第一章
葛城知巳は、ベッドに入ってもなかなか寝付けなかった。
早めの夕食後、いつもの通り公園まで軽くランニングをし、人気のない広場で三十分あまりシャドウで体を動かした。
鉤状に曲げられた人差し指と中指が特徴的な、変則的な構えと動き。巻き起こす鋭い風に、はらはらと散っていた桜の花びらが巻き込まれ、思わぬ動きを見せる。
今は単身海外にいる父親が、つい昨年まで知巳の体に叩き込んだ、独特の格闘術だ。
古武道、葛城流柔拳術。
知巳は、そのご大層な名前が、父親に対する反感もあって、あまり好きではなかった。それでもトレーニングはほとんど欠かしたことがない。
もはや、こうやって体を動かしてからでないと、眠りにつけない体になってしまっている。
そして、家に帰り、ストレッチをしてからベッドに潜り込んで、朝までぐっすりと眠る。それが、知巳の日常のはずだった。
しかし知巳は、まだ火照りの残る体を、布団の中でもてあましていた。
暗い部屋の中、見慣れた天井に顔を向ける。
凛々しい、という表現がぴったりくるような整った顔には、しかし、まだどこか少女っぽい甘さが残っている。特に笑った顔などは、双子の妹である朱美にそっくりだと、よく言われたものだ。
知巳にとってみれば、それはあまり嬉しい言葉ではない。
その上、妹の朱美はボーイッシュなタイプだ。よせばいいのに髪型まで同じようなショートカットにしているので、ますます同じ顔に見える。
知巳は、朱美といわばセットで「男と女なのによく似た双子」として見られてきた。
そんな知巳を、和泉彩乃は、「双子の片割れ」でなく、大げさに言うなら「一人の人間」として見てくれた。
「彩乃……先輩……」
意識せずそうつぶやいて、つぶやいた自分に、知巳はちょっと驚いてしまう。
昨日の、金曜日の夜、知巳はこのベッドの上で、初めて彩乃と結ばれたのだ。
枕には、まだ彩乃の綺麗な黒髪の香りが残っているような気がする。
自分の腕の中でうねる、白い裸身……。
トランクスの中で、知巳の若いペニスが、むくむくと隆起してしまう。
「……」
知巳は、少しためらった後に、自らの股間に手を伸ばした。
その、金曜日の夜――
「面白かったね、知巳くん」
テレビ画面の、黒をバックに流れるスタッフロールから知巳の方に顔を向けて、彩乃は言った。趣味のいいメガネの薄いレンズに、知巳の顔が映っている。
学校から帰った後、ファーストフードで食事をしてから、両親も妹もいない自分の家に彼女を呼び、ゲーム機で再生したDVDを鑑賞する。経済的にけして潤沢とは言えない二人の、ささやかなデートだ。
DVDは、何年か前に公開された、殺し屋と少女との恋物語である。
悲しいラストに、知巳の目は、不覚にも少し潤んでしまっている。
そのことに気づいた彩乃は、ふっと微笑んで、言った。
「知巳くん、やっぱり優しいのね」
「そ……そんなこと、ないですよ」
知巳は、彩乃と付き合い始めてからも、先輩後輩の筋目をつけるべく、敬語で通している。
「俺は、こういう話に弱いんですよ。なんだか可哀想で」
「それだけ素直なのよ、知巳くんは」
白い肌と黒い瞳が特徴的な、純和風の顔に似合った落ち着いた声で、彩乃は言った。
「あたしなんか、ダメね。映画観ても、つい“監督はどうしてこんなラストにしちゃったのかなあ”とか考えちゃう」
「そう、ですか……」
「うん」
そう返事をする彩乃の顔が、思いのほか近くにある。
「知巳くん……」
赤い唇が、どこか濡れたような声で、知巳の名を呼ぶ。
「こんな時にキスをねだっちゃったら、映画の感動が台無し?」
