はじめてのていそうたい


(中へん)



 マミちゃんとエリカちゃんは、高原の温泉で、毎日を過ごしました。
 川下りをしたり、サイクリングをしたり、岸辺でバーベキューをしたり、神社のお祭りに行ったり、近所の田んぼでホタルを見たり――
 それに、もともとマジメな二人は、持ってきた夏休みの宿題も、てきぱきと片付けてしまいました。
 さいしょは、いつももじもじしていたマミちゃんでしたが、すぐに、ていそう帯に慣れてしまったようです。
 何しろ、つけていることを、時々わすれてしまってるほどですから。
 おフロは、旅館のおかみさんの好意で、大よく場ができてから使われていない、小さなろてんぶろを貸切にしてもらえました。
 だれが入ってくるか分からない大よく場を使うわけにはいきませんし、お部屋の小さなおフロだけでは、やっぱり味気がありません。
 そんなわけで、毎日が、とても楽しく過ぎていきます。
 でも、夜中、マミちゃんは、ゆかた姿のまま、ぼーっと窓から月をながめていることがありました。
 月明かりにてらされたそのさみしそうな横顔を、エリカちゃんは、ねむっているふりをしながら、とてもフクザツな気持ちで見つめるのでした。



 そして、一週間が、夢のように過ぎていきました。
 明日は、もう帰らなくてはいけません。
 マミちゃんとエリカちゃんは、いつものように、二人でろてんぶろに入りました。
 あまり大きくはありませんが、ごつごつした岩をくみあわせてできた、ほんかくてきな岩ぶろです。
「ふ〜♪」
 ざばぁん、とお湯の中に元気よく入ってから、マミちゃんは、声をあげました。
 もちろん、ていそう帯はつけたままです。
 いくらうすいステンレスとは言え、それなりに重さがあるので、おフロに入ると、なんとなくおもりをつけてお湯につかってる感じがします。
 でも、そんなことにも、マミちゃんはなれてしまったようです。
「しつれいしますわね」
 ていねいにそう言って、エリカちゃんが、ちゃぽん、とお湯の中に入ってきました。
 メガネをはずし、長い黒かみをアップにまとめているので、なんとなくふんい気がいつもとちがいます。
「いよいよ、今晩でおしまいですわね」
 ほぅ、と小さく息をついて、エリカちゃんが夜空をあおぎました。
「うん。いろいろなことして、楽しかったねー」
 マミちゃんが、すなおな口調で言います。
「――わたくしは、まだまだやりのこしたことがあるような気がいたしますわ」
 マミちゃんの方を見ないで、エリカちゃんが言いました。
 きれいな月明かりの下、エリカちゃんの白い顔は、ますますお人形さんのように見えます。
 一方、そんなエリカちゃんの顔をふしぎそうに見つめるマミちゃんは、日焼けしてすっかり小むぎ色になっていました。
 エリカちゃんは、マミちゃんがじっと自分を見ているのに気付いて、にこっ、とほほえみかけます。
「でも、やっぱり、この一週間、本当にたのしかったですわ」
「だよねー♪」
 マミちゃんが、安心したように言って、笑顔を浮かべました。
 ざああ……とすずしい高原の夜風がえだを鳴らし、灰色の雲を運んでいきます。
 二人は、なんとなくだまったままになって、ゆったりとお湯につかりました。
「――マミさん、体、洗いっこしましょう」
 ざば、と立ちあがりながら、エリカちゃんが言いました。
「え? あ、うん」
 マミちゃんが、無じゃ気に返事をします。
 二人は、洗い場に上がりました。
 まずは、マミちゃんがエリカちゃんの背中を流します。
「エリカちゃんのはだって、すべすべで、まっ白だよね〜」
 あわあわになったやわらかいスポンジでエリカちゃんの背中をやさしくこすりながら、マミちゃんはうらやましそうに言いました。
「たしか、外人さんの血がまじってるんだよね」
「ええ。父方の祖母が、オーストリアの方の出ですの」
「コアラ、だっこしたことある?」
「――オーストラリアではなくて、オーストリアですわ」
「あ、そっか」
 マミちゃんとエリカちゃんは、くすくすと笑い合いました。
「でもさあ、ホント、せっけんのあわと同じくらい白いよー」
「――ただ、わたくし、はだが弱いんですの」
 エリカちゃんは、お湯であわを流してもらいながら、ちょっとさみしそうな声で言いました。
「日に当たると、すぐに赤くなってしまうんですのよ」
