Luccia
− ルチア −


「僕と……付き合ってくれないか?」
「――はあ?」
 勇気を出して言った僕の言葉に対するルチアの第一声が、それだった。
「何言ってるんだ、お前?」
「いや、だから……僕と、付き合ってほしいって、そう言ってるんだ」
「付き合ってやってるじゃないか。こんな、水みたいな酒しか出さないような店にわざわざ来たのは、お前がおごってくれるという話だったからだぞ」
「そういうことを言ってるんじゃないよ!」
 思わず声を高くした僕を、ルチアが、片方しかない目で見つめてる。
 深いブルーの左の瞳と、右の目を隠した黒いアイパッチ。長い髪はきれいな金色で、肌はわずかにピンクを溶かし込んだミルク色だ。その整ったシャープな容貌は、優美な猫を思わせる。
「どうやら、私を白馬の王子様と勘違いしているようだな。見かけどおりロマンチストなことだ」
 そのボディラインの女性らしい豊かさを裏切るような口調で、ルチアが、かすかに苦笑いしながら言う。
「そんなんじゃないよ……」
「どうかな? お前が貞操の危機に遭っていたのは事実なわけだし」
 ルチアが言っているのは、先週、僕が自分の店でならず者に襲われかけた事だ。
 先の女神戦役で、前線に投入されたサイボーグ兵は、両勢力のを合わせて1万人あまり。戦争が終わった今、ガイアもヴィナスも、その危険な荒くれ者を事実上野放しにしている。
 僕は、そんなサイボーグたちを相手に、この埃っぽい死にかけた巨大都市で、サイバーウェアの修理や換装を請け負い、糊口をしのいでいた。
 そして、先週、代金の支払いを巡ってごねだした一人のサイボーグが、カウンターから僕を引きずり出し――何を思ったのか、まだ生身のままのペニスを剥き出しにして、のしかかってきたのだ。
 それを救ってくれたのが、たまたま店に立ち寄ったルチアだったというわけである。
 ルチアは、片手でそのサイボーグを軽々と道端に放り投げ、悶絶させてしまった。
 つまり、僕は、下半身剥き出しという考え得る限り最も情けない格好で、ルチアと初めて出会ったのである。
「だいたい、私は、お前にとってまず客のはずだ。頼んでおいたオムニテック社の関節パーツは、まだ入手できてないのか?」
「それなら、今日の昼に届いたけど……」
「だったら、早く寄越してくれればよかったんだ。第一、こんなところでママゴトのような食事をする趣味は、私には無い」
 ここ、街でほとんど唯一の、天然小麦のパスタを食べさせてくれる店なのにな……。19世紀風のシックな内装も気に入ってるのに。
 月に一度の贅沢をママゴト呼ばわりされて、僕は、ちょっと悲しくなった。
「食事が終わったら、お前の店に寄ることにしよう。営業時間過ぎで申し訳ないがな」
「それは構わないけど……パーツ換装は、やっぱり自分でするつもりなの?」
「ああ」
「一応、これでも僕、プロなんだよ。任せてくれてもいいと思うんだけど」
「“一応”付きのプロに体をいじらせたくは無い。自分でした方がよっぽど早いしな」
「あう……」
 ルチアの体は、その隻眼以外、生身と変わって見えるようなところは無い。たぶん、左腕と右足がサイバーウェアなんじゃないかと思うんだけど、言うと怒られそうなので、本人にはまだ確かめてないのだ。
「お前みたいな奴に任せると、調整だの何だのと言って一週間はかかるだろう?」
「微調整は大事だよ。サイバーウェアの寿命にも関係してくるし」
「私は、一刻も早く体を元に戻したいんだ。あのでかぶつを投げて以来、特に反応が鈍くなってかなわん」
「――そりゃあいいことを聞いたぜ」
 突然、ルチアの背後から声が響いた。
「くっ!」
 ルチアが、素早く振り返り、左手で自分が今まで座っていた木製の椅子を投げようとする。
 轟音が、響いた。
 他の客たちが悲鳴を上げる中、ルチアが木調樹脂の床に倒れる。
 その左足が太ももの辺りで大きく弾け、カーボンファイバーのフレームまでが剥き出しになっていた。
「ぐっ……」
 義肢の異常を知らせるための疑似痛覚に、ルチアが呻く。
「よくもあの時はやってくれたなあ、べっぴんさんよォ」
 あの、僕を襲ったサイボーグが、下卑た笑みを浮かべながら言った。その右腕にインプラントされた大口径銃が、薄い煙を上げている。
 見ると、そのサイボーグの男の背後には、別のサイボーグが何人も立っていた。いずれも、凶悪な武装インプラントを剥き出しにした、威圧的なフォルムをしている。
「貴様、こんな店の中で……下衆め!」
「口の利き方に気をつけろよ、牝犬っ!」
 再び、轟音。
「あうっ!」
 対サイボーグ専用の複合銃弾が、ルチアの左腕を吹き飛ばした。
 サイバーウェアを先に破壊して、ルチアの戦闘力を奪おうという戦法だろう。
「ケケケッ、この腕は高かったんだぜェ。代金分は楽しませてくれよなァ」
 僕の店に来た時には、あいつは、あんな物騒なものは装着していなかった。ルチアに復讐するためだけに、大枚をはたいたのだろう。
 くそっ! あんな武装を扱ってる業者がまだこの街にいたなんて……!
