第6章



「マスター、元気でましタ?」
「う、うん……」
 翌朝、無邪気な笑顔で訊いてくるミミコに、僕は肯いた。
 ミミコは、自分が遊園地でどんな状態になったのか、何も憶えていないようだった。
 僕に拾われる以前の記憶と同様に、その部分の記憶が、きれいに欠落しているのだ。
 ある意味では、それでよかったと思う。でも――要するにそれは、ミミコの電子頭脳の障害が、未だ存在しているということだ。
 新聞によると、あの三人組は一命を取りとめたらしい。それ以上詳しいことは書いてないが、警察が、メイド服のネコ耳アンドロイドを指名手配している、ということはないようだ。
 とりあえずほっとしながら、僕は、ミミコに予備の服を用意した。
 例によってメイド服だが、色は黒、白いレースがふんだんに使われている。
「なかなかシックな感じですネ♪」
 意味が分かっているのかいないのか、そんなことを言いながら、ミミコは袖を通すのだった。



 春の連休は、まだ続いている。
 僕は、自室で考え込んでいた。
 ミミコが淹れてくれたコーヒーが、机の上でちょっと冷めかけている。でも、ネコ舌の僕にはちょうどいいくらいだ。
 図書館で借りてきた、過去の新聞の縮刷版が、目の前に並んでいる。
 ちょうど目的の部分を読み終えたところだった。
 あのお店、『ドールハウス』で起こった、暴力団同士の抗争に関係すると見られる事件。
 その事件で、「清流会」とか言う名前の指定団体幹部が一人死んでいるのだ。死因は、鋭利な刃物によってつけられた複数の裂傷による出血多量。
 フリーの記者をやってる友人に確認したところ、この事件は未だ解決していないとのことである。
 そして、『ドールハウス』は、被害者が所属していた清流会に密接に関わったお店だという話なのだ。おそらく、榊さんも、その清流会に何らかの形で属しているのだろう。
「とにかく、ケーサツのオジさんたちの言うことにゃ、被害者側のガードが高くて、全然捜査が進展しないって話なんよ」
 友人は、電話の向こうで、軽薄な口調でそう教えてくれた。
「何しろ、自分のシマの店でイタしてる時に、惨殺されちゃったんだからねえ。メンツでご飯食べてるような人たちだし、自分たちで敵討ちしよってハラなんじゃないの?」
 無責任な調子でそう言う友人にお礼を言いながら、僕はちょっとイヤな感じの汗をかいていた。
 ミミコは、あの『ドールハウス』で働いて――いや、働かされていたのだ。
(ミミコ……)
 狭い家の中、台所で洗い物をしながら何やら出たら目な歌を歌っているらしいミミコの声が、かすかにここまで聞こえている。
「にゃんにゃんにゃんにゃんネコミミめいど〜♪ にゃんにゃんにゃんにゃんロボットめいど〜♪」
 ――例え、ミミコが過去において何をしてしまったにしても、僕は、ミミコを守らなくてはならない。
 そう、僕が思ったときに、電話が鳴った。
 僕の電話ではない。ネコババした、榊さんの携帯電話だ。番号表示は非通知になっている。
 しばし逡巡した後、僕は、携帯の着信スイッチを押した。
「……もしもし」
「あんた、近衛さん、てンだろ?」
 無理にドスを効かせた感じの声が、開口一番、そう言ってきた。
 声を憶えてはいなかったけど、どうやら、榊さんらしい。
「だったら、どうなんです?」
 僕は、右手一本で秘密の道具を色々と準備しながら、言った。
「一応、詫びを入れとこうと思ってな」
 電話口の向こうのにやついているような気配に、かっと頭に血が昇る。
「あなたは榊さんですか?」
「そうだ。……あんた、色々と嗅ぎまわってるらしいな?」
 僕は、そんな榊さんの問いには答えない。
「あなたが、あの三人を僕たちにけしかけたんですか?」
 真正面から、そう切りこんでみる。
「だったら、どうする?」
「あなたのことをスパナか何かで滅茶苦茶にぶん殴ってやりたいですよ」
「勇ましいこったな」
「……本気ですよ」
 僕の言葉に、榊さんは何だか鼻白んだ感じだった。
「別に、俺はもう、あんたらにちょっかいをかけるつもりはねえんだ」
「……」
 “あんたら”というのは、僕とミミコのことだろうか?
