ももえ総天然色!



 スズキモモエという名前の音を聞いただけで、どういう漢字を書くのか一発で当てられたら凄いと思う。
 たいていの人は、「鈴木百恵」とか書いちゃうのだろう。俺のパソコンだってそう変換する。が、これがまた全然合っていない。
 正解は、「須々木萌々絵」。
 苗字の方はまあいいが、名前の方は、これはちょっといかがなものか。
 などと考える俺の名は、柳直太。某アニメの主人公と同じ名前だったりするのだけど、それはまあどうでもいい。
 ただ、それとは別の次元で、俺はこの名前でちょっと困っているんだが……。
 そんなことを思いながら、寒空の下、路上で所在無く突っ立ってる俺の前を、軽快な音を立てて自転車が通りすぎた。
 と、その自転車が、くるりとUターンをする。
「よー、オタヤンじゃないか」
 自転車を降りながら、そう俺に声をかけてきたのは、同級生の葛城知巳だった。
 葛城は、俺と同じく映画研究会の一員でもある。小柄で女顔のわりに、めったやたらにケンカが強いという、ヘンな奴だ。なんでも家が代々古武術を伝えているという、なんだか現在休止中の格闘マンガを思わせる男である。
「その名前で呼ぶの、やめてくれんか?」
「なんで? 似合ってると思うんだけど」
「似合ってないよ」
「だって、オタクでヤンキーだからオタヤンだろ?」
 こいつは、人が気にしてることをずばっと言う。デリカシーがないんだと思う。
「違う。小学校の頃、『柳』って苗字のヤツが他にクラスにいた。で、そいつと区別するために、『ナオタ』の『オタ』からあだ名がつけられたんだ」
「だって、オタヤンと同じ中学校だったヤツ、みんなお前のことオタヤンって呼んでるし」
「面と向かって言うやつはもういないけどね」
 俺は、無意識に眉をしかめながら言った。
「確かに、その顔で凄まれたら、誰だってビビっちゃうしなあ」
「すごんでない。人相が悪いのは元からだ」
「オタクヤンキーでオタヤン……いいと思うのになあ」
 まだ言うか、こいつは。
 第一、俺は確かにオタクだけどヤンキーじゃない。
 髪が茶色でパーマがかかっているのは100%天然だし、眉が細いのは生まれつきだし、顔が老けてるのは遺伝である。こめかみの傷は、子供の頃に転んでガラスで切った痕だし、サングラスをかけているのは目が弱いからだ。それに、服が黒白ツートンカラーなのはコーディネートを考えなくていいのがラクだからである。オタクはこの時期みんな黒いコートとジャケットを着てるんだぞ!
 って、最後はちょっと言い過ぎか。
 ともあれ、俺がヤンキーだとか、実はヤクザの息子だとかいうのは、根も葉もないウワサなのである。
 どうやら、入学当初、サバイバル・ゲーム用のエアガンをカバンの中に入れっぱなしにしていたのをクラスメイトたちに見られたことが、あらぬウワサを巻き起こしてしまったらしい。
 向こうが誤解するのは勝手だが、それでサバゲに対する偏見が世に蔓延するのは、同好の氏に誠に申し訳ない。俺は、機会あるごとに、サバゲがいかに安全で紳士的な遊びかをアピールした。いや、したつもりだった。
 しかし、俺はオタクなので、どうしても銃の話をすると熱が入ってしまう。そして、いつのまにか、本物の銃の危険性や小さな銃弾が生み出す破壊力について話し込み、さらに脱線してナイフや警棒による格闘術などについて語ってしまうのだった。そのため俺は、ますます周囲の警戒感を煽ってしまったようなのである。
 それに俺は、ついつい服のボタンをかけ忘れがちだし、地方でオンリーイベントがあると平日から学校を休んでしまう。その上、夜遅くまでネットゲームなんかをしていることが多いので、遅刻常習犯でもあるのだ。そんな不真面目な生活態度が、悪いウワサを助長させたことは否定できない。
 そういうわけで、もはや誤解は解きようがないほどに根を下ろしてしまっている。マジで転校を考えたいくらいだ。