知巳は首を横に振って、そして彩乃の細い肩に手をのせた。
そして、目を閉じ、唇を寄せる。
まだ数えるほどしか触れていない、柔らかな感触。
舌と舌を、お互いの気持ちを探るように、触れ合わせた。
息が苦しくなるまで、じっと唇を重ね合わせる。
顔を離したときには、メガネの奥の彩乃の瞳も、うるうると潤んでいるように見えた。
「先輩……」
自分の声が震え、上ずっているのを情けなく思いながら、知巳は言った。
彩乃が小首をかしげると、癖のないつややかな長い髪が、さらさらと動く。
「今日は……その、朱美も、親もいないから……もし、よければ……」
「うん、分かってる」
彩乃は、にっこりと微笑んだ。そうすると、落ち着いた、大人っぽい印象のその顔が、妙にあどけなく見える。
「実は、あたしも、期待してたの」
「先輩――」
再び、知巳は彩乃に口付けをした。
膝立ちになって、互いの体に腕を回し、抱きしめ合う、情熱的なキス。
制服越しの感触のなまめかしさに、知巳のその部分が、きりきりと立ち上がっていく。
「先輩……先輩……」
キスの合間に、知巳はそう繰り返していた。
「知巳くん、可愛い……」
女顔がコンプレックスの知巳にとっては、可愛いと言われることは屈辱でしかないはずなのだが、彩乃に言われると、なぜかぞくぞくとした快感を感じてしまう。
そして、知巳の股間のものは、まだ触れてもいないのに、のっぴきならない状態になってしまっていた。
その股間に、彩乃が、いたずらっぽく太ももをおしつける。
「あッ……!」
もぞもぞと動く感触に、知巳は、慌てた声をあげた。
しかし、まさに時すでに遅し、だ。
「だ、だめです! それ……あ、あ、あぁ、あッ……!」
知巳は、無意識にきつく彩乃の体を抱きしめながら、制服のスラックスの中で、したたかに射精してしまったのである。
何枚かの布越しに彩乃の太ももと密着したペニスが、びゅくん、びゅくん、と律動を続けた。
「うふ……」
彩乃は、その清楚な顔立ちに似合わない、淫らな笑みを浮かべた。
「ご、ごめん、先輩……俺……」
はぁっ、はぁっ、と荒くなった息の合間に、知巳はどうにか言い訳しようとする。しかし、これ以上はないというくらいの羞恥と屈辱でぐちゃぐちゃになった頭では、何を言っていいやら思いつきもしない。
と、彩乃は、その顔に微笑を浮かべたまま、知巳のベルトのバックルに手をかけた。
「あ……」
驚愕のあまり言葉の出ない知巳のベルトを外し、スラックスを脱がしていく。
大量の精で重たげに濡れたトランクスが露になった。その中で、まだ半勃ちの知巳のペニスの様子が、はっきりと分かる。
「ごめんね、知巳くん。あたし、こういう女なの……」
生ぬるいスペルマで汚れたトランクスの上から、愛しげにペニスに触れながら、彩乃は言った。
「軽蔑するでしょ、知巳くん」
そう言いながら、知巳のペニスをあらわにする。
今射精したばかりのその部分は、自らが放った体液でぬらぬらと光りながら、彩乃の熱っぽい視線に応えるように、ひく、ひく、と動いていた。
「そんなこと、ないです……。俺、先輩が、好きですから……」
気のきいたセリフを思いつかず、知巳は、そんなことを言う。
「嬉しい……ありがとう、知巳くん。……また、大きくしてあげるね」
そう言って、彩乃は、膝立ちの知巳の前で四つん這いになり、その小さな口で、ぱっくりとペニスを咥えこんだ。
「うあっ!」
絶頂を迎えたばかりで敏感になったその部分に柔らかな口腔粘膜を感じ、知巳は、思わず声を上げてしまった。
ふうン、ふうン、と媚びるような声をあげながら、彩乃は、ペニスの表面を濡らす精液を舐め取っていく。
