Master-Slave

falling



 「ふおー、ふおー、ふおー、ふおー……」
 耳障りな呼吸音が、地下室に響く。
 私の声だ。
 もちろん、意図してのことではない。
 体の内側で暴れ回り、膨れ上がるある衝動に、こんな無様な声を漏らしている。
 口を、穴の開いた卓球の球のような奇妙な責め具でふさがれ、体は惨めにも拘束されている私。
 右の手首を右の足首に、左の手首を左の足首に縛り付けられ、お尻を高く上げる格好で、うつ伏せに転がされている。
「ふおー、ふおー、ふおー、ふおー……」
 だらしなく開かれた足の間には、汚らしいブリキのバケツがある。
 ちょうど、それを膝で挟むようなカタチだ。
 それは――私の便器だった。
 私は今、冷たいコンクリートの床に頬を押し付けるようにしながら、必死に便意に耐えている。
 それを、男と、幼い顔の少女が、じっと見つめていた。
 伸ばした前髪で表情を隠した若い男と、胸の大きな中学生くらいの少女。
 その視線を、どうしても意識しながら、私は、確実に訪れるであろう敗北の瞬間におののいていた。
 そのおののきが、生理的な震えに変わる。
 痛み、と言うよりも凄まじいばかりの圧力が、私の腹腔の中で、出口を求めている。
 巨大な注射器を思わせるシリンダー式の浣腸器によって注入された、生温かな薬液による残酷な責め。
 もはや、あの男に対する怒りや、その助手らしき少女に感じていた不気味さも、頭の中から消え失せている。
 暴力的な排泄への欲求と、それを押し止めようとするわずかな理性とが、私の体内で相克していた。
 だが、確実に、限界は近付いている。
 あの男よりも、いかにも幼げな顔をした少女の前で排泄の姿を晒すことに、私は冷たい恐怖を覚えていた。
「ふおおおおおおおッ!」
 私は、首を振り、自慢の黒髪を振り乱すようにしながら、必死に懇願の声をあげていた。
 縄をほどいてください!
 おトイレに行かせてください!
 せめてその子だけはどこかにやってください!
 口が自由なら、全ての矜持をかなぐり捨て、そう叫んでいただろう。
「ふいあああああー!」
 だが、漏れるのは、意味不明の叫びだけだ。
 穴の開いた口枷からは唾液が溢れ、飛び散っている。
 屠殺される家畜は、こんな声をあげるのだろうか?
 そんな、聞くに堪えない惨めな悲鳴が、私の喉から迸る。
「ふぶッ!」
 その、瞬間。
 目も眩むような解放の感覚が、全身を貫いた。
 耳を塞ぎたくなるような汚らしい破裂音が、延々と響く。
 その音と、凄まじい臭気が、私の心をズタズタに引き裂いていた。
 耐えに耐えていた排泄欲求を果たしたためか、体が、びくびくと喜悦するように痙攣する。
 いや、私は――その時、間違いなく快感を感じていたのだ。
 頭の中が、真っ白になる。
 自分が、この屈辱的な排泄を終えたことにすら、気付かない。
「由奈、始末してやれ」
「――はい」
 男の命令に、少女が素直に返事をした。
 そして、私の後ろに回りこむ。
 私のしたことの始末を、この、年端もいかない少女がしようとしているのだ。
「ふお……」
 見れば後悔する、という意識すら麻痺したまま、反射的に、少女の方を向いてしまう。
 表情を殺したその顔に、隠しようもなく、他人の汚物を処理することへの嫌悪感と、そして、私自身への痛烈な同情が、現れていた。
 こんな――こんな少女にまで――憐れまれている――
「う、う、う、うぅ……」
 そのことに、私の心が、決壊した。
 新たな涙が溢れ、顔を濡らす。
 強制的な排泄の後の、おぞましい悪寒の中、自分自身の涙の温度だけが、奇妙に温かかった。



「麗香……黒木君からの交際を断ったそうだね」
「ええ、お父様」
「まだあの初恋が忘れられないのかな?」
「そんなことは、ないですわ」
「どうかな。あの時お前は、一日中部屋から出なかったじゃないか」
「それは、小学生の頃の話です。私、すっかり忘れてましたわ」
「おや、そうかい」
「ええ。それに……黒木さんと私では、釣り合いが取れませんでしたし」
「ふふ、所詮は、成り上がりということか……」
「はい。お父様だって、私をあんな家に行かせたくはないでしょう?」
「それはそうだが……な」
「私、どこにも行きません」
「おやおや。私は、孫を見る楽しみを諦めなくてはならないのかな?」
「まだ、そんなお年でもないでしょうに」
「嬉しい事を言ってくれるな」