「おっと、そこのオカマ野郎も逃がすなよ。そっちは生身だ。モツを売りさばけばいい金になるぜ」
 男の言葉が終わらないうちに、サイボーグの一人が、僕を後ろから万力のような力で羽交い締めにした。
「やめろっ! そいつは無関係だ! 放せ!」
「おやおや、エンブリヲのルチアさんともあろうモンが、お優しいこって」
 男の嘲笑混じりの言葉に、ルチアが、その秀麗な顔を歪めた。
「知ってるんだぜ。あんた、サンタ・ルチア隊の唯一の生き残りだろ? このヴィナスで幾つ民間人の村を全滅させたんだっけなあ?」
「よ、よせ……そのことは……言うな……」
 ――聞いたことが、ある。
 戦役中、ヴィナスの居住区を次々と制圧していった、ガイア・クルセイダーズの切り札である惑星降下機械化歩兵部隊。
 そして、その中でも、ヴィナス中の怨嗟と恐怖の的となった、“虐殺中隊”サンタ・ルチア隊。その構成員は、全て、記憶と名前を奪われ、洗脳と改造手術を施された半人造人間だという話だ。
 遠隔操作が基本の機動歩兵“フィギアヘッド”に直接搭乗し、卓越した反応速度でヴィナス軍を粉砕してきた彼らは、“エンブリヲ(胎児)”と呼ばれた。
 ルチアが、その、作られた兵士――エンブリヲの一人だっていうのか……?
「てめえは、ヴィナス人民全ての敵だって訳だよな。なのにまだここでのうのうと生きてるってのは、ちっと俺たちヴィナス人を甘く見過ぎなんじゃねえか? えっ?」
 ぐっ、と男が、ルチアの頭を踏み付ける。
「おらっ、床を嘗めろ! 這いつくばって俺達に詫びをいれるんだよっ!」
 男が、足に力を込め、ルチアの金髪を靴の泥で汚した。
 ルチアは――左の目に、涙を浮かべている。
 それは、苦痛や屈辱の涙じゃなかった。
 まるで声をあげて泣き出す寸前の小さな子供のような表情を、ルチアが浮かべている。
「やめろっ!」
 僕は叫んでいた。
 男や、他のサイボーグたちが、驚いたように僕に顔を向ける。
「やめるんだ! 戦争はもう終わったんだぞ! 誰にもルチアを責める権利なんか無いっ!」
「……何言ってんだ、てめえは?」
 薄笑いを浮かべながら、男が言う。
「ガイアの牝犬にたぶらかされたか? ちょうどいい。てめえに大人のヤリ方ってのを見せてやるぜ!」
「――ああっ!」
 男が、ルチアの服を一息に引き裂いた。
 豊かな二つの膨らみを、右腕だけでルチアが隠そうとする。
「隠すんじゃねえ! そのでけえオッパイをきちんと俺達に見せるんだよ!」
 叫びながら、男が、ルチアの頭を容赦のない力で蹴飛ばす。
 その時――僕の頭の中で、封印が解かれた。
 深層意識に植え付けられた凄まじい激痛と、それをはるかに上回る激情。
 破壊的な衝動が脳を突き破り、強烈な波動となって、爆発する。
「――っぎゃああああああああああああああああああああああ!」
 サイボーグたちが、一斉に叫んだ。
 暴走したサイバーウェアからのフィードバックが、こいつらの脳を灼いたはずだ。
 サイボーグたちの表情は虚ろで、口から薄い煙を吐いている奴もいる。
 死んではいないだろうが、皆、今日より昔のことを思い出すことはもうできないだろう。
 僕は、緩んだ太い腕から抜け出し、ルチアの体を担ぎ上げた。う、ちょっと重い。
「い……今のは……?」
 ルチアも僕の力の余波を少し被ったようだ。声がいつになく弱々しい。
 僕自身、無理に心理封印を破ったせいで、まだ頭痛の余韻が残っている。
「指向性ジャマーだな……お前、サイキック……?」
「説明は後でするよ」
 そう言って、店から出ていく。ルチアの素性が聞いた通りのものだとするなら、ここで自警団の詰問を受けるのは避けたい。
 ヴィナスの夜空は、今日も、厚い雲に覆われていた。



「僕は、対サイボーグ部隊所属のサイキックだったんだ」