「おとなしくしてりゃあ、もう巻き込んだりはしない。あの連中を痛めつけたことも、こっちでどうにかするつもりだ」
 意外なほど、榊さんの言葉は恩着せがましくは無かった。多分、この件が表沙汰になることは、榊さん自身にも不利なのだろう。
「だから、ヘタに動き回るのは止めときな」
「そうですか」
 思いきりそっけなく、僕は答える。
「あとな……もし、そのやっかいなアンドロイドを手放す気があるなら、俺のほうで引き取ってやるぜ」
「は?」
「そうすりゃあ、あんたは絶対に安全だ」
「忠告の、つもりですか?」
「そうだよ」
「だったら結構ですので、その忠告は犬のエサにでもしといてください。では」
「お、おい……!」
 榊さんはまだ何か言いたげだったが、僕は一方的に電話を切った。
 そして、会話の間に逆探知しておいた榊さんの住所を、「悪質なイタズラ電話を受けた」という名目で、警察に匿名で通報しておく。
 大した効果は期待できないが、向こうの動きが少しでも鈍ればめっけものだ。技術者崩れには技術者崩れなりのやり方があるのである。
 そして、僕は次の一手を考えた。
 榊さんが、わざわざ「ちょっかいをかけるつもりはない」と告げたのは、どうしてだろうか?
 無論、親切で言ってきたわけではないことは確かだ。多分、僕たちが過剰反応して大騒ぎすると、榊さんにとって良くない結果を招くのだろう。
 かと言って、榊さんを困らせるために、わざと大騒ぎするのは考え物だ。例の三人の件もあるし、いわゆるヤブヘビになるのが関の山である。
 と、再び電話が鳴った。今度は、僕の家の電話である。
 正直、ほんの少しだけどきどきしながら、受話器を取る。
「ミサちゃん?」
 涼香お嬢さんだった。いつになく真剣そうな声だ。
「ちょっと、出られる? 大事な件なんだけど」
「えっと……ミミコが一緒でも、いいですか?」
 やっぱり、ミミコを置いて外出するのは不安だ。
「もちろん。ミミコちゃんのことだからね」
「何か、わかったんですか?」
 僕は、思わず大きな声を出してしまう。
「ま、そんなトコ……じゃあ帝都理大の、工学部西棟第十七研究室で待ってるから」
 そう短く言って、お嬢さんは電話を切った。



 そのキャンパスは、都内とは思えないほど、緑に溢れていた。そんな中で、古臭い作りの建物が、いくつも並んでいる。
「ふエー、ここが、学校ですかァ」
 感心したように、ミミコが言う。これまで、勉強のために色々な場所にミミコを連れまわしたが、教育機関に来るのは初めてだ。
 まるきり無人かと思ったら、連休中だというのにぶらぶらと構内を歩いている学生さんたちが、けっこういる。
「んにャ? 誰も、ランドセルしてないですネ」
「だって、ここは大学だから」
 ピントのずれた発言をするミミコに苦笑いしながら、僕は、塗装の剥げかけた案内板で、目的の場所を探した。
 正門からは、けっこう距離がある。ちょっとした散歩の気分で、僕はミミコと並んで歩いた。
「マスター……」
 まぶしい木漏れ日に目を細めながら歩く僕に、ミミコが不意に言ってきた。
「ん、何?」
「なんで、涼香さんは、あたしたちに親切にしてくれるんでしょウ?」
 ミミコにも、僕たちがお嬢さんを訪ねる理由は、見当がついているらしい。ミミコの電子頭脳は、時に驚くほど正確な状況判断をする。
「うーん……単に、面白がって……だと思うけど」
「そうですカ?」
 自信なさげに言う僕に、珍しくミミコが問い返す。
「ミミコは、どう思うの?」
 そう訊くと、ミミコは僕の顔をなんかジトっとした目で見つめた。
「マスターって、何でも知ってるみたいなのに、分からないコトもあるんですネ」
 そして、なんだか不思議なことを言う。
 それがどういう意味なのか訊こうとしたとき、僕たちはお嬢さんが指定した建物に着いていた。