 そう言いながら、今度は、エリカちゃんがマミちゃんの背中を洗います。
「うーん。でも、そういうところも、おじょうさまっぽいなー、って思うよ」
「そうでしょうか?」
「ちょっと、きゅうけつきみたいけど」
「まあひどい」
 エリカちゃんは、ぷっ、とほほをふくらませて、むくれたフリをして見せます。
「そんなこと言うマミさんは、こうしてあげますから」
 そう言って、あわのついた細い指で、マミちゃんのわきをこちょこちょとくすぐりだします。
「ひや〜ん、やだやだあ」
「ふふふふふっ、マミさんたら、本当にビンカンでらっしゃるのね」
 そう言いながら、エリカちゃんは、まるでピアノでもひいてるみたいな手つきで、マミちゃんの背中やわき腹をまさぐります。
「ひゃはははは、やめてってば〜」
 マミちゃんは、笑いながら身をよじってにげようとします。
 そんなマミちゃんをのがすまいとするように、エリカちゃんが、後ろからぴったりとだきつきました。
「ひゃん!」
 そして、前に回した手で、マミちゃんのふくらみかけのおっぱいをおおいます。
「ちょ、ちょっと、エリカちゃあん」
 マミちゃんは、困ったような声をあげて、エリカちゃんの方をふり返りました。
「どうなさいましたの? マミさん……」
 そう言いながら、エリカちゃんは、びみょうな手つきで、マミちゃんのむねをふにふにとイタズラします。
「ダ、ダメだよお、そんなことしちゃあ……」
「あら、わたくし、マミさんの体を洗ってさしあげてるだけですわ」
 そう言いながら、エリカちゃんは、右手を下のほうにすべらせました。
 そして、ていそう帯のふちのところを、その白い指で、すーっとなぞります。
 ぞくぞくっ、とマミちゃんの体がふるえたのが、エリカちゃんにもわかりました。
「ここ、きちんと洗ってらっしゃる?」
「え? う、うん、いちおうは……」
「一応ではいけませんわ。きちんんとなさらないと」
 エリカちゃんは、ていそう帯のウェストベルトとマミちゃんのおなかの間に、するりと指を差し入れました。
 ぴったりに作られているので、エリカちゃんの細い指の先が、入るか入らないか、といったくらいです。
「や、あやっ、やぁん……じ、じぶんでするよお……」
 マミちゃんが、くすぐったそうに身をすくめながら、エリカちゃんに言います。
「いーえ。わたくしが、洗ってさしあげます」
 めずらしくごうじょうな口調で言いながら、エリカちゃんは、せっけんでぬるぬるになった指をうごかしました。
「あ、んンっ……や、やぁぁン……」
 いつのまにか、マミちゃんは、ワンちゃんみたいに四つんばいになってしまっています。
 そんなマミちゃんのかわいらしいおしりに、せっけんのあわをぬりたくりながら、エリカちゃんは、指をうごかし続けました。
 ていそう帯のゴムのふちどりと、マミちゃんのはだの間を、指で何度もなぞり、すきまに指を入れるようにします。
 つるつるのおまたと、そのおまたをかくすたての板の間を指でなぞったとき、マミちゃんは、きゅううっ、と切なそうにまゆをたわめました。
「や、やだあぁ……そんなふうにされたら、ガマンできなくなっちゃうよォ……!」
 今までずっと知らんぷりをしていた何かが、体の中でもこもこと大きくなっていくような感じに、マミちゃんは悲鳴のような声をあげました。
 でも、エリカちゃんはそんなことにかまわず、マミちゃんの足の付け根のあたりに、その指をはわせます。
 いつしかマミちゃんは、四つんばいのまま、ほとんど動かなくなってしまいました。
 にげる気力もなくしたのか、ひじとひざをぬれた洗い場の岩の上について、はぁはぁとあえいでいます。
 口元から、かわいらしい舌がのぞいているところなんかは、ホンモノのワンちゃんみたいです。
 そんなマミちゃんのおしりのほうに座りこんで、エリカちゃんはねっ心に指を動かしています。
「だめェ……だめェえ……」
 マミちゃんが、ひくン、ひくン、と体を動かしながら、そううったえます。
 かまわず、エリカちゃんは、マミちゃんのおしりの谷間にぴったりとはまっているステンレスのロッドに沿って、指を動かし出しました。
「ひや、はわぁン……ンあああああぁ……ッ」
 マミちゃんは、声をふるわせながら、ふりふりとおしりを動かしてしまいます。