美しいその顔と静脈を浮かせたペニスのコントラストが、無残なほどの淫らさを演出していた。
普段はおとなしく面倒見のいい、誰からも慕われている彩乃が、自らこんな淫らな行為をしている。そのことによる興奮が、肉体的な快感とあいまって、知巳の動悸を尋常でないほどに高めていた。
「ああ、先輩……そんな、そんなこと……」
知巳は、そう言いながら、切なげに眉を寄せた。そうすると、その顔はますます少女っぽくなってしまう。
彩乃は、知巳の腰にその細い腕を回しながら、情熱的に口唇奉仕を続けてた。
ひとしきり口内でペニスの表面の感触を味わってから、一度口を離し、長く伸ばした舌をシャフトにからめる。
そして、敏感な雁首や鈴口を舌先でえぐり、ちゅっ、ちゅっ、と裏側に口付けを繰り返した。
知巳のペニスは、他愛もなく力を取り戻し、再び完全に勃起してしまっている。
「はぁ……すごく熱い……」
彩乃は、かすれたような声でそうささやきながら、赤黒い亀頭にぴったりと唇を重ねた。
そのまま、溢れる先走りの汁をちゅるちゅると舐めとり、舌を回すようにして先端部分を刺激する。
「先輩、もう……俺、それ以上されたら、また……」
「うふっ、ごめんなさい」
知巳の切羽詰った声に、彩乃は、艶然と微笑みながら身を起こした。
そして、純白のハンカチで口元を慎ましやかにぬぐう。
「じゃあ、続きは、ベッドでしましょう」
「は、はい……」
知巳がそう返事をすると、彩乃は、しなやかな動作で立ち上がった。
紺色のブレザーを脱ぎ、きちんと畳んでクッションの上に置く。
それから、彩乃はスカートを脱いだ。その形のいい長い脚を片方ずつスカートから抜く仕草すら、どこか気品のようなものを感じさせる。
ついさっきまで、知巳のペニスを嬉しげにフェラチオしていたのと同じ少女とは、とても思えない。
知巳は、ぼんやりと、彩乃が服を脱いでいく様を見つめていた。
「……もう。知巳くんも、一緒に脱いで」
脱いだばかりのブラウスで胸元を隠しながら、彩乃が言った。
「あたしだけなんて、ずるいよ」
「す、すいません」
そう言って、知巳は、ぎくしゃくと立ち上がった。
そして、まだかすかに震える指で、制服を脱ぎ捨てていく。
彩乃は、そんな知巳を、まるで姉か母親のような優しい目で見つめていた。
知巳が、全裸になった。肉付きはあまり厚くはないが、毎日のトレーニングで鍛えられた、しなやかな体つきである。
一方彩乃は、レース柄の上品なブラとショーツを身につけたままだ。
ふっくらとした柔らかそうな乳房が形作る胸の谷間に、知巳は見入ってしまう。
「脱がせてみたい? 知巳くん」
そう言う彩乃に肯いて、知巳は、彩乃の胸に手を伸ばした。
が、無論のこと、生まれてこの方、女性の下着をいじくったことなどない。そもそもホックが前後どちらについているタイプなのかさえ、のぼせてしまった知巳の頭は判断できないでいる。
(ンなことなら、朱美に教わっておけばよかったかも……)
などと、愚にもつかないことをつい考えながら、知巳は、ただいたずらに彩乃の胸をまさぐってしまう。
そんな知巳の手に、彩乃は、その小さな白い手を重ねた。
手のひらにある、ブラ越しの柔らかな感触に、かああっ、と頭に血が昇る。
そんな知巳の指先を、彩乃はゆっくりと導いた。
「こ・う・す・る・の・♪」
そう言いながら、指先に指先を添え、フロントホックを外す。
意外とボリュームのある、形のいい胸が、ふるん、と揺れた。
ミルク色の乳房の頂点にある朱鷺色の突起を、知巳は、じっと凝視してしまう。
