仕掛ける気ですか?」
 アランは、驚いた顔で、周囲を見回した。様々な国籍の通行人たちが、ちらちらとこちらを見ながらも、通り過ぎていく。
「一般人の巻き添えを恐れるか? 吸血鬼ともあろう者が」
「僕は――僕たちは、見境なしの殺人鬼じゃ、ありませんから」
「下らんことを言う奴だ。所詮は、寄生虫の倫理だな」
 言いながら、ユーリーが、右手を懐から抜こうとする。
 アランの顔に、緊張が走った。
「!」
 その時、ユーリーの右肩を、太い指が後から制止した。
「やめとけやめとけ」
 ユーリーの肩を、容赦のない力で掴みながら言ったその声は、日本語だった。
「――っ!」
 アランが、第三の男の出現を好機と見て、身を翻す。
「待て――」
「だからやめておけと言ってるだろうが」
 手を振り解いてアランを追おうとするユーリーの襟首を、鉤状に曲がった男の指が、ぐい、と後ろからつまんだ。
「邪魔をするな!」
 振り返ったユーリーが、自らを止めた男を睨む。
 巨漢だった。
 身長二メートル前後。その巨体に見合った圧倒的な筋肉が、服を内側から圧している。
 短く刈った頭を、太い指で掻きながら、その大きな男は薄く笑っていた。
 嘲笑ではない。冷たい怒りに燃えるユーリーをどう扱っていいか分からないといったような、困ったような笑みだ。
 細い目に、愛嬌のある皺の刻まれた頬と、自然石のようにごつごつとした顎。
 そんな顔を、ユーリーが、薄青色の瞳で睨みつけている。
「――葛城修三だな? なぜ、邪魔をする?」
「そりゃお前、こんな場所でどたばたやらかしたら人様に迷惑だろうが」
 葛城修三と呼ばれた男が、太い声で、ひどく常識的なことを言った。
「殺気だったお前さんの巻き添えでここら一帯が血の海になるのが目に見えるようだぞ」
「大きなお世話だ」
「そう言うな。一応、ここは俺の生まれた国だしな」
 笑いながらそう言う修三から、ユーリーは、視線を逸らそうとはしない。
 これだけの巨体でありながら、自分にも、そしてアランにも気配を悟られずに近付いてきた修三の力を見極めようとしているかのようだ。
 それは、明らかに、敵を見る目だった。
「おいおい、お前さんの相手は吸血鬼じゃなかったのか?」
「それと、我々の邪魔をするような連中だ」
 言われて、修三は、肩をすくめた。
 そして、ひょい、と横を向く。
「おぉい、そろそろ出てきて説明してやれよ」
 そう言う修三には、しかし、一分の隙もない。
 と、物陰から、ユーリーと同じ灰色のコートを着た男が現れた。
 だが、その体型は、ユーリーの対極にあるように、でっぷりと太っている。
「先生――!」
 ユーリーが、声を上げ、そしてようやく殺気を収めた。
「ふうん、このお兄ちゃんは、男爵の弟子なわけか」
「はい」
 ユーリーに先生と呼ばれ、修三に男爵と呼ばれたその男が、短く答える。
 修三とほぼ同じ身長の、肥満した体。黒に近い褐色の髪と髭が渦を巻くように伸び、顔の造作をほとんど隠している。
「フォン・ヴァルヴァゾル男爵の弟子にしちゃあ、ずいぶんと余裕のない兄ちゃんじゃないかい?」
「そういう段取りでしたから」
 からかうような口調の修三にそれだけ言って、フォン・ヴァルヴァゾルは、ユーリーに歩み寄った。
「ノインテーターが、この空港を囲む結界を越えました。それで、作戦を中止しました」
「何ですって……?」
「今ごろ、吸血鬼たちは合流を果たしているでしょう。次の機会を待つべきと考えます」
 弟子であるはずのユーリーに丁寧な口調でそう言ってから、フォン・ヴァルヴァゾルは、再び修三に顔を向けた。
「あなたが止めなければ、私がこのユーリーを止めるはずでした。ありがとうございました」
「よく言うぜ。俺をダシにこの兄ちゃんの出来を確かめようと物陰で見ていたんじゃないのかい?」
「それは誤解です。私は、あの忌々しい吸血鬼が結界を越えたのを知って、必死の思いでここまで走ってきたのですよ」
 そう言うフォン・ヴァルヴァゾルの呼吸は平静そのままで、少しも乱れてはいない。
 修三は、今のフォン・ヴァルヴァゾルの言葉が冗談なのかどうかを判じかねているように、顔をしかめて見せた。
「ところで、葛城さんは、この後の予定はどうなっているのですか?」
「実家にちょっと顔を出してから、女房子供の待つ家に帰る予定だよ」
 かすかにはにかむような笑みを浮かべながら、修三が言う。
「言っておくが、依頼を受ける気はないぜ。きちんと帰らないと女房がおっかねえんだよ」
「それは残念ですね。一度、“破壊屋”葛城修三と一緒に仕事をしたかったのですが」
