ふらっと・はーれむ



第3話



「ちゅぶっ、ちゅぶぶ、んぢゅ、ちゅむむ、んちゅ、ちゅむう……」
 湿った音が、肥田篤の住むアパートの一室に響いている。
 カーテンの隙間から洩れ入る朝日の爽やかさとは対照的な、卑猥な音だ。
「ハァ、ハァ、ハァ……あああ、いいよォ……ふひい……」
 篤は、だらしなく万年床の上に横たわりながら、口淫の快楽に声を上げていた。
「ちゅっ、ちゅぶぶ、んちゅ……あむ、はむむ、んむむ……れろれろれろれろ……」
 篤の突き出た腹の下に顔を埋め、肉棒に奉仕しているのは、バロネッサだ。
 その、あどけなさを残した整った顔が、隠しようのない欲情に上気している。
「んむむ……はぷ……ちゅぱちゅぱちゅぱ……ちゅむっ、ちゅぶぶ、ちゅむぅ〜っ……!」
 バロネッサが、細い指で篤の剛直を扱きたてながら、裏筋に舌を這わせ、強く吸引した。
 浅ましく血管を浮かしたシャフトが、ひくん、ひくん、と脈打っている。
「あうう……も、もう出そう……」
 鼻を膨らませて息をしながら、篤が声を上げる。
 その言葉に応えるように、バロネッサは、口唇愛撫のピッチを上げた。
 可愛らしいピンク色の唇が亀頭にかぶさり、その中で舌が激しく蠢く。
「うっ、うううっ、うぐ……で、出るうっ……!」
 ドビュッ! ビュッ! ビュビュビュ! ドビュー!
 バロネッサの口内に、篤が大量に射精する。
「ン……ンンン……んむ……んふ、ふうう、んふううっ……!」
 熱い奔流を舌の裏で受け止めながら、バロネッサが、粘つく精液を口の中に溜める。
 ――ちゅぽん。
 バロネッサが、唇を締めたまま、亀頭から口を離した。
 そして、いつのまにか用意していた薬瓶のような容器に、てろーっ、と口の中の液体を吐き出す。
 唾液と精液の混じった白濁した液体が、小さな容器をたっぷりと満たした。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……気持ち良かったよォ……」
 篤が、バロネッサに声をかけた。
 バロネッサが、まだ赤く染まったままの顔で、篤の方を向く。
「あ……あの……」
「ん〜、どうしたのォ?」
「……っ!」
 わざとらしい篤の物言いに、バロネッサは、綺麗な柳眉を逆立てた。
「あー、ウソウソ。ほら、今度は飲んでもいいよ」
 そう言って、篤が、上体を起こして、バロネッサに向かって腰を突き出す。
「べ、別に、そんなこと、要求していませんわ……」
 そう言いながらも、バロネッサは、萎えかけの篤のペニスに視線を移した。
 唾液と腺液、そして精液の残滓に濡れた褐色の肉棒が、てらてらと朝日を反射させている。
「でも、ボクがしてほしいんだよ……。ほら、もう一回抜いてよ」
 篤が、腹を揺するようにしてそう言う。
「し……しかたないですわね……もう……」
 バロネッサが、潤んだ瞳で篤の肉棒を見つめたまま、そう言う。
 そして、バロネッサは、再び篤の股間に顔をうずめた。
「あうう……きもちイイぃ〜」
 篤は、上体を曲げ、バロネッサの後頭部に覆いかぶさるようにしながら、その豊かな双乳に手を伸ばした。
「うっ、うううン……うふ……んっ、んむむ、ちゅぶぶぶっ……!」
 革のような外観のコスチュームの上から胸の膨らみを揉まれ、媚びるような鼻息を漏らしながら、バロネッサは、篤のペニスを情熱的に舐めしゃぶった。



「まったく……」
 何やら口の中でぶつぶつと言いながら、バロネッサは篤の部屋を出た。
 そして、篤の部屋の隣のドアを開けるべく、ノブに手をかける。
「あれぇ?」
 不意に、よく通る声が、バロネッサの頭上から降ってきた。
 見ると、二階の住人である天城美鶴が、外階段の途中で立ち止まっている。
「……何ですの?」
 驚きに見開かれた美鶴の目をじっと見つめながら、バロネッサは言った。
 そのブルーの瞳が、妖しい光をたたえている。
「あ、いや、そのさあ……えーと……」
 ボンデージファッションに身を包んだ、角や翼や尻尾を備えるバロネッサの姿を前にして、美鶴がゴシゴシと右目をこする。
「私、何かおかしい格好してます?」
