えくすちぇんじ!

− Dual Face Children −




第五章



 その朝、真っ青な顔をしてトイレから出てきた知巳を、朱美は気の毒そうな顔で出迎えた。
「始まっちゃったんだ」
「……」
「そろそろだなー、とは思ってたんだけど」
「……」
「えっと、ボク、けっこう軽い方なんだけどね」
「……」
「だいじょうぶ?」
 朱美に何を言われても、知巳は、まさに初潮を迎えたばかりの少女のような顔をするばかりだ。もともと、男というものは女ほど血に慣れているわけではない。
「薬服んで寝てたら?」
「そうする……」
 知巳は、ふらふらと廊下を歩いて、朱美の部屋に入ってしまった。
「生理痛で休みかあ。“葛城朱美”もかわいいとこあんなあ」
 と、朱美の部屋のドアを開け、知巳が頭を出す。
「ど、どうしたの? ナプキンの使い方分からない?」
「ちがう……。いや、それもあるけど」
 眉を寄せながら、知巳が弱々しい声で言う。
「じゃ、なに?」
「奈々に、あやまっとけよ」
「――うん」
「あと、ナプキンの方は自分で何とかする。どうにもならなかったら呼ぶから」
 そんなに大したもんでもないのになあ、と思いながら、朱美は意地の悪い笑みを浮かべた。
「ボク、これから学校だよ」
「あ、そりゃそうだな」
「ダメだったら、母さんに頼んだら?」
「バカ言うな」
 そう言って、知巳はドアを閉めた。



(あやまっとけ、って言われてもなあ……)
 教室の窓の外、春の太陽に照らされて輝くような若葉を見つめながら、朱美はぼんやりと思った。
 朱美が、長年抱いていた知巳への想いを告白してから、まだ三日。その間、二人とも、そのことについては意識して話題にしていない。
 朱美は、自分でも驚くほど、すっきりとした気分だった。
 兄妹の間の、許されるはずのない恋愛感情。だが、もはや二人は、世間のありふれた規範や倫理とはまったく別の次元で、深く繋がりあっているのだ。朱美は、そのことに気付いていた。
(今は、ボクの気持ちよりも……奈々の方が、心配かも……)
 朱美の奈々に対する思いは複雑だが、愛しいと思う気持ちは確かにある。
 奈々を傷つけたままでいていいわけはない、と思う。しかし、何と言っていいものか。
(ボクだけじゃなくて、お兄ちゃんと一緒に行った方がいいかもな)
 それに、奈々が通う学校は、朱美や知巳が通う星倫高校から三駅ほど離れている。例えば、放課後などに気楽に会いに行けるような距離ではない。
(ま、今度の週末にでも、会いに行こうかな……)
 それにしても、何と言って謝ったものか。
(いっそ、全部しゃべっちゃおうかなあ……。そうすれば、ボクと、奈々と、それからお兄ちゃんとで……一緒に……できるかもしれないし……)
 神聖な学び舎で思い浮かべるにはあまりに淫らな想像を働かせたとき、股間のものが、唐突に自己主張を始めた。
(え? うわ、なに? こ、こんなトコで?)
 今は自分の体の一部となったその“不肖の息子”のあまりに性急かつ正直な反応に、朱美は目を見開いていた。
「なに百面相してるの、葛城君」
 ちょうど英語のリーダーの教科書を読ませる生徒を物色していた教師が、呆れたような声で注意をする。
「ちょうどいいわ。32ページの最初から、読んで」
「は、はい……」
 顔を赤く染めながら、朱美は、妙に前かがみな姿勢で立ちあがった。



 一方、知巳は、天井をぼんやりと眺めながら考え事をしていた。
 鎮痛剤を服んで横になっていたら、痛みの方は治まった。精神的なショックも今は感じていない。
 ただ、なんとなく、もとの自分には備わっていなかった内臓の存在を意識してしまう。
(女って……タイヘンだなあ……)
 月並みといえば余りに月並みなことを思いながら、ふと、毛布の中の自分の胸を、触ってみる。
 妹の、朱美の体――
(あ……)
 体に、ぞわっ、と妙な感覚が走る。
 パジャマに包まれた、柔らかな乳房の感触。それを指で押すと、甘い電流のような刺激が全身に広がるのだ。
(どうしちゃったんだ、俺……?)
 奈々の手で女の性感を教えられたためか、朱美の告白を聞いたからか、生理中だからなのか――
 知巳は、かつてないほどに、今の自分の体に“女”を感じていた。
 手で触れてもいないのに、下腹部のあたりが、じわん、じわん、とかすかに疼いているように感じられる。
 体の奥の方をとろ火であぶられているような感覚だ。
(こういうとき――)
 知巳は、毛布をかぶりなおし、ぎゅっと目を閉じながら、考えた。
(朱美は、自分で、してたのかな……?)
