第1章
僕は、家に帰る電車の、ホームのベンチに座り、師匠に携帯電話をかけた。
師匠の名は、猪俣金司。死んだ父に続いて、僕にアンドロイド工学に関する基礎をみっちりと叩きこんでくれた、尊敬すべき人だ。
「はーい、もしもしィ」
と、明るい女のコの声が、僕の耳に響く。
「あ、涼香お嬢さんですか?」
「あたしのこと、“スズカおじょーさん”なンて呼ぶのは……あー、ミサちゃんね!」
師匠の娘である彼女、猪俣涼香さんは、なんだか嬉しそうな声で、僕に呼びかけた。
僕の名前は確かに近衛操だけど、“ミサちゃん”と呼ばれるのは、ちょっと抵抗がある。
「全く、ロクに連絡もよこさないで、この薄情モン」
「えっと、すいません……。師匠、いますか?」
「え? 親父っ? いないよォ」
あっけらかんと、お嬢さんは答える。
「久しぶりに帰ってきたら、家はもぬけの殻。その上、しっちゃかめっちゃかに散らかってるんだもん。今日までずーっと掃除してたんだ」
「そうですか……」
「何だか、借金取りに追われてるみたい。相変わらずだからねー」
僕は、小さくため息をついた。師匠の腰が落ちつかないのはいつものことだ。
「親父に何の用?」
「えっと、実は……」
僕は、膝の上に抱えてる彼女を見ながら、いきさつを話した。
「おんもしれーっ!」
涼香お嬢さんの反応は、予想通りだった。
「それで、ミサちゃん、親父の力借りてソレを再起動しよっての?」
「え、ええ……幸い、頭部は見たところ無傷みたいなんで、行けるかもしれないと思って」
「ね、ね、それ、あたしに手伝わせて!」
お嬢さんは、すごい勢いでまくしたてた。
「親父なんかに頼るより、その方がぜってー確実だって! それに、日本じゃおとなしいパーツばっかで、全然冒険できないんだもん」
お嬢さんは去年の秋まで、高校を飛び越してカリフォルニアの有名な工科大学に通ってた。専門は、やはりアンドロイド工学。しかも、わずか二年で全課程をマスターしてしまったという、一種の天才だ。
その後、お嬢さんは、日米の大学の研究室に招かれ、ロサンゼルスと東京を行ったり来たりの生活を送っている。アンドロイド関係の特許も幾つか所有しているらしい。
「ところで、ミサちゃん、今どこ? 自分んち?」
「いえ、違います。飲み会の帰りで……」
「お酒飲んでるの? 未成年なのに、不良だア」
確かに、僕は未成年だ。あと一年足らずで、お酒もタバコも合法になるんだけど。
「しょうがないんですよ。職場の付き合いで」
「さらりーまんな言い方だなあ」
「すいません」
思わず、謝ってしまう。
「じゃ、あたし、ミサちゃんち行くからね。引越しはしてないんでしょ」
「は、はい……」
僕がきちんと返事をしないうちに、お嬢さんはこの件に一枚かむことに勝手に決めてしまったらしい。
でも、それはそれで頼りになるはずだ。何となく釈然としない思いを抱きつつも、僕は、自分が帰宅できそうな時刻をお嬢さんに教えた。
「こんばんはー!」
深夜にしてはちょっと元気過ぎる挨拶に、古い平屋の一軒家のドアを、僕は開いた。
久しぶりに直接会った涼香お嬢さんは、すっかり綺麗になっていた。セミロングの癖のない髪も、スレンダーな体を包むその服も、けっこう大人っぽい。
普通のコだったら、まだ高校三年生なんだけど、すでにひとかどのエンジニアとして活躍してるという自信が、その整った顔を輝かせてる。
「ひっさしぶりだねぇ! そう言えば、見送りに空港来てもらって以来?」
でも、朗らかなその口調は、年相応のものだった。ちょっと吊り気味の黒目がちの目が、くるくるとよく動くところも。
「ミサちゃん、あんま変わってないね。あ、でも、ちょっと痩せた?」