「え……う、ううん……んなこた無い……と、思う……」
 美鶴は、ぱちぱちと目をしばたたかせた後、曖昧な口調で言った。
「あ……えっと、アンタ、いつからここに住んでたっけ?」
 美鶴が、階段から下りきってから、バロネッサに訊いた。
「この春からですわ。そう言えば、ご挨拶がまだでしたかしら?」
 にっこりとほほ笑みながら、バロネッサが言う。
「あ、そうだったかな……えーっと、まあ、とりあえず、ヨロシク」
「ええ、よろしくお願いしますわ」
 魅惑的な笑みを浮かべたまま、バロネッサは、腰を折ってお辞儀をした。
「あ、天城さぁん、ちょっと待ってくださいよぉ」
 そこに、髪を自分で三つ編みにしながら、本条桜が現れる。
 バロネッサは、再びブルーの目を光らせながら、桜のメガネの奥の瞳を見つめる。
「あ……お、おはようございます……えーっと」
 階段を下りながら、桜が、小首をかしげる。
「バロネッサですわ」
「あ……ご、ごめんなさい。バロネッサさん、おはようございます」
 改めてそう言って、桜は、ぺこんと頭を下げた。
「お出掛けですの?」
 バロネッサが、二人のどちらにとも無く訊いた。
「うん、ガッコ。一限必須なのに代返してくれるコいなくてさあ」
 打ち解けた口調で、美鶴が言う。それでも、馴れ馴れしく聞こえないところは、彼女のさっぱりした声音によるところだろう。
「って、あー、そろそろ電車の時間ヤバイかもしんないなあ」
 細い手首に巻かれた高そうな腕時計を見ながら、美鶴が呑気そうに言った。
「そんなあ。天城さん、早くしなくちゃ!」
「そりゃ、アンタが寝坊したからでしょうに。今度は容赦なく置いてくヨ」
「今だって、置いてこうとしてたじゃないですか」
 むー、と小さくうなってから、桜が抗議する。
「だって、桜ってばトロすぎんだもん。そんなんじゃ、オトコ見つけんのも一苦労ヨ」
「か、関係ないです、そんなの……!」
 美鶴の軽口に、桜は頬を赤く染めながら声を上げた。
「じゃあ、行ってきまーす」
 美鶴は、桜に取り合う事なく、バロネッサにそう挨拶して、歩きだした。
「あ……もう、待ってくださいってばぁ……」
 桜が、美鶴の後を慌てて追う。
「……ずいぶんと楽しそうですこと」
 バロネッサは、二人の後ろ姿を目で追いかけてから、どこか拗ねたような口調で、つぶやいた。



「これでよし、と……」
 篤は、水玉模様の白い紙に包まれた茶色いビンを前にして、一人、にんまりとした。
 目の前にあるのは、水で薄めて飲むタイプの、定番の乳酸飲料だ。
 このビンの中に、篤は、バロネッサが何やら怪しげな術で無味無臭にした篤自身の精液を仕込んだのである。
「これを、小春ちゃんに飲ませてあげれば……」
 子供たちの大部分がそうであるように、小春もこの甘酸っぱい飲み物が大の好物だ。篤が苦しい生活の中でこの乳酸飲料を購入するのも、小春のリクエストに応えてのことである。
「飲ませてあげれば……どうなるんだろう」
 篤の想像力は、そこでストップしてしまう。
 バロネッサがあれほど乱れたとは言え、小春は、赤ちゃんの作り方さえ知ってるかどうかという年頃である。いったいどのような反応を見せるのか、見当もつかない。
 いっそ、姉の真夏に飲ませた方が、はっきりした効果は望めそうな気がする。
「でも、真夏ちゃんに飲んでもらうのは難しそうだよなあ……」
 人と話すことは苦手なくせに、篤は独り言が多い。これも、長い一人暮らしゆえである。
 と、その時、篤の部屋に、控えめなノックの音が響いた。
 まだ昼前である。小春が遊びに来るには早すぎる。
「は、はい」
「肥田君……えーっと、鮎原ですけど」
 声の主は、千秋だった。
「は、はい、どうぞ……」
 篤が慌ててドアを開ける。
 果たして、そこにいたのは千秋だった。
 篤は、大きな体を縮こまらせた。
 そろそろ、家賃を催促されてもおかしくないころだ。いや、今まで全くその話が出なかったこと自体、並外れた恩情措置と言っていい。
「えっとね、肥田君……ちょっと言いにくいんだけど……」
 千秋は、その若々しい顔をちょっと曇らせながら、本当に言いにくそうに続けた。
