第5章



「ほら、乗った乗った乗った!」
 運転席から身を乗り出すようにして、涼香お嬢さんが言う。
 僕は、遊園地の敷地と駐車場を隔てる柵を苦労してまたいで、お嬢さんが運転するミントグリーンの車に乗りこんだ。今のミミコを背負ったこの姿を、あまり人に見られたくない。
「まったく、いきなり遊園地に呼び出されたかと思ったら、これだもんなあ」
 そうぼやきながら、お嬢さんはいささか乱暴に駐車場から車を発進させた。そして、後部座席の僕と、その膝の上のミミコをちらちらと見る。
 ミミコの服は血まみれだし、僕も、多分、顔中あざになっているはずだ。メガネもレンズが欠けてしまっている。
「何があったのさ?」
「お、お嬢さん、前! 前!」
 右車線を走る僕たちの乗った車の正面に、大型トラックが迫る。ぎゃきゃきゃ、とかいうすごい音をたてて、お嬢さんはトラックを避けた。間一髪である。
「あー、日本は、左側通行だっけ?」
 アメリカで免許を取ったお嬢さんが、澄ました声で言った。
「お嬢さ〜ん」
「んな泣きそうな声出すなよー。――で? 何があったの?」
「実は……」
 僕は、電話では話せなかった詳しい話を、お嬢さんにした。
「ミサちゃんはどーして、そんな寂しい場所に、ミミコちゃんと二人きりだったのさ?」
「……」
 お嬢さんの当然の問いに、僕はちょっと言葉に詰まった。
「あ、はん。そーいうことか」
 しばらくして、お嬢さんが言う。何だか、ちょっと怒ったような声だった。
「ところで、その三人のチンピラさんは、死んじゃったの?」
 お嬢さんが、ややあぶなっかしくステアリングを切りながら、すごいことを聞いてくる。
「だいじょぶ、だと思います。電話で係員も呼んでおいたし」
 本当は、あんなヤツらどうなっても知ったことじゃない、とは思ったんだけど、人死にが出ると、話が大きくなる。
「いっそ、死んでくれた方がよかったかもなー」
 黄色信号を強引に突破しながら、お嬢さんが言った。
「……死人に口無し、ですか?」
「あんまり状況は変わらないかもだけどね……。どうせ、指紋とかばっちり残してきたんだろー?」
「さすがに、そこまで間抜けじゃないです」
 決め付けるお嬢さんに、僕は言う。
 しかし、あの鼻ピアスの男の腹に刺さっていたナイフの柄の指紋をぬぐうのは、ひどく気味の悪い作業ではあった。少なくともその時は、鼻ピアスは生きてはいた……今現在は、どうだか分からないけど。
「あ、そう……。で、高飛びの準備、しとく?」
 お嬢さんは、本気とも冗談ともつかない口調で言った。



 僕は、家の前でお嬢さんと別れた。
 お嬢さんはまだ何か言いたげだったが、これ以上巻きこむわけにはいかない。
「貸しにしとくからね」
 そう言って走り去るお嬢さんの車を見送った後、僕は、家に入った。そろそろお茶の時間だが、さすがに、そんな気にはなれない。
 とりあえず、僕は、ミミコの体をお風呂で丁寧にぬぐった。
 返り血でタオルが真っ赤になる。これも、ミミコの服と一緒に、あとでまとめて焼却しなければならない。
 メンテナンス・ベッドにミミコを寝かせ、オーバーホールの為に両手両足を外した。そして、各パーツごとに、診断プログラムを走らせる。
 ――ミミコが、格闘用クローで人を傷つけた。それも、ほとんど殺意をもって。
 一応、マスターである僕を守ろうとしての行動だったのかもしれないけど……あれは、明らかに“暴走”だ。
 ミミコのプログラムには、明らかに異常がある。それを、認めないわけにはいかない。それに、“暴走”して人を傷つけるようなアンドロイドは――強制廃棄される。
 ミミコをそんな目に合わせるわけにはいかない。
 しかし、ミミコはなぜ、あのスーツの男の人にまで襲いかかったんだろう?
 確かに、あの人はトイレのすぐ外にいた。だが、別に僕やミミコに敵対的な行動をしていたわけではなかったはずだ。ただ、電話をかけていただけ。
(ミミコは、その電話の内容を傍受したんだろうか? そして……それが、僕たちにとって、よくない内容だったのか……?)