「で、オタヤンは、こんなところで何をしてるんだ」
 葛城はあくまでオタヤンで通すつもりらしい。
「待ち合わせ」
 俺は、憮然とした表情のまま答えた。
「冬休みだってのに、わざわざ校門の前で待ち合わせかよ」
 大きな目を見開いて、葛城が言う。
「しょうがないんだよ。相手が、ここじゃないと迷子になるっていうから」
「なんだよそれ?」
「前に、駅で待ち合わせたら見事に迷子になったし」
「どこの駅で?」
 俺は、学校の最寄駅の名前を言った。
「……なんで、あそこで迷うことができるんだ? 出口だって三つしかないだろ?」
「俺も不思議なんだけどね」
 そう言って、溜息をついた時だった。
「なおたくーん♪」
 能天気な声をあげながら、須々木萌々絵が手を振って駆け寄ってきた。
「なんだ、待ち合わせの相手って須々木のことかあ」
 葛城は、その女のコっぽい顔に、にへらと人の悪い笑みを浮かべた。
「お待たせー、って、あれ? どなたですかあ?」
 萌々絵が、リスか何かのように小首をかしげて、葛城を見る。
「おいおい、傷つくなあ、それ」
 萌々絵も、俺と同じく映研所属なのである。葛城は苦笑いをした。
「同じ映研の葛城だよ」
「あああー、和泉ぶちょーと付き合ってる人だあ!」
 まるで、クイズに回答するような勢いで、萌々絵が声をあげる。
「ちょっ、そ、そんなでっかい声で……」
「あれー? ちがったっけー? それとも片想いなのー?」
 葛城の数倍の無遠慮さで、萌々絵が重ねて訊く。
 ちょっと可哀想な気もするが、先ほどの恨みもあるので、俺はあえて黙ってた。
「お、俺、用事があるから、じゃあな!」
 葛城は慌てたようにそう言ってから、こっちの返事も待たずに自転車にまたがった。
「ええー? どっちなのよお? 教えてよー」
 真っ赤になって自転車をこぎだす葛城の背中に向かって、萌々絵はててて、と二、三歩走り寄る。が、もちろん、彼女の足では追いつきようがない。
「ちぇー、逃げられちゃったよー」
 ぷー、と子供のように頬を膨らませながら、萌々絵が言う。
「ねえねえねえ、直太くんはどー思う?」
「葛城と和泉部長のこと? そりゃまあ、付き合ってるんじゃないの?」
「やっぱしー。だったら、なんであそこで否定するんだろ?」
「普通はそうするだろ。照れくさいし」
「そっかなー。あたしは、直太くんが彼氏になってくれたとき、みんなに自慢したよー」
「え……?」
「ちなみに、みんなというのはねー、ユッキにブンちゃんにナナミちゃん。月子ちゃんや亜希さんにもしゃべったし。それから、ママやパパや那々緒おにーちゃんにもしゃべっちゃったぁ」
「うぅ……」
「それからそれから、烏丸センセーや美倉センセーにも……」
「だああああ!」
 担任や養護教諭の名前まで出てきたところで、俺は思わず大声で咆えていた。
「お前にはプライバシーの意識はないのかよ!」
「……だって、別に悪いことじゃないでしょ?」
 そう言って、萌々絵は、ぎゅっ、と俺の左腕に抱きついた。
「だって萌々絵、みんなの前で直太くんといちゃいちゃしたいしー」
 二の腕に押しつけられる、柔らかな膨らみの感触に、俺の追及意識は情け無くもとろけていってしまう。
「さ、デートデート♪」
 そう言って、萌々絵が俺を引っ張った。
「あのな、萌々絵」
「なーに?」
「駅は、反対側だ。お前何年ココに住んでるんだよ」
「はれれっ? あ、まちがえちゃったー」
 すれ違った十人の男が、十人とも振り返りそうな可愛い顔で、萌々絵はあははと能天気に笑うのだった。



 左右に分けたセミロングの髪。余った前髪が額にかかり、頭の両脇からは触角よろしく、まとめた髪の束がひょこんと跳ねている。
 まるで、ギャルゲーのキャラようにあざとい髪型だ、と思う。しかも恐ろしいことに、それが似合ってしまっているのだから、なんともタチが悪い。
 その上、性格はこれ以上はないというほどの天然ボケ。もし本当にギャルゲーのキャラだったら、髪の色はピンクだろう。専門用語で「ピーチク」と言うらしい。
