首輪の彼女
2
あるいは不安の中の恋人たち



 ――友達に戻ろっか?
 椎子は、そう、何でもないような口調で言った。
 ――だってさあ、鴻平クン、すっごくムリしてる感じなんだもん。
 そんなことない、と思わず大声をあげそうになる。が、それを押し止めるように、椎子はくすりと笑った。
 ――ムリに、あたしに合わせることないんだよ。あたし……ヘンタイなんだからさ。
 でも、だって、それは、けど……
 伝えたい気持ちが複雑に絡み合いすぎて、きちんとした言葉にならない。
 ――いいの。あたしがヘンなんだから。鴻平クン、ノーマルなんだからさ、もっと他の、普通のコ探した方がいいんだって。
 そんな、そんな、そんな、そんな……
 胸のうちの、得体の知れない何かに突き動かされ、鴻平は両手を椎子に伸ばした。
 が、その指は、あとちょっとというところでそのしなやかそうな体に届かない。
 ――じゃあね、鴻平クン。……ちょっとの間だったけど、楽しかったよ♪
 そんなことを言いながら、身を翻す椎子。
 その向かう先に、椎子を待つように佇む、ぼんやりとした人影があるように見える。まるで、霧の中の風景のように曖昧な映像だ。
 待てよ!
 怒りに似た、しかしそれとは微妙に違う激情に突き動かされるようにして、鴻平は走り出す。
 がくん、という奇妙な落下感。
 そして――
 土曜の朝、鴻平は、自分がベッドの下に落下していることに気付いた。



(なんで途中で夢だって気付かないのかね、俺は)
 的場鴻平は、心の中で自らにそう毒づきながら、黙々と着替えた。室内とはいえ、冬の空気は肌に冷たい。できるだけ素肌をさらす時間を少なくしようと、いつになく素早い動きでシャツとジーンズを身につけ、タンスの中のジャケットを取り出す。
(そもそも、あの小説を読んだのが問題だったんだな)
 ジャケットに袖を通しながら、鴻平は、机の上の、二世代くらい前のA4ノートをにらんだ。
 CATVのケーブルにつながったそのマシンは、中身の処理速度に反して、ほとんどストレスなくネットをブラウズできる。そして鴻平は、ここ数日、椎子に勧められた小説系サイトに、どっぷりはまっていたのだ。
 初宮椎子。鴻平の彼女である。
 その彼女に教えられたサイトは、18禁小説サイトばかりだった。
 しかも、その大部分は、主にSMを扱っていたのである。
 自分が読んでいるこの小説を、椎子も読んでいたのだと思うと、奇妙なほどに興奮した。
 そして昨夜、鴻平が読んだのは、自己拘束をテーマとした短編小説だった。
 とある18禁サイトの小説を読んだヒロインが、そのサイトの管理人と何回かメールをやり取りした末に、自分自身を拘束するに至るまでの、体験談風の小説である。
 ――椎子?
 ノートの前で、鴻平は、思わず叫んでしまっていた。
 鴻平には、その名無しの主人公が、椎子だとしか思えなかったのである。
 小説の中の主人公は、いくつかの点で椎子と異なっていたが、それは、サイトに掲載する上であえて変更したのだとも考えられる。
 何と言っても、椎子は――自分から、首輪をしているのだ。
 その首輪の鍵を自分が握ってるとしても、胸のうちの嫉妬めいたわだかまりは、そうそう簡単に消えるものではなかった。



「鴻平クン、楽しんでる?」
 海岸沿いの公園を歩く鴻平の顔を、椎子が、ひょこっ、と横からのぞきこんだ。
 ミディアムショートの髪に、ちょっと吊り気味の、小生意気な感じの大きな目。
 柔らかそうなカシミアのマフラーが、彼女の細い首を戒める首輪を隠している。
 今、二人は、公園に併設された水族館を出て来たばかりだ。
「楽しんでない。なんで、水族館で“世界の爬虫類展”なんかやってるんだ」
「ヘビとかカメとかワニとか、みーんな、水のあるところに住んでるじゃない」
「俺、ウロコあるのはダメなんだよ」
「あたしには、ウロコなんかないよっ♪」
 そう言って、椎子は、鴻平の前に回りこみ、彼の頬を両手でぶにっ、とつまんだ。
「あにをふる〜」
「ほらあ、こんな可愛いコとデートしてんだからさ、笑って笑って」
「じぶんでいうな、このお」