 アンドロイドには、様々な状況に対応するために、電波送受信機能なども備えられている。でも、人様の電波を受信するようなことは、普通はしないはずだ。盗聴になっちゃう。
 しかし、ミミコは、そういったアンドロイドに対する一般的な規制とは無縁の存在のようだ。
 と、ここでようやく、僕はあの人が落とした携帯電話をネコババしたことを思い出した。
 ミミコの診断にはまだかなり時間がかかる。僕は、あの携帯電話について調べることにした。

 学生時代、面白半分で裏ルートから入手した情報分析ツールが役に立った。それに、僕らアンドロイド技術者にとって、携帯電話のセキュリティ・コードなんて無いも同然だ。
 サカキ・マモル――それが、あの人の名前らしい。
 漢字では、榊衛だ。
 外見通り、まともな職種の人ではないようである。携帯に記録されてる番号も、怪しげな土建屋や金融業、風俗店などがほとんどだ。
 師匠は、そんな人に追いかけられていたのか。
 しかし、いったいなぜだろう?
 僕は、榊さんの携帯に記録されていた個人や事務所のリストを眺めながら、ぼんやりと考えた。
 一別以来、師匠とは連絡が取れていない。お嬢さんもそうらしい。
 と、あるお店の住所が、僕の目に飛び込んできた。
 これは……僕の職場の近く、そして、ミミコが捨てられていた繁華街の住所だ。お店の名前は、『ドールハウス』。
 試しに電話をかけてみたら、アンドロイドにかなりいかがわしい“接客”をさせる、最近流行りのタイプの風俗店らしい。
 僕は、ちょっとイヤな気分になりながら電話を切った。
 そして、ちょうどミミコを拾った頃に耳にした噂を思い出した。あの繁華街で、暴力団同士の抗争で人死にが出たという噂を、だ。
「……」
 ミミコの診断状況を確かめた。まだ、数時間はこの状態にしておく必要がある。
 このままミミコを置いて外出するのは、正直、かなりためらわれた。しかし、このまま家でぼんやりしているわけにもいかない。
 僕は、作りかけてほったらかしになってたアンドロイドの電子頭脳に、家の要所要所に設置した監視カメラ代わりの視覚センサをつないだ。さらに、何か異変があったときは、僕の携帯電話に信号を飛ばすよう、即席でプログラミングする。
 そして僕は、いくつかの道具をポケットに忍ばせて、そっと家を出た。



 『ドールハウス』の中は、桃色のもやに包まれているようだった。
 騒がしい音楽に、薄暗い照明。ソファーの低いボックス席で、男どもに半裸のアンドロイドがしなだれかかっている。
 ここで、お酒なんかを呑みながらアンドロイドの品定めをし、“相手”が決まったら、奥の個室に連れ込む、というのが、このお店のシステムらしい。
 僕の横に座って、何やら甘たるい飲み物を作ってくれているのは、明らかに量産品の、ロングヘアのアンドロイドだった。年齢設定は、僕と同じくらい。かなり布地を節約した赤いレオタードと編みタイツをまとい、ウサギの耳を模したパーツを頭につけている。
「お代わり、いかがですカ?」
 ユミと名乗ったそのコの動きは、どこかちょっとぎこちない。もともと、ミミコほど手をかけて作られてないから、というのもあるんだろうが、整備不足が一番の原因だろう。
 白状するなら、こんな店に入ったのは始めてである。アンドロイドの観察でもしてなければ、とても冷静さは保てない。
「い、いや、もういいです」
 緊張して、敬語を使ってしまう。僕が頼んだのはソフトドリンクのはずなのだが、なんだか頭がくらくらした。
 雰囲気に飲まれてしまったのか……それとも、飲み物に何か入っていたのか。
「それじゃア……」
 ユミが、僕の右膝にまたがるようにしながら、両腕を首に絡めてくる。
「奥に、行きますカ?」
 そう囁くユミの声はちょっとアクセントがおかしかったけど、吐息は人間のように温かい。
 僕は、ユミの動きよりさらにぎこちなく肯いた。

 ユミは、僕をベッドとユニットバスがあるだけの、簡素な部屋に案内した。
 これが、僕の頼んだ“エコノミー・コース”のための部屋らしい。もし、もっと上のコースを頼めば、それなりの部屋に連れてかれるのだろう。
 思わず、きょろきょろと辺りを見回してしまう僕の前に、ユミが回りこんできた。
「緊張してまス?」
 微笑みながら彼女は言い、僕の肩に両手を置いた。その手の平の温度が、すごく熱く感じられる。
「ん……!」
 不意に、唇を奪われた。
 かあっ、と頭に血が昇る。体中から力が抜けそうだ。
 間違いない。あの飲み物には、合法ドラッグか何か、興奮剤のたぐいが入っていたのだ。動悸が不自然なほど早くなり、血液が急速に下半身に集まってくる。
 僕は、脳髄を痺れさせるユミのキスに、ほとんど前後不覚になりかけた。
 このまま彼女をベッドに押し倒し、自らのいきり立ったモノを乱暴に挿入したくなる。
 ふと、脳裏に、ミミコの顔が浮かんだ。
(いけない……!)