 ルチアをベッドに横たえてから、僕は説明した。
「戦役末期で、ヴィナス軍もかなり煮詰まってたころだよ。いろいろ計画はあったみたいなんだけど、結局、何もかも中途半端な状態で終戦になった。僕は、一度も前線に立つ事なく、サイ能力を心理封印されて軍をおっぽり出されたってわけ」
 そう言いながら、もはや原形を留めていないルチアの左腕と右足の接続を、外す。 どうやら、断端のコネクタ類に損傷はないみたいだ。ちょっと安心する。
「養成所でサイバネスティック課程を無理やり履修させられたおかげで、こうやってどうにか暮らしていける。けど、感謝の気持ちは起きないね」
「……」
 ルチアは、僕から顔を背けている。それでも、僕は話を続けた。
「養成所でのことは、あまり憶えてないし、思い出したくもない。だから――ルチアの、僕に体をいじられたくないって気持ち、分かるような気がするよ」
 そんな僕の言葉を聞いて、ルチアが、こっちを向いた。
「……ごめん。無神経なこと言ったね」
「そうじゃ――ないんだ」
 謝る僕にそう言ったルチアの頬は――赤く染まっていた。
 そのことにいささか驚きながら、僕は、ルチアの左の瞳を見つめてしまう。
「そうじゃない……。私は、お前に、この姿を見られたくなかったんだ」
 ルチアが、右手で、自分の左手の断端に触れた。
「……作り物の冷たい子宮の中で目覚めた時、私には、家族も、記憶も、名前すらもなかった。“ルチア”という名乗りすら、血まみれの仲間たちの死体の間から掘り出したようなものだ」
「それは……」
「私には、何かが欠けている」
 僕が何か言おうとするのを遮るように、ルチアは言った。
「ただ、手足が欠けているというだけじゃない。そういう者だったら、こんな時代だ、珍しくもないだろう。しかし、私は……」
「ルチア」
 彼女が、その名前にどんな思いを抱いているのか、きちんと分からぬまま、それでも、僕は、彼女の名を呼んだ。
 なぜなら、僕にとって、この一週間前に出会ったばかりの大事な人の名前は、ルチアだから。
 そんな僕の顔を、ルチアは、濡れたような目で見つめている。
「私は、今、ひどく甘ったれたことを言ったな」
「……そんなこと、ないよ」
「いや、言った」
 ルチアが断言する。
「お前が悪いんだぞ」
「僕が?」
「お前といると、なんだか不思議な気分になる」
 本気で不思議に思ってる顔で、ルチアは言った。
「合成素材と同じ組成のはずの食事を美味いと感じたり、酩酊する前に酒の味を楽しみたいと思ったりする……。それに……」
「それに?」
「その……正直に自分の気持ちが言えなくなる」
「――ルチア」
 僕は、ベッドに横たわるルチアの顔に顔を寄せ、言った。
「キスしていい?」
「なっ……! ダ、ダメだ!」
「ほんとに?」
 僕が訊くと、ルチアは、ぷい、と顔を横に背けた。
 そのまま、ゆっくりと、視線だけを、僕の方に向ける。
「……お前、見かけによらず、意地悪だな」
「そ、そうかなあ」
「ああ」
 そう言って、ルチアが、目を閉じ、顔を元に戻す。
 僕は、ルチアの口元に、ゆっくりと唇を寄せた。
 情けないことだけど、僕は、ちょっとだけ震えていたと思う。
 けど、唇と唇が触れると、不思議なことに、その震えはどこかに行ってしまった。
 代わりに、甘い痺れるような感覚が、全身を包む。
 僕は、しっとりとした柔らかなルチアの唇を、軽く吸った。
 そして、舌を伸ばし、彼女の口の中へと滑り込ませる。
「んっ……んん……んっ……」
 ルシアが漏らす小さな声が、僕の脳髄を直接くすぐった。
 今、この瞬間のルチアの表情を見れないことが、少しだけ惜しい。
 けど、僕は、キスをやめることができなかった。
 ルチアの舌が、僕の舌におずおずと触れてくる。