 その部屋は、お嬢さんが占領している割には、以外と片付いていた。
 どうも、ここのところ、お嬢さんはここに寝泊りしているらしい。十二畳ほどのスペースには、旋盤や作業台、アンドロイドのためのメンテナンス・ベッドなどの他に、お嬢さんが持ちこんだらしいカセットコンロや折り畳み式の寝台までがあった。
 ミミコは、その部屋の奥のメンテナンス・ベッドに、下着姿で横たわっている。
「ふむむむむむむ……」
 ディスプレイに現れるミミコのシステム・モニタをにらみながら、オレンジ色のワンピースの上に白衣をまとったお嬢さんが、妙な声をあげている。
「やっぱ、そうだわ……」
 そしてお嬢さんは満足そうに肯いた。
「偶然て言えば、すごい偶然だけど……やっぱ、ミサちゃんはあなどれないなあ」
 そう言って、お嬢さんは僕の顔を見つめ、悪戯っぽく微笑んだ。
「えっと……何が、分かったんです?」
「全部」
 お嬢さんが、自身たっぷりにそう言う。
「ミミコちゃんの“悪夢”とドジっぷりの原因の全てが、判明したわ」
「原因?」
「そう。知りたい?」
 問わずもがなのことを、お嬢さんが訊いてくる。
 僕が肯くと、お嬢さんは南向きの窓に近寄って、後手で厚手のカーテンを閉めた。薄暗くなった研究室で、ミミコに接続されたディスプレイが、ぼおっと光っている。
「ただで教えてあげるわけには、いかないなあ」
「え?」
 予想外のお嬢さんのセリフに、僕は面食らった。
「えっと……それって……」
 何を言っていいのか分からない僕に、お嬢さんは、ゆっくりと近付いてきた。近付きながら、白衣を脱ぎ捨て、部屋のすみのソファーの上に放り投げた。
「ミサちゃん、あのね……」
 今まで、薄暗くて判然としなかったお嬢さんの表情が、ようやく識別できるくらいにまで近くに来た。
 お嬢さんの顔は、これまで見たことがないくらい、真剣だった。やや吊り気味の黒目がちな目が、じっと僕の目を見つめている。
「ミサちゃんを、ちょーだい」
「は?」
 お嬢さんの言っていることの意味が正確につかめず、僕はちょっと間抜けな声を出す。
「あたしね……ミサちゃんが欲しいの」
 そう言って、お嬢さんは、その白く細い指で、着ているワンピースのボタンを外し始めた。
「お、お嬢さん……!」
 うろたえる僕の前で、お嬢さんは、するりと着ている服を脱ぎ捨てた。
 お嬢さんがいままとっているのは、白いシンプルなデザインのブラとショーツだけだ。
「好きだったの、ミサちゃん。ずっと……ずっと前から」
 そう言うお嬢さんの声は、信じられないことに、ちょっと震えていた。
「そんな……」
「こっち見て、ミサちゃん」
 思わず横を向いてしまった僕に、お嬢さんが言った。
 向き直ると、お嬢さんは、自身のくびれたウェストの上あたりを左手で指差した。
 その白くすべすべした肌に、一筋の傷跡が、横一文字に走っている。
「知ってるでしょ。アメリカ行く前にした、手術の跡」
 知っている。でも、その傷跡を見るのは初めてだ。
 お嬢さんの右の肺は、かつて、深刻な病魔に冒されていたのだ。幼い頃からはつらつとしていたお嬢さんが白い病室に伏せっている様子が、ひどく痛々しかったのを憶えている。
 そしてお嬢さんは、中学を卒業する年に手術を受けた。詳しいことは聞いていないが、かなりの大手術だったらしい。
 それから、入院前に発表した論文が認められ、退院早々に、高校を飛び越してアメリカの大学に留学することになったのである。
「これが、なかったら……」
 お嬢さんが、涙で濡れたような声で、言った。今まで一度も聞いたことのない声。
「これがなかったら、絶対、アメリカ行く前に告白してたのに……!」
 そう言って、お嬢さんは、僕の胸にしがみついた。