「そうですか?」
思わず、自分の頬に手をやってしまう僕。
「でも、あいかーらず、可愛い顔だね。女装が似合いそう♪」
「お嬢さん!」
「あっはー、ホントに変わってなぁい。ミサちゃん、あたしより二つもお兄さんなのに、弟みたい♪」
いつものからかいの言葉を言いながら、お嬢さんは僕の家に何の遠慮も見せずに上がりこんだ。でも、そんな屈託無い態度が、逆にホッとする。
「その壊れアンドロイドは、おじ様の工房?」
“おじ様”というのは、父のことだ。
「ええ」
「まだ、片付けてなかったんだね……」
んふふふっ、と悪戯っぽく笑いながら、涼香お嬢さんは、畳敷きの茶の間を突っ切って家の奥に進んだ。僕はそれについていく。
「うわーっ!」
コンクリート敷きの土間になった工房で、アンドロイドのためのメンテナンス・ベッドに横たわる彼女を見て、お嬢さんは子供みたいな声を上げた。
「すんげーっ! ネコ耳ってのが、ちいっとマニアックだけど。でも、なっかなか、作りこまれたボディラインじゃない?」
言いながら、ちら、と僕の方を向く。
「おっぱいもおっきーしね」
「か、関係無いでしょ、そんなコト!」
あけすけな言葉に、思わず顔がかっとなる。
「重量のトータルバランスと、胸部ユニットの耐久性に、大いに関係あり、だよ。でも、ちょっと羨ましいかなあ」
やや薄めの自分の胸を見ながら言った涼香お嬢さんは、再び彼女に目を戻した。
「このコ、オーダーメイドかなあ? 量産品じゃないみたい」
「多分。まだきちんとチェックしてないんですけど、見たこと無いパーツばっかで」
「なるほどなるほど」
そう言いながら、涼香お嬢さんは、大きな机の上に雑然と並ぶいくつかの画面を一つ一つ眺めた。そこから伸びてるケーブルは、彼女の各所につながれ、内蔵機器の状況をモニターしている。
「頭ン中は、辛うじて無事みたいだねっ」
「やっぱ、そうですか?」
「うん。まあ、記憶にかなり欠落は出ちゃうだろうけど、再起動不能ってほどじゃないよ。あとは、駆動系でガタ来てる所を直して、フレームを応急用のに換装すれば、自力で立つコトもできるんじゃない?」
「ええ。幸い、父の残した部品がけっこうありますし」
「……ミサちゃん、土日は休み?」
「え、あ、はい」
「だったら、明日あさってと作業できるね」
「ええ、まあ……」
「それじゃあ、早速始めよっか!」
腕まくりなんかしながら、涼香お嬢さんが言う。
「い、今から、ですか?」
「そーよ! ほら、あたしはあくまでお手伝いなんだから! メインがぼさっとしてちゃダメでしょ!」
椅子にかかっていた、油で汚れた白衣を僕に投げてよこしながら、お嬢さんは元気いっぱいの笑顔でそう言う。
僕は、そんなお嬢さんの顔と、手の中の白衣を見比べた後、すごく久しぶりに、それに袖を通したのだった。
そして、日曜の深夜。
僕は、数十分の仮眠を取っただけだが、不思議と眠くはならなかった。むしろ、これまでなかったくらい、気持が高揚している。
「いよいよだねえ」
何度か家に帰って、今は動きやすいトレーナーにぴったりしたパンツという格好の涼香お嬢さんが、僕に言う。
そう、いよいよだった。目の前には、応急処置ではあるが、どうにか稼動できる状態にまで修復された彼女が、眠っているような顔で横たわっている。
「ところで、ミサちゃん」
いよいよ最終工程の準備を終えた僕に、お嬢さんが語りかけた。
「このコの名前だけどさ、ミミコってどうかな?」
「えぇ?」
お嬢さんの唐突な申し出に、僕はかなり間抜けな声を出してしまった。
「ミミコよ、ミ・ミ・コ♪ 由来は、ネコ耳のミミ。かーいいでしょっ」
「そ、それは……」
あまりに、安直じゃないだろうか?