 舌と舌が、互いを探り合い、そして、絡み合った。
「ん……ちゅ……うん……んんン……ん……」
 息が苦しくなるまで、キスを続ける。
 そして、僕は、名残を惜しみながら、唇を離した。
 柔らかな余韻を口元に感じながら、ルチアの顔を見る。
 ルチアは、まるでお酒に酔ってしまったかのように、さらに顔を赤らめ、うっすらと開いたブルーの瞳を潤ませていた。
「服、脱がすよ」
 思いもかけず、そんな言葉が、僕の口から滑り出た。
 けど、自分の声を聞いたとたんに、それが、ごく自然なことのように思えてしまう。
 ルチアは、何も言わず、ただ、小さく頷いてくれた。
 彼女の胸元から腰までを隠していたシーツを床に落とし、無残に引き裂かれてしまったままの服を、脱がしていく。
「あぁ……」
 ルチアが、耐え切れなくなったように、吐息を漏らした。
 ルチアの白い体が、僕の目の前であらわになる。
 豊かな、仰向けになっても形を崩さない胸の膨らみと、その頂点にある可愛らしい乳首。
 きゅっとくびれたウェストから豊かなヒップへと至る曲線は、蠱惑的なほどに優美だ。
 そして、ひきしまったお腹のさらに下で、金色の淡い草むらが、恥ずかしそうに恥丘を飾っている。
「ルチア……すごくきれいだよ……」
 僕は、興奮でいささか声をかすれさせながら、言った。
 すでに節操無く固くなりかけていた股間のモノに、さらに熱い血液が集まってくる。
「あっ……灯は消してくれないか……頼む……」
ルチア
 ルチアはそう言って、僕から目を逸らした。
 それでも、片方しかない彼女の手は、胸や股間を隠す事なく、僕に全てを見せてくれている。
「ごめん。この部屋のランプは、消せないんだ」
 僕は、そう言って、ベッドに上がりかけた。
「だ、だったら、せめて――」
「え?」
「せめて、お前も、服を脱いでくれ。でないと――不公平だ」
「うん」
 自分でもおかしくなるくらい神妙に頷いて、僕は、服を脱ぎ捨てた。
 股間では、ペニスが、鋭い角度で上を向きっぱなしになっている。
 自分自身の浅ましさを晒しているようで恥ずかしかったけど、僕は、それを隠そうとはしなかった。なぜか、ルチアに失礼なような気がしたのだ。
 改めてベッドに上がり、四つん這いで、ルチアに覆いかぶさる。
 横を向いたままのルチアの頬に、口付けた。
 そして、耳朶や首筋に、ちゅっ、ちゅっ、とキスを繰り返す。
「あ……ん、うっ……」
 くすぐったそうに、ルチアが身をすくめた。
 ゆっくりと頭をずらし、胸の谷間に、顔をうずめる。
 そして、唇で、右の乳首を探り当て、そっと口に含んだ。
「あぅ……っ!」
 ひくんっ、とルチアの豊かな体が、跳ねた。
 てろてろと舌を動かし、乳首を転がす。
 優しく吸うと、乳首が次第に固くなっていくのを、唇で感じることができた。
 左の乳首も同じように口で愛撫しながら、肘で自分の体を支えて、両手で二つの乳房を揉む。
「あ、ああっ……んっ……は、あぁっ……」
 甘く濡れていくルチアの声を聞きながら、乳房に舌を這わせ、腋の下から脇腹へのラインを指先でなぞった。
 僕の体の下で、ルチアの体が、うねる。
 敏感に反応を返してくれるルチアを愛撫することに、僕は、夢中になっていた。
「あっ、ああっ……あんっ、あ、ああぁン……」
 お臍の周りで円を描くように舌を動かすと、ルチアの右腕が、もどかしげに、僕の頭をまさぐった。
 髪の毛をくしゃくしゃにされるのが、なぜか気持ちいい。
 そして、僕は、さらに頭を下にずらし、その場所に到達した。
 目の前で、肉の割れ目が、透明な蜜に濡れている。
 僕が思わず漏らした吐息が、そこをくすぐったらしい。ルチアは、軽く身をよじった。