 僕のシャツを小さな拳で握り締め、顔を押しつける。そのセミロングのくせのない髪は、清潔なリンスの香りがした。
「そんな……」
 僕は、茫然とつぶやいた。
「分かってる……ミサちゃんが、こんなキズくらいで、人を見る目を変えるような人じゃないことくらい……でも……」
 僕の胸を、お嬢さんの涙が、じわじわと温かく濡らしていく。
「あたし、こわかった……こわかったんだよォ……」
 胸が、締め付けられるように痛い。
 僕の左右の腕が、勝手にお嬢さんの体を抱き締めそうになる。
 お嬢さんの肩は予想以上に華奢で、そして、細かく震えていた。
「お嬢さん……」
「お願い……涼香って、呼んで……」
「涼香、さん……」
 お嬢さんは、僕の胸に細い腕を回し、逃すまいとするように、ぎゅうっと抱き締めた。
 僕の体が、僕の意思とは裏腹に、浅ましい反応を示し始める。
 僕は、そっとお嬢さんの肩に両手を置いた。
 びくん、とお嬢さんの肩が震える。
 そして――
 そして僕は、力を込め過ぎないようにしながら、ゆっくり、ゆっくり、お嬢さんの体を離していった。
「ごめんなさい……」
 涙で潤んだ瞳で僕を見るお嬢さんに、そう言う。
「……」
 お嬢さんは、ちらりと、メンテナンス・ベッドに横たわるミミコの方を向いた。
 そう――僕はもう、ミミコを裏切ることはできない。
 と、お嬢さんは、まるで小さな子どもがするみたいに、ごしごしと拳で涙をぬぐった。
「はーっ」
 そして、大きく息をつく。
「やっぱ、そっかー……そうだよねえ……。ミサちゃんは、そんなカンタンに浮気するようなヤツじゃないもんね」
「……」
「ミミコちゃんのこと、好きなんでしょ」
「……はい」
「愛してるの? アンドロイドでも?」
「はい」
 僕は、深く静かに肯いた。
「かなわないな、やっぱり」
 どういう意味だかよく分からないけど、お嬢さんはそう言った。そして、何だか晴れ晴れとした顔で微笑む。
「じゃあ、最後の手段ね」
「え?」
「ミミコちゃん、起きて」
 お嬢さんの呼びかけに、ミミコはぱっちりと大きな目を開いた。どうやら、それが起動のキーワードだったらしい。
「えっと……はにャ?」
 下着姿のお嬢さんにとまどったのか、ミミコは妙な声を出す。
「あのね、ミミコちゃん」
 お嬢さんは、くすくす笑いながら、まだ寝ぼけた感じのミミコに語りかけた。
「あたし、ミサちゃんが好きなの」
「ほエ?」
 お嬢さんのストレートな言葉に、ミミコが大きな目をさらに丸くする。
「でも、ミサちゃんはミミコちゃんのこと、すっごく好きなんだって」
「……」
 ミミコは、しばしきょとんとしたあと、かーっと頬を染めた。そして、うつむきかげんの上目遣いで、僕とお嬢さんを交互に見る。
 僕も、なんだか頬が熱い。
「だから……三人で、しない?」
「さんにん、ですかァ?」
 お嬢さんのとんでもない提案に、ミミコが素っ頓狂な声を出す。
 僕はと言えば、驚きのあまり口のきけない状況だ。
「ほら……早くしないと、ミミコちゃん抜きで始めちゃうわよ」
 そう言いながら、お嬢さんは僕の右腕を両腕で抱いた。柔らかな胸が、二の腕に当たる。
「お、お嬢さん……」
 僕の声を無視して、お嬢さんはじっとミミコの方を向いている。一瞬、ミミコとお嬢さんの目が合ったようだった。ミミコが、なんとも言えない複雑な表情を浮かべている。
 そしてミミコは、下着姿のまま、ちょっと覚束ない足取りで、近付いてきた。
 僕は、もうどうしていいか分からず、馬鹿のように突っ立ってる。お嬢さんの手を振り払って、ミミコに服を着るように言えば、この場を収拾できるかもしれないが……そんなこと、僕にできるわけもない。
「マスター……」
 目の前にまで近付いてきたミミコが、僕に呼びかける。少し、声がかすれてる感じ。