 本当は、俺の萌え属性はもっとおとなしいコなのだ。穏やかで、物静かで、それでいて奥に芯の強さを秘めているような人。できれば髪形はショートで、メガネなんてかけてるとなおイイ。埋葬機関のなんちゃって女子高生が俺の理想の女性なのだ。
 だというのに、こんな騒がしい娘と付き合いだしたのは、萌々絵の天然ボケによるものである。
 今年の夏、萌々絵は、この性格ゆえに思いきりムチャな因縁を吹っかけられた。
 ブランド物のバッグを傷つけたとか壊したとか、そういう言いがかりをつけられ、かなり高額の金銭を要求されたのである。
 で、“体を売って金を稼げ”と強要され  街で、本屋のはしごをしていた俺に声をかけたのだ。しかし、おとなしく言いなりになってしまうあたり、並外れた世間知らずぶりだ。
 まるきり要領の得ない萌々絵の話を聞き、俺は、事実関係を確認するために、言いがかりをつけた相手に会うことにした。
 そしたら、向こうが勝手に引きまくってしまったのだ。
 確かに俺は、その時、ポケットからスイス・アーミーナイフを取り出したりしたが、それは、メガネの緩んだネジを留めようとしてのことだった。なのに、度付きのサングラスを外し、ナイフに内蔵されたメガネ用ドライバーを展開させようとしたところで、件の相手や、一緒にいた不良さんが逃げ出してしまったのである。
 なんだか、ちょっと傷付いた。
 その傷心の俺を、萌々絵がやさしく、そして明るく慰めてくれたことは確かだ。
 そして不覚にも、俺たちはそのまま深い関係になってしまったのである。
 乱れていると思う。高校一年生にあるまじきことだとは、自覚してる。
 だが、抗うにはあまりに甘美過ぎる誘惑に、俺はどっぷりと浸かってしまったのであった。



 俺たちは、目的の映画を観終わり、デパートでの買い物にシフトしていた。
 手洗いに行った萌々絵を、レコードショップのエリアで待つ。
 しかし、DVDってのは、どうしてこう価格差が激しいんだろう。特に、俺が欲しいと思うシリーズは高くて、とても手が出ない。
「なおたくぅ〜ん」
 と、ぱたぱたとこちらに近付いてきた萌々絵が、半べそをかきながら声をあげた。
「な、なんだよ。トイレ見つからなかったのか?」
 俺は、抑えた声で訊いた。さっき、漏れそうだとか言って大騒ぎしていたから、もしそうだとしたらかなりまずい。
「ちがうー。ぱんつなくなっちゃったあ〜!」
 売り場全体に聞こえかねないような声で、萌々絵が言う。
「あ……あのなぁ、んなでかい声で言うなっ!」
「だって、だっておしっこしてたら、いつのまにかぱんつなくなっちゃったんだもん。お気に入りのぱんつなのにい……」
「わかった! わかったから、とにかくこっち来い!」
 可愛らしい唇でぱんつぱんつと唱え続ける萌々絵の細い手首を取って移動する。ひそひそという買い物客たちの話し声が、俺の背中に突き刺さった。
 ああ、しばらくあの売り場に行くことはできなくなった……。
 俺はちょっと涙目になりながら、フロアの端まで萌々絵を連れて来た。
「直太くん、ぱんつ……」
「分かった。分かったけど……なんで、そんなもんなくなるんだよ?」
「わかんないよォ、もれそーだったから慌てておしっこして、んで、気がついたらなくなってたんだもん」
「あのな……」
「萌々絵ね、おしっこのとき、パンツぜんぶぬいでするの。ぬがないと、何となくおちつかなくて出ないんだもん」
 いかん……想像してしまった。
「でね、終わって、ほっとして、パンツはこうと思ったら、どこにもないの」
 こいつ、よく今まで無事にこの現代社会を生きてこれたな。
 と言うか、これで俺よりも成績がいいということが  それどころか、学年でもトップクラスの順位だということが、どうしても理解できない。学校の成績なるものは、所詮、そういうものなのだろうか?