「もし、どうしてもおじいちゃんになりたいのでしたら、お婿に来てくださる方を探します」
「そうか……。それでは、黒木君もお前を諦めざるを得ないだろうな。何しろ彼にだって面倒を見なければならない部下達がたくさんいるのだから」
「会社よりも私を選んでくださるような方でなければ、お付き合いすることはできませんもの」
「ふふふ……とんだ我儘に育ってしまったものだな。誰に似たのやら」
「お母様だと仰りたいのかしら? 私を教育してくださったのは、お父様でしょう?」
「ああ、そうだ。お前は、私のいうことをよく聞く、とてもいい子だよ」
「あら珍しい。お父様が私を褒めてくださるなんて」
「褒めるべき時には褒めるさ。それに、最近では母さんに似て、本当に綺麗になった」
「い、いやだわ……そんな……」
「照れることはない。誇っていいことだよ。お前は、私の宝だ」
「お父様……?」
「誰にもやりたくなどない……誰にも、な……」



「!」
 嫌な夢だった。
 ほんの数週間前に交わされた、父との会話。
 その時、優しいはずの父の瞳に宿っていた、どこか病的な光を、思い出す。
 その父が、私をここに連れて来たのだ。
 丘の上の森の奥に建てられた、古びた洋館。
 敷地だけなら私の家と遜色ないようなその家で、私は、出された紅茶を無邪気にも飲み干してしまった。
 その様子を、ソファーの隣に座っていた父は、何とも言えない笑顔で、横から見ていた。
 そして、前後不覚に眠り込み、気が付くと、暗い地下室で体を拘束されていたのだ。
 ユニットバスと、パイプベッドの他は、調度らしき物は何もない、寒々とした部屋。
 天井からは、何本もの鎖がぶら下がっており、壁には用途不明の金具が打ち込まれていた。
 まるで低俗な映画にでも登場しそうなシチュエーショに混乱している中、重そうな扉を開けて現れたのが、あの男と、少女だった。
 男は少女を由奈と呼び、少女は男をご主人様と呼んでいた。
 男は、私の質問に一切答えることなく、裁断鋏を使って私の衣服を切り刻んだ。
 そして、拘束されたままの私の体を弄び、強制的に絶頂へと導いたのだ。
 少女は、そんな様子を、頬を染めながら見つめ続けていた。
 他人の前で性的な反応を示すという、屈辱の混じった敗北感に打ちのめされた私に、男は、次の日から『調教』を始めると宣言した。
 それがどういう意味なのか問いただす前に、二人は、部屋から出て行った。
 そして――
 そして今日も、あの扉が開かれ、男と少女が、部屋に入ってきた。
 男は、黒いシャツの身を身に付け、下には何も履いていない。そして、少女の方は全裸だ。
 少女は、その小さな体に不釣合いなほど大きな胸や、ほとんど無毛の股間を、隠そうともしていない。
 それでいながら、この狂った状況に興奮しているのだろう。目許がほのかに染まり、大きな瞳も潤んでいるようだ。
 この少女は、正真正銘の変態なのだろう。男の言うがままになって、そのことに暗く甘い愉悦を覚えているのだ。
 それこそが、男の言う『調教』の成果なのだ。
 少女の、可愛らしい顔に浮かんだ淫らな色を見るたびに、私は、慄然とした。
 私も、この少女と同じような存在に変えられつつあるのだ……。
「麗香」
 男が、さも当然といった口調で、私を呼び捨てにした。
「教えられた通り、挨拶をするんだ」
「……はい」
 返事までのわずかな逡巡のみが、私に許されたささやかな抵抗だった。
 犬がするような首輪と、歩行を制限するための極端にヒールの高い鍵付きの靴。それらを身につけただけの、ほとんど全裸の状態で、ベッドを降り、覚束ない足取りで男の前に歩み寄り、そして、跪く。
「今日も……この淫らな奴隷を、厳しく躾てください……よろしく、おねがいします……」
 屈辱に、どうしても目尻に涙が滲み、声が震える。
 しかし、単純な苦痛に対する恐怖が、私に次の動作を促すのだ。
 最初に鞭で打たれた時、私は、痛みのあまり失禁してしまった。
 それは、これまで経験したこともないような痛みだった。
 恥も外聞もなく、子供のように泣き喚いたが、男は、一切容赦をしなかった。だが、その事への恐怖よりも、なお、単純な痛みへの恐怖が勝った。
 その時の傷は、私の肌にはもう残っていない。それでも、その痛みを、私の心も体も、よく覚えていた。
 暴力を前にして従順になる――犬と、同じだ。
 自らの中に、憐れむべきものとして見下していた動物たちと同じモノが棲んでいることを思い知らされ、また一つ、私の無意味なプライドは引き裂かれた。
