第二十五章
「透、よく来たわね……」
芙美子が、険のある顔で俺を睨み付ける。
はて、現実世界でケンカ中とは言え、あんな物騒な顔を向けられるような覚えは――
「よくもまあ来たわよね、あんた。どの面下げてって感じよ。あたしのこと好きだって言ったくせに、あの色ボケ王女たちと乳繰り合ってたなんてさあ!」
ああ、そのことか。
そう、今なら分かる。アイアケス王国の存在するあの場所は、芙美子の夢――いや、空想によって創造された世界であり、芙美子は、宇宙の創造者なのだ。
だから、つまり、俺があの世界の中でしたことを、芙美子は、全部知っているわけで――
そのことを意識した瞬間、氷の床と炎の天井に挟まれた黒い壁に、アイアケス王国各地の風景が、まるで映写されたかのように現れた。
「ったく! 四人の王女全員だけじゃなく、フタナリ女王まで手ぇ出して! どーいうこと? だいたい、一番下なんて設定年齢11歳から12歳よ! いくら巨乳だからって犯罪でしょ! このロリコン! 変態! ペド野郎! 小児性欲者!」
「待て、待てって! だってこれは仕方ないだろ! 夢なんだから! フィクションだろ!」
芙美子の座る水晶の椅子に近付きながら、俺は、つい言い訳をする。
「そうよ、夢よ。どうせフィクションよ! 嘘、虚構、非現実。ああ、もう何だっていいわ! こんなセカイ存在しない! こんな都合のいい世界なんて無いのよ!」
芙美子が、身を乗り出すようにして叫ぶ。
「全部あたしの妄想の成れの果て! 恥ずかしいったらありゃしない! こんなの、こんなの無くなればいい! 滅んじゃえばいいのよ! どうせもともと無かったんだから!」
びしりと致命的な音が響き、部屋全体に――いや、アイアケス王国を擁する世界そのものに、亀裂が入る。
そうだ――創造者が空想することを途中でやめてしまえば、この世界は滅びるのだ。
「お、おい、よせ……!」
俺は、不安定になった床に足を踏ん張りながら、叫んだ。
「だって……だって、ぜんぶお前だろ? ゼルナさんも、イレーヌさんも、ニケも、ミスラも、スウも、ぜんぶお前だ。いや、あの何とかいう司祭や、目から殺人光線出す怪物だって――」
「闇司祭ランズマールと死巨人ルル・ガルドよ。覚えときなさいよ!」
「そうそう、そいつらもさ。全部、お前が作ったんだろ? お前の世界じゃないかよ」
「そうよ。だからあたしのモノよ。あたしが気に食わないからぜんぶ壊すの!」
ゴゴゴゴゴゴ……!
芙美子の声に重なって、地鳴りのような音が響く。
床にさらなる亀裂が入り、壁が歪み、天井から火の粉が降ってくる。
「でも! でも、ここに俺がいる! 俺は――俺だって、もう、お前の世界の住人なんだよ!」
夢中で声を上げながら、足を踏み出す。
「それでさ! それで――お前の世界が、俺は好きなんだよ!」
俺は、崩れかけた氷の床に、無様に足を取られながら、芙美子の元へと前進を続けた。
足を進めるそばから、後方の床が氷塊となって漆黒の奈落へと落ちていく。
「な……何よ……何よ何よ何よ! 自分の童貞切った女どもの命乞い?」
「そういう次元の話じゃねえっ!」
俺は、いよいよ落下を始めた足元から跳躍し、目の前の階段にへばり付いた。
そのまま、芙美子のいる玉座へと、無様に階段を這い登っていく。
「偉そうに大きな声ださないで! どーせあたしは処女よ! 処女なのに毎晩毎晩セックスのことばっか妄想してるのよ! そのままオナニー始めるなんてしょっちゅうだわ! 滑稽でしょ。笑えばいいわ! 笑いなさいよっ!」
もう、芙美子は、自分が何を叫んでるのか分からない状態のようだ。
ただ、巨大な水晶の椅子に座ったまま声を上げ続ける芙美子が、ひどく孤独な存在に思える。
「笑えねーよ。っつーか、何言ってるんだよ。ここ、俺が笑う場面じゃねーだろ!」
そう、笑えない。芙美子は、ずっとここで一人だった。一人で叫び続けてきたんだ。
一人で叫ぶことに疲れ、自らが創造した全てを投げ出そうとした芙美子を、俺は、責めることはできない。
だが、それでも――
「俺はさ、もう、お前とその妄想を共有してるんだぜ! 他の連中には笑える話かもしれないけど、俺は笑えない。俺は、お前の妄想でさんざん、その、なんだ、だから、そういうことだよ!」