 お返しとばかりに、鴻平が椎子の頬をつまむ。その感触は思いの他柔らかい。
「いはははははは」
 痛がっているのか笑っているのか、奇妙な声を椎子があげた。
 昼下がりの光の中、高校生のカップルが、互いに互いの頬を両手でつまみ合っている。端から見ても、ひどくおかしな風景だ。
「あはっ♪」
 どん、と鴻平の胸に飛び込むようにして、椎子はその手から逃れた。無論、椎子も鴻平の頬から手を離している。
 マフラーがずれ、黒い革の首輪が、襟元にちらりとのぞいた。
「鴻平クン……」
 上目遣いに、至近距離にある鴻平の顔を見ながら、椎子が囁くような声で言った。その瞳は、心なしか潤んでいるように見える。
「今晩――うちの親、弟と一緒に親戚のうちに出かけてて、帰ってこないんだ」
 そう言って、椎子は、その可愛らしい顔に小悪魔じみた微笑みを浮かべた。



「あーむばいんだ?」
 聞き慣れない単語に、鴻平が声をあげる。
「うん。アームバインダ」
 椎子が、その手に奇妙な黒い革袋のようなものを持って、そう言う。
 場所は、椎子の部屋だ。窓の外の空は、すっかり夕暮れの色に染まっている。
 椎子が鴻平に見せたのは、彼女の腕よりも少し短いくらいの長さの、先細りの二等辺三角形の袋だった。サイドに切れ込みが入っていて、ジッパーが付けられている。そして、袋の口のところには、細身のベルトのようなものが二つ、縫い付けられていた。
「……またネット通販?」
「ううん。自分で作った。合成皮革だけどね」
「ふーん」
 鴻平は、思わず呆れたような声をあげてしまった。
「確かに、よくみるとちょっと糸とかほつれてるな」
「あ、あんまり見ないで〜」
 ぐい、と椎子は鴻平の手の中のそれを取り上げた。
「……で、何に使うんだよ」
「だから、アームバインダだもん……腕を拘束するんだよ」
 そう言う椎子の頬が、赤く染まっている。
「こうそく……って拘束?」
 鴻平の頭の中の辞書ソフトが、一拍遅れて正解の単語を導き出した。
「……うん」
 そう返事をして、椎子が、お手製の拘束具をきゅっと抱きしめる。
「この袋の中に、後ろに回した腕を入れて、で、ファスナー締めるの。ベルトは、肩にかけて、袋が落ちないようにするためのもの。そうすると、もう、自分じゃ絶対に外せないんだよ」
 そう言いながら、椎子は、恥じるような、それでいながら何かを期待するような上目遣いで、鴻平の顔を見つめた。
「これで、あたしの自由を奪えば……鴻平クンが何しようとしても、あたしは抵抗できないわけ」
「え……?」
「ま、もともと、抵抗する気はないけどさ。あたし……ドレイ、だし」
 ぞくり、と鴻平の背中に、悪寒に似た何かが走った。
 続いて、じわーっと脳が痺れ、頭全体が熱く火照る。
 鴻平は、もう何をどう言っていいのか、見当もつかない様子だ。
「……えーっと、シャワー、浴びてくるねっ」
 黙り込んでしまった鴻平にそう言って、椎子は部屋を出ていこうとする。
「あ、そうだ、いけない」
 と、椎子は、ててて、と鴻平の傍に小走りに戻ってくる。
「濡らすと革によくないから、はずしてくれる? 御主人様♪」
 そう言って、椎子は、その首にはまった革製の首輪を鴻平に指し示した。

 十数分後。
 椎子が、軽くシャワーを浴びて部屋に戻ってきた。
 素肌にバスタオルを巻いただけのあられもない格好だ。
 部屋の暖房は、やや強めに設定されている。
 鴻平は、自分がかすかに汗ばんでいるのを自覚しながら、外していた首輪を手に、椎子の前に立った。
 そして、まるでネックレスをはめるような感じで、髪の毛を巻き込まないようにしながら、首に首輪をかける。
 留め金を止め、そこにはまった南京錠をロックした時、ぴくん、と椎子の体が震えた。
 ほーっ、と息をついて、鴻平の顔を大きな瞳で見つめる。鴻平も、そんな椎子の上気した顔を見つめ返した。
「えへへー……やっぱ、恥ずかしい」
 そう言いながら、椎子がバスタオルを床に落とす。
 鴻平は、思わずため息を漏らしていた。
 初めて目にする、椎子の裸体。