 そのイメージにますます体を疼かせながらも、知巳は、どうしても自分の体を弄び、快楽を紡ぎ出そうとはしなかった。
 まるで潔癖な乙女のように、自らの性欲から目をそらし、脚をきつく閉じ合わせる。
 それが、何もかも押し流してしまうようなあの快感に対する恐怖ゆえであることに、知巳は、まだ気付いていなかった。



「やめとくよ」
 その週の金曜日の夜、朱美の誘いを知巳はそう言って断った。
 四月の終わり。明日からはゴールデンウィークだ。天気予報によれば、この地方の天気はまずまずらしい。
 そして朱美は、奈々に謝るついでに、みんなで一緒にどこかに遊びに行こう、と誘ったのだが、それを知巳は断ったのである。
「どうして?」
「何て言うか……そんな気になれない」
「アレは、終わったんでしょ?」
 朱美のあけすけな問いに、知巳は頬を染めてしまう。
「なに、ンな可愛い顔してんのよ」
 朱美が、苦笑いしながら言った。
「と、とにかく、俺はやめとくよ」
「そっか。残念」
 寂しそうにそう言ってから、朱美は、ベッドの上で相変わらずあぐらをかいている知巳の顔を、ちら、と上目遣いで見つめた。
「お兄ちゃん、もしかして……」
「な、なんだよ」
 知巳は、やや身構えながら返事をした。“お兄ちゃん”と呼ばれるたびに、こそばゆいような感覚を覚えるらしく、もぞもぞと体を動かしている。
「もしかして、奈々のこと、恐がってる?」
「こ、恐がってるって言うか……何て言うか……」
 ごにょごにょとそう言う知巳の態度が、朱美の言葉が少なからず図星を突いていることを示している。
 朱美は、くすくす笑いながら、クッションの上から立ちあがった。
「いつか母さんの言ってたこと、分かるなあ。お兄ちゃん、可愛い」
「あ、兄貴をからかうな!」
「んふふふっ」
 笑いながら朱美は、部屋から出ていく。
 知巳は、ますます赤くなる顔に、憮然とした表情を浮かべていた。



 朱美と奈々が待ち合わせる、駅前の広場。
 目印の時計の下でぼんやりと奈々を待っている朱美を、知巳は、通りを隔てた街路樹の物陰から見ていた。無論、朱美には内緒である。
「俺、何やってるんだか……」
 そう独り言を言って、ふー、とため息をつきながら天を仰いだ。
 春の空の色は、他のどの季節とも異なり、暖かく、柔らかで、そしてのどかだった。
「あの、葛城さん?」
 聞き覚えのある声で後ろから声をかけられて、知巳は振り返った。
「あ、彩乃、先輩……」
 そこに立っていたのは、彩乃だった。すらりとしたプロポーションに、ロングタイトのスカートと春らしいライトグリーンのカーディガンという格好だ。
「葛城――朱美さんよね? 知巳くんの妹さんの」
「そ、そうです」
「偶然ね。一人なの?」
「はい」
 知巳は、ひどく答えにくそうに答えた。こんな状態になってから、彩乃とはまともに話したことはない。
「えっと、知巳くんのことなんだけど、ちょっとお話、いいかな?」
「は……はい」
「あのね――」
 言いかけてから、彩乃は周囲を見回して、近くに人通りがないことを確かめた。どうやら、駅前の広場にいる朱美には気付いていないらしい。
「最近、知巳くん……怒ってる?」
「おこってる、って……?」
 眉を曇らせながら言った彩乃に、知巳は思わず訊き返してしまう。
「あのね、あたし……知巳くんを怒らせるようなこと、しちゃったから」
「どういうことですか?」
「そのう……あたしの、前の彼がね、あたしと知巳くんが一緒にいるとき、現れたの」
「……」
 知巳は、朱美からあの夜の話を、まだ聞いていない。
 動悸が早くなるのを感じながら、知巳は、彩乃の次の言葉を待った。
「その人とは、あたし……けっこう、乱れた関係だったんだ。そのこと、知巳くんは聞いて……あたしのこと、怒ったか、呆れたか、したんだと思うの」
「そ、そんなこと――!」
 知巳は、あやうく大声をあげそうになり、どうにかそれを自制した。
「えっと……あ、兄貴は、そんなんじゃないですよ。たとえ、先輩にどんな過去があっても、そんなコトで、先輩を嫌いになったりは……」
「うん。あたしも、知巳くんを信じたい……。でも、知巳くん、最近あたしを避けてるみたいで……」
「そ、それは……」
 妹と精神が入れ替わったからです、とはこの場では言えず、知巳は絶句してしまう。
「今日も、本当は、ずっと前から約束してたの。一緒に映画観ようって……。でも、先週その話をしたときは、知巳くん、すっかり忘れちゃってたみたいで……それに、急に都合が悪くなって、行けなくなったって……」
(憶えてますよ!)
 知巳は、心の中で叫び声をあげていた。
(きちんと憶えてたし、すっごく楽しみにしてました! でも……でも俺……っ!)