そして、俺も、今や自分が何を言っているのか分からなかった。
気が付くと、いつの間にか、座ったままの芙美子の前に立っている。
芙美子は、まだ俺を睨み付けているその目に、いっぱいの涙を溜めていた。
「俺、気の多いハーレム属性持ちの浮気者だからさ、だから、お前も、お前の漫画も、両方とも好きなんだよ」
「…………」
俺の言葉が芙美子を動かすだとか、まして救うだとか、そんな大それたことは期待していない。
ただ、芙美子の中にある、まだ創作を続けていたいという気持ち――漫画を描きたいという願望に、呼びかける。
「俺……お前がどんな話作るのか、見てみたいよ……だから、やめるなよ……やめないでくれよ……せっかく……せっかく……」
「……分かった」
ぽつん、と、芙美子が言った。
気が付くと――あの地鳴りのような音は止み、部屋の崩壊も止まっている。
「え?」
「分かったって言ってるのよ! でもね、あんたのためじゃないわよ! 他の、まだ出会ってないあたしの読者のため! あたしの漫画を待ってるはずの人のためよ! あんただけ楽しませたりしないわ。見てなさいよ! もう、こうなったら男という男をあたしの妄想ワールドに引きずり込んでやるんだからね!」
「ああ……えっと……あれだ、俺も、勉強して手伝うよ」
芙美子の迫力に気圧されつつも、そんなことを言う。
「そんな勉強する彼氏なんてヤダ」
そう言ってから――芙美子は、ようやくしかめていた眉を開いた。
「……でも、まあ、コーヒーいれる勉強は、してよね」
「あ、ああ、努力する」
そんな俺の返事をしばらく吟味するような顔をしてから、芙美子は、ゆっくりと水晶の玉座から立った。
そして、いきなり、俺の左手を、ぎゅ、と右手で握る。
「こっち来て」
そう言って、芙美子は、ぐるりと玉座の後ろに回り込んだ。
足元に、ぽかりと下り階段に続く開口部がある。
芙美子は、俺の方を見ることなく、ずんずんとその階段を降り始めた。
「お、おい、ちょっと」
「何よ」
「腕がねじれてる。ちょっと体勢を立て直させてくれ」
「…………」
芙美子が、無言で俺の手を放す。
俺は、芙美子の右隣りに並び、再びその右手を自然な姿勢で握った。
覗き込むと、芙美子の拗ねたような顔が、ほんのりと赤く染まっている。
「行くわよ」
そう言って、芙美子は、再び歩を進めだした。
二人で並ぶにはぎりぎり一杯という感じの階段なので、自然と、体を接近させてしまう形になる。
しばらく階段を下ると、目の前に、見覚えのあるドアが現れた。
木製の、何の変哲も無い普通のドアだ。
芙美子が、左手でドアノブをひねる。
「あ……」
思わず、俺は声を漏らした。
学習机と、タンスと、ベッドと、本棚のある、フローリングの六畳間……そこに、小学校低学年くらいの女の子と男の子が、いる。
女の子は、床にうつ伏せになって、お絵かき帳に何かの絵を一心に描いており、そして、男の子は、それをじーっと見つめていた。
記憶の領域の淡いカーテンの向こうにある、思い出の風景――それを、俺は、芙美子と並んで、目にしている。
ここは、芙美子の部屋だ。そして、あの女の子は芙美子で、そして、男の子は――
「なー、ふみこー、これ、なんの絵だよー」
男の子が、幼い芙美子に、そんなふうに尋ねる。
「んー、おひめさまー」
幼い芙美子は、手を止めることなく、男の子に答えた。
「4人いんじゃん。これ、ぜんぶおひめさまか?」
「んー」
「ゆうしゃとか、いないのかよ」
「んー、ゆうしゃ?」
ようやく、芙美子は、男の子の方に顔を向けた。すでに芙美子はこのころからメガネをかけている。
「ああ。けんとか、まほうとかつかっててきをやっつけんだよ。おれ、そういうの好きだな」
男の子は、幼い芙美子のレンズの向こうの目を真っ直ぐに見ながら、そんなことを言った。
「ふみこ、絵ぇうまいじゃん? だからさ、そーいうのかけばいいじゃん」
「んー、でも……ゆうしゃなんて、かいたことないよー」
「えー、かけよー」
「どうしてぇ?」
「だって、おれ、おまえのかく絵、好きなんだもん」
「え……? す……好、き……?」
幼い芙美子が、驚いた顔になる。
「うん」
男の子は、芙美子の表情の変化に頓着することなく、無邪気に頷いた。
「ほんとうに?」
