出たとこロマンサー



第二十三章



 その日の昼下がり、俺は、かつて塩の荒地だった場所に佇んでいた。
 前にここを訪れたときは、空は、陰鬱な灰色の雲に覆われていたと思う。
 だが、今は、空には雲ひとつ無く、優しい陽光が大地を照らしている。
 そして、地面は、一面、柔らかな草に覆われていた。
 次の春には、この一帯に、開拓団が入植する予定になっているという。もともとは肥沃な土地だったという話なので、いずれ、この辺りは広大な農地になるのだろう。
 つまり、ここが見渡す限りの緑の草原でいられるのは、今のうちだけなのかもしれない。
 それにしても――かつての荒涼とした様子が嘘のような風景だ。
 確かに、この場所に立てば、熾皇帝ロギの邪悪な力が消えうせてしまったのだという話も、頷ける。
 まったくもって、以前にここを訪れた時とは、何もかも違う。
 あの時、俺は、ニケにこの場所に連れてこられた。一方、今日、俺がここに連れてきたのは――
「お兄ちゃぁ〜ん♪」
 元気のいい声が、草原の一角から、聞こえた。
「見て見てー! お花のかんむり〜♪」
 白や黄色の素朴な花が群生している場所に座ったスウが、花を編んで作った冠を持った両手を上げる。
 俺は、スウのいる場所に近付き、そして、並んで腰掛けた。
「……お兄ちゃん、何か考え事してる?」
 俺の顔を覗き込みながら、スウが、小首を傾げる。
「ん、まあ……」
「ひどぉ〜い。スウとデートしてるのにぃ!」
 スウは、そう言って、ぷーっと頬を膨らませた。
「いや、何て言うか……こんな平和でいいのかな、と思ってさ」
「お兄ちゃんは、平和なのがイヤなの?」
「嫌なわけないだろ。ただ、俺は、この国を滅ぼそうとする奴らと戦うために、イレーヌさんに呼ばれたわけで……」
「だから、まだ、その真っ黒な剣を背負ってるのね?」
 訳知り顔で、スウが指摘する。
 確かに俺は、今も、サタナエルの剣を背負っていた。何しろ俺は、ここで、ゴブリンに不意打ちをかけられたことがあるのだ。
「今は、ありがたいことに、何も起きてないけどさ……これで本当に終わったのかなあ、と思っちまうんだよな」
「――オシマイ、だよ」
 スウは、無邪気な表情のまま、その青い瞳に神秘的な光を宿らせ、断言した。
「勇者とお姫様が結婚するんだもの。これで、オハナシはオシマイでしょ?」
 そう。俺は、イレーヌさんとニケ、そしてミスラの三人と結婚することを、ゼルナさんに約束した。
 あれだけ何度も体を重ねた関係だし、男として責任を取らなくてはならないという思いもある。何よりも、俺は、三人とも大好きだし――それに、三人とも、俺と結婚することを承知してくれた。
 と、言葉で書けば簡単なんだが、そこに至るまでに、いろいろと悶着があったのは事実である。今回の件で、俺は、自分がいかに朴念仁であったかということを改めて思い知らされたものだ。
 ただ、前にゼルナさんが話していたとおり、この国では、一夫多妻が認められるので、その点での問題はなかった。
「このエンディングに、お兄ちゃんは、何か不満があるの?」
 スウが、大人びた口調のまま、訊いてくる。
「不満なんかあるわけないだろ。ただ……ロギのことが、気になってさ……」
 はたして本当に熾皇帝ロギは消滅したのか――ロギなどという存在は幻影に過ぎなかったのか。
 それがはっきりするまで、三人との関係は婚約に留め、正式な結婚式はしない、と、俺は決めている。これを三人に納得してもらうのに、えらい時間がかかったけど。
「――お兄ちゃんは、お菓子の家のお話、知ってる?」
 いきなり、スウは、そんなことを訊いてきた。
「お菓子の家?」
 聞いたことのあるフレーズだが、思い出せない。
「イレーヌお姉ちゃんが聞かせてくれたお話でね、お兄さんと妹と、気弱なお父さんと意地悪なお母さんと、それから、魔女のお話なの」
「魔女……」
 あの、雪山の中で遭遇した、不思議な紅衣の魔女のことが、一瞬、頭に浮かぶ。
「まずはね、意地悪なお母さんが、お兄さんと妹を森の奥に捨てることにするの」
 俺の回想をよそに、スウは、話の解説を始めた。
「それで、お母さんは、お父さんに、お兄さんと妹を森の奥に捨ててくるように言うの。それで、お父さんは、お母さんの言うとおりにしちゃうのよ」