「まあ、確かに、ずっと黙ってたあたしが悪いと思うんだけど……」
 そう言いながら、徐々にうつむく彩乃の目が、涙で潤んでいる。
 知巳は、身の内で高まる衝動に抗しきれず、両手で彩乃の肩をつかんでいた。
「え? な、何?」
 さすがに驚いた彩乃が、眼鏡の奥の目を丸くする。
「だ、だいじょぶですよ! あ、兄貴は……先輩にベタボレなんですから!」
 このまま抱き締めたい気持ちをぐっとこらえて、知巳は、必死にそう言った。
「ありがとう、朱美さん……」
 彩乃が、泣き笑いのような表情を浮かべながらそう言ったとき――
「知巳ちゃーん!」
 駅前広場から、元気のいい奈々の声が、かすかに聞こえた。
「――!」
 彩乃が、息を飲み、その体を硬直させる。
 しかし、次の瞬間には、知巳の手を振り解き、広場に向かって走っていた。
 知巳は、あまりのことに、茫然と立ち尽くしてる。
 そして、はっと気付いた知巳が走り出そうとしたときには、横断歩道の信号が赤に変わっていた。

「知巳くんッ!」
 よく通る彩乃の声に、朱美ははっとして振り返った。
「い、和泉先輩……」
「そ、そのコは……どういう、ことなの……?」
 いかにも、これからデート、といった感じの、可愛らしい赤のワンピースでおめかしをしてきた奈々に視線を移してから、彩乃が震える声で言う。
「それは、その……このコは……従妹で……」
 しどろもどろになりながら、朱美が答える。そんな様子を、奈々は、驚いた小動物のような目で見つめていた。
 ようやく呼吸を整えた彩乃が、視線を落とし、一つ、息をつく。
「ご――ごめんね、知巳くん……大声出しちゃって」
 そして、全てを諦めたような笑みを浮かべて、そう言った。
「そう、だよね……あたし、気が付かなかった……ううん。気が付いてたけど、気付かないフリしてたみたい」
「そ、その……先輩、それって、誤解……」
「知巳くん、無理してる。……あたし、分かるよ」
「え……?」
「だって……さっきから、全然“彩乃”って呼んでくれてないじゃない……」
 声が震えるのを必死に抑えようとしているような口調で、彩乃が言う。
「えと……それは……」
「ごめんね、ジャマしちゃって……さよなら……」
 何を言っていいか分からない様子の朱美と、事態を把握しきれていない奈々を後にして、彩乃が、小走りに立ち去りかける。
 と、きゅわわわっ! という自動車の激しいブレーキ音が、いくつも響いた。
「彩乃センパイっ!」
 何台もの車に急ブレーキをかけさせながら、赤信号の駅前通りを突っ切ってきた知巳が、叫ぶように言った。
「え……?」
「俺は、ここです! 俺、こっちにいるんです!」
 背中にドライバーたちの罵声を浴びながら、彩乃のもとに駆け寄った知巳が、そんなことを叫ぶ。
「お……お兄ちゃん……」
「……あ、朱美……はっ……話す……話そう……奈々と……彩乃、センパイに……」
 ぜはっ、ぜはっ、とせわしなく肩で息をしながら、知巳は、ようやくそれだけ言った。



 そして四人は、朱美と奈々の秘密の部屋にいた。
 情報屋、萌木緑郎の隠れ家である。
 そこは、郊外の雑木林に隣接する、荒れた一軒家の地下だった。まるで廃屋のような地上の外観とは異なり、地下室は綺麗に掃除されており、水道や電気も通っている。
 十畳ほどのその部屋は、コンクリートが剥き出しで、いかにも殺風景だったが、エアコンやミニキッチンが備えられていて、外見よりははるかに居住性はよさそうだ。その上、この部屋の隣にはトイレやユニットバスまである。
 天窓から春の日の光が入っていて、室内は地下であるにもかかわらず、さして暗くない。
 ここで、知巳と朱美は、長い時間をかけて、全てを語り終えたのだった。
「……」
「……」
「……」
「……」
 四人は、それぞれの表情で、しばし、口を閉ざしている。
 真っ赤に染まった、知巳の顔。きゅっと口元を引き締めた、朱美の顔。ぽかん、とした奈々のあどけない顔。そして、知巳と朱美を交互に見比べている、彩乃の顔。
「そう……なんだ……」
 彩乃は、その、花びらを思わせる唇を開いて、ようやくそれだけ言った。
「不思議なことね……」
「信じて、くれるんですか?」
 知巳が、意外そうな口調で言う。
「それは、確かに常識はずれなことだけど――目の前に二人揃うと、納得しちゃうわね。だって、表情とか、話し方とか、確かに入れ替わってるもの」
 そう言って、彩乃は、奈々の方を向いた。
「春宮さんだっけ?」
「あ、えと、奈々でいいです」
「奈々ちゃんは、どう思う?」
「それは、そのう……えーっと……」
 もじもじと膝に乗せた手を動かしながら、奈々は言いよどんだ。もともと人見知りする方なので、彩乃にどういう口をきいたらいいか分からない様子である。
「あたし、頭わるいから、わかんないです……そうなんだー、ってビックリしただけで……」
 小さな体を縮こまらせながら、奈々が言う。
 と、そんな奈々のお腹が、くー、と可愛く鳴った。
「奈々、お腹空いてるんだ」
 朱美が、苦笑交じりに言う。
「ごめんなさい……」
「謝らなくてもいいってば。もうお昼過ぎだもんね。コンビニまでひとっ走り行って、何か買ってくるよ」
 そう言いながら、朱美は、すっくと一動作で立ちあがった。
「お兄ちゃん、一緒に行こ」
「あ、ああ」
 人前でも“お兄ちゃん”で通すことにしたらしい朱美に、知巳は、曖昧に肯いた。