 ハズカシイのとキモチイイのがいっしょになったカンカクに、マミちゃんの頭が、真っ白になっていきました。
 でも、エリカちゃんの指は、ステンレスの針金にはばまれ、マミちゃんのセピア色のすぼまりを、奥まで犯すことができません。
 切なくて、もどかしくて、マミちゃんは気がヘンになってしまいそうです。
 と、とうとつに、エリカちゃんはマミちゃんをあいぶするのをやめました。
「ふえぇ……」
 マミちゃんは、目になみだを浮かべながら、のろのろと体を起こしました。
 と、そんなマミちゃんの体に、エリカちゃんが、ぬるめのお湯を、ざばー、とかけます。
「エ、エリカちゃぁん……」
「そろそろあがらないと、ヘンに思われてしまいますわ」
 なさけない声をあげるマミちゃんに、エリカちゃんがいつものおすまし顔で言います。
「ふゆゆゆゅ……」
 マミちゃんは、はっきりしない声で何か言いながら、のろのろと立ちあがりました。
 そして、ふらつく体を、エリカちゃんにささえてもらいながら、だつい場まで歩いていきます。
 その顔は、まるでねつでもあるみたいに、いつまでもぽーっとしていました。



 ねどこの中で、マミちゃんは、ごろん、ごろん、とねがえりをうっています。
 体の奥の方があつくなっていて、ちっともねられません。
 ネバネバするような何かが、ていそう帯に包まれたおまたで、じんじんとうずいているのです。
 まるで、かゆいところをかこうとするように、むいしきのうちに手がおまたにいってしまうのですが、そのたびに、指はじいぼうし板にはばまれてしまいます。
 むろん、うずうずとなった大事な場所にふれることはできません。
 ていそう帯とはだの間に指を入れようとしても、けしてアソコにはとどかないようになっているのです。
「ン――っはぁ……ン……」
 マミちゃんは、もしリュウくんが聞いたらそれだけでボッキしちゃいそうなほど色っぽい声をあげながら、ふとんの中でもじもじと体を動かしています。
 体の中がイライラして、それなのに少しだけ気持ちよくて、そしてその気持ちよさをどうすることもできなくて、もどかしさのあまり泣いてしまいそうです。
 じっさい、マミちゃんの目じりには、なみだがにじんでいます。
(気が……クルっちゃうよお……)
 マミちゃんは、ホンキでそう思いました。
 どうしていいか分からなくなって、ふとんのはしを、ぎゅっ、とかみしめます。
「んンッ……く……ン……ふゥん……」
 それでも、なんだかエッチな声が、もれてしまうのです。
 と、いきなり、まっくらだった部屋の明かりがつきました。
「エ……?」
 ぱちぱちぱちん……と、けい光灯がともるかすかな音を聞きながら、マミちゃんは目をぱちぱちさせます。
 見ると、ゆかた姿のエリカちゃんが、電気のスイッチに手をかけていました。
「ゴ、ゴメン……うるさかった?」
 どうにかマミちゃんは、そんなことを言います。
 エリカちゃんは、こわいくらい静かな顔で、マミちゃんのことをじっと見つめています。
「えっと……」
「おつらいんですのね、マミさん」
 エリカちゃんが、とてもやさしい声で言いました。
「体がうずいて、ねむれないんでしょう?」
「そ、それは……」
 さすがに、マミちゃんは口ごもります。
「かくさなくてもけっこうですわ」
 そういいながら、エリカちゃんは、その小さな口に、うっすらとほほえみを浮かべました。
「マミさん、もし――」
「エ?」
「もし、わたくしが、ていそう帯のカギをもっていたら、どうされます?」
「も、もってるの?」
 がば、とマミちゃんは、ふとんをはねとばすようないきおいではねおきました。
「万一のことを考えたら、外国に行ってしまうリュウくんだけがカギを持ってるなんて、キケンすぎますでしょう?」
 そういいながら、エリカちゃんは、ぬれたようにキラキラと光るひとみで、マミちゃんのことを見つめます。
「マミさん……カギを、はずしてほしいですか?」
 そう問いかけるエリカちゃんのことを、マミちゃんは、ぼうぜんとした顔で見つめています。
「どうですの?」
 エリカちゃんが、重ねてききます。
 マミちゃんは、固まったように動きません。
 りー、りー、りー、りー、と気の早い虫さんたちが、外で鳴いています。
「て……しぃ……」
 マミちゃんが、ガマンできなくなったように言いました。