 ほんのりとピンク色に染まった肌は妙になまめかしく、体を形作る曲線はあくまでしなやかだ。
 椎子が、鴻平の視線に耐えられなくなったように、そっと両手で胸と股間を隠す。
 鴻平は、んく、と生唾を飲み込んで、腋に挟んでいたアームバインダを椎子の目の前に示した。
「これ……するんだろ?」
「う、うん」
「だったら……」
「わかってるよ〜っ」
 そう言いながら、椎子は、のろのろと手をどけた。
 そして、くるりと振り返って、後手に両腕を鴻平に差し出す。
 鴻平は、かすかに手を震わせながら、袋の中に椎子の細い両腕を入れた。
「あぁ……ん」
 じじじじじ……とジッパーをあげると、椎子がうっとりと声を漏らした。
 椎子の腕が、黒い合成皮革の袋の中に隠れていく。
 鴻平は、早鐘のような自らの鼓動を胸のうちに感じながら、アームバインダの口のところにあるベルトを、それぞれ椎子の両肩にかけ、きゅっと締め上げた。
「んっ!」
「あれ、きつかったか?」
「そ、そんなことない……」
 そう言いながら、ぷるぷるぷるっ、と椎子が可愛らしく痙攣した。
「ふーっ……」
 しばらくして、椎子が熱い吐息をつく。
 目の前で椎子が示した快楽に対する反応に、鴻平は口の中がからからになっていた。
 ごんごんというエアコンのたてる音が、奇妙な感じで頭の中に響く。
 鴻平は、気を取り直して、ベッドサイドに置かれたそれを取り上げた。
「――きゃっ!」
 いきなり視界を塞がれ、椎子が悲鳴をあげる。
「ちょ、ちょっと! 鴻平クン、何したの?」
「え、いや、ベッドのトコにアイマスクがあったから、それを……」
「違うよーっ! これは、寝不足の時のお昼寝用なの!」
「え、あ、そうなのか?」
 てっきりプレイのために椎子が準備したものだと思っていた鴻平は、どっ、と汗をかいた。
「わ、わりい、勘違いした。……今外すから」
「待って!」
 椎子が、さらに慌てたような声をあげる。
「は?」
「え、えっとぉ……えっとね……このままで、いい……」
 消え入りそうな声で、椎子がそんなことを言った。
 アイマスクで顔の半分ほどが隠れていても、耳まで真っ赤になっているのが分かる。
「……じゃあ、その、オレ、シャワー借りるわ」
 高すぎる室温と、それ以外のことで汗だくになった鴻平が、シャツのボタンを一つ外しながら言った。
「う、うん……」
 そう答える椎子の声は、何かひどく頼りなかった。

「ヤバい……」
 ぬるめのお湯を浴びて頭を冷やしながら、鴻平は小さく呟いた。
 未だ十六歳の身の上では、自分自身でも具体的に何が“ヤバい”のかよく分からないが、それでも、このまま後戻りできないような焦燥感がある。
 顔が、自分でもおかしいくらいに火照っていた。
 そして、視線を下に向けると、鴻平の分身は、浅ましいくらいにいきり立ち、いっこうに衰えようとしていない。
 鴻平は、熱くたぎるソレを半ばもてあましながら、シャワーを止め、脱衣場でがしがしと体をぬぐった。
「ふー……」
 溜めていた息を吐き、用心して廊下を覗いた後、服を抱えて足早に椎子の部屋に移る。
 部屋の中で、椎子は、ベッドに座っていた。
 腕を後で拘束され、アイマスクで視界を塞がれた状態で、その綺麗な脚をそろえて、白いシーツの上に腰掛けている。
 鴻平は、自らの血液がさらに股間に集まっていくのを感じながら、ドアを閉めた。
 その音に、びくっ、と椎子の白い体が震える。
 どっく、どっく、どっく、どっく……という自分の心臓の音を聞かれるのではないか、と思いながら、鴻平が椎子に近付いていく。
 椎子は、かなり緊張しているようだ。その半開きの柔らかそうな唇が、かすかに震えている。
「……鴻平クン?」
 花びらを思わせるその可憐なピンク色の唇から、不安そうな声が漏れた。
「ねえ、鴻平クンだよね? そうだよね?」
 まるで、怯える幼女のように頼りない口調で、そう訊いてくる。
 鴻平は、その時、自分の体温が瞬時に何度か上昇したように感じられた。
「オレだよ、椎子……」
 そう言って、椎子の肩を両手で抱く。
「鴻平クン……っ!」
 と、いきなり、椎子がそのしなやかな両脚を鴻平の胴に絡めてきた。