「うん」
「ほんとうに? ほんとうにほんとうに好き?」
「うん」
「ほんとうに? とーる、ほんとうに?」
芙美子が、男の子の名前を呼ぶ。
もちろん、その前に、俺は、記憶を蘇らせていた。
ああ、そうだ……あの時……芙美子、涙で目を潤ませていたっけ……。
思い出した。当時の俺には、どうしてだか分からなかったけど、芙美子は、泣きそうだった。
「あの時ね、本当に嬉しかった」
ぽつりと、俺の傍らに立つ芙美子が、言った。
「あたしの絵が好きだって言われた時……本当に、泣いちゃいそうなくらい、嬉しかったの」
俺は、言葉を続ける芙美子の横顔に、視線を向けた。
「お父さんも、お母さんも、あたしの絵は褒めてくれなかった……お姉ちゃんでこりたのよね。お姉ちゃん、学校で、授業そっちのけでマンガ描いてて……あたしは、そんなふうにさせない、って思ったみたい。でも……あんたが、上手いって……好きだって、言ってくれた……」
ようやく、芙美子が、俺の方を向く。
「あたしね、あんたに面白いって言われたくて、ずっとずっと、マンガ描いてたような気がする」
レンズの奥の双眸が、じっと俺を見つめている。
「あんたがあたしにお節介焼くのも、あたしのマンガが読みたいからだって……でも……でも……あんたが好きなのが、あたしの描くマンガじゃ無くて……その……あ、あたし、本人だっていうのは、その……予想外、だったな」
へへ、と、芙美子は、何だかさみしそうな顔で笑った。
「さっきも言ったろ。俺、お前のことも、お前の漫画も、両方とも好きなんだって」
俺は、顔がかっかと火照っているのを自覚しながら、そんなふうに言った。
が、芙美子は、どこか納得いかないような表情だ。
「あのね……好きって気持ち……よく分からない」
小さな声で、芙美子が言う。
「変だよね。マンガの中では、何組もカップル作ってるのに、あたし自身は……その……ホントに、よく分からないの」
俺は、しばらく言葉を探した。
「……あ、あのさ……お前が描いた漫画で、その、お姫様達は、勇者のこと、好きなのかな?」
「うん」
芙美子が頷く。
「彼女たちは……勇者に、感謝している。尊敬してるし、信頼もしている。そして……勇者がしてくれることに……無償の働きに、応えたいと思っている。それから……彼に、何かをして、それに応えてほしいと思ってる……」
そう言ってから、芙美子は、何かに気付いたような顔になった。
「透、あたし……あたしね……あんたがしてくれるお節介に、応えたいと思ってる……あんたに、何かしてあげて、それに応えてほしいと思ってる……だから……だから、その……」
だんだんと小さくなる芙美子の声を聞き逃すまいと、俺は、顔を寄せた。
芙美子が、瞳を潤ませ、頬を赤くする。
「だから、キスして。そしたら、キスしてあげる」
芙美子が、精一杯、といった感じで、そんな妙なことを言う。
俺は、無言で頷き……芙美子の肩に手を置き、その唇に、そっと唇を重ねた。
女の子と男の子――小さいころの芙美子と俺が、未来の俺達のキスシーンを、じっと見ている。
だが、気恥ずかしさに耐えながらキスを続け、そして、唇を離した時には、すでに、二人の子供の姿は消え失せていた。
「透……」
未だ至近距離にある芙美子の顔が、上気している。
「透……好き……」
初めて告げられた、その言葉に、心臓の拍動が一段跳ね上がる。
俺は、思わず芙美子の体を抱き締め、もう一度、唇を重ねた。
そして――
芙美子が、下着姿で、ベッドの上に横たわっている。
その体の上に覆いかぶさるような姿勢になっている俺も、トランクス一枚という格好だ。
ピンクのブラに包まれた双乳が形作る谷間が、俺の煩悩を高ぶらせ、下着の中のペニスを堅く強ばらせている。
レースのカーテンから漏れる明るい陽光に照らされ、芙美子の体は、白く輝いているようにすら見えた。
「芙美子……」
俺は、体重をかけないように注意しながら芙美子と肌を重ね、その唇にキスをした。
「ん……んちゅ……んっ……ちゅ……ちゅぷっ……んふ……」
上下の唇を割って舌を入れると、芙美子が、おずおずと舌を絡めてくる。
触れ合う舌の感触に脳髄を痺れさせながら、俺は、芙美子の体をまさぐった。