 頭髪より、かすかに色の濃い金褐色の繊細なヘアの下で、ピンク色のスリットが息づいている。
 大きなヒップの中央にあるそれが、僕には、なぜだかとても可愛らしく見えた。
「ひゃう……!」
 ちゅ、とそこに口付けると、ルチアの腰が、ぴくんと跳ねた。
 僕の唾液と、新たな愛液が、肉のほころびをさらに濡らす。
 僕は、クレヴァスの奥に舌を差し入れるべく、そこを左右に割り開いた。
「あ、ああっ……そんな……」
 体の更に奥を暴き立てられ、ルチアが、うろたえたような声をあげる。
 僕は、ルチアの欲情の証しである匂いを鼻孔に感じながら、重なり合った肉襞の合間を嘗め上げた。
「あ……あうっ……はあっ……あんっ……ああんっ……!」
 膣口周辺の滑らかな部分を舌先でまさぐり、クリトリスを肉の莢ごとちゅばちゅばと吸い上げる。
 愛液の独特の味を感じながら、舌先を膣内に潜らせると、ルチアは、ふるふるとかぶりを振った。
「あっ……あううっ……! ダ、ダメだ……そんなところまで……あっ、ああっ、あっ、あっ……!」
 キラキラと濡れ光る靡肉の上側で、肉の突起が、フードから恥ずかしげに顔を出している。
 そこに舌を当て、細かな動きをさせると、ルチアはひくひくと体を震わせた。
「ああっ! そこ……そこは……あんっ! あ……んあぁっ!」
 逃げそうになる腰を捕まえようと、僕は、ルチアの豊かなお尻を両手で捕まえた。
「あっ……! そ、そこは……!」
 ルチアが、高い声を上げる。
 僕の左の手が、右脚の断端に触れてしまったのだ。
「やめてくれ……そこは……さわらないで、くれ……」
 ルチアが、なんだか泣きそうな声で、言う。
 僕は、しばし考えてから、そっと、断端の感覚神経コネクタに触れた。
「ひぁんっ!」
 ルチアが、さらに大きな声で、叫ぶ。
「痛かった?」
「そ、そんなことはない……けど、やめろ……」
「痺れるみたいな感じがしない?」
 左足の太ももに舌を這わせながら、ぼくは、コネクタジャックに触れ続けた。
 その刺激は、コネクタ内部で神経信号に変換され、疑似的な触覚となってルチアの脳に届いているはずだ。
「やめろっ……お、怒るぞ……! 私の体をおもちゃにするな!」
「そういうつもりじゃないんだ、ルチア」
「だったらどうして……あんんっ!」
「だって、ここも、ルチアの一部じゃないか」
 ルチアにとってちょうどいい刺激の強さを探りながら、僕は言った。
「僕は、ルチアの全部が好きなんだ。ルチアに、全身で感じてほしいんだよ」
「でも、そこは……あ、あうっ……やっ! やあああああっ!」
「痛い? それとも、くすぐったいかな?」
「そうじゃない……けど……あ、あったかくて、痺れるみたいで……あんっ! あ、あああぁぁぁ……!」
 ジャックをいじりながら、僕は、再びルチアの秘唇に口付けた。
 左右のラビアを嘗めしゃぶり、クリトリスを、舌の裏側の柔らかいところを使って刺激する。
「あっ、ああん……っ! 私……私っ……!」
 僕は、ルチアの左足を掲げ持つようにして、ココア色のアヌスを嘗め、会陰に舌を往復させ、クレヴァスの奥に舌先をねじ込むようにした。
 ぴゅるっ、ぴゅるっ、と漏れ出る熱い愛液が、僕の顔を濡らすのを感じる。
「だめだ……もう、これ以上は……あっ! あっ! あっ! あっ! あぁーっ!」
 びくびくびくびくっ、とルチアの体が痙攣した。
 ルチアが、絶頂に達したらしいということが、とても嬉しい。
 ひくんっ、ひくんっ、と余韻に震えるルチアのその部分に、軽くキスをしてから、僕は、体を起こした。
「はぁ……はぁ……はぁ……やっぱり、お前は、意地悪だ……」
 ルチアが、右手の甲を額に乗せるような格好で、言った。
 そんな彼女の体の両脇に両手を付き、顔を覗き込む。
 さっきから勃ちっぱなしのペニスの先端が、ルチアの太ももに触れた。