「つまりその、今、おまえはいてないのか?」
「うん……」
 厚手のカーディガンに膝上十センチくらいのチェック柄のスカート。そして細い足にごつごつしたスニーカーという格好の萌々絵が、こくんと肯く。
「ねえー、いっしょにおトイレの中、さがしてえ」
「じ、自分でさがせよ」
「だってえ、あたしが探しても見つからないもん」
 それは  たぶんそうだろう。自分の両腕に抱えた学生カバンを探して学校中をうろつきまわったこともあるこいつのことだ。
 俺は、盛大に溜息をついてから、萌々絵を連れて、女子トイレへと足を引きずるように歩いていった。



「ほらァ、やっぱりないでしょぉ」
 なぜか、どこか誇らしげに、萌々絵は言った。
 ここは女子トイレ。幸か不幸か、現在、使用者は一人もいない。
 個室は、男子トイレのそれよりは一回りくらいスペースが広く、そして、壁には落書き一つなかった。
 その中の、カバンなどを置く小さな台や、ペーパーを置く棚などを見ても、萌々絵の下着は見つからない。
「本当に、使ったのはここなのか?」
「うん」
 そう言われても、とても信用できない。俺は、順々に別の個室も見て回った。
 と、最後の個室を見たときだ。
「直太くん、人来たぁ!」
 入口で見張りをしていた萌々絵が、素っ頓狂な声をあげた。
「げ! に、逃げるぞ」
「ダメえ、もうこっち来ちゃってるもん!」
「な、なんでもっと早く言わないんだよ!」
「だってェ……」
「あー、もうっ!」
 俺は、一番奥の個室に身を隠した。一瞬遅れて、萌々絵も入り込む。
「……お前は、外にいたほうがよかったんじゃないか?」
 カチャ、と鍵をかけてから、俺はそのことに気付き、小声で言った。
「え……? アハハ、そうだねー」
「そうだねーって……」
 狭い個室の中で、萌々絵の、それだけなら文句なく可愛い顔を間近に見ながら、俺は天を仰いだ。
 トイレに、人が入ってきた気配がする。
「……今使ってる人が出たら、出るぞ」
「え? それって分かる?」
「水道使う音で判断するさ」
「ふーん……」
 萌々絵は、指を唇に当てて何か考え込んでから、いきなり、ぎゅむっ、と抱きついてきた。
「っ!」
 まるで野生動物のような予測不能な行動に、俺は慌てて声を飲み込む。
「ど、どういうつもりだよ……?」
 そして、萌々絵の耳に囁く。
「あ、あン♪ 耳、感じるゥ♪」
「質問に答えろ」
「だって……したくなっちゃったんだもん。このまま出ちゃうなんてもったいないよ」
 すりすりとその柔らかな体を押しつけてきながら、萌々絵は言った。
「あのなあ、お前、状況分かってんのか……」
「狭いところで、直太くんと二人っきりー♪」
 言いながら、萌々絵は、俺の右手を、自らの胸の膨らみに導いた。
 柔らかな布地の下の、柔らかな感触に、頭に血が昇る。
「萌々絵……ヤバいって……」
「なんでえ? 直太くんのオチンチンも、カタくなってるよォ」
 左手で、俺の右手を押さえつけながら、萌々絵は股間に手を伸ばしてきた。
 そりゃまあ、これだけ体を密着させられ、髪の香りを嗅がされては、反応するなと言うのがムリな話だ。
「オチンチン……直太くんの、オチンチン……やらしい……♪」
 そう言いながら、ぐにぐにと右手を動かして、布越しに俺の股間を攻撃してくる。
 この異様なシチュエーションに、俺のモノは爆発寸前だ。
「や、やめろって、萌々絵……そんなにしたら、出る……」