「うゎ!」
 椎子の脚に腰を捕らえられ、鴻平がバランスを崩す。
 結果として、鴻平は、椎子の華奢な体を、ベッドの上に押し倒す形になった。
 形のいい乳房が、ふるんと、と揺れる。
「鴻平クン……ご……ごしゅじん、さまァ……っ!」
 そう言いながら、椎子が、両脚で鴻平のことをぎゅうっと締め付ける。
 鴻平の腰骨のところに、椎子の秘めやかな部分が押しつけられた。そこが、何だかぬるぬるする。
「し、椎子、お前……」
 鴻平が、その部分に手を伸ばすと、指先に、信じられないほどの愛液を湛えた肉の花弁が触れた。
「うわ、すごい……」
「え、な、何が?」
 思わず声をあげてしまった鴻平に、椎子が訊く。
 鴻平は、答える代わりに、体を左側にずらして隙間を作り、椎子の秘部に右手を重ねた。
 半ばほころんだクレヴァスに、ぐちゅ、という音をたてて、中指が潜りこむ。
「え、えぇーっ?」
 椎子は、自分自身のたてる音が信じられないような声をあげた。
 鴻平は、自らの指に、たぷたぷと溢れる熱い蜜を絡めるように、指をうごめかせる。
「ウ、ウソ、こんな……あ、あ、あン」
 うろたえたような椎子の声が、甘えるような喘ぎ声に変わる。
 その喘ぎに、じゅっぷ、じゅっぷ、じゅっぷ、じゅっぷ、という湿った音が重なった。
「あのさ……ア、アソコって、みんなこんな風になるのか?」
 鴻平が、アイマスクをかけたままの椎子に、思わずそんなことを訊いてしまう。
「し、知らないよォ、他のヒトのことなんか……ン、んん、んんんんン〜ッ」
 鴻平の、けして慣れているとはいえないが、それでも丁寧な指使いに、椎子の声は官能に染まった。
 一方鴻平は、初めて触れる女陰の柔らかさに夢中になって、ぐにぐにと指を粘膜の合間で游ばせる。
「だ、だめ、そんな……あ、ああン……は、恥ずかしいよォ……!」
 そう言いながらも、両腕を拘束されているため、椎子は鴻平の愛撫を阻むことができない。
 拘束された腕を下にして身もだえするたびに、椎子の乳房が、誘うようにふるふると揺れた。
 鴻平は、熱い吐息を漏らしながら、何かに導かれるように、椎子の右の乳首を口に含んだ。
「きゃうッ!」
 ちゅうーっ、といささか強く乳首を吸われ、椎子はびくんと体をのけぞらせた。
 しかし、無論、鴻平の頭を押しのけることはできない。まるで芋虫のように、みじめに体をくねらせるだけだ。
 視界を奪われているため、どうしていいか分からないといった感じで、ただただ身悶えするしかない椎子の胸を、鴻平は交互に責める。
 今度は、悲鳴をあげさせないよう、ことさら優しいタッチで、ちろちろと乳首を舌で転がした。
 口の中で、小粒の乳首が、ぷくん、と尖っていく感触がある。
 唇を離すと、ピンク色の乳頭が、唾液に濡れながらぷるぷると震えていた。
 目がくらむような興奮を覚えながら、鴻平は、椎子の滑らかな肌に、ちゅっ、ちゅっ、とキスを繰り返す。
「ンああああぁ……ん」
 どこか媚びるような椎子の声が、鴻平の脳をじんじんと熱く痺れさせる。
「椎子……」
 鴻平は、名残惜しげに上体を椎子から離した。
 そして、椎子の両膝を持つようにして、彼女の脚をM字型に開く。
「鴻平クン……えっと……見てるの?」
 不安げに、椎子が訊いた。
「ああ……すごく濡れてる……」
 しきりに舌で唇を舐めながら、鴻平は言った。
「なんか、透明なのが溢れてて……シーツまで垂れてるよ」
「ウソ……お、おおげさに言わないでよぉ……」
「ホントだって」
 そう言いながら、鴻平は、腰を進ませて、自らのペニスの先端を、蜜を湛えたクレヴァスに当てた。
 びく、と椎子の体が震える。
「な、何……?」
 見えないと分かっていても、椎子は、思わず顔を上げ、自分の股間をのぞきこむようにしてしまう。
「指じゃ、ないよね……。もしかして、これって……鴻平クンの……?」
 答える代わりに、鴻平は、興奮のあまり必要以上に上向きになるシャフトに手を添え、ゆっくりと腰を前に動かしていった。
 さして豊かでない性知識を総動員して、亀頭で膣口の位置を探る。
