ふらっと・はーれむ



エンディング



「バロネッサちゃん、改めて、お疲れ様」
「あっ、あふ、あぁん……お、お疲れ様でした……あふうン……」
 バロネッサが、篤の腰に跨がったまま、そう答える。
 バロネッサの秘唇は、篤の巨根をぐっぷりと咥え、とろとろと愛液を溢れさせていた。
 ここは、篤の部屋――時刻は明け方近かった。
 今のバロネッサは、その白い裸身に何もまとっていない。黒い革製のように見える長手袋やブーツも、脱ぎ捨ててしまっている。
「――もしかすると、バロネッサちゃんの裸って、初めて見るかも」
 そう言いながら、篤は、バロネッサの右手を手に取った。
「爪、きちんと切ってあるんだね。意外だなぁ」
「ハ、ハイ……そ、その方が、ご主人様がお喜びになるかと思って……」
「そだね。長く伸ばしてるより可愛いよ」
 篤は、口元に笑みを浮かべてから、バロネッサの指を口に含んだ。
「あうン……あっ、ああぁっ……!」
 篤の舌に右手の指を舐めしゃぶられ、バロネッサが声を上げる。
「はっ、あふ……あふうン……ああぁ……気持ちいいですわ……うくぅ……」
 うっとりとそう言いながら、バロネッサが、空いている方の左手の指に、自ら歯を立てる。
「はっ、はふ、あうう……ああぁン……! ああ……こ、腰が、勝手に動いてしまいます……はひィ……っ!」
「ふふふ……お尻ふりふりして……本当に可愛いよ」
 篤は、そう言って、下から腰を突き上げた。
「あうっ、うくうっ……! あはっ、はふ、んふっ、はあぁンっ……!」
 鼻にかかった嬌声を上げながら、バロネッサが体をくねらせる。
 目の前でぶるぶると揺れる砲弾型のたわわな乳房を、篤は、両手で鷲掴みにした。
「あくっ……! あひ、あひい、はひいン……!」
 柔らかく張りのある双乳をパン生地のように捏ね回され、バロネッサが背中を反らしながら悶える。
「あああっ、だ、だめですわ、ご主人様っ……! そ、そんなにしていただいたら……わ、私……あうううっ!」
「イキそうなんだね? バロネッサちゃんのマンコ、ビクビク動いてるよ」
 多少呼吸を早くしながらも、まだ余裕ありげな口調で、篤が言う。
「ハ、ハイ、そうです……! バロネッサの卑しいマンコは、もう、イキそうになってますっ……! あうっ、ああああっ、あひ……! ひあああああああっ!」
「いいよ、ボクに遠慮しなくても……ほら、イってごらん」
「ああっ、あひ、あひ、あひい、はひいいいいいぃーっ!」
 逞しい肉棒で膣壁をこすられ、バロネッサが悲鳴のような声を上げる。
「あっ、あああっ……! 申し訳ありませんっ……! 私……私、イってしまいますっ……! あっ、ああっ、あひ……! あああああああああぁ〜っ!」
 びくっ、びくっ、びくっ、びくっ、とあどけない外観の体を痙攣させ、バロネッサが絶頂を極めた。
 篤の肉棒を包み込む靡肉がうねうねと動く。
 篤は、ぐっと下腹部に力を込め、射精感をやり過ごした。
「あっ、あはあああぁぁぁ……はひいぃン……」
 バロネッサが、篤の突き出た腹の上にうつ伏せになる。
「あっ、あふ、あふう……ふあぁン……イ……イってしまいました……」
「ふふ……可愛かったよ。バロネッサちゃんのアヘ顔」
「い、いやですわ……恥ずかしい……」
 バロネッサが、頬を赤らめながら、篤の胸に頬ずりする。
 篤は、満足げな笑みを浮かべながら、バロネッサの乱れたブロンドを指ですいた。
「……ねえ、ご主人様」
 しばらく篤の乳首を指先で撫でていたバロネッサが口を開く。
「なぁに?」
「よろしいんですの? あの男をあのままにして……」
 低く抑えた声で、バロネッサが言う。
 あの男というのは、言うまでもなく、鮎原時夫のことだ。
 あの後、時夫は、絶望に打ちひしがれながら、一人夜の街へと歩いていった。