「『第八機密機関』が外部の人間を雇うなんて話、聞いたことがねえぞ」
「時と場合によります。何しろ、今回の相手は特別ですからね」
「ノインテーター……ドイツ最強の吸血鬼、だったか? 一昔前のレスラーだって、もう少しマシなリングネームを持ってるだろうに」
 修三の言葉に、ユーリーも、フォン・ヴァルヴァゾルも、表情を変えようとしない。
「それだけではないのです」
「何?」
「“カインの花嫁”という言葉を聞いたことはありませんか?」
 かすかに、フォン・ヴァルヴァゾルの声音が、硬く変質した。
「――ないな」
 少し間をおいてから、修三が答える。
「でしたら結構です」
 言って、フォン・ヴァルヴァゾルが、その肥満した体を翻す。
「おいおい、説明してくれるんじゃないのかよ」
「まさか」
 ちら、とフォン・ヴァルヴァゾルが修三に振り向いた。
 長い前髪に隠された小さな目が、一瞬、針のように鋭い光を放つ。
「もし御存知でしたら、きつく口止めをしなければいけないところでしたよ」
「……恐いねえ」
 そう呟く修三の声に、もはや答えることなく、フォン・ヴァルヴァゾルが去っていった。
 無言で、ユーリーがその後についていく。
 その灰色の後姿を、修三は、どこか面白そうにいつまでも見つめていた。



 最近、夢を見る。
 いや、これは夢なのかどうか。
 眠っている間に知覚する現実とは思えない様々なモノを全て「夢」と呼ぶなら、これは明らかに夢だ。
 だが、これは――
 ミアの――吸血鬼である彼女の、最も古い記憶の一つ。
 軋むような音に、照明ための油の燃える匂い、よどんだ空気のどこか猥雑な感触。
 これは、俺の脳に残った、ミアの記憶の残滓だ。
 俺の頭の中をかつて陵辱した、あの小さな吸血鬼の経験したコト。
 俺自身が、自分をミアと完全に同一視していないせいか、この夢の中の視点はひどく不安定だ。
 ミアの目を通して何かを見ることもあれば、ミア自身の体を宙から見下ろすこともある。
 そして今、俺は、薄暗い闇の中、ミアのほっそりとした体を見下ろしていた。
 ミアは、全裸だった。
 抜けるように白い肌が、すべて露わになっている。
 その状態で、黒い石の寝台に横たわり、両手を金属製の環によって戒められている。
 環は、鎖によって石の寝台とつながっていた。華奢なミアの体には不釣合いな、大袈裟なほど太い鎖だ。
 細い両腕を緩く上げた状態で、ミアは動くことが出来ないでいる。
 その顔は空ろで、ひどく弱々しかった。
 頬に、涙の跡がある。
 今まで絶望に泣き、そして、今は泣くことにすら疲れてしまったような、壊れかけの人形のような顔。
 その大きな目は見開かれているが、しかし、漆黒の瞳は何も見ていない。
 勿論、俺の存在を知覚している様子もない。それはそうだ。このミアの記憶の中では、俺は存在しないのだから。
 石造りの、さして広くない部屋の中。
 石の寝台の周囲に、奇妙な衣服をまとった男達が立っている。
 黒い、ゆったりとした布を体に巻きつけただけのようなその格好は、はるかな古代の衣服を思わせた。
 フードが男たちの顔を隠し、その顔の造作は分からない。
 だが、彼らの目は、一様に、フードの奥で赤く燃えていた。
 男達が、何か呪文のようなものを詠唱している。
 その、どこの国の言葉とも知れない言葉を紡ぐ声までもが、どす黒く染まっているかのような、おぞましい雰囲気。
 ゆらり、ゆらりと、炎がゆらめく。
 そんな中、男達は、一人も、床や壁に影を落としていなかった。
 ただ、ミアの影だけが、石の寝台にある。
 と――
 男達の声が、高くなった。
 皆、喉を仰け反らせるようにして、天を仰ぐ。
 フードがずれ、青白い顔が次々と露わになった。
 開いた口からのぞく、白い牙。
 ミアの顔に表情が戻り、怯えた声があがる。
 ぎゅううう……っ、と宙の一点が、音にならない音をあげ、歪んだ。
 ぼっ、と炎が、ミアの体の真上に、灯る。
 ミアが、悲鳴をあげた。
 握り拳ほどの大きさの炎が、どこか生々しく脈動する。
 それは、まるで――炎で形作られた心臓のように見えた。
 どくっ――どくっ――どくっ――どくっ――どくっ――どくっ――
 その、心臓の鼓動の音が力強く、そして禍々しく響き、それに合わせて、炎が空中で膨れ上がっていく。
 そして、真紅の炎は、渦を巻いて燃え上がりながら、次第に人の形を整えていった。
 熱を上げない、奇妙な火。
 あの、ミアが滅ぼしたモロイたちが崩壊する時、こんな炎に包まれていなかったろうか?