「ん……んふ、んちゅっ、んっ……つぶ、ちゅぷっ、んちゅ……ちゅぶ、ちゅぶっ……」
ねじるような動きを加えた、情熱的なキスを交わす。
顔に、何度か芙美子のメガネのフレームが当たるが、メガネを外させるためにキスを中断することすら、惜しく思った。
「んちゅ、ちゅぶっ、ちゅぶぶ……んちゅ、んちゅっ、ちゅぱ……んむ、んむむっ、ちゅぶ……ちゅっ、ちゅ、ちゅちゅ、んちゅうぅ……っ」
芙美子が、俺の舌を、まるで母乳を飲む赤ん坊のように、ちゅうちゅうと吸う。
やばい。もう、キスだけでいっぱいいっぱいだ。
俺は、名残を惜しみながら、唇を離した。
「ぷは……んあ……あふぅ……」
芙美子が、恍惚とした表情を浮かべながら、熱っぽい目で俺を見つめる。
すでに、そのブラジャーは、俺の愛撫によってずれ、外れかかっていた。
露わになった左の乳首に顔を寄せ、口に含む。
「あン……あ、と、透っ……んは、あ、あぁん……」
甘い声を上げる芙美子の乳首をちゅぱちゅぱと吸いながら本格的にブラを外し、そして、ショーツを下ろす。
芙美子は、可愛らしい喘ぎを漏らしながら、腰を浮かし、俺に協力した。
「芙美子……」
かすれた声でその名前を呼びながら、左右の胸の先端を交互にしゃぶる。
口の中で健気に勃起する乳首を刺激し続けながら、俺は、芙美子の脚の間に右手を滑り込ませた。
「あっ……!」
芙美子が、腰をよじって、俺の手から逃れようとする。
だが、俺の指先は、蜜に濡れた粘膜の感触を捕らえていた。
その割れ目に添って指先を上下に動かし、芙美子の敏感な部分を愛撫する。
「あ、やっ……あ、あぁん……そ、そんな……あ、あぁん、あん……あっ、やあぁ……ああぁ〜ん」
芙美子の口から新たな喘ぎが漏れ、秘裂から愛液が溢れる。
俺は、指の動きを次第に速くしながら、芙美子の乳首を舐め、吸い、甘く噛んだ。
「あ、あああああっ……んあ……す、すごい……んっ、んあっ、あく……あ、あはぁ……あああああっ……!」
芙美子が、ぎゅっとシーツを握り締めながら、声を大きくしていく。
「ああっ、あっ、あっ! はぁはぁ……ね、ねえ……ねえ、透っ……あ、あん!」
「ん?」
「あ、あの……あのね……あたしも、透の……さ、触りたい……」
顔を真っ赤にしながら、蚊の鳴くような声で、芙美子が、大胆なことを言う。
「分かった……」
俺は、脱ぎそびれていたトランクスを脱ぎ捨て、膝立ちの姿勢で、堅く反り返った肉棒を晒した。
「すごい……」
芙美子が、俺の目の前に座り、両手をシーツについて、まじまじとペニスを見つめる。
「ね……ここに、キスしていい?」
「あ……うん」
その思いがけぬ言葉に頷くと、芙美子は、瞼を閉じて、俺の肉棒の先端に口付けした。
「ちゅっ……」
柔らかな唇の感触と、幼いころから知っている女の子がペニスにキスをしたという衝撃で、下半身から力が抜ける。
ぺたんとシーツの上に尻餅をつくと、芙美子は、まるで肉棒を追うように、俺の股間に顔を埋めてきた。
「んっ……ちゅ、ちゅむ……んちゅ……ちゅっ、ちゅっ……」
芙美子が、ためらいがちな手つきで俺の肉棒に触れ、亀頭だけでなく、静脈の浮いた竿の裏側や、根元の方にまで、唇を押し付ける。
淡い快感の集積が、強烈な興奮となって、ますます俺の肉棒をいきり立たせた。
「んああぁぁ……はむっ」
口を大きく開けた芙美子が、肉棒を口に含んだ。
熱くヌメヌメとした感触が次第にペニスを包んでいき、俺は、思わず喘ぎ声を漏らしてしまう。
一方、芙美子は、瞼を閉じたまま、一心に唇を滑らせ、俺の肉竿を扱いた。
「んちゅ、ちゅむっ、ちゅぐ、ちゅぶぶっ……ちゅぶ、ちゅぶぶ、ちゅぶ……んちゅっ、んちゅっ……」
けして慣れているとは言えない動きではあるが、芙美子のフェラチオは、何と言うか、とてもスムーズだった。
「ちゅぶっ、ちゅぶぶ、んちゅ……ねえ、透……気持ちいい?」
「ああ……すげえ気持ちいい……」
俺の正直な感想に、芙美子が、ほっとした表情を浮かべる。
「よかった……夢の中でずっと練習してたんだけど……本物のあんたにするのははじめてだったから……」
そう言って、芙美子が、再びその唇を亀頭にかぶせ、肉棒全体を口内に迎え入れる。
その、つまり……芙美子は、俺にフェラチオすることを、ずっと妄想していたってことか……?