「ひでえ話だな」
 俺は、思わず顔をしかめた。
「森の奥に捨てられたお兄さんと妹はね、道に迷って、それで、お菓子の家を見つけるの。お腹のすいていたお兄さんと妹は、お菓子の家に入っちゃうんだけど、そこは、悪い魔女のすみかだったの。それで、お兄さんと妹はつかまって、お兄さんは地下のろうやに閉じ込められて、妹はお手伝いにされちゃうの」
「ますますひどい展開だ」
「魔女はね、お兄さんのことを食べちゃおうとするの。でも、お兄さんを料理しようとカマドに火をつけた時に、妹が魔女の背中をどーんと押して、魔女をカマドの中に入れて焼き殺しちゃうの」
 どーん、と言うところで、スウは、広げた両手を前に突き出した。
「残酷なストーリーだな……。そんな話、本当にイレーヌさんがしたのか?」
「イレーヌお姉ちゃんは、怒ると恐いんだよ」
 スウが、ちょっとずれた感じのことを言う。
「それでね、お話の続きなんだけどね、魔女をたいじした二人が家に帰ると、あの、意地悪なお母さんが死んでいたの」
「……って、それは、魔女と母親が同一人物だってオチなのか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、もし別人でもいいの。魔女がころされて、二人が家に帰ったところで、テーマはショウカされてるんだもん」
 テーマが……消化? それとも昇華か? 今一つ、俺にはスウの言ってることがピンとこない。
 ただ、俺は、今、スウが話してくれた物語を――どこかで聞いたことがある。
 イレーヌさんに教えてもらったってわけじゃないだろう。ということは、たぶん、俺がこの世界に呼び出される前のことじゃないだろうか。
 それにしても――
「テーマをショウカしたら、モノガタリは終わっちゃうの。だから、もう、ロギは現れないわ」
 澄んだ深い湖のような色の瞳で、スウが、俺を見つめている。
「お兄ちゃんの方からロギに会いに行けば、ハナシは別だけろうけど、ね……」
「…………」
「そんなことより、お兄ちゃんは、スウのこと、お嫁さんにしてくれないの?」
 沈黙している俺に、スウが小さな体を寄せる。
「いや、だって、スウはまだ子供だろ?」
「それで?」
「い、いや、それでって……」
「子供だから結婚できないなんて決まり、この国には無いけど?」
「…………」
 そうかもしれない。
 もちろん、俺がいた世界では、スウはまだ結婚ができる年ではないが、それは、俺も同じである。
「……お兄ちゃんは、スウのこと、お嫁さんににたくないの?」
「し、したくない、ってことはないけど……」
「だったら、はい」
 スウが、その小さな左手を、手の甲を上にして、俺に差し出す。
「スウにも、婚約指輪、ちょうだい」
「いや……俺、指輪なんて持ってないぞ」
「ううん、あるはず。お兄ちゃんのズボンの、右のポケットの中」
「え……?」
 思わず、ポケットに手を入れる。
 ある。確かに、小さな指輪が、俺のポケットに入っている。
 俺は、そいつを取り出し、思わず見つめた。
 自分の尻尾を咥えた足の無い竜をかたどった、赤いリング。えっと、これは――
「ほら、あったでしょ? ねえ、お兄ちゃん、早くしてぇ」
「あ、ああ」
 俺は、反射的に返事をして、そいつをスウの左手の薬指に、嵌めた。
「ふふー♪ これで、スウもお兄ちゃんのお嫁さんだからね!」
 スウが、満面の笑みを浮かべて、言う。
 そして、スウは、ブルーの瞳を閉じ、サクランボのような唇を軽く突き出した。
「え?」
「お兄ちゃん……誓いの、キス、して……」
「え、えっと……」
 俺は、思わず辺りを見回した。
 誰もいない。一面の緑の草原の中、俺とスウの二人きりだ。俺達をここまで運んできたサカモトさえ、気を利かしたつもりなのか、どこかここから見えない場所に行ってしまっている。
 俺は、こっそり深呼吸をして、スウの柔らかな唇に、唇を重ねた。
「んっ……」
 心臓が、バクバクとやかましい。
 落ち着け、俺。これは、親愛の情を示すためのものであって、けして邪まな気持ちからきたものじゃあ――
「んふ……んっ、んちゅ……ちゅぷ……んちゅっ……」
 スウが、その小さな舌を、俺の口の中に侵入させてきた。