「その……肥田君が大変なのは私も分かってるし……本当にいつだっていいんだけどね……」
 そう言いながら、千秋は、宙をさまよわせていた視線を、部屋の奥に向けた。
 千秋の眉が、今までとは違う感じで寄せられる。
「――肥田君、お部屋散らかってるわね」
「あっ……す、すいません……」
「もう……男の人ってダメねえ……。どうせ、お台所にも、洗い物がたまってるんでしょ」
「は……はい……」
「――お掃除、しましょ。私も手伝って上げるから」
 千秋は、そう言って、うん、と一人肯いた。
 篤に対して家賃を催促するより、この部屋を掃除する方が気が楽だと、そう考えたのだろう。
「で、でも……」
「するったらするの。さあ、まずはお雑巾しぼって……きゃあ!」
 強引に部屋に上がり、流しに目を向けた途端、千秋が目を丸くして悲鳴を上げる。
 さして広くない流しは、無数の食器でうずもれていた。
「うっわー、いつから洗って無いの、この食器」
「え、えっと……」
「う〜ん、これはやり甲斐あるわあ」
 どこか嬉しそうな声を上げて、千秋は腕まくりをした。
「じゃあ、私が流しをするから、肥田君はお部屋を片付けて。いらないものはとっとかないで捨てるのよ」
「は、はい……」
 篤は、素直に返事をした。
 実は、こうやって千秋に家事をしてもらうことも、一度や二度ではない。
 千秋は、家事が苦にならないタイプらしい。むしろ、千秋自身、篤の世話を焼くことを楽しんでいるようにさえ見える。
 篤は、鼻歌を歌いながら洗い物の山に挑みつつある千秋の後ろ姿を、ぼおっと見つめた。
 よく発達したヒップのまろやかな丸みが、スカートの布地越しに見て取れる。
「――――」
 篤は、小さく首を振ってから、まずは敷きっぱなしになってる寝床を片付け始めた。



「ふぅ〜、どうにか片付いたわ」
 千秋は、晴れやかな顔でそう言って、額に浮いた汗を拭った。
「お部屋も、ずいぶん綺麗になったわね。上出来上出来」
 うんうん、と千秋は肯く。
 もともと篤は凝り性なので、やり始めれば部屋の中を綺麗に整頓することもできないわけではない。ただ、初動があまりにも遅すぎるのだが。
「あ〜、なんか喉渇いちゃった」
 そう言って、千秋は、小さなキッチンの片隅に、視線を向けた。
 そこには、例の乳酸飲料のビンが、ぽつねんと立っている。
「肥田君、いいの持ってるわね」
「あ、あれは……」
 さすがに篤は口ごもる。
「いいないいなあ〜」
 本気で欲しがってる口調で、千秋は言った。実際、千秋には酒よりも乳酸飲料の方が似合いそうだ。
「じゃ、じゃあ、その……」
 篤は、生唾を飲み込み、カラカラになっていた喉を湿らせてから、続けた。
「の……飲みますか?」
「いいの?」
 千秋が、子供のような笑顔を浮かべる。
 篤は、肯いて、コップと氷を用意した。
 かすかにその太い指が震えているが、千秋がそれに気付いた様子は無い。
 篤は、やや濃いめに、乳酸飲料を水で薄めた。
「ありがとう♪」
 乳白色の飲み物で満たされたコップを、千秋が笑顔で受け取る。
 篤が、緊張を顔に出さないように苦心しながら、小さなテーブルに、千秋と90度の角度で座った。
 千秋が、白い指で、篤が気を利かせて入れたストローをマドラー代わりにする。
 からころと、涼しげな音が、部屋に響いた。
「男の人って、一人だとぜーんぜんお掃除しないのよねえ」
 千秋が、邪気のない口調でそう言いながら、篤にほほ笑みかける。
 篤は、体が震え出さないように、ぐっと歯を食いしばった。
「あの人も、赴任先で、お部屋、汚くしてるのかなあ……」
 千秋が、少し寂しげにそんなことを言ってから、柔らかそうな朱唇でストローを咥え、白い喉を控えめに上下させて、乳酸飲料を飲む。
 篤は、胸の内側をこすられるような罪悪感を覚えながら、千秋の様子をじっと見つめていた。
「ん、美味しい♪」
 千秋が、にっこりと子供のように無防備な笑顔を見せる。
 親子だけあって、その笑い顔は、小春にそっくりだ。
 それでいながら、母性の象徴のように豊かに膨らんだ乳房は、小春には無い、匂うような魅力をかもし出している。
