ももえ変幻自在!



 私立星倫高校正門前。
 そこで、俺、こと柳直太は、彼女である須々木萌々絵を待っている。
 デートの待ち合わせ場所としてはいろいろと問題のある場所だ。何しろ、自分が在籍してる学校だし。
 しかし、この街の中で萌々絵が自力で到達できるランドマークといったら、ここくらいなのだ。
 いっそ萌々絵の家まで迎えに行こうかとも思ったが、萌々絵の家族が心配するのではないかと思って、遠慮した。
 黒いジャケットとスラックスに、白いシャツ。もし、これで俺が長髪の優男だったら、ホストみたいな格好だが、まあ、そうは見えないだろう。むしろ、その服をだらしなく着て、目を守るためにグラサンをかけている茶髪で天然パーマの俺は、チンピラに限りなく近い外観なのだそうだ。
 俺みたいなオタクは、オタクであるということが強烈なアイデンティティーでもあるため、このことはとても不本意である。
 かと言って、わざわざオタク・ファッションに身を包むのもヘンな話だ。そもそも人目を気にしながら服装について思い悩むなどというコトでは、オタクの風上にも置けない。
 そんなわけで、俺は、自分の着る服について思い悩むことなく、最近のファミリー4コマ誌を確実に侵食しているオタクっぽい雰囲気について、つらつらと考えていた。
 と、ポケットの携帯が、8ビット家庭用コンピュータ・ゲームのテーマ曲を奏でだす。
「はい、もしもし」
「ね、ね、ね、直太くん!」
 電話に出たのが誰であるか確認することなく、何やら焦ってるような調子で話し掛けてくる、まるでロリキャラ担当の声優さんが演技してるような、甘い声。
 聞き間違えようもない。萌々絵だ。
「あのさ、直太くん、メイドさんと巫女さん、どっちが萌える?」
「は?」
「だから、メイドさんと巫女さんだよぉ! ねぇ、どっちどっち?」
「……えっと、メイド、かな」
 呆れて聞き流すべきところを、きちんと答えてしまうところが、自己言及の機会を逃さないオタクのオタクたる所以である。
「うんっ、わかった!」
「って、おい! 今の何だ? 分かったってどういう……?」
 ぷつ。
 電話が切れた。
 俺は、何やら嫌な予感を抱きながら、この近所に住んでるはずの萌々絵を待ち続けた。



「直太く〜ん、おっまたせ〜♪」
「わあ!」
 俺は、悲鳴をあげた。
「お前、何の真似だ!」
「メイドさんのまねー」
 そう言って、萌々絵が、あははははっ、と一人でウケて笑う。
 俺は、笑うこともできず、固まってしまっていた。
 もしかしてと危ぶみつつも、常識がその疑念を否定し続けていた光景が、目の前にある。
 萌々絵は、手製らしい完全無欠のメイド服を着込んでいたのだ。
 紺色のワンピースに、ふりふりのエプロンドレス。頭には白いひらひらの髪飾り――フリルカチューシャとかホワイトブリムとか言われるヤツが付いている。俺は、これをヘッドドレスと言うんだと思い込んでいたのだが、どうやらヘッドドレスというのは頭に付ける飾りの総称で、そもそも家政婦であるメイドの髪の毛をまとめるという実用性の高いコレをヘッドドレスと言うのは……。
 いや、そうでなくて。
「どお? どお? 上手くできてるでしょー?」
 これはと思うようなでかいピクニックバスケットを持ったまま、くるりと一回転する萌々絵。
 悔しいことに文句のつけようが無いほど可愛い笑顔が、このコスプレにマッチしている。
 照れも衒いもない、天然な笑顔こそが、この手のコスチュームには一番必要なものだ。フリフリの可愛い服を着ながらイベント疲れで無表情になっちゃってるコスプレイヤーのお姉さんを見たときのやるせなさは、こちらが買い込んだ大量の同人誌の重さに喘いでいることもあって筆舌に尽くしがたいもので……。
 いや、だから、そうでなくて。
「あれ? ……どっか、ヘンかな?」
 黙ってる俺に、萌々絵が心配そうに訊いてくる。
「何もかもな」
「えー? 上手にできたと思ったのに〜。さすが直太くん、キビしいなあ」
「あのな、萌々絵、ヘンのポイントはそこでなくてな」
「あーっ、もうこんな時間!」
 萌々絵が、校舎の時計を見て叫んだ。どうやら、コスチュームに合わせて腕時計はしていないらしい。
「ねーねー、早く行こうよ〜。映画、始まっちゃうよ!」
「いや、それはそうなんだけど……」
 前売りチケットで今日が公開最終日の映画を観ようとしている以上、早く映画館に行かなくてはいけないのは確かだ。
 しかし、俺は、このコスプレ娘をつれて街中を練り歩かなくてはならないのか?