 俺の舌がスウの舌を迎え、唾液に濡れた二枚の舌が、互いに絡み合う。
「んふ、んふぅ……んちゅ、ちゅぶっ、ちゅぷ……んっ、んんっ、んふ……ちゅぷ、ちゅむむっ……」
 キスを続けながら、スウが、悩ましい声を漏らす。
 その細い腕は俺の首に回され、そして、俺は、スウの小さな体をしっかりと抱き締めていた。
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅぷ……んちゅっ、ちゅ、ちゅっ、ちゅぷっ……」
 スウが、俺の舌や唇をついばむ。
 むにゅりと押し付けられた胸の感触と、ミルクを思わせる甘やかな体臭――頭の中に、熱せられた蜜のような煩悩が満ちていく。
 何てこった。俺は、こんな子供に、“女”を感じてしまっている。
「ぷはっ……んふふっ♪」
 スウが、唇を離し、腕をほどいた。
 ほっとする間もなく、スウが、俺の股間に手を重ねる。
「お、おい、スウ……!」
「お兄ちゃん……かたくなってるよ……」
 スウの指摘どおり、俺のモノは、今の口付けで、すっかり勃起しちまっていた。
「わ、悪い、俺は――」
「どうして謝るの? スウは、とっても嬉しいのに」
 そう言って、スウが、俺の股間に右手を重ねたまま、左手で、俺の右手を自らの胸に導く。
 その年齢からは考えられないくらいに豊かに発育した乳房の、すぐ下――そこに当てられた手の平が、スウの心臓の拍動を、感じる。
「ほら、ね……嬉しくて、ドキドキしてるでしょ……」
「スウ……」
「お兄ちゃんのここも……ドキドキしてる……」
 そう言って、スウが、俺のモノを、ズボンの上から、きゅっ、きゅっ、と優しく握る。
 かつて、レレムの幻術にかけられて体を重ねた時の記憶を、頭ではなく、体全体が蘇らせた。
 あの時の興奮と快感――忘れてなんかいない――それどころか、ずっと、心の奥底でくすぶったままで――
「ねぇ……お兄ちゃん……」
 熱っぽい、スウの囁き声。
「スウ……」
 俺は、小さな花々が無数に咲く花畑の真ん中に、スウを横たえた。
 背中に太陽の光を感じながら、スウの体に覆いかぶさる。
「お兄ちゃん……好き……」
「俺も……スウのことが、好きだ……」
 可愛くて、ちょっと生意気で、神秘的な、アイアケス王国の一番下の王女。
 小さな体と大きな胸のアンバランスさは、まるで、スウの内面の魅力を体現しているようにも思える。
 スウが、自らボタンを外し、その体を、俺の視線に晒した。
 外気に触れたせいか、それともさっきのキスでそうなったのか、スウの桜色の乳首が、勃起している。
 俺は、それを口に含み、舌先でコロコロと転がした。
「ひゃっ、ひゃぅ……ん、あン……あぁ……お、お兄ちゃぁん……あ、あぁっ、んふ、んひゃっ……」
 くすぐったそうな、スウの喘ぎ声。
 それが、次第に、熱と潤みを帯びていくのを聞きながら、俺は、左右の乳首を交互に舌と唇で愛撫した。
「あふっ、んふ、んあ、あ、あぁン……はっ、はふっ、うく……うっ、うぅん、んふ……ああぁン……!」
 スウが、切なげに身をよじりながら、可愛い声を上げ続ける。
 俺は、ぷりぷりとした弾力に満ちたスウの乳房を、優しく揉んだ。
「あふぅ……うっ、うく、あ、あぁん……ああぁ……き、気持ちいいよぉ……あはぁ、いい……」
 うっとりとした顔で、スウが、自らの快感を告げる。
 俺は、スウの顔や乳房にキスを繰り返しながら、その脚の間に、右手を伸ばした。
 なだらかな無毛の恥丘のさらに奥に、熱くぬかるんだ場所を、感じる。
「はぁ、はぁ……ぬ、ぬれてる、でしょ?」
 スウが、頬を赤くしながら、俺に訊いてくる。
「んくっ……は、早く、お兄ちゃんと一つになりたくて……いっぱいお兄ちゃんを感じたくて……そ、それで、そんなになっちゃったんだよ……」
「スウ……いいのか?」
「ん、もう、お兄ちゃんてば、今さらだよぉ」
 くすりと、スウが微笑む。
「スウは、ずっとずっとその気だったんだからね。これ以上、待たせないで……」
「…………」
 俺は、スウに頷きかけ、そして、自らのペニスを剥き出しにした。
「はわぁ……お兄ちゃんのオチンチンさん……すっごい……」
 スウが、熱っぽい瞳で、俺の肉棒を見つめる。
「お兄ちゃんも、スウと、その……したいんだ……」
「ああ」