 僕は、何を言っていいのか分からない。
「いつもは、ミミコちゃんはまずどうするの?」
 そんな僕の代わりにお嬢さんにそう言われ、ミミコはますます顔を赤くしながら、ゆっくりとひざまずいた。
「あ……」
 思わず身じろぎする僕の腕を、お嬢さんがしっかり捕まえる。ミミコは、そんな僕のスラックスに、そおっと小さな手を這わせた。
 半ば勃起した僕のアレに、ますます血液が充填されていく。その、痛いような、気持ちいいような感覚に、僕の息は自然に荒くなっていった。
 ミミコが、僕のスラックスのファスナーを下ろし、トランクスからペニスを解放した。
「へえ……」
 僕の腕を捕まえたままのお嬢さんが、声をあげている。
 そんなお嬢さんにちらっと視線をよこしたあと、ミミコは、天を向いて屹立している僕の欲棒をぱっくりと咥えこんだ。
「わぁ、ダイタン♪」
 お嬢さんが、なぜだか妙に嬉しそうな声を出す。
「あ、あ、あ……」
 思わず、僕の口から情けない声が漏れる。
 僕のアレは、お嬢さんにすぐ傍で見られながらミミコに口淫されるという異様なシチュエーションに、いつもより敏感になっているようだった。
「うふ、ミサちゃん、気持ちよさそう……」
 そう言いながら、お嬢さんは、僕の腕を離して、両手で僕の頬をそっと挟んだ。そして、僕の顔を自分の方に向かせる。
 あっと思ったときには、あっさりと唇を奪われていた。
 ぬるりと舌が口内に侵入し、僕の舌をなぶる。くちゅくちゅという湿った音に、脳が痺れそうだ。
「んんーッ」
 僕の亀頭を咥えこんだまま、ミミコがくぐもった抗議の声をあげた。見ると、怒ったような上目遣いで、僕とお嬢さんの方を見上げてる。
「あはっ、怒った?」
 唇を離して、お嬢さんが、明らかに面白がっている声をあげる。
「そ、そんらこと……ないれすけド……」
 半ばペニスを咥えたままミミコが喋るたびに、思わず腰が砕けそうな刺激が、僕の下半身を襲う。
「ふふ……じゃあ、一緒にしようね」
 そう言いながら、お嬢さんが、ミミコに並ぶようにしゃがみこんだ。
 そして、ミミコが先端を浅く口に咥えたままの僕のペニスに、顔を寄せる。
 お嬢さんの柔らかな唇が、ちゅうっ、と音をたてて僕のシャフトに吸いついた。
「あぁ……」
 今度こそ、本当に立っていられなくなって、思わず後ろに手をつく。
 ちょうどそこに作業台があって助かった。もしこれがなかったら、僕は無様に尻餅をついていただろう。
 ミミコとお嬢さんが、逃げるように引かれた僕の腰を追いかけた。
 二枚の舌が、僕のペニスをてろてろと舐め上げる。
 そうしながら、お嬢さんとミミコは、互いに互いをちらちらと横目で盗み見ているようだった。片方が大胆に竿の部分に舌を絡めると、それに刺激されたかのように、もう一人も同じようにする。
 ペニス全体がとろけてしまいそうな快感だ。
「ミミコちゃん、すごくエッチな顔してるぞ」
 お嬢さんが、フェラチオの合間に頬を寄せるようにしながら、ミミコにそんなことを言った。
「は、はずかしイ……」
「んふっ、エッチで、可愛い顔♪」
「そんなァ」
「ミミコちゃん、ミサちゃんのこと、ほんとに好きなんだね……」
 お嬢さんの言葉に、ミミコが、こくん、と肯いてくれる。
「あー、もう、ヤけちゃうなあっ!」
 そう言いながら、お嬢さんは、僕のアレにむしゃぶりついた。
「あン、ミミコにも残してくださイ!」
 そんなミミコの言葉にくすくす笑いながら、お嬢さんは、ちょっと顔をずらして、僕のペニスの右側を丹念に舐めまわした。左側には、ミミコが舌を絡める。
 いつしか、ミミコは僕の左脚に、お嬢さんは僕の右脚に、それぞれすがりつくような感じの姿勢になっていた。
 その格好で、僕の腰やお尻をそろそろと撫でながら、淫靡な口撃を続けている。