「……ふー」
 篤の精液入りの乳酸飲料を飲み干してから、千秋は、息をついた。
 心なしか、その頬が、ほんのりと紅く染まっているように見える。
「暑いわよね、今日って……」
 そんなふうに言いながら、千秋は、春物のブラウスのボタンを一つはずした。
 たったそれだけで、篤の目に映る胸元の白い肌の面積が、格段に広がる。体を前に倒して覗き込めば、胸の谷間まで視界に収めることができそうなほどだ。
 そんな千秋の胸元から、篤は、目を離せないでいる。
 と、千秋が、篤の方を向いた。
 視線を上げた篤と千秋の目が、合う。
 その大きな瞳が、情欲に潤んでいるように、篤には見えた。
「……肥田君、大きくなったわよね」
「そ……そうですね」
 千秋の言葉に、篤はどうにかそれだけ答える。
「私が初めて会ったときは、肥田君て小学生だったわよね」
「は、はい」
「もう、十年以上も前よね……。私もオバサンになっちゃったなあ」
「そ、そんなことないですよ!」
 篤は、自分でも驚くほど本気の口調で言った。
「くすっ……ありがと……」
 千秋が、その口元に、今までとは違う笑みを浮かべた。
 柔らかで、落ち着いていながら、成熟した女の色気を秘めた、その笑み――
 篤は、自分の耳の周辺がじんじんと熱く疼いているのを感じていた。
「肥田君、彼女はいるの?」
「い……いません……」
「そっか……。じゃあ、ちょっと寂しいよね……」
 千秋が、無意識にそうしているのか、先ほど外したボタンのすぐ下のボタンを、白い指でいじくっている。
「私も……最近、ちょっと寂しいかなぁ……」
 千秋が、普段からは考えられないような、妖しい流し目で篤の顔を見る。
 その時、とうとう、篤の自制心は限界を迎えた。
「千秋さん……!」
 余裕の無い口調で名前を呼び、その体を太い腕で抱きすくめる。
「あっ……!」
 その拍子に、千秋のブラウスのボタンが、また一つ外れた。
 襟元から、白いブラに包まれた乳房の曲線が見て取れる。
「ひ……肥田君……だめよ、こんな……」
 千秋は、戸惑っているような表情で、すぐ近くの篤の顔を見上げた。
 だが、その顔には、忌避や嫌悪の色は感じられない。
 篤は、脳が煮えるような興奮を覚えながら、千秋の唇に唇を寄せた。
「ン……!」
 とろけそうなほど柔らかな感触が、篤の唇に触れる。
 千秋が、篤の腕の中で小さく身をよじり……そして、次第にぐんなりと力を抜いていった。
 篤が、唇を離す。
 千秋は、明らかに顔を上気させながら、篤のことを見つめていた。
「もう……何てことするの……」
 そう言う千秋の言葉には、責めるような響きは無い。
「キスなんてされたら……余計に、寂しいのがガマンできなくなっちゃうわよ……」
 そんな千秋の言葉の意味を、篤の脳みそは、完全に追い切れていない。
 ただ、千秋が、篤のしたことと、そして、これからするであろうことを受け容れそうになっていることだけは、本能的に分かっていた。
「千秋さん……千秋さんっ……」
 篤が、左腕だけで千秋の体を抱き、右手をそのふっくらとした胸に重ねる。
「あっ……!」
 ぴくっ、と千秋の体が震えた。
 構わず、篤は、その大きな手の平で、千秋の豊かな乳房を服の上からまさぐった。
「あ……あン……だめ……だめよ……そんな……あン……んんン……あっ……」
 千秋の唇から、濡れた声が漏れる。
 言葉では拒んでいながら、千秋は、ほとんどされるがままだ。
 篤は、ブラウスの襟の隙間に、右手を差し込んだ。
「あぁっ……」
 千秋の溜め息のような声が、篤の頬に当たる。
 篤は、ブラの上から、千秋の乳房を撫でさすった。
「あ……あっ……あふっ……やあン……だめェ……」
「千秋さん……すごいです……大きい……」
 目で見る以上のボリュームを手の平で感じながら、篤が、かすれ声で言う。
「そ、そんな……恥ずかしい……あっ、ああん……もうっ……ひ、肥田君が、こんなコだったなんて……あああン……」
 やわやわと乳房を揉まれ、千秋がその体をくねらせる。
 篤は、名残惜しげに千秋の胸から右手を離し、ぎこちない手つきでブラウスの残りのボタンを外していった。