 例の地下室から、一番近いコンビニまで、往復で三十分はかかる。
 そんな道のりの帰りを、知巳と朱美は、並んで歩いていた。
「大丈夫かなあ……」
「何が?」
 いくつものおにぎりやサンドイッチの入った袋を手に下げた知巳に、大きなペットボトルを持った朱美が訊く。
「いや、だから、彩乃先輩と奈々がさ……」
「ケンカなんか、しないと思うけど」
「そりゃそうだろうけど……なんだか、二人がどんな話するのか、想像つかなくてさ。奈々、ああいう性格だろ」
「お兄ちゃんって、けっこう心配性だね〜」
「お前がガサツなんだろ」
「ふーんだ。優しい、って言ってあげた方がよかった?」
「兄貴をからかうなって」
 そんなことを言いながら部屋に戻ると、彩乃と奈々は、意外なほど打ち解けた雰囲気で何か話していた。
 奈々が、甘えるような表情でしゃべるのを、彩乃が優しい微笑を浮かべながら聞く。そんな構図だ。
「朱美ちゃん! 知巳ちゃんも!」
 奈々が、帰ってきた二人に声をかける。
「二人は、一番好きな宮崎アニメ、何?」
「……『天空の城ラピュタ』」
「えっと――やっぱ『ナウシカ』かな?」
 知巳と朱美が、反射的に答えてしまう。
「ほら、人によって、全然違うんですよね」
「そうね。多分、ああ見えてもターゲットを絞って作ってるからかな?」
「ずっとアニメの話してたのか?」
 知巳が、ちょっとほっとしたような顔で訊く。
「それだけじゃないよォ。知巳ちゃんや朱美ちゃんの、ちっちゃい頃の話とか」
「そ、それは、どんな話だ?」
「ひみつー♪」
 そう言ってから奈々は彩乃と向かい合い、そして二人は意味ありげに微笑んで見せた。
「あ、それからね、知巳くん……。奈々ちゃんと、二人で話したんだけど」
 と、今度は彩乃が、知巳の方を向く。
「は、はい」
「知巳くんと、朱美さんが元に戻る方法」
「え――!」
 双子は、ほとんど同時に声をあげた。
「あ、その、絶対確実ってわけじゃないんだけど」
 彩乃は、その綺麗な手を振って、詰め寄る知巳と朱美を制した。
「ただ、試してみる価値はあるかなあ……って思ったの」
「ど、どんな、方法なんですか……?」
 そう訊く知巳に、彩乃は、妙に艶っぽい表情を見せた。
「とりあえず、お食事してから、ね」



 背もたれのない、革張りの大きなソファー。
 知巳と朱美は、そこに、背中合わせになって座った。
 二人とも、身につけたものを全て脱いでいる。
 素肌に、革が貼りつくような感触が、あまり気持ちよくはなかったが、すぐに気にならなくなった。
「もっと、背中くっつけた方がいいと思う」
 彩乃は、右手の指をあごの当て、右の肘に左手を当てたポーズで、そんなことを言った。
「で、でも……」
「お互いが、どんな風だか、肌で感じた方がいいでしょ」
「でも……」
「奈々ちゃん、手錠か何か、ある?」
 さらに何か言いかける知巳を無視して、彩乃はそんなことを言った。
「て、手錠って……」
「ありますよお。金属のと、革のが」
「痕が残ると可哀想だから、革のがいいかな。二つあるといいんだけど」
「ありまぁす♪」
 にこにこと微笑みながら、奈々が、クローゼットから二つの拘束具を取り出した。
「これで朱美ちゃん、奈々の手首と足首、つないじゃったりするんですよ」
「ちょ、ちょっとお!」
 あけすけにプレイ内容をしゃべる奈々に、今度は朱美が声をあげる。
「どしたの? 朱美ちゃん」
「うー」
 いつもと様子の違う朱美の口調に、奈々が不思議そうに訊く。どうやら奈々は、この場の雰囲気に真っ先に順応してしまったようだ。
 と、奈々から手錠を受け取った彩乃が、それを手早く二人の手首にはめた。
 まずは、知巳の右手首と、朱美の左手首だ。
「あ……や、やだ……」
 朱美がそんな抗議の声をあげるのに構わず、彩乃は反対側に回り込んだ。
「和泉先輩、やっぱり、ここまでしなくても……」
「だーめ。ほら、奈々ちゃん、こっち押さえてて」
「はぁい♪」
 そして彩乃は、奈々が押さえた朱美の右手首と知巳の左手首を、もう一つの手錠で繋いだ。
「あ……」
 朱美は、不安げな声をあげながら、見をよじり、首を巡らせる。
「お、おい、あんま動くなよ、倒れる!」
「あ……ごめん」
 知巳の抗議に、朱美が小さな声で謝る。その頬はうっすらと上気し、見ようによっては、これから始まるであろう淫靡な実験を期待しているかのようでもあった。
「んふ、朱美ちゃん、普段は奈々を縛るのに、自分がこーそくされちゃうと不安なんだア」
 奈々が、くすくすと笑いながら言うと、朱美の頬がさらにかあっと染まった。
「あんまりいじめちゃダメよ、奈々ちゃん」
 たしなめるようにそう言ってから、彩乃は、知巳の前に立った。
「これから、二人にはうんと感じてもらうんだから」
「そ……それで、ホントにもとに戻りますかね?」
 知巳が、彩乃の顔を見上げながら言う。
「二人とも、イっちゃった拍子に入れ替わっちゃったんだもん。もう一回同じコトするくらいしか、方法は無いと思うけど?」
 彩乃は、そう言いながら、するすると着ている服を脱ぎだした。それを見て、奈々も同じように裸になる。
「だから、知巳くん……朱美ちゃんに、うんとシンクロしてみて……」
「でも……」
 まだ何か言いかける知巳の口をふさぐように、彩乃は、唇を重ねた。