「あんだけ手伝ってあげたんだからさあ、命名権くらいちょーだいよ」
僕は、苦笑いして肯いた。小さな頃から、涼香お嬢さんの“ちょーだい”にはかなわない。
「じゃあ、ミミコの再起動最終工程を始めます」
「うんっ!」
元気よく返事をして、お嬢さんが持ち場に付く。
僕は、何度も見直したチェックリストを手に、次々と作業を進めていった。
「各部関節、各部モーター、各部ギア、各部シャフト……駆動系、オールグリーン」
「過給機、改質装置、燃料電池ジェネレーター、変圧器……動力系、全OKだよ!」
「各部センサ、音声出力装置、フェイス系出力装置……OK」
「……電圧・電流、正常値確認、外部電源カット」
「OS起動、自己診断プログラム……不良セクタ、許容範囲内!」
ぴくン、と彼女――ミミコの右腕が、動いた。
長いまつげに縁取られたまぶたが、細かく震える。
そして……
ミミコは、目を覚ました。
「やったア!」
お嬢さんが、歓声をあげる。
「……ぁ……」
ミミコは、僕の顔を見て、そっと小さな唇を動かした。
「何?」
僕は、ミミコの小さな顔をのぞきこんだ。
「ありがとう……ございまス……たすけて、くれテ……」
まだ音声出力装置のフィードバックが完全でないのか、細く、小さな声で、ミミコは言った。
あの、路地裏で聞いた声と、同じ声だ。
「うれしかっタ……マスター……」
ミミコが、僕のことを、マスターと呼んだ。
僕は、ミミコのマスターになったのだ。所有者であり、教育者であり、最終責任者であり……そして、時にそれ以上の存在に。
アンドロイドのマスターに!
ふと、僕は、さっきから黙ってるお嬢さんの方に顔を向けた。
涼香お嬢さんは、なんだか複雑な表情で、ミミコの顔を見つめていた。
「じゃ、ミミコちゃんと仲良くね」
いつもの明るい、そして悪戯っぽい表情を取り戻した涼香お嬢さんが、玄関口で僕に言った。
「まだあのコ、本調子じゃないみたいだからね。……おいたして、壊しちゃダメだよっ」
「どーいう意味です?」
「これからのメンテが大事ってコト♪」
歌うような調子で、お嬢さんが言う。
と、そのお嬢さんの顔が、不意に真剣になった。
「あのさ」
「え?」
「あの顔……なんか、見覚えない?」
「え? 別に、無いですけど」
「そっか。じゃあ、思い過ごしかなあ」
そう言うと、お嬢さんは、ひょい、とその薄い肩をすくめた。
それから一週間は、ミミコの微調整に費やされた。
アンドロイドは、高度で繊細な機械である。周囲全ての環境情報がその頭の中の電子頭脳に入力され、しかもそれに対し最適の出力、つまり反応や行動が返されなくてはならない。だからこそ、その調整には細心の注意が必要となる。
それに、いつまでもミミコを裸のままにしておくことだってできない。そもそも、細部まで人間そっくりに作ってあるミミコをそのままにしておくのは……目の毒だった。
僕は、涼香お嬢さんに婦人服のサイズについて尋ねた後、かなりの勇気をもって衣服を購入した。あとでこの話をお嬢さんにしたら、たっぷり三分間は笑われてしまったけど。
「いつも、すいませン……」
多分、顔を赤くしながら、服を着せてあげてる僕に、ミミコが神妙な顔で言った。フェイス系にそうとう工夫が凝らされているらしく、その表情は人間の女のコそのものだ。
「別に、そんな気にしないで」
「……」
「どうしたの?」
「こういうときは、それは言わない約束だろ、じゃないんですカ?」
ミミコは、そんなことを大真面目に訊いてきた。
ミミコの前の持ち主は、どんな教育をしてきたんだろう?
いや、そもそも、ミミコはなぜあんな所に捨てられていたんだろうか?