「その……いいかな?」
 思わず、僕は訊いていた。
 ルチアの左の瞳が、僕を軽く睨む。
「そういうことをいちいち訊いてくるところが、意地悪だと言うんだ」
 そう言って、ルチアは、目を閉じた。
 んくっ、と自分の唾を飲み込む音が、やけに大きく響く。
 僕は、もう何も言わず、熱い血を漲らせた亀頭部を、ルチアの秘部に浅く潜らせた。
 たっぷりと蜜に濡れたルチアの肉のぬかるみが、僕に触れる。
 僕は、ルチアの胸元にそっと口付け、そして、ゆっくりと腰を進ませた。
「んっ……」
 粘膜がこすれ合う感触に、声をあげてしまう。
 僕は、そのまま、ルチアの中へと入っていった。
「あ……あぁ……ああぁっ……!」
 挿入に合わせて、ルチアが吐息を漏らす。
 ルチアのそこが、根元まで、僕の肉茎を迎え入れてくれた。
 きゅうっ、と収縮する膣肉に包み込まれ、ペニス全体が熱い快感を感じる。
「はぁ……」
 ルチアが、ため息のような声をあげた。
 そして、目を開き、涙で潤んだ瞳で僕を見る。
「私は……初めてじゃ、なかったんだな……」
 僕は、最初、ルチアが何を言ってるのか、分からなかった。
 そして、彼女の言葉が意味することを悟り、首を左右に振った。
「そんなことないよ、ルチア」
「でも……」
「僕は、君の初めての相手だ。そう思わせてくれないか?」
 ルチアが、僕の顔を見つめ、そして、小さく頷いてくれる。
 それを合図に、僕は、ゆっくりと腰を動かし始めた。
 たまらない快美感が、ペニスから腰に至り、全身を痺れさせる。
「あっ……ああっ……はっ……はっ……はっ……はぁっ……」
 抽送のリズムに、ルチアの喘ぎ声が重なる。
 半開きになった口元にキスを繰り返しながら、僕は、腰を使った。
 あまりの快感に、あっというまに精を漏らしてしまいそうになるのを、どうにかこらえる。
「んっ……あぅっ……んくっ……あううっ……」
 ルチアが、声を出すまいと、右手の指を噛む。
 すごく可愛らしい仕草だけど……これだと、キスができない。
 僕は、左手で、ルチアの口から右手を外し、その唇にまた口付けをした。
「あっ……だ、だめだ……あうっ……! そんな……あ、ああんっ! あんっ!」
 ルチアの高い声が、ますます僕の股間のモノをいきり立たせる。
 僕は、知らず知らずのうちに、腰の動きを速めていた。
 二人の体液に濡れた粘膜と粘膜がこすれあい、ひりつくような刺激がますますペニスを熱くする。
「だめ……声が、でる……っ! 恥ずかしい……!」
「聞かせてよ、ルチア……ルチアの可愛い声、もっと聞かせて……」
「やっ、ああっ! また、そんな、からかうようなこと……ああんっ! あうっ! やっ! あああああああっ!」
 僕の下で、声をあげながら、ルチアが体をくねらせている。
 逃げようとするのを捕まえるような感じで、僕は、ルチアを抱きすくめた。
 ルチアの右の頬に、右の頬を寄せる。
 僕は、全身で、ルチアのしなやかに引き締まった体を感じていた。
「ねえ、ルチア……気持ちいい?」
「あんっ……ああんっ! だから、そういうこと、きくな……あああっ! あうっ! きゃうんっ!」
「僕、すごく気持ちいいよ……すごく……すごく幸せな気持ちだよ……」
「わっ……私、だって……あんっ! あああっ! とても……とても……っ!」
 互いの声と熱い喘ぎが、耳をくすぐり、脳を痺れさせる。
 かーっと熱い興奮に、目がくらみそうだ。
 そんな中、こすれ合う性器と性器がもたらす快感だけが、ますます鋭く体を貫いてくる。
 もう、この手の中にある愛しい人のことしか、考えることができない。
「あっ! あああっ! だめ……もうだめっ……!」
 ぎゅっ、とルチアが、僕の首を右腕で抱き締めた。
