前編



n. 【精神分析】 (the id) イド ((自己保存の欲求に基づく本能的衝動))



 少女が“それ”を飼い始めてから、どれくらいになるだろう。
 最初は、“それ”が何であるか分からなかった。
 そして、今も判然とはしない。
 “それ”は成長した。最初は手に乗るくらいの大きさであったものが、いつしか彼女よりも大きく、逞しく、力強くなっていった。
 孤独な少女は、“それ”の成長に、なぜか心を躍らせた。もぞもぞと自分の布団の上で蠢くその姿が、どういうわけかひどく愛しかったのだ。
 そして、“それ”は、少女の想いに応えた。



「おい、聞いたかよ」
「何が?」
 どんよりとした曇天の続く晩冬のある日。
 全く同じ外見の黒い制服に身を包んだ生徒たちが、四角い教室の中で無秩序にざわめいている。
 その一角で、数人の男子生徒が、中途半端ににやけた顔で、無責任な噂話に興じていた。
「哀川の母親のことだよ」
「ああ、死んだんだってな」
 未だ、死の本当の意味を理解し得ていない少年たちは、にやけた顔のまま話を続けている。
「それも、殺されたんだろ」
「聞いた聞いた。センセは何も言ってないけどよ」
「俺んち、ケーサツ来たぜ」
「マジ?」
「それもさあ、ヘンなこと聞くのさ。お宅で飼ってた犬はどうしましたかって」
「いぬう?」
 生徒の一人が、頓狂な声をあげる。
「俺んち、前、わりとでかい犬飼ってたんだよね。死んじゃったけど」
「それと、哀川の母親死んだことと関係あんの?」
「あんだろ。他にも、でかい野良犬見なかったかとか……」
「哀川の母親、犬に食われたのかよっ!」
 何が面白いのか、ひどく弾んだ声で、その生徒は大声を出した。
「確かに、あの哀川にゃあ、お似合いの話……」
 声が、不意に途切れた。代わりに、ごつんという鈍い音と、がらがらと椅子や机が転がる音が響く。
 べらべらと喋っていたその生徒の顔の真ん中を、今までじっと黙って座っていた別の生徒が、いきなり殴打したのだ。
「ひ、火谷さん、何すん……」
 ですか、と言う前に、生徒は再び殴られた。
 火谷と呼ばれたその生徒は、その胴体に馬乗りになって、無表情のまま、両手で殴り続ける。
 短い泣き声混じりの悲鳴に重なって、ごっ、ごっという鈍い音が、教室に何度も響いた。

「火谷、お前なア」
 生徒指導室という名の狭苦しい部屋で、パイプ椅子に座った体育教師が、立ったままの火谷陽一郎に言った。
「いいかげんにしとけよ。今度あんなことしたら、かばいきれんぞ」
 格別体格がいいわけでもなく、こわもてをしているわけでもないその十七歳の少年を、生徒指導担当の教師は、どこか持て余しているようだった。
 火谷が、突然に生徒を殴ることは、すでに日常茶飯事である。しかも、彼は相手を殴る理由を、けして人に話さなかった。
 さらには、周囲から見れば、火谷が相手を殴る理由は、一切見当たらないのである。学校において、火谷はいつ炸裂するか分からない爆発物のような存在だった。
「せめて、なんで殴ったかくらい言えや。俺も報告書が書けんだろう」
 冗談めかした口調で、教師が同じようなことを繰り返した。
 しかし、火谷は無表情に視線を泳がせているだけで、何も言わない。
 火谷の父親は、この地方における有力者である。が、その神通力にも限界がある。おそらく、遠からず火谷は退学処分を受けるだろう。今まで在籍できていたことの方が、むしろ奇跡のようだ。
「聞いてるのか! オイ!」
 体育教師が、手に持ったファイルを机に叩きつける。
(殴ってやろうか)
 火谷は、ぼんやりとそんなことを考えていた。
(普通、喋ってる相手は、喋り終わるまで、殴り返してこない)
 部屋の中にある、武器になりそうな硬いものや重いものを物色しながら、火谷は考えている。
(あの時計の針が十五分のところに来るまで喋っているようだったら、殴ろう)
 火谷を六時十四分二十二秒で解放したその教師は、幸運だった。