アンドロイドは、高価な機械である。ここ数年で急激に低価格化し、かなり一般に普及したとはいえ、そう気軽に捨てられるようなものではない。
しかも、ミミコは、どう見ても大量生産の廉価製品ではない。いわゆるオーダーメイド……もしくは、個人が趣味でパーツから手作りしたハンドメイドだ。
まあ、アンドロイドをハンドメイドできる人なんて、そうそういない。この僕だって、成功する確率はよくて五分五分だろう。
ミミコの過去の記憶は、ほとんど欠落している。
記憶情報そのものが失われたわけではない。ただ、断片化されすぎてて、きちんと再生しきれないのだ。人間だったら、そこらへんは適当に想像で補完してしまうのだが、アンドロイドはなかなかそういう器用なマネはできない。
そこらへんも含めて、僕は、ミミコの面倒を見なくてはならないだろう。
たとえ相手がアンドロイドでも、その責任を引き受けるのは、大変なことなのだ。
「マスター、あたし、お外行きたいでス」
朝、ようやくよろけずに歩くことができるようになったミミコが、歯磨きをし終わったばかりの僕にそういった。
ミミコに言葉や世間の様子を教えるためにつけっぱなしにしてるテレビには、最近開店したという大きなショッピングモールが映っている。
「ん……外、かあ?」
「ダメなんですカ?」
「いや、ダメってわけじゃないけど……」
僕は、ちょっと考え込んだ。アンドロイドが外出する際は、人間と区別するために、タイプ別にメーカーが指定した衣服を着用しなければならないことになっている。
「でも、ミミコって、タイプどころかメーカーも分かんないだろ。だから、ね……」
「ふにー……」
ミミコは、妙な声をあげた。
「マスターと一緒に、お出かけしたいですウ……」
まだ再起動して間も無いミミコの言動は、まるで子供みたいだ。
「まあ、全メーカー共通のアンドロイド・スーツも、幾つかあるけど……」
「あ、それでス! それ着ますウ!」
困って頭をかく僕の前で、ミミコは嬉しそうに声をあげた。
「んわ〜っ! 可愛いですウ♪」
そうか、こういう服を可愛いと思うように、ミミコはプログラムされてたのか。
今、ミミコが身につけているのは、仕事の帰りに買ってきた、青色の昔風のワンピースに、エプロンドレス。すなわち、いわゆるメイド服だった。
ご丁寧にお尻のところには尻尾を出す穴が開いている。しかも、タイを留めているのは、大きな鈴の形の飾りである。
これでも、ネコ耳タイプのアンドロイドが着る服としては、一番おとなしいものを選んで買ってきたのだ。こいつの他は、極端にスカートの丈が短かったり、胸のトコが開いていたり、はては、ハイレグのレースクィーンみたいなものまであった。
メーカー別の指定服がスタンダードな分だけ、共通タイプはそういう“工夫”をしているらしい。
「ありがとうございます、マスターっ♪」
嬉しそうにそう言って、ミミコは、ワイシャツにスーツの下という姿でちゃぶ台の前に座ってた僕に、いきなり抱きついた。
「わわっ、ちょ、ちょっと!」
ミミコの体は柔らかく、燃料電池が発する熱を体表から放熱しているので、ほのかにあったかい。僕は、慌てに慌てた。
自慢じゃないが、女のコにこんな情熱的に抱きつかれるなんて、生まれて初めての体験だ。たとえ、それがアンドロイドでも。
「にへへへへへへ」
「ミ、ミミコ?」
「お礼、でス」
「んんんっ!」
ミミコの勢いは止まらず、僕は、あっけなく唇を奪われていた。
初めてじゃ、ないけど……これまでの生涯で通算三回目のキスだった。
「ン……んむ……んんん……っ」
ミミコの柔らかな舌が、僕の口の中に入ってきた。自然な発声のための潤滑液で濡れたそれは、なんだか自分の知らない生き物みたいだった。
次第に、僕の体から力が抜けていく。
「ぷはァ♪」
ほのかに頬を染めながら、ミミコがようやく口を離した。
そして、かすかに潤んだような目で、僕の顔を悪戯っぽく見つめ、くすくすと笑う。
このコは……もしかして、ほんとは人間の女のコなんじゃないだろうか?