「出るって、セーエキ出ちゃうの?」
 俺は、屈辱に顔が熱くなるのを感じながら、肯いた。こいつにはきちんと伝えないと分からない。
「ダメだよお、まだ出しちゃあ」
 そう言って、萌々絵は、密着した体を離し、便座に座り込んだ。
 そして、ほっとするのも束の間、にこにこと微笑みながら、俺のベルトに手をかける。
「な……何するんだよ……!」
 大声で叫びたいのをガマンしながら、俺は、両手で股間を押さえた。
「なにって……はいたまま出しちゃうと、べちょべちょになっちゃうよー?」
 そう言いながら、萌々絵は、俺の両手の隙間から、つんつんと盛り上がったスラックスをつついた。
 情けないことに、そんな刺激だけでも、俺のペニスはますますいきり立ってしまう。
 ダメだ。ズボンの前がこんな状態では、トイレの外に出ることができない。
 俺は、そのことを言い訳にしながら、両手をどかした。
 萌々絵が、俺のスラックスを下ろし、トランクスからペニスを解放する。
「はわぁ……すっごい匂い……」
 上体を屈め、すっかり先走りの汁をにじませている俺のモノに顔を近づけながら、萌々絵は言った。
「あむ」
 そして、何の前触れもなく、亀頭を口に含む。
 腰全体に走る甘い痺れに、俺は、思わず体をのけぞらせてしまった。
「ううン……ふン、んン、んン、んン……」
 動きそうになる俺の腰を両手で押さえ、萌々絵が、リズミカルに俺のペニスを刺激する。
 生温かい口腔粘膜が亀頭の表面を滑り、舌がシャフトに絡みついた。
 溢れた唾液がピンク色の唇の端からこぼれ、それをじゅるじゅるとすする音が、俺をますます興奮させる。
「れえ、なおふぁくん、きもひいい?」
 口に咥えられたまま喋られて、俺はそのまま出してしまいそうになった。
「れえってば〜」
「き、きもちいい……」
 なすすべもなく快感に屈服し、俺は、そう言ってしまう。
「えへへへへェ」
 嬉しそうに笑ってから、萌々絵は、激しく頭を前後させた。頭の両脇から生えている触角状の髪が、揺れる。
 かぽ、かぽ、かぽ、かぽ、という、どこか滑稽な音が、個室に響いた。
 それが、外に聞こえないか心配になりながら、俺は、必死に声を噛み殺す。
 と、萌々絵が、口を離した。
 ひんやりとした感触が唾液で濡れたペニスにまとわりつき、ほんの少しだけ、正気に戻る。
「すっごい、ぴきぴきになってる……♪」
 自分でそうしておきながら、萌々絵が感心した声をあげる。
 そして、天を向いたペニスに頬を寄せ、すりすりと頬擦りをした。
 ほにゃ、と笑みほころんだ可愛らしい顔と、我ながら凶悪な外観の肉棒のコントラストは、おそろしく強烈だ。
「あっつい……ヤケドしちゃいそう……」
 舌足らずな声でうっとりと言ってから、萌々絵は、てろてろとシャフトの裏側を舐め始めた。
 射精までは至らない、しかし確実に性感を高めていくその刺激に、俺は、腰の中がぐつぐつと沸騰しているような錯覚を感じていた。
 これで、また咥えられたら、もう……。
 と、思っているところに、ぱく、とまた萌々絵が俺のペニスを口に入れた。
 そのまま、まるで物を飲み込むように、ずるん、と喉の奥まで導き入れる。
「はう……ッ!」
 俺は、ぎゅっと目を閉じ、萌々絵の頭を思いきり自分の腰に押しつけてしまった。
 そのまま、萌々絵の喉の奥めがけ、思いきりスペルマを発射してしまう。
 びゅううッ! びゅううッ! びゅうううッ! びゅううーッ……!