 火谷は、自分のことを特に暴力的な人間だとは思っていない。
 ただ、話をするよりも、相手を殴った方が、自分の意思が通る。そのことに気付いたのである。
 火谷の父親は、極端に謹厳な男だった。躾は厳しくあるべきと考え、些細なことで息子の火谷に手を上げた。竹刀や木刀で打ち据えることもあった。
 ある日、まだ十歳を少し越えたばかりの火谷は、はずみで、父親が折檻に使っていた木刀を受け止めてしまった。
 ――親に歯向かうのか。
 これまで見せた中で最も恐ろしい顔で迫る父親の腹を、火谷は無我夢中で突いた。
 鳩尾を突かれ、たまらずうずくまる父が起きあがらないことを祈るように、火谷は猛烈に父親を打った。何度も何度も打った。
 父親は全身四箇所を骨折した。
 これまで、その傾向はあったものの、火谷が人を殴ることで意志を通すことを強く自覚したのは、その時が最初だった。
 火谷自身も、それがあまりよくないことであるとは漠然と思っていた。しかし、それではどうすればいいのか、誰も教えてくれなかったし、学ぼうとも思わなかった。
 無論、相手も、ただ殴られるだけではない。反撃することもある。だから火谷は、反撃される前に、反撃する意志を失うような打撃を相手に与えなければならない。そのために道具を使うのが有効であると判断すれば、火谷は躊躇無くそうした。
 それに、激しく反撃をしてくるような相手であるほど、一度徹底的に痛めつければ、後はひどく従順になる。校内の、いわゆる不良と呼ばれるような勉強のできない連中は、皆、火谷を恐れ、卑屈な笑みでへつらった。
 そんな火谷にとって、最も苦手な相手は、殴り返してこない存在だった。



「大変だったな、哀川」
 灰色の夕闇に沈む校舎で偶然出会ったその少女に、火谷は声をかけた。
 少女が、華奢な体をびくっと震わせる。
 哀川繭美というのが、彼女の名だった。肩の上でおとなしく切りそろえられた、やや癖のある褐色の髪に、眼鏡の奥の色素の薄い瞳。白い肌には、わずかにそばかすが浮いている。
 その小さな体は、まるで、この高校の校舎に迷い込んできた中学生のように頼りなかった。
 十代の子供たちは、その集団の中で最もひ弱な者に牙を剥く。
 繭美は、クラスで浮いた存在だった。女子にはあからさまに無視され、男子にはその未発達な体を陰に陽に揶揄されていた。
「なにが……?」
 怯えと、そして警戒感のこもった声で、繭美が訊いた。
「いや、だから……お前の、母親」
 言葉を千切って投げるような感じで、火谷が言う。
「そのことなら、ほっといて」
 そう言って、繭美は逃げるように身を翻す。
「待てよ!」
 火谷は、乱暴に繭美の薄い肩をつかんでいた。
「いた……は、はなして……」
 声を震わせながら、それでも繭美が気丈に言う。が、火谷は離さなかった。
「やめてよ……なんでみんな、あたしのこと、そうやって苛めるの?」
「違う……俺は……」
 火谷には、言わなくてはならないことがあった。
 しかし、なぜか言葉が出ない。喉が詰まり、冷や汗までがにじみ出る。
「離してったらあ!」
 繭美は、罠から逃れようとする小動物のように、激しくもがいた。
 ようやく火谷の手が繭美の肩から外れた。繭美は冷たいリノリウムの上に無様に尻餅をついてしまう。
 何か言いかけた火谷の顔を、繭美は涙をためた目で睨んだ。
「あたし、火谷くんみたいな人、嫌い! 人を殴って言うこときかせようとするなんて、最低よ!」
 あまりにも真正面から自分自身を否定され、火谷はかっと頭に血が上った。
 思わず、手を上げそうになる。
「殴ればいいわ!」
 繭美は、燃えるような瞳で、火谷を見つめ続けている。その顔は、普段の彼女からは考えられないほどに、生気に満ちていた。
「火谷くんなんか怖くない! あたしには、イドがいるんだから!」
(イド……?)
 火谷は、思わず眉を曇らせた。
 と、その隙を見逃さず、繭美が、まさに脱兎の如く駆け出す。
 火谷は、忙しく動く少女の細い脚を見つめながら、じっと立ち尽くしていた。