 柔らかな唇同士がぴったりと重なり合う。
「ね、朱美ちゃん……あたしたちも……」
「う、うん……」
 そう返事をする朱美に、奈々もちゅっ、とキスをする。
 そして、四人は、互いに互いの唇を舌でまさぐりながら、唾液を交換し合った。
 ちゅぴ、ちゅぴ、ちゅぴ、という淫らな音が、響く。
 すぐそばのカップルに刺激されるように、四人は、熱心に舌を動かし、舌と舌とを絡ませあった。
 と、彩乃の手が、知巳の体をまさぐった。
 もとは、朱美のものであった、すらりとした曲線で構成された少女らしい体。
 その、けして大きくはないが形のいい乳房を、ふにっ、と優しく手に包む。
「ンう……」
 ひくん、と跳ねる知巳の背中の動きが、朱美の背中に伝わった。
 朱美の股間で、もとは知巳のものであったペニスが、次第に力を漲らせている。
「んむ……ン……ぷは……朱美ちゃん、オチンチン、おっきくなってきたよ」
 奈々が、朱美の耳元でそう囁いた。
「さわってほしい?」
「う、うん……」
 朱美がこっくりと肯くと、奈々は、二人の肩越しに彩乃のほうを見た。
「彩乃さん、どうしたらいいかな?」
「うーんと……じゃあ、優しく撫でてあげて」
 はぁはぁと喘ぐ知巳のうなじに唇を這わせながら、彩乃は言った。
「先からぬるぬるが出てきたら、それを全体に塗ってあげるようにするの」
「はーい」
 素直にそう返事をして、奈々は、ペニスの先端をその白い指でそおっと撫でた。
 彩乃の言葉通り、尿道口から、先走りの汁がにじみ出て、透明な玉になる。
「あはっ♪」
 奈々は、朱美の脚の間にしゃがみこむようにした。そうすると、天を向いたペニスが、すぐ目の前に来る。
 中指の腹で、鈴口の辺りをくるくると撫でまわすと、びくびくっ、と朱美の体が震えた。
「気持ちイイ? それとも、痛い?」
 奈々が、心配半分、好奇心半分で訊いてくる。
「りょ……両方……」
 敏感になったペニスの先端に、奈々の温かな息遣いを感じながら、朱美が言う。
「痛いの?」
「なんか、ひりひりする……あ、でも……だんだん、痛くなくなってきた……」
 一歳下の従妹に弄ばれる、自らの股間から生えた牡器官を、どこか濡れたような眼で見ながら、朱美は小さな声で答えた。
「奈々ちゃん、お口でできる?」
 今まさに知巳の乳首を舌で責めていた彩乃が、奈々に訊く。
「おくち、ですか?」
「そう。まずは、オチンチンの裏側を、舐めてあげるといいんだけど」
「わ、わかり、ました」
 奈々は、まるでこれから難しい問題集を解こうとするような顔で、うんっ、と肯いてから、ペニスに顔を寄せた。
 そして、独特の性臭を鼻に感じながら、ピンク色の舌を伸ばす。
 てろっ、と舌がシャフトの裏筋を舐め上げたとき、朱美は再び体を震わせていた。
「んふ……」
 そんな二人の様子をどこか楽しげに見つめてから、彩乃は、知巳の脚の間にその白魚のような指を伸ばした。
「ンあっ!」
 朱美のおののきを背中に感じながら、知巳も、やはりひくんと体を震わせる。
「知巳くん……ここ、ぬるぬるになってる……」
 そう言いながら、もとは妹のものであったクレヴァスをまさぐられ、知巳は羞恥に唇を噛んだ。
 しかし、クレヴァスの方は、彩乃の愛撫を待ちわびていたかのように、さらに粘液を分泌する。
「不思議ね……知巳くんが感じてるときの顔、してる」
 ふふっ、と微笑んで、彩乃は、ひくひくと息づくクレヴァスに指を這わせ、愛液をからめとるようにした。
 そして、すっかり柔らかくなった膣口の入り口を嬲ってから、つい、と意地悪く指を抜いてしまう。
「あ……っ」
 思わぬおあずけを食った知巳が、何か言いかける。
「どうしたの、知巳くん?」
 指を濡らす透明な愛液を、知巳の乳首に塗りつけながら、彩乃が訊く。すでに勃起していた知巳の乳首はさらに固くなり、いやらしいシロップに濡れてぬらぬらと光った。
「彩乃センパイ……俺……」
 いささか情けない声で、知巳はごにょごにょと何かを言う。
「ガマンしなくていいのよ、知巳くん……してほしいんでしょ?」
「……はい」
 囁くような声で、知巳が答える。
「じゃあ、お口でしてあげるね……」
 そう言って、彩乃も、知巳の脚の間にひざまずく。
 そして、自らが溢れさせた粘液できらきらと濡れ光るその部分に、その美麗な顔を寄せた。
「はぁ……」
 どこかうっとりしたようなため息で、太ももをくすぐりながら、彩乃が、ちゅ、とクレヴァスにキスをする。
「んんんッ」
 知巳は、思わず両腕で股間をかばおうとしてしまった。
 が、手錠の鎖が鳴るだけで、知巳の体は自由にならない。
 彩乃は、人の性器に淫らな奉仕をする悦びにその理知的な顔をピンク色に染めながら、口唇愛撫を続けた。
 舌で、靡肉の間の複雑なひだを舐め上げ、膣口をえぐるようにする。
 そうしてから、まだ半ば莢に隠れたクリトリスを、ちょんちょんと舌先でノックした。
「あ……センパイ……そこ……」
 快楽神経の集中する肉の芽を刺激され、知巳は本当の少女のように切なげな声をあげてしまう。
「気持ちいいんでしょ?」
「は、はい……」
 知巳の恥ずかしげな声を聞いた彩乃は、どこか満足げに微笑んでから、クリトリスに対する愛撫を再開した。
 その柔らかな唇で、ちゅっ、ちゅっ、と優しく吸い上げては、ちろちろと舌先で転がす。さらには、舌の裏側を押し当て、ぐいぐいと刺激をした。