 血のように禍々しい赤色をした炎が――長い手足を備えた男の形となった。
 全身は燃え上がる焔のまま。ただ、その双眸にあたる部分のみが、さらに目映い光を放っている。
「カイン!」
 寝台の周りの赤い目の男達が、叫んだ。
「カイン!」
「カイン!」
「カイン!」
「カイン!」
 それが、この人のカタチをした火炎の名前なのだろうか?
 それ――カインが、ミアに覆い被さるように、寝台に両手と両膝を着いた。
「きゃあああああああああーッ!」
 ミアが、はげしくかぶりを振り、空しく両手を動かす。
 じゃらじゃらと鳴る鎖の音を、男達の詠唱と、そしてミアの悲鳴が掻き消した。
 純粋な恐怖が、ミアの瞳から新たな涙を溢れさせている。
 ぐっ、とカインの手が、ミアの小さな顎を固定した。
 さして力を込めた様子もないのだが、ミアの動きは、それだけで完全に封じられる。
「ひィ……っ」
 声をあげることも出来ず、ただ、怯えた瞳を目の前の顔に向けるミア。
 その、漆黒の瞳を、闇色の光を放つカインの視線が、射抜いた。
(や――やめろ――見るな!)
 俺の声は、もちろん、この遥かな過去の場面には届かない。
 まるで、血のカタマリが喉につかえたような感触。
「あ……あぁ……ぁ……」
 ミアの瞳から、感情の色が、消えた。
 すうっ、とその全身から力が抜ける。
 カインが、さらに、ミアに顔を近付けた。
 獲物を貪る肉食獣のように背中を丸めながら、細い首筋にその顔を寄せる。
 炎で形作られたその顔の様子は判然としない。しかし、俺は、カインと呼ばれたその存在が、ぱっくりと笑みの形に口を開いたのを、確かに感じた。
 次に起こることを覚って、俺は、目を逸らそうとした。
 しかし、どうしても目を逸らすことが出来ない。
 それは、これが夢だからなのか、それとも、俺自身の隠れた欲望によるものか――
 びくん! とミアの体が、カインの下で、震えた。
 カインが、その長い牙を、ミアの細い首筋に深々と埋めたのだ。
 一筋、二筋、鮮血が白い肌を伝い、石の寝台に滴る。
 おおおおおおぉぉぉ……ん、と寝台が、低い声をあげたように、俺には思えた。
 ひくっ、ひくっ、とミアの体が、弱々しく震える。
 これが、あの、モロイ達やチボーを相手に戦った、ミアなのだろうか。
 その瞳は涙で潤み、そして、桃色の唇が、ふるふるとおののいている。
「あ、あぁ……あっ……ああぁ……」
 吐息が、ミアの唇から、漏れた。
 甘く匂うような、熱い吐息。
 それは、明らかな快楽の声だった。
 そして――ミアは、まるで操られているかのような緩慢な動きで、その形のいい細い脚を、ゆっくりと開いた。
 膝を立て、秘めやかな部分を露わにするミアの脚の間に、カインがその腰を置く。
 その炎に包まれたかのような体の股間の部分には、まるで火柱のような男根が隆々と勃起していた。
 それが、ミアの幼い秘裂に、狙いを定める。
 ミアのその部分は、透明な液を大量に溢れさせ、石の寝台をしとどに濡らしていた。
 ミアが、その幼い腰を浮かし、挿入をねだるかのように、小さく揺する。
 ぐっ、とカインが腰を進ませる。
(――ミアあっ!)