 僕は、そっとユミの両耳にあたる部分に手を添えた。あらゆるアンドロイドの規格通り、そこは頭部のメンテナンス・ハッチになっている。
「エ?」
 不思議そうな顔をするユミのメンテナンス・ハッチを、素早く開ける。
「ダメ……!」
 そして、悲鳴をあげかける彼女のコネクタに、隠し持っていたツールから伸びるジャックを突き刺した。
「ン……ッ!」
 びくッ、とユミの体が硬直する。僕が持ってきた非合法のツールが、彼女の電子頭脳に無理やりコマンドを流し込んだのだ。
 ぶううううう……ン、と奇妙な音を立てながら、ユミは体を細かく振動させる。
 僕は、ユミのコネクタにケーブルでつながった、ちょっとトランシーバーに似たそのツールを操りながら、ユミをベッドに導いて座らせた。
「ごめんね……すぐ済むから……」
 思わずそう言ってしまうが、ユミの電子頭脳には、僕の言葉の意味は正確には伝わっていないはずだ。
 僕は、ツールの、トランシーバーで言えば通話口に当たる部分に顔を寄せ、そっとつぶやいた。
「僕の言うこと、分かる……?」
「――ハイ、理解デキマス」
 さっきまでとは比べ物にならないほど機械的に、ユミは答えた。
「僕は、今、君のマスター権限を有している……」
 頭のくらくらや、心臓のどきつきは、いっこうにおさまらない。僕は、じっとりと額に汗をにじませながら、どうにか話を続けた。
「ハイ、アナタハ私ノますたー権限ヲ有シテイマス」
「これから……僕が、いくつか質問をするけど……その質問内容は、回答の直後に記憶から消去すること……いいね?」
「ハイ、質問内容ハ回答ノ直後ニ記憶カラ消去シマス」
 ともすれば、ユミの言葉よりも、彼女の胸の谷間や、すらりとした脚に注意が行きそうになってしまう。ああ、あんなモノ、飲むんじゃなかった。
 でも、次があるとは限らない。
 僕は、湧きあがる欲望にばらばらになりそうな考えをどうにかまとめながら、質問を始めた。



 よくまあ、無事に帰れたものだと思う。
 それくらい、僕はあの甘たるい薬に頭を浸食されていた。
 もともと、体質的に、あまり薬には強い方じゃない。僕は、顔を火照らせ、みっともなく突っ張った股間を前かがみになって隠しながら、どうにか電車とバスを乗り継いで、家に帰ったのだ。
 時間が経っても、いっこうに薬の効果はおさまらない。それどころか、ますます強くなってる感じだった。
 こんなふうになるんだったら、ユミに相手をしてもらった方がよかったかもしれない。しかし、それだけはどうしてもできなかった。
 ユミに聞いた話の断片が、ぐるぐると僕の脳みそを撹拌している。まるで、頭の中がどろどろのシチューになったような感じだ。
 無論、考えのまとめようが無い。僕は、洗面所で思いきり水をあおり、そのほとんどを吐き出した。
 濡れた顔を袖でぬぐいながら、奥の工房に向かう。
 ミミコの診断プログラムは、すでに終了していた。無論、モニタやプリントアウトを確認するだけの余裕は、今の僕には無い。
 僕は、ほとんど衝動的に、まだ手足が外された状態のミミコのシステムを起動させた。
 暗い工房に起動音が響き、ミミコのカールした長いまつげが震えて、そして、おっきな目が開く。
「アレ……? マスター?」