「いいの……好きにして……」
彩乃にそう言われ、知巳は、まるで魔法から解けたみたいに、体を動かした。
右手を、左の乳房に重ねながら、右の乳首を咥える。
「んッ!」
ちゅうっ! といきなり激しく吸われ、彩乃は押し殺した悲鳴をあげた。
「あ、すいません、先輩」
慌てて口を離し、知巳が言う。
「もっと、やさしくしてね?」
少し眉を寄せた顔で笑いながら、彩乃が言う。
知巳は、こくんと素直に肯いて、再び、おずおずと乳首を咥えた。
そして、今度は強く吸ったりせず、ころころと舌で転がすようにする。
「ん、ふン……」
そんな鼻声を上げる彩乃の胸を、知巳は、ほとんど本能的に、交互に責めた。
唾液に濡れた上向きの乳首が、ぷっくりと勃起する。
知巳は、そんな彩乃の乳首を、ちゅぽ、ちゅぽ、と小さく音を立てながら、優しく吸った。
ますます彩乃の乳首は固くしこっていく。
「と、知巳くん……」
白い頬を桜色に上気させながら、彩乃が言った。
「あ、痛かった、ですか?」
「そうじゃなくて……もう、立ってられないの……」
甘えるような声音でそう言って、彩乃は、その両腕を知巳の首にからめた。
そのまま、仰向けにベッドに横たわる。
知巳は、そのまま彩乃に覆い被さる形になった。
「先輩……っ」
夢中で彩乃の体を抱き締めながら、知巳が言う。
「――いや」
「え?」
すねたような彩乃の声に、思わず知巳は顔を上げた。
「あのね……彩乃って、呼んで……」
「ええっと……あ、彩乃……先輩……」
言いにくそうにそう言う知巳に、彩乃はくすっと笑いかけた。
「ん、合格♪」
そう言って、自分から唇を重ねる。
知巳は、彩乃の柔らかな唇や舌を吸い、首筋に唇を這わせた。
そして、仰臥しても形を崩さない胸の双丘に口付けし、乳首をちゅばちゅばと吸いたてる。
「あ……あン……あぁ……はァん……」
慎ましやかな声で、彩乃が快感を訴える。
そして彩乃は、知巳の右手を、自らの脚の間に導いた。
「さわって……」
そうささやかれて、知巳は、ショーツの上から、彩乃の秘部に触れた。
彩乃の温度が、薄い可憐な布越しに、指先に伝わってくる。
知巳は、乱暴にならないように気を付けながら、彩乃のその部分をまさぐった。
「あぁン……」
きゅっ、と彩乃がそのしなやかな体を縮こまらせる。
その、いつになく可愛らしい反応をもっと見たくて、知巳はますます彩乃の秘部を愛撫し続けた。
指先に、温度とは別に、何か湿り気のようなものが感じられてくる。
「知巳くん……あの……じ、じかに、さわって……」
そう言われて、知巳は、ショーツの中に右手を滑り込ませた。
ささやかな陰毛のさらに奥にまで、指を伸ばす。
そこは、驚くほどに柔らかく、そして熱く濡れていた。
ここが自分の欲棒を迎え入れるのかと思うと、頭が痺れるほどに興奮する。
「せん……あ、彩乃、先輩」
ぬるぬるとしたクレヴァスの感触を指に感じながら、知巳は言っていた。
「なに……?」
「俺……彩乃先輩のここ……見たい……です」
真剣な表情の知巳に、彩乃は、困ったような笑みを浮かべた。
「どうしても?」
「どうしても」
「しょうがないなぁ……いいよ……」
そう言って、彩乃は、軽く腰を浮かせた。
知巳が、彩乃のショーツに手をかけて下に引っ張る。
「あん……それじゃダメ。後ろの方から脱がすの」
そのままショーツを引き千切りかねない知巳に、彩乃が言う。
知巳は、彩乃のアドバイス通り、ブドウの皮をむくような感じで、彩乃のヒップからショーツを脱がすことに成功した。そのまま、形のいい長い足から、純白のショーツを取り去る。