 俺は、短く返事をして、スウの両膝に手をかけた。
 そして、両脚をMの字に開き、わずかに肉の花弁をのぞかせた割れ目を露わにした。
「あぁん……」
 スウが、ぞくっとするほど色っぽい吐息をつき、俺の顔を見つめた。
 透明な蜜がスリットから溢れ、キラキラと陽光を反射させる。
「入れるぞ……」
「ウン……」
 こっくりと、スウが頷く。
 幼さと艶っぽさが同居するその体の中に侵入すべく、俺は、いきり立った肉棒の先端を、クレヴァスに浅く潜らせた。
「んく……」
 柔らかな靡肉が、俺の亀頭に淫らなキスをする。
 俺は、幼いその部分に自らのモノを馴染ませるように、そこをクチュクチュとかき回した。
「あっ、あふ……あ、あぁん……んっ、んく、は、はっ、あはっ……ああん、お、お兄ちゃん……気持ちいいよぉ……」
 うっとりと目を細めながら、スウが、甘い声を漏らす。
 俺は、なおも亀頭で入り口を刺激しながら、ゆっくり、ゆっくりと、腰を進ませていった。
「はっ、はふ、あふぅ……んくっ、あうっ……ん、あ、あっ……入って、きてるの……? あ、あくっ、はふ……ねえ、ねえ、お兄ちゃん、スウの中に入ってきてる?」
「ああ……苦しかったら、きちんと言うんだぞ……」
「ん……ガ、ガマンできなかったら……言うね……んぐ……あ、あく……うううっ……」
 狭い膣口が健気に広がり、膨れ上がったペニスの先っぽを飲み込んでいく。
 熱く、ヌルヌルとした感触に誘われながら、俺は、さらに肉棒を挿入していった。
「あ、あっ、あふ……ん、んぐっ! うく……うっ、うっく……はぐ……ハッ、ハッ、うっ、うぐ、んぐぐ……」
「痛いか?」
「ううん、ぜんぜん……ん、んんっ……だいじょうぶ……だいじょうぶだよ……んく……ううんっ……」
「スウ……」
 一気に腰を進ませたいという欲望を抑え、未成熟な膣道をじわじわと押し広げていく。
 そのもどかしさが、奇妙な快感となって、俺の背筋をゾクゾクと震わせた。
「んっ……んぐぐ……あ、あっ、あふ……んっ……んん……あッ!」
 不意に、スウの体がビクッと震えた。
 結合部から、純潔の証しである鮮やかな色の血が漏れ出ている。
「スウ……」
「ハッ、ハッ、ハッ……あうっ……お兄ちゃん……」
 スウが、その白い指で、自らの秘部に突き入れられた肉幹に触れた。
「は……入ってる……お兄ちゃんが……んんっ……う、嬉しい……」
 目尻に涙を滲ませながら、ニッコリとスウが微笑む。
 俺は、しばらくそのままの姿勢で動きを止めた。
 幼い肉壷が、きゅっ、きゅっ、と収縮を繰り返し、俺のペニスを刺激する。
「お兄ちゃん……動いても、だいじょぶだよ……んく、んんっ……そうしないと、終わらないんでしょ?」
 そう言われても、このままピストンを始めると、スウの体を押し潰すような動きになりかねない。
 俺は、少し考えてから、スウとつながったまま、ゆっくりと体を横に半回転させ、仰向けになった。
「ひゃうっ……あっ、あううっ……」
 騎乗位と言うにはやや変則的な形で、より深く結合する。
「こっちの方が、楽じゃないか?」
「んっ……そ、そうかも……」
 俺の体の上に腹這いになったスウが、そう答える。
 俺は、スウの重みを全身に感じながら、彼女の体を抱き締めた。
「はあぁん……お兄ちゃぁん……」
 スウも、俺のことを抱き返してくる。
 俺は、ゆっくりと下から腰を動かし、スウの膣内に肉棒を出入りさせた。
「うくっ、んっ、んあうっ……んふ、ふく、ふうぅ……んふ、ふっ、んふぅ……」
 切なげに眉を寄せながら、スウが、可愛らしく鼻を鳴らす。
「んふ、ん、んはっ……あ、あうっ、んあぁ……お、お兄ちゃん……もっと強くしても、いいよ……あん、あぁん……」
「平気か?」
「んぐ……ま、まだ、ちょっと痛いけど……あ、あんっ……でも……き、気持ち、いいの……あ、あああっ……やぁん……」
 恥ずかしげに頬を染めてから、スウが、俺の胸に顔を埋める。
 俺は、肉棒がますますいきり立つのを感じながら、徐々に腰の動きを速くしていった。
「んあっ、あ、あは、あ、ああぁん……はっ、はふっ、ふぐっ……んあ、んはっ! あ、あっ、あっ! す、すごいっ……お兄ちゃん、すごいっ……んあああああっ!」