 なぜだ? どうしてもっと落ち着いたデートらしいデートを味わうことができないんだ?
 どうやら自分がエロコメ宇宙もしくはギャグエロ宇宙の住人らしい、ということを信じてもいない神に呪いながら、俺は一つ溜息をついた。
「じゃ、行くか」
「はい、ご主人様っ!」
 そう言って、ぎゅっ、とバスケットを持っていない方の腕で俺の腕を取り、その柔らかな胸を押し付けてくる萌々絵。
「おい、そのご主人様ってのは……」
「えへへー。ご主人様のお買い物にお供するメイドさんって設定〜」
「なんか、ちょっと無理な設定だぞ」
「ダメかな、ご主人様?」
 いかん……萌えてきた。
 結局俺は、萌々絵の“ご主人様”という発言にダメ出しすることもできず、駅へと歩き始めたのだった。



 メイドルックってのは、あれだ。ちょっと変わったゴスロリだと思えばいいんだ。
 背が低い割に体にメリハリのある萌々絵には、そういうあざとい服装が、確かによく似合うし。
 街中で萌々絵が人の視線を集めてしまうのも、まあ、慣れっこだし。
 それに、映画館は暗闇だ。中に入ってしまえば、誰も俺たちには注目しないし。
 そういうわけで、俺は、萌々絵と並んで席に座り、スクリーンに集中した。
 目の前で展開されてるのは、評判の大作映画の2作目。古典的名作とはいえ複雑で冗長だった原作のストーリーを見事に料理して、きちんとした娯楽作品に仕上げている。
 だが……。
「あわ、あわ、あわ、あわわ」
 迫力ある篭城戦のシーンで、主人公たちがピンチに陥るたび、萌々絵は、奇妙な声をあげていた。
「静かに見てろよ」
 俺が、周りに迷惑にならないような声で、叱る。
「だ、だって、おっかないんだもん。はわわ〜っ!」
 悪の軍勢が、破城槌で主人公たちが立てこもる砦の城門を押し破りかけたシーンで、萌々絵は、ぎゅっと目をつぶってしまう。
「こ、こわくて観れないよ〜」
「あのなあ……」
「あーん、観たい〜、観れない〜」
 萌々絵が、座ったまま、ばたばたばた、と子供のように地団太を踏む。
 と、鮮やかな主人公の活躍に、劇場の観客たちがどよめいた。
「え、え、え? どうなったの?」
「自分の目で観ろって!」
「だあってェ〜。ご主人様、口で説明して〜」
 一応、設定は忘れていないようで、そんなことを言いながら、ぺたんぺたんと平手で肘掛を叩く。
「あっ……!」
 ばちゃ。
「うわあ」
 肘掛のカップ受けに置いてあった特大サイズの紙コップが、萌々絵の手に弾かれてぶっ倒れ、中身を俺の股間にぶちまけた。
「あのなあ……」
「ひゃっ? ご、ごご、ごめんなさぁい〜」
 涙目の萌々絵に、怒るよりも呆れてしまう。
 ああ、もう、トランクスまでびちょびちょだ。しかも、中身はかなり糖分の高い代物のようである。
「萌々絵、何飲んでた?」
「ア、アイスココア……」
 最悪だ。
「はややややや……ど、どうしよう、どうしよう、どうしよう〜」
「ほんとに、どうしたもんだろうな」
 深く、溜息をつく。
 そろそろ映画の方はクライマックスだが、下半身がこんなになった状態で映画を観続けるのは、いくらなんでもちょっと辛い。
 それに、もう、萌々絵だって映画を楽しめる状態ではないようだ。
 このドタバタ劇を演じてる俺たちに対する周囲からの批判の視線も、かなり痛い。
「しゃあない。出よう」
「ごめんなさい〜」
 俺は、しおれた花のようにうつむいてる萌々絵を伴って、そそくさと映画館を出たのだった。



 どこかで、このベタベタのスラックスとトランクスをどうにかしよう、と思っている俺のジャケットを、萌々絵が、くい、と後ろから引っ張った。
「ご主人様」
「ん? ああ、別に怒ってないって」
「えと、そうじゃなくて……」
 萌々絵が、路地の奥の怪しげな看板を指差す。
「あそこ、入ろ」
「……あれは、ラブホなんじゃないか?」
「うん、だから、入ろ」
 確かに、このスラックスなりトランクスなりを水洗いするとしたら、あそこはいい場所かもしれない。
 しかし……。