そして知巳は、彩乃の脚の間に、頭を移動させた。
「あ、あんまり、じっと見ないでね……」
さすがに恥ずかしそうに、彩乃が言う。
彩乃のそこは、自らが分泌した蜜に濡れ、きらきらと蛍光灯の光を反射させていた。
ほころびたランの花のような肉襞が、何かを待ちわびるように息づいている。
「ごめんなさい……いやらしいでしょ? あたしのそこ……」
じっとその部分を凝視している知巳に、彩乃が言う。
「あの……ここにキスして、いいですか?」
彩乃の言葉に答える代わりに、知巳は、そんなことを言っていた。
「え?」
そして、驚く彩乃の返事を待たずに、その部分に口付けする。
「ンあッ!」
突然のクンニリングスに、彩乃の体が、ひくん、と跳ねる。
知巳は、彩乃を逃がすまいとするように、その脚の付け根をしっかりと固定し、口唇愛撫を続けた。
初めて口にする愛液の酸味を感じながら、柔らかな肉襞の間を、舌先でえぐるようにする。
「ああっ……と、知巳くん……知巳くゥん……」
彩乃の声が甘く濡れていくのを嬉しく思いながら、知巳は、ますます熱心にその部分を舐めしゃぶった。
彩乃のクレヴァスは、ますます柔らかくほころび、とろとろと熱い蜜を溢れさせている。
「あン……ンああ……あぅ、ン、んぅン……あっ、あっ、あっ……!」
次第に声のトーンをあげながら彩乃は、ぎゅっ、とシーツを握り締めた。
(えっと……ここ、かな?)
知巳は、舌先でクレヴァスの上部をまさぐり、クリトリスを探した。女性器を目にするのは初めてでも、クリトリスがどこにあるかくらいは、マンガや雑誌で得た知識で心得ている。
「ひあああああッ!」
彩乃がひときわ高い声をあげたことで、知巳は、自らが求める快楽の小突起に到達したことを知った。
普段は楚々としている彩乃の乱れているところをもっと見たくて、知巳は、忙しく舌を動かした。
クリトリスと思われる部分に舌先を当て、ちろちろと素早い動きでくすぐる。
彩乃は、初めてのクンニリングスに没頭する知巳の頭に、その細い腕を伸ばした。
白魚のような、という表現がぴったりくる細く長い指を、知巳のちょっと癖のある髪にからめながら、彩乃は、はしたなくも腰を浮かせてしまう。
ぴちゃぴちゃという、猫がミルクを舐めるような音が、知巳の部屋に響いた。
「ン……ダ、ダメ……もう、もうダメぇ……っ!」
ひくっ、ひくっ、とうねる彩乃の体を押さえつけるようにしながら、知巳は、唇に挟んだクリトリスを吸引した。
「んんン……ッ!」
びくん! と彩乃の白い裸体が痙攣する。
そして、宙に浮いたその魅惑的なヒップが、ひくひくと震えた後、すとん、とシーツの上に落ちた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
彩乃は、長いまつげに縁取られた目を閉じたまま、小刻みな呼吸を繰り返している。
「あ……彩乃、先輩……?」
知巳が、心配そうに、彩乃の顔をのぞき込む。
と、彩乃はうっすらと目を開けて、それから、知巳の首に両腕を絡みつけた。
「あっ」
不意を打たれた知巳は、そのまま彩乃の胸に顔をうずめる形になってしまう。
「知巳くんたら……どこであんなこと、憶えたの?」
「ど、どこでって……初めてですよ、俺……」
「ほんとぉ? すごく上手だったけど……」
生真面目に反論する知巳にそんなことを言って、彩乃はくすくすと笑う。
そして、右手を、するりと知巳の股間に伸ばした。
「あ……」
すでに完全に勃起し、熱い血流ではちきれんばかりになっている知巳のペニスに、しなやかな指が絡みつく。