 唾液と愛液に濡れたクリトリスが、固く勃起して、まるでさらなる愛撫を求めるかのように、ささやかな自己主張をしている。
 彩乃は、それまで脚を撫でていた指先で、クリトリスの包皮をつるりと剥いた。
「ひあ……」
 敏感なその部分を剥き出しにされ、知巳が悲鳴混じりの声をあげる。
 彩乃は、その部分に舌を押し当て、素早く左右に動かした。
「ひゃん!」
 朱美の背中に自らの背中を預けるようにして、知巳は体をのけぞらせた。
 ひくん、ひくん、という痙攣が、朱美の背中に伝わる。
 と、彩乃が、細い粘液の糸を引きながら、唇を離してしまった。
「ふあぁぁ……」
 恐いくらいの快感から解放され、知巳は、どこか安心したような声を漏らしてしまう。
「奈々ちゃん? きちんとできてる?」
「ふぁい……」
 彩乃の問いに、奈々は、不明瞭な発音で答えた。
 朱美のペニスは、すでに奈々の唾液によってべっとりと濡れ、もどかしい刺激にひくひくと震えている。
「じゃあ、咥えてあげて。歯を立てちゃダメよ」
 とろとろに濡れた知巳のクレヴァスを指で嬲り、快楽をアイドリング状態に保ちながら、彩乃がレクチャーする。
「やって、みます」
 そう言って、奈々は、そのちんまりとした口をあーんと開けた。
 そして、ぱくっ、とほとんどためらいを見せず、ペニスを咥えこむ。
「ああっ……」
 朱美は、思わず声を漏らしてしまう。
 体の自由が利かない状態で、奈々に一方的に責められている、というシチュエーションのためか、朱美の目は、うるうると涙で潤んでいた。
「奈々ちゃん、舌、動かしてみて」
「んあぃ……」
 律義にも声を出して返事をしてから、奈々がもごもごと口内で舌を動かす。
 その舌使いはぎこちないが、視覚的なインパクトもあって、朱美は頭がかあっと熱くなるくらい興奮を覚えていた。
 奈々に奉仕させる慣れ親しんだ悦びと、自らが体を動かせないことによる、未知の快楽……。
 朱美にできるのは、さらなるフェラチオをうながすように、浅ましく腰を突き出すことくらいだ。
 そうすると、自然と、背後の知巳に背中を預けることになる。
「慣れてきたら、お口にオチンチンを出し入れしてみてね」
「ぷは……はぁい……」
「うん。じゃ、知巳くん、おまたせ♪」
 そんなことを言って、彩乃は、再び知巳の股間に顔を戻した。
 そして、こんどはいささか強く、ちゅううっ、とクリトリスを吸引する。
「ひあああっ!」
 彩乃の不意打ちに、知巳はびくんと腰を跳ね上げる。
 と、彩乃は、その仕打ちをわびるように、ラビア全体をてろてろと舐めしゃぶった。
 そして、そんな優しい愛撫でくったりと力が抜けたところを狙って、ほころんだ肉の花びらを甘く噛む。
「あ……ンうっ!」
 巧みに強弱をつけられた彩乃の愛撫に、知巳は、他愛もなく翻弄されていた。
 そんな知巳の膣口に、彩乃が、つぷっ、と指を差し入れる。
「んアっ……」
 彩乃の指は、柔らかな締め付けを受けながらも、ぬるりと膣内に飲みこまれた。
「あ、ああっ、あっ……!」
 彩乃の細く長い指で膣内をまさぐられ、知巳が、切羽詰った声をあげた。
 ちゅぶっ、ちゅぶっ、ちゅぶっ、ちゅぶっ、と淫らな音を立てる膣口からは、白く濁った愛液が溢れ、会陰を伝ってソファーを汚している。
 彩乃は、ますます激しく指を動かしながら、知巳のクリトリスに口を寄せた。
 と、そこで動きを止め、彩乃が顔を起こす。
「――朱美さん」
「え……あ、はい……?」
 彩乃に声をかけられて、朱美は、困惑したような声をあげた。
「イけそう?」
「え……えっと……まだ、です……」
 そう言われて、奈々は、傷ついたような顔で、ペニスを口から離した。
「やっぱり、奈々、ヘタ……?」
「あ、ごめん、奈々。ボク、そういうつもりで言ったんじゃないんだけど……」
「ごめんなさい……ごめんなさい……奈々、うまくできなくて……」
 目に涙を溜めながら、奈々が謝る。
「はじめてなんだもん、しかたないわよ」
 彩乃は優しくそう言って、ぬるん、と指を知巳の膣内から引き抜いた。
「それじゃあ、交代、してみよっか?」
「こうたい……」
「そう。その方が、奈々ちゃんもやり方とか分かってるでしょ」
「うん……」
 こっくりと、奈々が肯く。
 知巳と朱美は、そんな会話を、どこかぼんやりとした顔で聞いていた。
 知巳の前に奈々が、朱美の前に彩乃が、立つ。
 奈々は、その手に、部屋の中に隠していた双頭ディルドーを持っていた。
「――!」
 はっ、と知巳が目を見開く。
「ま、まままさか、ソレって……」
 焦る知巳に、奈々はくすっと微笑んだ。
「ダイジョブだよ、知巳ちゃん」
「そ、そんな、だって……」
「奈々と朱美ちゃん、よく、これで遊んでるもん」
 そう言いながら、奈々は、ディルドーを両手で持って、その片方をぺろぺろと舐め始めた。
 そして、にこにこと微笑みながら、閉じかけた知巳の脚を割り開く。
「んー♪」
 ちゅっ、と奈々は、すでに蜜を溢れさせているクレヴァスに、口付けした。
「あ……」
 初恋の相手だった従妹のそのあまりに淫らな行為を目にして、知巳の脚から、力が抜けてしまう。
「だいじょうぶ……知巳ちゃん……そんなにキンチョーしないで……」
 そう言いながら、奈々は、ディルドーの先端を膣口にあてがった。
 ぞわわっ、と知巳の全身の産毛が逆立つ。