 ミミコは、四肢がまだ接続されていないことにとまどったように、首を巡らせた。そして、僕の姿を認め、ほにゃ、と安心したような笑顔を見せる。
 設定年齢相応の……いや、それ以上に幼い、無邪気な表情。
 いけない、と僕の中のわずかに冷静な部分が思ったときには、その気持ち自体が消し飛んでいた。
「んにゃ……ンうッ?」
 僕は、自由の利かないミミコの体を、思いきり抱き締めた。
「い、いた……マスター?」
 僕は、うろたえた声をあげるミミコの胸に、荒い息をつきながら顔をうずめた。そして、左手でミミコの胴を支えながら、右手でその豊かな膨らみを乱暴に揉みしだく。
「あウ……いた……いたぁイ……」
 ミミコが、辛そうな声をあげると、なぜかますます頭の中が熱くなる。
 僕は、ミミコの乳房に、歯型が残るくらいきつく噛み付いた。
「ンにゃあああああーッ!」
 ミミコが、高い悲鳴をあげる。
 それが、まるで悪魔の奏でる極上の音楽のように、僕の心を揺さぶった。
 桜色の、その乳房の大きさに比べるとひどくつつましやかな乳首を順々にきつく吸い上げた後、両手の指でひねりあげる。
「いたァ! イタイ、イタイ、イタイ〜ッ!」
 ミミコの苦痛の声を聞くだけで、僕のズボンの中のそれは、射精してしまいそうになった。
 すでに、先走りの汁が、トランクスをかなり濡らしてしまっている。
「マ、マスター……どうしてェ?」
 ミミコは、ぽろぽろと涙をこぼしながら、潤んだ瞳で僕を見つめた。明らかに、その表情の中に怯えの色がある。
 僕は、ミミコを乱暴にメンテナンス・ベッドの上に投げ出した。
「きゃン!」
 四肢の無いミミコは、受身をとることもできない。僕は、そんなミミコのことを見下ろしながら、ズボンとトランクスを脱ぎ捨てた。
 そして、ベッドの傍らに立ち、ミミコの頭を乱暴に抱えるようにして、浅ましく静脈を浮かしたペニスをその可愛らしい口元に押しつける。
「マスター……あぶッ」
 何か言いかけたミミコの唇を、いきり立った肉棒で強引に塞ぐ。
「ン、ン、んんんッ」
 僕は、苦しげにうめくミミコの口内に、それをぐいぐいと侵入させた。先端が、ミミコの喉奥に当たる感触がある。
 僕は、柔らかく、そして生温かく濡れたミミコの口腔を、ペニス全体で味わった。
 そして、ほとんど身動きができないミミコの頭をゆさぶるようにしながら、腰を前後に動かす。
「ン! んぶぶッ! んグ! ん〜ッ!」
 ミミコは、辛そうに眉根を寄せ、目をぎゅっと閉じて、涙をこぼしている。それでも、僕のシャフトに歯を立てないようにしているのが、すごくいじらしい。
 僕はますます興奮して、無茶苦茶に腰を動かし、ミミコの小さな口を犯した。
 ぞくぞくするような快感が背筋を走り、ペニスの根元に熱い欲望がこみ上げてくる。
「んぶッ! ぶ! んううッ! んくゥ!」
 僕の容赦の無い抽送に合わせるように、ミミコはくぐもった声をあげ、口の端からだらだらとよだれを溢れさせた。
 まるで犬のように息を荒げながら、僕はミミコの口を犯し続けた。
 ぶちゅぶちゅという湿った音が、ミミコの声に重なる。
「……ッ!」
 このまま、いつまでもこの快感を貪っていたいという浅ましい思いが、溜まりに溜まった精液に突破された。
 呆れるほど大量の精液が、僕のペニスの中を駆け抜ける。
「ンあッ!」
 僕は、短く声をあげて、ミミコの頭を自分の股間に強く押しつけていた。