 僕は、後手に作業台のふちをぎゅっと握り、押し寄せる快感に耐えていた。
 ここまでしてもらってて何だが、正直、お嬢さんの前で精を放つことに、まだかなりの抵抗があったのである。
 でも、僕のそんな中途半端な羞恥心は、日差しの前の氷のように消えうせつつあった。
「あ、ああっ……だめ、そんな……」
 僕はそんな声を漏らしながら、かぶりを振っていた。
 二人の唾液でぬるぬるに濡れた僕のシャフトを、ミミコがやさしくしごきだしたのだ。
 二人の唇は、左右から僕の亀頭にぴったりと吸いつき、舌先が、雁首や鈴口など、感じるポイントを的確に責めている。
 二人とも興奮しているのか、目元をぽおっと染めて、ふんふんと可愛く鼻で喘いでいた。
「ああッ!」
 びくっ、と僕の体が痙攣した。
 お嬢さんが、僕のお尻の間に、その細い指先を潜りこませたのである。
 そしてお嬢さんは、スラックスとトランクスの布越しに、僕の肛門の周辺をくすぐり始めた。
「そんな、そんなの、されたら……ンああああッ!」
 背筋がぞくぞくするような感覚に、僕は、女のコみたいな声をあげていた。
 そして、びゅうううっ、と音をたてそうな勢いで、僕のペニスが精液をほとばしらせる。
「んにゃッ?」「きゃはっ♪」
 ミミコとお嬢さんの嬌声が、薄暗い研究室に響く。
 そんな声を聞きながら、僕は、何度も何度もペニスをしゃくりあげさせながら、精を放ち続けた。

 僕は、荒い息をつきながら、リノリウムの床に座りこんでいた。
 ずっと前方に、僕の出した白濁液が落ちている。自分でも呆れるような飛距離だ。
「脱がしちゃお、ミミコちゃん♪」
 不意に、お嬢さんが言った。
「はぁイ」
 ミミコが、明るく返事をする。すっかり三人ですることに対する抵抗感をなくしてしまったようだ。尻尾まで、嬉しげにくねっている。
「ちょ、ちょっと待って……!」
 僕の制止の言葉などお構いなしに、ミミコとお嬢さんは、競うようにスラックスとトランクスを剥ぎ取った。
 上半身はそのまま、下半身だけ、裸にされた格好である。なんだか、すごくみっともない。
「ふふふっ」
 お嬢さんは、妖しく笑いながら、僕の顔に、その整った顔を寄せてきた。
「ミサちゃん……」
 そして、僕の首筋を、その柔らかな唇でなぞる。
 そうしながらも、お嬢さんは、僕の右腕に抱きつきながら、その白い指先で僕のペニスをそろそろと撫で上げた。
「あ……」
 押し倒されるように床に横たわりながら、僕は情けない声をあげる。
「マスター……ミミコも、するですゥ」
 そんなことを言いながら、ミミコも僕の顔にむしゃぶりついてきた。
「あ、あ、あんんんん……」
 短く声をあげ続ける僕の口を、ミミコがキスでふさぐ。
 そして、ミミコは左側から、お嬢さんと一緒になって僕のペニスにイタズラを始めた。
 二人の手に弄ばれ、さっきしたたかに放ったばかりの肉茎が、次第に勢いを取り戻していく。
「ね、ミサちゃん……あたしにも……」
 ひそひそと耳元で、お嬢さんがささやいた。
 そして、僕の手を太腿で大胆に挟む。
 僕は、ミミコとお嬢さんに頬や首筋、耳たぶなんかを舐められ、陶然としながら、もぞもぞと右手の指先を動かした。
 薄いショーツの布越しに、軽く掻くようにして、お嬢さんのアソコを刺激する。
 そこは、すでに熱くなっており、じっとりと湿っているようだった。
「あ……ンン……んふ……はぁッ……」
 お嬢さんの濡れた吐息が、僕の耳をくすぐる。
 僕は、右手を休めないようにしながら、左手をミミコの股間に差し入れた。
「にゃうッ?」
 僕の顔を舐め回すことに没頭していたミミコが、驚いた声をあげる。
「あ、マ、マスター……あ、あァン……んく……んんンッ」
 たちまち、ミミコの声も官能に染まっていく。