 そっと手を差し伸べ、ゆったりとしたシャツの裾に隠された男のペニスを露わにする。
 その熱い温度に、私は、どうしてもひるんでしまう。
 半ば勃起した男の器官。赤黒いその先端部分は、つるりとしているくせに、竿の部分には静脈が浮き出ている。
 もう、その部分に、醜悪さを感じることはない。
 目を閉じ、まるで愛しい人の唇にそうするように、先端に口付ける。
 ちゅ……とわざと音を立てるのは、男の性感を煽るためだ。
 つい一年前に、全寮制の女子高を卒業したばかりの私は、異性と本格的な交際をしたことはなかった。学校の中で、戯れに同級生を相手にキスの真似事をしたことはあったが、男性の体に口付けしたのは、この男のペニスが初めてだった。
 命令されるまま、わななく舌と唇で、男のアヌスまで清めた私だが、まだ、唇と唇を触れ合わせる、ごく普通のキスを交わしてはいない。
 たまに、男が、私の目の前で少女と性交する時があるが、その時、まるで見せつけるような濃厚なディープキスを演じて見せる。
 舌を絡め合い、唾液を啜り合うような淫猥なその行為を見せ付けられる度に、ペニスやアヌスへの口付けしか許されていない自分が、恐ろしく惨めに思えた。
 そんな思いを抱きながら、はしたなく舌を出し、ペニスの表面に這わせる。
 男のその部分の匂いと、自分自身の唾液の匂いを、不潔とは思わなくなっている自分に、私は混乱した。
 そんな私の背後に、あの少女が回り込んで、膝を付く。
「あ……」
 少女が、私の背中に、その大きな胸を押し付けるように、身を寄せた。
 そして、その手を、私の胸の膨らみに重ねる。
「んっ……」
 触れるか触れないかの微妙なタッチで、少女の指先が私の乳首をくすぐる。
 すっかり性感に馴染んでしまった乳首は、恥ずかしくなるほど呆気なく、その愛撫に固く尖っていった。
 そんな私の乳首を、くりくりと転がすように、少女がいらう。
 つん、とした鋭い性感が、胸から体の奥にまで響いた。
 どうしようもない快感に、私の舌の動きが鈍る。
「――奉仕を休むな」
 男は、冷たい口調で言って、すでに勃起したペニスで私の顔をはたいた。
「あぅっ……も、申し訳、ありません……」
 心臓を剃刀で傷付けられたような屈辱が、何故か、胸にくわえられている愛撫の快感と混じり合う。
 切なさに似た奇妙な感情を覚えながら、私は、すでに唾液まみれになったペニスに舌を絡めた。
 ペニスの先端の切れ込みから、匂いのきつい透明な液が漏れ出る。
 その、何とも言えない苦味を舌に感じながら、私は、男への口唇奉仕を続けた。
「咥えろ」
「……はい」
 素直に返事をして、隆々と勃起したペニスを、口内に迎え入れる。
 自らの内部を男の性器によって占有されたという、どうしようもない敗北感が、口蓋をこすられる感覚と重なった。
 歯を立てないように注意しながら、唇でペニスを締め付け、舌で竿の部分をくすぐる。
 そうしながら、ゆっくりと、頭を前後に動かした。
 今、私の唇を、褐色のペニスが、唾液に濡れながら出入りしているはずだ。
 その様子を、少女が、私の胸を愛撫しながら、覗き込むように見つめている。
 私の口唇愛撫が滑らかになっていくにしたがって、少女の愛撫も本格的になる。
 少女ほどではないが、豊かと言われても謙遜はすることはなかった私の胸を、細い指で揉みしだき、乳首を指先で扱くように刺激する。
 それは、男に奉仕する技術を習得しつつある私へのご褒美なのだ。
 この異常な部屋の中で、単純な苦痛が私を怯えさせるように、単純な快感が、私をさらに従順な動物へと変えていく。
 さらに少女は、私の足の間にも、その指で触れた。
「んふぅ……っ!」
 すでに熱く潤んでいた私の秘部が、少女の指に嬉しげに反応し、さらなる愛液を分泌する。
 少女は、私の屈辱と性感と煽るかのように、くちゅくちゅと音を立てながら、私のその部分を愛撫した。
 少女の嫉妬を、その指に感じる。
 少女は、この男に完全に心酔し、隷属しているのだろう。その歪んだ好意が、男のペニスを口で愛撫している私への嫉妬になっているのだ。
 もちろん少女は、私にご褒美を与えるという、男が命じた役割を、疎かにしようとはしない。
 ただ、驚くほど的確に、私自身も知らなかったような性感帯を探り当て、優しく、そして絶え間なく刺激するのだ。