「あはっ……すごく熱い……」
「あ、彩乃先輩……」
まさに主導権を握られ、知巳は、普段からは考えられないような弱々しい声をあげてしまう。
「知巳くん……今度はコレで、可愛がって……」
奇妙にねっとりとした視線で知巳の顔を見ながら、彩乃が、淫らなおねだりをする。
知巳は、こくん、とまるで小さな子供のように肯いた。
そして、彩乃の右手に導かれるまま、その屹立を、しとどに濡れたあそこにあてがう。
絶頂を迎えたばかりの彩乃の花園はさらなる蜜に濡れ、触れただけの知巳の亀頭部に、ぴったりと吸いつくようだ。
「柔らかい……」
敏感なペニスの先端に彩乃の靡肉を感じ、知巳は思わずそうつぶやいてしまう。
想像していたよりもはるかに柔らかく、魅惑的な感触だ。
知巳は、彩乃の指先と、そして自らの本能に導かれながら、ゆっくりと腰を進ませた。
よく、初めてだとなかなか挿入が上手くいかない、などという話を聞いていた知巳だったが、彩乃の中への侵入は、意外なほどスムーズだった。無論、知巳は、彩乃が腰を動かして角度を調節してくれているからだということまでは、頭が回らない。
ただ、熱く、柔らかい締め付けの中に、ペニスが入っていくたまらない快感だけが、知巳の脳を支配している。
「んン……」
上気した顔をわずかにそむけ、切なそうにその細い眉をたわめている彩乃の様子が、ますます知巳の中の牡を刺激する。
そして、ようやく、彩乃の中に、知巳のペニスが収まった。
もし一度放出していなかったら、そのまますぐ射精してしまいそうなほどの快感だ。
彩乃の膣内の温度と、心地よい締め付けが、じんわりと知巳のペニスを包み込んでいる。
「知巳くん……」
彩乃が、目許を桃色に染めながら、知美を見つめた。
「あの……お願い、動いて……」
そして、恥ずかしそうに、そうおねだりする。
知巳は、こっくりと肯いて、ぐっ、と腰を動かした。
「あン……!」
その動きだけで、彩乃は、小さな悲鳴を上げてしまう。
そんな彩乃に対する愛しさで気がおかしくなりそうになりながら、知巳は、本格的に腰を使い始めた。
初めてのことなので、要領も勝手も分からない。ただただ牡の本能が命じるままに、単純な抽送を繰り返す。
「はぁっ……あ……あン……はァ……あう……」
知巳の抽送に合わせるように、彩乃は細い声をあげ、妖しくその白い体をうねらせた。
ずりずりと膣内粘膜をこすりあげるペニスを慕うように、熱く濡れた肉襞が淫靡に絡みつく。
シンプルな動きによってもたらされる快感に、二人とも夢中になって、互いの体に腕を回した。
「ご、ごめんね……知巳くん……あたし……はじめてじゃなくて」
彩乃が、なんだか泣きそうな声で、切れ切れにそんなことを言った。
「そんなこと、言わないでください……彩乃先輩……」
知巳は、そう言って、たまらなくなったように、彩乃の唇を吸う。
「んうン……」
彩乃は、うっとりとした喘ぎをもらしながら、まだぎこちなさの残る知巳の舌に、情熱的に舌を絡めた。
「俺、先輩が好きです……好きです……好きです……」
キスの合間に何度もそう繰り返し、そして再び、キスをする。
「うれしい……知巳くん……あたしも、知巳くんが、好き……だいすき……っ!」
彩乃は、恍惚とした表情で、奇妙に幼い声でそう言った。
そして、その長い足を、知巳の引き締まった腰に絡みつけ、引き寄せる。
「ンあっ!」「あアン!」
ひときわ深くなった結合に、二人は同時に声をあげた。
そして、知巳も、二人の間にある隙間をなくそうとするかのように、しっかりと彩乃の体を抱き寄せる。