「ああ……」
 千秋が、熱っぽい目で、篤によって露わにされていく自らの体を見つめている。
 ふっくらとした外観の乳房の下半分を、上品なレースのあしらわれた白いブラが、包み込んでいた。
 篤が、両手を千秋の背中に回し、ブラのホックをまさぐる。
 千秋は、されるがままだ。
 ホックが外れ、上品な下着から解放された双乳が、ふるん、と揺れる。
 篤は、鼻息を荒くしながら、ブラを上にずらした。
 ダークローズの乳首が、篤の視界の中に飛び込んで来る。
「す……すごい……」
 篤は、うわ言のように言った。
「ダメ……そんなに見つめないで……恥ずかしいわ……」
 千秋が、自らのバストを両手で隠そうとする。
 篤は、千秋の手首を両手でつかみ、その動きを止めた。
 そして、豊かな胸の谷間に、顔を近付ける。
 むにゅ……。
 頬に触れる柔らかな感触に、篤は、陶然となった。
 すりすりと顔を乳房に擦り付けながら、口で乳首を探す。
「あああン……く、くすぐったいわ、肥田君……はふうン……」
 千秋が、鼻にかかった声を漏らす。
 まろやかな乳肉の上を這い回っていた篤の唇が、千秋の右の乳首を探り当てた。
 篤が、千秋の乳首にむしゃぶりつき、吸い上げる。
「あくンっ……!」
 鋭い刺激に、千秋は弓なりに体を反らした。
「あ……い、痛かった、ですか?」
「う、ううん……」
 千秋が、素直な仕草で首を左右に振る。
 篤は、再び乳首を口に含み、ちゅうちゅうと音が出るほどに吸い立てた。
「あううン……やっ……やああン……そ、そんな……あん、あふう……ああああン……」
 千秋の体が悶え、ふるふるとその巨乳が揺れる。
 篤の口の中で、千秋の乳首が、固く勃起していく。
 篤は、千秋の体を抱き締めるようにしながら、千秋の乳首を交互に吸った。
「ダメ……ダメよ……あああン……そんなに吸っちゃダメぇ……はああン……」
 千秋が、甘い声を上げながら、篤の頭に手をかける。
 だが、その手は、篤を押しのけるどころか、まるで愛撫でもするかのように、その髪を撫で回し始めていた。
「あっ、あああっ、あふ……ダメ……ダメなのにィ……あン、ああン、あくっ……私、悪い奥さんになっちゃう……はふうぅン……」
 千秋の左右の乳首が、篤の唾液に濡れながら、完全に勃起していく。
 篤は、片方の乳首を吸いながら、空いた乳首を指先でころころと転がした。
「きゃうっ……あ、あああンっ……ねえ……そ、そんなにオッパイいじめないで……ああン……せ、切なくなっちゃうわ……ああン……!」
 千秋の言葉に逆らうように、篤は、胸への愛撫をますます厚かましいものにしていった。
 尖った乳首を指の間に挟んだまま、手の平全体で、乳房を撫で回し、揉みしだく。
 篤の大きな手からさえこぼれ落ちそうなほどの巨乳が、揺れ、震え、淫らに形を変えた。
「あうううっ……あふ……あン、ああン、あふ……うくうン……ウ、ウソ……こんなに感じちゃうなんて……あああっ……あん、あはあっ……!」
 千秋は、虚ろな瞳を宙にさ迷わせながら、そんなことを言った。
 ひくん、ひくん、と快感に震える千秋の体に、篤がさらに密着する。
 むっちりと張った太腿に、すでに固く勃起している篤の肉棒が押し付けられた。
「ああ……肥田君の、もうこんなに……」
 千秋は、茫然とした口調で言った。
「はぁ、はぁ、はぁ……千秋さん、触ってくださいよ……」
 篤は、かすれ声でそう言って、千秋の手を己の股間に導いた。
「あぁ……す、すごいわ……」
 布越しの熱く逞しい感触に、千秋は声を上げた。
 そして、ジーンズの上から、形を確かめるように篤の剛直を撫で回す。
「こんなに……こんなに固くなって……それに……おっきい……」
 胸を揉まれ、乳首をしゃぶられながら、千秋が熱に浮かされたような声で言い、篤の股間の膨らみを撫で続ける。
 そのお返しとばかりに、篤は、千秋の脚の間に右手を差し入れた。
「あン……!」
 じっとりと湿った布の向こうに、熱く火照った肉の感触を感じる。
「千秋さん……濡れてる……すごく濡れてるよ……」
「ああン……いやいや……言わないでェ……」