 まるで、私に快楽を与えることで、復讐を果たしているような……。
 そんな、幼い顔に似合わない執拗な責めに、私はまるで、犬が人間に媚びている時のような鼻声を上げていた。
「んっ……んふぅ……うン……んぶぶ……あむ、ん、んうぅぅぅ……っ」
 くぐもった、聞くに堪えない、動物的な快楽の声。
 そんな自分の声に、これまで想像しなかったような陶酔を感じる。
 少女が、私の耳元で可愛く喘いでいた。
 はぁ、はぁ、という、抑えきれない甘い吐息が耳朶をくすぐるたびに、私の全身にぞくそくと戦慄が走った。
 少女の興奮が、重ねた肌から、直に伝わってくる。
 少女の体温のわずかな上昇すら、背中を通して伝わってくるようだ。
 ぷくん、と少女の豊かな乳房の頂点で、小粒の乳首が小生意気に勃起している。
 少女は、尖った乳首を私の背中に押し付け、浅ましく自慰を始めた。
 本当なら、濡れた女陰を、指で掻き回したくてしょうがないのだろう。
 私が口で奉仕しているペニスを、その体内に迎え入れたくて仕方がないのだ。
 そんな少女の嫉妬と羨望を感じながら、私は、いつしか愛撫の快感に身を委ねつつあった。
 そして、せり上がる愉悦に急き立てられるように、一層熱心に口唇奉仕に励む。
 男がその瞬間を迎えた時に、私も最高のご褒美をもらえるのだ。
 その事を、私の浅ましい肉体は覚え込まされている。
 まさに、調教された動物そのままの、卑しい行為。
 しかし、少女の愛撫に晒され、太いペニスで口を塞がれた私は、そんな自らを省みることが難しい。
 息苦しく、酸素が足りない状態で、脳がくらくらする。
 人としての尊厳をまた削り取られながら、私は、はしたない牝の期待に身を灼いた。
 絶頂寸前にまで私を追い詰めながら、その兆候を感じ取るや、意地悪く別の個所を攻める少女の指。
 まるでお漏らしをした子供のように太腿の内側まで濡らしながら、私は、いつしかもどかしげに腰を動かしていた。
 異性の目を引くばかりで、とても自分では好きになれなかった大きなヒップを、もじもじと物欲しげに揺する。
 あの、全てを忘れさせてくれる熱い快楽に、全身を貫かれたい。
 そう思っている自分に気付いても、もう驚くようなことはなかった。
 私は、自分が思っていたよりよほど弱く、浅ましく、そして淫らだったのだ。
 ぐうっ、と口の中で、ペニスが膨張する。
 それが、射精を間近に控えた際の反応だということを、私はもう覚えていた。
「く、ください……!」
 口を離し、唾液でぬるぬるになった竿を指先で扱きながら、私はねだる。
「熱い精液を、私のこのいやらしい口に、一杯ください!」
 絶頂への渇望から、半ば以上本気でそう喚きながら、再びペニスを口に咥える。
 そして、まるで飢えた乳児が母親の乳首にそうするように、ちゅうちゅうと音を立てて吸引した。
「……っ!」
 男は、声をあげない。
 それが、どういうわけか、物足りない。
 いつか、この人に声を上げさせたい――そんなふうに、何故か思う。
 びゅるッ!
「んぐっ!」
 熱く、粘つく体液が、私の喉奥を叩いた。
 びゅッ! びゅッ! びゅッ!
 とても一度では飲み干せないような大量の精液が、私の口の中に注ぎ込まれていく。
 しかし、咳き込み、吐き出すようなことは、もうない。
 舌の裏側で熱い奔流を受け止め、唾液と混ぜ合わせるようにしながら、ゆっくりと嚥下していく。
 濃い、牡の匂いが、私の脳を酔わせる。
 そして、少女の指が、私のすっかり勃起した陰核を、残酷なくらいの力で捻りあげた。
「んッ! んうううッ! んんんンーッ!」
 待ちに待っていた刺激。
 呆気なく、私はおぞましい絶頂へと舞い上げられる。
 精液の臭気と、絶頂の感覚。
 それが、私の脳内で、また強く結び付けられる。
 いつか私は、男の匂いを嗅いだだけで、股間を濡らしてしまうような女になるのだろう。
 いや、すでに――そうなりつつあることに、目を逸らしているだけかもしれない。
 そんな、小賢しい考えさえも、湧き起こる快楽の奔流に押し流され、私は、盛大に愛液をしぶかせながら延々と絶頂を貪ったのだった。



 目を覚ますと、コンクリートの床に伸びていた。
 目の前に、涙滴型の容器が数個、転がっている。
 それが何のための器具かを思い出し、私は、視界が暗くなるような絶望を覚えた。
「自分で綺麗にしてこい」
 男が、倣岸にそう言い放つ。
 私も、使用人たちに、ああいう態度をとっていたのだろうか?