 火谷は、一人、新築のマンションで暮らしている。
 火谷の父親は、自らの世間体と自尊心を取り繕うために、息子を家庭から追放したのだ。
 暗褐色のフローリングの床にはペットボトルが幾つもころがり、打ちっぱなしの壁には、いかなる飾り付けもない。
 青黒く塗装されたスチールのベッドに固いマットレスを敷き、火谷はその上に横たわっていた。
「哀川……」
 せわしい息の合間にそう呟きながら、痛みを覚えるほどに激しく自らを慰める。
 妄想の中でうねる華奢な裸体に、薄暗い廊下で垣間見た少女の力強い瞳の映像が重なる。
「哀川……哀川……!」
 火谷は、うめくようにそう言い、命の雫を空しく自らの手の中に放った。

 深夜、火谷は、繭美の家に向かっていた。
 激しい自慰行為のあとの、ぼんやりとした頭のまま、夜の街を横切る。月が、薄い雲の隙間から、白い月光を降らせていた。
 狭苦しい迷路のような古い住宅街を、奥へ奥へと進んでいく。繭美を意識し始めてすぐ、彼女を尾行して知った道順だ。
 行き止まりになった未舗装の道路に面した、廃屋と見紛うばかりに古臭い平屋の借家。それが、繭美の家だった。
 週に一度か二度は、火谷は、ここまでほとんど無意識のうちに来てしまう。火谷の足で、二十分くらいの距離である。そして、一時間ほどじっと少女の家を眺め、そして自分の部屋に帰るのだ。
 しかし、今夜は違った。
 自分を、あの激しい目で睨んだ少女が、あの家の中にいる。
 繭美の家には、塀も何も無い。火谷と繭美を隔てるのは、あの建付けの悪そうなガラス戸しかないのだ。歪んでしまったのか、それとも腐っているのか、深夜でも少女の部屋の雨戸は一枚しか閉められていない。
 火谷は、おぼつかない足取りで歩き始めていた。
 まるで、雲を踏むように頼りない。
 そして、火谷は、壊れかけた縁側に手をついていた。
 カーテンの隙間から、暗い部屋の中がうかがえる。
 次第に、闇に、目が慣れてきた。
「……!」
 火谷は、息を飲んだ。
 ひどく非現実的な風景が、古びた六畳の部屋の中の、薄い布団の上で繰り広げられている。
 部屋の中で、何か白いものが、絡みあっているのだ。
 全裸の繭美と、それに絡みつく、奇妙な存在。
 “それ”は、火谷の知っているいかなる生物にも似ていなかった。
 “それ”の胴体は、辛うじて、何かの甲虫に似ているといえた。ただ、見ようによっては、亀の甲羅のようにも見える。
 そこから、イモリのそれを思わせる首が伸びている。その部分だけで、人の背丈くらいはある巨大な首だ。
 首の先端にある頭部も、どこかイモリを思わせた。ただ、ひゅるひゅると舌を踊らせる、ぱっくり裂けた口はあっても、目らしきものはどこにも無い。
 両生類か、ある種の軟体動物を思わせるぬめりに覆われたその肌は、奇妙に生白く、その内側の暗灰色の内臓が半ば透けて見える。そのせいで、“それ”は全体にくすんだ銀色に見えた。
 そして、胴体の両脇からも、同様のぬめりにぬらぬらと濡れた触手が三本ずつ、合計六本生えている。
 膝立ちになった繭美の華奢な裸体に絡みついているのは、かすかにピンク色をした、その触手たちだった。
 繭美は、眼鏡をかけたままの顔をうっとりとさせ、触手が自らの肌をまさぐるに任せている。
「あ……ンふ……んん……ぅン……ンはっ……」
 その小さな口が半ば開き、細く可愛い喘ぎ声を漏らしているのが、火谷にも分かった。