 その小さな手で俺の服をきつく握り締めながら、スウが、体をよじる。
「あん、あんっ! ど、どうしようっ……は、はうっ、んはぁ……あっ、あぁっ! あん、あぁんっ……すごいの……す、すごすぎるよぉ……うああっ!」
 声を上げながら悶えるスウの髪を撫でながら、俺は、腰を使い続けた。
 スウの方も、ぎこちなくではあるが、その小さなヒップを卑猥に動かし始めている。
「あ、あは、や、やん、やぁんっ……き、気持ちいいっ……いいの、いいのっ……んっ、んあっ、んくっ……あはぁ、お兄ちゃんのオチンチンさん、すてきっ……あ、ああっ!」
 結合部から溢れた蜜が抽送に合わせてグチョグチョと音をたてる。
 青い空と眩しい太陽の下、俺は、スウの体をきつく抱き締め、肉棒を大きく突き上げた。
「ひゃぐっ! うぐっ! ひああああっ! お兄ちゃんっ! スウ、スウ、もうっ……! あ、ああっ、あく、や、やあああぁン!」
 スウの肉襞がざわめき、俺の肉棒をさらに奥へと引き込むような動きをする。
「あ、あはぁ! や、やっ、やぁん! もうダメ! もうダメぇ! ああん、も、もう……あああああああ!」
 頬を上気させ、ピンク色の舌を出しながら、スウが悶える。
 そして、俺の方も、もはや限界だ。
「ああっ、イ、イっちゃう! イっちゃうっ! 初めてなのにっ! イ、イ、イク! イク! イクぅーっ!」
 体の奥底から、煮えたぎった欲望が込み上げ、ペニスをパンパンに膨らませる。
 俺は、ギュッとスウの体を抱き締めながら、その未成熟な体内に、ザーメンを迸らせた。
「ひあああぁぁぁぁぁぁーっ! イ、イク! イクイクぅ! イっちゃうぅうううううううううううううう!」
 ブビュッ! ブビュッ! と激しい勢いで射精しながら、快感のあまり閉じた瞼の裏に、きらめく星を見る。
 俺は、我知らず歯を食いしばりながら、キリキリと肉竿を締め付ける膣内に、最後の一滴まで、精液を放出した。
「あ、あはっ……んは……あ、あっ、あふ……あああぁぁぁっ……」
 緩んだ口元からトロトロと唾液を溢れさせながら、スウが、体をおののかせる。
 全身を、甘い快楽の余韻が包み――そして、次第に、それが引いていき、理性が戻ってきた。
 俺は――
 俺は、こんな小さな子供を――
 同意の有無は、関係ない。少なくとも、俺が生まれ育った世界では、自分のしたことは、許されざる犯罪のはずだ。
 なのに――薬を盛られたわけでも、魔法をかけられたわけでもないのに、俺という奴は――
「お兄ちゃん……」
 スウが、俺の胸に顔を押し当てたまま、囁いた。
「お兄ちゃんは……やっぱり、別の世界の人なんだね……」
 寂しげで、そして悲しげなスウの声が、罪悪感とは別の角度から、俺の心臓をチクリと刺す。
「いくら、スウは平気だって言っても……こうなれて嬉しいって思っても……お兄ちゃんは、今、したこと……すごく悪いことだと思ってる……」
「……ごめんよ」
 俺は、スウの髪を撫でながら、言った。
「ううん、謝らないで……それが、お兄ちゃんの優しさだってことくらい、スウにも分かるから……」
 俺は……本当にどうしようもない奴だ。
 自らの罪悪感によってスウを傷つけ、そして、傷つけた当の相手に、こんなにも気遣われて――
「お兄ちゃん」
 スウが、上目使いに、俺の顔を見る。
「ね、そんなに自分を責めないで……だいじょうぶ……何も、問題ないから……」
 神秘的なブルーの瞳……その色に、魂が吸い込まれそうだ。
 そして、スウは、まるで母親が子供にするように、優しく俺の頬を撫でた。
 その薬指に――ロギの指輪が――
「だいじょうぶ……だいじょうぶだよ、お兄ちゃん……だって、これは……」
 今、あの言葉が紡がれる。
 全て解き、全てを繋ぎ、全てを創り、全てを壊してしまう、あの言葉が――
「だって、これは――夢だもの」
 そして――俺は/世界は――跳躍した。



「こ……」
 しばしの間、俺は絶句した。
「ここは……?」
 そして、誰がいるわけでもないのに、思わず問いの言葉を口にしてしまう。
 そこは――
 俺が立っている場所は、言葉にしてしまうなら、宇宙空間に浮かぶ、巨大なガラスの階段だった。