 僕たち三人は、互いの敏感な部分をまさぐりながら、舌を伸ばし、絡め合った。
 いつしか、僕は二人のショーツの中に手を差し込み、じかにアソコを愛撫していた。指に絡みつく濡れた粘液の感触が気持ちいい。
 ぷにゅぷにゅしたその部分と僕の指先が、とろとろと溶けてくっついてしまいそうな錯覚を覚える。
 二人とも、僕の腕や体に、自分の胸を押しつけ、こするようにしながら、快感を貪っていた。
 ブラはずれ、ショーツはずり落ち、もう全裸とほとんど変わらない状況だ。
 僕のペニスをなぶる二人の手の動きも、ますます大胆になっていく。
 僕のアレはみっともないほどに先走りの汁を溢れさせ、二人の手をぬるぬるに汚していた。もし、さっき一度放出していなかったら、僕はあっけなく絶頂を迎えていただろう。
 しばらくは、僕たち三人の喘ぎ声だけが、研究室の中に響き続けた。
「ミミコちゃぁん……」
 何度目かの、三人いっしょのキスのあと、お嬢さんが舌足らずな声で訴えた。
「ミミコちゃんのマスターのアレ、先にもらっちゃっていい?」
「涼香、さン……」
 そう言うミミコの目はとろんとしていて、どこか空ろだ。
 その空ろな顔のまま、ミミコが、仕方なさそうにこっくりと肯く。
「うれしい……♪」
 そう言いながら、お嬢さんはゆっくりと体を起こした。
 スレンダーな、均整のとれた体だった。ミミコほど大きくはないけど、上向きの形のいい乳房の頂点で、乳首が痛々しいくらいに尖っている。
「ミサちゃん……」
 僕の顔をじっと見つめながら、お嬢さんは、片方の脚にショーツをまとわりつかせたまま、仰臥した僕の腰を膝でまたいだ。
 繊細な若草の茂みの奥で、肉の花園がきらきらと愛液を溢れさせているのが分かる。
 お嬢さんは、急角度で上を向いた僕のアレに手を添えながら、ゆっくりと腰を落としていった。僕の隣で、ミミコがはっと息を飲む気配がする。
「やっとあたし、ミサちゃんと一緒になれるんだ……」
 そう言いながら、お嬢さんは、柔らかな肉襞で僕の亀頭を柔らかく包みこんだ。
 さらに、お嬢さんが腰を下ろしていく。僕のシャフトが、お嬢さんの中をこすりあげながら侵入していく感覚に、ぞくぞくと体が震えた。
「ああァ……っ」
 ミミコが、僕とお嬢さんのたっぷりと濡れた結合部分を見ながら、切なげな声をあげる。
 とうとう、僕のペニス全体が、お嬢さんの中に収まった。
「はぁ……ん」
 お嬢さんが、うっとりと目を閉じて、声をあげる。
 ヘンな話だけど、そこは、ミミコの内部とほとんど同じ感触だった。ただ違うのは、驚くほど熱いことだ。
 その熱さえも快感に変わり、僕の腰の辺りにじわじわと浸透していく。
 お嬢さんが、ゆっくりと腰を動かし出した。
 その、ひきしまった小ぶりなヒップを、いやらしく前後にゆする。挿入部分は外からは見えないけど、ぶちゅっ、ぶちゅっ、という淫猥な音が、その部分から響いた。
 粘膜同士が摩擦しあい、濡れた快楽がそこからつむぎ出されていく。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……」
 こらえられなくなったように、お嬢さんが短く喘ぎ始めた。
 そんなお嬢さんの様子を、頬を赤く染めたミミコがじっと見つめている。
「……ミミコちゃんも……いっしょに……ね……」
 ちろっ、と自分の唇を舐めながら、お嬢さんが言った。
「え、でも、どうやっテ?」
「お口で、してもらったら?」
 問いかけるミミコに、妖しく微笑みながらお嬢さんが答える。
「で、でもォ……」
 もじもじと、ミミコが体をゆする。
「いいよ、ミミコ。来て……」
 僕は、精一杯優しく、ミミコに呼びかけた。
 しばし逡巡した後、ミミコは、恥ずかしそうに肯いた。
「ゴメンなさい、マスター……」