 少女の可憐な唇を、“それ”の細長い舌がなぞる。
 繭美は、普段の大人しい彼女からは考えられないような淫らな表情で、“それ”の舌を咥え、自らの舌を絡めた。
 “それ”が、繭美の体を六本の触手で抱き寄せる。
 繭美が、それに応えるように、“それ”の首を抱いた。
「イド……」
 繭美が、“それ”に呼びかけた。
「して……もっと、まゆみをきもちよくして……」
 蕩けるような淫らな声で、繭美が異形の存在に愛撫をねだっている。
 “それ”は、ぬらつく触手で、華奢な繭美の体を撫で上げながら、細長い舌を右の乳首に伸ばした。
「はゥ……ん」
 ピンク色の小粒な乳首を舌が嬲ると、繭美はぴくンと体を小さく震わせた。
 “それ”は、首をぎゅうっと曲げ、繭美の薄い胸にその顔を寄せた。そして、ぱっくりと割れた口で、舌の刺激に濡れ尖った繭美の乳首に噛み付く。その歯は、奇妙なほどに、人間のそれに似ていた。
「ンふッ! ン、んんんんんんッ!」
 “それ”は、乳首に舌を絡めたり、歯でしごくようにしたりして、繭美の乳首を弄ぶ。
「あ……もっと、もっとまゆみのおっぱい、いじめて……」
 年よりもなお幼く見える少女の訴え通り、“それ”は繭美の乳房にきりきりと歯を立てた。
「ンくうううううううッ」
 繭美は、声を殺すために右手の人差し指を噛みながらも、高い喘ぎ声をあげてしまう。
 そんな繭美のせり出した細い腰に、蠢く触手が絡みつく。
「はひっ!」
 びくん、と繭美の体が痙攣する。
 あやしげなぬめりを体表から分泌する“それ”の触手が、繭美の秘部に触れたのだ。
 繭美の細い手首と同じ位の太さのその触手が、ずりずりと繭美の靡肉をこする。
「ン、はッ、んんン、はぁアっ!」
 その、非人間的な愛撫に声をあげながら、繭美は“それ”の頭部にしがみついた。
 そして、はしたなくも腰をグラインドさせ、自らの柔らかな粘膜を触手にこすりつける。
 触手は、生ゴムのような微妙な硬さを有し、その表面の不気味な凹凸が、繭美に異様な快楽もたらした。
 繭美の、数えることができるくらいの薄い陰毛が、幼げな恥丘にべったりとはりついてる。その下で、淫猥にめくれあがった紅い靡肉が、愛液に溺れるようにしてよじれていた。
「あ……あ……あ……」
 声をあげるのを無理に抑えているせいか、繭美の顔に、痴呆じみた恍惚の表情が浮かんでいた。その顔からは、いつしか眼鏡がはずれている。
 繭美の白い肌を、触手たちは無残に汚しながら、愛撫し続けた。
 つんと尖った乳首や、薄い乳房、なだらかな脇腹や背中、細い首、耳たぶ、半開きになった桜色の唇、赤く染まった耳たぶ……
 そして、“それ”は骨を持たぬもののように、ぐっと太い首を曲げ、少女の股間に頭をねじこんでいた。
「あッ!」
 長い舌が、包皮に守られた陰核を残酷に剥き出しにする。
「ああ……だめ、そんなの……」
 恐怖の入り混じった期待感に、繭美はふるふると首を振る。
 しかし“それ”は、ためらう様子など見せもせず、おののく肉色の真珠に舌を絡みつかせた。
「あ……………………ッ!」
 強烈すぎる快感に、繭美が、声にならない絶叫をあげた。
 そして、ぴん、と硬直した体から、次第に力が抜けていく。
 “それ”は、ぐったりとした真弓の体を、布団の上に横たえた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
 陸に上げられた哀れな魚のように口を開閉しながら、繭美は、荒い呼吸を続けている。