「あそこで、ドジなメイドの萌々絵に、お仕置きして……ご主人様」
 な、何て、卑怯な。
 何て卑怯なセリフを、何て卑怯な顔で言いやがるんだ、こいつは。
 抵抗ロールもレジスト判定もセービングスローも大失敗だ。
 俺は、ぎこちなく肯き、周囲に知り合いのいないことを確認してから、その入口をくぐったのだった。



 萌々絵の手によって水洗いされたスラックスとトランクスが、ベッドの上にだらんとその身を伸ばしている。
 で、俺はと言うと、それらと入れ違いになる形で、浴室に入っていた。
 服は、全部脱いでいる。
 そして、丸裸になってバスタブのヘリの腰掛けてる俺の脚の間に、メイド服を着たままの萌々絵が、膝を付いていた。
「こっちも、萌々絵がいっしょうけんめい綺麗にしますね、ご主人様♪」
「あ、ああ……でも、服とか脱がなくて、いいのか?」
 俺のスラックスとかを洗った段階で、そのメイド服はすでに水に濡れてしまっている。
「あのバスケットの中に着替えが入ってるから、だいじょぶです」
 そう言って、萌々絵は、服を着たまま、今度は俺の股間を洗い始めた。
 なるほど、やけにでかい荷物だと思ったが……などという俺の思考は、萌々絵の丁寧な指使いによって、すぐに脳内から放逐されてしまう。
 ぎんぎんに固くなってしまった勃起に泡を塗りつけるようにしながら、くにくにとシャフトを扱きあげる萌々絵。
 まさか、本物のメイドが、着衣のままこういう“奉仕”をしたという歴史的事実はないと思うのだが、とにかく、倒錯的な状況であることは確かだ。
「あぁン……ご主人様の、すっごく固くなってますゥ……」
 うっとりとした声で、萌々絵が言う。
 どうやら、ますます役にハマってるらしく、ホテルに入ってからは丁寧語だ。
「熱くって、逞しくって……とってもステキですぅ」
 右手で陰茎を扱き、左手で睾丸をあやすように優しく揉みながら、萌々絵が俺の顔を上目遣いで見つめる。
 とろんと潤んだ瞳。桜色に染まった目許。
 このシチュエーションに、萌々絵自身がかなり興奮してることは確かだ。
「萌々絵……」
 俺は、身を屈めるようにしながら、萌々絵の胸に手を伸ばした。
 服の上から、その豊かな胸を揉む。
「ああぁン」
 萌々絵が、俺のペニスに顔を押し付けるような格好で、つっぷした。
 そんなことに構わず、ぐにぐにといささか乱暴に手を動かし、萌々絵の双乳の感触を堪能する。
 敏感な萌々絵の体が、ひくっ、ひくっ、と反応した。
「だ、だめですゥ……ご奉仕続けらんないですゥ……」
 はぁン、はぁン、と甘い喘ぎを漏らしながら萌々絵が言う。
 俺は、その言葉を無視して、萌々絵のメイド服のリボンタイを外し、胸元のボタンを外していった。
 エプロンの胸元が大きく開いているので、こうすると、乳房をそのまま外に出すことができるのだ。
 ぽろん、と外にまろび出た二つの丸い膨らみの下半分を、白いブラが覆っている。
 俺は、ブラをずらし、萌々絵の胸を直接揉みしだいた。
 何だか、本当に横暴な主人になって、いたいけなメイドを強引に手篭めにしてるような気分になってくる。
「ああン、あゥン、はぁ〜ン」
 萌々絵が、あからさまな快楽の声を漏らした。
「あはぁッ……ご主人様、ご主人様ァ……」
 ミルク色の乳房の頂点で、小粒の乳房がすっかり勃起している。
 俺は、その突起をつまみ、くりくりと刺激した。
「きゃうッ! あン! やあぁン!」
 萌々絵が、我慢できなくなったように、俺の腰にしがみつく。
 俺は、腰全体がじわっと熱くなるような感覚を覚えた。
 そして、ボディソープを手にとり、湯船に張られたお湯と混ぜて、萌々絵の乳房に塗りたくる。
「ああン、だめだめェ……萌々絵、ご奉仕できないィ……」
 ぬるぬると滑る感触で乳房を嬲られ、萌々絵がたまらなくなったように身をくねらせた。
「萌々絵は、やっぱりダメメイドです……メ、メイド失格ですゥ……きゃあぁン!」
 何か、メイドというものを勘違いしているような、そんなセリフ。