 が、すでに充分過ぎるほどに濡れていたその部分は、亀頭に模して作られたディルドーのふくらんだ部分を、ぬるっ、とわりとあっけなく飲みこんでしまった。
「うわ……ぁ」
 自分の体の中に異物が侵入している、という感覚に、知巳は、ひどく弱気な声をあげてしまっていた。
「ゴメンね、知巳ちゃん……痛くは、ないはずだから……」
 そう言いながら、奈々は、ディルドーを持った手に力をこめる。
「ひ……ンあ……か……はっ……」
 ずる、ずる、ずる、ずるっ、と、シリコン製の淫具が体の内部をこする感覚に、知巳は、声も出ない。
 と、奈々が、ディルドーを飲みこんだクレヴァスを、れろん、と舐めあげた。
「はひっ!」
 甘い刺激に、知巳が声をあげる。
 奈々は、目を閉じ、どこか神妙な顔つきで、ちゅばちゅばと靡肉を舐めしゃぶった。
 そうしながら、ディルドーを、小刻みにくにくにと動かす。
 その姿は、まるで、ペニスをしごきながらその根元に奉仕をしているようにも見えた。
 知巳の内部で、おぞましい異物感が、次第にひりつくような快楽に変わっていく。
「ンあ……あぁ……はぅ……あああっ……」
 その膣口からはさらなる愛液が溢れる。
 奈々は、その淫らな粘液を、ディルドーのもう片方に指で伸ばしていった。
 朱美が、そんな二人の様子を、首をねじって見つめている。
「朱美さん」
 呼ばれて、朱美ははっと向き直った。
 意外なほど近くに、彩乃の綺麗な顔がある。
 今まで、少なからぬ嫉妬の思いを込めて見ていたその顔は、妖しく淫らな微笑をたたえていた。
「興奮してるの? 自分の体が、奴隷ちゃんに嬲られてるのを見て……」
「そ、そんな……」
 眼鏡の奥の黒目がちの瞳に浮かぶ妖しい光に魅入られそうになりながら、朱美は、声を詰まらせる。
「すっごく可愛い顔してたわよ……」
「……」
 と、彩乃は、朱美の肩越しに、知巳の耳に口を寄せた。
「ごめんね、知巳くん」
「え……?」
 知巳は、膣内から湧きあがる快楽に霞んだ頭で、ぼんやりと答えた。
「あたし、これから浮気しちゃう……」
 そう言ってから、彩乃は、朱美の脚の間にひざまずいた。
 そして、その鮮やかな色の唇を、赤黒いペニスに寄せる。
「ンあっ!」
 ちゅうっ、とやや強い力で亀頭部を吸われ、朱美は、体をのけぞらせた。
 かまわず彩乃は、唇をぴったりと締めながら、ペニスを口内に収めていく。
「ンああ……あ……あ、あああ……」
 奈々のぎこちないフェラチオとは比べ物にならないような快楽が、ペニスをぴったりと包んでいく。
 いつか、彩乃の口を無理矢理に犯したときとも違う、じわじわと際限なく高まっていくような快感だ。
 彩乃は、舌や口腔粘膜にペニスの表面をこすりつけるようにしながら、ピストンを始めた。
 ペニス全体がまんべんなく快楽のとろ火にあぶられ、ますます熱くなっていくような感覚がある。
 彩乃は、ペニスを充分に唾液で濡らしてから、口を離した。
 そして、裏筋や雁首のくびれに、その唇と舌を這わせる。
「んわっ……あ……あン……ひあ……やぁっ……!」
 鋭い快楽に、びくびくと暴れそうになるペニスを両手で優しく押さえ、彩乃は濃厚なフェラチオを続けた。
 まるでハーモニカでも吹くような感じで横咥えにして、ぬるぬると唇を這わせたかと思うと、亀頭の先端部分だけに唇をかぶせ、鈴口を舌でえぐるようにする。
 そして、ぴゅるぴゅるとまるで小水のように溢れるカウパー氏腺液を、彩乃は嬉しそうに舐めとった。
 その合間に、淫靡な視線を、眼鏡の奥からちらちらと寄越す。
「ひあ……は……あぅ……ン……んン……んんン……あっ!」
 朱美は、何重にも倒錯した快感に、絶え間なく喘ぎを漏らしてしまっていた。
 ひく、ひく、とペニスが射精の準備運動を始める。
 すると彩乃は、あっさりとフェラチオを中断させてしまった。
「あ、イヤ……続けてェ……」
 朱美が、切なそうに眉をたわめながら顔でおねだりをする。
「ふふ、いつかのお返し♪」
「そ、そんなァ……」
「冗談よ。知巳くんと一緒じゃなきゃ、意味ないでしょ?」
 すっかり当初の目的を見失っていた朱美に、彩乃が笑いかける。
「奈々ちゃん、そっちはどう?」
「あ……じゅんび、おっけーです」
 奉仕しているうちに興奮してしまったのか、ぽおっと顔を染めながら、奈々が言う。
「じゃあ――しよっか?」
「はい……」
 察しよく肯いて、奈々は、立ちあがった。そして、自分の唾液と愛液で濡れた口元を、恥ずかしそうにぬぐう。
「知巳ちゃん……」
 そして奈々は、知巳の肩に両手を置き、その腰をまたぐようにして、ソファーにあがった。
 んしょ、んしょ、などと言いながら態勢を整えようと体を動かすたびに、その幼い顔立ちに不釣合いな巨乳がたぷたぷと揺れ、乳首にはめられた銀色のピアスがかすかな光の軌跡を残す。
 ようやく、奈々の無毛のクレヴァスが、ディルドーの先端をとらえた。
「奈々……」
 そう呼びかける知巳ににっこりと笑ってから、奈々は、ゆっくりと腰を落としていった。
「ン……あああッ! あああああああっ!」
 奈々の体重によって、さらに深いところにディルドーを打ちこまれ、知巳は喉を反らした。
 形は似ていても、セックスの時の挿入感とは全く異なる。互いに、淫具を通して、犯し、犯されているような感じだ。
「じゃ、こっちもいくわよ……」
 そう言って、すでに朱美と対面座位の形になっていた彩乃も、そのクレヴァスをペニスに押し当てる。