 鴻平は、ようやく自らの熱くたぎるそれを収めるべき場所を見出していた。
 のしかかるようにして、挿入を試みる。
「あぅ……」
 椎子が、喘ぐような声をあげた。
「あ、あ、あ、あ……」
 椎子の不安そうな声を聞きながら、鴻平は、未だ誰の手も触れていないその場所に侵入していった。
 膣肉の締めつけはきつく、これだけ濡れていても摩擦の抵抗を感じるが、動きを阻まれるほどではない。
 と、ペニスの先端に、椎子の純潔の証しが触れた。
 鴻平を突き動かす性の衝動に比べれば、哀しいほどにささやかな抵抗を、熱くたぎるペニスが貫いていく。
「あ……ッ!」
 椎子が、短く高い声をあげた。
 はっ、と鴻平は顔を上げるが、腰の動きは止まらない。
 椎子の処女膜を貫いたペニスが、ずるん、とその膣道の奥まで侵入した。
「ああああああああああああああああああああああああああッ!」
 痛みに、椎子の体が、弓なりに反る。
 柔らかい肉の、きつい締め付けが、鴻平のシャフトを押し包んでいた。
「し、椎子……」
 鴻平は、椎子の体にのしかかるようにして、その肩を抱いた。指先に、ベルトが触れる。
「鴻平クン……鴻平クン……ッ!」
 辛そうに喘ぎながらも、椎子も鴻平の名を呼んでいる。
「スゴいの……鴻平クンの……あ、熱いィ……っ……」
「大丈夫か、椎子」
「だ、だいじょぶ……思ってたより、平気……」
 はぁはぁという荒い息の合間に、椎子が健気にもそう言う。
「鴻平クン……」
「――え?」
「あたし……あたし、これで……鴻平クンのもの、だよね?」
 それを聞いたとき、鴻平の視界が、真っ赤に染まった。
 体の奥底から涌き出る激しい衝動に操られるように、鴻平は、ぐっ、とさらに腰を突き動かした。
「ひゃうッ!」
 激痛に悶え、逃げそうになる椎子の肩を、指が食いこむくらいに強く掴む。
 そして鴻平は、本能の命じるまま、ぐいぐいと腰を動かした。
「ああッ! いッ! 痛い! 痛いよおッ!」
 こうやって、椎子に悲痛な声をあげさせているのが、他ならぬ自分自身であるということに、凄まじいほどの興奮を感じる。
「こ、鴻平クン……ンあッ! あああああッ!」
 もはや、椎子の叫びは泣き声に近い。
「椎子……椎子……ッ!」
 鴻平は、犬のように激しく喘ぎながら、椎子の右の耳に熱い息を浴びせた。
「椎子は、オレの奴隷だ……!」
 自分でも訳の分からぬまま、そんなことを言ってしまう。
「こ、鴻平くうん……」
「もう……もう、絶対に逃がさない……!」
「あぐッ! あッ! う、うれしい……うれしいよぉ……っ! ンあああああッ!」
 悲鳴をあげながらも、椎子は、はっきりとそう言った。
「うれしい……これで、椎子、鴻平クンのドレイ……ほんもののドレイなの……あんんんんンッ!」
 破瓜の痛みにあげていた声すらも、どこか被虐と隷従の喜びに濡れ始めているようだ。
 鴻平は、脳が煮えているような錯覚を覚えながら、震える椎子の唇に、唇を重ねた。
「んんんんんッ♪」
 腕を拘束され、視界を塞がれた上、初めて体内をペニスで蹂躙される。そんな状態でのキスに、椎子は、明らかな悦びの声をあげていた。
 ファーストキスの、いわゆる甘酸っぱい喜びではない。自らの口内に侵入した舌に、舌を絡めて奉仕する――奴隷の、愉悦だ。
 初めてのキスとは思えないような淫らさで、互いに舌を絡め合い、そして、互いの唇を舐めすする。
 激しい抽送によって、血と愛液をしぶかせているその営みだけでは足りないかのように、二人は、口ででも性交をしているようだった。
 一方で、浅ましく静脈を浮かせた鴻平のペニスは、椎子の可憐なクレヴァスを激しく出入りし、淫猥な音をたてている。
 じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ……
 鮮血と粘液に濡れたシャフトに、ピンク色の肉襞が絡みつく。抽送に合わせて引き出され、そして押し込まれる様は、いっそ無残なほどだ。
 が、その初体験にしては乱暴過ぎる動きも、椎子にとっては熱い悦楽でしかない。