 体中の力が吸い取られでもしたかのような快感。
 ムリに声を出すのを我慢してたせいで、一時的に呼吸がままならなくなる。
「っは……はぁっ……はっ……はぁぁ……」
 どっ、と俺は個室の壁に背を預け、必死に呼吸を整えた。
「んへッ! げほ! えへっ! けほッ……!」
 ようやく口が自由になった萌々絵が、猛烈に咳き込んだ。
「だ、だいじょぶか、ももえ……?」
 俺がそう声をかけても、萌々絵は、けんけんと苦しそうに咳を繰り返すばかりだ。
 とりあえず、丸まった萌々絵の背中をさすってやる。
 ようやく咳が収まってきた萌々絵に声をかけようとしたところで、いきなり、ノックの音が響いた。
「ッ!」
 心臓が、胸を突き破ってしまいそうな勢いで跳ねる。
「あの、大丈夫ですか? 体調でも悪いんですか?」
 外から、そう声がかかる。どうやら萌々絵の咳を聞かれたらしい。
「ダ、ダイジョブれすう……」
 目に涙を浮かべながら、萌々絵が言う。
「お店の人、呼びましょうか?」
「だいじょぶです。ちょっと、ヘンなとこ入っちゃって」
 何言ってるんだ、お前は!
「は?」
 外で、驚いたような声があがった。
「え、えと……あの、どうぞおかまいなくぅ……本当に大丈夫ですから」
 ばくばくという俺の心臓の音が外に聞こえないか、本気で心配になる。
「なら、いいですけど……」
 怪訝そうな声でそう言い、声をかけた人は、その場を立ち去ったようだった。
 人の気配がなくなったところで、長々と息を吐く。
「あー、びっくりした。さ、今のうちに、出ちゃおうぜ」
 と、萌々絵が、恨めしそうな上目遣いで、俺のことを睨んだ。
「あ、その……悪かったよ。つい口の中に出しちゃって……」
「そんなこと言ってるんじゃないよォ」
 そう言いながら、萌々絵は、まだ仕舞っていなかった俺のシャフトに細い指を絡めた。
「萌々絵、まだ、してもらってない」
「って、おい!」
「ねえぇ〜、直太くんだけ気持よくなってずるいよ〜っ」
 そう言いながら、唾液と精液に濡れたままのペニスを、その小さな手でしごく。
「して……直太くぅン……」
 潤んだ大きな瞳と、上気した頬。たわめられた眉。さっきまで俺のモノを咥えていた唇は半開きで、唾液に濡れている。
 可愛い。
 タチの悪いことに、欲情したこいつの顔は、普段よりもさらにさらに可愛くなる。
 その表情と、股間で高まる甘い刺激が理性を狂わせ、浸蝕していく。
 もう、ダメだ……。
 信じてもいない神様の悪意を感じながら、俺は、萌々絵を抱き寄せた。
「こ、こんなとこでするの、今回だけだからな」
「うん……分かったから……早く、オチンチン、入れて……」
 本当に分かっているのかいないのか、切なげに吐息を吐きながら、おねだりする。
 俺は、萌々絵に後ろを向かせ、合板の壁に両手をつかせた。
 はぁはぁと期待に息を早くしながら、萌々絵がこちらに流し目を寄越す。
 同年齢の女のコたちと比べても幼い顔に浮かぶその表情は、凄く淫らだ。
 彼女のギンガムチェックのスカートに手をかけ、めくりあげると、白い剥き出しのヒップが現れる。
 ああ、こいつ、ほんとにパンツなくしたんだな……。
 実ははいてました、というオチも想像していなくはなかったのだが、そういうコトではなかったわけだ。
 つん、と突き出されたヒップはすべすべで、脚の付け根の部分は、薄桃色に染まりながら息づいている。
 スリットからは透明な蜜が溢れ出し、滑らかな太腿を伝って、膝の辺りまで滴っていた。