 千秋が、恥ずかしげに顔を伏せ、かぶりを振った。
 だが、その声には、どこか甘えるような響きがある。
 篤は、ショーツの上から、千秋のその部分をまさぐった。
「あっ、あくうっ……あああン……あああぁぁぁ……」
 千秋が、声を震わせながら悶え、喉を反らした。
 じゅわっ、と新たな愛液がショーツを濡らす。
「千秋さん……ボク……入れたいよ……」
 薄い布地の上から秘裂を上下にこすりつつ、篤が言う。
「ねえ、いいでしょ、千秋さん……ボクのチンチン、千秋さんのここに入れていい……?」
「あああン……ひどいわ……そんなこと訊くなんて……んくうン……」
 千秋が、恨む、と言うより拗ねているような目で、篤を見る。
「ねえ……いい……?」
 秘部を愛撫し続けながら、執拗に、篤が千秋の許可を求める。
「あ、あう、ああぁン……ハァ、ハァ……ええ……いいわよ……」
 篤のこわばりに手を重ねたまま、千秋はそう言った。
「で、でも……一度だけよ……肥田君……」
「うん……」
 篤は、小さく肯き、カチャカチャと音をさせながらベルトを外して、ジーンズを脱いだ。
 そして、先走りの汁に濡れたブリーフをずり下ろし、肉棒を露出させる。
「おっきい……」
 千秋の視線が、ふてぶてしいほどに勃起した篤の肉棒に釘付けになる。
 それは、完全に亀頭を露出させ、自らが分泌した体液によって卑猥に濡れ光っていた。
 んく……と、千秋の白い喉が小さく鳴る。
 篤は、千秋の体を、滑稽なほど丁寧に床に横たえ、その上に覆いかぶさった。
 篤の手が、千秋のスカートを捲り上げ、ショーツを下げる。
 千秋の女の部分が、露わになった。
 艶やかなヘアが、ぷっくりとほどよく肉のついた恥丘を上品に飾っている。
「千秋さんっ……」
 篤の腰が、千秋の太ももを割り開く。
「肥田、くん……」
 千秋が、待ちきれなくなったように、篤の肉棒に手を伸ばし、指を添える。
 半ば千秋に導かれるように、篤は、腰を進ませた。
 亀頭が、蜜に濡れ、淫靡に綻んだ花芯に触れる。
「熱いわ……」
 千秋は、酒に酔っているような声で、つぶやいた。
 篤が、さらに腰を進ませる。
「あ……あううン……あっ……ああああああっ……!」
 長大な肉棒が体内に侵入する感覚に、千秋が、背中を反らすようにして声を上げた。
 粘膜と粘膜が、体液に濡れながら、触れ合う面積を広げていく。
 そして、とうとう、熱く柔らかな肉が、篤のペニス全体をぴったりと包み込んだ。
「す、すごいよ……千秋さんの中……」
 篤は、腕立ての格好のまま、声を漏らした。
「ねえ、千秋さん……動いていい?」
「ええ……動いて……いっぱいして……」
 期待に濡れた声で、千秋が言う。
 篤は、ぎくしゃくとした動きで、腰を使い始めた。
「あっ、あうううン……あはぁ……す、すごいわ……肥田君、すごい……はあああンっ……!」
 膨れ上がった肉棒によって膣内をこすられ、千秋が嬌声を上げる。
 そうしているうちに、まるで、本能に導かれるように、篤の動きがスムーズになっていった。
 秘裂を出入りする肉竿に、溢れ出る愛液に濡れた肉襞が絡み付く。
「あっ、あうううっ、あん、あはぁん、あっ、あああっ……すごい……すごいの……! あああっ……あくっ、あひいいいンっ……!」
「千秋さん、気持ちいい? 気持ちいいの?」
「いいっ……いいわ……! す、すごく感じちゃう……! あン! ああン! あはぁっ……! ああっ、ああぁーっ……!」
 千秋の声が、悲鳴のようになる。
 篤は、その声に励まされるように、力強く腰を動かし続けた。
「あああっ! あン! あはぁっ……! ダメぇ……! 私、すぐイっちゃう……イっちゃうの……ああああああン!」
 久しぶりに男を受け入れた千秋の膣内は、早くも、絶頂の予感にひくひくと震えていた。
 ざわつく靡肉が、篤の肉棒を扱き立て、絞り上げる。
「ち、千秋さんっ……ボク……ボクもう出るぅ……!」
「あああっ……いいわ、出してっ……このまま出してぇっ……! あン、ああン、あン、あはぁああっ……!」
「うっ、うううっ……うーっ!」
 ドビュッ! ドビュッ! ドビュッ! ドビュッ!