 五体満足で、声も出せるようになり、精神も辛うじて平衡を保ったままの状態で、だ。
 酒でも煽っているか、どこか路地裏でむせび泣いているか、それとも安ホテルの中で眠りの中に逃避しているか――それは、分からない。
「……でも、もちろん、ご主人様がそうしろと仰るなら、いつでもあの男の命を断つことができますわ」
「――ダメだよ、そんなこと」
 篤が、まるで娘を叱る父親のような声で言った。
「え……?」
「あの人は、たとえどんな人でも、真夏ちゃんや小春ちゃんのお父さんなんだからね。変な気を起こさないよう、気を付けてれば充分だよ」
「で、でも……ご主人様のお父様やお母様は、あの男に……」
「直接、手をかけられたわけじゃない。二人とも自殺だもの」
 そう言ってから、篤はバロネッサの青い瞳を見つめた。
「なのに、そんな簡単に人殺しの話をされちゃうと、ボク、困っちゃうよ」
 篤の顔はそのままだが、目に、やや険しい光が宿っている。
「あ、あの……お許しください……口が過ぎましたわ……」
 バロネッサは、声を震わせ、目に涙を浮かべた。
「私が浅はかでした……。お願いです……私のこと、嫌いにならないで……」
「ふふふ……分かってくれればいいんだよ。バロネッサちゃんは素直でイイ子だね」
 篤は、バロネッサの体を太い腕で抱き締め、再び腰を使い出した。
「あっ、あううっ……ああ……ご主人様ぁ……」
「それにね……あの人には、感謝してないでもないんだよ」
「あうっ……そ、それは、どういう……あはぁん……!」
「バロネッサちゃんと知り合えたのも、みんなとああいう関係になれたのも、もとはと言えばあの人が始まりだからね……。あの人が、ボクのために三人を用意してくれたようなもんだし」
「はぁ、はぁ、はあぁ……で、でも……はひいン……」
 未だ、バロネッサは完全に納得している様子ではない。
「もちろん、妊娠した千秋さんの代わりに、ボクの母さんに手を出したこと、許すわけじゃないよ」
 そう言いながら、篤が、次第に腰の動きを速くする。
「あっ、あうううっ、うく、はふううっ……で、でしたら……なぜ……? あああああン……!」
「だって……母さんが死んだのは、あの人にレイプされたからじゃなくて……あの人に捨てられたからなんだよ」
 そう言いながら、篤が、バロネッサの子宮口まで、剛直を繰り出す。
「はひいいいいいいいン!」
「それなのに……母さんの恨みを引き継いで鮎原の家の人たちに復讐するなんておかしいじゃない。母さんはボクを捨てたんだし――そもそも、小春ちゃんや真夏ちゃんに何の罪も無いんだしね」
 篤が、ますます力強く、肉棒をピストンさせる。
「あうっ、うああっ、あくっ、あひいっ、ひああああっ……!」
 もはや、バロネッサは、強烈な快感に声を上げるだけで、篤の言葉に答える余裕すら失っている。
 いや、その声が、耳に届いているかどうかさえ疑わしい。
 そして、篤も、その目を、天井の片隅に向けていた。
 そこにわだかまる暗闇に、女の顔が浮かぶ。
 篤は、それを、無表情に睨み付けた。
「あんたの復讐の道具になるなんて真っ平だよ、母さん……。ボクは、ボクで幸せに生活していくんだから」
 女の顔が、何か言いたげに、口を開く。
 その目には、狂おしいほどの憎悪と怨嗟、そして絶望的な怒りがあった。
 篤が、バロネッサを抱きながら、その熱く冷たい視線を真っ向から受け止める。
「あんたのくれた力で、ボクはこれからも楽しませてもらう。あんたは、帰るべき場所に帰るがいいよ……!」
「ああああああああああああああ〜っ!」
 宙に浮かぶ顔が何か叫ぼうとしたその時、バロネッサが白い喉を反らして声を上げた。
「あひいいンっ! ご、ご主人様っ……! わ、私、イキますっ! またイっちゃいますうっ!」
「いいよ、バロネッサちゃん……何度でもイキなよっ!」