 そんなことを思いながら、身を起こし、両手に浣腸器を持つ。
 もし、自分でしなければ、拘束された上に、またあの少女の目の前で排泄させられることになるだろう。
 よちよちと無様な歩調でユニットバスに向かいながら、私は、涙をこらえた。
 ユニットバスの中のトイレの洋式便器には、便座にあたるものが無い。
 いかなる姿勢で排泄するにしても、それは、想像するだけで血液が逆流するような、屈辱的な格好になる。
 冷たい便器を馬乗りに跨ぐか、便器の縁に足を乗せるか、中腰になって臀部を突き出すようにするか……
 しかし、躊躇はしていられない。用便の最中に、あの男や、少女が、様子を見に来てしまう。
 私は、自ら薬液を体内に注入した後、第一の方法を取った。
 次第に、その手際がよくなっていく自分が、疎ましい。
 だが、それを上回る苦痛や恥辱を回避するためには、何かを受け入れなくてはならない。
 それが、この狂った空間の中での掟だった。
 ……。
 体の中の洗浄を済ませてから、ユニットバスの外に出た。
 男に、顎で促され、ベッドの上に上がる。
「四つん這いだ」
 男に言われ、犬の姿勢になった。
 そんな私を、少女が、大きな瞳で、じっと見ている。
 屈辱で――じわりと、股間が濡れた。
 ああ、まただ……。
 私の体は、どうなってしまったのだろう。
 私は、羞恥や屈辱に晒されると、体の奥が熱くなり、恥ずかしい液を漏らしてしまうようになってしまっていた。
 恥辱と快楽を、交互に与え続けられてしまったがゆえに、脳の中の回路が混線してしまったようだ。
 パブロフの犬、という言葉を、思い出す。
 私は、それだ――変態的な性欲を心に刻み込まれた、哀れな牝犬なのだ。
 そんな、忌むべき自己憐憫の気持ちに、ますます下腹部が甘く疼き、止めどもなく蜜が溢れる。
 そんな私に――少女が、うっすらと微笑んだ。
 嘲笑ではない。自分と同じモノを見付けた安堵感から来る、同族意識の反映の、温かな微笑だ。
 少女は、私を“仲間”と認識しているのだ。
 ちがう――!
 泣きたいような気持ちで、その少女の微笑みを否定しようとする。
 だが、否定しようとしてもしきれないほどに、私の体は、期待に燃えてしまっている。
 そう、私は、これからされることに、胸の奥が切なくなるほどに期待していた。
 まるで、小学生のころ、家庭教師の青年に淡い恋心を抱いてしまった時のような、そんなキモチ。
 それを見透かしたように、少女の微笑が、さらに温かく優しいものになる。
「由奈、舐めてやれ」
「はい」
 男が、少女に命じた。
 少女が、ベッドに上がり、私のヒップにその小さな手を添える。
「可愛い……」
 そっと、男に聞かれないように小さな声で、少女が呟いた。
 そして、私の、たった今排泄したばかりのアヌスに、舌を触れさせる。
「んうッ!」
 ぞくん、という震えを伴った快感が、私の背筋を貫いた。
 悪寒に似ていながら、それとは異なる何かが、私のアヌスから脳へ発信される。
 ぞくん、ぞくん、ぞくん、ぞくん――
 少女が、あの、ソフトクリームを舐めるのが一番に合いそうな可愛らしいピンク色の舌で、私のお尻の穴を舐めているのだ。
 完全に受身でいながら、理不尽な罪の意識が、私を苛んでいく。
 いや、それは、排泄のための器官で快楽を感じていることへの罪悪感だったかもしれない。
「あっ、ああっ、あっ、あっ、ああン、あぅ……っ!」
 私は、ぎゅっとシーツを握り締めながら、四つん這いの姿勢で声をあげた。
「尻の穴を舐められて感じてるのか?」
 ベッドに近付きながら、男が、嬲るように私に訊く。
 だが、連続する快感に馬鹿のように喘いでいる私は、一瞬答えを遅らせてしまった。
「答えろよ」
 ぐっ、とあの男が前髪を掴む。
「ひあっ……!」
 この男は、怒りの色を見せない。
 まったくの無表情か、口元に歪んだ笑みを浮かべるだけだ。
 両目が、前髪で隠されているせいもあって、その笑みにどんな意味が込められているのかは、判然としない。
 今も、男の口元に浮かんでいるのは歪んだ笑みだ。
 この顔のまま、この人は、私のことを、オシッコを漏らすまで叩いたんだ――。
「か、感じますッ……私、お尻の穴を舐められて感じちゃってます!」
 子供じみた恐怖の念に衝き動かされ、私は、淫らな告白をする。
 嗜虐の彩りが添えられ、ぐううっ、とアヌスからの性感が倍増した。
 ぴゅるっ、とまるでお漏らしをしたように愛液が溢れる。
 私は――私の体は――もう――
 まともな恋愛ができないようなカラダにされてしまったんだ――
 さようなら……さようなら、先生……。
 目の眩むような絶望は、意外なほどに甘く、そして優しかった。
 それはまるで、眠りに落ちる直前の、夜の闇のよう。
「舐められるだけじゃ、物足りないんだろう?」
 闇の中で、悪魔が、優しく訊いてきた。
「ハ、ハイ……」
 私は、小学生時代の私のように、素直に返事をした。
 そう、私は、いつだって、先生の前では、素直でイイコだった。
 それは、好かれたいがゆえの演技だったけど、それゆえにこそ、純粋な演技だったんだ。
「欲しい……欲しいです……いつもの、太いアレを、麗香のお尻に入れてください……」
 今の私は、浅ましくお尻を振りながら、血の通わぬ性具でアヌスを苛められる事をねだっている。
 何て――何て遠くまできてしまったんだろう。
 せんせい……。
 せんせい……わたし、ぜんぜんイイコじゃなかったよ……ごめんなさい……。
 ――ずるん!