 獣のように唸りながら、篤は、そのまま射精した。
「ああああああああッ! イク、イク、イク、イっちゃううううっ……!」
 膣内に熱い精液が溢れる感触に、千秋が、絶頂を向かえる。
 篤は、何度か腰を律動させ、さらなる精液を千秋の中に注いだ後、肘を折って千秋の上に覆いかぶさった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
 二人のせわしない息が、部屋に響いている。
「あふぅン……肥田君の……まだ固い……」
 千秋は、うっとりとした声で、そう言った。
 その言葉どおり、篤の肉棒は、千秋の膣内で勃起したままだ。
「まだ、できるの……?」
 篤は、こっくりと肯いてから、再び腰を動かし始めた。
「あううン……あふ……あはぁ……ああぁン……あっ、あひいいン……!」
 絶頂を迎えて敏感になった膣壁が、肉棒に擦られ、さらなる快楽を紡ぎ出す。
 篤は、腰を動かしながら、背中を丸めるようにして千秋の乳房に吸い付いた。
「あうううン、あっ、あはぁン……やだ……肥田君たら、赤ちゃんみたい……くうぅン……」
 両の乳首をチューチューと音をたてて吸い上げる篤の髪を、千秋が愛しげに撫でる。
 篤は、千秋の乳首を転がすようにしたで舐め回し、唇で扱くようにした。
 さらには、乳房のいたるところを吸い上げ、赤い花びらのようなキスマークを散らしていく。
「あううン、あン、あふン、ああああっ……すごいィ……体中きもちイイの……ああン……す、素敵っ……あひいいいン……!」
 千秋の白い体が、肥満した篤の体の下で、悶え、くねる。
 半開きになったその唇に、篤は、唇を重ねた。
「んむっ……んふ、んくぅン……んふ……うン、んふン、んむむむ……」
 千秋は、甘えるように鼻を鳴らしながら、篤のキスに応えた。
 千秋の小さな舌と、篤の太い舌が、唾液を絡ませ合いながら互いを愛撫する。
「あむっ、ちゅぷぷ、ぷはあっ……ハァ、ハァ、ハァ……肥田君、すごい……すごく動いてるの……か、感じちゃうッ……!」
 まるで、一度出した精液を膣壁に塗り込め、染み込ませるように、篤の肉棒が動き続ける。
 二人の体は、すでに、汗まみれだ。
「あああン……もう、もうダメぇ……またイっちゃうわ……あふっ、ああああン……あひい……!」
 篤の容赦のない突き込みが、千秋の熟れた白い体を追い詰めていく。
「ち、千秋さぁん……ボク、また出そう……はひい、ひいいい……」
「あああン……出してっ! 出してえっ! 私の中に、肥田君の、イッパイ出して欲しいの……私の中でイってええ〜っ!」
 千秋は、そう叫びながら、両腕で篤の首を強く抱いた。
 その形のいい白い脚が、篤の腰にしっかりと絡み付いている。
 篤は、歯を食いしばるようにして、猛然と腰を使った。
 篤の剛直の先端が、千秋の膣奥を連続して叩く。
「あっ、あふうン、あく……ああああ〜っ! もうダメっ、ダメぇ、ダメえ〜! 私――私イっちゃうっ……! イク、イクう、イクううううう〜っ!」
 千秋が、ぎゅうっと体を弓なりに反らせる。
「ああああ……出る、出るう、出るぅーっ!」
 ビュルッ! ブビュッ! ビュルルッ! ブブブブビューッ!