 しかしまあ、オタク文化の中に生きる“メイドさん”というのは、要するに、いわゆる女中や家政婦の英訳であるところの“maid”とはどこか根本的に異なるわけで……。
「はぁっ、あっ、あああっ、っああぁぁぁ……っ!」
 見ると、萌々絵は、自分でスカートの中に手を差し入れ、両手でもって自分のアソコを慰めていた。
 そんな萌々絵に罰を与えるようなつもりで、ますます強く、その双乳をこね回す。
 手の中で自在に形を変えるほどに柔らかく、そしてすぐに綺麗な半球型を取り戻すほどに弾力のある、萌々絵の胸。
 それを乱暴に扱えば扱うほど、萌々絵は激しく乱れた。
「ひああぁン……ご主人様ァ、萌々絵は、萌々絵はもう……っ!」
 萌々絵の声が、切羽詰まってくる。
 どうやら、ショーツの中でその小さな手が大奮戦しているようなのだが、白いフリルに縁取られたスカートに隠されて、よく見えない。
「あッ! あーッ! イク! イきます! イきますっ!」
 そう言って、萌々絵は、びくうん、と大きく体を震わせた。
 座ったまま、背中を弓なりにそらせながら、ぴくぴくとその小さな体を痙攣させる。
 そして、不意に、くにゃーっと体を弛緩させ、洗い場のタイルに仰向けになってしまった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
 横になってもあまり形の変わらない乳房と、メイド服の胸元を、泡でびちゃびちゃにしながら、萌々絵が幸せそうな顔で余韻に浸っている。
 俺は、置いてけぼりにされたことに、ほんの少しだけ怒りに似た感情を覚えながら、そんな萌々絵に近付いた。
 そして、物も言わずに、萌々絵の顔を見下ろしながら、その華奢な胴体にまたがる。
「ひゃっ?」
 もちろん、体重をかけないように注意はしたが、萌々絵はかなり驚いたようだ。
 そんな萌々絵の二つの乳房の間に、いきり立ったままほったらかしにされていたペニスを挟む。
 そして俺は、張りのある乳房をぎゅっと中央に寄せ、ぐいっ、ぐいっ、と腰を動かしだした。
「ああン、ご主人様、胸でなんてェ……」
 そう言いながらも、萌々絵は、なんだか嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「ごめんなさい、萌々絵が、途中でやめちゃったから……あっ、ああン! あン!」
 未だ、絶頂の余韻で敏感になっている乳首を親指で刺激しながら、俺は、腰の動きを速めていった。
 泡にまみれたペニスが、萌々絵の胸の谷間を滑り、ひょこひょこと顔を出す。
「ご、ご主人様……萌々絵のオッパイで、うんと、気持ちよくなってください……ああぁン!」
 萌々絵は言い、そして、自らの両手で乳房を真ん中へと寄せた。
 俺は、フリーになった両手で、固く尖ったピンク色の乳首をいらいながら、さらにさらに腰を動かす。
 口や、アソコでつながっている時よりも、どうしても圧力が弱くはなるが、それでも、そのもどかしさがまた気持ちいい。
 それに、風呂場の濡れたタイルに着衣のままの彼女を押し倒してコトに及んでいる、という今の状況が、ゾクゾクするような背徳感を俺にもたらしていた。
「ああン……すごい……ご主人様の、おっきなオチンチンが、萌々絵のオッパイを犯してるゥ……すっごくやらしいですウ……」
 まるで、俺と、そして自分自身の興奮を煽るかのように、萌々絵が卑猥な言葉を口にする。
「あン、あぁン……気持ちいい……パイズリでご奉仕してるのに、萌々絵、気持ちよくなっちゃってます……ああぁン」
 全く、どこでそんな言葉を憶えたんだか。
 なんてことは、もう、俺は考えられない。
 迫り来る射精の予感に、ペニスが、ひくひくと律動する。
「あぁっ♪ ご主人様のオチンチン、萌々絵のオッパイで、ぴくんぴくんしてますゥ」
 言いながら、萌々絵は、ぎゅーっとさらに胸を寄せた。
「出して、出してください! ご主人様のエッチなミルク、萌々絵のお顔にびゅびゅって出してください!」
「……っっっ!」
 びゅくん!