「ひああああああああああああああああああああああああああああああああーッ!」
 直腸を、ローションをたっぷり塗られたアナルバイブで貫かれる圧倒的な快楽によって、愛しい面影はまさしく雲散霧消した。
 今の私は、肛虐によってもたらされる変態性欲の虜だ。
 終わりの無い排泄のような、おぞましい快楽。
 いくつものくびれが肛門をこすり、その度に、目の前に白い火花が散る。
 荒々しく動かしているだけのようでありながら、男は、巧みにアナルバイブを操って、私の性感を刺激し続けている。
 そんな様を、あの少女が、うっとりとした眼差しで見つめているのだろう。
 でも、そんなことはどうでもいい。
 この快楽と引き換えにだったら、私は父の首だって絞めただろう。
「あーッ! あッ! あああッ! あッ! ああああーッ!」
 快感に泣き、悶えながら、私は立て続けに絶頂を味わっていた。



 私は、売られるのだそうだ。
 あの人は、私の価値を磨くために、あらゆる性技をこの体に教え込んでいたのである。
 父の事業が、危ないという。
 今思えば浅はかなことだが、私は、その事に全く気付いていなかった。
 上辺だけの豪奢な生活だけを見て、それが当たり前のことだと思い込んでいたのだ。
 そして私が、黒木という資産家との交際を断ったことで、父は窮地に追い込まれたらしい。
「それで、お前は売られることになったのさ」
 舘の応接間で、私は、そう言われた。
 私を調教してくださったこの人に、もう、一片の恨みも感じていない。
 その傍らで、エプロンドレスを身にまとい、銀のお盆を抱えてかしこまっているあの少女にも、奇妙な親近感すら覚えている。
 私は、久しぶりに服を着ていた。スカートの丈が少し短いことを除けば、ごく普通のデザインの白いスーツだ。
 肌に馴染んだ首輪をはずされたことに、かすかな不安感と不自然さを感じる。
「今日が、納品日だ。お前の飼主が引き取りに来る」
「……はい」
 そう、返事をした私の声は、期待に濡れていなかっただろうか?
 私の中の、淫らで寂しがり屋の牝犬が、首輪と鎖を求めている。
 と、ノッカーの音が響いた。街の喧騒からは無縁のこの舘で、それは、驚くほど大きな音を立てる。
 それに同調するように、どきん、と私の心臓が跳ねた。
 少女が、私の飼主を玄関に迎えに行く。
 そして、少女とともに、私の飼主が部屋に入ってきた。
 その人は――
「結城さん、今回は有難う」
 聞き覚えのある声。見知った顔。
 懐かしい顔――
「村藤先生――いや、霧子先生には、いつも弟が世話になってるからな。そのお礼さ」
「姉さんが聞いたら怒ると思うよ」
「怒られないよう、巧く言い繕ってくれよ」
「大丈夫さ。僕は、麗香と正式に結婚するつもりだからね」
「なるほど。……じゃあ、とりあえず商品の検査をしてくれ」
「ああ」
 そんな会話の後、私と、飼主の二人きりにさせられた。
 私はといえば、驚きのあまり、ぽかんと口を開いてしまっている。
「久しぶりだね、麗香くん」
 その人は、眼鏡の奥の、七年前と変わらぬ優しい目を、笑みの形に細めて、はにかむように言った。
「せん、せい……」
 村藤先生。
 私の、初恋の人――。
 小学校時代、私の家庭教師をしてくれた、村藤零次さんが、そこにいた。
 少し太めの体に、柔和な顔つき。さえない、という言葉がぴったり来る彼が、私は、何故かとても好きだった。
 そうか、先生も、私の家に出入りするような人だったのだ。それなりの家の生まれだったのだろう。
 でも、私を買い取るためのお金は、かなりのものだったはずだ。なのに……こんな、私のために……。
「す、すいません、取り乱してしまいました……」
 私は、早鐘のように鳴っている心臓を意識しながら、ようやく言った。
「この度は、私のような淫らな奴隷を買い取ってくださって、どうも有難うございました。セックスしか能の無い卑しい牝犬ですが、どうか末永く可愛がってください」
 そして、絨毯の敷かれた床に膝と手を付き、深々と頭を下げて口上を述べる。
 その、一つ一つの言葉が、私の偽らざる本心だった。
「……素晴らしいよ、麗香くん」
 先生は、かすかに息を上ずらせながら、言った。
 そんな先生に対する堪らない気持ちに衝き動かされて、膝でその足元ににじり寄る。
「まずは……麗香の、いやらしい口マンコの具合を確かめてください」