「ンぶぶぶぅッ!」
 ミミコの喉の奥をしたたかに叩いた白濁液が逆流し、その口元から、大量の唾液とともに溢れる。
 僕は、ゆっくりと腰を引いた。ミミコの唾液と自らの精液に濡れた僕のペニスは、まだびくびくとしゃくりあげ、その度に汚穢な粘液を吐き出しては、ミミコの顔をどろどろにしている。
「んえッ、ええッ、えッ……けほっ……んくッ……ううゥ……」
 ミミコが、泣き声をあげながら、口内にからみつく粘液を吐き出している。
 メンテナンスベッドの上に、ちょっとした水溜りができるほどの、大量の液だ。
 それだけの精を放ったにもかかわらず、僕のペニスは、いっこうに勢いを衰えさせていない。
 僕は、ベッドの上に上がり、膝立ちになって、ミミコの細いウェストを抱えあげた。
「あ……イヤ、ですゥ……」
 始めて聞くような、ミミコの拒否の言葉。
「ひどい、でス……こんな……こんなの……いやァ……」
 涙に濡れたその声は、ひどく弱々しく、頼りない。
 僕は、そのミミコの言葉に、おそらく薄笑いを浮かべたと思う。その表情のまま、熱くたぎったままのペニスを、ミミコのあそこに押し当てる。
 ミミコのそこは、まだ、ほとんど潤っていない。
「おねがい、ですゥ……マスター……」
 ミミコの哀願に、ますます胸がざわめき、頭の中を血液がすごい勢いで旋回する。
 僕は、四肢が無いせいでいつも以上に軽いミミコの体を持ち上げるようにして、強引に自らの欲棒を侵入させた。
「にアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
 ミミコが、絶望に満ちた高い声をあげる。
 精液と唾液でどろどろに濡れているはずの僕のペニスは、きつい抵抗を感じながら、ミミコの膣肉を掻き分けていった。
「あいッ! あ! ンあああ! にゃああああああッ!」
 ミミコが、芋虫のように身をよじって、悲鳴を振り絞る。
 しかし、ミミコは、僕を押しのけることも、蹴り飛ばすこともできない。
 そんな無力なミミコを犯しているんだという感覚に、僕の視界はほとんど真っ赤に染まった。
 興奮のあまり、頭の血管が切れそうだ。
「んぐッ! ひッ! ンいいッ! はッ! あああああああッ!」
 ミミコが、ふるふると首を振りながら、身悶えている。その度に、その大きな胸がゆれ、涙と涎と精液に汚れた可愛らしい顔に、髪の毛がまとわりついた。
 痛みを覚えるほどの快感を感じながら、いきり立ったペニスでミミコの靡肉を蹂躙し、雁首で粘膜をこすり上げる。
 かつてないほどの征服感に、僕は夢中になっていた。
 その一方で、この、自分が今思うさまに犯しているミミコを、他の誰かが抱いたのだという意識が、ますます僕の欲望を狂暴にさせる。
「ああ、あ、あ、あァ、ああああああ……」
 もはや、力なくそう声をあげつづけるだけのミミコを、僕は抱き起こした。
 そして、その髪を乱暴につかみ、噛みつくようにキスをする。
「んぐゥ……」
 弱々しくうめくミミコの口の中に、奇妙な衝動に突き動かされるまま、唾液を注ぎこむ。
「んく……んく……んく……んく……」
 腕の中のミミコが、ほとんど無意識のまま、僕の唾液を飲みこんでいるのが伝わってくる。
(ミミコは……ミミコは、僕のものだ……!)