そうでないことは知りすぎるほど知っている僕なのに、ついそんなことを思ってしまう。
「ミミコ、あのね……」
僕は、なんとなく娘を叱る父親みたいな口調で、言った。
「何の前触れもなく、こんなコトしちゃダメだよ。びっくりするでしょ」
「……マスター、ヤだったですカ?」
小首をかしげて、ミミコが訊く。
「お礼のつもりだったのにィ」
「お、お礼のしかたにも、いろいろあるでしょ。言葉で言ったり、おじぎとかしたり……えーと……」
まだ心臓がどきついて、考えがまとまらない。
「ふみゅぅ……」
ミミコは、おっきな目をぱちぱちさせた後……いきなり、あぐらをかいてる僕の股間に手を伸ばした。
「わああ!」
今度こそ、掛け値なしに大声を出してしまう。
「にははっ♪ マスターの、おっきくなってまス〜」
なんでだか知らないけど、嬉しそうにミミコが言う。そのまま、ミミコは獲物を捕まえたネコみたいに、お尻を高く上げた四つん這いの姿勢になり、僕のソコに顔を寄せた。ぱた、ぱた、と尻尾が左右に揺れている。
「んわーっ、すごくカタ〜い」
「ミ、ミミコっ!」
叱責、と言うにはいささか上ずった声を出す僕の顔を、ミミコは上目遣いで見上げた。
「マスター、お礼のキスで、感じちゃったんですネ」
そう決め付けるミミコに、僕は反論できない。
ミミコの言うとおりだった。同世代の連中に比べて圧倒的に経験不足の僕は、ミミコの柔らかな唇の感触に、これまで感じたことがないくらいに興奮していたのである。
股間のソレは、その僕の高まりを、浅ましくも正直に主張して、痛いくらいに勃起していた。
「こうなっちゃうと、収まりつかないんですヨ」
訳知り顔で、ミミコがそんなことを言う。
そして、にこっと無邪気に微笑みながら、ズボン越しにその部分にすりすりと頬ずりをした。
「あ……ダ、ダメだよ……」
僕は、我ながら、なんとも情けない声を出した。
「どーしてですカ?」
「だって……ズボンが汚れちゃう……」
そうじゃないだろ! という自分自身の理性の声が、ひどく遠い。
「じゃあ、ミミコが脱がしてあげまス」
そう言って、どこで憶えたのか流行りのポップスをハミングしながら、ミミコは器用に僕のベルトを外した。
そして、あれよあれよと言う間に、ズボンの留め金を外し、ファスナーを下ろしてしまう。
「あ……」
トランクスの薄い布越しに、ミミコが僕の硬くなった部分をさわさわと撫で上げた。
ますますいきり立った僕のソコが、トランクスを突き破らんばかりに硬度と容積を増していく。
「はいッ」
まるで手品師みたいな掛け声をあげて、ミミコが僕のペニスを露出させた。
「はじめましテ♪」
その部分に挨拶なんかしてるミミコの吐息を、敏感になった先端が感じる。
僕は、半ば茫然と、そして半ば期待をもって、次のミミコの動きを待った。もはや、ミミコの動きを制止しようという気持は、すっかり消えうせていた。
「あーン」
まるで好物にかぶりつく女のコみたいに口を開けた後、ミミコは、僕のソレをぱっくりと咥えこんだ。
「んッ!」
生温かく濡れた、予想もしなかった柔らかな感触に、僕は思わずぴくんと腰を動かしてしまった。
そんな僕の反応に嬉しそうに目だけで微笑みながら、ミミコは口の中でくちゅくちゅと舌を動かした。
「あ、あ、あ……っ」
奥手であることを自覚している僕も、さすがにフェラチオという言葉くらいは知っている。しかし、それが、こういうものだとは思わなかった。
告白すると……僕は、ものすごく感じてしまっていたのだ。
ペニスの茎の部分をまさぐっていた舌が、ミミコがゆっくりと頭を後退させるにしたがって、先っぽの亀頭の部分を舐めまわしていく。
僕は、荒く息をつきながら、ぼんやりとミミコの口唇愛撫にさらされる自分のソレを眺めていた。その表面がわずかに濡れ、蛍光灯の光を反射している。