 階段の幅は、5メートル以上はあるだろう。ただし、上下に何段続いているかは、判然としない。何しろ材質がガラス――かどうかは分からないが、とにかく、透明なのだ。その上、周囲が暗い。だから、ある程度以上の距離があると、階段自体が見えなくなってしまう。
 そして、その階段が浮かぶのが、無数の星が瞬く宇宙空間なのである。
 いや、そこが本当にいわゆる宇宙なのかは、実は自信がない。何しろ、呼吸は問題なくできるし、熱くも寒くもない。その上、周囲の空の色には濃淡があり、紺色やスミレ色、赤紫色、そして暗赤色になっている部分もある。全体としては、かろうじて文庫本が読めるくらいの明るさだ。
 上下左右前後――足元にある透明な階段の向こう側にまで、そんな不思議な星空は広がっている。
 見えるのは、ただの星だけじゃなかった。長く尾を引く彗星や、何重もの輪をもつ惑星、細かな星の集まりである星団や、涌き立つ雲を思わせるガス状星雲までもが、肉眼で確認できる。
 それどころか、月まである。しかもその月は不気味なくらいに青白く、いつも見慣れている月の十倍以上の直径があり、大小のクレーターを確認することさえ可能だった。
 まるで、様々な条件で撮影された天体写真のパッチワーク。
 つまり――こいつは、俺の知っている宇宙とは違う。似て非なる場所だ。そもそも、宇宙にガラスの階段が浮かんでるわけがない。
 だとしたら、ここは――
「ここは、夢の世界の入り口ですよ」
 不意に、背後から声をかけられた。
 振り向くと、見覚えのある端正な顔の男が、逆さまに宙に浮いている。
「えっと……お前、サタナエル、だな……?」
「そうです」
 頷くそいつ――サタナエルの体は、漆黒の布をまとい、背中にはカラスのそれを思わせる真っ黒な翼を生やしている。
 自分自身に注意を向けると、俺は――何と、夏服の学生服を着ていた。そして、当然と言うか何と言うか、背負っていたサタナエルの剣は、鞘ごと、消えてしまっている。
「えっと、つまり俺は、トール・マクライじゃなくて……枕井透として、ここにいるってことなのか?」
 そう口にして、ようやく俺は、自分が、自らに関する記憶を取り戻していることを、自覚した。
「まあ、そう単純な話ではないですが、仮にそのように理解していただいても、特に支障は無いと思います」
 例によって回りくどい言い方で、サタナエルが、俺の言葉を半分だけ肯定する。
「ところで、さっきお前、ここが夢の世界の入り口だとか、言ってたな。それって、いったいどういう意味だ?」
「申し上げたとおりの意味ですよ。別に、比喩は用いていません。ここは、夢の世界――もう少し言葉を増やすなら、夢を見ることによってアクセスできる、“現実”とは異なる世界と言えばいいでしょうか」
「よく分からないな……えっと、今の状態は、単に俺が夢を見ているってことと、どう違うんだ?」
「単に、という言葉の意図するところを私なりに類推して答えるとすると――この世界は、あなたが夢から覚めて“現実”に戻ったとしても、消えたりはしません。それどころか、もし、あなたが生命活動を停止したとしても、“現実”の世界の住人が例えば核戦争などで絶滅し果てても、この世界は存続し続けるのです」
「早い話が、これはただの夢じゃないってことだな。いや、そもそも、イレーヌさんに召喚された夢からして、普通の夢じゃなかったけど」
「アイアケス王国が存在する世界は、この世界の無数の“相”の一つに過ぎません」
 サタナエルは、口元に、あるかないかのほほ笑みを浮かべたまま、言葉を続けた。
「ここは、数多の“夢の世界”の交差点であり、そこに至るための出発点なのです。そして、あなたが“現実”だと思っている世界すらも、実際は、“夢の世界”の一つに過ぎないのかもしれないのですよ」
「おいおい、誰の夢だよ」
「私――かもしれません」
 にやり、と妖しく口元を歪め、サタナエルが自らの胸に手を置く。
「お前の?」
「――もしくは、あなたかもしれない」
「…………」
「だいじょうぶですか? 訳が分からない、という顔をされてますよ」
「大きなお世話だ」
 実際はサタナエルの言うとおりだったのだが、俺は、頷く代わりに悪態をついてやった。