 泣きたいような気持ちで、そう思う。
 僕は、膝立ちのまま、頭と胴体だけのミミコを抱えあげ、激しく上下に揺さぶった。
「はわァ! あ、ンあ! あ! ああア……にア! ひああッ!」
 かくン、かくンと、文字通り壊れた人形のように頼りなく首を振りながら、ミミコが声をあげる。
 もう、それが、苦痛を訴える悲鳴なのか、快感を感じての媚声なのかさえ、どうでもよくなってきた。
 ただ、僕が犯していることでミミコが声をあげているということに、尋常でない興奮が高まっていく。
 僕は、半ば彼女の体を壊すようなつもりで、思いきりミミコを抱きしめ、ペニスを彼女の体内に突き込んだ。
「にゃ……………………ッ!」
 ミミコが、声にならない絶叫を上げた。
 びくびくびくッ! と、腕の中の小さく軽い体が震える。
「あああああああッ」
 僕は、悲鳴のような声をあげながら、熱い精液をミミコの中に注ぎ込んだ。
 僕のペニスを食いちぎらんばかりに締め上げてくるミミコの膣肉に逆らって、大量の精液が、輸精管を走り、亀頭の先端からほとばしる。
 血の色一色だった視界が、真っ白になった。
 しかし、薬のせいか、ペニスはびくびくと何度も律動し続け、ミミコの体内に精を撃ち込み続ける。
 僕は、ミミコの体を抱き締めたまま、がくがくと体を痙攣させた。
 そして、がっくりとベッドの上に仰臥する。
 その状態でも、僕のペニスはしばらくミミコの体内にあり続け、びゅるびゅると精液を吐き出し続けた。
 胸の下で、ミミコの大きなおっぱいが形を変える感触だけが、妙に鮮明だった。
「あ……」
 しばし忘れていた呼吸を、再開する。
 ぴくりとも体を動かしたくないような疲労感と倦怠感が、全身を覆っていた。まるで、体中が鉛になってしまったかのようである。
 そして、僕は、両手両足を外された状態のミミコに覆い被さったまま、意識を失ってしまったのだった。



 僕は、はッと体を起こした。
 まるで、悪夢から覚めたばかりのように、全身から冷たい汗が吹き出す。
 しかし、それは悪夢ではなかった。
「うゥ……ひっ……ひっく……んえ……ふえェ……」
 ミミコが、涙をこぼしながら、嗚咽を漏らしている。
「あ、あ、あ……」
 僕は、馬鹿のように声をあげながら、のろのろとベッドから降り立った。
 脚が、がくがくと震える。そのままへたり込んでしまいそうだった。
(僕は……何てことを……)
 そんなことを考えても、今更遅い。僕は、体の自由の利かないミミコを、さんざんに犯してしまったのだ。
 この場から、声を出して逃げ出してしまいたい衝動に駆られる。
 僕は、それに必死で耐え、机の上に置いてあるミミコの手足を、のろのろと取り上げた。
 そして、かたかたと歯が鳴るのを必死で噛み殺しながら、ミミコの四肢を接続していく。
「ご……ごめん……ごめんね……ごめん……」
 謝って許されるとは思わないが、それでも謝らずにはいられない。
 思うように動かない手で、それでもできるだけ丁寧に、マニュアル通り、左足、右足、左手、右手の順に、取り付けていく。
 最後に、手足の動きを司るシステムを再起動し、それが無事に終了したことを確認したところで、僕はメンテナンスベッドに突っ伏した。
 もう、謝ることすらできない。
 この場から消えて無くなりたかった。
「マ、マスター……」
 ちょっとしゃくりあげながら、ミミコが、ささやくように言った。
 そっと、ミミコの手が僕の髪に触れる。
 いっそ、このままミミコの爪で切り刻まれてしまいたい気持ちだ。
「マスターの、バカ……」
 そう言いながら、ミミコが両手で僕の顔を起こす。僕は、逆らわない。
 すごく哀しそうな目で、ミミコは、僕の顔を見つめた。
「マスター……あたし、そんなに頼りないですカ?」
「……え?」
 予想外のミミコの言葉に、呆けたような声をあげる僕の頭を、ミミコはその細い両腕でぎゅうっと抱き締めた。
「あ……」
 柔らかなミミコのおっぱいの温もりが、僕の顔を包む。
「あたし……失敗ばっかだし……ドジだし……物覚え悪いし……記憶も、無くしてるけど……マスターのこと、こうやって抱き締めることくらい、できまス……」
 ぽた、ぽた、と、僕の頭を熱い雫が濡らした。ミミコの、涙だ。
「あたし、こんなことしかできないけど……でも……辛いときは、言ってくださイ……。あたし、マスターがどんなふうになっても……こうやって……抱き締めて、あげたいんでス……」
 いつしか、僕も涙を流していた。
 人前でこうやって泣くのは、何年ぶりだろう。
「ミミコ……でも、ぼくは……」
「何も言わないで、マスター……」
 この期に及んでも何か繰り言を言おうとする僕のことを、ミミコは優しく押し止めた。
「マスターは、何があっても、ミミコのマスターでス……ミミコの、たった一人の……」
 その後は、よく聞き取れなかった。
 僕は……そのう……ミミコの胸の中で、まるで子どものように泣きじゃくってしまったのだ。
 そんな僕の頭を、ミミコは、ずっと優しく撫でてくれた。
 僕が、泣き疲れて眠ってしまうまで……。



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