「ンあ……」
 ぬぬぬっ、とクレヴァスがペニスを飲みこんでいく様は、どこか、妖しく淫らな未知の生き物の捕食風景を思わせた。
 四人の体が、しばし、静止する。
 そして、彩乃と奈々は、まるで示し合わせたように、同時に腰を使い出した。
「あ……ンう……っ」
「ひあ……あ……ン」
 知巳と朱美の喉から、快楽の声が漏れる。
 四人分の体重と重みを受け、ソファーが、ぎしぎしとかすかに音を立てた。
 それに、じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ、という淫靡に湿った音が重なる。
「知巳ちゃん、どう?」
 いつになく、どこかお姉さんっぽい言い方で、奈々が訊く。
「す、すごい……なんか……どうにか、なっちゃいそう……」
 知巳は、体の奥底からあふれ出る快感に、わずかに怯えるような顔で、奈々の顔を見た。
 奈々が、そんな知巳に対するたまらない愛しさに、ぎゅっ、と頭を抱き締める。
「んんん〜!」
 柔らかな胸の谷間に顔を挟まれ、呼吸を阻害された知巳が、声をあげる。
「あは……ごめぇん」
 そう言って、奈々は、一度知巳の頭を解放してから、右の乳首をその口元に差し出した。
「おっぱい、吸って……」
 そんな奈々のおねだりにこくんと肯き、知巳は、ちゅうちゅうと無心な顔で奈々の乳首を吸った。
 そして、歯や舌で、ピアスに貫かれて敏感になった乳首を刺激する。
「あっ、ああン……きもちイイよォ……」
 奈々は、嬌声をあげながら、ぐりぐりとその丸いヒップをグラインドさせた。
「ンぅんんんッ!」
 膣内を激しくディルドーでかきまわされ、知巳がくぐもった声をあげる。
「羨ましい? 朱美さん」
 快感にとろけそうになった頭で、知巳と奈々のやりとりをぼんやりと聞いていた朱美に、彩乃が言う。
「そ、そんなこと……」
「そう? あたしは、ちょっと妬けちゃったな」
 そう言って、彩乃は、朱美の額にちゅっとキスをした。
「だから、あたしたちも、負けずに気持ちよくなっちゃいましょう」
「和泉センパイ……」
 艶然と微笑む彩乃に、朱美は、ぞくりと悪寒のようなものを感じた。
 しかし、その悪寒は、そのままぞくぞくと背中を這い登る快感になっていく。
「ふふふっ」
 彩乃は微笑んで、くいっ、くいっ、とヒップを動かした。
 そうしながら、その形のいい乳房の先端にある乳首を、彩乃の胸板にこすりつけるようにする。
 朱美のペニスが、彩乃の熱い秘肉の中で、ますます大きくなっていった。
「ああン……オチンチン、おっきい……きもちイイの……」
 普段の慎ましやかな彩乃からは考えられないような媚声を聞きながら、朱美は、ぐんぐんと身の内で性感が高まっていくのを自覚していた。
 熱を帯びた肉襞がシャフトをこすり、愛液に濡れた膣肉がぐいぐいと痛いくらいにペニスを締めつけている。
 いつしか朱美は、両手で体重を支え、彩乃の動きに応えるように、下から腰を動かしていた。
 唇が、彩乃の唇に塞がれる。
「んう……うン……んム……ふぅ〜ン」
 朱美は、自分が、まるで媚びるような鼻声を漏らしてしまっていることに、気付いていない。
 ただ、ふれあい、こすれあう粘膜がもたらす快感にのみ、頭が支配されかかる。
 と、彩乃が、唐突に腰の動きを止めた。
「あああ……ン」
 絶頂寸前でまたおあずけをくらい、朱美が恨みっぽい声をあげる。
「ゴメンね……知巳くんも、もう少しみたいだから……」
 はぁ、はぁ、と喘ぎながら、彩乃が言う。
 背後に意識を向けると、確かに、知巳の切羽詰った喘ぎ声が聞こえた。
 ぴったりと重なった背中が、びくびくっ、びくびくっ、と痙攣している。
「ちょっと、本気だすね」
 悪戯っぽくそう言って、彩乃は、目を閉じた。
「あ? あああッ! ンあああッ!」
 朱美は、声をあげていた。
 ペニスをぴったりと包む肉襞が、ぞわぞわと無数の軟体動物のように動き出したのだ。
「た、食べられちゃうっ!」
 ペニス全体を膣内に飲みこもうとするかのようなその蠢動に、朱美は、思わずそんな声をあげてしまう。
「お、おどろいた……? 朱美さんも……がんばれば、できるようになるかも……」
 そう言って、彩乃は、膣肉を蠕動させたまま、ぐいぐいと腰を動かした。
「あ、ひっ! ンあああッ! ああああアアアっ!」
「朱美さん……知巳くんといっしょに……イって……っ」
「あ、ダメ! ボク、もうダメ! ダメえええ!」
 何かに追い詰められ、圧倒されたような声をあげながら、朱美が、びくびくと体を震わせる。
「知巳ちゃん……朱美ちゃん、もうすぐだよ……」
 そう、知巳の耳元でささやきながら、奈々も激しく腰う使う。
 いつしか、知巳と朱美は、手錠で戒められた互いの手を、ぎゅっと握り合っていた。
 お互いの痙攣を、背中に感じる。
「あッ! あッ! あッ! ンあああああああああああああああああああああああーッ!」
 絶頂の声が、地下室に響いた。



 一瞬、体がふわっと軽くなるような錯覚。
 身体感覚の全てから解放され、純粋な快楽の海に、心だけで漂っているような……。
 しかし――
 結局、二人の心は、元の体に戻ることはできなかった。


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