「ああああああああああああああああああ! イク、イク、イク、イク、イっちゃうううううううゥ〜ッ!」
 一度目より激しい絶頂に、千秋の意識が、半ば飛ばされてしまう。
 篤は、びくびくと痙攣する千秋の体をしっかりと抱き締めながら、千秋の胎内に精液を注ぎ続けた。
 膣内に収まりきらなかった白濁液が、こぽこぽと泡立ちながら、結合部から溢れ出る。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……あああ……すごかったわ……肥田クン……」
 千秋が、恍惚とした顔でそう言いながら、篤の背中を撫でさする。
 篤が、さらに力を込めて、千秋の体を抱いた。
 そのまま、篤が、ぐいっと体を起こす。
「え……?」
 篤の腕の中で、千秋が驚きに目を開いた。
「あ、アン……! そ、そんな……まさか……信じられないわ……」
 千秋が、感嘆の声を上げる。
 両手両足で篤にしがみついた姿勢の千秋の膣内で、篤の肉棒は、固く反り返ったままだったのだ。
「ち、千秋さん……ボク、まだ収まらないよ……」
 体面座位の形でつながったまま、篤が千秋に言った。
「千秋さんが悪いんだよ……千秋さんのマンコが、こんなに気持ちいいから……」
「あ、ああン、肥田くぅん……あはあっっ……!」
 ゆさゆさと体を揺すられ、千秋は、またも官能の渦に飲み込まれていく。
 固いままの肉棒の先端が子宮口を小突き、胎内全体を圧迫する。
「あああぁぁ……すごい……すごすぎるわっ……! こ、こんなの……こんなの初めてェ……あひいいいい……ッ!」
 篤の大きな手によって豊かなヒップを上下させられながら、千秋は、叫ぶような声で言った。
「あうっ、うくううっ、あぐぐ……あひいいいン……ダメ、ダメ、ダメ、ダメぇ……んあああああ! お、おかしくなる……おかしくなっちゃうう〜! くひいいいいいッ……!」
 まるで泉のようにこんこんと溢れ出る快楽に茫然としながら、千秋は、篤の背中に爪を立てた。
 泡だった白い愛液にまみれた秘唇が、ペニスの出入りにしたがって、内側にすぼまり、卑猥にまくれ上がる。
「あひ、あひいいっ、ひぐっ、ひあああああっ……! んわああああっ……! すっ、すごっ……くひいいいっ……! あああああ! きもちいいっ! きもちよすぎるの……! んひいいいいっ! く、狂っちゃう……! んあああああああああああ!」
 口元から涎を垂らし、涙すらこぼしながら、千秋が声を上げ続ける。
 いつしか、千秋は、自らも貪欲に腰を動かしていた。
 二人が、まるで一つの生き物のように、淫靡な運動を続ける。
 さして広くない部屋に、ぐちょぐちょという湿った音と、牡と牝の性臭が満ち満ちている。
「うああああああ! あぐっ! あひっ! くひいいい! ひいいいいいい! イクッ! もうイクう! あああああああ! イっちゃう! イっちゃう! イっちゃう! イっちゃう! イっちゃう! イグうううううううううぅぅぅう〜!」
 千秋が、また絶頂を極める。
 だが、篤の抽送は終わらない。
「あひいいいっ! イっちゃったのっ! イっちゃったのにい……! ひぎいいっ! もうダメぇ! お、おがじぐなるううっ! あへっ! あへ! あへ! はへえ! またイクう! あああああああ! イ、イ、イク! イクう! またイっちゃうううううう!」
 連続して襲いかかる暴力的な絶頂に、千秋は、断末魔のような悲鳴を上げた。
「あーッ! あーッ! あーッ! あーッ! あーッ! あーッ! あーッ! あーッ! あーッ! あーッ! あーッ! あああああああああああああああああああああああぁーッ!」
 ドビュウウウウウウウウウウウウゥーッ!
「あっ……かはぁっ……はひ……あ、あああ、あ……ひはぁ……!」
 ようやく篤が射精に至った時、千秋は、声を嗄らしてしまっていた。
 ごぽっ、ごぽっ、と肉棒と秘唇の隙間から、大量の精液が溢れ出る。
「は……はぁ……ひ……ひあ……あああぁぁあ……」
 千秋は、篤の腕の中で、失神した。
 篤自身も、凄まじいまでの快楽の連続に、目が眩んでいる。
 チカチカと小さな星の舞う瞼の裏に――ぶらさがった二本の白い脚を、篤は幻視していた。
 そのはるか上に――自ら首を吊って果てた女の顔がある。



 それが、にたりと笑ったように、篤には思えた。



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