 自分の言ったあまりに淫らな言葉に、顔が真っ赤になる。
 私は、先生のスラックスに手をかけ、前をくつろげた。
 立ちすくんだようになっている先生のペニスを、外に出す。
「ああ、すごい……逞しくて、素敵です……」
 指を回しても回りきらないほどに太いそれに、はしたなくも秘裂に蜜を滲ませながら、私は、先端にキスをした。
 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ……とキスを繰り返すだけで、先生のペニスに、熱い血が集まってくる。
「失礼します……」
 私は、ねっとりとした情感を込めてそう言い、先生のそれに舌を絡めた。
 もちろん、睾丸を包み込むようにして撫でさすることも忘れない。
「ああ……とっても上手だ……気持ちいいよ……」
 先生は、そう言いながら、昔と同じように、私の頭を撫でてくださった。
 その嬉しさに、思わず我を忘れそうになる。
 しかし、あくまでペニスに快楽を与えることを最優先に、私は口唇奉仕を続けた。
 先端から溢れる腺液を啜り、舌の裏側を亀頭部に這わす。
 裏筋や雁首のところに唇を押し当て、優しく吸引すると、先生は、声をあげて悦んでくださった。
 その反応に、私は、ますます淫らな気持ちになっていく。
「せ、先生……もう、咥えてもよろしいですか?」
 はしたなくも、自分からおねだりしてしまう。
「うん、そうしてくれ……」
「はい」
 ぱくん、といささか性急に、私は先生のペニスを口内に収めた。
 太く、節くれだったそれが、私の口の中を占有し、支配する。
 私は、頬の内側や口蓋で先生のペニスをこするように、頭を前後に動かした。
 そして、狭い空間の中で許される限り、大胆に舌を使う。
 ぴゅる、ぴゅる、と口の中に漏れ出される苦い汁は、私にとって極上の甘露だ。
「本当は、僕が自分で、調教したかったんだ……」
 まるで、私の奉仕による快楽に浮かされたように、先生は言った。
「でも、それだと、きっと君を壊してしまうから……ずっとずっと、君を想い続けて……想いが強すぎて……」
 ああ、先生は、あの頃から、私を女として見てくださったんだ。
 汚し、犯し、貶め、辱め、奴隷とすべき対象として……。
 私は、そのことに、軽い絶頂を覚え、思わず先生のそれを強く吸引してしまった。
「うっ……!」
 びゅるるるっ! と、凄まじく濃いスペルマが、私の喉を灼いた。
 まるで酒精の強いお酒を口にしたように、かっ、と体が熱くなる。
 濃厚な男性の匂いが、私の股間をしとどに濡らしていく。
 びゅるッ、びゅるッ、びゅるッ、びゅるッ……。
 まるで、とびきり強い興奮剤を、口に注がれているような感覚。
 いや、今の私にとって、先生の精液は、強烈な媚薬そのものだ。
 このまま、ヴァギナとアヌスに指を差し入れ、ムチャクチャに攪拌したくなる。
 だが、それは、奴隷である私に許されることではない。
 体内にせり上がる性感に必死に耐えながら、私は、先生のペニスを丁寧に舌で清めた。
「んっ……ちゅるっ……ちゅっ……んぐっ……んっ、んく、んく……」
 はぁっ、と精液の匂いのする吐息を吐き出し、上目遣いに先生の顔を見る。
「いかがでしたか? 麗香の口マンコ、満足いただけましたでしょうか?」
「ああ……とてもよかったよ……」
 先生が、にっこりと微笑む。
「でも、一度では満足できないな」
 言いながら、先生は、私の腕を取って立たせてくださった。
「そこのテーブルに手をついて、お尻を上げなさい」
「は……はい」
 期待に声が震えるのを隠すこともできず、私は、言われるままに、低いテーブルに両手を付いた。
 短いスカートは、私のショーツを隠す用を為さない。
 膝を付くよりもなお屈辱的な姿勢で、じっとりと濡れた下着を愛しい人の前にさらす。
「こんなに濡らして……麗香くんは、いやらしい子だね」
「はい……麗香は、先生のオチンチンをおしゃぶりして下着を濡らす、どうしようもない淫乱です」
「なのに、まだ処女なんだよね?」
「はい……私の初めては……私を飼って下さる方のものですから……」
「それは、新婚初夜までとっておこうね」
 そう言いながら、先生は、私の恥ずかしいほどに濡れたショーツをずり下ろした。私は、片足を上げて、それに協力する。
「今日は、麗香くんの後を味わわせてもらうよ」