 篤が、叫ぶように言い、上体を起こした。
「ンあああああああっ」
 膣内に深く突き刺さった肉棒が大きく動き、バロネッサが、歓喜の悲鳴を上げながら篤の巨体にしがみつく。
 篤は、もはや宙に浮かぶ顔に目もくれず、バロネッサのヒップを両手で抱え、激しく上下に動かした。
「あうううッ! ひいッ! ひぃーッ! イ、イクっ! イクうっ! あひ、あひい、はひいいぃ……イクううううううううう〜ッ!」
 バロネッサが、叫び声を上げながら、篤の背中に爪を立てる。
 その背中に畳まれていた黒い翼が大きく広がり、表面に、無数の目が浮かび上がった。
「あふっ! はひいいいい! まっ、またっ! またイクっ! イキますうっ! あひいいいいいい! イ、イ、イ、イクうううううううぅ〜!」
 バロネッサが、さらなる絶頂を極めながら、絶叫する。
 宙に浮いていた顔は、いつの間にか、長い黒髪を煙のようにたなびかせながら、二人の周囲を巡るように飛んでいた。
 だが、顔は、ある一定以上の距離に近づくことができない様子だ。
「ひああっ! あっ、あうううっ! お、お願いですっ! ご主人様も――ご主人様もイってくださいっ! はひっ、ひいいんっ、ひはあああっ! バロネッサだけイクの、もうイヤあぁっ! あひいいいいいいっ!」
「うん、イクよ……イクよっ……! バロネッサちゃんっ……! うううううううううう!」
 バロネッサの腰を引き寄せ、ひときわ深く肉棒を挿入しながら、篤が声を上げる。
「あっ、あっ、あっ、あっ、ああっ、あああっ! ご、ご主人様――ご主人様ああああああぁ〜っ!」
 びゅっ! びゅくっ! どびゅ! どびゅびゅ! ぶびゅ! びゅびゅびゅびゅぶぶぶぶぶぶぶ!
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ〜! イク! イク! イク! イク! イク! イクうううううううううううううううぅーッ!」
 大量の精を子宮に注ぎ込まれ、バロネッサは、連続して絶頂を極めた。
 そのたびに、翼に現れた瞳がカッと開き、目に見えない波動を迸らせる。
「…………!」
 宙に浮いた顔が、二人を中心に放射される不可視の力に打ちのめされ、声にならない悲鳴を上げる。
 それは、自らの構成因子を拡散させ、その存在そのものを次第に希薄にさせながら、篤を睨み続けた。
 皮膚が剥げ、肉が崩れ、髑髏になりながら、眼窩に収まった眼球を血走らせ、視線を放つ。
 だが、その目も、まるで熱を加えられた卵のように濁り――そして、風に吹き払われた煙のように、消えてしまった。
「あああぁぁ……あふ……はひいいぃ……あ……ああああ……はふうううぅン……」
 バロネッサが、ぐったりと体を弛緩させ、篤の体にもたれかかる。
 篤は、バロネッサの上気した頬に優しく手を沿え、半開きの唇に、唇を重ねた。
「うっ……うぅン……うふ……ちゅっ……ちゅむ、ちゅうっ……んふぅン……」
 うっとりと目を閉じたバロネッサが、まるで乙女のようにたどたどしく、篤の舌に舌を絡める。
 たっぷりとバロネッサの口唇を味わってから、篤が、唇を離した。
 その顔に、爽やかと言ってもいいような笑顔が浮かんでいる。
「さあ……まだまだこれからだよ……バロネッサちゃん……」
 篤が、あれほど精液を放ちながらも、まだ固いままの肉棒を、バロネッサの中で動かす。
「あぁ……すごい……素敵です……ご主人様ぁ……」
 バロネッサが、陶酔しきったような声で言い、そのすらりとした脚を篤の腰に絡み付ける。
 そして――
 次第に白んでくる空の光がカーテンの隙間から入り込むそのアパートの部屋の中で、咽ぶような快楽の声が、いつまでも、いつまでも、響き続けた。




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