突き上げるような情欲が、肉棒を限界まで堅くし、敏感になったその表面が、芙美子の口腔粘膜を感じ取る。
「んう、んぐっ、ちゅぐ、ちゅぐぐ、ちゅぶ……んぐ、んちゅっ、ちゅぶぶ、じゅぶ、じゅ、じゅぶっ……じゅっ、じゅぶっ、じゅぶぶぶ……」
芙美子の舌と唇が、俺のペニスを着実に追い詰めていく。
「んくっ……ふ、芙美子、俺、もう……」
「ぷはっ……待って、透」
突然に口唇愛撫を中断して、芙美子が言った。
「ね、そこに仰向けになって」
言われるままに、俺は、シーツの上で横たわる。
と、芙美子は、俺の両脚の上で腹這いになり、その巨乳で、ペニスを挟み込んだ。
「それも、練習してたのか?」
「うん……あのね……あんたにしたいって考えてたこと、ぜんぶ試したいの……」
恥ずかしそうな顔でそう言いながら、芙美子は、その双乳で、唾液にまみれたシャフトを扱き始めた。
ボリュームたっぷりとのプリプリとした乳房の感触が、アイドリング状態だった快楽のギアを上げていく。
にゅちゅ、にゅちゅ、にゅちゅ、にゅちゅ……という卑猥な音に、俺と芙美子の息遣いが、重なった。
「んく……マ、マジでヤバい……」
「はぁはぁ……もう、出そうなの?」
芙美子の問いかけに答えるより早く、射精寸前のペニスが、ビクビクと脈動する。
と、芙美子は、胸の谷間に肉棒を挟んだまま、その先端にペチャペチャと舌を這わせた。
「んっ、んあ……ふ、芙美子……っ!」
どぴゅっ!
最後の限界を呆気なく突破し、芙美子の顔にスペルマをぶちまける。
「んぷ……! ん、んあぁ……ああっ、すごい……んあうっ!」
声を上げる芙美子の顔に、どぴゅっ、どぴゅっ、と続け様に精液を発射する。
芙美子の顔は、たちまち、白濁した粘液でドロドロになった。
「はぁ、はぁ、はぁ……すごい……こんなに出るんだ……」
放心したように言いながら、芙美子が、シーツの上に身を起こす。
そして、ベトベトになったメガネを外し、レンズに付着したザーメンを、ピンク色の舌で舐め取った。
「んちゅ……ん、んく……ゴクッ……はふ……何だか、不思議な味ね……」
メガネをかけていない芙美子が、ぞくりとするほど色っぽい目で、俺を見つめる。
俺は、思わず生唾を飲み込みながら起き上がり――そして、芙美子をその場に押し倒した。
「きゃっ! ん、もう、そんなに焦んなくても逃げないわよ」
俺を射精させたことで余裕が生まれたのか、芙美子が、いつもの口調に戻って言う。
「でも、夢が覚めたりするかもしれないだろ」
そう言って、俺は、ザーメンの生臭さの残る芙美子の唇に口付けした。
「んむっ、ん、んちゅ、ちゅぶ、んんんっ……んあ、あむ、んむっ、ちゅぷっ……んふ、んふぅん……」
甘い息を漏らす芙美子の体を、口付けを交わしたまま、まさぐる。
その時には、俺の勃起は、すでにすっかり回復していた。
体をずらすと、芙美子が、脚を開いて俺の腰を迎え入れる。
すでに何度も体を重ねたかのような息の合った動き――だが、芙美子の顔には、羞恥と緊張の色があった。
「……怖いか?」
「怖くなんか、ないよ……その……ずっと、透とこうなりたいって思ってたから……」
芙美子の物言いに、俺は、思わず目を瞬いた。
「えっと……お前、キャラ違ってないか?」
「いいでしょ、夢の中でくらい、素直だって」
そう言って、芙美子が、下から俺に抱き着いてくる。
「今だけの、特別サービスなんだから……」
「できれば、サービス期間の延長を希望したいんだが」