「ど、どうぞ……麗香の、いやらしいお尻の穴に、その太いオチンチンを入れてやってください……!」
「待ちきれないのかい、麗香くん」
 そう言いながら、先生が、私の秘裂にペニスを当て、前後に動かす。
 あとからあとから溢れる愛液が、再び力を漲らせつつある先生のペニスをぬらぬらと濡らしていった。
「はい、ほ、欲しいんです……!」
 私は、テーブルに爪を立てるようにしながら、叫ぶように告白した。
「麗香は……お尻の穴で感じる変態女なんです……早く、早く先生のオチンチンで、止めをさしてくださいィ……!」
「麗香……っ!」
 先生は、私のヒップを左右に割り開くようにして、先端をアヌスに触れさせた。
 そのまま、ぐううっ、と腰を進ませる。
「あっ、ああっ、ああぁーッ!」
 私は、背を反らしながら、アヌスへの挿入に声を上げた。
 先生が、腰を動かす。
 その、遠慮の無いピストンを、開発され尽くした私のアヌスはしっかりと受け止めた。
 熱い血をたぎらせたペニスが、冷たい器具とは比べ物にならない快感を、私にもたらしてくれる。
 目の眩むような快楽に、私は突っ伏し、頬をテーブルに押し付けるような姿勢で、くねくねと身悶えた。
「麗香……君は、今日から僕の奴隷だ……」
 はぁっ、はぁっ、と荒い息をつきながら、先生が言う。
「う、嬉しい……嬉しいです……麗香、いっしょうけんめい、先生に尽くします……ああン!」
「うッ……す、すごいよ、麗香……君のアナルは最高だ……」
「も、もっと、もっと感じて……麗香のお尻の穴で、気持ちよくなってください……ひいいン!」
 ぎゅうっ、ぎゅうっ、と私の括約筋が、先生のペニスを締め上げている。
 その度に、摩擦によってもたらされる快感は鮮烈になり、私の脳神経を灼き切らんばかりだ。
 脳漿がそのまま熱湯に変わってしまったような熱い興奮に、視界が真っ赤に染まる。
 その中で、アヌスを陵辱される快楽が白くスパークし、私は、我を忘れてしまった。
「んひいッ! ひいいン! イク! イキますっ! お尻、お尻イクぅーッ!」
 意味をなさない叫びを上げながら、変態的な愉悦に喘ぎ、涎をこぼして身悶える。
 長い黒髪を乱して、あられもなく快楽の声を上げる私の腰を抱え、先生はますます腰の動きを速くする。
 私の秘裂から愛液がしぶき、尿道からは小水までが漏れ出てしまった。
 床をびしょびしょにしながら、私は、先生のピストンに完全に屈服していた。
 だが、奴隷の最後の務めを果たすように、アヌスだけが勝手に蠢き、先生のペニスを搾り上げる。
「ううッ、麗香……麗香……っ!」
 びゅるるるるるるるッ!
 二度目とは思えないほどに大量の精液が、私の直腸に注がれる。
「ああッ! あッ! あッ! あッ! あああああぁーッ!」
 ペニスを絶頂にまで導いた誇らしい気持ちとともに、私もまた絶頂を迎えていた。
 びゅーッ! びゅーッ! びゅーッ! びゅーッ!
「あァーッ! あァーッ! あァーッ! あァーッ!」
 精液を体の中に叩き込まれる度に、新たな絶頂に痙攣する。
 私の体は、そのようにされてしまったのだ。
 そのことに、私は、深い満足感を覚えた。
 この体で、先生にご奉仕することができる……それは、何て、嬉しい事だろう。
 そんな想いを胸に抱きながら、私は、意識を失ってしまった。



「目が覚めたかい、麗香くん」
 気が付くと、私は、先生の太い腕に抱かれていた。
「あ……申し訳ありません。だらしないところをお見せしましたっ」
 かーっ、と顔が熱くなる。
「いいんだよ、麗香くん……可愛い奴隷になってくれて、僕は嬉しいよ」
 にっこりと、先生が微笑む。
「これから、うんとうんと可愛がってあげるよ……麗香くんが、泣いちゃうくらいにね」
「……嬉しい」
 私は、うっとりと呟き、先生の胸にその体を預けた。
 先生――違う、この人は――
「よろしくお願いします、ご主人様……」
 私の、ご主人様だ。
 私の肌に傷を刻み、心をズタズタに切り裂く権利を持つ人。そして、あらゆる変態的な快感、悪魔的な愉悦、そして背徳的な淫楽をともに紡いでいく、私の支配者なのだ。
 私は、そんな人のお嫁さんになる。
 心がとろけそうになるくらい、嬉しい。
 悪魔に導かれて堕ちていった先が、こんなにも甘美な地獄であったことに、私は、神様以外のあらゆるものに感謝していた。



あとがき

BACK

MENU