「ともかく、ここは、朝が来ると消えてしまうような、脆弱な“個人の夢”ではありません。そもそも、こここそが真の宇宙であり、あなたの“現実”を含め、全ての世界はこの場所の影だと言ってもいいくらいです。別の言い方をするなら、ここは、時間の束縛から自由となった、ある種の四次元空間だとも言えるかも知れません」
「四次元だぁ?」
「はい。ここは、上下、左右、前後の三つの次元に加え、過去と未来を見ることのできる場所なんです」
「そんなこと言ったって……過去だの未来だのなんて、どうやって見るんだよ」
「実際、見えているはずなのですよ。過去や未来というのは、現在と同じく、確かに存在するものなのですから。ただ、あなたの意識が――つまり脳が、それを認識できていないだけなのです。ヒトの目が、紫外線や赤外線を感知することができないのと少し似ているかもしれませんが……」
「――で、この一連の話は、熾皇帝ロギと関係あんのか?」
「実は、ありません」
 しれっとした顔で、サタナエルが言う。
「じゃあ、もう、禅問答はたくさんだ。現実的な話をさせてくれ」
「“現実”的なお話、ですか。承知しました。ただ、今の話は、禅問答というほど宗教的、哲学的なものではなく、充分に物理的、数学的なものなんですけどね」
 サタナエルが、その端正な顔に、カンに触る笑みを浮かべる。
「俺は、ロギと対決する必要がある。たぶん、だからこそ、俺はここに来たんだ。ロギに会うために」
「そうですね。おっしゃる通りです」
 あっさりと、サタナエルが俺の言葉を肯定する。
「いよいよ大詰めというわけですね。もちろん、私もお供いたしますよ」
「ああ、頼む」
 いくら物言いがうさん臭くても、こいつが、俺の最大の武器であることは変わらない。
「では、命令してください。再び我が剣となり敵を倒せ――とね」
 サタナエルが、口元に笑みを浮かべたまま、逆さまの顔を俺に近付ける。
「倒す?」
 俺は、いつになく好戦的なサタナエルのセリフに微妙な違和感を覚え、聞き返した。
「そうですよ。殺すのか、屈服させるのか、追放するのか……。あなたがロギをどうするつもりなのかは知りませんが、ともかく、決着をつけるには、戦って倒さないことには――」
「――それは駄目だ」
 いきなり、ハスキーな女の人の声が、サタナエルの言葉を遮る。
 声の方向――階段の上の方を見ると、そこに、真っ赤なスーツを着た見覚えのあるお姉さんが、立っていた。
 長いストレートの黒髪に、丸いレンズの鼻眼鏡。口元には、火のついていないタバコを咥えている。
「緋垣――紅葉さん?」
 そうだ。現実世界と、夢の中の世界の両方で出会った、あの自称魔女のお姉さん――緋垣紅葉さんだ。
「少年、忠告したはずだ。君は、きちんと一対一で決着をつけなくてはならない」
 そう言いながら、紅葉さんが、いつの間にか取り出した細いライターで、タバコに火を点ける。
「そうは言いますが、彼には、まだ私の助力が必要なようですよ」
 サタナエルの口調は、どこか面白がっているような感じだ
「お前は黙っていろ」
 ぴしりと、ムチのような声で言い放つ紅葉さんの顔は、はっきりと緊張に強ばっている。
「……少年、君は、彼女の居城に、この不吉な黒い剣を――いや、“黒い男”を連れていくつもりか?」
「黒い、男?」
 あまりと言えばあまりにシンプルなその呼び名が、妙に不吉な予感を起こさせる。
「少年――上を見ろ」
 紅葉さんに言われて、俺は、頭上に視線を向けた。
「ちょうど真上――あちらが過去の方角だ」
「過去の方角ぅ?」
 紅葉さんの奇妙な物言いに、一瞬、さっきのサタナエルとの問答を思い出す。
「よく目を凝らせ。はるかな過去――宇宙と時間の始まる場所に、何か気味の悪いモノが浮いているだろう」
 言われるまま、頭上を睨み続けていると――確かに何物かが、薄ぼんやりと見えてきた。
 それは――巨大な、正体不明の存在だった。
 そいつ自体は、瞬く星のさらに向こう、すさまじいほどに遠い場所にあるように見える。それだけの距離の彼方にありながら、それは、延ばした両手に持ったサッカーボールと同じくらいの見かけ上の大きさで、宙に浮いてやがるのだ。
 しかも、それは、見ただけで生理的な嫌悪感を覚えるほどに、異質かつ異様だった。
 まるで、濁った眼球のようにも、粘液に包まれながら丸々と太った幼虫のようにも、腐りかけの胎児のようにも、ボール状に集まった無数の回虫の群れのようにも、際限なく巨大化した単細胞生物のようにも、透明な殻をもつ二枚貝のようにも見える。