「い、入れるぞ……」
「ウン……」
 返事を待ってから、すでに上を向いてそそり立ったペニスの角度を、手で調節する。
 くちゅ、と亀頭を浅くクレヴァスに潜り込ませただけで、萌々絵の体が、ぶるっと震えた。
 そのまま、ゆっくりと腰を前に進ませる。
「ふゎ、あ、ああぁ……あああああっ♪」
 萌々絵が、白い喉を反らし、嬌声をあげる。
「ば、ばか、外に聞こえる」
 俺は、いささか慌てながら、萌々絵の背に体をかぶせるようにして、右手でその口をふさいだ。
「んんんんン〜」
 くぐもった声で、萌々絵が快楽を訴える。
 ざわざわとざわめく靡粘膜が、俺のモノを包み込み、微細な舌の集まりのように蠢いている。
 そのままにしているだけでも、たまらない快感だ。
「ね、ねえ、直太くん、うごいてよォ……」
 もじもじとはしたなくヒップをゆすりながら、萌々絵が催促する。
「声、だすなよ」
「ウ、ウン、分かったからぁ……」
 はァはァと喘ぐ萌々絵の口に、念の為、右手の指を含ませる。
 萌々絵は、目を閉じ、俺の指をちゅうちゅうと吸い、さらには舌まで絡めだした。
 まるでフェラチオでもしてるかのような、淫靡な顔つきである。
 俺は、その表情に誘われるように、腰を動かし始めていた。
「うン、ふン、くうン、うン、ンうぅン……」
 俺の抽送に合わせて、まるで、主人に媚びる仔犬のように、萌々絵が鼻を鳴らす。
 一応、声を出さないように努力してはいるようだが、その鼻から漏れる甘い喘ぎだけでも、人に聞かれた大事である。
 しかし、もっと大きな声を出させたいという、理不尽でどこか破滅的な欲望が、俺の中で育っていた。
「んッ! ンううう! ンうン!」
 萌々絵が、俺の指を含んだ口で、くぐもった悲鳴をあげる。
 俺が、無意識のうちに、左手で彼女の胸を揉んでいたのだ。
 カーディガンの前をはだけ、シャツを捲り上げて、ブラの下に手を差し込む。
 直接触れる萌々絵の胸は、その童顔に反して意外と豊かで、手からこぼれ落ちんほどだ。
 そんな、たわわな胸の頂点にある乳首を、指先でいらう。
「んひい! ンう! あぅン!」
 指先で弾くように刺激すると、乳首が可哀想なくらいに勃起してきた。
 それをつまんでコロコロと刺激し、まるで鳥がついばむように、くいくいと引っ張る。
「ふぐッ! ンううン! ン! ふうぅ〜!」
 きゅううン、と膣肉が俺のモノを締め付けた。
 俺の手に嬲られる乳首と、シャフトでこすり上げられる膣内の刺激が、萌々絵の小さな体の中で共鳴しあっているようだ。
 いつしか、俺は萌々絵に咥えさせている指を二本に増やし、じゅぽじゅぽと激しく出入りさせていた。
 萌々絵の口元から唾液が溢れる。
「んッ! んぐッ! んむ! ふぁううううゥン!」
 口内を陵辱する俺の指に、はぐ、はぐ、と軽く歯を立てながら、萌々絵はくねくねと身をよじった。
 それは、まるで湧き起こる快感から逃れようとしているようでもあり、また、さらなる淫楽をねだっているようでもある。
「んッ、んッ、んッ、んッ、んーッ!」
 いよいよクライマックスが近いのか、萌々絵が、俺の指を強烈に吸引した。
 甘い痛みを覚えながら、ちゅぽん、と指を引き抜く。
「ふぁ……」
 指から解放され、物欲しげに開かれた唇に、体を密着させるようにしてキスをする。
 そして、両腕でその体を抱き締めるようにしながら、右手を接合部に伸ばした。
 愛液で濡れたクレヴァスを、指でなぞるように刺激すると、びくびくと膣肉が反応する。