「え?」
「かぎ……はずして、ほしいの……」
 きき返すエリカちゃんい、マミちゃんは、そう言いました。
 ぞくぞくっ、とエリカちゃんの体がふるえます。
「で、でしたら……」
 くちびるを舌でしめらせてから、エリカちゃんは、口を開きました。
 そして、部屋のはしにあるひじかけイスに、こしを下ろします。
「でしたら、わたくしのココを愛してください……」
 そう言って、エリカちゃんは、ゆかたのすそを、そっと開きました。
 エリカちゃんは、ゆかたの下に、何も着けていません。
 むきだしになったおまたでは、ほんの少しだけ生えている黒い毛の下で、ピンク色のクレヴァスが、きらきらとぬれていました。
「もし、わたくしをイかせてくださったら、カギを、はずしてさしあげますわ」
「……」
 エリカちゃんのユウワクに、マミちゃんは、こっくりとうなずいてしまいました。
 そして、のろのろと、エリカちゃんの足元に、四つんばいで近づいていきます。
「あぁ……」
 そんなマミちゃんの姿を見ただけで、エリカちゃんのアソコからは、ぴゅるっ、とアイエキがおしっこみたいにもれ出てしまいました。
「エリカちゃん……」
 はぁあっ、とあつい息をアソコにはきかけるようにしながら、マミちゃんがエリカちゃんの名前を呼びました。
 そして、目を閉じて、てろん、とエリカちゃんの大事なところをなめ上げます。
「あああっ……」
 エリカちゃんは、きゅっ、とこぶしをにぎって、自分の口元に当てました。
 その細いからだが、かくかくと小きざみにふるえています。
 マミちゃんは、エリカちゃんの太ももの内がわに手をそえて、ちろちろと舌を動かし出しました。
 まるで、ネコさんがミルクを飲むときのような、ぴちゃぴちゃという音がへやにひびきます。
「マ、マミさん、マミさんっ……!」
 エリカちゃんは、まるで何かをこわがってるような口調で、マミちゃんのことを呼びます。
 マミちゃんは、むちゅうになって、エリカちゃんのアソコをなめ続けました。
 エリカちゃんのはずかしいところから、ぴゅる、ぴゅる、ととうめいなえきがもれ出て、マミちゃんの顔をぬらします。
「ああ、わたくし、おもらしが止まらない……」
 エリカちゃんは、顔を真っ赤にしながら、口元を両手でおおいました。
 まるで、ランの花のようにほころんだエリカちゃんのそこを、マミちゃんは、てろてろと舌でくすぐり、ちゅうちゅうとくちびるで吸い上げました。
 エリカちゃんのちつからは、えっちなシロップが、あとからあとからわいてきます。
「ああァ……わたくし、わたくし、もう……ッ!」
 エリカちゃんは、そのなだらかなおなかをひくひくと波うたせ、くねくねと身をよじりました。
 内またのところが、ぴくン、ぴくンと動いているところを見ると、今にもイってしまいそうなのでしょう。
「エリカちゃぁん……」
 マミちゃんは、エリカちゃんのアイエキでお顔をとろとろにしながら、ゆめ見るような口調で言いました。
「マミ、さん……?」
「あたし……エリカちゃんのこと、好きだから……リュウくんの次に好きだから……ウワキしちゃっても、リュウくん、ゆるしてくれるよ、ね……?」
 そう言って、トドメとばかりに、クリトリスにくちびるを重ねます。
「あ……」
 エリカちゃんの花びらのようなくちびるが、わなわなとふるえます。
 そして――
「――ダ、ダメえッ!」
 エリカちゃんは、そう叫んで、ごういんにマミちゃんの顔を、自分のおまたから引きはがしました。
「ふあ……?」
 マミちゃんは、目をぱちくりさせながら、エリカちゃんの顔を見上げました。
 エリカちゃんの目から、ぽろぽろとなみだがこぼれています。
「ごめんなさい……ウソです……ウソですの……ここには、カギはありませんの」
 エリカちゃんは、えっく、えっく、としゃくりあげながら、そう言いました。
「ど……どういう、こと……?」
「たしかに、万一のことを考えて、合カギは作ってありますけど……それは、わたくしの家にありますの……」
「……」
「わたくし、今日のマミさんを見ていたら、どうしてもガマンできなくなって……それで、こんなことを……ごめんなさい、ごめんなさい……っ」
 何度も何度もあやまりながら、エリカちゃんは、顔を両手でおおって、ちっちゃな子どもみたいに、しくしくと泣いていました。