 ともかく――正体不明だ。
「あれこそ、我々がA−Zと暗号名で呼んでいる存在だ。アルファにしてオメガ。知性無き盲目の魔王。暗愚なる窮極神。口にするのもおぞましい“外なる神々”の首魁――この多元宇宙全体を再び大いなる混沌に戻そうとする勢力の中心なのだ」
「は、はあ……」
 何やら御大層な紅葉さんの話に、俺は、曖昧に相槌を打つ。
「そして、そこにいる“黒い男”こそ、魂無きはずの魔王の魂だ」
 俺は、頭上を見上げるのをやめ、サタナエルの方を見た。
 サタナエルの奴は、紅葉さんの話を否定するふうでもなく、ただ、穏やかな笑みを口元に浮かべている。
「“外なる神々”の大いなる使者にして、“旧支配者”のうち最強にして最凶にして最狂なるもの。千なる異形の存在。這い寄る混沌。暗黒のファラオ。ルーシュチャ方程式の解。人の心を玩び、粘土細工のように融合させようというこの実験――今回の事件の原因にして元凶も、その“黒い男”なのだぞ」
 これまで、何度か話をした時の印象とは打って変わって、紅葉さんの言い方には余裕が無い。
 だが、いかんせん、俺には、紅葉さんが何を必死に訴えようとしているのか、さっぱり伝わってこなかった。
「――まあ、確かに、こいつが百パーセント信用に足る男だとは、俺も思ってませんよ」
 俺の言葉に、サタナエルが、苦笑しながら肩をすくめる。
「でも、俺はこいつといくつもの死線をくぐってきました。それは、あなたの今の言葉だけで引っ繰り返るほど安っぽい経験じゃありません」
「つまり――私の忠告を無視して、その“黒い男”の口車には乗るということか?」
 紅葉さんが、その瞳に、物騒な光を浮かべる。
「剣を使うべきかどうかは、ロギと会ったその時に、使い手である俺が決めます。それに……さっきから紅葉さんの言ってること、はっきり言って訳が分かんないし」
「ぷっ」
 俺の言葉に、サタナエルが、柄にも無く吹き出す。
「ぷははははは……いや、魔女殿、どうも今回はそちらの根回しが足りなかったようですね」
「少年――悪魔と友情を交わせるなどと思っているのか? それは度し難い勘違いだ」
 紅葉さんが、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ――気分を落ち着かせるように、すうっ、とタバコを吸う。
「――サタナエル!」
 ぞくりと背中に悪寒が走り、俺は、思わず魔剣の精霊に呼びかけた。
 その声に応え、サタナエルが、漆黒の剣の姿を取り戻し、宙を飛んで俺の右手に収まる。
 それとほぼ同時に、いくつもの黒い塊が、紅葉さんの服の中からひとりでに飛び出てきた。
「なっ!?」
 拳銃だ。大小さまざまな種類の拳銃が、手も触れていないのに、紅葉さんの懐や袖の中、スカートの奥から現れ、空中を滑るように移動して――ぴたりと静止する。
 懐から出てきたのはオーソドックスな自動拳銃。袖から出てきたのは護身用らしき超小型のリヴォルバー。スカートの中から出てきたのはいかにも大口径なマグナム。それが、それぞれ二つずつ。
 その、合計六つの拳銃の銃口は、全て、俺を狙っていた。
 今のは――いわゆるテレキネシス? 自称魔女の紅葉さんは、念動力使いの超能力者だったのか?
 しかし、普通、超能力攻撃ってのは、光る念力をバシバシぶつけ合うもんだと思ってたんだが――いや、まあ、確かに拳銃を操って攻撃した方が、何と言うか、省エネだよな。
 なんて暢気なことを考えている場合じゃない。紅葉さんの両目に宿っている不気味な光――あれは、本物の殺気だ。
「二人の人間が“黒い男”の実験の果てに人ならざるものになるなら、犠牲者は一人の方がいい。少なくとも、“黒い男”の計画を多少は遅延させることができる」
 まるで、自らを納得させようとするかのように、タバコを咥えたまま、紅葉さんが言う。
 って、いくら紅葉さん自身が納得しても、俺はちっとも納得いかないぞ!
「詫びは言わん――」
 言葉とともに、重なり合った六つの轟音が、容赦なく響いた。



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