「す、すごい……あむ……んん……すごいよぉ……アソコが、あつくて……と、とけちゃいそうだよォっ……んぐ……ん、ん、ん……っ!」
 互いの唾液で濡れた唇から、普段の彼女からは考えられないような舌足らずな声を漏らす。
 その唇に、鴻平は舌を差し込み、椎子はその舌をちゅうちゅうと吸い上げた。
 そして、口内にたまった二人分の唾液を、んく、んく、んく……と小さく喉を鳴らして飲み干す。
 その仕草が、そして自由と感覚を奪われたその姿が、狂気に近い快感を、鴻平にもたらしていた。
 あまりに快感が強すぎて、射精するタイミングを逸してしまったような――
 が、そのことを意識した瞬間に、耐えがたいほどの射精欲求が、ペニスをさらに膨張させた。
「し、椎子……ッ!」
 鴻平のその声は、ほとんど悲鳴に近かった。
「お、俺……俺、もう……っ!」
 がくがくと体を痙攣させながら、それでも激しく腰を使い続ける。
「き、きて……鴻平クン……そのまま……そのまま……ッ!」
「あ、ぐ、ン、くうううううううッ!」
 食いしばった歯の間から、獣のような声を漏らす。
 そして、とっくに限界だったはずのペニスの中を、大量のスペルマが駆け抜けた。
 熱い白濁の奔流が堰を破ってびゅるびゅると迸る。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
 体内の奥深くを熱いスペルマの弾丸で叩かれ、椎子は高い声をあげていた。
 膣肉に包まれたペニスが、何度も何度も射精を繰り返し、その度にびくびくと激しく律動する。
 その、自分の中の鴻平の動き全てが、椎子を、これまで経験したことのないような激しい絶頂に導いていた。
 鴻平の視界も、初めて感じる快感に、真っ白に染まっている。
 痛みと快感が入り混じった、火傷しそうな感覚……。
 それを、この時二人は、一緒に感じていたのだった。



 どれくらい、体を重ねていたのだろうか。
 先に、のろのろと鴻平が体を起こした。
「だ……だいじょぶか? 椎子」
 そう言って、髪の毛にひっかからないように注意しながら、椎子のアイマスクを外してやる。
「あう……ま、まぶしぃ……」
 ぼんやりとではあるが目を開いていた椎子が、そんなことを言う。
 そして、奇妙に体をくねらせながら、うんしょ、と上半身を起こした。
「ほれ、手ぇこっちによこせよ。外してやるから」
「うん……」
 素直にそう返事をして、椎子は鴻平に背中を向けた。
 鴻平が、肩のベルトを外し、ファスナーを下ろして、椎子の腕の拘束を丁寧に解いていく。
「しびびびびびびびびっ」
 椎子が奇妙な声をあげた。
「あ?」
「しびれたあ〜!」
 ぶらぶらと中途半端に曲げた手を揺らしながら、椎子が言う。
「そりゃそうだよなあ……って、わぁあ」
 とて、と背中から倒れてきた椎子を胸で受け止めながら、鴻平はいささか間の抜けた声をあげてしまった。
「コーヘイくん……」
 くい、と椎子が首を上向きに曲げ、鴻平の方を向いた。
 逆さまの椎子の顔が、逆さまの鴻平の顔を見つめている。
「あたし……鴻平クンのものだよね」
「……そうだよ」
「よかった……」
 そう言って、椎子は、顔を前に戻した。そして、本格的に、鴻平の胸に体重を預ける。
「やっぱ、あたし、ちょっと不安だったから」
 囁くような声で、椎子は、そんなことを言った。
「なんで?」
「だってさぁ、自分でちくちく拘束具作っちゃうようなヘンタイさんじゃ、愛想つかされても文句言えないでしょ。だから……あたし……」
「椎子……」
 鴻平は“俺も不安だったよ”という言葉を、ぐっと飲み込んだ。
 意地やプライドからではない。自分の立場を自覚してのことだ。
 奴隷の、主人としての立場を――。
 だから、代わりに、鴻平はこう言った。先に何の見通しもないまま、それでも、できるだけはっきりと。
「椎子は……ずっと、俺の奴隷だよ……」
「……うんっ!」
 強くそう返事をしてから、椎子は、鴻平の腕の中で、ほんの少しだけ泣いた。
あとがき

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