 そう言いながら、ミミコはショーツを脱いで、膝で僕の頭をまたいだ。
 すぐ目の前に、透明な液をたたえたミミコのピンク色のあそこが迫る。
 なおも、僕の顔に股間を押しつけるのをためらうミミコの白く丸いお尻を、僕は両手で捕まえた。
「ンにゃにゃッ?」
 驚いた声をあげるミミコのお尻を引き落とし、濡れそぼるそこに口を押しつける。
「ンああああああッ!」
 ぢゅぢゅぢゅっ、と音をたててその部分を吸うと、ミミコの体がぴくンと可愛く痙攣した。
 僕は、夢中になってミミコのそこを舐めあげた。ペニスをお嬢さんの膣肉に柔らかく締め付けられているため、僕の愛撫にも余裕はない。
「あ、ンあああああ、はう、んんんンンン〜ッ!」
 高い声をあげて喘ぐミミコの膣口に鼻をうずめ、肉の突起を舌でなぶる。
「気持ちイイ? 気持ちイイの? ミミコちゃん」
 声を上ずらせながら、お嬢さんが訊いた。その腰の動きはますます速まり、着実に僕を追い詰めつつある。
「イイ……ですゥ……あ、ダメ、そんなに、しちゃ……ッ!」
 つるつるしたミミコのクリトリスを口に含むと、ミミコはますます大量の愛液を分泌させた。
 どうにか僕の頭に体重をかけまいとしていたミミコの脚から、力が抜けていく。でも、ミミコの小さなお尻が顔に押しつけられる感覚は、なぜか、すごく気持ちがよかった。
「あ、ンああああッ! ミ、ミサちゃん、ミサちゃぁん!」
 お嬢さんも、なんだか泣き声みたいな声をあげている。
 いつのまにか僕は、下から腰を突き上げ、お嬢さんの細い体に強い動きを送りこんでいたのだ。
「あ、ス、スゴい……ミサちゃんのが、ミサちゃんのが中でぐりぐりしてるよ〜ッ!」
 お嬢さんらしからぬ、幼く、頼りない声に、僕はますます興奮していた。
「スゴい……あ、あたし、スゴく、感じちゃってるぅ……ッ」
「ミミコも、ミミコも気持ちイイですゥ……にゃ、はァ〜ン」
 二人の可愛らしい喘ぎ声に、ぬちゃぬちゃという粘液質な音が混じり合う。
「あ、あン……んむ……んんんんン……」
 と、ミミコとお嬢さんの声が一つになった。
 どうやら、二人が互いに唇を重ねているらしい。んふーっ、んふーっ、という余裕のない鼻声が、かすかに聞こえる。
 僕は、ミミコの中に強引に舌先をねじ込み、そして、思いきり腰を突き上げた。
「ンはあああああッ!」
 ぴちゃぴちゃと舌を絡ませあっていた二人が、衝撃で口を離した。
 見ると、互いの体にすがりつくように、互いの肩に顔を寄せ、悩ましげにはァはァと喘いでいる。
 僕を組み敷いているはずのお嬢さんとミミコが、なんだか、妙に可愛らしく見えた。
 別々のものだったはずの二人への想いが一つに溶け合い、その熱い塊に突き動かされるように、二人を下から責める。
「ン、んううううううッ! ダ、ダメ、ダメえェっ! ミサちゃん……あ、あたし、イク、イクの、イクう……っ!」
「ンあ、あァーッ! ミミコも、ミミコもイっちゃいますゥ……あ、あアアアアアッ! んにゃあああァ〜ッ!」
 僕の体の上で、お嬢さんの細い体と、ミミコの小さな体が、びくびくと痙攣を始めた。
 その動きに、僕自身も限界に追いこまれる。
「あッ!」
 どぴゅううっ! と最初の一撃が、お嬢さんの体内深いところをしたたかに叩いた。
 そして、大量の熱い精液が、重力と、そしてお嬢さんの膣肉の締め付けに逆らって、びゅるびゅると僕のペニスから迸る。
「あアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!」
 これは……誰の声だろう……
 ミミコが漏らす熱いしぶきを陶然と顔で受け止めながら、僕は、ぼんやりとそう考えていた。



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