「んー、ちゅぱっ」
ミミコは、先端の部分にわざと音をたてて口づけした後、一端そこから口を離した。
でも、ミミコの小さな両手は竿の部分にそえられ、くにくにと微妙な愛撫をくわえている。
「にゃはっ、マスター、きもちイイんですネ」
「そ、そんな……」
「だって、ここからどんどんお汁が溢れてますヨ」
そんなことを言って、ミミコは、尿道から溢れる透明な液をてろてろと舐め取った。
ぴくぴくと、僕のペニスがしゃくりあげる。
「えへ……元気元気ィ♪」
そう言って、ミミコが再び僕のその部分をそのちっちゃな口で捕まえる。
「あむ……んんン……んふ……んン〜ん……」
ミミコが、媚びるような鼻声を漏らしながら、すぼめた唇をシャフトの表面に滑らせる。
一生懸命に上半身を動かしているミミコの豊かな胸の膨らみが、時折、僕の足に触れる。
僕は、はぁはぁと喘ぎながら湧きあがる快楽を感じていた。
「マスター?」
ちょっと一休み、といった感じで再び口を離したミミコが、言う。
「ミミコのおしゃぶり、気持イイですカ?」
「う……うん」
まるで子どものように、僕は肯いてしまう。
「そういう時は、ミミコの頭、なでなでしてあげてくださイ♪」
まるで、何かの遊びのルールを教えるような口調で言って、ミミコはまた僕の股間に頭を戻した。
ソコの裏側の部分を、舌を伸ばしてちろちろちろっ、と舐め、次には、まるでハーモニカみたいに横咥えにする。そして、陰嚢にまでそのピンク色の舌を這わせ、その中の睾丸まで柔らかく口に含む。
「あぁ……っ」
僕は、我ながら恥ずかしい声をあげながら、ミミコの注文通り、その柔らかでさらさらの髪を撫でた。
「んっふ〜ン」
嬉しそうに鼻を鳴らして、べとべとになった僕の陰茎にまた頬ずりしてから、ミミコはまた先端の亀頭を口に含んだ。
「んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ……」
そして、今度は容赦のないリズムと圧力で、僕のペニスを絶頂に導こうとする。
「あ、ああアっ、あッ!」
僕の口から、悲鳴みたいな高い声が漏れた。
「あ、ンああッ! ミ、ミミコ、ミミコ……っ!」
幼い顔が、形のいい眉を切なげにたわめながら、僕を追い込んでいく。
今まで経験したことのない強烈な快感が、僕の股間で破裂し、脊髄を昇って頭の中で強くきらめく。
「あうっ!」
僕は、思わずミミコの頭を強く自分のソコに押しつけていた。
熱い精液が尿道を駆け抜け、ミミコの小さな口の中にほとばしる。
「ン……んぷ……んんん……んくっ、んくっ、んくっ……」
ミミコが、けなげに喉を鳴らしながら、僕の放出した白濁液を飲みこんでいた。
「ンあ……」
その感触が、射精したばかりで敏感になってる亀頭の粘膜に、妙にくすぐったい。
「あ、あ……あぁ……ぅ……はぁぁぁぁ……」
僕は、がっくりと上体を倒してしまった。
ミミコの、青色のワンピースをまとった背中に覆い被さる形になる。
「ん、んんん、ん〜ッ」
しばらくして、ミミコが、僕の体の下で、ちょっと苦しそうな声をあげた。
「……あ、ゴ、ゴメン」
僕は、慌てて体を起こした。アンドロイドといえども、燃料電池は酸素を必要とするので、呼吸をするのだ。
「んぷふーっ……はぁー……」
ミミコも上半身を起こし、正座の格好になって、一仕事終えた、といった満足げな顔で、深呼吸する。
そして、茫然としているであろう僕の顔を見て、にこっ、と笑った。
「マスター」
「な、なに?」
「お洋服、ありがとうございましタ♪」
そう言って、三つ指をついて深々とお辞儀をする。
僕は、すっかり毒気を抜かれた感じで、畳の上にぼんやりと座りこんでいた。
僕とミミコの“関係”は、こういう形で始まったのだった。