 その繭美の細く小さな体に、“それ”がのしかかった。
「あぁ……」
 繭美が、至福の表情を浮かべる。
「おねがい……きて……あなたのあつくてかたいの……まゆみのなかに……いれてえ……」
 そんな繭美の声を理解しているのかいないのか、“それ”は、甲羅じみた胴体の下部から、不気味な器官をあらわにした。
 透明な粘液に濡れそぼるその黒い器官は、鎌首をもたげた太い蛇を思わせる。
 繭美は、手を伸ばして“それ”の不気味な男根に触れ、愛しげに撫でさすった。
「すごい……は、はやく、はやくう……」
 繭美が、濡れた声と潤んだ瞳で哀願する。
 繭美の細い腕くらいはありそうな“それ”の器官が、繭美の秘部に押し当てられた。
 繭美が、心持ち腰を浮かして、挿入をねだる。
 そして――
「あぅッ!」
 “それ”は、深々と繭美の体を貫いた。
 “それ”が、重たげな体を六本の触手で支え、抽送を始める。
 “それ”の凶暴な男根が少女の秘裂をえぐり、おびただしい量の透明な愛液を溢れさせた。
「ンはぁ……す、すごい……きもちイイよお……」
 繭美は、さらに腰を浮かせ、“それ”の激しい動きを体内深くに迎え入れた。
 まだ幼さを多分に残す繭美の靡粘膜が、痛々しいほどに引き伸ばされ、そこを出入りするどす黒い“それ”の男根が、粘液に濡れて光っている。
 繭美の小さな拳が、薄汚れたシーツをぎゅっとつかみ、その眉は切なげにたわめられている。
 “それ”の、まるで嗤っているような形に裂けた口から、長い舌が繭美の唇に伸ばされた。
 繭美は、まるで愛しい想い人のキスを受け入れるような表情で、その舌に、舌を絡め、ふンふンと可愛く鼻を鳴らす。
「んんんんんんンッ!」
 口腔に舌を迎え入れたまま、繭美は悲鳴をあげた。
 “それ”が、体を起こすようにして、繭美の膣の上側を男根できつくえぐったのである。
 いわゆるGスポットを強く刺激され、排尿感に似た快感に繭美は身悶えた。
 しかし、“それ”はさらに身を起こし、繭美の下半身をさらに持ち上げる。
「んーッ! ン! んぶぅ! んぅうううううううウ!」
 体内に打ち込まれた“それ”の陰茎によって腰を高く吊るされ、心ならずもブリッジの姿勢をとらされながら、繭美はくぐもった悲鳴をあげつづける。
 しかし、その悲鳴は、苦痛によってもたらされる強烈な快楽に濡れていた。
 “それ”は、ひとことも声を漏らさず、ただただ抽送を速めるだけである。
「んぅン……ン、んんん、んッ! んんん! んんんんん〜ッ!」
 と、のけぞった繭美の体が、断末魔のようにびくびくと痙攣した。
「んううううううううううううううううううううううううううううううううッ!」
 ぷしゃああああ……という音とともに、繭美の股間で透明な液がしぶく。
 数瞬遅れて、“それ”も、小刻みに体を震わせた。
 そして、繭美を逃がすまいとするかのように、二本の触手でその小さな体を抱え込む。
「あ……あつい……ッ!」
 ようやく“それ”の舌から口を解放された繭美が、顔をのけぞらせて叫んだ。
 どくっ、どくっ、どくっ……! という、“それ”の体液が繭美の体に注ぎ込まれる音までが、聞こえるようである。
 ――そんなことを思いながら、火谷は、ズボンの中におびただしい量の熱い精を漏らしていた。


後編

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