結果として、大きなピストン運動ができなくなり、知巳は、ぐりぐりと腰をグラインドさせた。
「ンあああああああッ!」
思わぬ知巳の攻撃に、彩乃は、はしたなくも高い声をあげてしまう。
「イイ……イイの、知巳くん……ンあッ! き、きもちイイ……ッ!」
「俺も、俺もです……ああっ、す、すごい……」
知巳は、少しでも長く彩乃と繋がっていたくて、こみあげてくる射精欲求に必死になって耐えた。
耐えながら、彩乃の脚を振り切るような勢いで、再び激しく腰を動かす。
「あううううううッ!」
知巳の腕の中で、彩乃の均整のとれた肢体がびくびくと震え、熱くたぎるペニスを強烈な締め付けが絡みついた。
煮えたぎる白い欲望が、知巳の我慢の限界を突破する。
「あっ、ああっ、あ−っ!」
知巳が、思わず声をあげながら、ひときわ強く彩乃の体内に自らを打ちこんだ。
そして、彩乃の体の最も奥の部分で、大量の精を迸らせる。
「知巳くんっ! あ、あたし、イクうううううううううううううううッ!」
びゅるるっ! びゅるるっ! びゅるるっ! と何度も何度も体内で熱いスペルマが弾ける感覚に、彩乃も強烈なエクスタシーを迎えていた。
知巳の射精は、いつまでもいつまでも止まらない。
そして……
知巳は、ベッドの中で、回想の中の自分に追いつこうとするように、右手を激しく動かした。
まだ鮮烈な記憶を思い返しながらのオナニー。
目蓋の裏で、絶頂を迎えた彩乃の体が、ひくひくと痙攣している。
「せんぱい……あやのせんぱい……っ!」
知巳は、愛しい人の名を呼びながら、ペニスの付け根で限界まで高まった欲求を、解放した。
その時――
世界が、反転した。
「う……」
けだるい満足感を覚えながら、知巳はゆっくりと目を開いた。
「……?」
奇妙な違和感を覚えるが、まだ、それを分析するまで、脳が醒めていない。
(あれ……なんで俺……座ってるんだ……?)
気がつくと、ベッドに横臥していたはずの自分の体が、カーペットの床に置かれたクッションの上で、座っている。
知巳は、自分の体を不思議な気持ちで見下ろした。
「……!」
ない。
ペニスが、ない。
黒い陰毛に飾られた自分の股間に、見なれたはずのそれがなかった。
奇妙にのっぺりしたその部分を、何かが濡らしている。それは、しかし血ではなく、やや白く濁った体液だ。
「……! ……!? ……!!!」
知巳は、パニックに陥りながら、自らの周辺を見まわした。
見たことのある、暖色系に統一された、しかし自分の部屋のものではない調度。
壁に貼られたハリウッド男優のポスター。
砂嵐を映したままの、つけっぱなしのテレビ。
双子の妹、朱美の部屋である。
そして、自分が身につけているのは、ピンク地に星占いのマークという柄の、女物のパジャマ、そして脱げかけのショーツだ。
知巳は、あまりの衝撃に声すら出せず、よろよろと立ちあがった。そして、部屋の隅にあるドレッサーの鏡をのぞく。
きちんと自分の顔が写ってる、と一瞬だけ安堵したが、すぐにそれが間違いであることを悟った。
自分の顔ではない。
朱美の顔だ。
しばし茫然と立ちすくむ。
どれくらい、そうやってぼんやりとしていたのだろう――
知巳は、どんどんという音が部屋に響いていることに気づいた。
「兄貴ーっ!」
押し殺した、それでいながら切迫していることだけは分かる声。
録音された自分の声というのは、自分でも思ってもみなかったふうに聞こえるものだが、ちょうどそんな声である。
「兄貴っ! ボクの部屋、カギかかってるんだよっ! 早くあけてよっ!」
しかし、その口調は、間違いなく、妹の朱美のものだった。