 もし、今の俺に歯があれば、きりきりと音が出るほどに噛み締めていただろう。
 いや、唇や舌を噛み切っていたかもしれない。
 ミアの幼い体の中に、カインの剛直が、侵入した。
「ンあっ……! ああああああァァァッ!」
 破瓜の衝撃に、ミアの体が弓なりにたわみ、白い喉が仰け反る。
 ミアの小さな体を破壊しかねないほどに巨大なモノが、いたいけな秘唇を割り開き、挿入を続ける。
「あぐ……ッ!」
 ミアのその部分は、愛液と鮮血の雫を飛び散らせながら、カインのそれを迎え入れた。
「あぁ……っ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
 苦しげに、それでいながら甘く喘ぐミアを、男達が、喜悦に満ちた笑みを浮かべながら、凝視している。
 視界が真っ赤に染まった。
 音を立てて脳が沸騰しているような感覚。
 そんな俺を完全に無視して、陵辱劇は、無情にも進んでいく。
「あッ……ああッ! あうっ! ああぁッ!」
 ゆっくりと、嬲るように、カインが、腰を動かした。
 幼い体がもたらす快楽を貪る、人ならぬモノ。
 剛直が、ミアの内部をこすりあげ、さらなる血と蜜を掻き出していく。
「あうッ……んんッ! んくッ! あぅ……ンあああああーッ!」
 苦痛と、そして甘い快楽の入り混じった、ミアの喘ぎ声。
 耳を塞ごうにも、俺には、動かすべき腕がない。
 脳で直接、ミアが犯され、そして確実に快楽に溺れつつある様を、見せ付けられる。
 まるで、拷問のような時間。
 カインの人ならぬ器官がミアの秘肉を貫き、熱い血液と愛液とで、冷たい石の寝台を濡らしている。
 飢えた肉食獣が獲物を貪るような、容赦のない抽送。
 その動きに、ミアが、声をあげて牝の悦びを訴え、幼い腰を浮かして剛直を迎え入れていた。
 あどけなさの残る整った顔は快楽に染まり、形のいい眉が喜悦にたわんでいる。
「ひああああッ! あんんンっ! あうッ! あッ! ひああああン!」
 人が受け入れることのできる限界を遥かに超えた快感に、ミアの小さな体は成す術もなく悶えている。
 その目尻から溢れる涙は、もはや、暗い淫楽に対する反応でしかない。
 荒々しい暴風のような陵辱に屈服し、喘ぎ、叫び、すすり泣く、白い肌の少女――
 凄まじい嘔吐感が、俺を責め苛んだ。
 しかし、感覚のみを有し、実体を持たない今の俺は、カラダの中のものをぶちまけて楽になることすら、許されていない。
 いつしかミアは、戒められた両腕の代わりのように、その形のいい脚を、カインの腰に淫らに絡み付けていた。
 顔を左右に振りながら、あらぬことを喚き散らすミアの可憐な唇。
 その小さな口が、自らを陵辱する異界のモノに、どのような言葉を紡いでいるのか、俺には分からない。
 だが、それが、狂気の快楽を訴え、絶対の隷属を誓っている言葉であることだけは、俺にも感じ取れた。
 周囲の男達の、高らかな勝利の声。
 そして――カインが、その快楽の絶頂を極めた。
「ああああああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァァーッ!」
 どくん――っ!
 カインの、忌まわしい真紅の波動が、ミアの穢れを知らなかったはずの体に注ぎ込まれる。
 少女の無垢な体から、何か大事なものが喪失した、その瞬間――
 漆黒だったミアの瞳が、強烈な赤い光を放った。
(ミア……!)
 すうぅ……っ、とカインの体が、宙に溶け込むように、消えた。
 黒い石の寝台の上に、ミアだけが残される。
 その幼い桜色の秘裂は、血塗れになったまま無残にめくれ上がり、そして、ひくひくと痛々しげに痙攣していた。
 その体は、寝台に、いかなる影も落としていない。
 空ろな――人間らしい感情を全て失ってしまったかのような、ミアの顔。
 そんなミアを満足げに見つめながら、男達が、寝台に近付いていく。
 笑みのカタチに歪んだその唇からのぞく、白い牙。
 ミアは、ぴくりとも動かない。
 その風景は、まるで、肉食獣が食い残した血の滴るほどに生々しい屍肉に集う禿鷲の群を思わせた。
 そして――
 赤い、血が――
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
 俺は、布団を跳ね飛ばすほどの勢いで、目を覚ました。
 全身に、びっしょりと寝汗をかいている。
 外は、すでに朝だ。
「く……」
 しかし、春眠暁を覚えず、というような暢気な気分にはなれない。
 俺は、よろよろと洗面台に向かい、冷たい水で顔を洗ってから、少しだけ、胃液を吐いた。
 これからまた、一日が始まる。
 砂を噛むような、味気なく無意味な日常。
 俺は、そこに留まっていてはいけないはずなのだ。
 俺は――ミアのいる場所に追いつかなくてはいけないのだ。
 なのに、そこへの行き方が分からない。
 慣れ親しんだはずの自分の部屋の中に居ながら、まるで深い迷宮の中を彷徨っているような焦燥感があった。
 ふと、鏡の中の顔を見る。
 ずぶ濡れになった顔の中で、両目が、異様なほどに充血していた。

第二章

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