「めったにない方が有り難みあるでしょ」
そんな会話を交わしているうちに、ちょっと堅かった芙美子の体から、力が抜けていくのを感じる。
俺は、腰を進ませ、勃起した肉棒の先端を、蜜に濡れた秘唇に押し付けた。
「んっ……ん、んく……んんんっ……」
芙美子の唇から息が漏れるのを聞きながら、徐々に肉棒を進める。
「ん、んくっ、んううっ……ん、あ、あっ、ああああっ!」
挿入を阻む抵抗がかすかに軽くなった瞬間、芙美子が声を上げた。
処女膜を突破したペニスが、みっしりとした膣肉に包まれ、締め付けられる。
「あっ、あふ、んんんっ……は、入ったの……?」
「ああ……」
「嬉しい……」
ぎゅっ、と芙美子が、俺の体に回した腕に力を込める。
俺は、芙美子の顔や首筋にキスをしながら、腰を使いだした。
「あ、あくっ、んっ、んああっ……は、はっ、はふ、あ、ああっ、あく……ああぁんっ……!」
苦痛の声に、すでに甘い響きが混じっている。
言葉で確かめるまでもない。芙美子は、俺のペニスで感じている。
そして、俺が興奮と快感のただ中にいることも、芙美子には知られてしまっているのだろう。
声で、息遣いで、表情で、体の反応で、互いのココロとキモチを伝え合う。
「んあ、あっ、あく、んくぅ……好き……透、大好き……あ、あん、あぁん、あはっ……!」
「んくっ……芙美子……芙美子っ……!」
初めてペニスを迎え入れている芙美子の秘部を気遣う余裕が、激しい快感によって熔け崩れ、次第に腰の動きが速くなっていく。
だが、芙美子の膣内はそんな俺の動きをしっかりと受け止め、そして、愛しげに締め付けさえしてくれた。
「あっ、あぁんっ、あああっ! 透っ……あたし、あたし、もう……あ、あん! ああああああっ!」
「お、俺も……うっ、ううっ、うく……んんんっ!」
切羽詰まった声を上げながら、芙美子と俺は、同じところへと到達しようとする。
夢中でペニスをピストンさせる俺の腰の中で、欲望が煮えたぎり、出口を求めて暴れ狂う。
「ぐっ……!」
きつく芙美子の体を抱き、肉棒を根元まで突き入れて、俺は、射精した。
「あ――あああああああああっ! あーっ! あーっ! あーっ! あああぁーっ!」
歓喜の悲鳴を上げ、ビクビクと体を痙攣させる芙美子の膣内に、びゅーっ! びゅーっ! とスペルマを迸らせる。
頭の中が真っ白になるような快感の中、芙美子が、俺の背中に爪を立てるようにしてしがみついてくるのを、感じた。
「んあ……あ、ああああああっ……あく……あ、あああ、あっ……あは……あ、ああああああっ……!」
まるで、最後の一滴まで精液を貪ろうとするかのように、きゅっ、きゅっ、と膣肉が肉棒を締め付ける。
そして――俺と芙美子は、ほとんど同時に、全身を弛緩させた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
呼吸が重なり、肌が密着し、汗が混じり合う。
このまま、体が熔けて同化してしまいそうだ。
むしろ、そうなることが自然なような気がする中、俺は、芙美子の囁く声を、聞いた。
「透……愛してる……」
次第にぼやける俺の意識が、最後に聞いたその言葉に、何か答える。
実は、何て答えたのかは覚えてないのだが、俺の答えを聞いた時の芙美子の笑顔は、一生忘れないだろう。
そして、俺と芙美子は、それぞれの眠りの中に、意識を落としていった。
こんなふうに芙美子と過ごした一時を、俺は、未だに、夢とも現実とも決めかねている。