 胸の谷間の甘美な感触よりも、その萌々絵の言葉をきっかけに、俺は激しい勢いで射精してしまっていた。
 びゅくん! びゅくん! びゅくん! びゅくん!
 前髪の張り付いた額や、柔らかそうな頬、ちまちました口元、そして、白い喉から乳房にかけてまで、呆れるほど大量に迸った俺の白濁液が、無残に汚していく。
 もちろん、メイド服の白い襟元や紺色の生地も、俺のザーメンでべっとりと汚れてしまった。
 まさに、風呂場で急にもよおした主人の性の捌け口にされた憐れなメイド、といった風情の有様である。何ともまあ、オタク的エロ妄想の中から出てきたような感じだ。
 そんな無残なはずの状況の中、萌々絵の幼い顔が、どこか満足そうな笑みを浮かべているのが、かえって壮絶なまでの淫らさをかもし出している。
「えへへへ……ご主人様、いっぱい出しましたね」
「あ、あぁ……」
 俺は、いろいろなものでどろどろになったペニスにお湯を流しながら、とりあえずそう返事をした。
 明るいパステルピンクのタイルの上に、お湯と泡と精液でべちょべちょになったコスプレ姿を晒している萌々絵。
 そんな彼女の姿に、俺の股間のものは、無節操にもまた立ち上がりかけていた。
「あ、ご、ご主人様……」
 萌々絵が、熱っぽい目で、俺の勃起しかけのペニスを見つめる。
 まるで、好物のお菓子を目の前にしたような、子供っぽい表情。
 しかし、その瞳は、ねっとりとした淫らな情欲に濡れ光っているように見える。
 俺は、わざと何も言わず、ぐい、と萌々絵の両膝を開いた。
「あァン♪」
 嬉しそうな萌々絵の悲鳴を聞きながら、脚をMの字にして、スカートを捲り上げる。
 ブラとお揃いの白いショーツはすっかり濡れ、本来隠されていなくてはならない大切な個所が透けて見えるほどだ。
 ちょっと考えて、そのショーツのアソコに当たる部分を、横にずらす。
「や、やですゥ……はいたままでなんて……」
 俺は何も言ってないのに、萌々絵が、そんなことを言う。
 どうやら、そうやって俺を誘っているらしい。
 どういうわけか、ペニスが、再び完全に勃起してしまう。
 俺は、無理矢理にメイドをレイプするような感じで、辛うじて剥き出しになったその部分に、ペニスの先端を押し当てた。
 くちゅり、という柔らかくぬるぬるとした感触が、亀頭に触れる。
「濡れてるぞ」
 俺が、事実をそのまま言うと、萌々絵の顔がかあっと赤くなった。
 羞恥によるものか、興奮したせいか……多分、その両方だろうけど。
「あぁ、あぁ……ご、ご主人様ァ……」
「萌々絵……」
 俺は、たっぷりと熱い蜜に濡れたそこに、ゆっくりとペニスを侵入させていった。
「あ、あああぁぁ、あう……っ!」
 ペニスが奥まで挿入された感覚に、萌々絵が背を反らす。
 俺は、萌々絵の小さな体に覆い被さりながら、ゆっくりとピストン運動を始めた。
「あっ、ああっ、あっ、あっ、あうっ、あっ……!」
 抽送に合わせて、甘い悲鳴をあげながら、萌々絵が下から俺にしがみついてくる。
 ほとんど服を着たままの彼女と、全裸で、しかも風呂場のタイルの上でセックスする、というシチュエーションの異常さに、俺は、くらくらするほどに興奮していた。
「あン、あン、あン、あン、あン、あン……き、気持イイ……ご主人様の、気持イイですゥ……」
 俺の熱い興奮に、萌々絵の濡れた声が、さらに油を注ぐ。
 俺は、精液と石鹸の匂いにさらに異常な興奮を掻き立てられながら、萌々絵の唇に唇を重ねた。
「んっ……んぐっ、むぐ、んちゅ……んーっ」
 萌々絵が、くぐもった喘ぎを漏らしながら、積極的に舌を絡ませてくる。
 ぴったりと重ねていた唇を離し、長く伸ばした舌同士をぴちゃぴちゃと舐め合い、互いの唾液を交換し、再び隙間なく唇を重ねる。
 柔らかな唇や弾力のある舌を吸いながら、俺は、ますます激しく腰を動かした。
 耳朶を舐め、半開きの唇にキスをし、未だぬるぬるのままの胸を揉み、濡れた髪を手で撫で、両腕で華奢な体を抱きすくめる。
「あッ! ああン! ご主人様! ご主人様ぁ!」
 その度に、萌々絵の敏感な体は、反応を返してきた。
 そして、ざわめく膣肉が、ぎゅううっ、と俺のペニスを愛しげに締め付けてくる。
「好きっ! 好きですゥ! ご主人様、大好きっ!」
 俺の背中に回した細い腕に精一杯の力を込めながら、萌々絵が、俺の耳元で声をあげた。
「萌々絵……俺も……」
「あッ! ひあああッ! イっちゃう! また、またイっちゃいますっ!」
 俺が思わずあげてしまった声を、萌々絵の高い声が掻き消す。
 俺は、痛いくらいの快感をペニスに感じながら、ムチャクチャに腰を動かした。
「イきますっ! イク! イクぅ! 直太くん……萌々絵、もうイっちゃうーッ!」
 びゅるるるるるっ!