「んッ……ちゅ……ちゅっ……ちゅば……な、直太くゥん……」
 おもいきり甘い声で、萌々絵が訴える。
「ちょうだい……萌々絵の中に、直太くんのミルク……ちょうだぁい……!」
 その言葉で、どこかの回路が開いたかのように、ペニスの中で渦巻いていた快感が体内で広がり、腰全体を包み込んだ。
「ああッ♪ な、直太くんの、またおっきくなったァ……っ!」
 そう嬉しげに言う萌々絵のクリトリスを、右手の指先で挟む。
「ひゃぐ……ンううううううっ!」
 今度は左手で萌々絵の口を塞ぎ、そして、思いきり右手の指先に力を込めた。
「ンふううううううううううウ!」
 びくうン、と萌々絵の体が俺の腕の中で跳ね、膣内粘膜がぐいぐいと俺を刺激する。
 俺は、萌々絵が左手の指を思いきり噛むのを感じながら、その体内に大量に射精していた。
 びゅーっ、びゅーっ、びゅーっ、びゅーっ……と自分でも呆れるほどの勢いで、何度にも分けて熱いスペルマを放ち続ける。
 輸精管を快楽のカタマリが通り抜ける度に、腰が抜けそうな快感が背筋を駆け上った。
「ふぐぅ……! ふうう……ふうウ……ふゎ……ふみゃああぁ〜……」
 くたっ、と萌々絵の体から力が抜ける。
 そのまま、弛緩したネコのようにトイレの床に座り込みそうになる萌々絵を、俺は、きちんと言うことを聞かない体でどうにか支えてやったのだった。



「へにゃー……きもちよかったぁ〜……」
 萌々絵が、便座にへたり込んで、快感の余韻に浸っている。
 俺は、自分と、そして彼女の服を整えてやってから、今日何度目かの溜息をついた。
 本当だったら何か一言いってやりたいのだが、誘惑に負けてしまった俺が言うべきセリフはない。
「えへへへへェ……口を塞がれたままセックスすると、なんかゴーカンみたいだよねぇ」
「……」
「あたし、すっごくコ−フンしちゃった♪ 直太くんにだったら、レイプされてもいいな」
「バカなこと言うなよ」
 それは強姦ではないのでは、と思ったが、とりあえず俺は別のことを言った。
「バカなことじゃないよお。萌々絵、直太くんにレイプされたりSMされたりするとこ想像しながら、オナニーしたりするもん」
 あっけらかんとした顔で、すさまじいことを言ってのける。
「今朝も、おトイレで、直太くんにイロイロされちゃうところ想像しながらしちゃったし……って、あああ!」
 ぴょこん、と萌々絵はバネ仕掛けのように立ちあがった。
「思い出した、思い出したよお!」
 呆気にとられている俺のジャケットの襟のとこを握り締めながら、萌々絵がまくし立てる。
「あ、あのな、もっと小さい声で」
「朝! 朝のトイレ! トイレでおなにー!」
「だ、だから静かにー」
 俺の声は、悲鳴に近い。
「たぶん、そん時だよぉ! そのあと、気持ちよくて、ぱんつはくの忘れて出てきちゃったんだよ!」
「な……なんだって?」
 俺は、馬鹿のように口を開けっ放しにしながら、訊いた。
「じゃあ、つまり、その……お前、今日一日ずっとはいてなかったの……?」
「えと、そーいうことになるねえ」
 あはははは、と笑いながら、萌々絵は言う。
 まるで、体中から力という力が蒸発してしまったような脱力感。
 俺は、女子トイレの壁に背中を預け、自分が床に座り込みそうになるのを、どうにか根性で耐えたのだった。
あとがき

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