 マミちゃんは、エリカちゃんの言ったことよりも、エリカちゃんがそうんなふうに泣いてしまっているということに、びっくりしてしまっています。
 マミちゃんは、困ったような顔で立ちあがり、そして、エリカちゃんの細い肩に手を置きました。
「マ、マミ、さん……?」
 エリカちゃんが、なみだでぬれた顔を上げ、マミちゃんの方を見ます。
 マミちゃんは、にっこりと笑って、エリカちゃんをだき寄せました。
「いいよ、泣かないで……正直に言ってくれたんだもん。マミ、おこったりしてないよ」
「マミさん……」
 エリカちゃんは、マミちゃんのゆかたをつかむようにして、ぎゅっとだきつきました。
 エリカちゃんのなみだで、マミちゃんのゆかたが、あたたかくぬれていきます。
「マミさん……マミさんのていそう帯は、わたくしのためでもありましたの……これがなかったら、わたくし、むりやりにでも、マミさんをおかしてしまうから……」
 少しずつ、声をいつもの調子にもどしながら、エリカちゃんが言いました。
「なのに、わたくしは……とてもはずかしい、いけないことをしてしまいましたわ……」
「エリカちゃん……」
「でも、気付きましたの。わたくし、リュウくんを好きなマミさんが、好きなんですわ……いっしょになって愛し合われている二人のことが、大好きなんです……」
「……」
「わたくし……もう少しで、いっぺんに何もかも失ってしまうとこでした……ほんとうに、はずかしい……」
「――ううん。マミだって、ウワキしそうになっちゃったんだもん。同じだよ」
 そう言って、マミちゃんは、エリカちゃんのさらさらの黒かみを、やさしくなでました。
「あ……」
 そして、顔をあげるエリカちゃんに、ちゅっ、とキスをしました。
「今日は、おたがいに、これでガマンね」
「は、はい……」
 ほっぺをバラ色にそめながら、エリカちゃんは、すなおにそう返事をしました。

 部屋をくらくして、ふとんの中にもぐりこんでから、マミちゃんは、エリカちゃんに気づかれないように、ほーっ、とため息をつきました。
(けっきょく、もとのままだよ〜っ!)
 そして、心の中で悲鳴をあげます。
 それでも、さっきのエリカちゃんの言葉を思い出すと、ふしぎとガマンできるような気持ちになっていきます。
(あした……あしたになれば、大好きなリュウくんに、会えるんだから……)
 そう思って、マミちゃんは、頭の中で、一生けん命、さくを飛びこえるヒツジさんの数をかぞえだしました。



「リュウくぅ〜んッ!」
 エリカちゃんの部屋に入るやいなや、マミちゃんは、がまんできなくなったみたいに、リュウくんにだきつきました。
「うわあ」
 リュウくんは、びっくりして、マミちゃんとエリカちゃんへのおみやげのヌイグルミをゆかに落としてしまいました。ウォンバットとエリマキトカゲのヌイグルミです。
「あらあら、マミさんたら」
 リュウくんのほっぺたにほっぺたをすりすりさせているマミちゃんを見て、エリカちゃんが楽しそうにほほえみます。
 リュウくんが帰ってきた日の昼下がり。三人は、またエリカちゃんのお部屋に集まったのです。
「さみしかったよー、リュウくぅん」
「ボクもだよ、マミちゃん」
 すなおな口調でそう言うリュウくんに、マミちゃんは、んーっ、とキスをしました。
 かちん、と前歯と前歯がぶつかってしまうような、はげしいキスです。
「ん……んんン……んく……んム……」
 二人は、ぴちゃぴちゃと音をたてながら舌をからませあい、おたがいのやわらかなくちびるをちゅうちゅうと吸い合います。
 エリカちゃんは、そんな二人を、ほほに両手を当てながら、うっとりとながめていました。
「ね、リュウくん、カギ、もってきてる?」
「え? あ、うん、もちろん」
 マミちゃんのしつもんに、リュウくんが答えます。
「それじゃあ――」
「おフロ場での方が、よろしいですわよ」
 何か言いかけるマミちゃんの背後から、エリカちゃんが言いました。
「え? なんで?」
「それは、レディにするしつもんではありませんわ」
 ふしぎそうに聞くリュウくんを、エリカちゃんは、やんわりとたしなめました。


つづく

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