「あッ! ああッ! ああー……ッ!」
 びゅーっ、びゅーっ、びゅーっ、びゅーっ……。
 俺と、萌々絵は、同時に達していた。
 ペニスが、びくびくと脈動しながら、萌々絵の体の奥底に、精液を注ぎ続ける。
 体の外も中も、俺によってドロドロにされた萌々絵。
 間近で見るその顔は、あまりの快感に呼吸のリズムを忘れてしまったかのように、ぱくぱくと口を開閉させている。
「あ……ああぁ……ふああぁぁぁ……」
 ようやく息の仕方を思い出し、そしてそれに安心したかのように、ぴん、と緊張していた萌々絵の体から、力が抜けた。
 そして、その体の上に、俺がぐったりと横たわる。
 重くないかな、と思うのだが、あとしばらくは、ぴくりとも体を動かせそうもない。
 湯船から溢れたお湯が、萌々絵の服と、そして二人の体を、ひたひたと濡らしていた。



「じゃーん♪」
 そう言いながら、ほとんど全裸の萌々絵がピクニックバスケットから取り出した着替えを見て、俺は目を丸くした。
「なんだそれは?」
「え? 直太くん知らないの? 巫女さん服だよー」
 いや、そんな名前の服はないぞ。
 とは言え、萌々絵が取り出した白の小袖と朱色の袴は、今一般的に言われてる巫女さんの衣装そのままだ。
 元来、小袖には下着としての意味合いが強いはずなのだが、現代の神社における本職の巫女の衣装からして小袖と袴というのが一般的であり、そもそも“メイドさん”がオタク文化の中での語彙において本物のメイドとやや異なった意味を持っているように“巫女さん”という言葉も……。
 いや、だから、そうでなくて、だ。
「な、なんでそんなものを着替えに?」
「だって、出かける前に準備してたの、これとメイド服だったんだもん」
「……」
「でさ、出かけるギリギリまで、どっちにしようかなーって迷ってて、それで、直太くんに電話したんだよ」
「ああ、そう……」
「でも、やっぱり、デート中にいろいろあると着替えも必要かな、と思って、こっちの方も持ってきたわけ。えっへっへー、大正解だよね〜」
「正解なんかじゃない。全くもって誰がなんと言おうと断じて正解なんかじゃない」
 俺は、ぶるぶると首を振りながら、言った。
「どうして……? って、あーっ!」
 萌々絵が素っ頓狂な声をあげる。
「直太くんの言うとおりだよー。はわわわわ、大失敗だあ〜!」
 萌々絵が、ひどく情けない顔で、俺を見る。
「これだと、帰りは巫女さん服とバスケットになっちゃうよ〜! すっごいミスマッチ! 絶対ヘン〜!」
「あのな、萌々絵、ヘンのポイントはそこでなくてな」
 そう言いかけ、俺は口を閉ざした。
 今さら、何を言っても、どうなるものでもない。
 ああ、俺は、忘れていた。
 萌々絵の「だいじょぶ」が、いついかなる時も、けして大丈夫なんかでなかったことを……。



 そして?
 そして俺は、もちろん、白い小袖に朱の袴を着て、その上ご丁寧に草履に履き替えた萌々絵を、彼女の家にまで送っていったのだ。
 萌々絵の家族が、俺のチンピラじみた服装や外見にどんな感想を抱いたかは、よく分からない。
 ただ、俺の見てくれなんて、萌々絵が生まれ育った須々木家では全くの些事であろうことを、俺は、確信していたのだった。

あとがき

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