 それだけでは足りないとでも言うように、左の脚も、僕の右脚に絡み付けてくる。
 僕だって、両腕で抱き締めるだけじゃ、ぜんぜん足りない気持ちだ。
 もっともっとくっついて、一つになりたい。
 気が付くと、僕は、ルチアの首筋を強く吸っていた。
 右の肩に、甘い痛みがある。どうやら、ルチアが噛み付いているらしい。
「んっ! んぐっ! んうっ! んふーっ!」
 くぐもったルチアの声。背中に立てられた爪の感触。
 あらゆる感覚が快楽に変換され、激しい腰の動きとなって出力される。
 それに応えるように、ルチアの靡肉が、きゅんっ、きゅんっ、と僕のペニスを絞り上げた。
 射精感が、後戻りできないくらいに高まっている。
 僕は、ただ、この時間をできるだけ長引かせたくて、必死に耐えた。
 苦痛すら覚えるような快楽が僕を内側から圧し、出口を求めている。
 その圧力に突き動かされるように、強い動きをルチアの中に送り込んだ。
 先端が、ルチアの一番奥を、何度も何度もノックする。
「んあっ!」
 耐え切れなくなったように、ルチアが、体を弓なりに反らした。
「だめ……もう……イク……っ!」
 きゅううううううっ!
 一際強くルチアの膣内が僕の肉棒を締め付ける。
 僕の中で、何かが、決壊した。
「ん……ッ!」
 どばあっ! と、すごい勢いで、煮えたぎった奔流が溢れ、狭い輸精管からルチアの膣奥へと迸る。
「あっ! ああァーっ! イクっ! イクっ! イクっ! イクうー……っ!」
 びくびくと痙攣を繰り返す膣道の中で、何度も、何度も、何度も、何度も、精を放つ。
 射精は、自分でもかすかに心配になるほど、長々と続いた。
 スペルマのかたまりが子宮口を叩くたびに、ルチアは、絶頂に達しているようだ。
 視界が、白い光で満ちる。
 ルチアも同じ光を見ているであろう事を、何の根拠も無く確信しながら――僕は、意識を失ってしまった。



 翌朝。
 ベッドに座るルチアに、僕は、マグカップに入ったコーヒーを差し出した。
「すまない」
 そう言って、一口だけ、コーヒーを啜る。
「あの……」
「何?」
「できれば……砂糖と、あと、ミルクがあったら、欲しいんだが」
「あ、ごめん。気が付かなくて」
 僕は、シュガーポットと、ビンに入ったままの合成乳を差し出した。
「ありがとう」
 そう言って、ルチアが、右手だけで器用に砂糖とミルクを入れる。
「……その、お前には、悪い事をした」
 優しい褐色になったコーヒーの水面を見ながら、ルチアが言った。
「え?」
「昨日の騒ぎで、もう、あの店には行けなくなっただろう?」
「ん、まあ、しばらくは避けたほうがいいかもね」
 僕は、ブラインドを開け、朝の光を部屋の中に入れた。空は、珍しく晴れている。
「でも、あのお店のマスターとは知り合いだから、今度、パスタを分けてもらえないか頼んでみるよ。自分で茹でるんじゃあ、あの味は再現できないかもしれないけどね」
「そうか……」
「その時は、その……一緒に食事、してくれるかな?」
「――ああ。ご馳走になる」
 にっこりと、ルチアが微笑んだ。
 その、眩しいくらいの笑顔を見ながら、点けっぱなしだったランプを消す。
「……あーっ!」
 ルチアが、叫んだ。
「え? な、なに?」
「お……お前って奴はっ! この嘘つきめっ!」
 ルチアが、顔を真っ赤にしながら、眉を吊り上げている。
「えっ? え、え、え、えーと……」
 僕は、ようやく、ルチアの体見たさに自分がついたささやかな嘘について、思い出した。
 そして、僕は、完全につむじを曲げてしまった彼女の機嫌を直すために、午前中一杯を費やしたのだった

あとがき

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